説明

オゾン水生成装置及びこれを用いた洗浄装置、オゾン水生成方法、洗浄方法

【課題】特に高い洗浄効率をもつオゾン水を容易に得て、これを用いて高い洗浄効率をもつ洗浄装置を得る。
【解決手段】吐出口122からは水30が本体パイプ121内に流入する。この本体パイプ121はオゾン水となる水中に配置される。また、図2中の下方には複数のスリット124が形成されている。スリット124は、本体パイプの内部と外部の水中とを連通し、吐出口122のある側に向かって吐出口122と衝突壁123とを結ぶ方向から吐出口122側に対して傾斜角θをなして平行に形成される。また、これらのスリット124よりも吐出口122に近い側に、本体パイプ121に連通して気体供給管125が設けられおり、ここからオゾンガス(気体)が水流による負圧によってこの本体パイプ121内に導入される。すなわち、このオゾン水生成装置10は、ポンプ16が駆動されて、水がマイクロバブル発生装置12中を循環することによって動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンの微細な気泡が添加された水、すなわちオゾン水を生成するオゾン水生成装置、オゾン水生成方法、およびこれらを用いて各種の素材を洗浄する洗浄装置、洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、衣類を洗浄する洗濯機においては、各種の洗剤が混合された洗濯水中に衣類が浸され、洗濯水ごと回転、攪拌されることにより、衣類の汚れが洗浄される。この際、回転や攪拌を激しく、長時間行うほど洗浄の効果は大きくなる一方、衣類自身が機械的衝撃によって損傷する可能性が大きくなる。衣類以外でも、被洗浄物が破損する可能性のあるものであれば、同様である。従って、回転や攪拌を激しく行うことなしに高い洗浄効果が得られる洗浄装置が求められていた。
【0003】
このための一つの方法として、例えば、特許文献1には、オゾン水を用いた洗浄装置が記載されている。この技術においては、酸化作用、殺菌作用、脱臭作用、有機物の除去作用等の高いオゾン(O)ガスを発生させ、これをバブリングし、オゾンが溶融された、あるいはオゾンの気泡が多く含まれるオゾン水を生成する。このオゾン水を前記の洗浄装置(洗濯機)において用いた場合、通常の洗剤を用いた洗濯水よりも高い洗浄能力をもつ。この際、通常の衣類はオゾンによって悪影響を受けないため、特に有機物による汚染に対しては有効である。従って、衣類を洗浄する際の回転や攪拌を激しく行うことなしに十分な洗浄効果が得られるため、衣類の損傷を小さくすることができる。
【0004】
この際、オゾンガス自身は、例えば、電極間の放電によって酸素(O)ガスを電離・再結合させる、いわゆる無声放電法によって酸素ガスから容易に製造することができる。また、オゾンは高濃度では人体に対して毒性があるものの、不安定であり、常温の大気中で容易に分解して通常の無毒の酸素分子となるため、その取り扱いも容易である。従って、これを用いた洗浄装置の構成が複雑になることもない。オゾン水は、水中でこのオゾンガスをバブリングすることによって容易に得られる。また、オゾンを従来の洗剤の代わりに用いることにより、洗剤による環境に対する汚染を低減することもできる。
【0005】
従って、これにより、衣類等に対して十分な洗浄能力をもち、衣類に対する損傷を小さくし、かつ安価な洗浄装置が得られた。オゾンによって悪影響を受けないもの、例えば、金属部品や半導体ウェハ等を洗浄する場合も同様である。
【0006】
一方、特許文献2においては、洗浄に適したオゾン水の条件が記載されている。ここでは、特に特に気泡径が50〜500nmの範囲のオゾンガスの気泡(ナノバブル)を含むオゾン水が洗浄には適しており、このオゾン水は、特に高い殺菌効果をもつため、有効であることが示された。このオゾン水は、水の電気伝導度を調整し、かつ超音波を印加する等の物理的刺激を加えることによって生成することができる。
【0007】
【特許文献1】特開平8−141270号公報
【特許文献2】特開2005−246293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、洗浄に対して最適なオゾン水の条件は必ずしも明確ではない。例えば、オゾンの濃度が高ければ効果が大きいことは自明であるが、特にこれ以外の条件については明確ではない。ところが、オゾンは短い時間で容易に分解して無毒の酸素ガスになるものの、それ自身には毒性があるため、できるだけオゾン濃度が低いことが好ましい。また、オゾン濃度が低いオゾン水を製造することが容易であることも明らかである。従って、低いオゾン濃度でかつ高い洗浄効率をもつオゾン水が好ましいが、この点については、特許文献1においては全く明らかにされていない。
【0009】
一方、特許文献2においては、気泡径を上記の範囲とすることによって、特に殺菌効果が高くなることは明確にされた。しかしながら、このオゾン水を製造するためには、電解質を添加して水自身の電気伝導度を調整したり、超音波を印加する等の複雑な工程、作業が必要であった。また、殺菌効果は高くなるものの、水の中の添加物質の存在により、殺菌以外を目的とする洗浄に適さないことも明らかである。従って、この条件は殺菌のみを対象としたものであり、例えば一般的な衣類の洗浄や、半導体ウェハの洗浄等には適したものではない。
【0010】
すなわち、オゾン水を用いた洗浄装置において、特に高い洗浄効率をもつオゾン水を容易に得ることができ、これを用いて高い洗浄効率をもつ洗浄装置を得ることは困難であった。
【0011】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
請求項1に記載の発明の要旨は、マイクロバブル発生装置に水及びオゾンガスを循環させて水中でオゾンガスをマイクロバブルとして形成させるオゾン水生成装置であって、前記マイクロバブル発生装置は、一端が前記循環される水が導入される吐出口であり、他端が閉じられた構造を具備し、水中に配置される本体パイプと、該本体パイプに連通され、オゾンガスを前記本体パイプ内部に導入する気体供給管と、前記本体パイプにおける一端と他端とを結ぶ線に対して傾斜角をもって形成され、前記本体パイプの内部と外部の水中とを連通するスリットを具備することを特徴とするオゾン水生成装置に存する。
請求項2に記載の発明の要旨は、略同一の前記傾斜角をもって複数の前記スリットが形成されたことを特徴とする請求項1に記載のオゾン水生成装置に存する。
請求項3に記載の発明の要旨は、前記傾斜角は、前記一端側に向かって30°〜90°の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオゾン水生成装置に存する。
請求項4に記載の発明の要旨は、マイクロバブル発生装置に水及びオゾンガスを循環させて水中でオゾンガスをマイクロバブルとして形成させるオゾン水生成方法であって、一端に吐出口が設けられ、他端が閉じられた構造を具備する本体パイプを水中に配置して前記一端から前記本体パイプ中に前記循環させる水を導入し、前記本体パイプ中における水流による負圧を利用してオゾンガスを前記本体パイプ中に導入し、前記本体パイプにおける一端と他端とを結ぶ線に対して傾斜角をもち、前記本体パイプの内部と外部の水中とを連通するスリットから、前記循環させる水及びオゾンガスのマイクロバブルを水中に放出させることにより、前記オゾン水を生成することを特徴とするオゾン水生成方法に存する。
請求項5に記載の発明の要旨は、略同一の前記傾斜角をもって形成された複数の前記スリットから前記オゾンガスのマイクロバブルを水中に放出させることを特徴とする請求項4に記載のオゾン水生成方法に存する。
請求項6に記載の発明の要旨は、前記傾斜角を、前記一端側に向かって30°〜90°の範囲とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のオゾン水生成方法に存する。
請求項7に記載の発明の要旨は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のオゾン水生成装置によって生成されたオゾン水が導入され、該オゾン水中に被洗浄物が浸漬される構造の洗浄槽を具備することを特徴とする洗浄装置に存する。
請求項8に記載の発明の要旨は、前記洗浄槽は、回転機構及び攪拌機構を具備しないことを特徴とする請求項7に記載の洗浄装置に存する。
請求項9に記載の発明の要旨は、前記被洗浄物は、衣類、野菜類、金属部品類、半導体ウェハ類のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項7または8に記載の洗浄装置に存する。
請求項10に記載の発明の要旨は、請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載のオゾン水生成方法によって生成されたオゾン水を洗浄槽に導入し、前記オゾン水中に被洗浄物を浸漬することを特徴とする洗浄方法に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上のように構成されているので、オゾン水を用いた洗浄装置において、特に高い洗浄効率をもつオゾン水を容易に得ることができ、これを用いて高い洗浄効率をもつ洗浄装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態は、オゾンを溶解、あるいはオゾンの微細な気泡を多数含むオゾン水を生成するオゾン水生成装置である。
【0015】
このオゾン水生成装置10の構成を図1に示す。このオゾン水生成装置は、オゾン発生装置11と、マイクロバブル発生装置12とを具備する。オゾン発生装置11には、酸素ボンベ13から、酸素供給バルブ14、酸素流量計15を介して酸素(O)ガスが供給される。酸素供給バルブ14で酸素ガスのオンオフが制御され、酸素流量計15でその流量がモニターされて制御されることによって、オゾンガスの流量が制御される。水30中に浸漬されたマイクロバブル発生装置12にはポンプ16によって水が供給されると同時に、オゾン発生装置11によって生成されたオゾンガスが供給される。これにより、その内部で水及びオゾンガスがマイクロバブル発生装置12内で循環され、水中でオゾンガスは小さな多数の気泡(マイクロバブル)となって水30中に排出される。この際、オゾンガスの一部は水中に溶解し、他はオゾンの気泡となったまま水30中に残存するか、水30の表面から大気中に開放される。すなわち、水30はオゾン水となる。この際、気泡の大きさが小さいほど、水30中に残存する確率が大きくなり、大気中に開放される割合が減少する。すなわち、オゾンを多く含むオゾン水を生成することができる。なお、図1では単純化して記載したために、このマイクロバブル発生装置12には左側から水が供給され、右側からオゾンが供給される構成として記載されているが、実際にはこれらが供給される方向は図2において示される方向である。また、水30が溜められた槽の外部にポンプ16を設置した構成としているが、マイクロバブル発生装置12に水を循環させることのできる構成であればこの構成は任意である。
【0016】
オゾン発生装置11としては、任意のものを用いることができ、例えば無声放電式のものを用いることができる。この構成においては、一対の電極間に無声放電を発生させ、その間の酸素(O)ガスを電離・再結合させ、オゾン(O)ガスを生成する。オゾン発生装置11からマイクロバブル発生装置12側に送られるガスは100%のオゾンである必要はなく、例えば1000ppm程度のオゾン濃度でもよい。ただし、後述するように、本発明のオゾン水生成装置によれば、特にオゾン水におけるオゾンの生成効率を高くすることができるため、この濃度を100ppm以下とすることもできる。この場合、オゾンの濃度は、酸素の流量と、このオゾン発生装置11の設定(例えば電極間電位等)によって決定される。
【0017】
オゾン水においては、水(HO)中のOHイオンとオゾンとの反応によってOHラジカルや、O(スーパーオキシドイオン)が生成される。これらの化学物質は、特に強い酸化力があるため、高い殺菌作用、脱臭作用、有機物の除去作用をもつ。
【0018】
ここで、このオゾン水生成装置10においては、マイクロバブル発生装置12として、スリット式のマイクロバブル発生装置が用いられる。このマイクロバブル発生装置は、特開2005−334869号(以下、特許文献3)に記載されたものと同様である。このマイクロバブル発生装置12の構成の概略断面図を図2に示す。このマイクロバブル発生装置12においては、本体パイプ121の一端に吐出口122が設けられ、他端は衝突壁123が設けられることによって閉じられた構造となっている。吐出口122からは水30が本体パイプ121内に流入する。この本体パイプ121はオゾン水となる水中に配置され、例えばその内径が10mm程度のアクリルで構成される。また、図2中の下方には複数のスリット124が形成されている。スリット124は、本体パイプの内部と外部の水中とを連通し、吐出口122のある側に向かって吐出口122と衝突壁123とを結ぶ方向(図2における水平方向)から吐出口122側に対して傾斜角θをなして平行に形成される。スリットの幅は例えば0.5mm程度である。また、これらのスリット124よりも吐出口122に近い側(水の流れに対して上流側)に、本体パイプ121に連通して気体供給管125が設けられおり、ここからオゾンガス(気体)が水流による負圧によってこの本体パイプ121内に導入される。すなわち、このオゾン水生成装置10は、ポンプ16が駆動されて、水がマイクロバブル発生装置12中を循環することによって動作する。なお、図2においてはスリット124は下方に形成されているが、同様の効果が得られればこれに限られるものではなく、例えば上方に形成されていてもよい。
【0019】
特許文献3に記載されたように、このマイクロバブル発生装置12は、せん断式のマイクロバブル発生装置として動作する。すなわち、水は吐出口122からこの本体パイプ121内にポンプ16によって導入されると、水流による負圧によって気体供給管125から気体(オゾンガス)が導入され、本体パイプ121中では水中の気泡となる。この気泡が本体パイプ121内のスリット124の入り口で細かくせん断されて、微細な気泡(マイクロバブル)となって、スリット124の先端から水と同時に水中に排出される。特許文献3に記載されたように、このマイクロバブル発生装置12においては、この簡単な構成で、特にその径が100μmよりも小さな気泡を有効に多数生成することができる。この際、気体供給管125を鉛直方向における上側、スリット124を下側に設けることが好ましい。この構成により、マイクロバブルを効率的に発生させることができ、かつこれを水30中に広く拡散させることができる。
【0020】
なお、スリット124の数は任意であるが、この数が多い方が、効率的にマイクロバブルを発生させることができるため、好ましい。
【0021】
従って、このマイクロバブル発生装置12を水30中に配置し、ポンプ16を動作させて水を循環させれば、水30はオゾン水となる。すなわち、水30中には多数のオゾンガスからなるマイクロバブルが存在し。また、その一部は水中に溶解する。従って、この水全体に対するオゾン濃度を高くすることができる。ポンプ16による水の流量やその運転時間を長くすることにより、オゾン濃度を高くすることができる。
【0022】
発明者は、上記の構成のオゾン水生成装置10によって生成したオゾン水を用いて、衣類に対する洗浄効果を調べたところ、特にスリット124の傾斜角θがこの洗浄効果に対して大きな影響を与えることを知見した。以下ではこの実験結果について説明する。
【0023】
ここでは、コーヒーに浸して汚染させた布地を、図1の形態における水30(オゾン水)に浸し、回転・攪拌を行うこと無しで放置した場合の汚染の除去の度合いを調べた。この場合の酸素流量は40ml/minであり、水温は8℃である。水は電気抵抗率が0.004〜0.015×10Ω・cm程度である一般の水道水であり、特にその抵抗率は調整していない。スリット124の傾斜角θについては、30°と60°の2種類を用いた。また、観察はポンプ16を動作させてから40分まで行ったが、ポンプ16は0〜20分の間だけ動作させ、20〜40分の間は停止させた。
【0024】
図3は、処理前の試料の外観であり、図4(a)〜(d)は、θが30°の場合のそれぞれ10、20、30、40分経過時の布地の表面の観察結果であり、図5(a)〜(d)は、θが60°の場合のそれぞれ10、20、30、40分経過時の布地の表面の観察結果である。この結果より、どちらの場合においても、時間の経過と共に汚れが除去されていることが明らかである。すなわち、このオゾン水生成装置10を用いて生成されたオゾン水を用いて有機汚染が除去されることが確認できる。ただし、θが60°の場合は20分後(図5(b))で汚染はほぼ除去されているのに対し、30°の場合には30分後(図4(c))でも十分に除去されていない。従って、θが60°の場合には30°の場合よりもその効果が大きく、洗浄能力が高いことが確認できる。
【0025】
洗浄効果にはオゾン水中のオゾンの濃度が大きく影響することは明らかであるため、これらの時間経過に応じたオゾン水中のオゾン濃度を測定した。ここで測定されるオゾンは、マイクロバブルとして水中に存在するものと、水中に溶解しているものの総和である。測定は吸光光度法により行った。この測定結果を図6に示す。動作開始時のオゾン濃度は零であり、θの値に関わらず、マイクロバブル発生装置12の動作中である20分後まではオゾン濃度は増加し、これを停止した20分後以降は、その濃度は減少するものの、充分に残存している。ただし、オゾンの濃度の絶対値はどの時点でもθ=60°の方が高い。
【0026】
図6の結果を元にして、オゾン濃度を両者の間で同一とした場合の、洗浄効果の違いを同様にして調べた。すなわち、ここではθ=30°の場合の酸素流量を40ml/minとし、θ=60°の場合の酸素流量を24ml/minとした。この場合のθ=30°の場合の結果が図7(a)〜(d)であり、θ=60°の場合の結果が図8(a)〜(d)である。この際のオゾン濃度の測定を図5と同様に行った結果が図9であるが、経過時間によらず、オゾン濃度は両者の間でほぼ同一となっていることが確認できる。すなわち、酸素流量を上記の通りに設定することによって、オゾン濃度はほぼ同一とすることができた。
【0027】
しかしながら、この結果においても、図4、5の場合と同様に、θ=60°の方が良好な結果が得られた。すなわち、θが60°の場合には、20分後(図8(b))には汚染がほぼ除去されているのに対し、30°の場合には、30分後(図7(c))でも除去されていない。従って、θ=60°の方が高い洗浄効果が得られるのは、単に高いオゾン濃度が得られるためではなく、他の要因にもよるものである。
【0028】
このために、ここでは2つの観点からオゾン水中におけるオゾンのマイクロバブルの状態を調べた。その一つはマイクロバブルの気泡径であり、もう一方はマイクロバブルの電位(ゼータ電位)である。
【0029】
まず、θ=30°の場合と60°の場合で、マイクロバブルの気泡径の分布を測定した結果が図10である。ここで、縦軸は存在確率密度、横軸は測定された気泡の直径であり、測定は光透過率法及びマイクロスコープ法により行った。どちらの場合も、気泡径が100μm以下のマイクロバブルが有効に生成されているが、30°の場合にはその分布が比較的平坦となっているのに対し、θ=60°の場合は、30°の場合と比べて、特に気泡径が60μm以下のものの割合が高くなっていることが確認できる。
【0030】
従って、θ=60°の場合には、小さな気泡径を持つマイクロバブルの数が多くなる。すなわち、微細なオゾンのマイクロバブルが多く生成される。
【0031】
一方、θ=30°の場合と60°の場合で、マイクロバブルのゼータ電位を測定した結果が図11である。ここで、横軸は気泡径の範囲であり、各気泡径の範囲でのゼータ電位が測定された。測定は電気泳動法により行った。この結果から、θ=60°の場合の方が、気泡径に関わらず、負側に大きなゼータ電位を有することが明らかである。一般に、せん断式のマイクロバブル発生装置においては、気泡(マイクロバブル)に大きなゼータ電位が付与されることが知られているが、特にθ=60°とする場合には、大きなゼータ電位が得られる。
【0032】
すなわち、このマイクロバブル生成装置12によって、微細でかつ大きなゼータ電位をもつオゾンのマイクロバブルが得られる。この効果は特にθが60°の場合の方が大きい。
【0033】
図9の結果より、このオゾン水のオゾン濃度は1mg/L程度の低い濃度で、上記の高い洗浄効率をもつ。こうした低いオゾン濃度で高い洗浄効率をもつ理由としては、上記の結果より、以下の点が考えられる。まず、前記の通り、このマイクロバブル発生装置12によって発生したオゾンのマイクロバブルは特に微細であるため、特に水中に長時間留まることができる。この際に、界面の物質移動やマイクロバブルが破裂することが徐々に進行するため、オゾンが水に溶解しやすく、洗浄効果の高い前記の化学物質が効率的に生成される。また、ゼータ電位による静電力によってマイクロバブルは被洗浄物の近辺に集まりやすく、特にこの付近でオゾンを水中に放出しやすいため、洗浄効果の高い化学物質が被洗浄物に有効に作用する。また、上記において、このオゾン水を生成するに際して、マイクロバブル発生装置12に投入されるガス、すなわち、オゾン発生装置11で生成されるガスにおけるオゾン濃度は100ppm以下の低濃度である。このように、このマイクロバブル発生装置12を用いることにより、オゾン水におけるオゾンの濃度を高く、かつ洗浄効率の高いオゾン水を生成することができる。
【0034】
以上の結果より、このマイクロバブル発生装置12を用いたオゾン生成装置10によって生成されたオゾン水はθが30〜60°の範囲で高い洗浄効率をもつことが確認された。また、特にθを60°以上とすることによっても、同様に大きな洗浄効果を得ることができる。なお、θが90°よりも大きくなると、マイクロバブルを有効に発生させることが困難となるため、特に好ましいθの範囲は60〜90°である。すなわち、この構成のオゾン水生成装置10を用いて、特に洗浄効果の大きなオゾン水を生成することができ、これを用いて高い洗浄効率をもつ洗浄装置を得ることができる。
【0035】
この際、このオゾン水生成装置10において特徴的なのは、マイクロバブル発生装置12である。このマイクロバブル発生装置12の構造は図2に示すように、単純であり、安価にこれを製造することができる。すなわち、高い洗浄効率をもつオゾン水を容易に生成することができる。
【0036】
また、上記の実験においては、オゾン濃度を一定とした場合に、このオゾン水はコーヒーによる有機汚染に対して高い洗浄効果をもつことが示された。このオゾン水はこれ以外の汚染に対しても有効である。図12は、水と油が混合されたエマルション状態となった汚染水を透明な水槽中に入れ、この水中において上記のオゾン水生成装置10を動作させた前後の外観写真(a:動作前、b:動作後30分後)である。ここで、その透明度を判定するため、透明な水槽の奥側の外部には図形が表示された白い布地が置かれている。この結果、30分後には油汚染は除去され、水の透明度が向上していることが確認できる。
【0037】
従って、このオゾン水生成装置10によって生成されたオゾン水は、コーヒーや油による有機汚染に対して有効であることが確認できる。更に、上記のマイクロバブルの大きさが小さいことと、ゼータ電位による効果により、洗浄効果の高い化学物質が特に有効に生成され、作用することは、他の作用についても同様である。従って、このオゾン水が殺菌作用や脱臭作用に対しても有効であることは明らかである。
【0038】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、前記のオゾン水生成装置を用いた洗浄装置である。この洗浄装置の概略構成を図13に示す。
【0039】
この洗浄装置40においては、前記のオゾン水生成装置10が用いられ、オゾン水生成槽41中に前記のマイクロバブル発生装置12が、及びこれに付随してその外部にポンプ16が設けられる。給水バルブ42を開の状態にしてオゾン水生成槽41中に水が導入され、マイクロバブル発生装置12が水中に浸漬され、ポンプ16が動作することによって前記の通りにオゾン水が生成される。このオゾン水はオゾン水供給バルブ43を開にした場合に洗浄槽44に導かれ、その中に溜まり、このオゾン水の中に被洗浄物45が浸漬される。この洗浄槽44においては、通常の洗浄装置(洗濯機)において用いられている回転・攪拌機構が用いられていない。また、洗浄槽44にはドレイン46が設けられ、オゾン水は適宜排出される。その後、再び新たなオゾン水が生成され、これがオゾン水供給バルブ43を介して供給される。
【0040】
この洗浄槽44には、オゾン水生成槽41で生成されたオゾン水が溜められた後で、被洗浄物45を洗浄するために用いられる。すなわち、ここでは一旦生成されたオゾン水がこのオゾン水生成槽41とは別の槽で用いられる。この場合でも、図6、図9の結果より、オゾン水中のオゾン濃度は十分であるため、十分な洗浄効果が得られる。
【0041】
被洗浄物45は、前記の例ではコーヒーに汚染された布地であったが、任意である。特に、有機物による汚染を前記のオゾンの効果によって効果的に除去することができる。また、被洗浄物45としては、例えば、衣類(布地)の他、野菜、金属部品、半導体ウェハ等、特にオゾンによって悪影響を受けるものでなければ、これを洗浄することができる。
【0042】
ここでは、洗浄槽44中においてオゾン水に被洗浄物45が浸漬されることにより、被洗浄物45が洗浄される。特にこのオゾン水は、前記の通りの高い洗浄効果を有するために、この洗浄装置40は高い洗浄効率を有する。すなわち、有機汚染の除去、殺菌、脱臭等に対して有効である。
【0043】
また、前記の通り、このオゾン水を用いた場合には、オゾン水や被洗浄物45を回転・攪拌しなくとも大きな洗浄効果が得られるため、洗浄槽44には回転機構及び攪拌機構を設ける必要がない。この場合には、この洗浄装置40の消費電力を小さくすることができる。また、洗浄槽44は金属やプラスチック類で構成することができるが、この内壁に被洗浄物45が衝突することがないため、その寿命も長くすることができる。
【0044】
ただし、より高い洗浄効果を得るためには、回転・攪拌機構を設け、オゾン水や被洗浄物45を回転・攪拌してもよい。この場合でも、このオゾン水を用いた場合には、この回転・攪拌を、このオゾン水を用いない場合と比べて弱く、あるいは短時間で行っても高い洗浄効果が得られる。
【0045】
洗剤を用いた洗浄の場合には、洗剤が被洗浄物上に残留することを防ぐために、洗浄後に通常の水によるリンスを行うことが必須である。しかしながら、この洗浄装置40において洗剤の代わりに用いられるオゾンは自然に酸素(O)ガスに変わって空気中に脱離するために、リンスを行う必要はない。ただし、汚染の除去をより強力に行うために、オゾン水による洗浄後にこのオゾン水をドレイン46から排水し、その後で通常の水を洗浄槽44中に導入できる構成として、オゾン水による洗浄後にリンスを行わせることもできる。
【0046】
また、洗浄槽44とオゾン水生成槽41を兼用とし、一つの槽で、オゾン水の生成と洗浄とを同時に、あるいは連続して行うこともでき、この場合にはこの洗浄装置40をより小型化することができる。ただし、被洗浄物45の形状や数量によっては、被洗浄物45が水に浸漬された状態では均一にマイクロバブルを形成することが困難となる場合があり、この場合は均一な洗浄が困難であるため、これらの槽を分離して設けることが好ましい。また、被洗浄物45が多数あるために、複数回の洗浄を連続して行う場合には、これらの槽を分離して設けることにより、洗浄槽44で洗浄を行うと同時に、オゾン水生成槽41で別途オゾン水を生成することが可能であるため、効率的である。
【0047】
なお、1回の洗浄毎にこのオゾン水を交換する必要はない。前記の通り、このオゾン水におけるオゾンのマイクロバブルや溶融したオゾンがこの洗浄効果に寄与するため、これらがオゾン水中に十分残存している限り、高い洗浄効果が得られる。従って、この場合には洗浄に用いる水の量を節約することができる。
【0048】
例えば衣類を被洗浄物45として用いる場合、洗浄後にはこれを乾燥させる必要がある。オゾンは特有の臭気があり、毒性もあるため、オゾンが衣類に残ることは好ましくないが、乾燥の際にオゾンも水分と同時に気化し、かつ無毒、無臭の酸素(O)ガスに変わるため、問題にはならない。
【0049】
また、前記のオゾン水は、洗剤を用いた洗濯水と異なり、その環境に対する悪影響が小さい。これは、前記の通り、オゾンは自然に無毒の酸素ガスに変わるためである。従って、洗浄後にドレイン46を介して排出される廃水に対して特別な処理(無毒化処理)を施す必要はない。
【0050】
また、例えば、衣類に付着した小さな塵は、オゾン水中のマイクロバブルに付着することにより除去される。この効果は、特にこのマイクロバブルが前記の通りに高いゼータ電位を有し、大きな静電力が発生することにより、顕著となる。
【0051】
洗浄槽42の形態は任意であるが、特有の臭気があるオゾンが外部に漏れる量を低減するため、あるいはオゾン水からのオゾンの脱離を抑制するためには、蓋を設け、密封することが好ましい。また、排気機構を設け、オゾン水がドレイン46から排水された後に利用者がこの蓋を開ける直前には、洗浄槽42の排気が行われる構成とすることが好ましい。
【0052】
なお、前記の実験においては、水温は8℃であったが、より大きな洗浄効果を得るためには、水温をヒーター等によって調整し、4〜16℃の範囲とすることが更に好ましい。この温度調整は、オゾン水生成槽41において行うことも、洗浄槽44において行うこともできる。
【0053】
この洗浄装置40を用いて、カレーを染み込ませた布地の洗浄を行った結果を図14に示す。ここで、図14(a)は洗浄前の試料の外観写真、(b)はθ=60°として生成したオゾン水に洗浄槽44中で30分浸漬した後の外観写真、(c)はオゾンガスの代わりに空気を同条件でバブリングした水中に同条件で浸漬した後の外観写真である。(c)における水には空気のマイクロバブルが多数含まれている。(c)においても洗浄の効果は見られるが、オゾン水を用いた(b)で明らかに高い洗浄効率が得られている。
【0054】
以上の構成により、この洗浄装置40は、安価で高い洗浄効率をもち、オゾンによって悪影響を受けない各種の被洗浄物を洗浄することができる。特に、有機汚染の除去、殺菌、脱臭等に対して有効である。
【0055】
また、同様にこのオゾン水生成装置10を例えばプールに設置すれば、プールの水、あるいはプール自身の消毒等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施の形態となるオゾン水生成装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態において用いられるマイクロバブル発生装置の構造を示す概略断面図である。
【図3】実験において用いられた、コーヒーで汚染された布地の洗浄前の外観写真である。
【図4】酸素流量を40mL/minとし、θ=30°とした時の、浸漬された布地の外観の浸漬時間依存性を調べた結果である。
【図5】酸素流量を40mL/minとし、θ=60°とした時の、浸漬された布地の外観の浸漬時間依存性を調べた結果である。
【図6】酸素流量を40mL/minとした時のオゾン水のオゾン濃度の経過時間依存性を、θ=30°と60°の場合について測定した結果である。
【図7】オゾン濃度をθ=60°の場合とほぼ同一とし、θ=30°とした時の、浸漬された布地の外観の浸漬時間依存性を測定した結果である。
【図8】オゾン濃度をθ=30°の場合とほぼ同一とし、θ=60°とした時の、浸漬された布地の外観の浸漬時間依存性を調べた結果である。
【図9】図7、図8の測定において用いられたオゾン水のオゾン濃度の経過時間依存性を測定した結果である。
【図10】θ=30°と60°の場合に生成されたオゾン水におけるマイクロバブルの気泡径の分布を測定した結果である。
【図11】θ=30°と60°の場合に生成されたオゾン水におけるマイクロバブルのゼータ電位の分布を測定した結果である。
【図12】本発明の第1の実施の形態となるオゾン水生成装置を水の油汚染に対して適用した結果(a:適用前、b:適用後)である。
【図13】本発明の第2の実施の形態となる洗浄装置の構成を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態となる洗浄装置による洗浄効果を示す結果(a:洗浄前、b:オゾン水洗浄後、c:オゾンの代わりに空気を用いた洗浄後)である。
【符号の説明】
【0057】
10 オゾン水生成装置
11 オゾン発生装置
12 マイクロバブル発生装置
13 酸素ボンベ
14 酸素供給バルブ
15 酸素流量計
16 ポンプ
30 水(オゾン水)
40 洗浄装置
41 オゾン水生成槽
42 給水バルブ
43 オゾン水供給バルブ
44 洗浄槽
45 被洗浄物
46 ドレイン
121 本体パイプ
122 吐出口
123 衝突壁
124 スリット
125 気体供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロバブル発生装置に水及びオゾンガスを循環させて水中でオゾンガスをマイクロバブルとして形成させるオゾン水生成装置であって、
前記マイクロバブル発生装置は、
一端が前記循環される水が導入される吐出口であり、他端が閉じられた構造を具備し、水中に配置される本体パイプと、
該本体パイプに連通され、オゾンガスを前記本体パイプ内部に導入する気体供給管と、
前記本体パイプにおける一端と他端とを結ぶ線に対して傾斜角をもって形成され、前記本体パイプの内部と外部の水中とを連通するスリットを具備することを特徴とするオゾン水生成装置。
【請求項2】
略同一の前記傾斜角をもって複数の前記スリットが形成されたことを特徴とする請求項1に記載のオゾン水生成装置。
【請求項3】
前記傾斜角は、前記一端側に向かって30°〜90°の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオゾン水生成装置。
【請求項4】
マイクロバブル発生装置に水及びオゾンガスを循環させて水中でオゾンガスをマイクロバブルとして形成させるオゾン水生成方法であって、
一端に吐出口が設けられ、他端が閉じられた構造を具備する本体パイプを水中に配置して前記一端から前記本体パイプ中に前記循環させる水を導入し、
前記本体パイプ中における水流による負圧を利用してオゾンガスを前記本体パイプ中に導入し、
前記本体パイプにおける一端と他端とを結ぶ線に対して傾斜角をもち、前記本体パイプの内部と外部の水中とを連通するスリットから、前記循環させる水及びオゾンガスのマイクロバブルを水中に放出させることにより、
前記オゾン水を生成することを特徴とするオゾン水生成方法。
【請求項5】
略同一の前記傾斜角をもって形成された複数の前記スリットから前記オゾンガスのマイクロバブルを水中に放出させることを特徴とする請求項4に記載のオゾン水生成方法。
【請求項6】
前記傾斜角を、前記一端側に向かって30°〜90°の範囲とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のオゾン水生成方法。
【請求項7】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のオゾン水生成装置によって生成されたオゾン水が導入され、該オゾン水中に被洗浄物が浸漬される構造の洗浄槽を具備することを特徴とする洗浄装置。
【請求項8】
前記洗浄槽は、回転機構及び攪拌機構を具備しないことを特徴とする請求項7に記載の洗浄装置。
【請求項9】
前記被洗浄物は、衣類、野菜類、金属部品類、半導体ウェハ類のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項7または8に記載の洗浄装置。
【請求項10】
請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載のオゾン水生成方法によって生成されたオゾン水を洗浄槽に導入し、前記オゾン水中に被洗浄物を浸漬することを特徴とする洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図9】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−88024(P2011−88024A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29364(P2008−29364)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(503030160)株式会社キカワ (2)
【Fターム(参考)】