説明

オートテンショナ

【課題】張力変動幅の大きな伝動ベルトにも適用可能な大きな減衰力(ダンピング力)を発生させることができるオートテンショナを提供する。
【解決手段】オートテンショナ1は、固定部材2と、固定部材2に回動自在に支持されるとともに、プーリが設けられる可動部材3と、固定部材2の筒部21と可動部材3のボス部30との間に設けられるとともに、その一端が固定部材2に連結され、可動部材3を固定部材2に対して所定方向に回動付勢する捩りコイルスプリング5と、捩りコイルスプリング5の他端部5aと可動部材3との間に介在するとともに、筒部21に摺動可能なダンピング部材6とを備えている。ダンピング部材6は、筒部21の周方向に関して並んだ2つのダンピング部材片61、62からなり、2つのダンピング部材片61、62の対向面は、筒部21の径方向に交差する傾斜面61a、62aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車エンジンの補機駆動のためのベルトにおいては、エンジン燃焼に起因する回転変動によりベルト張力が変動する。このようなベルト張力の変動に起因してベルトスリップが発生し、そのスリップ音や摩耗などの問題が生じている。これを解決するために、従来から、ベルト張力が変動してもベルトスリップの発生を抑える機構として、オートテンショナが採用されている。
【0003】
このようなオートテンショナは、エンジンブロック等に固定される固定部材と、ベルトが巻き掛けられるプーリが取り付けられた可動部材と、可動部材を固定部材に対して回動付勢するための捩りコイルスプリングと、固定部材又は可動部材の何れか一方に係合し、他方に摺動可能なダンピング部材とを備えている。可動部材が回動したとき、ダンピング部材と固定部材とが摺動することにより、ダンピング部材と固定部材との間に摩擦力を生じさせて、可動部材(プーリ)の揺動を減衰させている(ダンピング機能)。
【0004】
また、ベルトの張力が大幅に増加し、可動部材が大きく揺動する場合には、大きな摩擦力を発生させて可動部材の揺動を抑止すると同時に速やかに減衰させることが望ましい。しかし、ダンピング部材と固定部材との間の摩擦係数が高いと、ベルトの張力が低減した際、捩りコイルスプリングの付勢力が、摩擦力によって大幅に減少されるため、可動部材をベルトの張力変動に追従させることができなくなる。
【0005】
このような問題に対しては、可動部材の回動方向に応じて、ダンピング性能を不均衡(非対称)とするようなオートテンショナも提案されてきている。例えば、特許文献1には、固定部材に対して摺動可能な2つの弧状部材からなるダンピング機構を備えたオートテンショナが開示されている。2つの弧状部材の一方は、捩りコイルスプリングに連結されており、他方は、可動部材の回転力が伝達されるように構成されている。また、2つの弧状部材同士は、周方向に関してピボット状に接触しており、この構成により、2つの弧状部材と固定部材との間で生じる摩擦力と捩りコイルスプリングの付勢力とからなるダンピング力の大きさが、可動部材の回動方向に応じて異なるようになっている。2つの弧状部材の接触端の位置を、径方向に関して調整することによって、2つのダンピング力の比(非対称ダンピング係数)を調整できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−520104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、摩擦力は、摺動面の摩擦係数と摺動面に作用する垂直荷重との積で決まるため、特許文献1のオートテンショナの場合、たとえ非対称ダンピング係数が最大となる位置に2つの弧状部材の接触端の位置を設定したとしても、2つの弧状部材が固定部材に対して摺動する際、2つの弧状部材の摺動面に作用する垂直荷重はそれぞれ一定であるため、一定の摩擦力しか生じさせることができない。そのため、ベルトの張力が大幅に急激に増加した場合に、可動部材の揺動を抑止し、同時に速やかに減衰させるような大きな減衰力(ダンピング力)を発生させることができない。
【0008】
そこで、本発明は、ベルト張力変動幅の大きな伝動ベルトにも適用可能な大きな減衰力(ダンピング力)を発生させることができるオートテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のオートテンショナは、筒部を有する固定部材と、前記筒部の内側に配置されるボス部を有するとともに、前記ボス部において前記固定部材に回動自在に支持される可動部材と、前記可動部材に回転自在に設けられ、前記ボス部の軸心を揺動中心として揺動可能であり、且つ、ベルトが巻き掛けられるプーリと、前記筒部と前記ボス部との間に設けられるとともに、その一端部が前記固定部材に連結され、前記可動部材を前記固定部材に対して所定方向に回動付勢するための捩りコイルスプリングと、前記捩りコイルスプリングの他端部と前記可動部材との間に介在するとともに、前記筒部の内周面に摺動可能なダンピング部材と、を備え、前記ダンピング部材が、前記筒部の周方向に関して並んだ複数のダンピング部材片からなり、前記ダンピング部材片の隣接する別の前記ダンピング部材片との対向面が、前記筒部の径方向に交差する傾斜面であることを特徴とする。
【0010】
この構成によると、ベルト張力が増加することによって、可動部材が捩りコイルスプリングの付勢力に抗して回動すると、ダンピング部材は筒部の周方向に対して摺動し、ダンピング部材の外周面と筒部の内周面との間で摩擦力が発生する。このとき、ダンピング部材片同士の対向面が、筒部の径方向に交差する傾斜面であることから、筒部の周方向の力がダンピング部材に作用すると、筒部の内周面は隣接する2つのダンピング部材片のうちの一方から径方向の力を受ける。そのため、ダンピング部材と筒部との間で生じる摩擦力を増大させることができる。従って、本発明のオートテンショナは、たとえベルトの張力が急激に大幅に増加した場合であっても、この張力の増加による可動部材の揺動を抑止し、同時に減衰させるような大きな減衰力を生じさせることができる。
【0011】
第2の発明のオートテンショナは、前記第1の発明において、前記複数のダンピング部材片のうち、前記捩りコイルスプリングの前記他端部側のダンピング部材片は、前記捩りコイルスプリングの前記他端部を収容する収容部を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によると、捩りコイルスプリングの他端部が、ダンピング部材に対して径方向に位置ずれしにくいため、捩りコイルスプリングの付勢力をダンピング部材を介して安定して可動部材に伝えることができる。
【0013】
第3の発明のオートテンショナは、前記第2の発明において、前記ダンピング部材片は、前記周方向に沿って延在し、前記捩りコイルスプリングに接触する基部と、前記基部の少なくとも外周側に設けられ、前記基部に固定されるとともに、前記筒部の内周面と摺動する摺動部とが別部材で構成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、ダンピング部材片は、捩りコイルスプリングに接する部分(基部)と、筒部の内周面と摺動する部分(摺動部)とが別部材で構成されているため、各部分に応じた適切な材料を使用することができる。例えば、基部の材料としては、捩りコイルスプリングとの接触による破損を防止するために、剛性及び耐衝撃性の高い金属材料や樹脂材料を用い、摺動部の材料としては、耐摩耗性に優れ、摩擦係数が安定するような樹脂材料を用いることができる。
【0015】
第4の発明のオートテンショナは、前記第3の発明において、前記基部の外周側の面と、この面に接する前記摺動部の面とが、前記周方向に関して山部と谷部が交互に並んだ波形に形成されており、前記基部と前記摺動部とが、前記波形の面同士を嵌合させることによって固定されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、ダンピング部材片の基部と摺動部とは、周方向に山部と谷部とが並んだ波形に形成された面同士を嵌合させることによって固定されている。このような簡易な構成により、基部と摺動部とを、周方向に移動不能に固定することができる。
【0017】
また、基部の外周側の面と、この面に接する摺動部の面が、周方向に山部と谷部とが並んだ形状であって、角部分を有する歯形状に形成されている場合、ダンピング部材が周方向の力を受けた際に摺動部と筒部との間に生じる摩擦力によって、基部と摺動部とが接する歯形状の面の角部分において応力集中が生じる。その結果、摺動部の応力が不均一となり、摺動部の定常的な摩耗に悪影響を及ぼしたり、摺動部及び基部が破損しやすくなる。一方、本発明では、基部の外周側の面と、この面に接する摺動部の面が、曲線で構成された波形に形成されており、角部分を有しない。そのため、ダンピング部材が周方向の力を受けた際に、この接触面において応力集中が生じるのを防止することができる。
【0018】
第5の発明のオートテンショナは、前記第3の発明において、前記基部と前記摺動部のうち、予め所定の形状に形成された一方を用いて、他方を射出成形によって形成することを特徴とする。
【0019】
この構成によると、基部と摺動部のうちの一方を、予め所定の形状に形成しておき、この一方を用いて他方を射出成形することによって、基部と摺動部とは成形時に接着されて一体化されるため、基部と摺動部とを確実に固定することができる。
【0020】
第6の発明のオートテンショナは、前記第5の発明において、前記基部と前記摺動部のうちの前記一方の、前記他方との合わせ面には、前記他方側に突出する凸部が形成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によると、前記一方の合わせ面に凸部が形成されていることにより、前記一方を用いて前記他方を射出成形する際に、凸部を覆う他方を構成する樹脂が、若干収縮して硬化するため、前記他方を凸部に強固に固定することができる。
【0022】
第7の発明のオートテンショナは、前記第3の発明において、前記基部と前記摺動部とが、接着剤により接着されていることを特徴とする。この構成によると、基部と摺動部とを確実に固定することができる。
【0023】
第8の発明のオートテンショナは、前記第5〜7の何れかの発明において、前記基部の外周側の面と、この面に接する前記摺動部の面とが、前記周方向に関して山部と谷部とが交互に並んだ凹凸状に形成されていることを特徴とする。この構成によると、基部と摺動部との周方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0024】
第9の発明のオートテンショナは、前記第8の発明において、前記凹凸状が、波形であることを特徴とする。この構成によると、基部の外周側の面と、この面に接する摺動部の面とが、周方向に山部と谷部とが並んだ波形に形成されているため、基部と摺動部との接触面において応力集中を生じさせることなく、基部と摺動部との周方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0025】
第10の発明のオートテンショナは、前記第3の発明において、前記摺動部が、吹き付け、塗布又は蒸着によって、前記基部の表面に形成されていることを特徴とする。
【0026】
第11の発明のオートテンショナは、前記第2〜10の何れかの発明において、前記捩りコイルスプリングの前記他端部が、前記他端部以外の部分と異なる形状に形成されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によると、捩りコイルスプリングの他端部は、捩りコイルスプリングの巻き方向の力によって引っ張られた場合に、収容部から抜け出にくいため、ダンピング部材を捩りコイルスプリングと確実に一体化させて、ダンピング部材を安定的に回動させることができる。
【0028】
第12の発明のオートテンショナは、前記第2〜11の何れかの発明において、前記収容部が、力が作用していない状態の前記捩りコイルスプリングの前記他端部の形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする。
【0029】
この構成によると、捩りコイルスプリングの他端部が収容される収容部の形状が、捩りコイルスプリングの他端部の形状と異なっているため、捩りコイルスプリングの他端部を収容部に圧入することによって、ダンピング部材片と捩りコイルスプリングとを強固に固定することができる。
【0030】
第13の発明のオートテンショナは、前記第1〜12の何れかにの発明において、前記傾斜面が、前記可動部材の回動軸方向から見て円弧状に形成されていることを特徴とする。
【0031】
この構成によると、傾斜面が円弧状であることによって、直線状の場合に比べて、傾斜面の内周側端部から外周側端部までの長さを確保しやすいため、対向する2つの傾斜面間の平均面圧を低減することができる。そのため、ダンピング部材の耐久性が向上する。
【0032】
第14の発明のオートテンショナは、前記第1〜13の何れかにの発明において、対向する2つの前記傾斜面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材が介在していることを特徴とする。
【0033】
ダンピング部材片の対向する面は傾斜しているため、ダンピング部材が周方向の力を受けると、傾斜面の間に摩擦力が生じる。傾斜面間の摩擦係数が大きい場合、ダンピング部材片が傾斜面に沿ってスライド移動しにくくなるため、筒部がダンピング部材片から受ける力が小さくなり、筒部とダンピング部材との間の摩擦力は小さくなる。逆に、傾斜面間の摩擦係数が小さい場合、ダンピング部材片は傾斜面に沿ってスムーズにスライド移動できるため、ダンピング部材が受ける周方向の力を、効率良く径方向の力に変換することができ、筒部とダンピング部材との間の摩擦力は大きくなる。本発明では、対向する傾斜面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材を介在させているため、筒部とダンピング部材との間で大きい摩擦力を生じさせることができる。
【0034】
第15の発明のオートテンショナは、前記第1〜14の何れかにの発明において、前記ダンピング部材が、他の部材に前記軸心方向に隣接して配置されており、対向する2つの前記傾斜面は、前記ダンピング部材が前記周方向の力を受けることによって、隣接する2つの前記ダンピング部材片が互いに逆向きに前記軸心方向に移動するように、前記軸心方向に対して傾斜して形成されているを特徴とする。
【0035】
この構成によると、ダンピング部材が前記周方向の力を受けた際、隣接する2つのダンピング部材片が傾斜面に沿って互いに逆向きに前記軸心方向に移動するため、隣接する2つのダンピング部材片のうちの一方が、軸心方向に隣接して配置されている他の部材に押し付けられる。そのため、ダンピング部材を軸心方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0036】
第16の発明のオートテンショナは、前記第1〜15の何れかにの発明において、前記ダンピング部材と前記可動部材とが接する面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材が介在していることを特徴とする。
【0037】
ダンピング部材は、可動部材とほぼ一体的に回動するが、ダンピング部材が周方向の力を受けると、ダンピング部材片は傾斜面に沿ってスライド移動するため、ダンピング部材は可動部材に対して僅かに移動する。これにより、ダンピング部材片と可動部材が接する面において摩擦力が生じる。ダンピング部材と可動部材とが接する面の摩擦係数が大きい場合、ダンピング部材片が傾斜面に沿ってスライド移動しにくくなるため、筒部がダンピング部材片から受ける力が小さくなり、筒部とダンピング部材との間の摩擦力は小さくなる。逆に、ダンピング部材と可動部材とが接する面の摩擦係数が小さい場合、ダンピング部材片は傾斜面に沿ってスムーズにスライド移動できるため、ダンピング部材が受ける周方向の力を、効率良く径方向の力に変換することができ、筒部とダンピング部材との間の摩擦力は大きくなる。本発明では、ダンピング部材と可動部材とが接する面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材を介在させているため、筒部とダンピング部材との間で大きい摩擦力を生じさせることができる。
【0038】
第17の発明のオートテンショナは、前記第1〜16の何れかにの発明において、前記ダンピング部材の外周面、又は、前記筒部の内周面には、前記ダンピング部材と前記筒部との摺動により生じる摩耗粉を、前記ダンピング部材の外周面と前記筒部の内周面とが摺動する領域の外側の領域に排出するための排出溝が形成されていることを特徴とする。
【0039】
この構成によると、ダンピング部材と筒部との摺動により生じた摩耗粉を、排出溝によって外部に排出することができるため、ダンピング部材の外周面及び筒部の内周面の、摩耗粉による摩耗を抑制すると同時に、摩擦係数を安定させることができる。
【0040】
第18の発明のオートテンショナは、前記第17の発明において、前記排出溝が、前記ダンピング部材の外周面、又は、前記筒部の内周面に沿って、スパイラル状、S字状、又は、前記軸心方向に交差する直線状に形成されていることを特徴とする。
【0041】
仮に、排出溝が軸心方向に延在している場合、ダンピング部材の外周面と筒部の内周面との間の面圧は、円周方向に関して局所的に急激に変化する(不連続となる)。一方、本発明では、排出溝は、スパイラル状、S字状、又は、軸心方向に交差する直線状に形成されているため、ダンピング部材と筒部との間の面圧が円周方向に関して急激に変化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態のオートテンショナの軸方向断面図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態のオートテンショナに用いられるダンピング部材の斜視図である。
【図4】図2の部分拡大図である。
【図5】ベルト張力が増加したときにオートテンショナに作用する力を示した図である。
【図6】ベルト張力が減少したときにオートテンショナに作用する力を示した図である。
【図7】本発明の第2実施形態のオートテンショナの軸方向断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態のオートテンショナに用いられるダンピング部材の平面図である。
【図10】ダンピング部材片の斜視図である。
【図11】図10のダンピング部材片の分解斜視図である。
【図12】Aダンピング部材片の斜視図である。
【図13】図12のダンピング部材片の分解斜視図である。
【図14】変更形態のオートテンショナの断面図であり、図2に相当する図である。
【図15】(a)は変更形態のダンピング部材の部分拡大断面図であり、(b)は樹脂構造体の斜視図である。
【図16】変更形態のダンピング部材の部分拡大断面図である。
【図17】変更形態のダンピング部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、特に、自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルトの弛み側張力を一定に保つオートテンショナに本発明を適用した一例である。
【0044】
図示は省略するが、本実施形態のオートテンショナ1は、自動車用エンジンのクランクシャフトに連結された駆動プーリと、オルタネータ等の補機を駆動する従動プーリとにわたって伝動ベルトが巻き掛けられている補機駆動システムに用いられている。詳細には、オートテンショナ1の後述するプーリは、伝動ベルトの弛み側に接触するように配置されている。この補機駆動システムは、クランクシャフトの回転が伝動ベルトを介して従動プーリに伝達されて、補機が駆動されるようになっている。
【0045】
図1に示すように、本実施形態のオートテンショナ1は、図1中二点鎖線で示すエンジンブロック100にボルト10によって固定される固定部材2と、この固定部材2に回動自在に支持された可動部材3と、この可動部材3に回転自在に設けられたプーリ4と、可動部材3を固定部材2に対して所定方向に回動付勢する捩りコイルスプリング5と、ダンピング部材6とを備えている。
なお、図1中の上下方向を上下方向、図1中の右方向を前方向、図1中の左方向を後方向と定義する。また、図1に示す軸Rを中心とした径方向を単に径方向、軸Rを中心とした周方向を単に周方向と定義する。
【0046】
固定部材2は、例えば、アルミニウム合金鋳物等の金属材料で形成されており、エンジンブロック100に固着される環状の固着部20と、固着部20の外縁部から前方に延びる筒部21とを備えている。
【0047】
固着部20の前面には、捩りコイルスプリング5の一端を
保持するための溝20aが形成されている。また、固着部20の前面の中央部近傍には、前後方向に延びた筒状のスペーサ7が固定的に取り付けられている。スペーサ7の内側にはボルト10が挿通されている。スペーサ7は、可動部材3の後述するボス部30に、軸受け8を介して内挿されている。スペーサ7の前端には、鍔部7aが形成されており、この鍔部7aによって、可動部材3の後述するボス部30が前方に抜け出すのを防止している。
【0048】
可動部材3は、前後方向に延びた円筒状のボス部30と、ボス部30の前端に連結された環状の前壁部31と、前壁部31の外縁の一部から張り出して形成されたプーリ支持部32とを備えている。この可動部材3も、前述の固定部材2と同様に、アルミニウム合金鋳物等の金属材料で形成されている。
【0049】
ボス部30は、筒部21の内側に配置されており、軸受け8を介してスペーサ7に取り付けられている。そのため、可動部材3は、ボス部30において、固定部材2に回動自在に支持されている。ボス部30は、小径部30aと、小径部30aの前端に連結され、小径部30aよりも外径の大きい大径部30bとから構成されている。
【0050】
また、図2に示すように、大径部30bの外周面の一部には、径方向に沿って外周側に突出する爪部33が形成されている。爪部33の前面は、前壁部31の後面に連結されている。爪部33と筒部21の内周面との間には、隙間が形成されており、爪部33と固定部材2とが接触しないようになっている。
【0051】
伝動ベルト101が巻き掛けられるプーリ4は、プーリ支持部32の前側部分に回転自在に取り付けられている。伝動ベルト101の張力の増減に伴って、プーリ4(及び可動部材3)は、図中の軸R(ボス部30の軸心)を揺動中心として揺動するようになっている。なお、図1中、プーリ4の内部構造は省略して表示している。
【0052】
筒部21とボス部30との間には、スプリング収容室9が形成されており、このスプリング収容室9には、捩りコイルスプリング5が配置されている。捩りコイルスプリング5の後端部は、固着部20の溝20aに収容された状態で固定されている。捩りコイルスプリング5の前端部5aは、力が作用していない状態において直線状に形成されており、後述するダンピング部材6の収容溝61bに圧入固定されている。詳細は後述するが、ダンピング部材6は、捩りコイルスプリング5と爪部33との間に介在している。そのため、捩りコイルスプリング5は、ダンピング部材6を介して、可動部材3を固定部材2に対して所定の方向(図2中矢印Bの方向)、即ち、プーリ4を伝動ベルト101に押し付けて伝動ベルト101の張力を増加させる方向に回動付勢している。従って、伝動ベルト101の張力が一時的に低下した際には、捩りコイルスプリング5の付勢力によって、可動部材3が矢印B方向に回動して、プーリ4が伝動ベルト101の張力を増加させるように揺動するようになっている。
【0053】
図2に示すように、ダンピング部材6は、軸Rを中心とした半ドーナツ形状に形成されており、捩りコイルスプリング5の前端部5aと爪部33との間に介在している。ダンピング部材6は、大径部30bの外周面と筒部21の内周面との間に配置されており、ダンピング部材6の外周面は、筒部21の内周面と摺動可能となっている。また、ダンピング部材6の前後方向長さは、全てほぼ同じである。
【0054】
ダンピング部材6は、周方向に並んだ2つのダンピング部材片61、62から構成されている。ダンピング部材片61、62は、剛性の低い材料で形成されている。具体的には、例えば、主成分としてナイロン樹脂を用いた合成樹脂によって形成されてもよいが、主成分として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリアセタール樹脂及びポリアリレート樹脂等を用いた合成樹脂によって形成されてもよい。
【0055】
ダンピング部材片62のダンピング部材片61と反対側の端面62bは、可動部材3の爪部33に当接もしくは接着剤等によって固定されている。
【0056】
ダンピング部材片61の後面には、略周方向に延びた収容溝(収容部)61bが形成されており、この収容溝61bに、捩りコイルスプリング5の前端部5aが圧入固定されている。
【0057】
2つのダンピング部材片61、62の対向面61a、62aは、軸R方向から見て径方向に交差するように傾斜している。以下、この対向面を傾斜面61a、62aという。傾斜面61a、62aの傾斜方向は、筒部21の内周面側に向かうにつれて捩りコイルスプリング5の前端部5aに近づく方向である。傾斜面61a、62aは、軸R方向から見て、外周側に膨らんだ円弧状曲面に形成されているが、軸R方向から見て平面状に形成されていてもよい。傾斜面61a、62aの円弧の中心は、軸Rに対して偏心している。また、傾斜面61a、62aは、軸R方向に延在して形成されている。
【0058】
図3に示すように、ダンピング部材6の外周面には、複数の排出溝6aが形成されている。排出溝6aは、外周面に沿って、軸R方向に対して交差する直線状に形成されている。排出溝6aの後端は、ダンピング部材6の後端に達している。そのため、ダンピング部材6の外周面と筒部21の内周面との摺動により生じる摩耗粉を、排出溝6aによって、ダンピング部材6と筒部21とが摺動する領域の後方に排出することができるようになっている。なお、排出溝6aは形成されていなくてもよい。
【0059】
対向する2つの傾斜面61a、62aの一方又は両方は、例えば、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン、又は二硫化モリブデン等の潤滑材を含有する樹脂組成物(低摩擦材)によって被覆されている。また、ダンピング部材6の前面と前壁部31の後面の一方又は両方、及び、ダンピング部材片61の内周面と大径部30bの外周面の一方又は両方も、グラファイト等の潤滑材を含有する樹脂組成物(低摩擦材)によって被覆されている。
【0060】
また、図示は省略するが、ダンピング部材6に力が作用していない状態において、ダンピング部材6の径方向長さは、筒部21の内周面と大径部30bの外周面との間隔よりも僅かに小さい。つまり、ダンピング部材6に力が作用していない状態において、径方向に関して、筒部21の内周面及び大径部30bの外周面の何れかと、ダンピング部材6との間には、隙間が形成されている。そのため、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62は、傾斜面61a、62aにおいて、互いに径方向にスライド移動可能となっている。
【0061】
また、ダンピング部材片61、62の周方向長さは長い方が好ましい。具体的には、ダンピング部材片61の内周面の軸Rを中心とした角度範囲、及び、ダンピング部材片62の外周面の軸Rを中心とした角度範囲が、それぞれ例えば60〜150°であることが好ましい。
【0062】
次に、傾斜面61a、62aの形状について詳細に説明する。
図4に示すように、軸R(図2参照)から放射状に延びた任意の3つの直線をR1、R2、R3とする。直線R1上に任意の点A1を設定し、この点A1を通り、直線R1に直交する直線をLとする。そして、直線Lに対して角度α傾いた直線を傾斜線M1とする。また、直線R2、R3についても同様に、任意の点A2、A3をそれぞれ設定し、この点A2、A3から傾斜線M2、M3を設定する。これら傾斜線M1、M2、M3に略接する円弧が、傾斜面61a、62aの円弧である。角度αは、例えば、15〜35°の範囲内に設定される。
【0063】
次に、オートテンショナ1の動作について説明する。
【0064】
伝動ベルト101の張力が増加した場合、可動部材3は、捩りコイルスプリング5の付勢力F2に抗して矢印A方向に回動する。図5に示すように、ダンピング部材6は、爪部33から力F1を受けて矢印A方向に回動するため、ダンピング部材6の外周面が、筒部21の内周面に対して摺動して、ダンピング部材6の外周面と筒部21の内周面との間で摩擦力(摺動抵抗)が生じる。
【0065】
このとき、ダンピング部材片61、62の対向する面61a、62aが傾斜しているため、ダンピング部材6が周方向の力を受けることによって、ダンピング部材片61、62は、傾斜面61a、62aに沿って互いに逆方向にスライド移動して、それぞれ筒部21の内周面と大径部30bの外周面に押し付けられる。そのため、筒部21の内周面は、ダンピング部材片62から径方向の力F3を受けるため、ダンピング部材6が1つの部材で構成されている場合(又は、ダンピング部材片61、62の対向する面が径方向の場合)に比べて、ダンピング部材片62の外周面と筒部21の内周面との間に生じる摩擦力を増大させることができる。例えば、傾斜面61a、62aの傾斜角度(図4中の角度α)が26度の場合、力F3は、捩りコイルスプリング5の付勢力F2の2倍となる。
【0066】
また、可動部材3は、捩りコイルスプリング5の付勢力F2が増加する方向に回動する。ダンピング部材6に作用する周方向の力が大きいほど、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける径方向の力が大きくなるため、可動部材の回動に伴って、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける力が増大し、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力も増大する。
【0067】
ダンピング部材6と筒部21の内周面との間に生じる摩擦力と、捩りコイルスプリング5の付勢力F2とによって、可動部材3の回動が減衰する。上述したように、ダンピング部材6と筒部21の内周面との間に生じる摩擦力が大きいため、たとえ伝動ベルト101の張力が急激に大幅に増加した場合であっても、この張力の増加を十分に減衰させるような大きな減衰力を発生させることができる。
【0068】
伝動ベルト101の通常走行時(張力の増減のない時)には、ダンピング部材6は、爪部33と捩りコイルスプリング5とから周方向のほぼ同じ大きさの力を受けており、可動部材3に対して停止している。このとき、ダンピング部材片61、62の対向する面61a、62aが傾斜していることから、筒部21の内周面及び大径部30bの外周面は、それぞれダンピング部材片62、61から径方向の力を受けている。
【0069】
伝動ベルト101の張力が減少した場合、ダンピング部材6が爪部33から受ける力が低下する。ダンピング部材片62に作用する捩りコイルスプリング5の付勢力F10が、筒部21とダンピング部材片62との間の静止摩擦力と傾斜面61a、62a間の静止摩擦力を上回る場合、図6に示すように、ダンピング部材6は、捩りコイルスプリング5の付勢力F10によって矢印B方向に回動して、可動部材3も矢印B方向に回動する。そのため、筒部21の内周面とダンピング部材6の外周面との間で動摩擦力(摺動抵抗)が生じる。
【0070】
このとき、ベルト張力増加時と同様に、ダンピング部材6に作用する周方向の力の一部は、傾斜面61a、62aによって、径方向の力F11に変換されて、筒部21とダンピング部材6の間に生じる摩擦力が増大する。
【0071】
しかしながら、可動部材3は、捩りコイルスプリング5の付勢力F10が減少する方向に回動しており、ダンピング部材6に作用する周方向の力が大きいほど、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける径方向の力が大きくなるため、可動部材の回動に伴って、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける力F11が小さくなる。そのため、ベルト張力増加時に比べて、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力は小さい。
【0072】
ダンピング部材6と筒部21の内周面との間に生じる摩擦力によって、可動部材3の回動が減衰する。上述したように、ダンピング部材6と筒部21の内周面との間に生じる摩擦力が小さいため、可動部材3は捩りコイルスプリング5の付勢力F10を十分に受けることができ、可動部材3の揺動をこの張力の減少に対して十分に追従させることができる。
【0073】
ベルト張力増加時の摺動抵抗は、捩りコイルスプリング5の付勢力と共に減衰力として作用し、ベルト張力減少時の摺動抵抗は、捩りコイルスプリング5の付勢力による可動部材3の回動を減衰させるものである。上述したように、ベルト張力増加時には、可動部材3の回動に伴って、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力(摺動抵抗)が増大する一方、ベルト張力減少時には、可動部材の回動に伴って、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力(摺動抵抗)は小さくなる。従って、捩りコイルスプリング5による張力を低く設定できるので、通常運転時、低い張力で伝動ベルト101を張ることができる。その結果、エンジン等の摩擦抵抗が低減されて燃費が向上すると共に、伝動ベルト101を長寿命化できる。仮に、摺動抵抗が非対称でない場合には、常時高い張力で伝動ベルト101を張っておくことになる。
【0074】
また、ダンピング部材片61、62の対向する面61a、62aは傾斜しているため、ダンピング部材6が周方向の力を受けると、傾斜面61a、62aの間に摩擦力が生じる。傾斜面61a、62a間の摩擦係数が大きい場合、ダンピング部材片61、62が傾斜面61a、62aに沿ってスライド移動しにくくなり、ダンピング部材片61、62が筒部21の内周面及び大径部30bの外周面に押し付けられる力が弱くなるため、筒部21とダンピング部材片62との間の摩擦力(摺動抵抗)は小さくなる。
【0075】
逆に、傾斜面61a、62a間の摩擦係数が小さい場合、ダンピング部材片61、62は傾斜面61a、62aに沿ってスムーズにスライド移動できるため、ダンピング部材6が受ける周方向の力を、効率良く径方向の力に変換することができ、筒部21とダンピング部材6との間の摩擦力(摺動抵抗)は大きくなる。上述したように、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力は、可動部材3の回動方向に応じて大きさが異なっている(非対称)ため、傾斜面61a、62a間の摩擦係数が小さいほど、ベルト張力増加時の摺動抵抗と、ベルト張力減少時の摺動抵抗との差は大きくなる。つまり、摺動抵抗の非対称性がより大きくなる。
【0076】
上述したように、本実施形態では、傾斜面61a、62aの一方又は両方が、グラファイト等の潤滑材を含有する樹脂組成物によって被覆されており、傾斜面61a、62a間の摩擦係数は小さい。そのため、筒部21とダンピング部材6との間で大きい摩擦力(摺動抵抗)を生じさせることができるとともに、ベルト張力の増加時と減少時における筒部21とダンピング部材6との間の摺動抵抗の非対称性が大きくなる。
【0077】
また、ダンピング部材6は、可動部材3とほぼ一体的に回動しているが、実際は、ダンピング部材6が周方向の力を受けると、ダンピング部材片61、62は傾斜面61a、62aに沿って互いに逆方向にスライド移動するため、ダンピング部材片61、62の前面と前壁部31との間、及び、ダンピング部材片61の内周面と大径部30bとの間で摩擦力が生じる。
【0078】
ダンピング部材片61、62と可動部材3とが接する面の間の摩擦係数が大きい場合、ダンピング部材片61、62が傾斜面61a、62aに沿ってスライド移動しにくくなり、ダンピング部材片61、62が筒部21の内周面及び大径部の外周面に押し付けられる力が弱くなるため、筒部21とダンピング部材片62との間の摩擦力(摺動抵抗)は小さくなる。
【0079】
逆に、ダンピング部材片61、62と可動部材3とが接する面の間の摩擦係数が小さい場合、ダンピング部材片61、62はスムーズにスライド移動できるため、ダンピング部材6が受ける周方向の力を、効率良く径方向の力に変換することができ、筒部21とダンピング部材6との間の摩擦力(摺動抵抗)は大きくなる。上述したように、筒部21とダンピング部材片62との間に生じる摩擦力は、可動部材3の回動方向に応じて大きさが異なっている(非対称)ため、ダンピング部材片61、62と可動部材3とが接する面の間の摩擦係数が小さいほど、ベルト張力増加時の摺動抵抗と、ベルト張力減少時の摺動抵抗との差は大きくなる。つまり、摺動抵抗の非対称性がより大きくなる。
【0080】
本実施形態では、上述したように、ダンピング部材6の前面と前壁部31の後面の一方又は両方、及び、ダンピング部材片61の内周面と大径部30bの外周面の一方又は両方は、グラファイト等の潤滑材を含有する樹脂組成物によって被覆されており、傾斜面61a、62a間の摩擦係数は小さい。そのため、筒部21とダンピング部材6との間で大きい摩擦力(摺動抵抗)を生じさせることができるとともに、ベルト張力の増加時と減少時における筒部21とダンピング部材6との間の摺動抵抗の非対称性が大きくなる。
【0081】
上述したように、ダンピング部材片61、62は、捩りコイルスプリング5の前端部5aを収容する収容溝61bを有している。そのため、捩りコイルスプリング5の前端部5aが、ダンピング部材片61、62に対して径方向に位置ずれしにくいため、捩りコイルスプリング5の付勢力をダンピング部材6を介して安定して可動部材に伝えることができる。
【0082】
また、ダンピング部材片61を設けずに、捩りコイルスプリング5の前端部5aを直接ダンピング部材片62の傾斜面62aに接触させたダンピング機構の場合、ダンピング部材片62を筒部21に押し付けるには、捩りコイルスプリング5の前端部5aを傾斜面61a、62aのように傾斜した面に加工する必要がある。捩りコイルスプリング5の端面にこのような加工を精度良く行うのは手間であり、また、たとえこのような加工を施したとしても、捩りコイルスプリング5の端部と傾斜面62aとの接触面積が小さいため、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける径方向の力が安定しなくなる。一方、本実施形態では、ダンピング部材片62に対向してダンピング部材片61を設けて、このダンピング部材片61の収容溝61bに、捩りコイルスプリング5の前端部5aを収容しているため、捩りコイルスプリング5の前端部5aに特別な加工を施す必要がなく、また、筒部21の内周面がダンピング部材片62から受ける力が安定する。
【0083】
上述したように、捩りコイルスプリング5の前端部5aは、ダンピング部材片61に形成された収容溝61bに圧入固定されている。そのため、捩りコイルスプリング5の付勢力をダンピング部材6に確実に伝達することができる。従って、捩りコイルスプリング5の付勢力を可動部材3に確実に伝達することができる。
【0084】
上述したように、捩りコイルスプリング5の前端部5aは、直線状に形成されている。そのため、捩りコイルスプリング5の前端部5aは、捩りコイルスプリング5の巻き方向の力(周方向の力)によって引っ張られた場合に、収容溝61bから抜け出にくいため、ダンピング部材6を捩りコイルスプリング5と確実に一体化させて、ダンピング部材6を安定的に回動させることができる。
【0085】
上述したように、傾斜面61a、62aは、円弧状に形成されているため、直線状の場合に比べて、傾斜面61a、62aの内周側端部から外周側端部までの長さが長くなり、傾斜面61a、62a間の平均面圧を低減することができる。そのため、ダンピング部材6の耐久性が向上する。
【0086】
また、傾斜面61a、62aは、外周側に膨らんだ円弧状曲面であるため、平面に形成されている場合に比べて、スライド移動方向が回動方向に近くなり、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62が、回動方向とスライド移動方向に同時に移動しやすくなる。
【0087】
上述したように、ダンピング部材6の外周面には排出溝6aが形成されており、この排出溝6aによって、ダンピング部材6と筒部21との摺動により生じた摩耗粉をスプリング収容室9内に排出することができるため、ダンピング部材6の外周面及び筒部21の内周面の、摩耗粉による摩耗を抑制すると同時に、摩擦係数を安定させることができる。
【0088】
排出溝6aが軸R方向に延在している場合、ダンピング部材6と筒部21との間の面圧は、円周方向に関して局所的に急激に変化する(不連続となる)。一方、本実施形態では、排出溝6aは、外周面に沿って、軸R方向に対して交差する直線状に形成されているため、ダンピング部材6と筒部21との間の面圧が円周方向に関して急激に変化するのを防止することができる。
【0089】
上述したように、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62は、曲げ剛性の低い合成樹脂材料で形成されているが、仮に、曲げ剛性の高い材料で形成された場合、ダンピング部材6の回動方向(周方向)と、スライド移動方向(傾斜面61a、62aの方向)とは互いに異なるため、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62は、異なる2方向に同時に動きにくくなる。本実施形態では、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62は、曲げ剛性の低い合成樹脂材料で形成されているため、ダンピング部材片61及びダンピング部材片62は、異なる2方向(回動方向とスライド移動方向)に同時に動くことが可能である。
【0090】
また、傾斜面61a、62aの図4に示す角度αが15°未満の場合、ダンピング部材片61又はダンピング部材片62が傾斜面61a、62aにおいてスライド移動しやすいため、傾斜面61a、62aが摩耗し過ぎる。逆に、角度αが35°を超える場合、傾斜が小さいため、スライド移動しにくくなる。そのため、角度αは、15〜35°の範囲内の値に設定することが好ましい。
【0091】
次に、ダンピング部材片62の周方向長さが長い方が好ましい理由について説明する。図5に示すように、ダンピング部材片62が爪部33から直接受ける力F1は、端面62bにおける接線方向の力(直線方向の力)である。力0の一部の力F4が、筒部21の内周面に作用することにより、ダンピング部材片62に作用する力の方向が力F1の方向から周方向に変えられて、ダンピング部材片62は周方向に回動する。このとき、力F4によって、ダンピング部材片62と筒部21との間に作用する摩擦力が増大する。ダンピング部材片62の長さが短い場合、ダンピング部材片62を回動させるための力F4は不要となる、もしくは、その大きさが小さくなる。従って、ダンピング部材片62の周方向長さが長いほど、ダンピング部材片62と筒部21との間に生じる摩擦力を増加させることができる。従って、ダンピング部材片62の周方向長さは長い方が好ましい。具体的には、ダンピング部材片62の外周面の軸Rを中心とした角度が、60〜150°の範囲内であるような周方向長さであることが好ましい。
【0092】
また、ダンピング部材片61の周方向長さが長い方が好ましい理由について説明する。図6に示すように、ダンピング部材片61が捩りコイルスプリング5から力F10を受けたとき、ダンピング部材片61から大径部30bに向けて径方向の力F11が生じる。ダンピング部材片61の周方向長さが長いほど、周方向に関して、捩りコイルスプリング5の前端部5aと力F11との位置が離れることとなる。捩りコイルスプリング5の前端部5aと力F11との位置がある程度離れている場合、力F11の一部を、捩りコイルスプリング5を矢印Bの方向に変形(回転)させるために利用することができ、結果的に、捩りコイルスプリング5の変形をスムーズに行うことができる。従って、ダンピング部材片61の周方向長さは、長い方が好ましい。具体的には、ダンピング部材片61の内周面の軸Rを中心とした角度が、60〜150°の範囲内であるような周方向長さであることが好ましい。
【0093】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0094】
図7示すように、本実施形態のオートテンショナ201は、ダンピング部材と、可動部材3の爪部と、コイルスプリング5の前端部の構成が、上記第1実施形態と異なるものの、その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0095】
図8に示すように、本実施形態の可動部材3の爪部233は、前壁部31の後面から後方に突出して形成されている。爪部233は、径方向に関して、捩りコイルスプリング5よりも外側に位置している。これにより、爪部233と捩りコイルスプリング5の途中部分とが接触することがない。また、爪部233と筒部21の内周面との間には、隙間が形成されており、爪部233と固定部材2とが接触しないようになっている。
【0096】
図7に示すように、本実施形態の捩りコイルスプリング5の前端部205aは、力が作用していない状態において、上記第1実施形態の前端部5aのように直線状ではなく、捩りコイルスプリング5の巻き方向に沿って延在するように形成されている。前端部205aは、後述するダンピング部材206の収容溝263aに収容されて固定されている。
【0097】
図8及び図9に示すように、本実施形態のダンピング部材206は、周方向に並んだ2つのダンピング部材片261、262から構成されている。ダンピング部材片262のダンピング部材片261と反対側の端面262bは、爪部233に当接もしくは接着剤等によって固定されている。また、ダンピング部材片261には、捩りコイルスプリング5の前端部205aが固定されている。
【0098】
ダンピング部材片261、262の対向する傾斜面261a、262aは、軸R方向から見て径方向に交差するように傾斜している。傾斜面61a、62aの傾斜方向は、筒部21の内周面側に向かうにつれて捩りコイルスプリング5の前端部205aに近づく方向である。傾斜面261a、262aは、平面状(軸R方向から見て直線状)であるが、軸R方向から見て外周側に膨らんだ円弧状曲面に形成されていてもよい。また、傾斜面261a、262aは、軸R方向に延在して形成されている。また、図示は省略するが、ダンピング部材206の外周面には、上記第1実施形態のダンピング部材6と同様に、排出溝6aが形成されている(図3参照)。また、傾斜面261a、262aの一方又は両方、及び、ダンピング部材206と可動部材3とが接触する面の一方又は両方は、ダンピング部材6と同じく、グラファイト等の潤滑材を含有する樹脂組成物によって被覆されている。
【0099】
図10に示すように、ダンピング部材片261は、基部263と摺動部264とから構成されている。基部263は、剛性及び耐衝撃性の高い材料で形成されている。具体的には、アルミニウム合金鋳物等の金属材料や、フェニール等の樹脂材料などで形成されている。摺動部264は、筒部21の内周面に対して、耐摩耗性に優れ、且つ、摩擦係数が安定するような材料で形成されている。具体的には、前記第1実施形態のダンピング部材片61、62と同様の樹脂材料で形成されている。
【0100】
図11に示すように、摺動部264は、ダンピング部材片261の外形を構成する部材であって、その外周面が筒部21の内周面と摺動可能となっている。摺動部264の後面には、周方向に延在する凹部264aが形成されている。凹部264aの外周側の面には、周方向に関して山部と谷部が交互に並んだ波形の波形部264bが形成されている。
【0101】
基部263は、周方向に延在しており、凹部264aに収容されている。そのため、基部263は、外周面と内周面と前面とが摺動部264によって覆われている。基部263の外周面には、波形部263bに嵌合する形状の波形部263bが形成されている。基部263と摺動部264とは、波形部263b、264b同士を嵌合させることによって固定されている。
【0102】
また、基部263の後面には、周方向に延在する収容溝(収容部)263aが形成されている。収容溝263aは、基部263の端から途中部分まで延在している。この収容溝263aに、捩りコイルスプリングの前端部205aが圧入固定されている。図示は省略するが、収容溝263aの形状は、前端部205aの形状と若干異なる形状であって、前端部205aに面接触、線接触、又は多点で接触可能な形状に形成されている。具体的には、例えば、収容溝263aは、捩りコイルスプリング5と同じ曲率の円弧状であって、その溝幅(径方向の長さ)が、捩りコイルスプリング5を構成する線材の直径よりも若干小さくてもよい。また、例えば、収容溝263aは、溝幅の太い部分と細い部分とが周方向に交互に形成された形状であって、細い部分の溝幅が、捩りコイルスプリング5を構成する線材の直径よりも若干小さくてもよい。このように、収容溝263aと捩りコイルスプリング5の前端部205aとの形状が若干異なっているため、前端部205aを収容溝263aに圧入することによって、ダンピング部材片261と捩りコイルスプリング5とは強固に固定されている。
【0103】
基部263と摺動部264とを嵌合した状態において、基部263のダンピング部材片262側の端面263cと、摺動部264のダンピング部材片262側の端面264cとは同一平面上に位置している。従って、基部263の端面263cと摺動部264の端面264cとによって、ダンピング部材片261の傾斜面261aが構成されている。なお、基部263と摺動部264とを嵌合した状態において、端面263cと端面264cの何れか一方が、他方よりも突出していてもよい。
【0104】
図12に示すように、ダンピング部材片262は、基部265と摺動部266とから構成されている。基部265及び摺動部266は、それぞれ基部263及び摺動部264と同様の材料で形成されている。
【0105】
図13に示すように、摺動部266は、ダンピング部材片262の外形を構成する部材であって、その外周面が筒部21の内周面と摺動可能となっている。摺動部266の後面には、周方向に延在する凹部266aが形成されている。凹部266aの外周側の面には、周方向に関して山部と谷部が交互に並んだ波形の波形部266bが形成されている。
【0106】
基部265は、周方向に延在しており、凹部266aに収容されている。そのため、基部265は、外周面と内周面と前面とが摺動部266によって覆われている。基部265の外周面には、波形部265bに嵌合する形状の波形部265bが形成されている。基部265と摺動部266とは、波形部265b、266b同士を嵌合させることによって固定されている。
【0107】
また、基部265の後面には、周方向に延在する収容溝263a(収容部)265aが形成されている。収容溝265aは、基部265の一方の端部から他方の端部まで延在している。この収容溝265aに、捩りコイルスプリング5の途中部分が収容されている。収容溝265aの溝幅(径方向の長さ)は、捩りコイルスプリング5を構成する線材の直径よりも大きい。そのため、捩りコイルスプリング5の付勢力が解放又は増大したときに、収容溝265a内で捩りコイルスプリング5の途中部分が周方向に移動できるようになっている。また、捩りコイルスプリング5の付勢力が解放又は増大した際、捩りコイルスプリング5の径は若干変化するため、収容溝265aは、捩りコイルスプリング5の途中部分と接触して力を受ける場合がある。
【0108】
基部265と摺動部266とを嵌合した状態において、基部265のダンピング部材片261側の端面265cと、摺動部266のダンピング部材片261側の端面266cとは同一平面上に位置している。従って、基部265の端面265cと摺動部266の端面266cとによって、ダンピング部材片262の傾斜面262aが構成されている。なお、基部265と摺動部266とを嵌合した状態において、端面265cと端面266cの何れか一方が、他方よりも突出していてもよい。
【0109】
また、基部265と摺動部266とを嵌合した状態において、基部265の爪部233側の端面265dと、摺動部266の爪部233側の端面266dとは同一平面上に位置している。従って、基部265の端面265dと摺動部266の端面266dとによって、ダンピング部材片262の端面262bが構成されている。なお、基部265と摺動部266とを嵌合した状態において、端面265dと端面266dの何れか一方が、他方よりも突出していてもよい。
【0110】
以上説明した本実施形態のオートテンショナ201においては、ダンピング部材片261、262は、捩りコイルスプリング5に接する部分(基部)と、筒部21の内周面と摺動する部分(摺動部)とが別部材で構成されているため、各部分に応じた適切な材料を使用することができる。上述したように、基部263、265は、剛性及び耐衝撃性の高い金属材料や樹脂材料等で形成されており、摺動部264、266は、筒部21の内周面に対する耐摩耗性に優れ、且つ、摩擦係数が安定するような樹脂材料等で形成されている。そのため、ダンピング部材片261、262は、捩りコイルスプリング5との接触による破損が抑制されると同時に、筒部21の内周面に対して安定的に摺動することができる。
【0111】
上述したように、基部263(265)と摺動部264(266)とは、それぞれ、周方向に山部と谷部とが並んだ波形状の波形部263b、264b(265b、266b)同士を嵌合させることによって固定されている。このような簡易な構成により、基部263(265)と摺動部264(266)とを、周方向に移動不能に固定することができる。
【0112】
また、基部265の外周面と、この面に接する凹部266aの面とが、周方向に山部と谷部とが並んだ形状であって、角部を有する歯形状に形成されている場合、ダンピング部材206が周方向の力を受けた際に摺動部266と筒部21との間に生じる摩擦力によって、基部265と摺動部266とが接する歯形状の面の角部分において応力集中が生じる。これにより、摺動部266の応力が不均一となって、摺動部266の定常的な摩耗に悪影響を及ぼしたり、摺動部266及び基部265が破損しやすくなる。
【0113】
一方、本実施形態では、基部265の外周面と、この面に接する凹部266aの面は、曲線で構成された波形状に形成されており、角部分を有しない。そのため、ダンピング部材206が周方向の力を受けた際に、この接触面において応力集中が生じるのを防止することができる。
【0114】
なお、基部263、265の外周面と、凹部264a、266aの外周側の面に加えて、基部263、265の内周面と、凹部264a、266aの内周側の面とも、周方向に関して山部と谷部が交互に並んだ波形に形成されていてもよい。これにより、基部263、265と摺動部264、266との周方向の位置ずれがより生じにくくなる。
【0115】
また、基部263、265と摺動部264、266との固定方法は、嵌合固定に限定されない。例えば、基部263と摺動部264とは接着剤によって接着されていてもよい。また、例えば、基部263を予め所定の形状に形成し、この基部263を金型内に配置して、摺動部264を射出成形によって形成してもよい。これにより、基部263と摺動部264とは成形時に接着されて一体化されるため、基部263と摺動部264とを確実に固定することができる。
【0116】
また、基部263と摺動部264とを一体成形により形成する場合、基部263の摺動部264との合わせ面に、摺動部264側に突出する凸部を形成してもよい。これにより、基部263を用いて摺動部264を射出成形する際に、凸部を覆う摺動部264を構成する樹脂が、若干収縮して硬化するため、摺動部を凸部に強固に固定することができる。
【0117】
なお、基部263が樹脂材料からなる場合には、摺動部264を予め所定の形状に射出成形等によって形成し、この摺動部264を金型内に配置して、基部263を射出成形によって形成してもよい。
【0118】
また、上述したように、基部263、265と摺動部264、266とを、成形時に接着、若しくは接着剤によって接着する場合、基部263、265の外周面と、凹部264a、266aの内周側の面は、波形に形成されていなくてもよいが、波形に形成されていてもよい。波形に形成されている場合、基部263、265と凹部264a、266aとの接触面で応力集中を生じさせることなく、基部263、265と摺動部264、266との周方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0119】
また、摺動部264、266は、基部263、265の表面に、吹き付け、塗布又は蒸着によって形成されていてもよい。
【0120】
また、本実施形態では、摺動部264、266は、基部263、265の外周面と内周面と前面とを覆うように形成されているが、この形状に限定されるものではなく、少なくとも基部263、265の外周面を覆うように構成されていればよい。
【0121】
また、捩りコイルスプリング5の形状(巻きピッチ、巻き密度)によっては、捩りコイルスプリング5の途中部分を収容する収容溝265aは形成されていなくてもよい。この場合であっても、捩りコイルスプリング5との接触によるダンピング部材片262の破損を抑制できる。
【0122】
また、ダンピング部材206を構成する2つのダンピング部材片のうちの一方が、第1実施形態のダンピング部材片61、62のように、1つの部材で構成されていてもよい。
【0123】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0124】
1]ダンピング部材は、例えば図14に示すように、周方向に並んだ3つ以上のダンピング部材片で構成されていてもよい。図14のダンピング部材306は、3つのダンピング部材片361、362、363で構成されている。ダンピング部材片363には爪部33が当接しており、ダンピング部材片361には捩りコイルスプリング5が固定されている。ダンピング部材片361、362の対向面361a、362aは、径方向に対して交差するように傾斜しており、ダンピング部材片362、363の対向面362b、363aも、径方向に対して交差するように傾斜している。
【0125】
この構成によると、伝動ベルト101の張力が減少又は増加して、ダンピング部材306に周方向の力が作用した際、対向する傾斜面361a、362a、及び、対向する傾斜面362b、363aによって、ダンピング部材306に作用する周方向の力の一部が、径方向の力に変換されて、筒部21の内周面は、ダンピング部材片362、363から径方向の力を受ける。そのため、ダンピング部材6が2つのダンピング部材片で構成されている場合に比べて、筒部21の内周面とダンピング部材306との間に生じる摩擦力が増大する。従って、可動部材3の回動を減衰させる減衰力も増大する。
【0126】
2]上記第1実施形態では、捩りコイルスプリング5の前端部5a及び収容溝61bの形状が、直線状であるが、これに限定されるものではない。前端部5a及び収容溝61bの形状は、前端部5a以外の部分と異なる形状であればよい。例えば、前端部5aの先端が、軸R方向に向かって折れ曲がった形状であってもよい。この構成により、捩りコイルスプリング5の前端部5aは、捩りコイルスプリング5の巻き方向の力によって引っ張られた場合に、収容溝61bから抜け出にくくなり、ダンピング部材6を捩りコイルスプリング5と確実に一体化させて、ダンピング部材6を安定的に回動させることができる。
【0127】
なお、上記第1実施形態の収容溝61bと前端部5aとの固定方法を、第2実施形態のダンピング部材206に適用してもよく、逆に、上記第2実施形態の収容溝263aと前端部205aとの固定方法を、第1実施形態のダンピング部材6に適用してもよい。
【0128】
3]捩りコイルスプリング5の前端部5a、205aが収容されるダンピング部材片61、261の収容部の形状は、溝状に限定されるものではない。例えば、周方向に延びる穴状であってもよい。
【0129】
4]捩りコイルスプリング5は、収容溝61b、263aに固定されていなくてもよい。この場合であっても、捩りコイルスプリング5の付勢力によって、可動部材3を回動させることができる。
【0130】
5]上記実施形態では、対向する2つの傾斜面61a、62a(261a、262a)の一方又は両方が、潤滑材を含有する樹脂組成物(低摩擦材)によって被覆されているが、傾斜面間の摩擦抵抗を低減するための構成は、これに限定されない。例えば、傾斜面61a、62a(261a、262a)間に、1枚又は複数枚を積層した樹脂フィルムを介在させてもよい。樹脂フィルムの材料としては、例えば、ポリアミド、ポリテロラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート等を用いる。
【0131】
また、例えば、図15(a)に示すように、対向する2つの傾斜面61a、62a(261a、262a)間に、上述の樹脂フィルムを用いて形成された樹脂構造体(低摩擦材)67を介在させてよい。図15(b)に示すように、樹脂構造体67は、上述した樹脂フィルムで形成された複数の直方体状の袋体67aが連結されたものである。また、樹脂構造体67が介在した状態での傾斜面61a、62a(261a、262a)間の摩擦係数は、0.01〜0.06の範囲内に設定することが好ましい。
【0132】
また、例えば、対向する2つの傾斜面61a、62a(261a、262a)間に、潤滑油や、潤滑油を含浸させた多孔室の金属体や、固体潤滑材等の低摩擦材を介在させてもよい。
【0133】
また、例えば、図16に示すように、対向する2つの傾斜面61a、62a(261a、262a)が、複数の板バネ68で連結されていてもよい。板バネ68は、周方向における両端部が、対向する2つの傾斜面61a、62aにそれぞれ圧入固定されている。また、板バネ68は、弾性変形しやすい材料で形成されている。そのため、ダンピング部材6が周方向の力を受けた際、板バネ68が弾性変形することによって、ダンピング部材片61、62は傾斜面61a、62aに沿って互いに逆方向に移動する。この際、板バネ68を弾性変形させる力は、傾斜面61a、62a同士が直接接触する場合に傾斜面61a、62a間で生じる摩擦力よりも小さい。そのため、傾斜面61a、62a同士が直接接触する場合に比べて、ダンピング部材片61、62を傾斜面61a、62aに沿ってスムーズに移動させることができ、ダンピング部材6と筒部21との間に生じる摩擦力を増大させることができる。なお、板バネ68の代わりに、例えばゴム弾性体を用いてもよい。
【0134】
6]上記実施形態では、ダンピング部材6と可動部材3とが接する面の一方又は両方が、潤滑材を含有する樹脂組成物によって被覆されているが、ダンピング部材6と可動部材3とが接する面の間の摩擦抵抗を低減するための構成は、これに限定されるものではない。例えば、ダンピング部材6と可動部材3とが接する面の間に、上述した樹脂フィルムや樹脂構造体67や潤滑油等の低摩擦材を介在させてもよい。
【0135】
7]上記実施形態では、排出溝6aは、ダンピング部材6の外周面に沿って、軸方向に交差する直線状に形成されているが(図3参照)、この形状に限定されない。排出溝6aは、軸方向に交差する方向ように形成されていればよく、例えば、S字状、又は、スパイラル状のような曲線状に形成されていてもよい。
【0136】
8]また、上記実施形態では、排出溝6aは、後端が、ダンピング部材6の後端に達しており、ダンピング部材6と筒部21との摺動により生じる摩耗粉を、ダンピング部材6と筒部21とが摺動する領域の後方に排出するように形成されているが、この形状に限定されるものではない。排出溝6aは、ダンピング部材6と筒部21とが摺動する領域の外側に摩耗粉を排出できるように形成されていればよい。例えば、排出溝6aの前端が、ダンピング部材6の前端に達するように形成され、ダンピング部材6と筒部21とが摺動する領域の前方、または、前後両方に摩耗粉を排出することができるようになっていてもよい。また、例えば、筒部21に厚さ方向(径方向)に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔を通して摩耗粉を外部に排出するようになっていてもよい。
【0137】
9]上記実施形態では、排出溝6aは、ダンピング部材6の外周面に形成されているが、筒部21の内周面に形成されていてもよい。
【0138】
10]上記実施形態では、傾斜面61a、62a(261a、262a)は、軸R方向に延在して形成されているが、例えば図17に示すように、傾斜面461a、462aは、ダンピング部材406が周方向の力を受けることによって、ダンピング部材片461、462が互いに逆向きに軸R方向(図1参照)に移動するように、軸R方向に対して傾斜して形成されていてもよい。ダンピング部材片461は、爪部33(図2参照)に当接し、ダンピング部材片462には捩りコイルスプリング5(図2参照)が固定されている。傾斜面461a、462aの傾斜方向は、前方(前壁部31)に向かうにつれて捩りコイルスプリング5の前端部5aに近づく方向である。この構成によると、ダンピング部材406が周方向の力を受けた際、ダンピング部材片461、462が傾斜面461a、462aに沿って互いに逆向きに軸R方向(図1参照)に移動する。これにより、ダンピング部材片462が、前壁部31(図1参照)に押し付けられるため、ダンピング部材406の軸R方向の位置ずれを防止することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 オートテンショナ
2 固定部材
3 可動部材
4 プーリ
5 捩りコイルスプリング
5a 前端部(他端部)
6 ダンピング部材
6a 排出溝
21 筒部
30 ボス部
30b 大径部
33 爪部
61、62 ダンピング部材片
61a、62a 傾斜面
61b 収容溝(収容部)
201 オートテンショナ
205a 前端部
206 ダンピング部材
261、262 ダンピング部材片
261a、262a 傾斜面
263、265 基部
263a 収容溝(収容部)
265a 収容溝
263b、265b 波形部
264、266 摺動部
264a、266a 凹部
264b、266b 波形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部を有する固定部材と、
前記筒部の内側に配置されるボス部を有するとともに、前記ボス部において前記固定部材に回動自在に支持される可動部材と、
前記可動部材に回転自在に設けられ、前記ボス部の軸心を揺動中心として揺動可能であり、且つ、ベルトが巻き掛けられるプーリと、
前記筒部と前記ボス部との間に設けられるとともに、その一端部が前記固定部材に連結され、前記可動部材を前記固定部材に対して所定方向に回動付勢するための捩りコイルスプリングと、
前記捩りコイルスプリングの他端部と前記可動部材との間に介在するとともに、前記筒部の内周面に摺動可能なダンピング部材と、
を備え、
前記ダンピング部材が、前記筒部の周方向に関して並んだ複数のダンピング部材片からなり、
前記ダンピング部材片の隣接する別の前記ダンピング部材片との対向面が、前記筒部の径方向に交差する傾斜面であることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記複数のダンピング部材片のうち、前記捩りコイルスプリングの前記他端部側のダンピング部材片は、前記捩りコイルスプリングの前記他端部を収容する収容部を有することを特徴とする請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記ダンピング部材片は、
前記周方向に沿って延在し、前記捩りコイルスプリングに接触する基部と、
前記基部の少なくとも外周側に設けられ、前記基部に固定されるとともに、前記筒部の内周面と摺動する摺動部とが別部材で構成されていることを特徴とする請求項2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記基部の外周側の面と、この面に接する前記摺動部の面とが、前記周方向に関して山部と谷部が交互に並んだ波形に形成されており、
前記基部と前記摺動部とが、前記波形の面同士を嵌合させることによって固定されていることを特徴とする請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記基部と前記摺動部のうち、予め所定の形状に形成された一方を用いて、他方を射出成形によって形成することを特徴とする請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記基部と前記摺動部のうちの前記一方の、前記他方との合わせ面には、前記他方側に突出する凸部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記基部と前記摺動部とが、接着剤により接着されていることを特徴とする請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記基部の外周側の面と、この面に接する前記摺動部の面とが、前記周方向に関して山部と谷部とが交互に並んだ凹凸状に形成されていることを特徴とする請求項5〜7の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項9】
前記凹凸状が、波形であることを特徴とする請求項8に記載のオートテンショナ。
【請求項10】
前記摺動部が、吹き付け、塗布又は蒸着によって、前記基部の表面に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項11】
前記捩りコイルスプリングの前記他端部が、前記他端部以外の部分と異なる形状に形成されていることを特徴とする請求項2〜10の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項12】
前記収容部が、力が作用していない状態の前記捩りコイルスプリングの前記他端部の形状とは異なる形状に形成されていることを特徴とする請求項2〜11の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項13】
前記傾斜面が、前記可動部材の回動軸方向から見て円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項14】
対向する2つの前記傾斜面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材が介在していることを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項15】
前記ダンピング部材が、他の部材に前記軸心方向に隣接して配置されており、
対向する2つの前記傾斜面は、前記ダンピング部材が前記周方向の力を受けることによって、隣接する2つの前記ダンピング部材片が互いに逆向きに前記軸心方向に移動するように、前記軸心方向に対して傾斜して形成されているを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項16】
前記ダンピング部材と前記可動部材とが接する面の間に、摩擦抵抗を低減するための低摩擦材が介在していることを特徴とする請求項1〜15の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項17】
前記ダンピング部材の外周面、又は、前記筒部の内周面には、前記ダンピング部材と前記筒部との摺動により生じる摩耗粉を、前記ダンピング部材の外周面と前記筒部の内周面とが摺動する領域の外側の領域に排出するための排出溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜16の何れかに記載のオートテンショナ。
【請求項18】
前記排出溝が、
前記ダンピング部材の外周面、又は、前記筒部の内周面に沿って、スパイラル状、S字状、又は、前記軸心方向に交差する直線状に形成されていることを特徴とする請求項17に記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−7273(P2011−7273A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151874(P2009−151874)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(508030730)
【出願人】(508306750)
【Fターム(参考)】