説明

カムシャフト装置

【課題】 カムシャフトの回転トルクを低減することができるとともに、カムシャフトを支持する軸受が組み付けられる組み付け部の製造を容易に行うことができるカムシャフト装置を提供する。
【解決手段】 カムシャフト1を回転可能に支持する複数の軸受のうち、プーリPに最も近接する軸受を転がり軸受4とし、その他の軸受を滑り軸受3とする。転がり軸受4は、第1外輪軌道面51および当該第1外輪軌道面51を転動する複数の円筒ころ53を有するころ軸受部5と、ころ軸受部5に対して軸方向に隣接して配置されているとともに第2外輪軌道面61および当該第2外輪軌道面61を転動する複数の玉63を有する玉軸受部6とによって構成され、第1外輪軌道面51と第2外輪軌道面61とが、単一の外輪7の内周面7aに形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転に同期して回転駆動されるカムシャフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジンに用いられる従来のカムシャフト装置は、給排気用の弁を動作させるための複数のカムを有するカムシャフトを、複数の軸受によって回転可能に支持している(例えば、特許文献1参照)。この支持構造は、図3に示すように、全ての軸受を滑り軸受41とし、この滑り軸受41によってカムシャフト42の各カム43の間をそれぞれ支持している。
【0003】
従来の全ての軸受を滑り軸受としたカムシャフト装置は、滑り軸受を用いているので摩擦抵抗が大きくなるため、カムシャフトの回転トルクが増大し、エンジンの燃費性能が低下するという問題があった。この問題を解決するために、全ての軸受を転がり軸受にすることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−218817号公報
【特許文献2】特開2006−226183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カムシャフトを支持する軸受を全て転がり軸受としたカムシャフト装置では、各転がり軸受をエンジン側のシリンダヘッド等に組み付ける際に、同軸度が低いと、カムシャフトがスムーズに回転できなくなるので、各転がり軸受相互の同軸度を高く設定する必要がある。このため、シリンダヘッド等の組み付け部の加工精度を高くする必要があり、組み付け部の製造が困難になるという問題があった。
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、カムシャフトの回転トルクを低減することができるとともに、カムシャフトを支持する軸受が組み付けられる組み付け部の製造を容易に行うことができるカムシャフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明のカムシャフト装置は、軸方向に複数のカムを有するとともに、一端にプーリが取り付けられるカムシャフトと、前記カムシャフトをハウジングに対して回転可能に支持する複数の軸受と、を備えたカムシャフト装置であって、前記複数の軸受のうち、前記プーリに最も近接する軸受が転がり軸受で構成され、その他の軸受が滑り軸受で構成されており、前記転がり軸受は、第1外輪軌道面および当該第1外輪軌道面を転動する複数のころを有するころ軸受部と、前記ころ軸受部に対して軸方向に隣接して配置されているとともに第2外輪軌道面および当該第2外輪軌道面を転動する複数の玉を有する玉軸受部と、を備え、前記第1外輪軌道面と前記第2外輪軌道面とが、単一の外輪の内周に形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、カムシャフトを支持する複数の軸受のうち、プーリに最も近接する軸受を転がり軸受で構成したので、カムシャフトの中でもプーリを介して作用する最も大きな負荷荷重を、摩擦抵抗の小さい転がり軸受によって支持することができる。したがって、カムシャフトの回転トルクを効果的に低減することができる。
また、カムシャフトを支持するその他の軸受を滑り軸受で構成したので、従来の全て転がり軸受とした場合に比べて、軸受相互の同軸度を低く設定することができる。この結果、カムシャフトを支持する軸受が組み付けられる組み付け部(ハウジング)の加工精度を高くする必要がないため、組み付け部の製造を容易に行うことができる。
【0008】
さらに、転がり軸受は、ころ軸受部と玉軸受部とを有するため、ころ軸受部によって負荷容量を大きくすることができるとともに、カムシャフトの軸方向の移動を玉軸受部によって規制することができる。このため、上記負荷荷重に起因するカムシャフト装置の作動性能の低下を抑制することができる。しかも、ころ軸受部の外輪軌道面と、玉軸受部の外輪軌道面とを、単一の外輪の内周面に形成するようにしたので、部品点数を削減することができ、製造コストを低減することができる。
【0009】
また、前記カムシャフト装置は、前記カムシャフトの外周面に、前記ころ軸受部の前記ころが転動する第1内輪軌道面が形成されているとともに、前記玉軸受部の前記玉が転動する第2内輪軌道面が形成されていることが好ましい。
この場合、カムシャフトを転がり軸受の内輪として兼用することができるため、部品点数の削減が可能となり、製造コストをさらに低減することができる。
【0010】
また、前記カムシャフトは、シャフト本体と、当該シャフト本体の一端に同心に取り付けられているとともに前記プーリが取り付けられる軸部材とを有し、前記軸部材の外周面に、前記第1内輪軌道面および前記第2内輪軌道面が形成されていることが好ましい。
この場合、第1内輪軌道面および第2内輪軌道面を、カムシャフトのシャフト本体に軸部材を取り付ける前に、当該軸部材に形成することができるため、内輪軌道面の加工が容易となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カムシャフトの中でもプーリを介して作用する最も大きな負荷荷重を、摩擦抵抗の小さい転がり軸受によって支持することができるため、カムシャフトの回転トルクを効果的に低減することができる。また、従来の全て転がり軸受とした場合に比べて、カムシャフトを支持する軸受が組み付けられる組み付け部の加工精度を高くする必要がないため、組み付け部の製造を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るカムシャフト装置を示す一部断面図である。
【図2】図1の要部を示す拡大断面図である。
【図3】従来のカムシャフト装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るカムシャフト装置を示す一部断面図である。このカムシャフト装置Cは、自動車用エンジンの給排気弁を作動させるものであり、アルミ製ブロックからなるハウジングH(シリンダヘッド)に組み付けられている。カムシャフト装置Cは、複数のカム2を有するカムシャフト1と、カムシャフト1を回転可能に支持している複数(本実施形態では4個)の滑り軸受3および単一の転がり軸受4とを備えている。
【0014】
カムシャフト1は、直線状のシャフト本体11と、このシャフト本体11の一端部(図1の左側)に取り付けられた軸部材12と、シャフト本体11の外周に嵌合された複数の略卵形のカム2とを有している。この軸部材12は、その外径が例えば18〜20mmに設定されており、シャフト本体11の一端部に圧入されて同心に固定されている。軸部材12の端部には、カムシャフト1を回転させるためのプーリPがプーリ取付部13を介して取り付けられている。そして、プーリPは、出力軸であるクランクシャフト(図示せず)にベルト(図示せず)を介して連結されており、同クランクシャフトと同期して回転し、このプーリPを介してカムシャフト1に動力が伝達される。
【0015】
カム2は、一対で1組とされており、シャフト本体11の軸方向に沿って所定間隔毎に配設されている。カム2には、シャフト本体11の外周面11aに圧入嵌合するための貫通孔2aが形成されている。
【0016】
各滑り軸受3は、1組のカム2の間にそれぞれ配置されており、シャフト本体11を回転可能に支持している。各滑り軸受3は、円筒状に形成されており、その外周面3aがハウジングHの収容室内面に嵌め込まれて固定されている。また、各滑り軸受3の内周面3bには、シャフト本体11の外周面11aが油膜を介して摺接するようになっている。
【0017】
転がり軸受4は、プーリPに最も近接する軸受であって、カムシャフト1の軸部材12を回転可能に支持している。
図2は、転がり軸受4を示す図1の要部拡大図である。転がり軸受4は、単一の外輪7を有するとともに、ころ軸受部5および玉軸受部6が軸方向に分割して構成されている。
外輪7は、例えば軸受鋼やステンレス合金等によって円筒状に形成されており、その外周面7aは、ハウジングHの収容室内面に嵌め込まれて固定されている。
【0018】
ころ軸受部5は、外輪7側に形成された第1外輪軌道面51と、軸部材12側に形成された第1内輪軌道面52と、第1外輪軌道面51と第1内輪軌道面52との間に転動自在に配設された複数の円筒ころ53と、各円筒ころ53を円周方向に沿って所定間隔に保持する第1保持器54とによって、円筒ころ軸受を構成している。
【0019】
第1外輪軌道面51は、外輪7の内周面7bの略中央部から一端部側(図2の左側)に形成された段部7cに一体形成されている。第1内輪軌道面52は、第1外輪軌道面51に対向する軸部材12の外周面12aに一体形成されている。
円筒ころ53は、例えば軸受鋼やステンレス合金等によって形成されており、前記段部7cによって軸方向の一方側(図2の右側)への移動が規制されている。第1保持器54は、軸方向に離間して配置された一対の環状部54aと、この一対の環状部54aを連結する複数の柱部54bとを有している。隣接する柱部54b間と一対の環状部54aとによってポケット54cが円周方向に複数形成されている。このポケット54c内には、各円筒ころ53が配置され、円筒ころ53が円周方向に沿って所定間隔に保持されている。
【0020】
玉軸受部6は、ころ軸受部5に対してシャフト本体11側の軸方向に隣接して配置されている。また、玉軸受部6は、外輪7側に形成された第2外輪軌道面61と、軸部材12側に形成された第2内輪軌道面62と、第2外輪軌道面61と第2内輪軌道面62との間に転動自在に配設された複数の玉63と、各玉63を円周方向に沿って所定間隔に保持する第2保持器64とによって、深溝玉軸受を構成している。
【0021】
第2外輪軌道面61は、外輪7の内周面7bの略中央部から他端部側(図2の右側)に、断面円弧状に形成されている。第2内輪軌道面62は、第2外輪軌道面61に対向する軸部材12の外周面12aに断面円弧状に形成されている。
玉63は、例えば軸受鋼やステンレス合金等によって形成されている。第2保持器64は、樹脂成形された冠形保持器であり、軸方向に延びる複数の柱部64aによって、玉63を収容するためのポケット64bが円周方向に複数形成されている。
【0022】
ところで、カムシャフト1の中でも、特に動力が伝達されるプーリP近傍の部分は、ベルトテンションによる負荷荷重が大きくなる。この負荷加重は、カムシャフト1全体に作用する全負荷加重の約70%を占める。このため、転がり軸受4では、玉軸受部6の約3倍の負荷容量を有するころ軸受部5をプーリPに近接して配置している。これにより、カムシャフト1の中でも負荷加重の大きい部分を、負荷容量の大きいころ軸受部5によって安定して支持することができる。また、カムシャフト1は、玉軸受部6によって軸方向両側への移動が規制される。
【0023】
転がり軸受4は、外輪7と軸部材12との隙間を密封するためのシール部材8、9をさらに備えている。シール部材8、9は、合成ゴム等の弾性体から主に構成されており、外輪7の内周面7bの軸方向両端部にそれぞれ嵌合されている。シール部材8,9によって密封された空間Sには、グリース(図示せず)が封入されている。
これによって、前記空間Sにエンジンの潤滑油に含まれるカーボンスラッジや金属粉等の異物が侵入するのを抑制しつつ、ころ軸受部5および玉軸受部6を、前記空間Sに封入されたグリースによって確実に潤滑することができる。また、空間S内に封入されたグリースによって、ころ軸受部5および玉軸受部6から発生する騒音を低減することができる。
【0024】
以上のように構成された本実施形態のカムシャフト装置Cによれば、カムシャフト1を支持する複数の軸受のうち、プーリPに最も近接する軸受を転がり軸受4としたので、カムシャフト1の中でもプーリPを介して作用する最も大きな負荷荷重を、摩擦抵抗の小さい転がり軸受4によって支持することができる。したがって、カムシャフト1の回転トルクを効果的に低減することができる。しかも、カムシャフト1を支持するその他の軸受を滑り軸受3としたので、従来の全て転がり軸受とした場合に比べて、軸受相互の同軸度を低く設定することができる。これは、カムシャフト1を支持する軸受として滑り軸受3を用いる場合は、滑り軸受3の外周面3aとハウジングHとの間に僅かな隙間が形成されるので、各軸受相互の同軸度を低くしても、カムシャフト1を支障なく回転させることができるためである。この結果、カムシャフト1を支持する軸受が組み付けられる組み付け部(ハウジングH)の加工精度を高くする必要がないため、組み付け部の製造を容易に行うことができる。
また、転がり軸受4は、カムシャフト1端部の軸部材12に設けられているため、カム2がシャフト本体11に外嵌される組み立て式のカムシャフト1以外に、カム2とシャフト本体11とが一体的に鋳造されたカムシャフトにも適用することができる。
【0025】
さらに、転がり軸受4は、ころ軸受部5と玉軸受部6とを有するため、ころ軸受部5によって負荷容量を大きくすることができるとともに、カムシャフト1の軸方向の移動を玉軸受部6によって規制することができる。このため、上記負荷荷重に起因するカムシャフト装置Cの作動性能の低下を抑制することができる。しかも、ころ軸受部5の第1外輪軌道面51と、玉軸受部6の第2外輪軌道面61とを、単一の外輪7の内周面7bに形成するようにしたので、部品点数を削減することができ、製造コストを低減することができる。
【0026】
また、カムシャフト1の軸部材12の外周面12aに、ころ軸受部5の円筒ころ53が転動する第1内輪軌道面52と、玉軸受部6の玉63が転動する第2内輪軌道面62とが形成されているため、カムシャフト1をころ軸受部5および玉軸受部6の内輪として兼用することができるため、部品点数の削減が可能となり、製造コストをさらに低減することができる。また、第1および第2内輪軌道面52,53は、シャフト本体11に軸部材12を取り付ける前に、各内輪軌道面52,53を軸部材12に形成することができるため、各内輪軌道面52,53の加工が容易となる。
【0027】
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、上記実施形態では、カムシャフト1は、シャフト本体11とカム2とを別体としているが、上述のようにシャフト本体11とカム2とが一体的に鋳造されたものであってもよい。
また、ころ軸受部5は、円筒ころ軸受以外に、ニードル軸受として構成されていてもよい。
さらに、玉軸受部6は、深溝玉軸受以外に、取り付けスペースを確保できる場合にはアンギュラ玉軸受として構成されていてもよい。
また、ころ軸受部5および玉軸受部6の各内輪軌道面52、62は、軸部材12の外周面12aに形成されているが、軸部材12に別途取り付けた内輪の外周面に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1:カムシャフト、2:カム、3:滑り軸受(軸受)4:転がり軸受(軸受)5:ころ軸受部、6:玉軸受部、7:外輪、11:シャフト本体、12:軸部材、51:第1外輪軌道面、52:第1内輪軌道面、53:円筒ころ(ころ)、61:第2外輪軌道面、62:第2内輪軌道面、63:玉、C:カムシャフト装置、H:ハウジング、P:プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って所定間隔毎に複数のカムを有するとともに、一端にプーリが取り付けられるカムシャフトと、前記カムシャフトをハウジングに対して回転可能に支持する複数の軸受と、を備えたカムシャフト装置であって、
前記複数の軸受のうち、前記プーリに最も近接する軸受が転がり軸受で構成され、その他の軸受が滑り軸受で構成されており、
前記転がり軸受は、第1外輪軌道面および当該第1外輪軌道面を転動する複数のころを有するころ軸受部と、前記ころ軸受部に対して軸方向に隣接して配置されているとともに第2外輪軌道面および当該第2外輪軌道面を転動する複数の玉を有する玉軸受部と、を備え、
前記第1外輪軌道面と前記第2外輪軌道面とが、単一の外輪の内周に形成されていることを特徴するカムシャフト装置。
【請求項2】
前記カムシャフトの外周面に、前記ころ軸受部の前記ころが転動する第1内輪軌道面が形成されているとともに、前記玉軸受部の前記玉が転動する第2内輪軌道面が形成されている請求項1に記載のカムシャフト装置。
【請求項3】
前記カムシャフトは、シャフト本体と、当該シャフト本体の一端に同心に取り付けられているとともに前記プーリが取り付けられる軸部材とを有し、
前記軸部材の外周面に、前記第1内輪軌道面および前記第2内輪軌道面が形成されている請求項2に記載のカムシャフト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99342(P2011−99342A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253123(P2009−253123)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】