説明

カーボン粉粒複合樹脂の成形方法

【課題】以下に示す事項を目的とするカーボン粉粒複合樹脂の成形方法を提供する。
(1)射出成形金型の鍋状成形品の底面中央に相当する部位の内型表面において、黒鉛粉粒の固着や金型の摩耗による意匠性の低下、成形品層内におけるクラック発生や物性低下を回避する。
(2)ゲート近傍における反応遅延に起因する応力残留に伴うクラック発生や衝撃強度の低下を抑止する。
【解決手段】カーボン粉粒複合樹脂の成形方法は、内在するロッドの上死点近傍外壁の接点位置にゲート1を設けた吐出管4を、鍋状成形品の底面中央外壁の相当部分に配した金型10を用い、カーボン粉粒とフェノール樹脂を主体として成る成形材料を注入して加熱・加圧による賦形方法であって、射出直後にロッドを降下させて加圧させた後、圧力を解放、さらに回復させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱が可能な炊飯釜などに使用するカーボン粉粒複合樹脂の成形方法に関する。カーボン粉粒と高炭素含有物質である結合材を主体とするカーボン粉粒複合樹脂の射出成形に用いる金型構造に特徴があるものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱コイルの渦電流による電磁誘導加熱を利用したコンロや炊飯器は、磁性金属にアルミニウムや銅などの高熱伝導金属を積層したクラッド材の成形品が主流である。しかし、クラッド材は、鍋や釜などの形状に加工することが困難であるうえ、フッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面との界面で剥離し易いという課題があった。
【0003】
このため、従来の電磁誘導加熱の素材に代えて、優れた導電性と伝導度を有するカーボン凝結体の使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、コークスなどのカーボン粉粒と結合材であるフェノールやピッチなどの高炭素含有物との混合物を棒柱状に加圧して成型したものを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱して得たカーボン凝結体とし、これを炊飯釜などの調理器具に切削加工したものが、高温での調理器具として有効であることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上述の調理器具の製造方法によれば、カーボン焼結体を切削加工の大半を占める凹状容器の中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。さらに、カーボン圧縮体の欠陥の内在を事前に検知することが困難なうえ、切削によって露出するなどによって意匠および強度などに悪影響を及ぼし、使用できないこともあった。
【0006】
これらの課題を解決する手段として、カーボンの粉粒とフェノール樹脂の原料液やタールピッチなどの結合材との混合物である成形材料を金型内に注入して加圧して賦型した後、得られた成形品を焼成処理することにより、鍋状に成形されたカーボン凝結体を得る手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかし、電磁誘導加熱が可能な調理器具として使用するうえで必要な強度、電気伝導、熱伝導に優れた特性を備えたカーボン凝結体成形品を得るためには、成形材料のフェノール樹脂含有量を少なくすることが必須である。反面、カーボン粉粒表面が十分な濡れを有しないために凝集し易く、見掛けの粘度が向上して流動性が低下すると共に、流動の先端が合流するウエルド部分は剛直な筋状として意匠上の欠陥が認められ、強度の低下とともに成形品の壁面としての均質性が喪失し易いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開平9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−44257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の如く、ウエルドを形成することなしに射出成形による炊飯釜の成形を行うには、炊飯釜の上部にあるフランジの外周に成形材料が同時に到達する流動形態を確保することが肝要で、成形品の底面中央部分にゲートを設けることが最も好適である。しかし、ゲートから吐出した成形材料は、ゲートに相対する成形品内壁面を形成する内金型表面に衝突して乱流を生じ、成形品の当該部分の色や光沢に変調を来す。また、衝突速度を緩和する大口径のゲートを設けた場合には、ゲート切断部分の処理に多くの手間を要するほか、金型内でのゲート切断の負荷を受けて成形品壁内に亀裂発生を来す、という不具合を生じる。
【0010】
また、ゲートが位置する底面中央部では、金型温度より低温度の溶融状態を成す成形材料が下金型に衝突して冷却した局部に最終の充填物が滞留するので、周辺部より反応が遅延して硬化収縮によって発生する引張応力が集中して内部応力を蓄積し、クラックの発生や物性の極端な低下を招く、という課題を有していた。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、以下に示す事項を目的とするカーボン粉粒複合樹脂の成形方法を提供する。
(1)射出成形金型の鍋状成形品の底面中央に相当する部位の内型表面において、黒鉛粉粒の固着や金型の摩耗による意匠性の低下、成形品層内におけるクラック発生や物性低下を回避する。
(2)ゲート近傍における反応遅延に起因する応力残留に伴うクラック発生や衝撃強度の低下を抑止する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るカーボン粉粒複合樹脂の成形方法は、内在するロッドの上死点近傍外壁の接点位置にゲートを設けた吐出管を、鍋状成形品の底面中央外壁の相当部分に配した金型を用い、カーボン粉粒とフェノール樹脂を主体として成る成形材料を注入して加熱・加圧による賦形方法であって、
射出直後にロッドを降下させて加圧させた後、圧力を解放、さらに回復させるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るカーボン粉粒複合樹脂の成形方法は、射出直後にロッドを降下させて加圧させた後、圧力を解放、さらに回復させるようにしたので、成形品の底面中央部における反応遅延に起因した低温の成形材料を分散するとともに、当該部分の収縮挙動を圧縮応力の付加によって面方向の引っ張り歪みの発生が低減した。それにより、クラック発生や衝撃強度の低下を抑止して、射出成形品の黒鉛粒子同士の当接部分における変形が本来の形状に戻されながら密な充填状態を確保して成形品の均質化を達成できた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1を示す図で、成形金型10の概念断面図。
【図2】実施の形態1を示す図で、炊飯釜の底面中央部における落球衝撃強度の比較結果を示す図。
【図3】比較のために示す図で、従来の成形金型110(ゲート101近傍)の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、この発明を実施するための形態の一例を説明する。本実施の形態は、カーボン粉粒複合樹脂の成形方法(ゲート遮断と圧縮機能を備えた射出成形ゲートの構造)に関する。先ず、実施の形態1の概要について説明する。
【0016】
黒鉛粉粒の含有率が高いフェノール樹脂との混合物を用いてL/Tの大きな薄肉成形品の射出成形を行う際に、前記混合物である成形材料の粘度が極めて高く、流動性に劣るために成形品の密度分布が大きい、という課題を有する。特に、炊飯釜のような鍋状の成形品では、ウエルド部分の強度低下と過度な残留応力の抑制に加え、金型充填後の圧力分布に依存した二次流動に起因する成形品外観の意匠性損失を抑止するために、成形材料の金型内における流動制御が必須である。このため、成形材料には成形機(成形金型)内で滞留による流動粘度の過度な上昇を抑制しうる好適な反応速度を備える。
【0017】
しかし、炊飯釜はL/Tが大きいうえに薄肉成形品であるため、ウエルドを形成しないフランジ全周に成形材料が同時に到達するよう、底面中央部に設置したゲートから射出する成形手段の採用が必須となる。しかし、従来のゲート形状では、吐出した成形材料が相対する内壁面に衝突して局部的に乱流を生じさせるため、当該部分の表面粗度に変調を来して外観意匠を悪化させる。これを避けるためのゲート口径を拡大したゲートの適用は、金型内でのゲート切断の際に過度な負荷を受けた成形品の内層部分に亀裂が発生するほか、残痕除去処理に多くの手間を要するという不具合を生じる。
【0018】
尚、L/Tは、一定の厚みの平面部を有し、この平面部の厚みをTとし、ゲートから最も離れた該平面部の末端と該ゲート間の距離をLとしたときの両者の比を言う。
【0019】
また、ゲートが位置する底面中央部では、金型温度より低温の成形材料が衝突する底部中央内面部分が局部的に冷却されるとともに最終の充填物が滞留するので、周辺各部より反応遅延に伴う硬化収縮の引張応力が集中して引っ張り応力が集中し、クラックの発生や物性の極端な低下を招く、という課題を有していた。
【0020】
フェノール樹脂に黒鉛粉粒を高い含有率で混合した成形材料を用いた射出成形品を焼成処理して得る誘電加熱の発熱効率が高いカーボン凝結成形品を得る成形金型において、前記成形材料の吐出位置に相当する成形品の底部中央相当位置に、以下に示す構造を備えたゲートを設けて上記課題を解消する。
【0021】
つまり、金型キャビティに成形材料を低速で充填すると供に一時的に保持して加温することによって金型温度に近似させ、これを流入させて最終充填位置にある成形材料を底部中央位置から排除する。さらに、該部分を中心に加圧することによって強度の向上を達成させるようにした。
【0022】
上記目的を達成させるため、射出成形用金型は、成形材料が金型に充填を開始する底面中央部分にロッドを内蔵する円筒状の吐出管を設けて成り、前記吐出管上部の吐出管接点位置に設けたゲートから成形材料を吐出管内壁を周回するように吐出して、吐出管を経て金型キャビティ内を充填するようにした。この結果、吐出管からキャビティ内への流入速度を大幅に抑制すると共に、吐出完了後に残留して加温された前記成形材料を、ロッドを降下させることによって金型キャビティに押し出して底部中央位置にある低温の成形材料を排除するとともに、成形品に圧力を付加するようにした。
【0023】
さらに、上述の圧力付加段階で、ロッドには圧力の付加と解放を繰り返して、高い含有率を備えた黒鉛粒の端辺同士が当接して過度に歪みを備えた状態で保持することを回避した。
【0024】
以上、一連の金型駆動を含む成形材料の射出完了から硬化完了まで、金型と吐出管は保持圧と温度を保持し、この段階が完了した後に金型を開放して射出成形品を取り出すことになる。
【0025】
炊飯釜内面中央部に相当する部位で内金型(下金型)面における黒鉛粉粒の固着や金型の摩耗による意匠性の低下、残存する歪みの解放によるクラック発生または前記歪みに基づく残留応力による物性低下を回避できた。
【0026】
一方、射出直後に高温保持した吐出管の加圧と解放を繰り返しながら成形材料を排出したので当該部分に滞留している比較的低温で他の部位に比較して反応が遅延して硬化収縮に伴う歪みが集中し易い成形材料を排除、分散させたので、クラックの発生や衝撃強度低下を抑制し、射出成形品の黒鉛粒子の鋭角な角の当接を回避して安定した当接状態を確保して密な充填状態を確保するので、成形品の均質化を達成することができた。
【0027】
射出成形によって鍋状の成形品を得る手段であって、黒鉛粉粒と結合材であるフェノール樹脂との混合物が原料である成形材料を用いた鍋状の成形品である炊飯器の内釜成形品を、無酸素雰囲気下で焼成処理して得る電磁誘導加熱調理器の製造方法について、以下に詳述する。
【0028】
成形材料は、石油コークスを無酸素状態の高温(3000℃)で焼成処理して0.1mm以下に粉砕した黒鉛粉粒、水で希釈したフェノール、界面活性剤として第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤を加え、任意温度下で黒鉛粉粒が均一分散するように撹拌しながらホルムアルデヒドを添加して重合させたものである。
【0029】
反応時の温度と時間を調整して任意重合度を成す半硬化フェノール樹脂が、カーボン粉粒物の表面に25wt%の被覆量になるようしたものであり、得られた成形材料Aは40℃以下の低温で減圧乾燥処理を行った。
【0030】
界面活性剤には、例えば、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とポリイオンコンプレックスを形成したものを用いる。
【0031】
尚、成形材料は、フェノール樹脂より分解開始温度が低く、焼成段階でカーボン残存率が少ない有機繊維を混合して用いるものでもよい。
【0032】
以上の方法によって得られた未硬化状態のフェノール樹脂は、カーボン粉粒物の表面がフェノール樹脂を重合する原料液で常に濡れた状態で重合したので、カーボン粉粒の外周面に膜として保持されて成る粒状の成形用原料として得た。
【0033】
また、比較例として、上述の黒鉛粉粒とノボラック系フェノール樹脂との混合物を、75:25の割合で混合したものを用いた。混合物は、フェノール樹脂をアルコールなどに溶かし、混練機内で黒鉛に噴霧しながら混練した後、乾燥することによって得た成形材料Bを用いた。
【0034】
また、黒鉛粉粒には多くの微粉末を含んでいるうえ、破砕によって形成した鋭角な端辺が当接して固着し易いので、射出成形機内の回転するスクリューの溝内で混練する際に凝集してスクリュー内に滞留し、計量が困難な状況に陥る。このため、黒鉛粉粒は、100〜300μmに粒径を揃えたものを用いることにより、前記課題の解消が可能となる。
【0035】
次に、該成形用原料(成形材料A並びに成形材料B)をシリンダー温度が60℃、ノズル温度が110℃、金型温度が165℃の射出成形条件にて金型外周面に設けたゲート部(ゲート)から射出して加圧し、3分間の硬化時間として保持後に脱型して、成形品(本実施の形態、比較例)を得た。
【0036】
このとき、低融点のフェノール樹脂と混合した成形材料Bの射出時圧力が10.5Mpaであったのに対し、本実施の形態に係る成形材料Aは、7.5MPaの低圧で金型充填を完了した。これは、成形材料Aが金型内を流動する際に、黒鉛粉粒表面に未硬化のフェノール樹脂を被覆したことによって、黒鉛粉粒が破砕により形成した鋭角な端辺が丸みを帯びて、前記フェノール樹脂の溶融とともに流動に伴う圧力によって凝集し難いので、流動性が向上したことによる。
【0037】
図3は比較のために示す図で、従来の成形金型110(ゲート101近傍)の概念図である。射出成形機(成形金型)内で溶融した成形材料は、内釜成形品を賦形する金型キャビティ内を充填する。このとき、炊飯器内釜を成形する成形材料を金型キャビティ内に充填する底面中央位置における従来の成形金型110の構造は、図3に示すとおりである。
【0038】
従来の成形金型110は、上金型107表面にゲート101を配して吐出する構造であるが、ゲート101から吐出した成形材料は高速で下金型106の下金型内壁面106aに衝突した後、金型キャビティ103内を流動することになる。
【0039】
そのため、従来の成形金型110では、ゲート101から吐出した成形材料は、ゲート101に相対する成形品内壁面を形成する下金型内壁面106aに衝突して乱流を生じ、成形品の当該部分の色や光沢に変調を来す。
【0040】
また、ゲート101が位置する底面中央部では、金型温度より低温度の溶融状態を成す成形材料が下金型106に衝突して冷却した局部に最終の充填物が滞留するので、周辺部より反応が遅延して硬化収縮によって発生する引張応力が集中して内部応力を蓄積し、クラックの発生や物性の極端な低下を招く、という課題を有していた。
【0041】
図1は実施の形態1を示す図で、成形金型10の概念断面図である。成形金型10(射出成形用金型)は、成形材料が金型に充填を開始する底面中央部分に進退自在なロッド5を内蔵する円筒状の吐出管4(内在するロッド5の上死点近傍外壁の接点位置にゲート1を設けた吐出管)を上金型7に設けて成り、吐出管4上部に設けたゲート1から成形材料を吐出管内壁を周回するようにして吐出して、吐出管4内部を充填した後に金型キャビティ3(上金型7と下金型6との間)内を充填するようにした。尚、吐出管4に設けたゲート1は、成形材料を吐出管4の外周に沿って斜め上方向に吐出する構成であることが好ましい。
【0042】
本実施の形態に基づく図1の成形金型10の概念断面図で示す構造を成したゲート1から吐出する成形材料は、本発明の一つである、「吐出管に設けたゲートが、成形材料を吐出管の外周に沿って斜め上方向に成形材料を吐出する」に基づいて、吐出管4の内壁に沿って回転しながら上昇する。この吐出の態様を得たことにより、高速で吐出した成形材料が吐出管4内で壁面に衝突して乱流を来す現象が回避できるので、気泡を混入した状態で金型キャビティ3内へ流入して成形品内への残留を回避するので、後段の焼成段階でフクレや亀裂の発生を抑止することができる。
【0043】
さらに、成形材料は吐出管4内を埋めた後、炊飯釜の底面中央部に相当する位置の内型に極めて遅い速度で流入して金型キャビティ3内を充填することになるので、従来のゲート101で発生していた「ゲート101に相対する成形品内壁面を形成する下金型内壁面106aに衝突して乱流を生じ、成形品の当該部分の色や光沢に変調を来す」という課題を回避することができる。
【0044】
成形材料の射出が完了した段階で、吐出管4内のロッド5を降下させて、吐出管4内に残留する成形材料を押し出す。この吐出管4内にあるロッド5の降下は、定圧を付与して降下させた場合、黒鉛を粉砕して得た粉粒が備える鋭角な端辺が高い吐出圧を受けて当接する部位が多く存在して、該部分が大きな圧縮歪みを保持することになる。この結果、得られた成形品は、焼成過程などで受ける高温雰囲気で結合材であるフェノール樹脂の保持力が低下するので、ひずみを解放する膨張挙動を来す。前記膨張挙動は、黒鉛粉粒周辺の限られた部位に集中するので、微細な亀裂が発生しやすく、フェノール樹脂の重合時の副生成物である水蒸気や未反応の低分子量原料の残留物が前記微細亀裂に集中して、気泡を形成してフクレを発生させる、という課題を生む。
【0045】
前記課題を解決する手段として、本発明の一つである、「ロッドによる金型の一次保持圧での回復と解放が、成形材料のゲル化直前まで繰り返し行った後、二次圧の付加を製品取り出しによる金型開放時まで維持する」に基づいた手段であって、成形材料のゲル化開始以前に保持圧の解放と回復を繰り返し行うことにより解消できる。つまり、吐出圧を受けて黒鉛粒子の端辺が当接する部位の圧縮変形を、金型保持圧の解放によって解消して黒鉛粉粒の微小移動が可能な状態とし、保持圧の回復によって安定した当接状態が得られる位置に微小移動を行う。
【0046】
この微小移動は、成形温度の165℃の雰囲気下で成形材料の粘度が急激に上昇するゲル化時間の85秒に近い吐出完了から70秒経過後まで、ロッド5が僅かに降下する射出圧力よりも高い10MPa加圧力(一次保持圧)をロッド5に付与して1〜2秒間の保持をした後、本発明の一つである、「吐出管に内在したロッド降下後の一次保持圧の解放が、ロッドを駆動させない状態で行う」に基づいて、ロッド5を上昇による外気侵入や成形品壁内が変態することのないよう、油圧のみを排除して1〜2秒間の保持を行う工程を繰り返し行った。
【0047】
この一次保持圧の解放時に黒鉛粒子の微小な移動を可能とした後、前記保持圧の回復によって黒鉛粉粒が相互に安定した当接状態を備えることを可能とし、この繰り返しによって安定した当接状態が確保できるものである。この結果、結合材であるフェノール樹脂がガラス転移温度(Tg)以上の加熱温度を経過する焼成過程や成形後の加熱処理などの高温雰囲気下における強度の大幅な低下を来す状態で発生する歪みの解放挙動に起因した微細な亀裂発生と、前記微細亀裂にガスが集中して生じるフクレの発生を抑制することができた。
【0048】
さらに、結合材であるフェノール樹脂がゲル化に伴う硬化収縮を来たし、前記フェノール樹脂に引っ張り応力を付与して内部に残留する。この残留応力は、フェノール樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の加熱温度を経過する焼成過程や成形後の加熱処理などの高温雰囲気下で、成形品壁面に亀裂を発生させて解放する挙動を備えることになる。
【0049】
特に、成形材料が急激に流動方向を変化させる吐出管4直下では、常に金型よりも十分に低い温度の成形材料が集中して流入する。例えば、射出された成形材料の温度は110℃程度であって、165℃に加温した金型表面温度を低下させるうえ、最後に流入した成形材料の温度は、他の部位、例えば側壁部などにある成形材料の温度に比較して、流動中に金型からの加温されること無しに滞留することになるので、当該部位における成形材料の反応は、他の部位より遅延することになり、収縮に伴う応力が集中しやすい状態を醸し出して歪みが残留するほか、微細クラックの発生を来すこともあった。
【0050】
しかし、上述したロッドの降下と圧力の解放の繰り返し後の本発明の一つである、「二次保持圧の付加を製品取り出しによる金型解放時まで維持する」に基づくロッド5への35MPaの圧力保持は、成形材料の流動方向が急激に変化する吐出管4直下で成形品壁内に発生する応力を補足し、亀裂発生の抑止に寄与する。
【0051】
また、吐出管4を設けて、内部に備えるロッド5の降下に伴って押し出された成形材料は、射出完了降下までの時間に加温され、吐出管4直下に滞留した成形材料を排除して置き換わるので、反応の遅延を抑制して硬化収縮に伴って発生する応力の集中を抑制することができる。
【0052】
得られた成形品は、無酸素状態で1000℃の雰囲気下に放置してフェノール樹脂を炭化させ、カーボン凝結体の成形品を得る。このとき、焼成処理によって発生するフェノール樹脂の分解ガスが当該成形品の内部から円滑に放散するよう、フェノール樹脂の分解が活発になって急激な重量減少を来す350℃と500℃、800℃の近傍で緩い温度上昇と保持を行う。本実施の形態では、300℃迄を0.5℃/minで昇温した後に5時間保持し、さらに5℃/hr で450℃、1℃/hrで500℃に到達後に5時間の保持、750℃迄を5℃/hr、800℃迄を2℃/hrで到達後に3時間の保持、その後、0.5℃/minで1000℃に到達させて2時間の保持を行った。その後、室温まで5℃/min以下の速度で冷却し、炊飯釜の凝結体成形品を得た。
【0053】
このとき、フェノール樹脂の含有率が高く、粒子間に形成された空隙内を充填する成形材料を使用する場合は、焼成処理によってカーボンの残存が極めて少ないアクリルなどの有機繊維を混合して用いることが有効である。これら繊維は、フェノール樹脂に先行して熱分解が開始するので、無数の気孔を形成して、樹脂に分解起因したガスの放出が容易となる。また焼成処理時の昇温速度を促進できるので、成形品内部に分解ガスが僅かな空隙に滞留して膨張、成形品の表面を鱗片状に破壊する亀裂の形成抑止に有効であるほか、従来の昇温と保持時間を大幅に縮減することができる。具体的には、750℃迄を5℃/hr、800℃迄を2℃/hrで到達後に3時間保持、その後、0.5℃/minで1000℃に到達後に2時間保持、で行っても欠陥の発生を生じることなく、約2日間の焼成時間短縮を達成した。
【0054】
次に、炊飯釜としての使用には、凝結体成形品の外面には耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコーン樹脂を、内面には調理具材の密着防止を目的にフッ素樹脂を、各々、吹付けて塗装を施した。表面に吹付けた塗料は、凝結体の粒子間で形成された空隙内を充填する含浸によるアンカー効果によって、強固な塗膜密着性が得られる。
【0055】
図2は実施の形態1を示す図で、炊飯釜の底面中央部における落球衝撃強度の比較結果を示す図である。本実施の形態の上述手段によって得た炊飯釜のカーボン凝結体成形品の吐出管4またはゲート1近傍である底面中央に150gの鋼球を落下して、クラックを発生することなしに耐えうる最大高さで示した衝撃強度の極端な低下の抑止効果を備えたことが、図2に示す落球衝撃強度の測定結果から確認できた。
【0056】
図2に示すように、落球衝撃強度の測定に供した試料は、比較例が二種類(#1、#2)、本実施の形態が四種類(#1〜#4)である。最も優れた本実施の形態の#4(焼成後にクラックの発生がなく、落球衝撃強度が50cmでも割れないもの)を基準にして、他の試料の測定結果を説明する。
(1)比較例の#1は、成形材料が本実施の形態の#4と異なるため(比較例の#1は成形材料B、本実施の形態の#4は成形材料A)、炊飯釜(カーボン凝結体成形品)に焼成後にクラックが発生するとともに、落球衝撃強度が、10cmで既に割れた。
(2)比較例の#2は、成形材料は成形材料Aであるが、吐出管4による加圧を行わないものである。そのため、炊飯釜(カーボン凝結体成形品)に焼成後にクラックが発生するとともに、落球衝撃強度が、10cmで既に割れた。
(3)本実施の形態の#1は、本実施の形態の#4と比較すると、圧力の解放と回復を行わないものである。しかし、炊飯釜(カーボン凝結体成形品)に焼成後にクラックが発生することなく、落球衝撃強度が、30cmでは割れたが、25cmでは割れなかった。比較例(#1、#2)に対して、優れていることが解る。
(4)本実施の形態の#2は、本実施の形態の#4と比較すると、圧力解放時のロッド5駆動による成形材料を金型内に追加投入する挙動が有で、上記挙動のゲル化直前迄の継続実施を行わないものである。本実施の形態の#2は、効果はあるものの、本実施の形態の中では最も特性が悪い。圧力解放時にロッド5駆動を行わないこと、上記挙動のゲル化直前迄の継続実施が効果を奏していることが解る。
(5)本実施の形態の#3は、本実施の形態の#4と比較すると、ゲル化後の加圧維持を行わないものである。落球衝撃強度が、本実施の形態の#4の50cm(割れない最大値)に対して、本実施の形態の#3は25cm(割れない最大値)であった。
【0057】
以上の工程を経て得た炊飯釜は、炊飯器に内蔵され、誘電加熱の適正制御を得て炊飯に供する際に係る負荷、例えば、調理道具の落下を想定した衝撃強度などに十分耐えうる耐性を保持するとともに、従来の黒鉛ブロックからの切削加工品に比較して大幅な工数短縮を達成するとともに、安定した製造と品質の確保を可能とした。
【0058】
なお、本実施の形態では吐出管4内に設けたゲート1構造を、本発明の一つである、「成形材料を吐出管の外周に沿った斜め上方向に成形材料を吐出する」ようにしたが、これに替えて、対向するゲート1から成形材料を上方に向けて吐出する手段を用いてもよい。しかし、対向位置から吐出した成形材料を衝突させて相互の流速を相殺して気泡の混入を抑制するように配慮することが肝要となる。
【符号の説明】
【0059】
1 ゲート、3 金型キャビティ、4 吐出管、5 ロッド、6 下金型、7 上金型、8 吐出管側ランナー、9 金型側ランナー、10 成形金型、101 ゲート、103 金型キャビティ、106 下金型、106a 下金型内壁面、107 上金型、110 成形金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内在するロッドの上死点近傍外壁の接点位置にゲートを設けた吐出管を、鍋状成形品の底面中央外壁の相当部分に配した金型を用い、カーボン粉粒とフェノール樹脂を主体として成る成形材料を注入して加熱・加圧による賦形方法であって、
射出直後に前記ロッドを降下させて加圧させた後、前記圧力を解放、さらに回復させるようにしたことを特徴とするカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項2】
前記吐出管に設けた前記ゲートが、成形材料を前記吐出管の外周に沿った斜め上方向に成形材料を吐出することを特徴とする請求項1に記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項3】
前記吐出管に内在した前記ロッド降下後の一次保持圧の解放が、前記ロッドを駆動させない状態で行うことを特徴とする請求項1に記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項4】
前記ロッドによる金型の一次保持圧での回復と解放が、成形材料のゲル化直前まで繰り返し行った後、二次保持圧の付加を製品取り出しによる金型開放時まで維持することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項5】
前記一次保持圧が射出圧力よりも高く、前記二次保持圧よりも十分に低い状態で前記ロッドの降下による圧縮挙動を伴う状態で行うことを特徴とする請求項4に記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項6】
前記成形材料が、フェノール基を含む化合物とアルデヒド基を含む化合物を界面活性剤の存在下の水中で重合したフェノール樹脂未硬化物を被覆したカーボン粉粒と、成形温度で液状を成すフェノール樹脂と、の混合物を用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、高分子電解質挙動を示して重合過程のフェノール樹脂とポリイオンコンプレックスを形成したものを用いることを特徴とする請求項6に記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。
【請求項8】
前記成形材料が、フェノール樹脂より分解開始温度が低く、焼成段階でカーボン残存率が少ない有機繊維を混合して用いることを特徴とする請求項6に記載のカーボン粉粒複合樹脂の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−240611(P2011−240611A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114992(P2010−114992)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】