説明

ガスクラスターイオンビーム装置

【課題】 スキマーとイオン化器との間の異常放電を容易に防止することができるガスクラスターイオンビーム装置を提供する。
【解決手段】 ガスクラスターイオンビーム装置は、ノズル1からガスを導入させてガスクラスターを生成させるクラスター生成室2と、隔壁18によってクラスター生成室2から分離され、ガスクラスターが隔壁18に設けられたスキマー4を通して供給されるプロセス室15とを有している。プロセス室15には、プロセス室15内に導入されたガスクラスターをイオン化するイオン化器5と、イオン化器5でイオン化されたガスクラスターを加速させてガスクラスターを被処理物である基板8に照射させる電極群7とが備えられている。ノズル1とスキマー4を接地電位にし、スキマー4とイオン化器5との電位差をクラスターイオンの基板8への照射エネルギーより小さくしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビーム装置に関し、特に、スキマーとイオン化器間における異常放電の防止機構を有するガスクラスターイオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクラスターイオンビーム装置は、気体分子の凝集により生じたクラスターをイオン化、加速して、被加工面へ照射する装置である。
【0003】
図6に従来の一般的なガスクラスターイオンビーム装置の構成を示す。クラスター生成室2内をクラスター生成室排気系3とプロセス室排気系16とを用いた差動排気によって減圧し、クラスター生成室2内に設置されたノズル1を通してクラスター生成室2内に気体を導入すると、その気体が断熱膨張による冷却によって凝集し、ビーム状のクラスターが形成される。クラスター生成室2とプロセス室15とを隔てる隔壁には、このクラスタービームからクラスターを形成していない気体分子を衝撃波を起こすことなく分離し、さらにプロセス室15内の圧力を低くするために用いられるスキマー4が構成されている。ノズル1、クラスター生成室2、およびスキマー4は接地されており、それらの電位は0Vである。
【0004】
スキマー4により分離されたクラスターはプロセス室15内に導入され、イオン化器5によってイオン化される。イオン化器106では電子源107の熱フィラメントやプラズマから電子を引き出しクラスターに衝突させ、これによりクラスターをイオン化する。
【0005】
電子との衝突によりイオン化されて正に帯電したクラスターは、イオン化器5とステージ9上の基板8との間に設置され、イオン化器5よりも低い電圧が印加された電極群7によって引き出される。イオン化器5はイオン化器電源12によってプラス電位に保たれ、電極群7の各電極は電極群電源13によってマイナス電位に保たれている。つまり、クラスターイオンビームをイオン化器5から引き出して基板8へ輸送するために、イオン化器5は電極群7よりも数十kV程度高い電位に保たれている必要がある。このようなイオン化器に印加する電圧に関して、特許文献1においては30kVまで印加することが示されており、特許文献2においては150kVまで印加することが示されている。このとき、接地されているスキマー4とイオン化器5との間には、電極群7とイオン化器5との間の電位差よりもさらに大きな電位差が発生している。前述のようにイオン化器5から引き出されたクラスターは、後段の電極群7によって、加速、ビームの集束およびクラスターサイズの分離が行われた後、基板8へ照射される。一般にこのクラスターイオンの基板8への照射エネルギーはスキマー4とイオン化器5の間の電位差に等しい。
【0006】
このようにイオン化されたクラスターを照射するプロセスでは、従来のイオンビーム技術にはないこのプロセス特有の特徴を生かした効果が得られる。例えば、少ない電流で大量の原子を照射するため大きな加工速度が得られること、照射面に対して平行なスパッタリングであるラテラルスパッタ効果により照射面を超平坦面に形成できること、一原子あたりのエネルギーが小さいため被加工面への照射ダメージが少ないこと、等の効果を得ることができる。そのため、このプロセスは、エッチング、表面平坦化加工、クリーニング、表面改質、イオン注入、成膜など、多くの用途において応用が期待されている。
【特許文献1】特表2003−505867号公報
【特許文献2】特開平9−41138号公報
【非特許文献1】I. Yamada et al, Material Science and Engneering, R34(2001) P.231-295
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術では、ビーム状の局所的に高濃度の気体がスキマーからプロセス室へ導入されること、スキマーは接地されて0Vの電位である一方でイオン化器はクラスターイオンを加速するために数十kVの電位に保たれていること、さらに、スキマーやイオン化器が導体で作製されていることから、スキマーとイオン化器との間では直流の電位差による異常放電が生じやすいという欠点があった。なお、異常放電の発生は、スキマー側へ漏れ出たクラスターイオンが、スキマーとイオン化器の間の大きな電位差でスキマーやその周辺の構造物に引き寄せられ衝突し、その衝撃により二次電子が発生することが原因と考えられる。
【0008】
また、非特許文献1においては、ノズル、スキマー、イオン化器に数十kVの電位を印加し同電位とすることで、スキマーとイオン化器間の放電を防止することが可能であることが開示されている。しかし、この場合はプロセスガスの配管およびクラスター生成室とクラスター生成室排気系の間での絶縁が必要となったり、スキマーとイオン化器の間以外の別の箇所で異常放電が起こりやすくなるといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑み、ガス流量、圧力などのプロセス条件や、スキマーやイオン化器などのチャンバー構造を大きく変更することなくスキマーとイオン化器との間の異常放電を容易に防止することができるガスクラスターイオンビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、ノズルからガスを導入させてガスクラスターを生成させるクラスター生成室と、隔壁によって前記クラスター生成室から分離され、前記ガスクラスターが前記隔壁に設けられたスキマーを通して供給されるプロセス室と、を有し、前記プロセス室には、前記プロセス室内に前記スキマーから導入された前記ガスクラスターをイオン化するイオン化器と、該イオン化器でイオン化された前記ガスクラスターを加速させて被処理物に照射させる電極群と、が備えられており、前記ノズルと前記スキマーがともに第1の電位に設定され、前記電極群の電位が前記イオン化器の電位よりも低い第2の電位に設定されているガスクラスターイオンビーム装置において、前記スキマーと前記イオン化器との電位差が、前記被処理物に照射されるガスクラスターイオンの照射エネルギーより小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スキマーとイオン化器の間の電位差が小さくなるので、スキマーとイオン化器の間での異常放電を防止することができる。また、スキマーとイオン化器の間の電位差が小さいことで、これらの距離を近づけることが可能となるので、イオンビームの強度を増加でき、処理速度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。但し、図6に示した装置の構成部品と同一のものには同一符号を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明のガスクラスターイオンビーム装置の一実施形態を示す概略図である。
【0014】
本実施形態のガスクラスターイオンビーム装置も、図6に示した従来の構成と同様に、隔壁18で隔てられたクラスター生成室2とプロセス室15とを有している。クラスター生成室2およびプロセス室15にはクラスター生成室排気系3とプロセス室排気系16がそれぞれ設けられており、各々の内部を真空排気することができるようになっている。
【0015】
クラスター生成室2内にはガスクラスター生成用の気体を導入するノズル1が配置されており、隔壁18には、ノズル1から導入された気体の流れ(ガスクラスターイオンビーム)の中心にあたる位置に小孔を有するスキマー4が設けられている。
【0016】
プロセス室9内には、ガスクラスターイオンビームの進行経路に沿って順に、ガスクラスターに電子源6により電子を衝突させてガスクラスターを正イオン化するイオン化器5、ガスクラスターイオンを輸送する電極群7、被処理物である基板8を保持するステージ9が配置されている。電極群7は、所定のバイアス電圧を印加された複数の電極で構成され、それらによって発生させた電界によって、ガスクラスターイオンを基板8側へと加速させて輸送する働きを有している。
【0017】
ステージ9は、ステージ9上に保持された基板8の外周側にステージ電極10を備えている。また、ステージ9の裏面(基板8の保持面とは反対側面)に、ステージ9の電位を独立して制御するための碍子が設けられている。
【0018】
ステージ9はステージ電源14により負の電位に設定されており、このステージ9を介してステージ9上の基板8も負の電位となる。したがって、基板8は、イオン化器5の電子源6で正電位にイオン化されたクラスターイオンの電位とは逆極性の電位とされている。また、イオン化器5はイオン化器電源12によってプラス電位に保たれ、電極群7は電極群電源13によってイオン化器5の電位よりも低い電位に設定されている。なお、ノズル1、クラスター生成室2、およびスキマー4は接地されており、それらの電位は0Vである。
【0019】
本発明について更に詳しく述べる。
【0020】
例えば、図6に示した従来例であれば照射エネルギー50kVで基板8へガスクラスターイオンを照射させる場合、スキマー4及び隔壁18の電位は0V、イオン化器5の電位は50kVとなり、スキマー4とイオン化器5の間の電位差は照射エネルギーと等しい50kVである。一方でノズル1から0.5MPaのプロセスガスを導入するとプロセス室の圧力は2.0×10-2Paとなる。表1に、この圧力でのイオン化器とスキマーの間の電圧とこの間で放電が開始される距離との相関を示した。表から分かるように、イオン化器5とスキマー4の間の電圧が例えば50kVでは、スキマー4とイオン化器5との距離が44mm以下になると、これらの間に放電が生じて適切な表面処理プロセスを実施することができない。
【0021】
【表1】

【0022】
そこで、図6に示したような、スキマー4とイオン化器5の間の電位差がクラスターイオンビームの基板8への照射エネルギーと等しい従来構成に対し、本実施形態では、ステージ9を介して基板8の電位を設定可能にするとともに、イオン化器5の電位を基板8へのクラスターイオンの照射エネルギーよりも小さくした。例えば照射エネルギー50kVで基板8に照射させる場合にはスキマー4、イオン化器5、電極群7、被照射基板8の電位をそれぞれ0kV、10kV、−10〜10kV、−40kVとすることでスキマー4とイオン化器5の間の電位差を照射エネルギーよりも小さい10kVにし、電極群7の電位をイオン化器5よりもさらに低くして、基板8にクラスターイオンビームを照射した。このように本装置はイオン化器5と基板8の電位差が基板8へのクラスターイオンの照射エネルギーに相当する装置である。このため、図6の従来例と同等の照射エネルギーを照射する場合でも、図6の従来例より基板8の電位をさらに低くすることでイオン化器5の電位も下げることができ、スキマー4とイオン化器5の間の電位差をゼロに近づけることができる。
【0023】
本実施形態によれば、このように図6の従来構成に比べてスキマー4とイオン化器5の間の電位差が小さくなるので、スキマー4とイオン化器5の間での異常放電を抑制することが可能となる。また、表1から分かるように、スキマー4とイオン化器5の間の電圧が小さくなると、これらの距離を近づけることができる。例えば、スキマー4とイオン化器5の間の電圧が50kVでは、スキマー4とイオン化器5との距離が44mm以下になると、これらの間に放電が生じるが、スキマー4とイオン化器5の間の電圧が10kVの場合は、スキマー4とイオン化器5との距離が16mmより長ければ、異常放電は起こらない。このようにスキマー4とイオン化器5の間の距離が短い方が中性クラスターのイオン化の効率が高くなり、大きなビーム電流のクラスターイオンビームを得ることができるので、被照射基板に対する処理速度が向上する。
【実施例】
【0024】
(第1実施例)
本実施例はスキマー4とイオン化器5の電位差を小さくすることで異常放電を防止するものである。
【0025】
図1を参照すると、クラスター生成室2とプロセス室15はステンレス鋼製の壁部材で囲まれて形成されており、クラスター生成室2とプロセス室15は排気系3,16によってそれぞれ真空に保持されている。アルミニウムで作製されたノズル1から0.5MPaの圧力に保たれたArをプロセスガスとしてクラスター生成室2内に導入することで、ビーム状のクラスターが生成される。ニッケルで作製されたスキマー4によって分離されたクラスターは、ステンレス鋼製の隔壁18を挟んでクラスター生成室2に隣接したプロセス室15内に導入され、ステンレス鋼製の外枠を有するイオン化器5でイオン化される。このとき、クラスター生成室2内の圧力は1.5Pa、プロセス室15内の圧力は2.0×10-2Paとした。また、スキマー4とイオン化器5の間の距離は20mmとした。
【0026】
なお、クラスター生成室2およびプロセス室15の壁部材、スキマー4、隔壁18、およびイオン化器5の外枠を構成するそれぞれの素材は、特に断りが無い限り、後述する各実施例においても同じである。
【0027】
本実施例では、ノズル1、クラスター生成室2、スキマー4および隔壁18は接地されており電位は0Vであり、イオン化器5の電位は10kVに設定した。電極群7は、電極群電源13によって−10〜10kVの電位に保たれており、また、ステージ電源14によってステージ9に−40kVの電圧を印加することで、ステージ9上の基板8がステージ9と同電位の−40kVとなっている。
【0028】
したがって、上述したようにイオン化され正に帯電したクラスターは、電極群電源13によって−10〜10kVの電位を印加された電極群7よって引き出され、ステージ9と同電位の−40kVに保たれた基板8へ照射される。
【0029】
このとき、イオン化器5の電位が10kVで、基板8の電位が−40kVであるので、基板8に照射されるクラスターイオンの照射エネルギーは50kVである。
【0030】
図6に示したような従来例であれば、照射エネルギーが50kVの場合にはスキマー4とイオン化器5の電位差も50kVとなり、両者の距離が44mmより長くなければスキマー4とイオン化器5の間で放電が起こり(表1参照)、基板8に対して表面処理プロセスを実施することができない。
【0031】
これに対し、本実施例では、照射エネルギーが50kVであっても、表1のようにスキマー4とイオン化器5の間の電圧が10kVの場合は両者の距離が16mm以下でなければスキマー4とイオン化器5の間で放電が起こらないので、問題なく表面処理プロセスを実施することができた。
【0032】
ここで、スキマーとイオン化器の間の距離とビーム電流値との相関を図2に示す。図2から、スキマーとイオン化器の間の距離を短くするとビーム電流が増加することがわかる。図6の従来例では50mmであったスキマー4とイオン化器5の間の距離を本実施例では20mmにすることができ、その結果、従来例よりも増加したビーム電流66μAが得られ、処理速度の向上が可能となった。
【0033】
(第2実施例)
本実施例は、スキマー4とイオン化器5を同電位にして異常放電を防止する手法である。電位を除く構造は第1実施例と同様である。図3に示すように、ノズル1、クラスター生成室2、スキマー4、隔壁18およびイオン化器5は接地されていて電位は等しい。
【0034】
第1実施例と同条件でプロセスガスとして0.5MPaの圧力に保たれたArをノズル1よりクラスター生成室2へ導入し、この時のクラスター生成室、プロセス室15の各圧力は第1実施例と同様にそれぞれ、1.5Pa、2.0×10-2Paとした。
【0035】
本実施例では、イオン化器5の電位は0kVに設定した。電極群7は、電極群電源13によって−20〜0kVの電位に保たれており、また、ステージ電源14によってステージ9に−50kVの電圧を印加することで、ステージ9上の基板8がステージ9と同電位の−50kVとなっている。
【0036】
接地電位であるイオン化器5に対して、−20〜0kVの電位を印加された電極群7によりクラスターイオンが引き出され、−50kVに保たれた基板8に照射される。イオン化器5の電位が0kVで、基板8の電位が−50kVであるので、基板8に照射されるクラスターイオンの照射エネルギーは50kVである。
【0037】
図6に示したような従来例であれば、照射エネルギーが50kVの場合にはスキマー4とイオン化器5の電位差も50kVとなり、両者の距離が44mmより長くなければスキマー4とイオン化器5の間で放電が起こり(表1参照)、基板8に対して表面処理プロセスを実施することができない。
【0038】
これに対し、本実施例においては、スキマー4とイオン化器5が同電位であるため両者の距離に関係なく放電が起こらず、安定した表面処理プロセスを行うことが可能となった。
【0039】
(第3実施例)
本実施例は図4に示すように、各々接地され同電位となったスキマー4とイオン化器5を一体の構成部品として作成したものである。つまり、スキマー4とイオン化器5が同電位であるため、プロセス室15の隔壁18におけるスキマー4近傍にイオン化器5を直接取り付けた構造である。
【0040】
第1実施例と同条件でプロセスガスとして0.5MPaの圧力に保たれたArをノズル1よりクラスター生成室2へ導入し、この時のクラスター生成室、プロセス室15の各圧力は第1実施例と同様にそれぞれ、1.5Pa、2.0×10-2Paとした。
【0041】
本実施例では、ノズル1、クラスター生成室2、スキマー4、隔壁18及びイオン化器5は第2実施例と同様に接地されており電位は0Vである。電極群7は、電極群電源13によって−20〜0kVの電位に保たれており、また、ステージ電源14によってステージ9に−50kVの電圧を印加することで、ステージ9上の基板8がステージ9と同電位の−50kVとなっている。
【0042】
第2実施例と同様、接地電位であるイオン化器5に対して、−20〜0kVの電位を印加された電極群7によりクラスターイオンが引き出され、−50kVに保たれた基板8に照射される。イオン化器5の電位が0kVで、基板8の電位が−50kVであるので、基板8に照射されるクラスターイオンの照射エネルギーは50kVである。
【0043】
図2に示したようにスキマー4とイオン化器5の間の距離が短い方が中性クラスターのイオン化の効率が高く、本実施例のようにスキマー4とイオン化器5を一体とすることで、第2実施例よりも更に増加したビーム電流73μAが得られ、処理速度の向上が可能となった。
【0044】
(第4実施例)
本実施例はクラスターをイオン化し、加速した後でクラスターイオンビームの中性化を行い中性クラスターを基板に照射するものである。図5に示すように、基本的に第2実施例と同様であるが、第2実施例のようなステージ電極10及び碍子11を備えておらずステージ9が接地されている点、電極群7と基板8の間に、クラスターイオンの中性化を行うために加速後のクラスターイオンに熱電子を照射する熱フィラメント17が設けられている点で第2実施例とは異なっている。
【0045】
第1実施例と同条件でプロセスガスとして0.5MPaの圧力に保たれたArをノズル1よりクラスター生成室2へ導入し、この時のクラスター生成室、プロセス室15の各圧力は第1実施例と同様にそれぞれ、1.5Pa、2.0×10-2Paとした。
【0046】
本実施例では、ノズル1、クラスター生成室2、スキマー4および隔壁18は第2実施例と同様に接地されており電位は0kVである。電極群7は、電極群電源13によって−50〜0kVの電位に保たれており、また、基板8はステージ9を介して接地されている。
【0047】
第2実施例と同様、接地電位であるイオン化器5に対して、−50〜0kVの電位を印加された電極群7によりクラスターイオンが引き出される。加速後のクラスターイオンは、タングステンを用いた熱フィラメント17(ニュートラライザー)による熱電子を照射され、中性化される。そして、中性化されたクラスターイオンが、接地電位に保たれた基板8に照射される。
【0048】
本実施例によれば、上述のようにステージ9に電位を印加することなくクラスターイオンの照射が可能となり、また、第2実施例と同様に、スキマー4とイオン化器5が同電位であるため両者の距離に関係なく放電が起こらず、安定した表面処理プロセスが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施例によるガスクラスターイオンビーム装置の断面図である。
【図2】スキマーとイオン化器の間の距離とビーム電流との相関を示すがラフである。
【図3】本発明の第2実施例によるガスクラスターイオンビーム装置の断面図である。
【図4】本発明の第3実施例によるガスクラスターイオンビーム装置の断面図である。
【図5】本発明の第4実施例によるガスクラスターイオンビーム装置の断面図である。
【図6】従来の一般的なガスクラスターイオンビーム装置の断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ノズル
2 クラスター生成室
4 スキマー
5 イオン化器
7 電極群
8 基板
15 プロセス室
18 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルからガスを導入させてガスクラスターを生成させるクラスター生成室と、隔壁によって前記クラスター生成室から分離され、前記ガスクラスターが前記隔壁に設けられたスキマーを通して供給されるプロセス室と、を有し、前記プロセス室には、前記プロセス室内に前記スキマーから導入された前記ガスクラスターをイオン化するイオン化器と、該イオン化器でイオン化された前記ガスクラスターを加速させて被処理物に照射させる電極群と、が備えられており、前記ノズルと前記スキマーがともに第1の電位に設定され、前記電極群の電位が前記イオン化器の電位よりも低い第2の電位に設定されているガスクラスターイオンビーム装置において、
前記スキマーと前記イオン化器との電位差が、前記被処理物に照射されるガスクラスターイオンの照射エネルギーより小さいことを特徴とするガスクラスターイオンビーム装置。
【請求項2】
前記ノズル、前記スキマー、前記イオン化器がともに同電位であることを特徴とする請求項1記載のガスクラスターイオンビーム装置。
【請求項3】
前記被処理物の電位が、前記被処理物に照射されるガスクラスターイオンとは逆極性の電位に設定されていること特徴とする請求項1または2に記載のガスクラスターイオンビーム装置。
【請求項4】
前記被処理物に照射されるガスクラスターイオンは正に帯電している請求項3に記載のガスクラスターイオンビーム装置。
【請求項5】
前記電極群による加速後のガスクラスターイオンを中性化する手段をさらに有する請求項1または2に記載のガスクラスターイオンビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−66796(P2007−66796A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253529(P2005−253529)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】