説明

ガス分解素子、ガス分解装置及びガス分解素子の製造方法

【課題】分解過程のガス濃度の変化に対応して、最適な配合割合の触媒を採用させることにより、ガスの分解効率を高めたガス分解素子を提供する。
【解決手段】固体電解質層101と、この固体電解質層の一側に設けられる第1の電極層(アノード電極)102と、他側に設けられる第2の電極層(カソード電極)105とを備えて構成されるガス分解素子100であって、上記第1の電極層又は/及び第2の電極層に設けられる触媒151、152の配合割合が、ガスの流動方向に向けて変化するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ガス分解素子、ガス分解装置及びガス分解素子の製造方法に関する。詳しくは、ガス分解過程におけるガスの濃度変化に対応して、効率よくガスを分解できるガス分解素子に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、し尿処理や堆肥製造工程において生じるバイオガス(揮発性有機化合物)は悪臭の原因となる。上記悪臭の原因となるガス成分として、アンモニアガスが含まれる場合が多い。
【0003】
上記アンモニアガスは、悪臭を発するだけでなく人体にも有害であるため、外気にそのまま放出することはできない。このため、アンモニアガスを分離して、次亜臭素酸溶液や硫酸と接触させて処理する手法(特許文献1)や、触媒を用いて燃焼処理する手法(特許文献2)が採用されることが多い。
【0004】
上記特許文献1に記載されているような薬品を用いる手法や、特許文献2に記載されているような燃焼処理する手法によって、アンモニアを分解して無害化することができる。しかし、これら手法では、薬品や外部エネルギを必要とすることから、ランニングコストが大きくなるという問題がある。また、燃焼する手法を採用すると、NOxやCO2が生成されて、環境に悪影響を与える恐れもある。
【0005】
上記問題を解消する手法として、特許文献3に記載されているような固体電解質を備えるガス分解素子を用いてガスを電気化学的に分解して除害する手法が提案されている。上記手法を用いることにより、有害ガスが生成されることがなく、装置を小型化できるとともに、ランニングコストを低く抑えることが可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開平7−31966号公報
【特許文献2】特開平7−116650号公報
【特許文献3】特開2010−247033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記固体電解質を用いてガスを分解する場合、ガスは、アノード電極に沿うようにして流動させられながら分解される。このため、分解対象となるガスの濃度は、固体電解質層に沿う流動距離に応じて低下することになる。
【0008】
従来、上記触媒は、ガスが流動して接触させられるアノードの全体に一定割合で、均一に配合されていた。ところが、ガスは分解されるにつれて濃度が低下し、あるいは組成が変化する。このため、流動にともなって変化するガス濃度等に応じて、最適な配合量や組成を有する触媒を作用させることができない。したがって、ガス分解素子(MEA)の能力を最大限に発揮させているとはいえなかった。
【0009】
たとえば、バイオガスには、アンモニアガスが含まれる場合が多い。アンモニアガスを、上記固体電解質層を備えるガス分解素子で分解する場合、アンモニアガス(NH3)の一部が、アノード電極表面ないし近傍において次のように分解される。
<アノード反応>
2NH3→N2+3H2
上記N2は、排気として排出される。上記H2は、酸素導電性の固体電解質を採用した場合は、アノードにおいて酸素と化合して水が生成される。一方、プロトン導電性の固体電解質を採用した場合、上記H2がアノードにおいてさらに分解されてプロトンH+と電子e-が生成され、上記プロトンH+が固体電解質中をカソードに向けて移動させられ、カソードにおいて酸素と化合して水が生成される。
【0010】
すなわち、ガス分解素子(MEA)のアノードには、水素ガスとアンモニアガスとが混合されたガスが作用させられることになる。また、ガスの分解効率を高めるため、前工程において、アンモニアガスを加熱して、アンモニアの一部を水素化する手法も採用される。
【0011】
上記水素ガスとアンモニアガスを含むガスを分解するには、Ni−Feからなる触媒を採用するのが好ましい。ところが、上記Ni−Feからなる触媒のうち、アンモニアガスを分解する効率はFe触媒の方が高く、一方、水素ガスを分解して水を生成し、あるいはプロトンを生成する効率はNi触媒の方が高い。従来のガス分解装置では、所定の配合割合を有するNi−Fe触媒が、アノード電極全域に均一に配合されていた。このため、ガス分解素子の能力を充分に発揮させているとはいえなかった。
【0012】
本願発明は、上述した問題を解決し、分解過程のガス濃度の変化等に対応して、最適な配合割合の触媒を採用させることにより、ガスの分解効率を高めたガス分解素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の請求項1に記載した発明は、固体電解質層と、この固体電解質層の一側に設けられる第1の電極層と、他側に設けられる第2の電極層とを備えて構成されるガス分解素子であって、上記第1の電極層又は/及び第2の電極層に設けられる触媒の配合割合が、ガスの流動方向に向けて変化するように形成されたものである。
【0014】
本願発明が適用される分解対象ガスの種類は、特に限定されることはない。固体電解質の種類、触媒の種類を選定することにより種々のガスに適用できる。たとえば、アンモニア、メチルメルカプタン、アルデヒド等の炭化水素系ガス等を含む種々のガスに適用できる。
【0015】
上記固体電解質層を構成する材料も特に限定されることはない。たとえば、固体酸化物、固体高分子等から構成されたものを採用できる。固体酸化物からなる固体電解質層を作用する場合、酸素イオン導電性の、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化ジルコニア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)等を採用することができる。また、BYZ(イットリウム添加ジルコン酸バリウム)やBCY(バリウムセレイト)等からなるプロトン導電性の固体電解質層を採用することができる。BYZは、低い作動温度においてプロトン伝導率が高く、活性化エネルギが低いため、エネルギ効率を高めることができる。また、反応生成物である水が、外側(第2の電極層側)に生じるため、内側(第1の電極層側)に作用させられるアンモニアガスが、水蒸気により希釈されて反応効率が低下するのを防止することができる。
【0016】
上記第1の電極層と上記第2の電極層の一方の電極層が燃料側のアノード電極として機能し、他方の電極層がカソード電極として機能する。上記電極層は、配合される触媒の配合割合を変化させて設けることができれば、構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、酸素イオン導電性の固体電解質層を採用する場合、アノード電極を、表面酸化された酸化層を有する触媒としての金属粒連鎖体と、酸素イオン導電性セラミック(SSZ,YSZ等)とを主成分とする焼結体から形成することができる。また、プロトン導電性の固体電解質層を採用する場合、アノード電極を、表面酸化された酸化層を有する触媒としての金属粒連鎖体と、プロトン導電性のセラミック(BYZ,BCY等)とを主成分とする焼結体から形成することができる。たとえば、アノード電極を、Fe,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuから選ばれた少なくとも1の触媒成分を含んで構成することができる。一方、上記カソード電極に採用される第2の触媒を、Ni,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuから選ばれた少なくとも1の触媒成分を含んで構成することができる。
【0017】
本願発明では、触媒としての上記金属粒連鎖体の配合割合をガスの流動方向に向けて変化させる。
【0018】
たとえば、ガス分解素子のガス流入口近傍における触媒の配合割合を最大に設定し、ガスの流動方向に向けて配合割合を次第に減少させるように構成することができる。また、上記と逆に、ガス分解素子のガス流入口近傍における触媒の配合割合を最小に設定し、ガスの流動方向に向けて配合割合を次第に増加させるように構成することができる。上記触媒の配合割合及び変化の態様は、ガスの種類やガス分解装置の構成によって設定することができる。
【0019】
配合割合を変化させる触媒は1種類に限定されることはなく、複数の触媒成分の配合割合をガスの濃度変化や組成変化に応じて変化させることができる。
【0020】
請求項2に記載した発明のように、上記触媒を、第1の触媒成分と第2の触媒成分とを含んで構成し、上記第1の触媒成分を、ガスの流動方向に向けて配合割合が減少するように設ける一方、上記第2の触媒成分を、ガスの流動方向に向けて配合割合が増加するように設けることができる。
【0021】
たとえば、アンモニアガスを分解する場合、分解初期において、アンモニアが窒素分子と水素分子に分解される。その後、上記水素分子がプロトンに分解されて、アノード電極あるいはカソード電極において、酸素と化合して水が生成される。このような場合、アノード電極には、アンモニアガスと水素ガスの混合ガスが作用させられることになる。さらに、上記混合ガスの濃度及び組成が、ガス分解の過程において変化する。すなわち、ガス分解素子における流動初期にはアンモニアガスの成分割合が多く、ガス分解素子の出口近傍では、水素ガスの成分割合が多くなる。したがって、上記混合ガスの成分変化に応じて、触媒の配合割合を変化させるのが好ましい。
【0022】
アンモニアを分解する場合、Ni−Fe合金からなる触媒を採用することが多い。上記Niは、水素分子を分解する効率が高い。一方、Feは、アンモニアを分解する効率が高い。したがって、ガス分解装置としては、流動初期において、アンモニアガスの分解を促進して水素分子を生成するように構成するのが好ましい。このため、Feの配合割合を、ガスの流動開始部位において最大に設定するとともに、ガスの流動方向に向けて減少させるように構成するのが好ましい。一方、最終的には、水素が酸素と化合して水が生成されるものであるため、上記Niの配合割合を、ガスの流動開始部位において最小に設定するとともに、ガスの流動方向に向けて増加させるように構成するのが好ましい。
【0023】
上記触媒の配合割合を変化させる態様も特に限定されることはない。たとえば、請求項3に記載した発明のように、上記触媒の配合割合をガスの流動方向に連続的に変化するように形成することができる。
【0024】
また、請求項4に記載した発明のように、上記触媒の配合割合をガスの流動方向に段階的に変化するように形成することもできる。たとえば、ガスの流動方向に、触媒の配合割合が段階的に変化する複数の領域を設けて構成することができる。また、一のガス分解装置が、固体電解質と電極とから構成される複数のガス分解素子(MEA)を複数重ねて構成される場合、ガスの流動経路に沿って、触媒の配合割合が異なる積層体を配置して構成することができる。
【0025】
上記配合割合を変化させた触媒を設ける部位も特に限定されることはない。請求項5に記載した発明のように、上記触媒を、上記電極層を構成する材料中に配合することができる。
【0026】
また、請求項6に記載した発明のように、上記固体電解質層及び/又は電極層の表面に触媒層を設けるとともに、この触媒層において上記触媒の配合割合を変化させて設けることもできる。
【0027】
また、請求項7に記載した発明のように、上記電極層に沿って設けられる集電体に触媒を付加するとともに、上記触媒の配合割合を変化させることもできる。
【0028】
請求項8に記載した発明は、固体電解質層を備えるとともに、アンモニアを含むガスを分解するガス分解素子であって、分解ガスが作用させられる電極に、第1の触媒成分と第2の触媒成分とを含む触媒を設けるとともに、上記第1の触媒成分が、主としてアンモニアを分解して水素分子を生成する触媒成分である一方、第2の触媒成分が、主として水素分子を分解してプロトンを生成する触媒成分であるものである。
【0029】
アンモニアガスを含むガスを分解する場合、請求項9に記載されているように、上記第1の触媒として、Fe,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuから選ばれた少なくとも1の触媒成分を含んで構成するとともに、上記第2の触媒として、Ni,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuからから選ばれた少なくとも1の触媒成分を含んで構成することができる。
【0030】
本願発明は、アンモニアガスを分解するガス分解素子のみならず、他のガスを分解するガス分解素子に適用できる。また、ガス分解装置が、複数のガス分解素子(MEA)を組み合わせて構成される場合、触媒の配合割合の異なる複数のガス分解素子を作成し、これらガス分解素子をガスの流動経路に沿って配列することにより、触媒の配合割合を段階的に変化させることができる。
【0031】
請求項11に記載した発明は、固体電解質層と、この固体電解質層の一側に設けられる第1の電極層と、他側に設けられる第2の電極層とを備えて構成されるガス分解素子の製造方法であって、上記第1の電極層及び/又は第2の電極層に、ガスの流動方向に向けて配合割合が変化するように触媒を設ける触媒添加工程を含んで構成されるものである。
【0032】
上記固体電解質層及び電極層は、種々の手法を用いて形成することができる。また、上記触媒を、配合割合を変化させて設ける手法も特に限定されることはない。たとえば、固体電解質層及び電極層を粉体から焼結して成形する場合、原料段階において、粉体状の触媒の配合割合をガスの流動方向に向けて変化するように配合して形成することができる。
【0033】
成形した固体電解質層に触媒を含むスラリーを塗布することにより電極層を構成する場合、触媒濃度や組成が異なる複数種類のスラリーを塗り分けることにより、ガスの流動方向に触媒の配合割合を変化させることができる。また、触媒を設ける部位以外をマスキングした固体電解質を、触媒材料を含む水溶液に浸漬し、触媒の配合割合を変化させる方向に所定の速度で引き上げ、その後、焼成等することにより、触媒の配合割合を連続的に変化させることができる。上記手法を異なる触媒を含む複数の水溶液を用いて、複数工程行うことにより、2種以上の触媒の配合割合を変化させた電極層を設けることもできる。
【発明の効果】
【0034】
分解過程で変化するガスの成分に応じた触媒を作用させることが可能となり、ガスの分解効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係るガス分解素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は図1に示すガス分解素子の要部の拡大断面図である。
【図3】図2におけるIB−IB線に沿う断面図である。
【図4】本願発明に係るガス分解素子の作用を説明する拡大断面図である。
【図5】本願発明に係るガス分解素子の触媒の配合割合の変化を模式的に表した図である。
【図6】第2の実施形態に係るガス分解素子の要部の全体斜視図である。
【図7】図6に示すガス分解素子を複数組み合わせて構成されたガス分解装置の要部の全体斜視図である。
【図8】図7におけるVIII−VIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。
【0037】
図1は、第1の実施形態に係るガス分解発電装置の概要を示す断面図である。本実施形態は、本願発明に係るガス分解素子を、アンモニアガスを分解して発電を行うガス分解発電装置100に適用したものである。
【0038】
本実施形態に係るガス分解発電装置100は、内側にガスを流動させて分解する筒状MEA(ガス分解発電素子)110と、上記筒状MEA110を保持するとともにこの筒状MEAの外周部に空気を流動させることのできる筒状容器109とを備えて構成される。
【0039】
上記筒状MEA110は、上記筒状容器109のガス流入口107とガス流出口108の間に接続されるようにして上記筒状容器109内に保持されている。上記筒状容器109の外周部には、空気を導入する空気流入口と、上記筒状MEA110の外周部を流動した空気及び生成された水分を排出する排出口118とを備える。
【0040】
上記ガス分解発電装置100は、外周部に図示しないヒータが設けられており、上記筒状MEA110及び上記空気が流動する空間Sを所定温度に加熱できるように構成されている。また、上記筒状MEA110の第1の電極層(アノード)102と第2の電極層(カソード)105の間には、配線111e,112eが設けられており、この配線内に蓄電手段500が設けられる。
【0041】
図2は、上記ガス分解発電装置100の要部拡大断面図であり、図3は、図2におけるIB−IB線に沿う断面図である。
【0042】
上記筒状MEA110は、円筒状の固体電解質層101と、この固体電解質層101の内面を覆うように形成された第1の電極層(アノード電極)102と、上記固体電解質層101の外面を覆うように形成された第2の電極層(カソード電極)105とを備えて構成されている。上記第1の電極層102及び第2の電極層105には、集電体111,112が設けられている。上記第1の電極層102は燃料極と、また、上記第2の電極層105は空気極と呼ばれる。本実施形態では、筒状MEA110(101,102,105)を採用したが、これに限定されることはなく、平板状の固体電解質層を備えるMEAを組み合わせてガス分解発電装置を構成することもできる。また、適用する装置に応じて寸法等を設定できる。
【0043】
アノード側集電体111は、銀ペースト塗布層111gと、Niメッシュシート111aと、多孔質金属体111sと、中心導電棒111kとを備えて構成されている。Niメッシュシート111aが、銀ペースト塗布層111gを介して、筒状MEA110の内面側の第1の電極層102に接触して、多孔質金属体111sから中心導電棒111kへと導電するように構成されている。多孔質金属体111sは、アンモニアを含む気体の圧力損失を低減させるために、気孔率を高くできる金属メッキ体、たとえば、セルメット(登録商標:住友電気工業株式会社)を用いるのが好ましい。第1の電極層102とアノード側集電体111との間の電気抵抗を低減させるために、上記銀ペースト塗布層111gとNiメッシュシート111aとが配置されている。
【0044】
カソード側集電体112は、銀ペースト塗布配線112gとNiメッシュシート112aとを備えて構成されている。本実施形態では、Niメッシュシート112aが、筒状MEA110の外面に接触して、外部配線へと導電している。銀ペースト塗布配線112gは、カソード105における酸素ガスを酸素イオンに分解するのを促進する触媒として作用する銀を含み、かつカソード側集電体112の電気抵抗を低くすることに寄与する。所定の性状の銀ペースト塗布配線112gは、酸素分子を通しながら銀粒子がカソード105に接触して、カソード105内に含まれる銀粒子と同等の触媒作用を発現する。しかも、カソード105に含ませるより安価である。
【0045】
図4は、固体電解質層101にプロトン導電性の固体電解質を採用した場合における要部機能を模式的に表した図である。アンモニアを含む気体は、ガス流入口107から気密性を厳格にした筒状MEA110の内筒、すなわちアノード側集電体111が配置されている空間に導入される。筒状MEA110を用いた場合、内面側にアンモニアを含む気体を通すことから、多孔質金属体111sが用いられる。圧力損失を低くする点から、上述のように、多孔質金属体111sとして、多孔質金属めっき体、たとえば、上述したセルメットを用いることができる。アンモニアを含む気体は、多孔質金属体111s、Niメッシュシート111a、及び多孔質の銀ペースト塗布層111gの空隙を通りながら、アンモニアの一部が熱分解されて、窒素ガスと水素ガスに分解される。
(アノード側集電体における反応):2NH3→N3+3H2
【0046】
上記アンモニアは、上記集電体111を通過して第1の電極層102と接触し、第1の電極層102において、下記のアンモニア分解反応をする。
(アノード反応):2NH3→N2+6H++6e-
また、上記アンモニアが、上記アノード側集電体111を通過する際に熱分解して生成された水素ガスも、上記第1の電極層102においてプロトンに分解される。
(アノード反応):H2→2H++2e-
そして、上記プロトンは、固体電解質層101中を第2の電極層105に向けて移動する。一方、N2は、排気ガスとしてガス流出口108から排出される。
【0047】
すなわち、プロトン導電性の固体電解質層101を用いると、第1の電極層102において、アンモニアが、プロトンと、窒素ガスと、電子に分解される。発生したプロトンは、固体電解質層101中を第2の電極層105へ向けて移動する。プロトンは、酸素イオンと比べて小さいので固体電解質層101中の移動速度が大きく、装置の加熱温度を低く設定することが可能となる。
【0048】
一方、第2の電極層105では、固体電解質層101を移動してきた上記プロトンと空気中の酸素とが反応し、水が生成される。
(カソード反応):4H++O2-+4e-→2H2
【0049】
上記の電気化学反応の結果、電力が発生し、第1の電極層102と第2の電極層105との間に電位差を生じ、カソード側集電体112からアノード側集電体111へと電流Iが流れる。カソード側集電体112とアノード側集電体111との間に蓄電池500を接続することにより、電力が蓄えられる。また、蓄電池の代わりに、負荷、たとえばこのガス分解発電装置100を加熱するための図示しないヒータに接続しておけば、そのための電力を供給することができる。
【0050】
酸素イオン導電性の固体電解質を採用した場合、水を筒状MEA110の内側(アノード側)で生成する反応となる。水は、筒状MEA110の出口付近の温度が低い部分では水滴を形成して圧力損失の原因となる場合がある。これに対して、本実施形態のようにプロトン導電性の固体電解質を用いると、プロトンと酸素分子と電子とが、外側(カソード側)で反応して水を生成する。外側はほぼ開放されているので、出口側の温度の低い箇所で水滴となって付着しても圧力損失を生じにくい。
【0051】
<固体電解質層>
上記固体電解質層101として、BYZ(イットリウム添加ジルコン酸バリウム)から形成されたものを採用するのが好ましい。BYZは、低い作動温度においてプロトン伝導率が高く、活性化エネルギが低いため、エネルギ効率を高めることができる。また、上記構成によって、反応生成物である水が、外側(第2の電極層側)に生じるため、内側(第1の電極層側)に作用させられるアンモニアガスが、水蒸気により希釈されて反応効率が低下するのを防止することができる。なお、上記BYZの代わりに、BCY(バリウムセレイト)を用いることもできる。
【0052】
<アノード電極(第1の電極層)>
本実施形態に係る第1の電極層は、表面に酸化層を有し、触媒として機能する金属粒連鎖体と、イオン導電性のセラミックスとを含む焼結体から形成することができる。本実施形態では、上記イオン導電性のセラミックスとして、プロトン導電性のセラミックスが採用される。たとえば、BYZ(イットリウム添加ジルコン酸バリウム)やBCY(バリウムセレイト)等を採用することができる。アンモニアを分解する場合、金属粒連鎖体の金属として、Ni及びFeを含むものを採用するのが好ましい。また、Ni−Co,Co−Fe,Ni−Ru,Ni−W等を含むものを採用することができる。
【0053】
<カソード電極(第2の電極層)>
上記カソード電極として、上記アノード電極を構成する材料と同様に、プロトン導電性を有するセラミックス焼結体を用いて形成することができる。また、プロトンと酸素との反応を促進するため、銀等の触媒を添加することができる。また、分解するガスの種類によって、上記第1の電極層と同様に、金属粒連鎖体を配合することができる。上記カソード電極も、上記アノード電極と同様の手法により形成することができる。
【0054】
上述したように、本実施形態では、第1の電極層に、アンモニアガスと水素ガスの混合ガスが作用させられて、上記のように分解される。上記触媒として配合される金属粒連鎖体は、上記混合ガスを分解するのに好適なNi−Fe合金から形成されるが、Feは、アンモニアガスの分解効率が高く、一方、Niは水素ガスの分解効率が高い。
【0055】
アンモニアガスは、上記筒状MEAの内側を軸方向に流動させられながら分解される。このため、アンモニアガスと水素ガスからなる混合ガスの濃度は、筒状容器のガス流入口近傍で最も大きく、筒状MEA内を軸方向に流動するにつれて低下し、ガス流出口近傍で最も小さくなる。アンモニアガスは、上記集電体内における分解反応と、アノード電極における分解反応が同時に進行するため、上記ガス流入口からガス流出口に向かって急激に減少する。一方、集電体内でアンモニアガスが分解された後水素ガスが分解されるまで、ある程度の時間差があるため、水素ガスの濃度低下は、アンモニアガスの濃度低下より小さくなる。この結果、ガスの流動初期においては、アンモニアガスの占める成分割合は、水素ガスの占める成分割合より大きくなるが、流動するにつれて水素ガスの占める割合が増加して、ガス流出口近傍では、分解未了のほとんどのガスが水素ガスになる。
【0056】
このため、第1の電極層に、NiとFeとを一定の割合で配合した触媒を用いると、触媒をガスに効率よく作用させることができない。したがって、ガスの分解効率が低下することになる。本実施形態では、上記ガスの濃度及び成分割合が変化するのに対応して、触媒の配合割合を変化させている。
【0057】
図5に、触媒の配合割合の変化を模式的に示す。図5に示すように、アノード電極102において、Fe触媒151の配合割合を、ガス流入口近傍における流動初期の領域において最も大きく設定し、ガスの流動方向に向けて次第に減少させている。一方、Ni触媒152の配合割合を、ガス流入口近傍における流動初期の領域において最も小さく設定し、ガスの流動方向に向けて次第に増加させている。
【0058】
上記構成を採用することにより、ガス流入口近傍における流動初期には、アンモニアガスの分解を促進するとともに、流動するにつれて成分割合が増加する水素ガスの分解能力を高めることが可能となる。これにより、筒状MEA内を流動しながら、濃度及び成分比率が変化するガスを効率よく分解することが可能となる。
【0059】
触媒の配合割合が変化する上記第1の電極層102を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、固体電解質層と電極層とを焼結手法で一体形成する場合、成形工程において電極層における触媒の配合割合に変化をもたすことができる。たとえば、まず、筒状の固体電解質の内面に、Ni−BYZペーストを塗布し、200℃で乾燥させる。次に、外周面にマスキングを施し、硝酸Fe水溶液中に浸漬し、所定の速度で上記水溶液から引き上げることにより、上記Niペースト塗布面に、付着量を変化させたFe触媒層を設けることができる。その後、100℃程度で乾燥させた後、1400℃程度で焼結することにより、上記BYD内に、上記Ni触媒とFe触媒の配合割合が変化する複合触媒を設けることができる。なお、上記手法をNi触媒にも適用することにより、Ni−Feの配合割合を所要の形態で変化させることができる。たとえば、ガス分解装置入口近傍におけるNi−Feの配合割合を1:9とし、中央部分において5:5まで変化させ、ガス分解装置出口近傍において9:1となるように設定することができる。
また、板状の固体電解質を採用する場合には、印刷手法を用いて上記触媒の付着量を変化させて、配合割合が変化する複合触媒を設けることができる。
【0060】
なお、図5に示すように、本実施形態では、第2の電極層105における触媒の配合割合を変化させていないが、分解するガスの種類や装置の構成に応じて、触媒の配合割合を変化させることができる。
【0061】
また、第1の実施形態では、アノード側集電体111に銀ペーストからなる触媒を一定の形態で設けたが、必要に応じてNiやFeからなる触媒に置き換えることができる。また、上記触媒を、ガスの流動方向に向けて変化をつけて設けることもできる。たとえば、上記集電体111のNiメッシュシート111aの代わりに、触媒の配合割合が変化するメッシュシートを設けることもできる。上記メッシュシートとして、たとえばFeメッシュシートに厚みが連続的に変化するNiメッキ層を設け、これを加熱して合金化することにより、Ni−Fe成分の配合割合が連続的に変化する複合触媒メッシュシートを形成できる。厚みが変化する上記Niメッキ層は、上記Feメッシュシートを、所定の速度でメッキ浴から引き上げながらメッキ処理することにより形成することができる。
【0062】
図6から図8に、本願発明の第2の実施形態を示す。第2の実施形態は、矩形板状のガス分解素子(MEA)210を、複数積層して構成されるガス分解発電装置200に、本願発明を適用したものである。なお、固体電解質層201、第1の電極層202及び第2の電極層205の製造方法は、第1の実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0063】
図6に示すように、ガス分解素子210は、矩形板状の固体電解質層201と、これに積層される第1の電極層202及び第2の電極層205とを備えて構成されており、全体が矩形板状に形成される。上記電極層のうち一方がカソード電極を構成し、他方がアノード電極を構成する。
【0064】
上記ガス分解素子210を複数積層することにより、図7及び図8に示すガス分解発電装置200が構成される。積層されるガス分解素子210a〜210gを隔離するとともに、各電極層の表面にガスの流路を形成するセパレータ261a〜261hが介挿される。上記セパレータには、両面に、ガスの流路271,272を構成する溝が設けられている。
【0065】
図7及び図8に示すように、本実施形態では、各ガス分解素子210a〜210gにおけるアンモニアガスが流動する流路271を、図示しない部材によって直列に接続する一方、空気(酸素)が流動する流路272を並列に接続している。図8に示すように、上記アンモニアガスの流路271を直列に接続することにより、流動するガスを上記複数のガス分解素子の第1の電極層202に作用させて、精度高く分解することができる。また、空気が流動する流路を並列状に設けることにより、分解に必要な酸素を供給することができる。
【0066】
上記各ガス分解素子210a,210b,210c,210d,210e,210f,210gの第1の電極層202には、上述したNi−Fe触媒が配合されている。
【0067】
本実施形態では、一のガス分解素子のアノード電極における触媒配合量は、変化させていない。一方、アノード電極の触媒配合割合を、各ガス分解素子で異ならせている。すなわち、最上流側に配置される熱分解素子210aの第1の電極層202におけるFe触媒の配合割合を最大に設定する一方、最下流のガス分解素子210gの第1の電極層202に配合されたFe触媒の配合割合を最小に設定し、中間位置に積層されるガス分解素子210b〜210fのFe触媒の配合割合を、ガスの流動方向に向けて段階的に減少させている。
【0068】
また、Ni触媒については、最上流側に配置されるガス分解素子210aの第1の電極層202におけるNi触媒の配合割合を最小に設定する一方、最下流のガス分解素子210gの第1の電極層202に配合されたNi触媒の配合割合を最大に設定し、中間位置に積層配置されたガス分解素子210b〜210fのNi触媒の配合割合を、ガスの流動方向に向けて段階的に増加させている。
【0069】
上記構成を採用することにより、アンモニアガスの濃度変化に応じて、配合割合が異なる触媒を作用させることが可能となり、アンモニアガスを効率よく分解することができる。また、各ガス分解素子の能力を最大限に発揮させることができるため、発電効率も高まる。
【0070】
本願発明では、アンモニアガスの分解に、本願発明に係るガス分解素子を適用したが、他のガス分解に適用することもできる。
【0071】
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
流動しながら濃度や組成が変化するガスを効率よく分解して除害できるとともに、分解反応を利用して効率よく発電を行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
100 ガス分解装置
101 固体電解質層
102 第1の電極層(アノード電極)
105 第2の電極層(カソード電極)
110 ガス分解素子(MEA)
151 触媒
152 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、この固体電解質層の一側に設けられる第1の電極層と、他側に設けられる第2の電極層とを備えて構成されるガス分解素子であって、
上記第1の電極層又は/及び第2の電極層に設けられる触媒の配合割合が、ガスの流動方向に向けて変化するように形成された、ガス分解素子。
【請求項2】
上記触媒は、第1の触媒成分と第2の触媒成分とを含んで構成されており、
上記第1の触媒成分が、ガスの流動方向に向けて配合割合が減少するように設けられている一方、
上記第2の触媒成分が、ガスの流動方向に向けて配合割合が増加するように設けられている、請求項1に記載のガス分解素子。
【請求項3】
上記触媒の配合割合がガスの流動方向に連続的に変化するように形成されている、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のガス分解素子。
【請求項4】
上記触媒の配合割合がガスの流動方向に段階的に変化するように形成されている、請求項1又は請求項2のいずれかに記載のガス分解素子。
【請求項5】
上記触媒は、上記電極層を構成する材料中に配合されたものである、請求項1から請求項4のいずれかに記載のガス分解素子。
【請求項6】
上記固体電解質層及び/又は電極層の表面に触媒層を設けるとともに、この触媒層において上記触媒の配合割合を変化させた、請求項1から請求項5のいずれかに記載のガス分解素子。
【請求項7】
上記電極層に沿って設けられる集電体に触媒を付加するとともに、上記触媒の配合割合を変化させた、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項8】
固体電解質層を備えるとともに、アンモニアを含むガスを分解するガス分解素子であって、
分解ガスが作用させられる電極に、第1の触媒成分と第2の触媒成分とを含む触媒を設けるとともに、
上記第1の触媒成分が、主としてアンモニアを分解して水素分子を生成する触媒成分である一方、
第2の触媒成分が、主として水素分子を分解してプロトンを生成する触媒成分である、請求項2から請求項7のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項9】
上記第1の触媒が、Fe,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuから選ばれた少なくとも1の触媒成分を含んで構成されるとともに、
上記第2の触媒が、Ni,Co,Ti,Mo,W,Mn,Ru,Cuから選ばれた少なくとも1の触媒成分である、請求項8に記載のガス分解素子。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のガス分解素子を備えて構成される、ガス分解発電装置。
【請求項11】
固体電解質層と、この固体電解質層の一側に設けられる第1の電極層と、他側に設けられる第2の電極層とを備えて構成されるガス分解素子の製造方法であって、
上記第1の電極層及び/又は第2の電極層に、ガスの流動方向に向けて配合割合が変化するように触媒を設ける触媒添加工程を含む、ガス分解素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−78714(P2013−78714A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219300(P2011−219300)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】