説明

キャンバ制御装置

【課題】スプリット路上で車両を走行させたり、発進させたりする際に、車輪に付与されたキャンバによって車両の状態が不安定になることがないようにする。
【解決手段】車両のボディと、ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、車両がスプリット路上にあるかどうかを判断するスプリット路判断処理手段と、スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、キャンバ可変動作を変更するキャンバ可変動作変更処理手段とを有する。車両がスプリット路上にあると判断された場合に、車輪がキャンバが付与されている状態に保持されるか、キャンバが付与されていない状態に保持されるか、又はキャンバの付与動作若しくは解除動作が遅延させられるので、車両の状態が不安定になることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の車輪、例えば、後方の車輪に負のキャンバ(ネガティブキャンバ)を付与することができるようにした車両が提供されている。
【0003】
この種の車両においては、車両を直進させて走行させるとき、すなわち、車両の直進走行時に左後方及び右後方の車輪にキャンバを付与すると、前記各車輪のタイヤに、互いに対向する方向にキャンバスラストを発生させることができるので、車両の直進走行時の安定性(以下「走行安定性」という。)を高くすることができる。
【0004】
また、車両を旋回させて走行させるとき、すなわち、車両の旋回時に車輪にキャンバを付与すると、遠心力によって旋回中心に対して外周側の車輪に加わる接地荷重を内周側の車輪に加わる接地荷重より大きくすることができるので、外周側の車輪のタイヤに発生するキャンバスラストを、内周側の車輪のタイヤに発生するキャンバスラストより大きくすることができ、車両に十分な求心力を発生させることができる。したがって、車両の旋回時の安定性(以下「旋回安定性」という。)を高くすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−193781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の車両においては、幅方向において部分的に摩擦係数が異なる道路(以下「スプリット路」という。)上を走行させたり、スプリット路上で発進させたりする際に、車輪にキャンバが付与されていると、車両の状態が不安定になることがある。
【0007】
図2はキャンバが付与されていない状態の車輪の断面図、図3は路面上の摩擦係数が大きい部分でキャンバが付与されている状態の車輪の断面図、図4は路面上の摩擦係数が小さい部分でキャンバが付与されている状態の車輪の断面図である。
【0008】
図において、WHは車輪、10は該車輪WHのタイヤ、cbはキャンバ軸、sh1は該キャンバ軸cbを通って上下方向に延びるタイヤ10の中心、Srは路面である。
【0009】
ところで、タイヤ10と路面Srとの間の摩擦係数(すべり摩擦係数)μは、路面Srの状態によって異なる。
【0010】
そして、路面Sr上の摩擦係数μの大きい部分において、車輪WHにキャンバが付与されると、図3に示されるように、タイヤ10の中心sh1が傾くが、このとき、タイヤ10は路面Srに対して滑らないので、変形する。その結果、タイヤ10に、タイヤ10の横剛性及び変形量に応じた力、すなわち、横剛性応力Fsが車両の本体であるボディ側に向けて発生する。
【0011】
これに対して、路面Sr上の摩擦係数μの小さい部分において、車輪WHにキャンバが付与されると、図4に示されるように、タイヤ10の中心sh1が傾くが、このとき、タイヤ10は路面Srに対して滑るので、ほとんど変形しない。その結果、タイヤ10に小さい横剛性応力Fsが発生する。
【0012】
なお、該横剛性応力Fsは、車輪WHにキャンバが付与された後、車両の走行に伴って車輪WHが所定量だけ回転させられ、タイヤ10の変形がなくなると解消する。
【0013】
このように、車輪WHにキャンバが付与されると、摩擦係数μに応じた横剛性応力Fsが発生させられるので、左右の車輪が互いに路面Sr上の摩擦係数μの異なる部分に置かれ、車両がスプリット路にあるときに車輪にキャンバが付与されると、左右の車輪に互いに異なる横剛性応力Fsが発生する。
【0014】
したがって、車両がスプリット路上で走行させられている場合には、車輪WHにキャンバが付与された後の所定の間、車両がスプリット路上で停止させられている場合には、車両を発進させた後の所定の間、車両の状態が不安定になってしまう。
【0015】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、スプリット路上で車両を走行させたり、発進させたりする際に、車輪に付与されたキャンバによって車両の状態が不安定になることがないキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、車両がスプリット路上にあるかどうかを判断するスプリット路判断処理手段と、該スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作を変更するキャンバ可変動作変更処理手段とを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、キャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、車両がスプリット路上にあるかどうかを判断するスプリット路判断処理手段と、該スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作を変更するキャンバ可変動作変更処理手段とを有する。
【0018】
この場合、車両がスプリット路上にあると判断された場合に、キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作が変更され、車輪がキャンバが付与されている状態に保持されるか、キャンバが付与されていない状態に保持されるか、又は車輪に対するキャンバの付与動作若しくは解除動作が遅延させられるので、車両の状態が不安定になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】キャンバが付与されていない状態の車輪の断面図である。
【図3】路面上の摩擦係数が大きい部分でキャンバが付与されている状態の車輪の断面図である。
【図4】路面上の摩擦係数が小さい部分でキャンバが付与されている状態の車輪の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの正面図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの要部を示す平面図である。
【図9】本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第1のメインフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第2のメインフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第3のメインフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判断処理のサブルーチンを示す図である。
【図13】本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判断処理のサブルーチンを示す図である。
【図14】本発明の実施の形態における動作速度マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図5は本発明の実施の形態における車両の概念図である。
【0022】
図において、11は車両の本体であるボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪であり、車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。
【0023】
なお、車輪WLF、WRFによって駆動輪、かつ、前輪が、車輪WLB、WRBによって従動輪、かつ、後輪が構成される。また、車輪WLF、WRFによって左右の前輪が、車輪WLB、WRBによって左右の後輪が構成される。
【0024】
前記車両は前輪駆動方式の構造を有し、エンジン12と車輪WLF、WRFとが伝動軸としてのドライブシャフト46によって連結される。そして、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転は、車輪WLF、WRFに伝達され、該車輪WLF、WRFが回転させられる。
【0025】
本実施の形態において、前記車両は、前輪駆動方式の構造を有するようになっているが、車輪WLB、WRBが駆動輪として機能する後輪駆動方式、車輪WLF、WRF、WLB、WRBが駆動輪として機能する四輪駆動方式等の構造を有するようにすることもできる。また、前記車両はエンジン12を備えるようになっているが、駆動源として駆動モータを配設し、該駆動モータを駆動することによって発生させられた回転を駆動輪として機能する車輪に伝達したり、駆動源としてエンジン及び駆動モータを配設し、該エンジン及び駆動モータを駆動することによって発生させられた回転を、駆動輪として機能する車輪に伝達したりすることができる。さらに、駆動輪として機能する車輪にホイールモータを配設し、該ホイールモータを駆動することによって発生させられた回転により車輪を直接回転させることができる。
【0026】
また、13は操作者である運転者が車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、14は運転者が車両を加速させるための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は運転者が車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルである。
【0027】
ところで、本実施の形態においては、車輪WLB、WRBに負のキャンバを付与することができるようになっている。
【0028】
そのために、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に、各車輪WLB、WRBにキャンバを付与したり、車輪WLB、WRBへの前記キャンバの付与を解除したり、キャンバのキャンバ角を調整したりするためのキャンバ可変機構としてのアクチュエータ31、32が配設される。
【0029】
本実施の形態においては、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に各アクチュエータ31、32が配設されるようになっているが、ボディ11と車輪WLF、WRFとの間にアクチュエータを配設したり、ボディ11と車輪WLF、WRF、WLB、WRBとの間にアクチュエータを配設したりすることができる。
【0030】
次に、前アクチュエータ31、32を作動させるためのキャンバシステムの構造について説明する。この場合、車輪WLB、WRBの各キャンバシステムの構造は同じであるので、車輪WRB側のアクチュエータ32についてだけ説明する。
【0031】
図6は本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの斜視図、図7は本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの正面図、図8は本発明の実施の形態におけるキャンバシステムの要部を示す平面図である。なお、図6及び8において矢印Aは車両の前方を表す。
【0032】
図において、WRBは車輪、21はホイール、30は懸架装置、32はアクチュエータ、36はタイヤ、38は車輪WRBを保持するためのハブ、39は制動要素としてのディスクブレーキ、43は、前記ハブ38及びディスクブレーキ39を回転自在に支持し、揺動させられる可動部材としての、かつ、揺動部材としての可動プレート(ハブ支持部材)である。前記車輪WRB、懸架装置30、アクチュエータ32等によってキャンバシステムが構成される。
【0033】
前記懸架装置30は、前記ボディ11に配設された第1、第2のサスペンションメンバ101、102、該第1、第2のサスペンションメンバ101、102間に取り付けられたユニット支持部材としてのブラケット103、第1の連結部材としてのアッパアーム104、第2の連結部材としての第1のロワアーム105、第3の連結部材としての第2のロワアーム106、付勢部材としてのスプリング107、ショックアブソーバ108、トレーリングアーム109等を備える。
【0034】
また、前記アクチュエータ32は、前記ブラケット103に固定されたキャンバ制御用のモータ41、前記ブラケット103に対して揺動自在に配設された前記可動プレート43、前記モータ41の回転を減速させるための減速機44、該減速機44と連結され、減速機44によって減速された回転を受けて回転させられるクランク機構45、該クランク機構45と可動プレート43とを連結し、クランク機構45の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換部としての前記アッパアーム104、前記クランク機構45を構成するクランクシャフト45a(図8において二つに分割して示される。)の回転角度、すなわち、クランク角を検出する角度センサ77等を備える。なお、前記アッパアーム104は懸架装置30及びアクチュエータ32を形成する共通の部材である。
【0035】
前記減速機44はプラネタリギヤ機構によって形成され、前記ブラケット103に取り付けられたケース44a、該ケース44aの内周面に取り付けられたリングギヤ44R、前記モータ41の出力軸41aに取り付けられた第1のサンギヤ44Sa、前記リングギヤ44R及び第1のサンギヤ44Saと噛(し)合させられ、第1のサンギヤ44Saの周囲を移動して回転させられる第1のピニオン44Pa、該第1のピニオン44Paを回転自在に支持する第1のピニオンシャフト44b、該第1のピニオンシャフト44bを支持し、前記第1のピニオン44Paが前記第1のサンギヤ44Saの周囲を移動するのに伴って回転させられるキャリヤ44CR、該キャリヤ44CRの回転中心に取り付けられた第2のサンギヤ44Sb、前記リングギヤ44R及び第2のサンギヤ44Sbと噛合させられ、第2のサンギヤ44Sbの周囲を移動して回転させられる第2のピニオン44Pb、該第2のピニオン44Pbを回転自在に支持する第2のピニオンシャフト44c、並びに該第2のピニオンシャフト44cを支持し、前記第2のピニオン44Pbが第2のサンギヤ44Sbの周囲を移動するのに伴って回転させられる出力部材44dを備える。
【0036】
したがって、前記モータ41を駆動すると、出力軸41aに出力された回転は減速させられてキャリヤ44CRに伝達され、キャリヤ44CRの回転が更に減速させられて出力部材44dに伝達される。
【0037】
また、前記クランク機構45は、モータ41の出力軸41aと同一軸上において前記出力部材44dに取り付けられ、前記ブラケット103によって回転自在に支持された前記クランクシャフト45a、及び該クランクシャフト45aに対して偏心させられ、クランクシャフト45aを中心に回転させられるクランクピン45bを備え、該クランクピン45bと前記アッパアーム104とが回転自在に連結される。
【0038】
したがって、モータ41を駆動すると、出力軸41aに出力された回転が減速機44において減速させられ、出力部材44dが回転させられるのに伴ってクランクシャフト45aが回転させられ、前記クランクピン45bと連結されたアッパアーム104が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が傾けられた角度と等しいキャンバ角のキャンバが車輪WRBに付与される。なお、前記クランク機構45及びアッパアーム104によって、てこクランク機構が構成される。
【0039】
また、前記第1のロワアーム105は、水平方向における一方側、本実施の形態においては、ボディ11の中心側の端部の所定の部分に配設された図示されない連結軸によって、第1のサスペンションメンバ101に対して回転自在に連結され、水平方向における他方側、本実施の形態においては、ボディ11の車輪WRB側の端部の所定の部分に配設されたキャンバ軸sh1(連結軸)によって、可動プレート43に対して回転自在に連結される。
【0040】
そして、前記可動プレート43は、鉛直方向における一方側、本実施の形態においては、下端の所定の部分において、前記キャンバ軸sh1によって第1のロワアーム105に対して回転自在に連結され、鉛直方向における他方側、本実施の形態においては、上端の所定の部分に配設された連結軸sh2によって、アッパアーム104に対して回転自在に連結される。したがって、可動プレート43は、ボディ11及びブラケット103に対して揺動自在に支持される。
【0041】
また、スプリング107は、上端において第1のスプリング受け107aを介してボディ11に連結され、下端において図示されない第2のスプリング受けを介して第1のロワアーム105に連結される。
【0042】
そして、ショックアブソーバ108は、上端においてボディ11に、下端において第1のロワアーム105に連結される。
【0043】
さらに、第2のロワアーム106は、水平方向における一方側、本実施の形態においては、ボディ11の中心側の端部の所定の部分に配設された連結軸sh3によって、第1のサスペンションメンバ101に対して回転自在に連結され、水平方向における他方側、本実施の形態においては、ボディ11の車輪WRB側の端部の所定の部分に配設された連結軸sh4によって、可動プレート43に対して回転自在に連結される。なお、第2のロワアーム106は、アライメント時のトウ角を調整するトウコントロールリンクとして機能する。
【0044】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0045】
図1は本発明の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0046】
図において、16はキャンバの付与及び付与の解除の制御を行う第1の制御装置としての制御部、19は車両の全体の制御を行う第2の制御装置としての車両制御部、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAMである。前記制御部16及び車両制御部19は、コンピュータを構成し、各種のデータに基づいて各種の演算及び処理を行う。
【0047】
また、63は車速vを検出する車速検出部としての車速センサ、64は操作者である運転者による前記ステアリングホイール13(図5)の操作量としての、かつ、操舵量としてのステアリング角度γを検出するステアリング操作量検出部としての、かつ、操舵量検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートηを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は車両の横方向の加速度である横加速度gsを検出する第1の加速度検出部としての横加速度センサ、67は車両の前後方向の加速度である前後加速度gfを検出する第2の加速度検出部としての前後加速度センサ、68は前記車輪WLB、WRBに付与されたキャンバθを検出するキャンバ検出部としてのキャンバセンサ、71は運転者による前記アクセルペダル14の操作量としての、かつ、加速操作量としてのアクセルペダル踏込量(アクセル開度)κを検出するアクセルペダル操作量検出部としての、かつ、加速操作量検出部としてのアクセルセンサ、72は運転者による前記ブレーキペダル15の操作量としての、かつ、制動操作量としてのブレーキペダル踏込量(ブレーキストローク)βを検出するブレーキ操作量検出部としての、かつ、制動操作量検出部としてのブレーキセンサ、73は車輪WLB、WRBの図示されない各サスペンション装置のストローク、すなわち、サスストロークσを検出する懸架検出部としてのサスストロークセンサ、75は車輪WLB、WRBに加わる接地荷重fを検出する荷重検出部としての荷重センサ、76はタイヤ36の変形量である潰れ代、すなわち、タイヤ潰れ代εを検出するタイヤ変形量検出部としてのタイヤ潰れ代センサ、77は車輪WLF、WRF、WLB、WRBの回転速度NLF、NRF、NLB、NRBをそれぞれ検出する車輪速度検出部としての車輪速度センサである。なお、前記ステアリングセンサ64に代えて、車両の縦方向(前後方向)に延びる軸に対する車輪WLF、WRFの傾きを表す舵角を検出する舵角センサを配設することができる。その場合、前記舵角が操舵量とされ、舵角センサによって操舵量検出部が構成される。
【0048】
そして、前記サスストロークセンサ73は、ハイトセンサ、磁気センサ等によって構成され、前記荷重センサ75は、サスペンション装置に配設されたロードセル(歪みセンサ)によって構成され、前記タイヤ潰れ代センサ76は、タイヤ36に配設されたロードセル(歪みセンサ)によって構成される。
【0049】
前記車速センサ63、ステアリングセンサ64、ヨーレートセンサ65、横加速度センサ66、前後加速度センサ67、キャンバセンサ68、アクセルセンサ71、ブレーキセンサ72、サスストロークセンサ73、荷重センサ75、タイヤ潰れ代センサ76、車輪速度センサ77等の各センサ、前記ボディ11、アクチュエータ31、32、制御部16、車両制御部19、及び車輪WLB、WRBによってキャンバ制御装置が構成される。
【0050】
ところで、本実施の形態においては、走行安定性及び旋回安定性を高くすることができるように、車両の直進走行時及び旋回時に、アクチュエータ31、32を作動させて、車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの所定の車輪、本実施の形態においては、車輪WLB、WRBに所定の負のキャンバθを付与することができるようになっている。
【0051】
この場合、前記車輪WLB、WRBには、アクチュエータ31、32を作動させない通常の状態、すなわち、初期状態において、車両の仕様で規定された所定の角度のキャンバ、すなわち、基準キャンバαが必要に応じて付与される。したがって、本実施の形態においては、前記基準キャンバαに所定のキャンバが付加され、前記キャンバθが、
−5〔°〕≦θ<0〔°〕
にされる。なお、前記基準キャンバαが負の値を採る場合、基準キャンバαに前記所定のキャンバが付加され、キャンバθの絶対値が大きくされる。
【0052】
次に、車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除したりするための制御部16の動作について説明する。
【0053】
図9は本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第1のメインフローチャート、図10は本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第2のメインフローチャート、図11は本発明の実施の形態における制御部の動作を示す第3のメインフローチャート、図12は本発明の実施の形態における操縦安定キャンバ要否判断処理のサブルーチンを示す図、図13は本発明の実施の形態における直進安定キャンバ要否判断処理のサブルーチンを示す図、図14は本発明の実施の形態における動作速度マップを示す図である。なお、図14において、横軸に車速vを、縦軸に動作速度hを採ってある。
【0054】
まず、制御部16の図示されない判断情報取得処理手段は、判断情報取得処理を行い、前記車輪WLB、WRBにキャンバθを付与したり、車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除したりするために必要な判断情報、本実施の形態においては、車両の状態を表す車両状態、及び運転者による各操作部の操作の状態を表す操作状態を取得する(ステップS1、S2)。
【0055】
そのために、前記判断情報取得処理手段は、前記車速センサ63、ヨーレートセンサ65、横加速度センサ66、前後加速度センサ67、キャンバセンサ68、サスストロークセンサ73、荷重センサ75、車輪速度センサ77等の各センサのセンサ出力を読み込み、車両状態として、前記車速v、ヨーレートη、横加速度gs、前後加速度gf、キャンバθ、サスストロークσ、接地荷重f、回転速度NLF、NRF、NLB、NRB等を取得する。
【0056】
なお、前記判断情報取得処理手段は、前記車速vの変化率(微分)を表す加速度又は減速度を算出したり、前記ヨーレートηの変化率を表すヨーレート変化速度δηを算出したり、前記横加速度gsの変化率を表す横加速度変化速度δgsを算出したり、前記サスストロークσに基づいてロール角を算出したりすることによって、車両状態として、加速度、減速度、ヨーレート変化速度、横加速度変化速度、ロール角等を取得することもできる。
【0057】
次に、前記判断情報取得処理手段は、前記ステアリングセンサ64、アクセルセンサ71、ブレーキセンサ72等の各センサのセンサ出力を読み込み、操作状態として、前記ステアリング角度γ、アクセルペダル踏込量κ、ブレーキペダル踏込量β等を取得する。
【0058】
なお、前記判断情報取得処理手段は、前記ステアリング角度γの変化率を表すステアリング角速度δγ、及び該ステアリング角速度δγの変化率を表すステアリング角加速度を算出したり、アクセルペダル踏込量κの変化率を表す踏込速度、及び該踏込速度の変化率を表す踏込加速度を算出したり、ブレーキペダル踏込量βの変化率を表す踏込速度、及び該踏込速度の変化率を表す踏込加速度を算出したりすることによって、操作状態として、ステアリング角速度δγ、ステアリング角加速度、アクセルペダル14の踏込速度及び踏込加速度、ブレーキペダル15の踏込速度及び踏込加速度等を取得することもできる。
【0059】
また、前記判断情報取得処理手段は、前記ステアリング角度γに代えて、操作状態として、車輪WLF、WRFの舵角を取得したり、舵角の変化率を表す舵角速度、及び該舵角速度の変化率を表す舵角加速度を取得したりすることもできる。
【0060】
ところで、本実施の形態においては、スプリット路上で車両を走行させたり、発進させたりする際に、車輪WLB、WRBに付与されたキャンバθによって車両の状態が不安定にならないようにしている。
【0061】
そのために、前記制御部16の図示されないスプリット路判断処理手段は、スプリット路判断処理を行い、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr(図2)上の摩擦係数μが異なる部分に置かれているかどうかによって、車両がスプリット路上にあるかどうかを判断する(ステップS3、S4)。
【0062】
車両がスプリット路上にあるかどうかを判断する方法は各種存在するが、本実施の形態においては、車輪WLF、WRFの回転速度NLF、NRFをスプリット路判定用の指標とし、回転速度NLF、NRFに基づいて、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれているかどうかを判断する。
【0063】
そのために、前記スプリット路判断処理手段は、車両を停止させたタイミングの直前の回転速度NLF、NRFを読み込み、回転速度NLF、NRFの速度差ΔNFwを算出し、該速度差ΔNFwが閾(しきい)値ΔNFwth以上であるかどうかを判断し、速度差ΔNFwが閾値ΔNFwth以上である場合に、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれていると判断する。
【0064】
本実施の形態においては、回転速度NLF、NRFをスプリット路判定用の指標としているが、車両の駆動力及び制動力に対応させて回転速度NLF、NRFを補正した値をスプリット路判定用の指標とすることができる。
【0065】
なお、車両を停止させたタイミングの直前の回転速度NLB、NRBをスプリット路判定用の指標とし、回転速度NLB、NRBの速度差ΔNBwが閾値ΔNBwth以上であるかどうかによって、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれているかどうかを判断したり、車両を停止させたタイミングの直前の回転速度NLF、NRF、NLB、NRBをスプリット路判定用の指標とし、速度差ΔNFwが閾値ΔNFwth以上であり、かつ、速度差ΔNBwが閾値ΔNBwth以上であるかどうかによって、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれているかどうかを判断したりすることができる。
【0066】
また、車両を停止させたタイミングの直前の回転速度NLF、NRF、NLB、NRB、及び車速vを車輪WLF、WRF、WLB、WRBの回転速度に変換した値vNLF、vNRF、vNLB、vNRBに基づいて、車輪WLF、WRF、WLB、WRBのスリップ率φLF、φRF、φLB、φRB
φLF=(vNLF−NLF)/vNLF
φRF=(vNRF−NRF)/vNRF
φLB=(vNLB−NLB)/vNLB
φRB=(vNRB−NRB)/vNRB
を算出し、スリップ率φLF、φRFをスプリット路判定用の指標とし、スリップ率φLF、φRFの差ΔφFwが閾値ΔφFwth以上であるかどうかを判断し、差ΔφFwが閾値ΔφFwth以上である場合に、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれていると判断したり、スリップ率φLB、φRBをスプリット路判定用の指標とし、スリップ率φLB、φRBの差ΔφBwが閾値ΔφBwth以上であるかどうかを判断し、差ΔφBwが閾値ΔφBwth以上である場合に、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれていると判断したり、スリップ率φLF、φRF、φLB、φRBをスプリット路判定用の指標とし、スリップ率φLF、φRFの差ΔφFwが閾値ΔφFwth以上であり、かつ、スリップ率φLB、φRBの差ΔφBwが閾値ΔφBwth以上であるかどうかを判断し、差ΔφFwが閾値ΔφFwth以上であり、かつ、差ΔφBwが閾値ΔφBwth以上である場合に、車輪WLB、WRBが互いに路面Sr上の摩擦係数μが異なる部分に置かれていると判断したりすることができる。
【0067】
さらに、車両を停止させたタイミングの直前の車輪WLF、WRF、WLB、WRBのキャリパー圧をスプリット路判定用の指標としたり、車両を停止させたタイミングの直前の車輪WLF、WRF、WLB、WRBのトルクをスプリット路判定用の指標としたりすることができる。
【0068】
ところで、本実施の形態においては、車両がスプリット路上にない場合に、あらかじめ設定された所定のキャンバ付与条件が成立したかどうかが判断され、所定のキャンバ付与条件が成立した場合に、前記各アクチュエータ31、32が作動させられ、各車輪WLB、WRBに前記所定の負のキャンバθが付与されるようになっている。
【0069】
すなわち、前記スプリット路判断処理において、車両がスプリット路上にないと判断された場合、制御部16の図示されない第1のキャンバ付与条件成立判断処理手段としての操縦安定キャンバ要否判断処理手段は、第1のキャンバ付与条件成立判断処理としての操縦安定キャンバ要否判断処理を行い、車両の旋回時に、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、前記車両状態及び操作状態に基づいて、旋回用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS5、S6)。
【0070】
そのために、操縦安定キャンバ要否判断処理手段は、前記ステアリング角度γ、ステアリング角速度δγ、横加速度gs、横加速度変化速度δgs、ヨーレートη及びヨーレート変化速度δηを読み込み、ステアリング角度γが閾値γthより大きいかどうかによって第1の条件が成立したかどうかを、ステアリング角速度δγが閾値δγthより大きいかどうかによって第2の条件が成立したかどうかを、横加速度gsが閾値gsthより大きいかどうかによって第3の条件が成立したかどうかを、横加速度変化速度δgsが閾値δgsthより大きいかどうかによって第4の条件が成立したかどうかを、ヨーレートηが閾値ηthより大きいかどうかによって第5の条件が成立したかどうかを、ヨーレート変化速度δηが閾値δηthより大きいかどうかによって第6の条件が成立したかどうかを判断する(ステップS5−1〜S5−6)。
【0071】
この場合、前記第1〜第6の条件のうちの少なくとも一つの条件が成立すると、前記操縦安定キャンバ要否判定処理手段は、旋回用のキャンバ付与条件が成立したと判断する(ステップS5−7)。
【0072】
なお、第2の条件はステアリング角速度δγに基づいて、第4の条件は横加速度変化速度δgsに基づいて、第6の条件はヨーレート変化速度δηに基づいて成立したかどうかが判断されるが、ステアリング角速度δγはステアリング角度γの、横加速度変化速度δgsは横加速度gsの、ヨーレート変化速度δηはヨーレートηの変化率であるので、車両の旋回が開始されたときのステアリング角度γ、横加速度g及びヨーレートηの変化を顕著に表す。したがって、旋回用のキャンバ付与条件が成立したかどうかが迅速に判断されるので、車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を的確に行うことができる。
【0073】
そして、旋回用のキャンバ付与条件が成立した場合、制御部16の図示されないキャンバ付与状態判断処理手段は、キャンバ付与状態判断処理を行い、前記キャンバセンサ68によって検出されたキャンバθである検出キャンバθpを読み込み、該検出キャンバθpが、
−5〔°〕≦θp<0〔°〕
であるかどうかによって、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS7)。
【0074】
車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、制御部16の図示されないキャンバ状態保持処理手段は、キャンバ状態保持処理を行い、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持し(ステップS8)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、制御部16の図示されない第1のキャンバ制御処理手段としてのキャンバ付与処理手段は、第1のキャンバ制御処理としてのキャンバ付与処理を行い、アクチュエータ31、32を作動させて車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS9)。
【0075】
一方、前記操縦安定キャンバ要否判断処理において、旋回用のキャンバ付与条件が成立しないと判断された場合、制御部16の図示されない第2のキャンバ付与条件成立判断処理手段としての直進安定キャンバ要否判断処理手段は、第2のキャンバ付与条件成立判断処理としての直進安定キャンバ要否判断処理を行い、車両の直進走行時に、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、車両状態及び操作状態に基づいて、直進走行用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS10、S11)。そのために、前記直進安定キャンバ要否判断処理手段は、車速vを読み込み、車速vを読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去X〔秒〕間の車速vに基づいて車速算出値、本実施の形態においては、平均車速avを算出するとともに、ステアリング角度γを読み込み、ステアリング角度γを読み込む直前の所定の時間、本実施の形態においては、過去Y〔秒〕間のステアリング角度γに基づいて操舵量算出値、本実施の形態においては、平均ステアリング角度aγを算出し、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さいかどうかを判断する(ステップS10−1)。過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合に、直進安定キャンバ要否判断処理手段は、直進走行用のキャンバ付与条件が成立したと判断する(ステップS10−2)。なお、前記閾値aγthは閾値γthより小さく設定される。
【0076】
そして、直進走行用のキャンバ付与条件が成立した場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS12)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持し(ステップS13)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ付与処理手段は、アクチュエータ31、32を作動させて車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS14)。
【0077】
また、前記直進安定キャンバ要否判断処理において、直進走行用のキャンバ付与条件が成立しないと判断された場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、現在、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS15)。
【0078】
そして、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、制御部16の図示されない第2のキャンバ制御処理手段としてのキャンバ解除処理手段は、第2のキャンバ制御処理としてのキャンバ解除処理を行い、制御部16に内蔵された計時処理部としての図示されないタイマによる計時を開始し、計時を開始してから所定の時間が経過すると(ステップS16)、アクチュエータ31、32を作動させて車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除する(ステップS17)。
【0079】
このように、車両の直進走行時に、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されると、車輪WLB、WRBの各タイヤ36に、互いに対向する方向にキャンバスラストが発生するので、何らかの理由で車両に外力が加わると、外力が加わった側とは反対側の車輪のタイヤ36に大きなキャンバスラストが発生し、該キャンバスラストが復元力として車両に加わる。その結果、走行安定性を高くすることができる。
【0080】
また、車両の旋回時には、車両に遠心力が発生するが、外周側の車輪(車両を左方に旋回させる場合は車輪WRBであり、車両を右方に旋回させる場合は車輪WLBである。)の接地荷重が内周側の車輪(車両を左方に旋回させる場合は車輪WLBであり、車両を右方に旋回させる場合は車輪WRBである。)の接地荷重より大きくなり、外周側の車輪のタイヤ36に発生するキャンバスラストが内周側の車輪のタイヤ36に発生するキャンバスラストより大きくなるので、車両に求心力を発生させることができる。その結果、旋回安定性を高くすることができる。
【0081】
また、前記スプリット路判断処理において車両がスプリット路上にあると判断されると、前記制御部16の図示されないキャンバ可変動作変更処理手段は、キャンバ可変動作変更処理を行い、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作を変更する。そのために、前記キャンバ可変動作変更処理手段の車両走行状態判断処理手段は、車両走行状態判断処理を行い、車速vを読み込み、車速vが閾値vpth以下であるかどうかによって、車両がスプリット路上において走行中であるかどうか、すなわち、車両がスプリット路を走行中であるかどうかを判断する(ステップS18)。なお、前記車両走行状態判断処理手段によって車両停止状態判断処理手段が構成され、該車両停止状態判断処理手段は、車両停止状態判断処理を行い、車速vが閾値vpth以下であるかどうかによって、車両が停止している状態、すなわち、停止状態にあるかどうかを判断する。
【0082】
前記閾値vpthは、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与され、タイヤ36が変形した状態で所定量だけ回転する間、タイヤ36の横剛性及び変形量に応じた横剛性応力Fs(図3)が発生することがない最小の値にされる。なお、前記閾値vpthを0〔km/h〕にすることができる。
【0083】
そして、車両がスプリット路を走行中でないと判断されると、前記キャンバ可変動作変更処理手段は、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作を禁止する。そのために、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、現在、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断する(ステップS19)。車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ可変動作変更処理手段のキャンバ状態保持処理手段は、キャンバ状態保持処理を行い、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持し(ステップS20)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されていない状態に保持する(ステップS21)。
【0084】
また、前記車両走行状態判断処理において、車両がスプリット路を走行中であると判断されると、前記操縦安定キャンバ要否判断処理手段は、車両の旋回時に、前記旋回用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS22、S23)。そして、旋回用のキャンバ付与条件が成立した場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS24)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持し(ステップS25)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ可変動作変更処理手段のキャンバ可変動作遅延処理手段は、キャンバ可変動作遅延処理を行い、車速vを読み込み、前記RAM62に形成された、図14に示される動作速度マップを参照し、車速vに対応するアクチュエータ31、32の動作速度h(すなわち、キャンバθの付与速度)を読み出し、取得することによって、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作である車輪WLB、WRBに対するキャンバθの付与動作を遅延させる(ステップS26)。
【0085】
この場合、動作速度hは車速vの関数、本実施の形態においては、一次関数で表され、車速vに比例して動作速度hが変化させられ、車速vが高いほど動作速度hが高く、車速vが低いほど動作速度hが低くされる。
【0086】
続いて、前記キャンバ可変動作変更処理手段のキャンバ付与処理手段は、キャンバ付与処理を行い、アクチュエータ31、32を動作速度hで作動させて車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS27)。
【0087】
本実施の形態においては、車輪WLB、WRBにキャンバθを付与するためのアクチュエータ31、32の動作を調整するために、車速vに対応させて動作速度hを変更するようになっているが、車速vに対応させて、アクチュエータ31、32の動作時間tを変更することができる。その場合、動作時間tは車速vの関数、例えば、一次関数で表され、車速vに比例して動作時間tが変化させられ、車速vが高いほど動作時間tが短く、車速vが低いほど動作時間tが長くされる。
【0088】
一方、前記操縦安定キャンバ要否判断処理において、前記旋回用のキャンバ付与条件が成立しないと判断された場合、前記直進安定キャンバ要否判断処理手段は、車両の直進走行時に、前記車両状態及び操作状態のうちの少なくとも一方、本実施の形態においては、車両状態及び操作状態に基づいて、前記直進走行用のキャンバ付与条件が成立したかどうかを判断する(ステップS28、S29)。そして、直進走行用のキャンバ付与条件が成立した場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS24)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持し(ステップS25)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ可変動作遅延処理手段は、車輪WLB、WRBに対するキャンバθの付与動作を遅延させ(ステップS26)、前記キャンバ付与処理手段は、前記アクチュエータ31、32を動作速度hで作動させて車輪WLB、WRBにキャンバθを付与する(ステップS27)。
【0089】
また、前記直進安定キャンバ要否判断処理において、前記直進走行用のキャンバ付与条件が成立しない場合、前記キャンバ付与状態判断処理手段は、前記検出キャンバθpを読み込み、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されているかどうかを判断し(ステップS30)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されている場合、前記キャンバ可変動作遅延処理手段は、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作である車輪WLB、WRBに対するキャンバθの解除動作を遅延させ(ステップS31)、前記キャンバ解除処理手段は、前記アクチュエータ31、32を動作速度hで作動させて車輪WLB、WRBへのキャンバθの付与を解除し(ステップS32)、車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されていない場合、前記キャンバ状態保持処理手段は、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されていない状態に保持する(ステップS33)。
【0090】
このように、本実施の形態においては、車両がスプリット路上にある場合に、車輪WLB、WRBがキャンバθが付与されている状態に保持されるか、車輪WLB、WRBがキャンバθが付与されていない状態に保持されるか、又は車輪WLB、WRBに対するキャンバθの付与動作若しくは解除動作が遅延させられるので、スプリット路上で車両の状態が不安定になることがない。
【0091】
なお、本実施の形態においては、車両がスプリット路上にある場合に、車両がスプリット路を走行中でないと判断されると、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作が禁止され、車輪WLB、WRBがキャンバθが付与されている状態に保持されるか、又は車輪WLB、WRBがキャンバθが付与されていない状態に保持されるようになっているが、車両がスプリット路を走行中であると判断されても、アクチュエータ31、32によるキャンバ可変動作を禁止し、車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されている状態に保持するか、又は車輪WLB、WRBをキャンバθが付与されていない状態に保持することができる。
【0092】
また、本実施の形態においては、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合に車輪WLB、WRBにキャンバθが付与されるようになっているが、車両にナビゲーション装置が搭載されている場合は、現在地検出部としてのGPSセンサによって車両の自車位置を検出し、自車位置が高速道路、幹線道路等の道路上にあり、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合に、車輪WLB、WRBにキャンバθを付与するようにすることができる。
【0093】
その場合、ナビゲーション装置において、ナビゲーション用の制御部の自車位置判断処理手段は、自車位置判断処理を行い、情報記録部に記録された地図データに基づいて、自車位置が高速道路、幹線道路等の道路上にあるかどうかを判断し、判断結果を前記制御部16に送る。そして、前記直進安定キャンバ要否判断処理は、自車位置が高速道路、幹線道路等の道路上にあり、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合に、キャンバ付与条件が成立したと判断する。また、前記直進安定キャンバ要否判断処理手段は、ナビゲーション装置が交通情報センタ等から取得した交通情報等を読み込み、該交通情報等に基づいて道路に渋滞が発生しているかどうかを判断し、自車位置が高速道路、幹線道路等の道路上にあり、該道路に渋滞が発生しておらず、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合に、キャンバ付与条件が成立したと判断する。
【0094】
そして、本実施の形態においては、前記操縦安定キャンバ要否判断処理手段によって、ステアリング角度γが閾値γth以上であるかどうかが判断され、ステアリング角度γが閾値γth以上である場合に、前記キャンバ付与条件が成立したと判断されるようになっているが、操舵量算出値として平均ステアリング角度aγを算出し、該平均ステアリング角度aγが閾値aγth以上であるかどうかを判断し、平均ステアリング角度aγが閾値aγth以上である場合に、前記キャンバ付与条件が成立したと判断することができる。
【0095】
また、本実施の形態においては、前記直進安定キャンバ要否判断処理手段によって、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さいかどうかが判断され、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間の平均ステアリング角度aγが閾値aγthより小さい場合、前記キャンバ付与条件が成立したと判断されるようになっているが、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間にステアリング角度γが閾値γth以上にならなかったかどうかを判断し、過去X〔秒〕間の平均車速avが閾値avth以上であり、かつ、過去Y〔秒〕間にステアリング角度γが閾値γth以上にならなかった場合に、前記キャンバ付与条件が成立したと判断することができる。
【0096】
さらに、本実施の形態においては、車輪WLB、WRBにキャンバθを付与することによって、走行安定性及び旋回安定性が高くされるので、前記タイヤ36として、後述される損失正接を小さくすることにより、タイヤ36のトレッドの変形によって発生する転がり抵抗が小さくされた低転がり抵抗タイヤを使用することができ、燃費を良くすることができる。
【0097】
低転がり抵抗タイヤを使用したタイヤ36においては、タイヤ36の幅が通常(標準)のタイヤより小さくされ、トレッドの溝のパターンであるトレッドパターンが、転がり抵抗が小さくなるような形状にされたり、少なくともトレッドの部分の材料が、転がり抵抗が小さいものにされたりする。
【0098】
なお、前記損失正接は、トレッドが変形する際のエネルギーの吸収の度合いを表し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどトレッドが変形することによるエネルギーの吸収が少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗は小さくなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどトレッドによるエネルギーの吸収が多くなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗は大きくなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0099】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0100】
11 ボディ
16 制御部
19 車両制御部
31、32 アクチュエータ
63 車速センサ
64 ステアリングセンサ
65 ヨーレートセンサ
66 横加速度センサ
67 前後加速度センサ
68 キャンバセンサ
71 アクセルセンサ
72 ブレーキセンサ
73 サスストロークセンサ
75 荷重センサ
76 タイヤ潰れ代センサ
77 車輪速度センサ
WLF、WRF、WBL、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、
該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、
該各車輪のうちの所定の車輪に配設され、車輪にキャンバを付与するためのキャンバ可変機構と、
車両がスプリット路上にあるかどうかを判断するスプリット路判断処理手段と、
該スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作を変更するキャンバ可変動作変更処理手段とを有することを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、前記キャンバ可変動作変更処理手段は、前記キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作を禁止する請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記スプリット路判断処理手段によって車両がスプリット路上にあると判断された場合に、車両がスプリット路を走行中であるかどうかを判断する車両走行状態判断処理手段を有するとともに、
前記キャンバ可変動作変更処理手段は、前記車両走行状態判断処理手段によって車両がスプリット路を走行中であると判断された場合に、キャンバ可変機構によるキャンバ可変動作を遅延させる請求項1又は2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
前記キャンバ可変動作変更処理手段は、車速が低いほどキャンバ可変機構の動作速度を低くする請求項3に記載のキャンバ制御装置。
【請求項5】
前記所定の車輪は後輪である請求項1〜4のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−228936(P2012−228936A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98069(P2011−98069)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】