説明

コンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法

【課題】下部電極及び上部電極からなるコンデンサが内蔵されたコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法において、コンデンサ絶縁層及び低誘電率の層間絶縁膜をそれぞれ必要な箇所のみに容易に形成することのできる製造方法を得る。
【解決手段】下記の(A)〜(E)の工程を含むコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法である。
(A)基材に下部電極13を形成する工程。(B)下部電極13に対して、高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層17を選択的に形成する工程。(C)基材のコンデンサ絶縁層17を除く箇所に、低誘電率材料からなる第2絶縁層21を選択的に形成する工程。(D)コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21の表面を研磨する工程。(E)コンデンサ絶縁層17の上に、下部電極に対応させて上部電極25を形成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンデンサ素子が内蔵されたコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板において、部品の高密度実装等を目的として、コンデンサ素子を内蔵させる技術がある(特許文献1または2を参照)。これらコンデンサ内蔵多層プリント配線板では、コンデンサ素子として、下部電極及び上部電極が高誘電体層を介して配置されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−15928号公報
【特許文献2】特開2003−110214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板は、コンデンサ素子の誘電体として作用する高誘電体層の誘電率が同一絶縁層の面で全体に渡って同一である。この場合、不必要な箇所まで高誘電体層が存在することとなるので、この多層プリント配線板を高周波の用途に用いる場合、伝送特性が劣化する等の問題が生じることがある。従って、高誘電体層は、全面に渡って形成されていない、必要な箇所のみに形成されていることが望ましい。
【0005】
特許文献2に記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板は、下部電極の上に高誘電体層を選択的に形成し、さらに、その上に低誘電率の層間絶縁膜を積層し、この層間絶縁膜を研磨して、高誘電体層を露出させることにより、高誘電体層を必要な箇所のみに形成することとしている。この技術は、低誘電率の層間絶縁膜と高誘電率ペースト材料よりなるコンデンサ絶縁層との密着力不足や間隙の発生を抑制することを目的としている。
【0006】
しかし、この方法では層間絶縁層を積層する際にうねりや凹凸が発生する。特許文献2に記載の技術では、これらうねりや凹凸は、圧力条件、温度条件、多段プレス等の積層またはラミネートの条件を調整することにより平坦にすることとしているため、工程の増加、複雑化、条件調整の手間の煩雑化という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、コンデンサ絶縁層及び低誘電率の層間絶縁膜をそれぞれ必要な箇所のみに容易に形成することのできるコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のための第1の発明は、下記の(A)〜(E)の工程を含むコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法である。
(A)基材に下部電極を形成する工程。
(B)高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層を下部電極に対して選択的に形成する工程。
(C)低誘電率材料からなる第2絶縁層を基材のコンデンサ絶縁層を除く箇所に選択的に形成する工程。
(D)コンデンサ絶縁層及び第2絶縁層の表面を研磨する工程。
(E)コンデンサ絶縁層の上に、下部電極に対応させて上部電極を形成する工程。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、(B)の工程は、第1マスクパターンを用いて高誘電率材料を塗布する工程を含むものである。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、(C)の工程は、第2マスクパターンを用いて低誘電率材料を塗布する工程を含むものである。
【0011】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、(E)の工程は、コンデンサ絶縁層の上に銅めっきを施すことにより形成した導体層をエッチングして上部電極を形成する工程を含むものである。
【0012】
第5の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、(E)の工程は、上部電極を導電性ペースト材料の塗布により形成する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンデンサ内蔵多層プリント配線板を製造するに際し、コンデンサ絶縁層及び第2絶縁層をそれぞれ必要な箇所のみに容易に形成することができ、さらに、上部電極の形成も容易である。そして、この製造方法により製造されたコンデンサ内蔵多層プリント配線板は、必要な箇所のみに高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層が形成されているので、高周波の電気特性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法を図面を参照して説明する。詳しくは、図1は、基材に下部電極を形成する工程を示す図である。図2は、高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層を下部電極に対して選択的に形成する工程を示す図である。図3は、低誘電率材料からなる第2絶縁層を基材のコンデンサ絶縁層を除く箇所に選択的に形成する工程を示す図である。図4は、コンデンサ絶縁層及び第2絶縁層の表面を研磨する工程を示す図である。図5は、コンデンサ絶縁層の上に、下部電極に対応させて上部電極を、銅めっきにより形成する工程を示す図である。図6は、コンデンサ絶縁層の上に、下部電極に対応させて上部電極を、導電性ペーストの塗布により形成する工程を示す図である。なお、これら図面はすべて、上記の下部電極及び上部電極からなるコンデンサ素子の箇所の断面を拡大して示すものである。
【0015】
(A)基材に下部電極を形成する工程
図1の(A)−1に示すように、基材12の両面に銅箔10が積層されて構成された積層板11を用意する。この積層板11はプリント配線板製造用の市販品を用いることができ、例えばガラスエポキシ銅貼基材を使用することができる。
【0016】
次いで、図1の(A)−2に示すように銅箔10の不必要な箇所をエッチングにより除去し、下部電極13を形成する。この下部電極13、及び、後に説明するコンデンサ絶縁層との密着強度を向上させるために、この下部電極13の表面にマイクロエッチングを施して、下部電極13の表面を粗化処理してもよい。なお、図1の(A)−2では下部電極13を基材12の上面にのみ形成した状態を示している。この下部電極13は、製造されるべきコンデンサ内蔵多層プリント配線板の設計仕様により、基材12の上面及び下面のいずれにも形成することができる。
【0017】
(B)下部電極13に対して、高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層を選択的に形成する工程
図2の(B)−1に示すように、下部電極13に対し、高誘電率材料14を、第1マスクパターン15を用いてスキージ16により、厚みが25μmとなるように下部電極13の上に塗布する。高誘電率材料14は、チタン酸バリウム等、誘電率の高いフィラーを含有するものであって、例えばインシュコートH(日本ペイント社製、商品名)を用いることができる。この高誘電率材料14の粘度は30000〜40000mPa・s(25℃、5.0rpm)が好ましく、粘度をこの範囲とすることで、液がだれることなく、良好に塗布することができる。
【0018】
第1マスクパターン15としては、例えばメッシュスクリーンを使用することができる。この第1マスクパターン15には、高誘電率材料14が下部電極13の平面形状とほぼ同じ平面形状に塗布され、かつ、この下部電極13を完全に覆うように塗布される印刷パターンを形成しておく。この第1マスクパターン15を介して高誘電率材料14を下部電極13の上に塗布することにより、高誘電率材料14がこの下部電極13と略同じ平面形状で下部電極13の上に塗布される。
【0019】
次いで、図2の(B)−2に示すように、高誘電率材料14を加熱して硬化させ、コンデンサ絶縁層17を形成する。これら図2の(B)−1及び(B)−2に示す工程により、コンデンサ絶縁層17が下部電極13に対して選択的に形成される。
【0020】
(C)基材12のコンデンサ絶縁層17を除く箇所に、低誘電率材料からなる第2絶縁層を選択的に形成する工程
図3の(C)−1に示すように、低誘電率材料18を、第2マスクパターン19を用いてスキージ20により、厚みが(25μm+銅箔10の厚み)となるよう基材12の上に塗布する。低誘電率絶縁材18としては、市販のエポキシ樹脂やポリオレフィン樹脂等を用いることができ、例えば、アンダーコートUC3000(山栄化学株式会社製、商品名)を用いることができる。さらに、図3の(C)−1に示す基材12の下部側にも上記と同じようにして低誘電率材料を塗布する(図示せず)。
【0021】
ここで使用する第2マスクパターン19は、第1マスクパターン15と同様、例えばメッシュスクリーンを使用することができる。この第2マスクパターン19には、基材12に対してコンデンサ絶縁層17を除く箇所に低誘電率材料18が塗布されるような印刷パターンを形成しておく。さらに、この印刷パターンは、コンデンサ絶縁層17の平面形状に対して低通電率材料18が平面方向に0.1mm程度かぶるよう印刷されるパターンとする。これは、高誘電率材料14及び低誘電率材料18の界面の隙間をなくすためである。
【0022】
次いで、図3の(C)−2に示すように、基材12の両面塗布した低誘電率材料18を加熱して硬化させ、第2絶縁層21を形成する。これにより、第2絶縁層21がコンデンサ絶縁層17を除く箇所に選択的に形成される。なお、第2絶縁層21を形成する際にコンデンサ絶縁層17との境目に凸部22が生じることがある。この凸部22は除去する必要があり、この除去については後述する。
【0023】
(D)コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21の表面を研磨する工程
図4の(D)に示すように、コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21の表面を砥材23により研磨し、前述の凸部22を除去するとともに、コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21を一様平坦に仕上げる。コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21はそれぞれ硬度が異なるため、砥材23としては、例えばセラミックのような表面硬度が高く追従性の弱いものを用いる。また、研磨作業時においては、研磨ばらつきを低減し平坦性を向上させるため、研磨の際に研磨方向を変えることが望ましい。
【0024】
続いて、上記の工程により得られた積層体に対し、製造すべきコンデンサ内蔵多層プリント配線板の設計仕様に従って穴を空ける(図示せず)。
【0025】
(E)コンデンサ絶縁層17の上に、下部電極13に対応させて上部電極を形成する工程。
図5の(E)−1に示すように、コンデンサ絶縁層17及び第2絶縁層21の表面に、ニッケルまたはニッケル合金の導電体層(図示せず)を無電解めっき法、またはスパッタ法により形成した後、さらに、この導電体層の上に、電気銅めっきにより導体層24を形成する。これにより、表層に導体層24が形成されるとともに、穴にはスルーホールめっきが施される(図示せず)。
【0026】
次いで、図5の(E)−2に示すように、導体層24の不要箇所をエッチングにより除去し、下部電極13に対応した箇所に上部電極25を形成する。この工程により、下部電極13及び上部電極25によるコンデンサ素子が形成される。またさらに、このエッチングにより、その他必要な信号配線を形成する(図示せず)。
【0027】
次いで、製造すべきコンデンサ内蔵多層プリント配線板が4層構造であれば、以降、この上にソルダーレジスト層形成、文字印刷、及び外形加工等の各処理を行い、目的とするコンデンサ内蔵多層プリント配線板を仕上げる。
【0028】
また、図5の(E)−1に示す工程において、前述の銅めっきによる工程に代えて、導電性ペースト材料を塗布することにより、上部電極25を形成することもできる。詳しくは、図6の(F)−1に示すように、第2絶縁層21が形成された基材12に対し、第3マスクパターン26により、導電性ペースト材料27を20〜30μmの厚みとなるよう、スキージ28で塗布する。この導電性ペースト材料27としては、例えば、日本ペイント防食コーティングス株式会社製、S−5000(商品名)を用いることができる。
【0029】
次いで、図6の(F)−2に示すように、塗布した導電性ペースト材料27加熱して硬化させ、上部電極29を形成する。そして、プリプレグを積層加熱することにより絶縁層30を形成し、さらに、絶縁層30の上に銅めっきを施すことにより導電体層31を形成する。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
6層構造であって、第2層に上部電極を、第3層に下部電極を形成した実施例1のコンデンサ内蔵多層プリント配線板を製作した。具体的には、上部電極及び下部電極の面積を900mmとし、高誘電率材料として誘電率ε=32のインシュコートH(詳細前述)を用い、厚み25μmとした。
【0031】
(実施例2)
実施例1において、高誘電率材料として誘電率ε=50のインシュコートHを用いた以外は同じ条件とした実施例2のコンデンサ内蔵多層プリント配線板を製作した。
【0032】
(比較例)
実施例1において、コンデンサ素子を形成しない以外は同じ条件で比較例の多層プリント配線板を製作した。
【0033】
これら実施例1及び2のコンデンサ内蔵多層プリント配線板と、比較例の多層プリント配線板の共振特性を測定した。具体的には、これらプリント配線板の電極の端から端までを、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E5071B)を用いて、10MHz〜1GHzまでのS21を測定した。このS21は伝送損失であって、このS21が大きいほど共振が小さいものである。
【0034】
(ノイズ特性)
これらプリント配線板にLSI(ルネサステクノロジー社製、SH7058S)を実装し、20MHzで動作させながら、放射されるノイズ(100〜300MHz間)を、IEC61967−5によるコモンモードノイズ測定法により測定した。この測定法は、IEC SC47Aによって提案されたワークベンチファラデーケージを用いた電磁波測定手法であって、本発明においてはワークベンチファラデーゲージとして富士ゼロックスエンジニアリング製、FC−1000を、測定用ソフトウエアとして株式会社東陽テクニカ製、EP6/FCを用いた。測定結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

注1:絶縁層厚み80μmでの測定結果
注2:32dBμV以下は測定不能
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】基材に下部電極を形成する工程を示す図。
【図2】高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層を下部電極に対して選択的に形成する工程を示す図。
【図3】低誘電率材料からなる第2絶縁層を基材のコンデンサ絶縁層を除く箇所に選択的に形成する工程を示す図。
【図4】コンデンサ絶縁層及び第2絶縁層の表面を研磨する工程を示す図。
【図5】コンデンサ絶縁層の上に、下部電極に対応させて上部電極を、銅めっきにより形成する工程を示す図。
【図6】コンデンサ絶縁層の上に、下部電極に対応させて上部電極を、導電性ペーストの塗布により形成する工程を示す図。
【符号の説明】
【0037】
10 銅箔
11 積層板
12 基材
13 下部電極
14 高誘電率材料
15 第1マスクパターン
16 スキージ
17 コンデンサ絶縁層
18 低誘電率材料
19 第2マスクパターン
20 スキージ
21 第2絶縁層
22 凸部
23 砥材
24 導体層
25 上部電極
26 第3マスクパターン
27 導電性ペースト材料
28 スキージ
29 上部電極
30 絶縁層
31 導電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(E)の工程を含むことを特徴とするコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法。
(A)基材に下部電極を形成する工程。
(B)高誘電率材料からなるコンデンサ絶縁層を上記下部電極に対して選択的に形成する工程。
(C)低誘電率材料からなる第2絶縁層を上記基材の上記コンデンサ絶縁層を除く箇所に選択的に形成する工程。
(D)上記コンデンサ絶縁層及び上記第2絶縁層の表面を研磨する工程。
(E)上記コンデンサ絶縁層の上に、上記下部電極に対応させて上部電極を形成する工程。
【請求項2】
前記(B)の工程は、第1マスクパターンを用いて前記高誘電率材料を塗布する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記(C)の工程は、第2マスクパターンを用いて前記低誘電率材料を塗布する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記(E)の工程は、前記コンデンサ絶縁層の上に銅めっきを施すことにより形成した導体層をエッチングして前記上部電極を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記(E)の工程は、前記上部電極を導電性ペースト材料の塗布により形成する工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のコンデンサ内蔵多層プリント配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−130779(P2008−130779A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313699(P2006−313699)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【出願人】(591074091)株式会社野田スクリーン (17)
【Fターム(参考)】