説明

コンバインの無段変速走行制御装置

【課題】主変速レバーについて負荷に対応した煩わしい調節操作を要することなく、適切な加速によって安定かつ能率の良い走行が可能ととなるコンバインの無段変速走行制御装置を提供する。
【解決手段】コンバインの無段変速走行制御装置は、主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで連続的に単純増速する変速特性によって無段変速機構を制御する車速指示手段(1a)を備えて構成され、上記主変速レバーの所定の中間操作位置(P1)までの変速特性をエンジンの回転数に応じて変化させる構成としたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主変速レバーの操作位置に応じて連続的に変速制御するコンバインの無段変速走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで連続的に変速制御するコンバインの無段変速走行制御装置が知られている。例えば、特許文献1に示す無段変速走行制御装置は、主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで直線パターンの変速特性によって無段変速機を制御する車速指示手段を備えることにより、主変速レバーの操作に応じてコンバインをスムーズに変速走行することができる。
【特許文献1】特許第3769981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、コンバインの刈取運転等の際に、脱穀負荷、刈取負荷、走行負荷等による過大な負荷変動を受けるとエンジン回転が低下し、この場合においてオペレータが走行車速を確保するべく主変速レバーを大きく増速操作すると、負荷の増大によってエンジン回転が更に低下することとなり、走行の不安定化を招くという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、主変速レバーについて負荷対応の煩わしい調節操作を要することなく、適切な加速によって安定かつ能率の良い走行が可能ととなるコンバインの無段変速走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで連続的に単純増速する変速特性によって無段変速機構を制御する車速指示手段を備えるコンバインの無段変速走行制御装置において、上記主変速レバーの所定の中間操作位置までの変速特性をエンジンの回転数に応じて変化させる構成としたことを特徴とする。
上記構成の無段変速走行制御装置は、エンジンの回転数と対応する可変特性に沿って車速を変速制御することから、主変速レバーによる増速度(レバー操作による増速の程度)がエンジンの回転数に依存することとなり、すなわち、エンジンが低回転の場合は中間操作位置まで増速度が低く抑えられ、逆に、エンジンが高回転の場合は増速度が高くなる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記変速特性は、エンジンの回転数が定格回転数未満で所定の下限回転数を越える範囲について複数の回転数区分を設け、その区分毎に代表回転数と対応して中間操作位置で中折れする折線パターンを適用することを特徴とする。
上記構成の無段変速走行制御装置は、エンジンの回転数が定格回転数未満で下限回転数を越える場合のレバー操作に限り、エンジン回転数区分に応じた簡易な折線パターンの変速特性によって変速制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
請求項1のコンバインの無段変速走行制御装置は、主変速レバーによる増速度(レバー操作による増速の程度)がエンジンの回転数に依存し、すなわち、エンジンが低回転の場合は主変速レバーの所定の中間操作位置まで増速度が低く抑えられ、逆に、エンジンが高回転の場合は増速度が高くなることから、脱穀負荷、刈取負荷、走行負荷等による過大な負荷変動の有無にかかわらず、変速レバーの特段の操作を要することなく、エンジン回転に応じた適正な加速が可能となるので、スムーズな走行性やエンジン負荷による排ガスの低減が可能となる。
【0008】
請求項2のコンバインの無段変速走行制御装置は、請求項1の効果に加え、エンジンの回転数が定格回転数未満で下限回転数を越える場合のレバー操作について、エンジン回転数区分に応じた簡易な折線パターンによる変速特性により、負荷に応じて安定走行を簡易に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
本発明の適用対象となるコンバインは、主要構成として、圃場から穀稈を刈取る刈取部、刈取った穀稈を受けて脱穀選別する脱穀部、脱穀選別された穀粒を貯留する収納部、貯留された穀粒を機外に排出するオーガ機構による排出部等の各種の作業機と、走行手段である左右のクローラと、上記作業機および機体走行を操作するための操縦部等を備える。また、機体内には、コンバインの原動部であるエンジンとその制御装置、HSTと略称されて上記クローラの動力を前後進無段変速する静油圧式無段変速機構を組み込んだ走行伝動装置等を備える。
【0010】
上記操縦部に構成した運転台には、オペレ―タの座席を中心に、モニターパネルおよびHSTレバーと略称される前後進変速用の車速コントロールレバーである主変速レバー、機体の左右旋回と刈取部の昇降をワンレバーに構成したパワステレバー、各種作業機器の操作のための各種のスイッチや操作レバー等が配置されるほか、これら操作具による操作信号および機器のセンサー信号によってエンジンを含む諸機器を制御する制御装置を備える。
【0011】
(車速制御)
制御装置1は、図1のシステム構成図に示すように、無段変速走行制御装置の要部を構成する車速指示手段1aを備え、通信系2を介してHST制御部3と接続し、このHST制御部3により、走行伝動装置を構成する無段変速機構のトラニオン軸を駆動制御して走行車速を制御可能に構成することにより、車速指示手段1aの制御指令に沿ってコンバインの変速走行を制御する無段変速走行制御装置を構成する。
【0012】
また、制御装置1には、ポテンショセンサーによる主変速レバーセンサー4および回転数検出センサーによるエンジン回転センサ5の信号を入力するほか、車速自動制御のスイッチ、刈取機器や排出機器の動作に必要なスイッチ、センサー類の信号を入力する。
【0013】
車速指示手段1aにおける車速制御について詳細に説明すると、主変速レバーの増速操作により増速走行する際に、所定のレバー位置までの車速の増速量がエンジン回転数に応じて変化するように、レバー操作と車速との対応を規定する変速特性を可変に構成する。
【0014】
すなわち、図2の変速特性線図に示すように、主変速レバーの中立位置P0から前進(後進)の最高速位置P2(P4)までの増速操作について、所定の中間操作位置P1(P3)で中折れして停止速から最高速まで連続的に変速する折線パターンを設け、この折線パターンは、エンジンの回転が低くなるにつれて折点の車速を低くすることにより、折点までの傾斜が緩くなるように可変の変速特性を設定する。
【0015】
具体的には、変速特性は、エンジンの回転数が定格回転数を越える場合の増速操作について、主変速レバーの操作量と比例して停止速から最高速まで直線状に増速する直線パターンAとし、また、エンジンの回転数が定格回転数未満で走行に適する所定の下限回転数を越える回転数範囲を複数のランクに区分し、上記直線パターンAより低車速の範囲で折線パターンの折点P1の車速をランク毎の代表回転数と対応して定め、回転数のランクに応じて複数の折線パターンB〜Dを設定する。
【0016】
回転数のランクは、例えば、刈取開始時等の相当負荷範囲としてエンジン回転数が定格値未満で90%を越える軽負荷範囲、刈取再開時等の相当負荷範囲としてエンジン回転数が定格値の90%未満で80%を越える中負荷範囲、機体旋回時等の相当負荷範囲としてエンジン回転数が定格値の80%未満で機体走行に適する所定の下限値を越える重負荷範囲に区分する。これら各ランクの代表回転数に対応して折点の車速を定めることにより、主変速レバーの所定の中間操作位置P1で中折れする折線パターンを定める。
【0017】
上記構成の無段変速走行制御装置1により、エンジンの回転数が定格回転数を越えている場合の増速操作では、主変速レバーの操作量と車速とが比例する直線パターンAに沿って軽快に増速され、一方、定格回転数未満で下限回転数を越える場合の増速操作にあっては、レバー操作による増速の程度を表す増速度が、中間操作位置P1までエンジン回転数に応じた緩い傾斜により直線パターンAより低く抑えられることから、負荷状況に対応して安定した加速制御が可能となる。
【0018】
このように、主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで連続的に単純増速する変速特性で無段変速機を変速制御するコンバインの無段変速走行制御装置において、主変速レバーの所定の中間操作位置P1の車速がエンジンの回転数と対応するように可変特性B〜Dを導入することにより、主変速レバーを増速操作した際の増速度がエンジンの回転数に依存することとなり、すなわち、エンジンが低回転の場合は主変速レバーの所定の中間操作位置まで増速度が低く抑えられ、逆に、エンジンが高回転の場合は増速度が高くなり、脱穀負荷、刈取負荷、走行負荷等の大きな負荷変動を受けるコンバインの運転に際して、負荷変動によることなく、通常のレバーによってもエンジン回転に応じた適正な加速走行が可能となるので、スムーズな走行性やエンジン負荷による排ガスの低減が可能となる。
【0019】
また、後進走行については、前進走行と同様に、所定の中間操作位置P3の車速がエンジン回転対応する変速特性A〜Dを導入するとともに、前進と後進の最高車速について差を設け、すなわち、主変速レバーの最高速位置P4の最高車速を前進より低速に設定することにより、後進時の加速が抑えられて安定操作を確保することができる。
【0020】
次に、減速操作の際の主変速レバーの制御特性については、図3の変速特性線図に示すように、レバー操作による減速の程度を表す減速度について、レバーの最高速位置P2から所定位置までの範囲でエンジン回転数と対応させ、具体的には、前述のエンジン回転数の各区分について代表回転数に応じて減速度を設定する。すなわち、定格回転以上では最高速位置P2から停止速位置P0まで一定傾斜で減速する直線パターンAとし、回転数が低くなるにつれて、当初の傾斜を緩くして所定位置までの減速度を緩和する。
このように、主変速レバーについての減速度をエンジン回転数に応じて可変とする変速特性により、一律の減速操作によってもエンジン回転数に応じた減速となることから、スムーズな減速または停車が可能となる。
【0021】
なお、上記変速特性は、折線パターンに限られず、滑らかに変化する曲線パターンとすることにより、増速度、減速度の変化の滑らかな操作性を得ることができ、また、多数の回転数区分を設けることにより、負荷の大きさに対して連続的な特性とすることができる。
【0022】
次に、刈取作業における車速制御について説明する。
刈取作業における車速制御は、刈脱モノレバーが「オン」で減速モードを記憶することにより、所定の条件で自動減速が適用または解除される。すなわち、刈取作業における車速制御のフローチャートを図4に示すように、刈取部と脱穀部を稼動して刈脱モノレバーが「入り」の状態で所定車速以上の刈取作業走行中において、刈取昇降レバー操作の判定処理(S1)および穀稈検出センサの判定処理(S2)がいずれも非検出判定の場合に、減速制御処理(S3)によって所定車速以下まで減速するように制御処理を構成する。この制御処理により、刈取作業における刈終わりとともに自動減速されることから、従来制御(例えば、特開平5−95722号公報)の場合に避けられない畦等への突っ込みを防止することができる。
【0023】
上記制御処理による減速制御において、刈取昇降レバー操作の判定処理(S1)により、一定時間以上に及ぶ刈取昇降レバーの操作を検出した時に、減速制御の解除処理(S4)によりオペレータが設定した作業車速に戻すように制御処理を構成することにより、オペレータが意図している再度の刈取に備えることができる。また、穀稈検出センサの判定処理(S2)によって穀稈検出センサが再び「オン」を検出した時に、減速制御の解除処理(S4)によって作業車速に戻すように制御処理を構成することにより、作業車速に自動復帰されることから、オペレータによる意思表示としての主変速レバーの操作を要することなく、刈取作業の再開に備えることができる。
【0024】
次に、停車状態で所定の作業をする場合の車速制御は、そのフローチャートを図5に示すように、駐車ペダル操作の判定処理(S11)または掻込ペダル操作の判定処理(S12)のいずれかが検出判定の時に、車速が停車値を越える範囲における停車指令処理(S13,S14)によって無段変速機の走行動力を停止する制御処理を構成することにより、停車状態で所定の作業をするための停車作業具である駐車ペダルや掻込ペダルの操作の際に、走行操作具である主変速レバーによる減速停車操作を要することなく、確実に停車して安全性を確保した上で所望の駐車作業、掻込作業を行うことができる。
【0025】
また、上記停車作業の場合において、駐車ペダルまたは掻込ペダルが解除された時は、主変速レバーの停車位置判定処理(S15)が非該当判定であれば、停車指令処理(S14)を継続するように制御処理を構成することにより、主変速レバー位置と対応する走行動力による急発進を回避することができる。
なお、上記主変速レバーの停車位置判定処理(S15)が該当判定の場合に限って停車フラグをリセットすることにより、主変速レバーを停車位置に操作した後における走行変速操作を可能に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】車速制御のシステム構成図
【図2】増速操作の変速特性線図
【図3】減速操作の変速特性線図
【図4】刈取作業における車速制御のフローチャート
【図5】停車下の作業における車速制御のフローチャート
【符号の説明】
【0027】
1 無段変速走行制御装置
1a 車速指示手段
3 HST制御部
2 通信系
4 主変速レバーセンサー
5 エンジン回転センサ
A 直線パターン(変速特性)
B〜D 折線パターン(変速特性)
P0 停止速位置(中立位置)
P1 中間操作位置(前進)
P2 最高速位置(前進)
P3 中間操作位置(後進)
P4 最高速位置(後進)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主変速レバーの操作位置に応じて停止速から最高速まで連続的に単純増速する変速特性によって無段変速機構を制御する車速指示手段(1a)を備えるコンバインの無段変速走行制御装置において、
上記主変速レバーの所定の中間操作位置(P1)までの変速特性をエンジンの回転数に応じて変化させる構成としたことを特徴とするコンバインの無段変速走行制御装置。
【請求項2】
前記変速特性は、エンジンの回転数が定格回転数未満で所定の下限回転数を越える範囲について複数の回転数区分を設け、その区分毎に代表回転数と対応して中間操作位置(P1)で中折れする折線パターン(B〜D)を適用することを特徴とする請求項1記載のコンバインの無段変速走行制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−78005(P2010−78005A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244467(P2008−244467)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】