説明

ゴム金属積層体

【課題】ゴム金属積層体のフレッティングによるゴムの摩耗あるいは熱劣化後のゴムの接着性を高め、ゴム層の剥離や割れを防止せしめることを可能とするゴム金属積層体を提供する。
【解決手段】金属板の片面または両面に、接着剤層およびゴム層を順次積層させてなるゴム金属積層体において、ゴム層がニトリルゴム100重量部に対して、ホワイトカーボン3〜100重量部および平均粒径0.1〜10μmの酸化アルミニウム10〜200重量部を含有せしめてなるニトリルゴム組成物の加硫物により形成されているニトリルゴム金属積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属積層体に関する。更に詳しくは、耐摩耗性、耐熱性にすぐれたゴム金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンガスケット部のように温度変化が大きくなる部分においては、その温度変化に起因してエンジンとガスケットとの接合面間のフレッティングを生ずる。このフレッティングによって、ガスケットには大きな剪断応力が生じ、ゴムと金属との摩擦により、ゴムの剥離や摩耗が発生し、その結果として金属からゴム層が剥がれてしまうといった問題があった。
【0003】
ゴムの耐摩擦・摩耗性向上を目的として、一般的にはカーボンブラックが添加されるが、上記用途においては、ゴムの摩耗や剥がれを防止することは困難である。
【0004】
また、ゴム表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリエチレン樹脂等の樹脂コーティング剤を塗布して、摩擦係数を低下させ、ゴムの摩耗を低減する方法も行われている。しかるに、コーティング剤の剥離あるいは摩耗によって、ゴムが瞬時に摩耗してしまうといった不具合がみられ、ゴムそのものの耐摩擦・摩耗特性を向上させることが望まれている。
【0005】
ここで、ゴム金属積層体において、摩耗性を向上させるにあたっては、ゴムそのものの摩耗性の向上に加えて、金属との接着性の向上を併せて図ることが必要とされる。すなわち、接着性が乏しければ、摩擦・摩耗時にゴムが摩耗しない場合であっても、ゴムの剥離が起こり、また接着性にすぐれていたとしても、ゴムの耐摩耗性が乏しい場合には、ゴムが摩耗することとなる。
【0006】
特許文献1では、金属板の片面または両面に、フェノール樹脂とNBRコンパウンドからなるプライマー層およびNBRコンパウンドから形成された加硫ゴム層を順次積層させてなり、プライマー層形成および加硫ゴム層形成に用いられるNBRコンパウンドとして、NBR、これに対して20重量%以上の白色充填剤、カーボンブラック、酸化亜鉛および有機過酸化物を含有するゴムコンパウンドが用いられたゴム積層金属板が提案されている。しかるに、かかるゴム積層金属板は、接着性にはすぐれているものの、ゴムそのものは十分に満足される耐摩耗性を有するものではなかった。
【特許文献1】特開平6−335990号公報
【0007】
一方、水あるいはロングライフクーラント(LLC)に対する耐性が必要とされる金属とゴムとの複合体を形成させるためには、金属としてステンレス鋼が多く用いられるが、ステンレス鋼上に直接加硫接着剤を適用し、ゴムと加硫接着させると、得られるゴム-ステンレス鋼複合体は、耐水、耐LLC性が悪く、これらの浸せき試験を実施すると、接着剥離を生ずるようになる。かかる対策として、加硫接着剤を塗布する前処理として、ステンレス鋼上に塗布型クロメート処理が施され、水やLLCに対する耐性を向上させることが行われている。しかしながら、塗布型クロメート処理では、Crイオンが含まれるため、環境対策上からみて好ましくない。
【0008】
また、特許文献2では、金属板上に接着剤層を介してゴム層が設けられた積層状のメタルガスケット素材板において、金属板の表面と接着剤層との間にシリカ−アルミナ縮合体のプライマー層が形成されているメタルガスケット素材板が提案されている。しかし、かかるメタルガスケット素材板についても、接着性およびプライマー層の耐摩耗性は良いものの、プライマー層が硬く、ゴムが熱劣化した際に接着性に乏しくなり、プライマー層が割れる場合があった。
【特許文献2】特開2003−028307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ゴム金属積層体のフレッティングによるゴムの摩耗あるいは熱劣化後のゴムの接着性を高め、ゴム層の剥離や割れを防止せしめることを可能とするゴム金属積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、金属板の片面または両面に、接着剤層およびゴム層を順次積層させてなるゴム金属積層体において、ゴム層がニトリルゴム100重量部に対して、ホワイトカーボン3〜100重量部および平均粒径0.1〜10μmの酸化アルミニウム10〜200重量部を含有せしめてなるニトリルゴム組成物の加硫物により形成されているニトリルゴム金属積層体によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
ホワイトカーボンおよび平均粒径0.1〜10μmの酸化アルミニウムを配合したニトリルゴム組成物から得られる加硫物は、ニトリルゴムにカーボンブラックを配合した場合と同様に機械的強度(常態物性)などを殆ど損なうことなく、その一方で耐摩耗性を向上させ、ゴムの熱劣化後の接着性を低下させないといったすぐれた効果を奏する。
【0012】
さらに、充填剤として、低摩擦化と接着剤との接着性向上を可能とするホワイトカーボンを選択し、耐摩耗性の点では一般的に用いられているカーボンブラックよりも劣るホワイトカーボンに酸化アルミニウムを添加することにより、接着性を低下させることなく耐摩耗性を向上させることを可能とし、ゴム層と接着剤層との接着性やゴム層自身の耐摩耗性を向上させたゴム金属積層体を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ニトリルゴム層
ニトリルゴム(NBR)としては、結合アクリロニトリル含量が18〜48%、好ましくは31〜42%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が30〜85、好ましくは40〜70のアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴムが用いられ、実際には市販品をそのまま用いることができる。結合アクリロニトリル量がこれより少ないと、ゴム層と接着剤層との接着性が乏しくなり、一方結合アクリロニトリル量がこれより多い場合には、耐寒性が損なわれるようになる。また、ムーニー粘度がこれより小さいと、耐摩擦・摩耗特性が乏しくなり、他方ムーニー粘度がこれより大きいと、混練加工性が損なわれるようになる。このNBRに対しては、ホワイトカーボン、酸化アルミニウム、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤などが添加されて、本発明のゴム金属積層体のゴム層形成に用いられるニトリルゴム組成物が調製される。
【0014】
ホワイトカーボン(補強性シリカ)としては、ハロゲン化けい酸または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法ホワイトカーボン、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法ホワイトカーボン等であって、非晶質シリカを用いることができ、市販品、例えば日本シリカ工業製品Nipsil LP等がそのまま用いられる。また、その比表面積が約30〜200m2/g、好ましくは約30〜100m2/g程度のものが一般に用いられる。ホワイトカーボンは、その価格、取扱い性および耐摩耗性の良さから、一般的に用いられているカーボンブラックと比べて耐摩耗性には劣るものの、ゴム層と接着剤層との接着性を向上させることを可能とする。
【0015】
これらのホワイトカーボンは、NBR100重量部当り約3〜100重量部、好ましくは約10〜80重量部の割合で用いられる。これより少ない配合割合では、目的とする接着性を得ることができないため、摩擦・摩耗時にゴム層の剥離が発生するようになる。一方、これより多い割合で用いられると、ゴム硬度が非常に高くなり、またゴム弾性も失われるようになる。
【0016】
酸化アルミニウムとしては、平均粒径(レーザー回折法により測定)が0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5μmのものが用いられる。平均粒径がこれより大きい場合には、酸化アルミニウム粒子によりゴム部分が摩耗し、耐摩耗性が低下するようになる。ここで、酸化アルミニウムは、NBR100重量部当り約10〜200重量部、好ましくは約60〜150重量部の割合で用いられる。酸化アルミニウムの使用割合がこれより少ないと、本発明の目的とする耐摩耗性の改善効果が得られず、一方これよりも多い割合で用いられると、混練加工性、常態物性が悪化するようになる。また、酸化アルミニウム量が多いほど、耐摩耗性は改善される。
【0017】
ニトリルゴム組成物中には、以上の必須成分以外に、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート等の多官能性不飽和化合物、活性炭酸カルシウム等の他の補強剤、タルク、クレー、グラファイト、けい酸カルシウム等の充填剤、ステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト等の受酸剤、老化防止剤、ジオクチルセバケート(DOS)等の可塑剤など、ゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜添加されて用いられる。
【0018】
以上の配合成分よりなるニトリルゴム組成物の加硫は、イオウ加硫、過酸化物加硫等任意の加硫系を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、イオウまたはイオウ供与性化合物によるイオウ加硫が好んで用いられる。加硫促進剤、加工助剤、受酸剤、老化防止剤等は、用いられる加硫系に合わせて、一般的な市販品を用いることができる。
【0019】
組成物の調製は、インタミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機あるいはオープンロール等を用いて混練することによって行われ、その加硫は、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス、オーブン加硫等を用い、一般に約160〜250℃で約0.5〜30分間程度加熱することによって行われ、更に必要に応じて約150〜250℃で約30秒〜10時間程度加熱する二次加硫も行われる。
【0020】
また、上記ニトリルゴム組成物を溶剤に溶かして塗布する場合には、混練を行わず、あるいは一部の原料のみを混練した後、ニトリル組成物を溶剤に溶解、分散させることにより、ニトリル組成物分散溶液の調製が行われる。
【0021】
以上のニトリルゴム組成物の加硫物は、金属板上に形成された接着剤層、好ましくはプライマー層および接着剤層を介してニトリルゴム層として積層される。
【0022】
金属板
金属板としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、亜鉛メッキ鋼板、SPCC鋼板、銅板、マグネシウム板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。これらは、一般に脱脂した状態で用いられ、必要に応じて金属表面をショットブラスト、スコッチブライド、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化することが行われる。また、その板厚は、一般に約0.1〜1mm程度のものが用いられる。
【0023】
これらの金属板上には、好ましくはプライマー層が形成される。プライマー層は、本発明の目的とするゴム層の耐摩耗性についての向上に必須の要件となるものではないものの、ゴム金属積層体のゴム接着にかかる耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであり、特にゴム金属積層体をシール材として使用する場合にはそれを形成させることが望ましい。
【0024】
プライマー層
プライマー層としては、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム化合物またはこれらの酸化物等の無機系被膜、シラン、フェノール、エポキシ、ウレタン等の有機系被膜など、一般に市販されている薬液あるいは公知技術をそのまま用いることができるが、好ましくは少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含んだプライマー層や、さらにこれに金属酸化物またはシリカを添加したプライマー層、さらに好ましくはこれらのプライマー層形成成分にアミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を加えたプライマー層が用いられる。この加水分解縮合生成物は、単独でも用いられる。
【0025】
有機金属化合物としては、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウム-モノ-アセチルアセトネート-ビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)等の有機アルミニウム化合物、イソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、1,3−プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタンビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラ(アセチルアセトネート)等の有機チタン化合物、ジn-ブトキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジn-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)等の有機ジルコニウム化合物などが挙げられ、好ましくは一般式

R:CH3、C2H5、n-C3H7 、i-C3H7、n-C4H9、i-C4H9などの低級アルキ
ル基
n:1〜4の整数
で表されるキレート環およびアルコキシ基から構成される有機チタン化合物が用いられる。
【0026】
プライマー層中にシリカと同様に添加される金属酸化物としては、アルミナ、酸化チタン、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等が用いられる。金属酸化物は、上記有機金属化合物に対して、重量比で0.9以下、好ましくは0.45以下の割合で用いられる。金属酸化物量がこれより多く用いられると、プライマー成分中の金属酸化物の混合が難しくなり好ましくない。
【0027】
加水分解縮合生成物を形成させるアミノ基含有アルコキシシランとしては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノメチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが用いられる。ビニル基含有アルコキシシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランなどが用いられる。これらのアルコキシシランは、アミノ基含有アルコキシシランと水とを混合し、酸性側にpHを調製した後、40〜60℃に保ち、攪拌しながらビニル基含有アルコキシシランを添加することで、加水分解反応を行うと同時に、重縮合反応によって加水分解縮合物を生成する。ここで、ビニル基含有アルコキシシランは、アミノ基含有アルコキシシラン100重量部に対して、25〜400重量部、好ましくは50〜150重量部で混合される。得られた加水分解縮合物は、上記有機金属化合物に対して、重量比で3以下、好ましくは1.5以下の割合で用いられる。加水分解縮合物量がこれより多い場合には、接着剤との相性が悪くなり、接着性の低下をもたらすようになる。
【0028】
以上の各成分よりなるプライマーは、その固形分濃度が約0.2〜5重量%となるように有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等の溶液として調製される。かかる有機溶剤溶液は、液安定性が保たれる限りにおいて、そこに20重量%以下の水を混合させることができる。
【0029】
得られたプライマー溶液は、金属板上にスプレー、浸せき、刷毛、ロールコータ等を用いて、約50〜200mg/m2量の目付量で塗布され、室温または温風にて乾燥させた後、約100〜250℃、約0.5〜20分間焼付処理され、プライマー層が形成される。
【0030】
接着剤層
また、接着剤としては、シラン、フェノール、エポキシ、ウレタンなど各種樹脂被膜として一般に市販されている接着剤をそのまま使用することができるが、好ましくはノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂の2種類のフェノール樹脂と未加硫NBRからなる接着剤が使用できる。
【0031】
ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、シュウ酸、塩酸、マレイン酸などの酸触媒の存在下において縮合反応させることによって得られる融点80〜150℃の樹脂、好ましくはm-クレゾールとホルムアルデヒドから製造された融点120℃以上のものが使用される。
【0032】
レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ触媒の存在下において縮合反応させることによって得られるものが使用される。
【0033】
未加硫のNBRとしては、市販品である極高ニトリル含量(ニトリル含量43%以上)、高ニトリル含量(同36〜42%)、中高ニトリル含量(同31〜35%)、中ニトリル含量(同25〜30%)および低ニトリル含量(同24%以下)の各種NBRをそのまま用いることができるが、好ましくは中高ニトリル含量のものが用いられる。
【0034】
これらの各成分を含有する接着剤は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などの有機溶剤単独またはこれらの混合溶剤に溶解され、液状として使用される。
【0035】
好ましい接着剤を形成する以上の各成分は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂10〜1000重量部、好ましくは60〜400重量部および未加硫NBR30〜3000重量部、好ましくは60〜900重量部の割合でそれぞれ用いられる。これらの各成分は、成分合計量濃度が約3〜10%になるように有機溶剤を加え、混合、攪拌することにより加硫接着剤として調製される。レゾール型フェノール樹脂がこれより多く用いられると、高ニトリルゴム材料の接着性が低下し、一方これより少ない場合には金属面との接着性低下が起こるようになり好ましくない。また、未加硫NBRがこれより多く用いられると、金属面との接着性が低下するほか、粘度上昇が大きく、塗布作業に支障をきたすようになる。一方、これより少ない場合には、接着対象であるニトリルゴムとの相溶性が低下し、接着不良となる。これらの各成分を用いての接着剤の調製は、各成分の所定量をそれぞれ有機溶剤中に溶解し、混合、攪拌することにより行われる。
【0036】
金属板上への接着剤層の形成は、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に、上記接着剤を塗布し、室温下で風乾させた後、約100〜250℃で約5〜30分間程度の乾燥を行うことにより行われる。
【0037】
接着剤層としては、一層の構成のみならず多層構成とすることもできる。例えば、プライマー層の直上には有機金属化合物を含むフェノール系の接着剤層を形成し、さらにその上には上記ニトリルゴム組成物を含むフェノール系接着剤層を設けて接着剤を多段塗布した上で、ゴム層を形成させたものが挙げられる。このような構成とすることにより、接着剤層の塗布工程は増加するものの、プライマー層およびゴム層の接着性をより強固なものとすることが可能となる。
【0038】
ゴムの粘着防止を目的として、樹脂系、グラファイト系などのコーティング剤をゴム層上に塗布することもできる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0040】
実施例1
アルカリ脱脂した厚さ0.2mmのステンレス鋼板(日新製鋼製品SUS301)の表面に、チタンテトラ(アセチルアセトネート)2.5重量部、シリカ(SiO2)0.5重量部およびメタノール97重量部よりなるプライマーを塗布してプライマー層を形成し、このプライマー層上に下記配合の接着剤を、片面厚さ約0.2μmで全面に形成させた。
クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂 400重量部
(大日本インキ化学工業製品KA-1053L 固形分40%)
レゾール型フェノール樹脂 211 〃
(大日本インキ化学工業製品AF-2639 固形分60%)
未加硫NBR(JSR製品N-237) 99 〃
メチルエチルケトン 2965 〃
トルエン 2965 〃
【0041】
形成された接着剤層上には、下記各成分をニーダおよびオープンロールを用いて混練することにより得られたニトリルゴム組成物を、固形分濃度25重量%となるようにトルエン:メチルエチルケトン=9:1混合溶剤に溶解したものを、20μmの厚みとなるように塗布して、230℃、3分間の加硫を行った。
ニトリルゴム(JSR製品N235S;ニトリル含量36%) 100重量部
ホワイトカーボン(日本シリカ製品ニップシールLP) 20 〃
酸化アルミニウム(日本軽金属製品A32:平均粒径1μm) 120 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 1.5 〃
FEFカーボンブラック 40 〃
老化防止剤(大内新興化学製品Nocrac 224) 2 〃
イオウ 2 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーTT) 2 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーCZ) 2 〃
【0042】
形成された加硫ゴム表面には、その粘着防止を目的としてポリブタジエン樹脂バインダーを添加したポリエチレン樹脂のトルエン分散液を塗布し、200℃、5分間の空気加熱による加熱処理を行い、厚さ5μmの粘着防止層を形成させた。
【0043】
実施例2
実施例1において、プライマー成分であるSiO2の代わりにZrO2が同量用いられた。
【0044】
実施例3
実施例1において、プライマー成分であるチタンテトラ(アセチルアセトネート)の代わりにジ-n-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)が同量用いられた。
【0045】
実施例4
実施例1において、プライマー成分であるチタンテトラ(アセチルアセトネート)の代わりにジn-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)が、またSiO2の代わりにZrO2が、それぞれ同量用いられた。
【0046】
実施例5
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、酸化アルミニウム量が40重量部に、またカーボンブラック量が80重量部にそれぞれ変更されたものが用いられた。
【0047】
実施例6
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、ホワイトカーボン量が60重量部に、またカーボンブラック量が5重量部にそれぞれ変更されたものが用いられた。
【0048】
実施例7
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、ホワイトカーボン量が60重量部に、酸化アルミニウム量が40重量部に、またカーボンブラック量が80重量部にそれぞれ変更されたものが用いられた。
【0049】
実施例8
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、イオウの代わりに1,3-ビス第3ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン2.5重量部が、また加硫促進剤が(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)トリアリルイソシアヌレート2重量部にそれぞれ変更されたものが用いられ、さらに加硫が180℃、6分間のプレス加硫に変更されて行われた。
【0050】
実施例9
実施例1において、接着剤として下記配合のものが用いられた。
クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂 400重量部
(KA-1053L 固形分40%)
レゾール型フェノール樹脂(AF-2639 固形分60%) 975 〃
未加硫NBR(N-237) 306 〃
メチルエチルケトン 9360 〃
トルエン 9360 〃
【0051】
実施例10
実施例1において、接着剤として下記配合のものが用いられた。
クレゾール変性ノボラック型フェノール樹脂 400重量部
(KA-1053L 固形分40%)
レゾール型フェノール樹脂(AF-2639 固形分60%) 65 〃
未加硫NBR(N-237) 60 〃
メチルエチルケトン 1748 〃
トルエン 1748 〃
【0052】
実施例11
実施例1において、プライマー層の形成に際して、チタンテトラ(アセチルアセトネート)1.5重量部、ZrO2 0.5重量部、アルコキシシラン加水分解縮合物1重量部およびメタノール97重量部よりなるプライマーが用いられた。なお、ここで用いられたアルコキシシラン加水分解縮合物は、次のようにして製造された。
【0053】
攪拌機、加温ジャケットおよび滴下ロートを備えたフラスコに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン40重量部および水20重量部を仕込み、pHが4〜5になるように酢酸を加えて調製し、数分間攪拌した。さらに攪拌を続けながら、ビニルトリエトキシシラン40重量部を滴下ロートを使って徐々に滴下した。滴下終了後、約60℃の温度で5時間加熱還流を行い、室温迄冷却してアルコキシシラン加水分解縮合物を得た。
【0054】
実施例12
実施例1において、プライマー層の形成に際して、ジn-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)1.5重量部、ZrO2 0.5重量部、上記アルコキシシラン加水分解縮合物1重量部およびメタノール97重量部よりなるプライマーが用いられた。
【0055】
実施例13
実施例1において、プライマー層の形成に際して、チタンテトラ(アセチルアセトネート)1.5重量部、上記アルコキシシラン加水分解縮合物1重量部およびメタノール97.5重量部よりなるプライマーが用いられた。
【0056】
実施例14
実施例1において、プライマー層の形成に際して、上記アルコキシシラン加水分解縮合物1重量部およびメタノール99重量部よりなるプライマーが用いられた。
【0057】
実施例15
実施例1において、プライマー層が形成されなかった。
【0058】
実施例16
実施例1において、プライマー層の形成に際して、シラン系接着剤(ロードファーイースト社製品ケムロックAP-133)が用いられた。
【0059】
実施例17
実施例1において、プライマー層の形成に際して、ジルコニウム系表面処理剤(日本パーカライジング製品パルコート3762)が用いられた。
【0060】
参考例
実施例1において、プライマー層が日本パーカライジング製品クロメート処理剤により形成された。
【0061】
比較例1
実施例1において、接着剤が用いられなかった。
【0062】
比較例2
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、酸化アルミニウムの代わりに炭酸カルシウムが同量用いられたものが用いられた。
【0063】
比較例3
実施例1において、ニトリルゴム組成物として、ホワイトカーボンおよび酸化アルミニウムが用いられず、FEFカーボンブラック量が120重量部に変更されたものが用いられた。
【0064】
比較例4
実施例1において、ニトリルゴム組成物として下記組成のものが用いられ、またその加硫が180℃、6分間のプレス加硫に変更されて行われた。
ニトリルゴム(N235S;ニトリル含量36%) 100重量部
SRFカーボンブラック 80 〃
けい酸カルシウム 40 〃
炭酸カルシウム 40 〃
ホワイトカーボン(日本シリカ製品ニップシールLP) 20 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 2 〃
老化防止剤(大内新興化学製品Nocrac 224) 2 〃
(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
トリアリルイソシアヌレート 2 〃
1,3-ビス第3ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン 2.5 〃
【0065】
得られたゴム積層金属板について、次の各項目の試験を行った。
摩擦・摩耗試験:JIS K7125、P8147に準じ、表面性試験機(新東科学製)を用いて、相手材として直径10mmの硬質クロムめっき製鋼球摩擦子を用い、移動速度400mm/分、往復動移動幅30mm、室温、荷重2kgの条件下における往復動試験により評価を行い、ゴムが摩耗して接着層が露出するまでの回数を測定
空気加熱試験:165℃、100時間の条件下で空気加熱後、JIS K5600に準じて碁盤目試験を行い、ゴム硬化劣化後におけるゴム剥離の程度を、ゴム残存率100%のものを5、95%以上100%未満のものを4、85%以上95%未満のものを3、65%以上85%未満のものを2、65%未満のものを1として評価
耐水試験:耐圧容器において、150℃、100時間の条件下で水浸せき後、JIS K5600に準じて碁盤目試験を行い、ゴム剥離の程度を空気加熱試験と同様の基準に従って評価
【0066】
以上の各実施例、参考例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

摩擦・摩耗試験(回) 空気加熱試験 耐水試験
実施例1 2200 5 5
〃 2 2200 4 5
〃 3 2200 5 5
〃 4 2200 5 4
〃 5 1200 4 5
〃 6 2100 4 5
〃 7 1500 4 5
〃 8 2300 5 5
〃 9 2200 4 5
〃 10 2200 5 4
〃 11 2200 5 4
〃 12 2200 5 5
〃 13 2200 4 2
〃 14 2200 5 1
〃 15 1500 1 1
〃 16 2200 4 1
〃 17 2200 1 5

参考例 2200 5 5

比較例1 300 1 1
〃 2 700 2 5
〃 3 900 1 5
〃 4 600 3 5
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るゴム金属積層体は、耐摩耗性の要求されるオイルシール、パッキン、ガスケットなどのシール材を形成する加硫ゴム金属積層体として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面または両面に、接着剤層およびゴム層を順次積層させてなるゴム金属積層体において、ゴム層がニトリルゴム100重量部に対して、ホワイトカーボン3〜100重量部および平均粒径0.1〜10μmの酸化アルミニウム10〜200重量部を含有せしめてなるニトリルゴム組成物の加硫物により形成されていることを特徴とするニトリルゴム金属積層体。
【請求項2】
金属板と接着剤層との間に、プライマー層が形成された請求項1記載のニトリルゴム金属積層体。
【請求項3】
プライマー層が、少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含むもので形成された請求項2記載のニトリルゴム金属積層体。
【請求項4】
プライマー層が、少なくとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物および金属酸化物またはシリカを含むもので形成された請求項2記載のニトリルゴム金属積層体。
【請求項5】
プライマー層が、アミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を含むもので形成された請求項2、3または4記載のニトリルゴム金属積層体。
【請求項6】
接着剤層が、NBRを含むフェノール系接着剤層である請求項1記載のニトリルゴム金属積層体。
【請求項7】
フェノール系接着剤層中に含まれるNBRが、ニトリルゴム100重量部に対して、ホワイトカーボン3〜100重量部および平均粒径0.1〜10μmの酸化アルミニウム10〜200重量部を含有せしめてなるニトリルゴム組成物である請求項6記載のニトリルゴム金属積層体。

【公開番号】特開2007−38533(P2007−38533A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225392(P2005−225392)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】