説明

シャドーマスクのクリーニング方法、シャドーマスクのクリーニング装置、有機ELディスプレイの製造方法および有機ELディスプレイの製造装置

【課題】シャドーマスクのクリーニング時における塑性変形を抑えてシャドーマスクの再利用率を向上させ有機ELディスプレイの製造コストを低減させることができるシャドーマスクのクリーニング方法を提供する。
【解決手段】クリーニング装置100は、シャドーマスク10を磁気吸着するためのマグネットプレート103を備えたマスク保持具102を備えている。マグネットプレート103の下面には、シャドーマスク10を構成する素材と同一の素材であるインバー材からなる補強層104が形成されている。補強層104は、インバー材の熱拡散長よりも長い厚さに形成されている。マスク保持具102の下方には、シャドーマスク10にレーザ光を照射して蒸着物質を除去するための光源106,集光レンズ107およびガルバノミラー108が設けられている。この場合、レーザ光Lはシャドーマスク10に付着した蒸着物質表面での反射率が最小となる入射角θで照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL膜の形成に用いられるシャドーマスクに付着した付着物を除去するシャドーマスクのクリーニング方法、シャドーマスクのクリーニング装置、有機ELディスプレイの製造方法および有機ELディスプレイの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイの製造方法として真空蒸着法が知られている。真空蒸着法は、真空雰囲気中において有機EL膜(電子輸送層、発光層、ホール輸送層など)を構成する各種蒸着物質を加熱蒸発させて、陽極が形成されたガラス基板上に有機EL膜を蒸着によりパターニングするものである。この有機EL膜のパターニングにおいては、有機ELディスプレイの画素(RGB対応のサブピクセル)に対応した大きさの蒸気通孔(開口部)が形成されたシャドーマスク(「メタルマスク」ともいう)を介して有機EL膜の蒸着が行われている。
【0003】
有機ELディスプレイの製造過程においてシャドーマスクが有機EL膜の蒸着成形に繰り返し連続的に使用されると、シャドーマスクの表面および同シャドーマスクに形成された蒸気通孔の内周面に蒸着物質が付着・堆積する。シャドーマスクに蒸着物質が付着・堆積すると、同付着・堆積した蒸着物質が剥離して蒸着物質を貯留した蒸着源を汚染したり、シャドーマスクに形成された蒸気通孔を塞ぐなどして有機EL膜の成形精度を低下させることがある。このため、シャドーマスクは、シャドーマスク表面に付着・堆積した蒸着物質を除去して再利用するためのクリーニングが定期的に行われている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、有機EL膜の蒸着成形工程に用いられた使用済みのシャドーマスクに対してレーザ光を照射することにより、シャドーマスクの表面等に付着・堆積した蒸着物質を蒸発させることにより除去するシャドーマスクのクリーニング方法が開示されている。また、下記特許文献2には、CFとOとを混合してプラズマ化したエッチングガスを使用済みシャドーマスクに吹き付けることにより、シャドーマスクの表面などに付着・堆積した蒸着物質をドライエッチングにより除去するシャドーマスクのクリーニング方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−241925号公報
【特許文献2】特開2007−234236号公報
【0005】
しかしながら、上記したようなシャドーマスクのクリーニング方法においては、シャドーマスクがクリーニング時に受けるエネルギによって歪が生じ、シャドーマスクが塑性変形することがある。これは、図4に示すように、シャドーマスク10の蒸気通孔11の周囲を形成する桟部12の端部12eが一定の厚さに形成されていないことが一因として考えられる。すなわち、30μm程度の極めて厚さ薄いシャドーマスク10に一定の内径の蒸気通孔11を形成することは極めて困難であるため、シャドーマスク10に形成される蒸気通孔11の周囲を形成する桟部12の断面形状は、不可避的に桟12の中央部12sから蒸気通孔11側に向って徐々に厚さが薄くなる形状に形成される。
【0006】
このため、例えば、集光レンズ20を介してレーザ光Lを照射することによりシャドーマスク10に付着・堆積した蒸着物質を除去する場合においては、桟12の中央部12sに比べて厚さの薄い端部(蒸気通孔11の内周面部)12eに中央部12sと同じエネルギ量のレーザ光が照射されるため、シャドーマスクのクリーニング後において桟12の端部12eが回復不能な変形、すなわち、再利用不能な程度にまで塑性変形してしまい、シャドーマスクの再利用率の低下、および有機ELディスプレイの製造コストを増大させるという問題がある。
【発明の開示】
【0007】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、シャドーマスクのクリーニング時における塑性変形を抑えてシャドーマスクとしての再利用率を向上させて有機ELディスプレイの製造コストを低減させることができるシャドーマスクのクリーニング方法、シャドーマスクのクリーニング装置、有機ELディスプレイの製造方法および有機ELディスプレイの製造装置を提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明の特徴は、有機EL膜の形成に用いられるシャドーマスクに付着した付着物を除去するシャドーマスクのクリーニング方法において、シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材からなる補強層をシャドーマスクに密着させた状態で同シャドーマスクに付着した付着物を除去することにある。
【0009】
このように構成した請求項1に係る発明の特徴によれば、シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材からなる補強層をシャドーマスクに密着させた状態で付着物の除去が行われる。この場合、シャドーマスクを構成する素材の物理的特性とは、素材の密度、熱拡散率、比熱、熱伝導率、剛性率またはヤング率などを指す。すなわち、シャドーマスクにおける付着物を除去する部分、特に、前記端部12eのような肉厚が極めて薄い部分の肉厚を増加させた状態で付着物の除去を行うようにしている。これにより、シャドーマスクがクリーニング時に受けるエネルギによって生じる歪の量やムラを抑えることができる。この結果、シャドーマスクのクリーニング時における塑性変形を抑えてシャドーマスクとしての再利用率を向上させることができ、有機ELディスプレイの製造コストを低減させることができる。
【0010】
また、請求項2に係る発明の特徴は、前記シャドーマスクのクリーニング方法において、前記補強層は、シャドーマスクを構成する素材の熱拡散長以上の厚さで形成されることにある。
【0011】
このように構成した請求項2に係る発明の特徴によれば、補強層の厚さをシャドーマスクを構成する素材の熱拡散長以上の厚さとしている。ここで熱拡散長とは、交流的に与えられた熱(温度波)が物質中を拡散するとき、どこまでその波形を維持して熱が到達するかを示す均熱性の指標である。このため、シャドーマスクのクリーニング時においてシャドーマスクに生じた熱エネルギは補強層に拡散されて同熱エネルギによるシャドーマスクの歪を抑えることができる。この結果、シャドーマスクのクリーニング時における塑性変形を抑えてシャドーマスクとしての再利用率を向上させることができ、有機ELディスプレイの製造コストを低減させることができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明の特徴は、前記シャドーマスクのクリーニング方法において、シャドーマスクは、磁性体によって構成されており、磁界を形成可能な平板状の支持板に補強層を介して支持されることにある。
【0013】
このように構成した請求項3に係る発明の特徴によれば、シャドーマスクは、磁界を形成可能な平板状の支持板に補強層を介して支持される。これにより、シャドーマスクは、支持板による磁気吸引力によって均一な力で補強層に密着された状態で支持される。この結果、シャドーマスクのクリーニング時における塑性変形を効果的に抑制して付着物の除去が行える。
【0014】
また、請求項4に係る発明の特徴は、前記シャドーマスクのクリーニング方法において、シャドーマスクに付着した付着物は、同シャドーマスクに対してレーザ光を照射することにより除去されており、レーザ光は、シャドーマスクに付着した付着物表面での反射率が最小となる入射角で照射されることにある。
【0015】
このように構成した請求項4に係る発明の特徴によれば、シャドーマスクにレーザ光を照射して付着物を除去する際、同レーザ光の入射角をシャドーマスクに付着した付着物表面での反射率が最小となる角度としている。これにより、シャドーマスクによるレーザ光の反射によるエネルギ損失を最小に抑えた場合、すなわち、照射するレーザ光の全エネルギがシャドーマスクに付加された場合であっても、シャドーマスクがクリーニング時に受けるエネルギによって生じる歪の量やムラを効果的に抑えることができる。この結果、シャドーマスクに付着した付着物の除去精度、除去効率をより向上させることができる。
【0016】
また、本発明は、シャドーマスクのクリーニング方法として実施できるばかりでなく、シャドーマスクのクリーニング装置、シャドーマスクのクリーニング方法による有機ELディスプレイの製造方法、およびシャドーマスクのクリーニング装置を備えた有機ELディスプレイの製造装置の発明としても実施できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(クリーニング装置100の構成)
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るクリーニング装置100の主要部の構成を模式的に示す構成外略図である。このクリーニング装置100は、真空蒸着法により有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイを製造する工程において、有機EL膜の成膜に用いる蒸着物質が付着・堆積したシャドーマスク10から同蒸着物質を除去する装置である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。
【0018】
このクリーニング装置100は、気密的に形成された筐体101内にマスク保持具102を備えている。マスク保持具102は、クリーニング対象であるシャドーマスク10を保持するための部材であり、図示しない制御装置により筐体101内を図示XY方向に変位することができるとともに、図示θa方向に回転自在に組み付けられている。なお、図示X方向は図1における左右方向であり、図示Y方向は図示X方向に直交する方向であり図1の紙面に直交する奥行方向である。
【0019】
マスク保持具102には、マグネットプレート103が設けられている。マグネットプレート103は、永久磁石で構成された平板状のマグネットチャックであり、前記制御装置により着磁状態と非着磁状態とが選択的に作用するようにマグネットプレート103に組み付けられている。このマグネットプレート103の下面には、補強層104が形成されている。
【0020】
補強層104は、図2に示すように、クリーニング対象であるシャドーマスク10と同一の素材、具体的にはインバー材(Fe−Ni合金)が一定の厚さで形成された部分であり、インバー材の熱拡散長よりも長い厚さに形成されている。本実施形態においては、厚さ50μmのインバー材の薄板で構成されている。なお、図1においては、シャドーマスク10および補強層104の厚さを誇張して示している。ここで熱拡散長とは、交流的に与えられた熱(温度波)が物質中を拡散するとき、どこまでその波形を維持して熱が到達するかを示す均熱性の指標であり、下記数1によって表される。下記数1において、Xthは熱拡散長、Kは物質の熱伝導率、τはパルス幅およびCは物質の比熱をそれぞれ表している。ここでパルス幅τは、後述するレーザ光Lのパルス幅である。なお、本実施形態におけるインバー材の熱拡散長Xthは約200nmである。
【数1】

【0021】
筐体101の下方には、石英ガラス製の光学窓105を介して光源106、集光レンズ107およびガルバノミラー108がそれぞれ配置されている。光源106は、シャドーマスク10に付着・堆積した付着物である蒸着材料を除去するためのレーザ光Lを出射するためのレーザ光源である。光源106としては、シャドーマスク10に付着・堆積した蒸着材料を除去することができるレーザ光Lを出射することができるレーザ光源、例えば、YAGレーザ、Arレーザ、Coレーザまたはエキシマレーザなどを用いることができる。また、レーザ光Lの出力条件は、パルス幅τが0.1〜200n秒、出力が1〜70W、パルスの繰り返し周波数が1〜45kHzが適当である。
【0022】
集光レンズ107は、光源106から出射されたレーザ光Lをシャドーマスク10上に集光させるための光学レンズである。ガルバノミラー108は、シャドーマスク10上に集光されるレーザ光Lの位置を図示Y方向に走査するために光源106から出射されたレーザ光Lの光軸を変化させる光学ミラーである。この場合、ガルバノミラー108は、シャドーマスク10に付着した蒸着物質表面での反射率が最小となる入射角(所謂ブリュースター角)θにレーザ光Lの光軸を変化させる。なお、これらの光源106およびガルバノミラー108は、前記制御装置によって作動がそれぞれ制御される。
【0023】
筐体101内におけるマスク保持具102の下方には、集塵口109が設けられている。集塵口109は、レーザ光Lが照射されることによりシャドーマスク10から剥離した蒸着物質を回収するための受け皿であり、排気管110を介して真空ポンプ111に接続されている。真空ポンプ111は、クリーニング装置100の筐体101内を真空状態にするための吸引ポンプであり、前記制御装置によって作動が制御される。また、集塵口109と真空ポンプ111との間における排気管110には、コールドトラップ112が設けられている。コールドトラップ112は、集塵口109を介して回収された蒸着物質を冷却して補足するためのフィルタである。
【0024】
このクリーニング装置100は、上記説明した各構成部材の他に、シャドーマスク10を保持するとともに、保持したシャドーマスク10をマスク保持具102に対して位置決めして密着させるためのアライメント装置(図示せず)や、同アライメント装置、マスク保持具102、光源106、ガルバノミラー108、真空ポンプ111およびコールドトラップ112などの各作動を制御するための制御装置を備えている。しかし、これらの各装置は、本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。
【0025】
このように構成されたクリーニング装置100は、真空蒸着法により有機ELディスプレイを製造する製造装置内に組み込まれる。ここで、真空蒸着法により有機ELディスプレイを製造する製造装置の構成を図3を用いて簡単に説明しておく。有機ELディスプレイ製造装置200は、クリーニング装置100の他に、主として、待機室210、成膜装置220、解体装置230、判定装置240、搬送装置250およびストッカ260によって構成されている。
【0026】
待機室210は、前工程によって製造されたディスプレイ基板(図示せず)と、シャドーマスク10とを下流側の成膜装置220に搬送するタイミングを調整するためにディスプレイ基板およびシャドーマスク10を一時的に留め置くためのものである。成膜装置220は、ディスプレイ基板上に電子輸送層、発光層およびホール輸送層などからなる有機EL膜を形成するための装置であり、RGBの各色ごとにアライメント装置221R,221G,221B、蒸着装置222R,222G,222Bをそれぞれ備えている。また、成膜装置220は、アライメント装置221G,221Bの上流側に待機室223G,223Bを備えている。
【0027】
アライメント装置221R,221G,221Bは、ディスプレイ基板に対して所定の位置にシャドーマスク10を位置決めして一体化するための装置である。蒸着装置222R,222G,222Bは、シャドーマスク10が一体化されたディスプレイ基板に対して有機EL膜をそれぞれ成膜するための装置である。具体的には、真空雰囲気中において有機EL膜を構成する蒸着物質が貯留された蒸着源を蒸発温度以上に加熱して蒸着物質を蒸発させ、シャドーマスク10の蒸気通孔11を介してディスプレイ基板上に有機EL膜を形成する。また、待機室223G,223Bは、蒸着装置222R,222Gによる蒸着処理後のディスプレイ基板を下流側のアライメント装置221G,221Bに搬送するタイミングを調整するためにディスプレイ基板を一時的に留め置くためのものである。
【0028】
解体装置230は、シャドーマスク10が一体化されたディスプレイ基板からシャドーマスク10を分離して、シャドーマスク10を判定装置240に搬送するとともに、シャドーマスク10が分離されたディスプレイ基板を後工程に搬送する装置である。判定装置240は、シャドーマスク10に付着・堆積した蒸着物質の量(厚さ)を測定することにより、所定量以上に蒸着物質が付着・堆積したシャドーマスク10を分別してクリーニング装置100に搬送するとともに、蒸着物質の付着・堆積量が所定量未満のシャドーマスク10およびクリーニングされたシャドーマスク10を搬送装置250に搬送する装置である。
【0029】
搬送装置250は、蒸着物質の付着・堆積量が所定量未満のシャドーマスク10およびクリーニングされたシャドーマスク10を有機ELディスプレイ製造装置200の上流側に配置されたストッカ260に搬送する装置である。ストッカ260は、搬送装置250によって搬送されたシャドーマスク10を待機室210に供給するまでの間、シャドーマスク10を一時的に溜め置くものである。
【0030】
(クリーニング装置100の作動)
次に、上記のように構成したクリーニング照明装置100の作動について説明する。有機ELディスプレイ製造装置200の判定装置240にて蒸着物質が所定量以上に付着・堆積していると判定されたシャドーマスク10は、クリーニング装置100に搬送される。クリーニング装置100は、図示しないアライメント装置を用いて判定装置240から搬送されたシャドーマスク10をマスク保持具102に対して位置決めして保持させる。この場合、クリーニング装置100は、シャドーマスク10における蒸着物質が付着・堆積した面を下方(光源106側)に向けるとともに、シャドーマスク10の桟部12がシャドーマスク10の搬送方向である図示X方向に直交する方向、すなわち、図示Y方向に平行な状態でマスク保持具102に保持させる。
【0031】
次に、クリーニング装置100は、シャドーマスク10を保持したマスク保持具102を図示X方向(図示右側から図示左側)に断続的に変位させながら、光源106からレーザ光Lを出射させてガルバノミラー108の作動を制御することにより同レーザ光Lを図示Y方向に走査する。これにより、マスク保持具102に保持されたシャドーマスク10は、図示X方向に断続的に変位しながら図示Y方向に走査されるレーザ光Lが連続的に照射される。この場合、レーザ光Lは、シャドーマスク10に付着した蒸着物質表面での反射率が最小となる入射角θでシャドーマスク10における蒸気通孔11の周囲を形成する桟部12に照射される。
【0032】
レーザ光Lが照射されたシャドーマスク10の桟部12は、レーザ光Lの照射により加熱される。しかし、シャドーマスク10は補強層104に密着した状態で保持されているため、桟部12に生じた熱が補強層104に伝わり同桟部12の過度な温度上昇が抑えられる。この場合、補強層104は、シャドーマスク10と同一の素材、すなわち、シャドーマスク10と同一の物理的特性を有する素材で構成されているため、シャドーマスク10と一体となって生じた熱を吸収する。また、シャドーマスク10における桟部12の中央部12sに比べて厚さの薄い端部(蒸気通孔11の内周面部)12eにレーザ光Lが照射された場合においても、端部12eは端部12eの裏面に配置された補強部104とともに加熱されるため、同端部12eの過度な温度上昇が抑えられる。これらにより、シャドーマスク10の桟部12、特に桟部12における端部12eの変形が抑制される。
【0033】
一方、レーザ光Lが照射されたシャドーマスク10の桟部12に付着・堆積した蒸着物質は、レーザ光Lの照射により桟部12から剥離して集塵口109に回収される。集塵口109に回収された蒸着物質はコールドトラップ112に捕捉されクリーニング装置100の外部に放出されることはない。
【0034】
シャドーマスク10における図示最右端までレーザ光Lの照射が行われ蒸着物質の除去作業が行われた場合には、クリーニング装置100は、図示しないアライメント装置を用いてマスク保持具102に保持されたシャドーマスク10を取り外す。マスク保持装置101から取り外されたシャドーマスク10は、判定装置240により回収された後、搬送装置250に搬送される。これにより、シャドーマスク10のクリーニング作業が終了する。
【0035】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、シャドーマスク10を構成する素材と同一の素材からなる補強層104をシャドーマスク10に密着させた状態で蒸着物質の除去が行われる。すなわち、シャドーマスク10に蒸着物質が付着・堆積した部分、特に、端部12eのような肉厚が極めて薄い部分の肉厚を増加させた状態で蒸着物質の除去が行われる。これにより、シャドーマスク10がクリーニング時に受けるエネルギによって生じる歪の量やムラが減少する。この結果、シャドーマスク10のクリーニング時における塑性変形を抑えてシャドーマスク10としての再利用率を向上させることができ、有機ELディスプレイの製造コストを低減させることができる。
【0036】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態においては、マスク保持具102に形成する補強層104をシャドーマスク10と同一の素材で構成した。しかし、補強層104を構成する素材は、シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材であれば、上記実施形態に限定されるものではない。この場合、シャドーマスク10を構成する素材の物理的特性とは、素材の密度、熱拡散率、比熱、熱伝導率、剛性率またはヤング率などを指す。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。なお、上記シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材に代えて、補強層104をシャドーマスク10を構成する素材よりも熱を吸収し易い素材材料で構成してもよい。これによれば、シャドーマスク10の温度上昇をより効果的に防止することができる。
【0038】
また、上記実施形態においては、シャドーマスク10を構成する素材としてインバー材を採用した。しかし、シャドーマスク10は、有機EL膜のパターニングを行える素材で構成されていれば、当然、これに限定されるものではない。例えば、シャドーマスク10を構成する素材として、ニッケル材、ステンレス材、ガラス材、樹脂材などが考えられる。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0039】
また、上記実施形態においては、マスク保持具102に保持されたシャドーマスク10に対してシャドーマスク10に付着した蒸着物質表面での反射率が最小となる入射角θでレーザ光Lを照射するように構成した。しかし、これは、照射するレーザ光Lの全エネルギをシャドーマスク10に付加することにより効果的に蒸着物質の除去を行うためである。したがって、必ずしも、シャドーマスク10に対して入射角θでレーザ光Lを照射する必要はなく、例えば、シャドーマスク10に対して垂直にレーザ光Lを照射してもよい。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。なお、シャドーマスク10に付着した蒸着物質表面での反射率が最小となる入射角θは、蒸着物質の種類(RGB、アルミ電極、透明電導膜)における各屈折率によってそれぞれ異なるため、各蒸着物質の特性ごとに適宜決定されるものである。
【0040】
また、上記実施形態においては、マスク保持具102は、マグネットプレート103による磁力によってシャドーマスク10を保持するように構成した。しかし、マスク保持具102がシャドーマスク10を保持する態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、平板状のインバー材の表面に複数の貫通孔を形成してマスク保持具102を構成してもよい。この場合、シャドーマスク10は前記貫通孔を介した負圧によりマスク保持具102に保持される。これによれば、インバー材で構成されたマスク保持具102が補強層104を兼ねることができ、クリーニング装置100の構成を簡単にしつつ、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0041】
なお、シャドーマスク10にテンションを付加した状態で支持枠に固定する従来の保持方法において、薄膜または薄板状の補強層104とともにシャドーマスク10を保持するように構成してもよい。ただし、シャドーマスク10にテンションを付加した状態で支持枠に固定する従来の保持方法に比べて、平板状のマグネットプレート103上に磁気を用いてシャドーマスク10を密着させる上記実施形態に係る保持方法を採用する方が、均一な力でシャドーマスク10を保持し易い。すなわち、シャドーマスク10を保持する際の変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係るクリーニング装置の全体構成の一部を模式的に示す構成概略図である。
【図2】図1に示すクリーニング装置におけるマスク保持具に保持されたシャドーマスクの状態を示す一部拡大断面図である。
【図3】図1に示すクリーニング装置が用いられる有機ELディスプレイ製造装置の全体構成を示すブロック図である。
【図4】従来技術における問題点を説明するためのシャドーマスクの一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0043】
L…レーザ光、Xth…熱拡散長、10…シャドーマスク、11…蒸気通孔、12…桟部、12s…中央部、12e…端部、100…クリーニング装置、101…筐体、102…マスク保持具、103…マグネットプレート、104…補強層、105…光学窓、106…光源、107…集光レンズ、108…ガルバノミラー、109…集塵口、110…排気管、111…真空ポンプ、112…コールドトラップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機EL膜の形成に用いられるシャドーマスクに付着した付着物を除去するシャドーマスクのクリーニング方法において、
前記シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材からなる補強層を前記シャドーマスクに密着させた状態で同シャドーマスクに付着した付着物を除去することを特徴とするシャドーマスクのクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1に記載したシャドーマスクのクリーニング方法において、
前記補強層は、前記シャドーマスクを構成する素材の熱拡散長以上の厚さで形成されることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したシャドーマスクのクリーニング方法において、
前記シャドーマスクは、磁性体によって構成されており、磁界を形成可能な平板状の支持板に前記補強層を介して支持されることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載したシャドーマスクのクリーニング方法において、
前記シャドーマスクに付着した付着物は、同シャドーマスクに対してレーザ光を照射することにより除去されており、
前記レーザ光は、前記シャドーマスクに付着した付着物表面での反射率が最小となる入射角で照射されることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング方法。
【請求項5】
有機EL膜の形成に用いられるシャドーマスクに付着した付着物を除去するシャドーマスクのクリーニング装置において、
前記シャドーマスクを構成する素材の物理的特性と同等な物理的特性を備える素材からなる補強層を前記シャドーマスクに密着させた状態で同シャドーマスクに付着した付着物を除去することを特徴とするシャドーマスクのクリーニング装置。
【請求項6】
請求項5に記載したシャドーマスクのクリーニング装置において、
前記補強層は、前記シャドーマスクを構成する素材の熱拡散長以上の厚さで形成されることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載したシャドーマスクのクリーニング装置において、さらに、
磁性体によって構成された前記シャドーマスクを支持するために、磁界を形成可能な平板状の支持板を備え、
前記補強層は、前記シャドーマスクを磁気吸着する前記支持体表面に形成されていることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載したシャドーマスクのクリーニング装置において、さらに、
前記シャドーマスクにレーザ光を照射して同シャドーマスクに付着した付着物を除去するレーザ光照射手段を備え、
前記レーザ光照射手段は、前記シャドーマスクに付着した付着物表面での反射率が最小となる入射角で前記レーザ光を照射することが可能であることを特徴とするシャドーマスクのクリーニング装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載したシャドーマスクのクリーニング方法を用いて、有機EL膜の形成に用いられるシャドーマスクに付着した付着物を除去するシャドーマスクのクリーニング工程を含むことを特徴とする有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載したシャドーマスクのクリーニング装置を備えたことを特徴とする有機ELディスプレイの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−16200(P2010−16200A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175121(P2008−175121)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(508202142)ゼータフォトン株式会社 (3)
【出願人】(503137621)株式会社 エスアンドデイ (4)
【Fターム(参考)】