説明

シリーズハイブリッド車両の制御装置

【課題】減速時における燃料消費を抑制しつつ、エンジン及びその周辺の熱害を防止する。
【解決手段】エンジン10と、該エンジン10の出力軸に連結されたジェネレータ20と、該ジェネレータ20で発電された電力により充電されるバッテリ40と、ジェネレータ20の発電電力またはバッテリ40からの電力の少なくとも一方により駆動されて駆動輪を駆動するモータ60と、を備えたシリーズハイブリッド車両1において、運転状態検出手段115,116により減速状態が検出された場合、温度検出手段111,112による検出温度が所定温度以下であるときはエンジン10を停止させ、温度検出手段111,112による検出温度が前記所定温度よりも高いときは、バッテリ40からジェネレータ20に電力を供給することで、該ジェネレータ20によりエンジン10をモータリングするように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用モータと、該走行用モータの駆動電力を発生させるためのエンジンとを備えたシリーズハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂シリーズ方式のハイブリッド車両には、エンジンと、該エンジンの出力軸に連結されたジェネレータと、走行用モータと、が搭載される。
【0003】
シリーズハイブリッド車両において、エンジンが駆動されるとジェネレータで発電が行われ、該ジェネレータの発電電力が直接またはバッテリを介して走行用モータに供給されることにより、走行用モータが駆動される。
【0004】
ところで、この種のハイブリッド車両では、一般に、減速時において走行用モータでエネルギ回生が行われ、この回生で得られる電力によりバッテリが充電される。なお、特許文献1には、バッテリが満充電状態にあるときに廃電を行うために、走行用モータで発生する回生電力をジェネレータに供給することで、該ジェネレータによりエンジンをモータリングする技術が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2には、前記のエネルギ回生とは別に、減速時のエンジン制御に関する発明が開示されている。この特許文献2の発明は、シリーズハイブリッド車両に関して、減速時にエンジンを停止させるものであり、これにより、不要な燃料消費を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−79914号公報
【特許文献2】特開2008−54408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術のように、減速時に一律にエンジンを停止させると、エンジンの排気系に高温のガスが滞留したり、エンジンの冷却水が循環されなくなって冷却系に高温の冷却水が滞留したりすることにより、エンジンが蓄熱状態となって、例えば排気系に設置された触媒装置の劣化、エンジンを支持するインシュレータの劣化、点火プラグの劣化、バッテリの劣化などの熱害が発生することがある。
【0008】
そこで、本発明は、減速時における燃料消費を抑制しつつ、エンジン及びその周辺の熱害を防止することができるシリーズハイブリッド車両の制御装置を提供することを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の請求項1に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、
エンジンと、
該エンジンの出力軸に連結されたモータとしての作動が可能なジェネレータと、
該ジェネレータで発電された電力により充電されるバッテリと、
前記ジェネレータの発電電力または前記バッテリからの電力の少なくとも一方により駆動されて駆動輪を駆動するモータと、を備えたシリーズハイブリッド車両の制御装置であって、
前記エンジンに関連する温度を検出する温度検出手段と、
運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該検出手段により減速状態が検出された場合において、前記温度検出手段による検出温度が所定温度以下であるときは前記エンジンを停止させ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高いときは、前記バッテリから前記ジェネレータに電力を供給することで、該ジェネレータにより前記エンジンをモータリングする制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本願の請求項2に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項1に記載の発明において、
前記バッテリの充電状態を検出する充電状態検出手段を備え、
前記制御手段は、前記運転状態検出手段により減速状態が検出され、且つ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高い場合において、前記充電状態検出手段によりバッテリの残充電量が所定量よりも高いことが検出されたときのみ、前記ジェネレータによるエンジンのモータリングを行うことを特徴とする。
【0011】
本願の請求項3に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項2に記載の発明において、
前記制御手段は、前記ジェネレータにより前記エンジンをモータリングするとき、モータリング回転数を、前記充電状態検出手段により検出されたバッテリの残充電量が多いほど高くすることを特徴とする。
【0012】
本願の請求項4に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項2または3に記載の発明において、
前記制御手段は、前記運転状態検出手段により減速状態が検出され、且つ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高い場合において、前記充電状態検出手段によりバッテリの残充電量が前記所定量以下であることが検出されたときは、前記エンジンをアイドリング運転させることを特徴とする。
【0013】
本願の請求項5に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項4に記載の発明において、
前記制御手段は、エンジンをアイドリング運転させる際、空燃比がリーンとなるように前記エンジンに燃料を供給することを特徴とする。
【0014】
本願の請求項6に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項4または5に記載の発明において、
前記エンジンは、第1の燃料と、同一出力下における燃焼排気温度が第1の燃料よりも低い第2の燃料のいずれか一方が選択的に供給されるデュアルフューエルエンジンであり、
前記制御手段は、エンジンをアイドリング運転させる際、前記エンジンに第2の燃料を供給することを特徴とする。
【0015】
本願の請求項7に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、
前記温度検出手段は、前記エンジンの排気温度を検出することを特徴とする。
【0016】
本願の請求項8に係るシリーズハイブリッド車両の制御装置は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、
前記シリーズハイブリッド車両は、前記エンジンにより駆動されることで該エンジンの冷却水を循環させるウォーターポンプを備え、
前記温度検出手段は、前記冷却水の温度を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1の発明によれば、シリーズハイブリッド車両に関して、減速状態が検出された場合、該エンジンの温度が比較的低温の時にはエンジンを停止させることで不要な燃料消費を防止し、該エンジンの温度が比較的高温の時にはジェネレータによりエンジンをモータリングすることで不要な燃料消費を防止しつつエンジンの排気系に滞留した高温のガスを排出したり、ウォーターポンプにより冷却水を循環させたりすることができ、例えば排気系に設置された触媒装置の劣化、エンジンを支持するインシュレータの劣化、点火プラグの劣化、バッテリの劣化などの熱害の発生を防止することができる。
【0018】
本願の請求項2の発明によれば、上記のジェネレータによるエンジンのモータリングが、バッテリの残充電量が所定量よりも高いときのみ行われるため、バッテリの残充電量が減りすぎて、モータによる走行やエンジンの始動に支障をきたしたり、バッテリの劣化を早めたりするなどの不具合が回避される。
【0019】
本願の請求項3の発明によれば、上記のジェネレータによるエンジンのモータリングが、バッテリの残充電量が多いときほど回転数が高くなるように行われるため、上記のような不具合を確実に回避しながら、熱害を効果的に防止できる。
【0020】
本願の請求項4の発明によれば、バッテリの残充電量が所定量以下である場合は、上記のジェネレータによるエンジンのモータリングに代えて、低回転、無負荷の状態で燃焼温度が低いアイドリング運転が行われるため、比較的低温の排気ガスにより排気系の温度を下げることができる。
【0021】
本願の請求項5の発明によれば、上記アイドリング運転時の空燃比がリーンに設定されるため、請求項4の発明より、さらに燃焼温度が低く抑制される。
【0022】
本願の請求項6の発明によれば、上記エンジンがデュアルフューエルエンジンである場合に、上記アイドリング運転の際、燃焼排気温度が低い燃料がエンジンに供給されるため、熱害抑制効果を高めることができる。特に、請求項5の発明においてこの発明を実施することで、一層高い熱害抑制効果を得ることができる。
【0023】
本願の請求項7の発明によれば、制御手段による制御が、エンジンの排気温度の検出に基づき行われるため、特に、エンジンの排気系に高温ガスが滞留することによる例えば触媒の劣化等の熱害の発生を効果的に防止することができる。
【0024】
本願の請求項8の発明によれば、制御手段による制御が、エンジンの冷却水の温度の検出に基づき行われるため、特に、高温の冷却水の滞留による熱害、例えばエンジンの近傍に配置されたバッテリやインシュレータの劣化、又は点火プラグの劣化等の熱害の発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリーズハイブリッド車両の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す車両の制御システム図である。
【図3】車両の走行領域を区分するマップである。
【図4】車両のコントロールユニットが行う具体的制御動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】バッテリの残充電量とモータリング時のエンジン回転数との関係を示すグラフである。
【図6】図4に示す制御を行う場合における各種要素の経時的変化の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1を参照しながら、本実施形態に係るシリーズハイブリッド車両1の全体構成について説明する。
【0028】
図1に示すように、車両1は、エンジン10と、該エンジン10の出力軸に連結されたモータとしての作動が可能なジェネレータ20と、該ジェネレータ20で発電された電力により充電される高電圧バッテリ40と、ジェネレータ20の発電電力またはバッテリ40からの電力の少なくとも一方により駆動されて駆動輪71,72を駆動するジェネレータとしての作動が可能なモータ60とを備えている。また、ジェネレータ20とバッテリ40との間には第1インバータ30が介在して設けられ、バッテリ40とモータ60との間には第2インバータ50が介在して設けられている。さらに、車両1には機械式のウォーターポンプ75が搭載されている。このウォーターポンプ75は、エンジン10により駆動されることで該エンジン10の冷却水を循環させるものである。
【0029】
車両1の駆動源は専らモータ60である。このモータ60の駆動力は、デファレンシャル装置70を介して左右の駆動輪(実施形態では前輪)71,72に伝達され、これにより、車両1が走行する。
【0030】
エンジン10の駆動力は、ジェネレータ20の発電に用いられる。このエンジン10は、ガソリン燃料タンク80に貯留されている液体燃料としてのガソリンと、水素燃料タンク90に貯留されている気体燃料としての水素とが選択的に供給されるデュアルフューエルエンジンである。ここで、ガソリン燃料使用時と水素燃料使用時とを比較すると、同一出力下における燃焼排気温度はガソリン燃料よりも水素燃料の方が低い。よって、エンジン10及びその周辺の熱害を抑制する観点においては、水素燃料を使用する方が有利である。
【0031】
次に、図2を参照しながら、車両1の制御システムについて説明する。
【0032】
図2に示すように、本実施形態に係るエンジン10は、ツインロータ式のロータリエンジンであって、ロータハウジング11のトロコイド面に3点で接し3つの作動室を画成するロータ12が回転することにより、出力軸としてのエキセントリックシャフト13が回転駆動される。ロータハウジング11には吸気通路14と排気通路16が接続されており、吸気通路14にはスロットル弁15とガソリン燃料噴射弁102が配設され、排気通路16には排気浄化触媒17が配設されている。水素燃料噴射弁103及び点火プラグ104は、ロータハウジング11の作動室に臨むようにしてロータハウジング11に取り付けられている。なお、図2において吸気通路14及び排気通路16に図示した矢印は、吸気または排気の流れを示している。
【0033】
車両1には、エンジン10の冷却水の温度を検出するエンジン冷却水温度センサ111と、エンジン10の排気ガスの温度を検出するエンジン排気温度センサ112と、バッテリ40を出入りする電流およびバッテリ40の電圧を検出するバッテリ電圧・電流センサ113と、乗員の操作によりエンジン10に供給される燃料をガソリン燃料と水素燃料との間で切り換えるための燃料切換スイッチ114と、車速(車両1の走行速度)を検出する車速センサ115と、車両の負荷としてアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ116と、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転センサ117と、が搭載されている。上記のセンサのうち、エンジン冷却水温度センサ111とエンジン排気温度センサ112は、特許請求の範囲における「温度検出手段」に相当し、車速センサ115とアクセル開度センサ116は、特許請求の範囲における「運転状態検出手段」に相当し、バッテリ電圧・電流センサ113は、特許請求の範囲における「充電状態検出手段」に相当するものである。
【0034】
これらのエンジン冷却水温度センサ111、エンジン排気温度センサ112、バッテリ電圧・電流センサ113、燃料切換スイッチ114、車速センサ115、アクセル開度センサ116、及びエンジン回転センサ117の各出力信号は、制御手段としてのコントロールユニット100に入力される。
【0035】
また、コントロールユニット100は、第1インバータ30、第2インバータ50、ガソリン燃料噴射弁102、水素燃料噴射弁103、及び点火プラグ104に制御信号を出力する。
【0036】
図3に示すように、コントロールユニット100には、車速と車両の負荷(アクセル開度)とにより規定される車両1の走行領域が領域A、領域B及び領域Cに区分されて予め設定されており、コントロールユニット100は、車両1の走行状態が上記領域A〜Cのいずれに属するかによって、モータ60への電力供給源を適宜切り替えるように制御する。
【0037】
具体的に、車両1の走行状態が領域Aに属するとき、すなわち低負荷走行時は、バッテリ40から第2インバータ50を介してモータ60に電力が供給されることで、バッテリ40の放電のみに基づくモータ走行が行われる。
【0038】
これに対して、車両1の走行状態が領域Cに属するとき、すなわち高負荷低車速走行時は、エンジン10の駆動により生じるジェネレータ20の発電電力と、バッテリ40からの電力とがモータ60に供給されることで、エンジン10駆動による発電とバッテリ60の放電とに基づくモータ走行が行われる。
【0039】
また、車両1の走行状態が領域Bに属するとき、すなわち、領域A、C以外での主として中負荷の領域での走行時は、エンジン10の駆動により生じるジェネレータ20の発電電力が第1及び第2のインバータ30,50を介してモータ60に供給されることで、エンジン10駆動による発電のみに基づくモータ走行が行われる。
【0040】
なお、エンジン10の駆動によりジェネレータ20で発電が行われるとき、ジェネレータ20の発電電力の余剰分が第1インバータ30を介してバッテリ40に供給されることにより、バッテリ40が充電される。また、バッテリ40の充電は、車両1の減速時にモータ60を発電機として作動させることによって発生する回生電力が第2インバータ50を介してバッテリ40に供給されることによっても行われる。
【0041】
続いて、図4を参照しながら、コントロールユニット100で行われる具体的制御動作の一例について説明する。
【0042】
先ず、ステップS1において、各種信号の読み込みが行われる。具体的には、エンジン10の冷却水温度Tw、エンジン10の排気温度Te、アクセル開度、車速、バッテリ40の電圧・電流値、及び、燃料切換スイッチ114の選択燃料の各信号が読み込まれる。
【0043】
次のステップS2では、ステップS1で読み込まれたバッテリ40の電圧・電流値に基づき、バッテリ40の残充電量SOCが算出される。
【0044】
続くステップS3では、減速、即ち負荷(アクセル開度)の減少により車両1の走行領域が図3の領域Aに入ったか否かが判定される。
【0045】
ステップS3の判定の結果、減速により車両1の走行領域が図3の領域Aに入った場合でないとき、乗員により選択された燃料(ガソリン燃料又は水素燃料)が選択された状態で(ステップS4)、車両1の走行領域に応じた通常の運転、すなわち図3のマップに従う運転が行われる(ステップS5)。
【0046】
一方、ステップS3の判定の結果、減速により車両1の走行領域が図3の領域Aに入ったとき、ステップS6に進む。
【0047】
ステップS6及びステップS7では、エンジン10に関連する温度についての判定が行われる。具体的に、ステップS6では、エンジン10の排気温度Teが所定温度Te1よりも高いか否かが判定され、ステップS7では、エンジン10の冷却水温度Twが所定温度Tw1よりも高いか否かが判定される。
【0048】
ステップS6〜ステップS7の判定の結果、排気温度Teが所定温度Te1以下であり、かつ、冷却水温度Twが所定温度Tw1以下である場合、ステップS8においてエンジン10が停止される。これにより、エンジン10の駆動による発電を必要としない走行状態であるときの無駄な燃料消費を抑制することができる。
【0049】
一方、ステップS6〜ステップS7の判定の結果、排気温度Te又は冷却水温度Twが所定温度Te1,Tw1よりも高いとき、ステップS9に進み、ステップS9の判定結果によっては、エンジン10のモータリングに関する処理(ステップS10及びステップS11)が行われる。
【0050】
なお、本実施形態では、排気温度Te又は冷却水温度Twの一方が所定温度Te1,Tw1よりも高ければ、他方が所定温度Te1,Tw1以下であっても、エンジン10のモータリングに関する処理(ステップS10及びステップS11)が行われ得るように制御される。
【0051】
ステップS9では、バッテリ40の残充電量SOCが所定量SOC1よりも多いか否かが判定され、残充電量SOCが所定量SOC1よりも多いときのみ、エンジン10のモータリングに関する処理(ステップS10及びステップS11)が行われる。これにより、バッテリ40の残充電量SOCが減りすぎて、モータ60による走行やエンジン10の始動に支障をきたしたり、バッテリの劣化を早めたり、車載機器の動作不良を招いたりするなどの不具合が回避される。
【0052】
ステップS10では、バッテリ40の残充電量SOCに応じてモータリング回転数が設定される。より具体的には、図5に示すように、バッテリ40の残充電量SOCが多いほどモータリング回転数は高く設定される。このような設定に基づき次のステップS11でエンジン10のモータリングを行うことにより、上記の不具合を確実に回避しながら、熱害を効果的に防止することができる。
【0053】
続くステップS11では、エンジン10への燃料供給に代えて、バッテリ40からジェネレータ20に電力が供給されることで、該ジェネレータ20によりエンジン10がモータリングされる。これにより、不要な燃料消費を防止しつつ、エンジン10の排気系に滞留した高温のガスを排出したりウォーターポンプ75により冷却水を循環したりすることができ、例えば排気浄化触媒17の劣化、エンジン10を支持するインシュレータの劣化、点火プラグ104の劣化、バッテリ40の劣化などの熱害の発生を防止することができる。
【0054】
一方、ステップS9の判定の結果、バッテリ40の残充電量SOCが所定量SOC1以下であるとき、ステップS12において乗員の選択燃料に関わらず水素燃料が強制的に選択された後、ステップS13において、空燃比がリーンの状態でエンジン10がアイドリング運転される。このように、バッテリ40の残充電量SOCの不足によりジェネレータ20によるエンジン10のモータリングを行えない場合に、燃焼排気温度が比較的低い水素燃料を使用したエンジン10のアイドリング運転が行われるため、比較的低温の排気ガスにより排気系の温度を下げることができる。しかも、このとき、空燃比がリーンに設定されるため、さらに燃焼温度が低く抑制される。
【0055】
なお、ステップS12〜ステップS13の処理に関して、本実施形態では、乗員の意思によりガソリン燃料が選択されている場合であっても、水素燃料が強制的に選択された上でアイドリング運転が行われるが、本発明は、乗員の意思によりガソリン燃料が選択されている場合には、引き続きガソリン燃料が選択された状態でアイドリング運転が行われるようにすることを妨げるものでない。この場合のアイドリング運転は、本実施形態と同様、空燃比をリーンに設定した上で行うことが好ましく、また、エンジン10の排気系には、リーン空燃比でガソリン燃料を使用した場合でも適切に排気ガスを浄化可能な触媒を設けることが好ましい。
【0056】
次に、図6のタイムチャートを参照しながら、図5の制御動作が行われたときの各種要素の経時的変化の一例について説明する。
【0057】
なお、図6に示す「減速フラグ」とは、減速により走行領域が図3に示す領域Aに入ったときに「1」にセットされ、走行領域が領域Aから別の領域に変更されたときに「0」にリセットされるフラグを指すものとする。
【0058】
図6の初期状態は、エンジン10の排気温度Teが所定温度Te1よりも高く、エンジン10の冷却水温度Twが所定温度Tw1よりも高く、バッテリ40の残充電量SOCが所定量SOC1よりも多く、乗員によりガソリン燃料が選択されており、ガソリン燃料を使用したエンジン10の駆動による発電に基づきモータ走行が行われている状態である。つまり、図6の初期状態において、車両1の走行状態は図3に示す領域Bに属し、減速フラグは「0」にセットされている。
【0059】
この初期状態において、減速により車両1の走行領域が図3に示す領域Aに入ると、すなわち、減速フラグが「1」にセットされると、エンジン10への燃料供給が停止されるとともに、バッテリ40の放電に基づくモータ走行に切り替えられる。また、これと同時に、ジェネレータ20によるエンジン10のモータリングが開始される。
【0060】
エンジン10のモータリングが行われると、比較的低温の外気がエンジン10及びエンジン10の排気系に取り込まれることにより、エンジン10の排気温度Teと冷却水温度Twは徐々に低下する。エンジン10の排気温度Teと冷却水温度Twの両方が所定温度Te1,Tw1以下になると、エンジン10のモータリングは終了する。
【0061】
その後、車両1の走行領域が図3の領域Aから領域Bに戻ると、再び、ガソリン燃料を使用したエンジン10の駆動による発電に基づくモータ走行が開始される。
【0062】
一方、図6の中期の状態は、バッテリ40の残充電量SOCが所定量SOC1以下となっており、この点を除けば、図6の初期状態と同様の状態である。
【0063】
この図6の中期状態において、減速により車両1の走行領域が図3に示す領域Aに入ると、バッテリ40の放電に基づくモータ走行に切り替えられるとともに、水素燃料が強制的に選択された上で、空燃比がリーンとなるようにエンジン10がアイドリング運転される。なお、本発明において、このアイドリング運転は、ガソリン燃料を選択したまま空燃比をリーンにして行うようにしてもよい。
【0064】
このアイドリング運転により、エンジン10の排気温度Teと冷却水温度Twは徐々に低下し、排気温度Teと冷却水温度Twの両方が所定温度Te,Tw以下になると、アイドリング運転は終了される。
【0065】
なお、図6に示す場合と異なり、乗員により水素燃料が選択されている場合は、アイドリング運転時も含めてエンジン10の駆動時は常に水素燃料が使用され、アイドリング運転時のみ空燃比がリーンに設定される。
【0066】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0067】
例えば、本発明において使用するエンジンは、上述の実施形態のようなロータリエンジン10に限られず、レシプロエンジンであってもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、第1燃料としてガソリン燃料を使用し、第2燃料として水素燃料を使用する構成について説明したが、本発明は、同一出力下における燃焼排気温度が第1燃料よりも第2燃料の方が低いという条件を満たすのであれば、第1燃料としてガソリン燃料以外の燃料を使用したり、第2燃料として水素燃料以外の燃料を使用したりすることを妨げるものでない。
【0069】
さらに、本発明は、2種類の燃料が選択的に供給されるデュアルフューエルエンジンを搭載した車両に限らず、1種類の燃料のみが使用されるエンジンを搭載した車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1:車両、10:エンジン、20:ジェネレータ、40:バッテリ、60:モータ、75:ウォーターポンプ、100:コントロールユニット、111:エンジン冷却水温度センサ、112:エンジン排気温度センサ、113:バッテリ電圧・電流センサ、114:燃料切換スイッチ、115:車速センサ、116:アクセル開度センサ、117:エンジン回転センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
該エンジンの出力軸に連結されたモータとしての作動が可能なジェネレータと、
該ジェネレータで発電された電力により充電されるバッテリと、
前記ジェネレータの発電電力または前記バッテリからの電力の少なくとも一方により駆動されて駆動輪を駆動するモータと、を備えたシリーズハイブリッド車両の制御装置であって、
前記エンジンに関連する温度を検出する温度検出手段と、
運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該検出手段により減速状態が検出された場合において、前記温度検出手段による検出温度が所定温度以下であるときは前記エンジンを停止させ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高いときは、前記バッテリから前記ジェネレータに電力を供給することで、該ジェネレータにより前記エンジンをモータリングする制御手段と、を備えたことを特徴とするシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記バッテリの充電状態を検出する充電状態検出手段を備え、
前記制御手段は、前記運転状態検出手段により減速状態が検出され、且つ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高い場合において、前記充電状態検出手段によりバッテリの残充電量が所定量よりも高いことが検出されたときのみ、前記ジェネレータによるエンジンのモータリングを行うことを特徴とする請求項1に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ジェネレータにより前記エンジンをモータリングするとき、モータリング回転数を、前記充電状態検出手段により検出されたバッテリの残充電量が多いほど高くすることを特徴とする請求項2に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記運転状態検出手段により減速状態が検出され、且つ、前記温度検出手段による検出温度が前記所定温度よりも高い場合において、前記充電状態検出手段によりバッテリの残充電量が前記所定量以下であることが検出されたときは、前記エンジンをアイドリング運転させることを特徴とする請求項2または3に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、エンジンをアイドリング運転させる際、空燃比がリーンとなるように前記エンジンに燃料を供給することを特徴とする請求項4に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記エンジンは、第1の燃料と、同一出力下における燃焼排気温度が第1の燃料よりも低い第2の燃料のいずれか一方が選択的に供給されるデュアルフューエルエンジンであり、
前記制御手段は、エンジンをアイドリング運転させる際、前記エンジンに第2の燃料を供給することを特徴とする請求項4または5に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記温度検出手段は、前記エンジンの排気温度を検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記シリーズハイブリッド車両は、前記エンジンにより駆動されることで該エンジンの冷却水を循環させるウォーターポンプを備え、
前記温度検出手段は、前記冷却水の温度を検出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシリーズハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51479(P2011−51479A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202311(P2009−202311)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】