説明

スイッチング磁界の改善された分散を伴う磁気ランダムアクセスメモリセル

【課題】従来のMRAMセルに比べて向上された切替効率とより低い電力消費と切替磁場の改善された分散を呈するMRAMセルを提供する。
【解決手段】磁気トンネル接合2が、第1強磁性層21、所定の高温閾値の下で第2強磁性層23の異方性軸60に合わせて指向され得る第2磁化方向231を呈する第2強磁性層23、及びトンネル障壁22から構成される。第1電流ライン4が、第1方向70に沿って延在し且つ前記磁気トンネル接合2とやりとりし、この第1電流ライン4は、界磁電流41の通電時に前記第2磁化方向231を指向させるための磁場42を提供するために形成されている。前記磁場42の少なくとも或る成分が、この磁場42の供給時に前記異方性軸60に対してほぼ垂直にあるように、MRAMセル1が、前記第1電流ライン4に関連して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル磁気接合を有し、従来のMRAMセルに比べて向上された切替効率とより低い電力消費と切替磁場の改善された分散とを呈する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルに関する。また、本発明は、複数のMRAMセルを有するMRAM装置及びこれらのMRAMセルに書き込むための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可変抵抗材料を採用する記憶装置には、抵抗変化型メモリ(RRAM)、相変化強誘電体メモリ(PRAM)、強誘電体メモリ(FRAM)、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)等がある。上で挙げた不揮発性の記憶装置は、可変抵抗材料の抵抗の変化(RRAM)、アモルファス状態及び結晶状態を呈する相変化材料(PRAM)、異なる偏向状態を呈する強磁性材料(FRAM)並びに/又は異なる磁化状態を呈する強磁性材料の磁気トンネル接合薄膜(MRAM)に基づいてデータを記憶する。
【0003】
磁気トンネル接合が、室温で強い磁気抵抗を示すので、磁気ランダムアクセスメモリに基づく装置が、新たな関心を得ている。磁気ランダムアクセスメモリには、(数ナノ秒未満の)高い書き込み及び読み出し速度、不揮発性及びイオン化放射に対する鈍感性のような多くの利点がある。磁気トンネル接合を有するMRAMセルの発展が、MRAMの性能及び動作モードの著しい向上を可能にした。
【0004】
最も簡単な構成では、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルが、薄い1つの絶縁層によって分離された2つの磁気層から形成された少なくとも1つの磁気トンネル接合を有する。この場合、1つの層、いわゆる基準層が、固定された磁化方向を特徴とする。第2層、いわゆる記憶層が、メモリの書き込み時に変更され得る磁化方向を特徴とする。基準層と記憶層とのそれぞれの磁化方向が反平行であるときは、磁気トンネル接合の抵抗が、論理状態「1」に相当して高い(Rmax)。これに対して、当該それぞれの磁化方向が平行であるときは、磁気トンネル接合の抵抗が、論理状態「0」に相当して低くなる(Rmin)。MRAMセルの論理状態が、このMRAMセルの抵抗状態を、磁気トンネル接合の論理状態「1」の抵抗と論理状態「0」の抵抗との中間に合わせられた一般にRref=(Rmin+Rmax)/2の基準抵抗を有する好ましくは1つの基準セルに由来するか又は複数の基準セルから成る1つのアレイに由来する基準抵抗Rrefと比較することによって読み出される。
【0005】
従来の実際の構成では、隣接した反強磁性の基準層に対して「交換バイアス」される基準層であって、この反強磁性の基準層のブロッキング温度TBRとして知られた臨界温度(この臨界温度の上では、交換バイアスが消失する)を特徴とする。
【0006】
例えば米国特許第6,950,335号明細書中に記されたように、熱的にアシストされた切替(TAS)手順を使用するMRAMセルの構成では、記憶層も、隣接した反強磁性の記憶層に対して交換バイアスされる。この反強磁性の記憶層のブロッキング温度TBS(この反強磁性の記憶層の交換バイアスが、そのブロッキング温度TBSで消失する)が、基準層をピン止めする反強磁性の基準層のブロッキング温度TBRより低い。当該ブロッキング温度TBSの下では、記憶層は、書き込むことが困難であるか及び/又は不可能である。そこで、書き込みが、TBSの上で磁気トンネル接合を加熱することによって実行されるものの、TBRの下では実行されない。しかし、好ましくは、界磁電流によって発生された印加磁場、いわゆる書き込み磁場を同時に印加しながら、記憶層の磁化方向を任意に方向付けするための当該加熱は、磁気トンネル接合を通じて加熱電流を通電させることに限定されない。次いで、この磁気トンネル接合が、ブロッキング温度TBSの下に冷却される。この場合、記憶層の磁化方向が、書き込み方向に「固定」される。
【0007】
自由層が、MTJの固有異方性及び/又は形状異方性によって「磁化容易軸」(EA)と呼ばれる磁化方向にとって好ましい軸を得るために形成され得、一般に基準の磁化方向に沿ってセットされる。
【0008】
書き込み手続き中に、印加磁場による記憶層の磁化方向の反転機構が、磁化方向の(時計回り若しくは反時計回りの)回転によって、又は磁壁、渦形の磁化方向の形成、C字形の磁化方向の形成若しくはS字形の磁化方向の形成のような均質でない様々な磁化方向の形成によって発生し得る。記憶層の磁化方向を切り替えるために要求される印加磁場の大きさは、どの磁化方向の形成が磁化方向の切り替え中に関与されるかに応じて大きく異なる。したがって、当該反転磁場の値が、大きくなり且つ大いに変動しやすい。
【0009】
複数のメモリTAS−MRAMセルから成るアレイを組み立てることによって形成された磁気メモリ装置の場合、当該個々のセルの形のようなアレイにわたるこれらのセルの特性が、製造工程の変動に起因して変化しうる。このことは、当該セルアレイ内の形状異方性を変化させ得、さらに書き込み領域を変動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,950,335号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. P. Stoner, E. C. & Wohlfarth “A Mechanism of Magnetic Hysteresis in Heterogeneous Alloys”, Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series A, Mathematical and Physical Sciences 240(826), 599-642 (1948)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、熱的にアシストされた切替手続を伴う磁気ランダムアクセスメモリ及び従来の技術の少なくとも幾つかの制限を排除するメモリ装置に書き込むための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
当該実施の形態によれば、MRAMセルが、基準層、記憶層及びこの記憶層とこの基準層との間に配置されている絶縁層から形成された磁気トンネル接合から構成され得る。この場合、前記記憶層が、前記記憶層の記憶異方性軸に合わせて所定の高温閾値の上で指向され得る記憶磁化方向を有する。電流ラインが、前記磁気トンネル接合に対して電気接続される。界磁ラインが、前記磁気トンネル接合とやりとりする。この界磁ラインは、界磁電流の通電時に前記記憶磁化方向を指向させるための印加磁場を供給するために形成されている。前記印加磁場の少なくとも或る成分が、この印加磁場の供給時に前記記憶層の異方性軸に対してほぼ垂直にあるように、前記MRAMセルが、前記界磁ラインに関連して形成されている。この場合、当該第2強磁性層が、この第2強磁性層の寸法の少なくとも一部に沿って非対称の形を有する。その結果、この第2磁化方向が、C字状態のパターンを有する。この場合、このC字状態のパターンは、第2磁界成分によってS字状態のパターンに変更可能である。そして、この第2磁化方向は、印加磁場が供給されるときに第1磁界成分によって切り替え可能である。
【0014】
別の実施の形態では、磁気トンネル接合が、所定の低温閾値の下で記憶磁化方向をピン止めするために適合された反強磁性記憶層をさらに有してもよい。
【0015】
さらに或る実施の形態では、MRAMセルが、前記磁気トンネル接合に接続された選択トランジスタをさらに有してもよい。この選択トランジスタが選択されたときに、前記電流ライン経由で前記磁気トンネル接合に加熱電流を通電させることによって、この選択トランジスタは、書き込み操作中に前記磁気トンネル接合を或る高温閾値まで加熱するために選択可能である。
【0016】
また、本発明は、複数のMRAMセルと横方向に沿ってこれらのMRAMセルに接続している複数の界磁ラインと縦方向に沿ってこれらのMRAMセルに接続している複数の電流ラインとから構成されているMRAM装置に関する。
【0017】
また、本発明は、
前記磁気トンネル接合を加熱し、
前記磁気トンネル接合が、所定の高温閾値に達したら、第2強磁性層を第2磁化方向に切り替え、
前記第2磁化方向をその書き込み状態に固定するために前記磁気トンネル接合を所定の低温閾値で冷却し、
前記記憶磁化方向をその書き込み状態に固定するために前記磁気トンネル接合を或る低温閾値まで冷却することから成る、MRAセルに書き込むための方法に関する。
【0018】
当該方法の場合、前記記憶磁化方向の当該切り替えが、印加磁場を印加して、前記記憶磁化方向を指向させるように、界磁電流を界磁ライン中に通電させることを有してもよい。この場合、前記印加磁場の少なくとも或る成分が、前記記憶異方性軸に対してほぼ垂直にある。この場合、前記第2磁化方向の当該切り替えが、第2磁界成分によって前記第2磁化方向のC字状態のパターンをS字状態のパターンに変化させることをさらに有する。
【0019】
或る実施の形態では、印加磁場が、異方性軸に対してほぼ平行に指向される、第2磁化方向を切り替える第1磁界成分をさらに有してもよい。前記界磁電流の当該通電が、前記磁気トンネル接合の冷却前に実行され得る。
【0020】
別の実施の形態では、前記方法が、前記界磁電流を遮断することをさらに有してもよい。この場合、所定の低温閾値での前記磁気トンネル接合の当該冷却が、前記界磁電流を遮断する前に実行される。
【0021】
ここで開示されたMRAMセルは、従来のMRAMセルに比べて向上された切替効率とより低い電力消費と切替磁場の改善された分散とを呈する。
【0022】
本発明は、例示され且つ図示された実施の形態の記述を助けにしてより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】或る実施の形態による熱的にアシストされた切替手順を伴う磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルの投影図である。
【図2】或る実施の形態によるMRAMセルの上面図である。
【図3】別の実施の形態によるMRAMセル1を示す。
【図4】図3の実施の形態によるMRAMセル1中の磁化方向のベクトルパターン
【図5】或る実施の形態による複数のMRAMから成るMRAM装置を示す。
【図6】別の実施の形態による複数のMRAMから成るMRAM装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、或る実施の形態による磁気ランダムアクセスメモリMRAMセル1の投影図である。このMRAMセル1は、基準磁化方向211を呈する基準層21と所定の高温閾値で自由に整列され得る記憶磁化方向231を呈する記憶層23とこの基準層21とこの記憶層23との間に備え付けられたトンネル障壁22とから構成される。さらに、このMRAMセル1は、第1方向70に沿って延在する界磁ライン4を有する。界磁電流41を通電させたときに、記憶磁化方向231を特定の方向に合わせる目的として、この界磁ライン4は、外部磁場42を記憶層23に対して印加するために形成されている。MRAMセル1は、当該磁気トンネル接合2のその他の端部に電気接続している選択トランジスタ3を有し得る。この選択トランジスタが、第1電流ライン4に対してほぼ直交して配置されている電流ライン5によって制御される。
【0025】
記憶層23が、磁化方向の磁化容易軸つまり記憶異方性軸60と磁化方向の磁化困難軸61とを有する。磁化容易軸60と磁化困難軸61との双方が、互いに垂直な方向にある単一平面に沿って互いに垂直に指向されている。外部磁場の影響がなければ、記憶磁化方向231が、それ自身で異方性軸60に沿って配列する傾向にある。この記憶磁化方向231が、1ビットの1つの論理状態を記憶するようにMRAMセル1の書き込み操作中にこの異方性軸60に対してさらに方向付けされ得る。例えば、双方の論理0状態と論理1状態とが、書き込み操作中に互いに180°で一般的に指向される記憶磁化方向231の方向によって規定されてもよい。
【0026】
さらに、磁気トンネル結合2が、記憶磁化方向231に交換結合する記憶反強磁性層(図示せず)を有し得る。その結果、所定の高温閾値の上では、記憶磁化方向231が自由に指向され得、この記憶磁化方向231が、所定の第1低温閾値の下でピン止めされる。基準層21も、その磁化方向が当該所定の第1高温閾値より高い所定の第2低温閾値の下でピン止めされながら基準反強磁性層(図示せず)によって交換結合され得る。
【0027】
或る実施の形態では、異方性軸60が、記憶層23の形に本質的に起因する。このことは、形状異方性としても知られている。この場合、外部磁場42の影響なしに、記憶層23の形が、記憶磁化方向231自身をメモリセルの寸法に沿って整合させる。
【0028】
図1の例では、MRAMセル1が、楕円形を成し、異方性軸60が、楕円形の記憶層23の長軸に沿って指向されている。この長軸、したがって異方性軸60が、電流ライン4の方向に対して所定の角度αを成して指向されているように、MRAMセル1が形成されている。印加磁場42の不在中に、第1磁化方向231が、長軸つまり異方性軸60にほぼ沿って指向される、したがって第1電流ライン4に対して所定の角度αを成して指向される。
【0029】
また、異方性軸60は、MRAMセル1の任意のその他の異方性の形から生じてもよい。この場合、例えば、記憶層23が、この記憶層23の1より大きい長さ/幅のアスペクト比を有する。考えられる異方性の形が、限定されることなしに楕円形や菱形や長方形から形成されてもよい。当該異方性軸60は、記憶層23の長軸つまり最長寸法に相当する。さらに、MRAMセル1の異方性の形は、ただ1つの記憶層23に限定される必要がない。その他のMRAMセルのうちの1つ以上の層が、異方性の形を形成し得る。或る実施の形態では、MRAMセル1の全ての層が、異方性の形を形成し得る。
【0030】
図示されない別の実施の形態では、異方性軸は、結晶磁気異方性とも呼ばれる一軸結晶磁気異方性によって決定される。結晶磁気異方性に起因する好適な磁化方向が、例えば、記憶層23の膜蒸着中にバイアス磁場によって、又は、高められた温度(例えば、200℃〜300℃)における高い磁場(例えば、数キロエルステッド)中での膜蒸着後に当該膜をアニールすることによってセットされ得る。また、当該結晶磁気異方性は、上述したような形状異方性と組み合わせられ得る。その一方で、記憶層23及び場合によってはMRAMセル1の任意のその他の層は、結晶磁気異方性のほかに異方性の形にすることができる。
【0031】
或る実施の形態では、データをMRAMセル1に書き込むための書き込み操作が、磁気トンネル接合2を加熱すること、記憶層23の記憶磁化方向231を切り替えること、そしてこの記憶磁化方向231をその書き込み状態に固定するために前記磁気トンネル接合2を或る低温閾値の下に冷却することから成る。磁気トンネル接合2を加熱することは、選択トランジスタ3が導通モードにあるときに、電流ライン5によって加熱電流31を磁気トンネル接合2に通電させることから成る。磁気トンネル接合2が、所定の高温閾値に達すると、記憶磁化方向231が、この記憶磁化方向231を指向させるために適合された磁場42を印加するための界磁ライン4中に界磁電流41を通電させることによって切り替えられ得る。磁気トンネル接合2を冷却することは、選択トランジスタ3をブロックモードにセットすることによって加熱電流31を遮断することから成り得る。書き込み状態を読み出すための読み出し操作が、磁気トンネル接合2の抵抗を測定するために電流ライン5によって読み出し電流(図示せず)を磁気トンネル接合2中に通電させることから成り得る。磁気トンネル接合2の抵抗が、1つの基準磁化方向211に対する記憶磁化方向231の相対方位によって測定される。図示されなかった或る実施の形態では、第1磁化方向211が、例えば上述したような反強磁性基準層でピン止めされることによって1つの第2磁化方向231に対して固定される。
【0032】
異方性軸60が、界磁ライン4に対して所定の角度αで指向されるように、MRAMセル1が、界磁ライン4に対して形成される。このような配置では、界磁ライン4中の界磁電流の通電が、異方性軸60に対してほぼ垂直(又は磁化方向61の磁化困難軸に対して平行)である磁場42の少なくとも或る程度の成分を有する印加磁場42を発生させる。MRAMセル1の上面図である図2の例では、印加磁場42が、異方性軸60に対してほぼ平行に指向される第1磁界成分421と異方性軸60に対してほぼ垂直に指向される第2磁界成分420とから成る。
【0033】
この配置では、第1磁界成分421が、記憶磁化方向231を第1磁界成分421の方向に指向させる、つまり記憶磁化方向231を切り替える。異方性軸60、したがって記憶磁化方向231の初期方向に対してほぼ垂直である第2磁界成分420が、この記憶磁化方向231をこの第2磁界成分420の方向に回転させる。すなわち、第2磁界成分420が、記憶磁化方向231の切り替えを促進させる。第1磁界成分421と第2磁界成分との相対的な大きさが、所定の角度αに依存するので、第2磁化方向231に対するこれらの相対的な大きさのそれぞれの影響が、異方性軸60と界磁ライン4との成す所定の角度αを変更することによって変更され得る。
【0034】
好ましくは、非特許文献1に記載されているように、所定の角度αが、最小の切り替え磁場を可能にするαによる0°<α<90°であるような範囲内で選択されるべきである。好ましくは、所定の角度αが、0°〜45°、さらに好ましくはほぼ45°に選択されるべきである。
【0035】
或る実施の形態では、磁気トンネル接合2が、所定の低温閾値に達すると、この磁気トンネル接合2を冷却するステップ後に、界磁電流41が、書き込み操作中に遮断される。この場合、印加磁場42によって、特に界磁ライン4に対してほぼ垂直方向に指向されたときに、記憶磁化方向231が固定される。その結果、書き込み状態レベルに対応する固定された記憶磁化方向231が、異方性軸60に対して所定の角度βで指向される。
【0036】
別の実施の形態では、界磁電流41が、磁気トンネル接合2を冷却するステップ前に遮断される。この場合、磁気トンネル接合2が、依然として所定の高温閾値にあるときに、印加磁場41が終了され、記憶磁化方向231が、異方性軸60に沿って切り替え方向に指向される。すなわち、磁気トンネル接合2が、加熱電流31を遮断することによって第2磁化方向231をその切り替え方向に固定するように冷却され得る。
【0037】
記憶磁化方向231の切り替え中に第2磁界成分を促進させる効果の結果、ここで記されたMRAMセル1は、向上された切替効率を可能にする。磁場42、したがって界磁電流41のより小さい値が使用され得る結果、MRAMセル1の電力消費がより低くなる。これに対して、一般に従来のTAS−MRAMセルは、異方性軸が印加磁場42の方向に対して平行に指向されるように構成されている。このような従来の構成では、磁化方向の切り替えが、熱活性化によって起動され、切り替え速度が、この熱活性化の確率的性質によって制限される。したがって、本発明のMRAMセル1で達成される切り替え速度に匹敵する切り替え速度を達成するためには、印加磁場のより高い値が要求される。すると、このことは、より大きい界磁電流の源となる、後続接続しているより大きい選択トランジスタの使用を要求する結果、MRAMセルのサイズが、大きくなり且つ実用的でない。また、電力消費が大きくなり、ポテンシャルが減衰し、これに関連して、磁気トンネル接合、特にトンネル障壁の信頼性が低下する。
【0038】
対称に形成された複数のMRAMセルの欠点は、これらのMRAMセルが大きさ、形及び欠陥のばらつきに対して敏感になりやすい点である。その結果、対称に形成された複数のMRAMセルのアレイ内の1つ以上のMRAMセルが、MRAMセルごとに異なるスイッチング機構を生じさせる異なる平衡ベクトル状態を引き起こしうる。小さい寸法(一般に、100nm未満)を有するMRAMセルに対しては、磁壁が形成され得ず、スイッチング機構つまり反転機構が、磁化方向のコヒーレントな回転を通じた磁化方向の反転に従い得る。上述したように、異方性軸60は、記憶層23の形から生じ得る。例えば、楕円形の記憶層23が、平衡時に(つまり、印加磁場の不在中に)S字形に似ている磁化ベクトルのフィールドパターンを発生させる。一般に、このようなS字形のパターンつまりS状態は、記憶層23の磁化方向を切り替えるための比較的低い外部磁場を必要とする。しかしながら、当該楕円に形成された記憶層23は時々、C字形に似ている平衡磁化ベクトル場を引き起こしうる。このC字形に似ている平衡磁化ベクトル場は、当該S字状態より比較的より安定であり、MRAMセル1の磁化方向状態を切り替えるための遥かにより大きい外部磁場を必要としうる。
【0039】
図3は、別の実施の形態によるMRAMセル1の上面図である。この場合、記憶層23が、その寸法の少なくとも一部に沿って非対称な形を有する。この記憶層23の非対称な形は、好ましくは異方性軸60の周りに配列される。記憶層23が、1より大きいアスペクト比を有する場合、異方性軸60が、一般に記憶層23の最も長い寸法に沿って配列される。このことは、磁化方向のS字形パターンを犠牲にした磁化方向のC字形のパターンを励行するための非対称の形を可能にする。図3の例では、当該非対称な形が、その周囲の一方の側に沿って1つの湾曲部分を有し、その向かい側にほぼ一直線の周囲を有する。この代わりに、当該非対称な形が、向かい側のほぼ凹形である湾曲部分を有してもよい。このほぼ凹形の湾曲部分が、一直線の周囲より強いC字状態を引き起こし得る。異方性軸60が、磁界ライン4に対して角度αを成すように、図3のMRAMセル1が配置されている。
【0040】
記憶層23が、この記憶層23の第2軸周りに回転されるときに、この記憶層23が、非対称な形を有するように、この記憶層23の非対称な形が配置されてもよい。記憶層23が、異方性軸60と第2軸との周りに回転されるときに、さらに、この記憶層23が、非対称な形を有するように、この記憶層23の非対称な形が配置されてもよい。当該第2軸は、記憶層23の磁化困難軸に相当し得る。この記憶層23が、その周囲の向かい側より大きい湾曲部分をその周囲の一方の側に有する非対称な周囲を有してもよい。当該周囲のこれらの側は、異方性軸60の周りで対向していてもよく、記憶層23の形に応じて当該周囲の異なる部分に沿って配置されてもよい。さらに、当該非対称な形は、単独の記憶層23に限定される必要がなく、1つ以上のその他のMRAMセル層が、ほぼ非対称な形を有してもよい。或る実施の形態では、MRAMセル1の全ての層が、ほぼ非対称な形を有する。当該記憶層23又は1つ以上のその他のMRAMセル層の非対称の形が、ほぼ1.0以上の任意の値を取り得るアスペクト比を有してもよい。
【0041】
図4a〜4dは、本発明の或る実施の形態による上述した書き込み操作中の図3の非対称な形を有する記憶層23の記憶磁化方向231のベクトルパターンを示す。さらに、特に図4aが、印加磁場42を印加する前の記憶磁化方向231のベクトルパターンを示す。記憶層23の非対称な形が、記憶磁化方向231におけるC字パターンを引き起こす。印加磁場42の印加が、記憶磁化方向231におけるC字状態をS字状態パターンに変化させる(図4b)。さらに、特にS字状態のパターンは、異方性軸60に対してほぼ垂直に指向される第2磁界成分420によって引き起こされる。異方性軸60に対してほぼ平行に指向された第1磁界成分421が、記憶層の磁化方向の切り替えを引き起こす(図4c)。図4dは、界磁電流41が遮断され、磁気トンネル接合2を冷却した後に、C状態にさらに安定化されている記憶磁化方向231のベクトルパターンを示す。
【0042】
非対称な形を有するMRAMセル1の利点は、印加磁場42が印加されるときに、記憶磁化方向231が、S字状態にセットされる点である。一般に、S字状態の磁化方向は、切り替えるために比較的低い外部磁場を要するので、したがって書き込み操作が、対称な形を成す記憶層23を有するMRAMセル1に書き込むよりも低い値の界磁電流41で実行され得る。したがって、非対称な形を成す記憶層23を有するMRAMセル1は、より低い電力消費で済む。上述した事項は、上記で説明したような記憶層23のその他の対称な形に対しても適用される。
【0043】
図5は、或る実施の形態による縦横に配列された複数のMRAMセル1を有するMRAM装置10を示す。このMRAM装置10は、第1方向70に沿って延在し且つ横方向に沿ってMRAMセルに接続している複数の第1電流ライン4と縦方向に沿ってMRAMセル1に接続している複数の第2電流ライン5とをさらに有する。第2電流ライン5が、これらのMRAMセル1のそれぞれの選択トランジスタ3を通じてこれらのMRAMセル1に接続され得る。異方性軸60が、電流ライン4に対して所定の角度αを成して指向されているように、各MRAMセル1が、当該第1電流ライン4と第2電流ライン5との交差領域内に配置されている。図5の例では、MRAMセル1の第2強磁性層23が、対称な形、さらに特に楕円形を有する。図6は、別の実施の形態によるMRAMセル10を示す。この場合、MRAMセル1の第2強磁性層23が、上述したような非対称な形を有する。
【0044】
書き込み操作中に、複数のMRAMセル1のうちの1つのMRAMセルが、複数の第1電流ライン4のうちの1つの第1電流ライン4中に(この第1電流ライン4によって発生された)界磁電流41を通電させることによって及び複数の第2電流ライン5のうちの1つの第2電流ライン5中に(この第2電流ライン5によって発生された)加熱電流31を通電させることによって選択的に書き込まれ得る。すなわち、作動された第1電流ライン4と第2電流ライン5との交差点にあるMRAMセル1(選択されたMRAMセル1)が書き込まれ得る。或る実施の形態では、加熱電流31が、導通モードにある選択トランジスタ3をセットすることによって当該選択されたMRAMセル1の磁気トンネル接合2中を通電される。第2強磁性層23が非対称の形を有するMRAMセル1の利点は、当該選択されたMRAMセル1の書き込み選択性が、第2強磁性層23が対称の形を有するMRAMセル1に比べて向上されている点である。
【符号の説明】
【0045】
1 メモリ(MRAM)セル
10 MRAM装置
2 磁気トンネル接合
21 基準層
22 トンネル障壁
23 記憶層
211 基準磁化方向
231 記憶磁化方向
31 加熱電流
4 界磁ライン
41 界磁電流
42 印加磁場
420 第2磁界成分
421 第1磁界成分
5 電流ライン
60 磁化方向の磁化容易軸、異方性軸
61 磁化方向の磁化困難軸
70 第1電流ラインの第1方向
α 異方性軸と電流ラインとの成す角度
β 異方性軸と印加磁場との成す角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セルにおいて、
磁気トンネル接合が、第1強磁性層、所定の高温閾値の下で第2強磁性層の異方性軸に合わせて指向され得る第2磁化方向を呈する第2強磁性層、及び前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間のトンネル障壁から構成され、
第1電流ラインが、第1方向に沿って延在し且つ前記磁気トンネル接合とやりとりし、この第1電流ラインは、界磁電流の通電時に前記第2磁化方向を指向させるための磁場を提供するために形成されていて、
前記磁場の少なくとも或る成分が、この磁場の供給時に前記異方性軸に対してほぼ垂直にあるように、前記MRAMセルが、前記第1電流ラインに関連して形成されていて、
前記第2強磁性層が、この第2強磁性層の寸法の少なくとも一部に沿って非対称の形を有する結果、前記第2磁化方向が、C字状態のパターンを有し、
前記C字状態のパターンが、第2磁界成分によってS字状態のパターンに変更可能であり、前記第2磁化方向が、前記磁場の供給時に第1磁界成分によって切り替え可能である、前記磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項2】
前記異方性軸は、前記電流ラインの方向に対して所定の角度を成して指向されている、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項3】
前記所定の角度は、0°の上で且つ90°の下から成る範囲内にあり、好ましくは0°と45°との間から成る範囲内にあり、さらに好ましくはほぼ45°である、請求項2に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項4】
前記第2強磁性層は、異方性の形を有し、前記異方性軸が、前記第2強成層の前記異方性の形によって決定される、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項5】
前記第2強磁性層は、結晶磁気異方性を呈し、当該異方性軸が、この結晶磁気異方性によって決定される、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項6】
前記寸法は、前記異方性軸を有する、請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセル。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセルを複数有する磁気ランダムアクセスメモリ装置において、
複数の前記磁気ランダムアクセスメモリセルが、縦横に配列されていて、
複数の第1電流ラインが、第1方向に沿って延在し且つ横方向に沿って複数の前記磁気ランダムアクセスメモリセルに接続していて、
複数の前記電流ラインが、縦方向に沿って複数の前記磁気ランダムアクセスメモリセルに接続している、当該磁気ランダムアクセスメモリ装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気ランダムアクセスメモリセルに書き込むための方法において、
前記磁気トンネル接合を加熱し、
前記磁気トンネル接合が、所定の高温閾値に達したら、前記第2強磁性層を前記第2磁化方向に切り替え、
前記第2磁化方向をその書き込み状態に固定するために前記磁気トンネル接合を所定の低温閾値で冷却し、
前記記憶磁化方向の当該切り替えが、前記異方性軸に対してほぼ垂直の少なくとも或る成分を有する前記磁場を印加するための前記第1電流ライン中に前記界磁電流を通電させることを有し、
前記第2磁化方向の当該切り替えが、前記第2磁界成分によって前記第2磁化方向の前記C字状態のパターンをS字状態のパターンに変化させることをさらに有する、当該方法。
【請求項9】
前記磁場は、前記異方性軸に対してほぼ平行に指向される、前記第2磁化方向を切り替える第1磁界成分をさらに有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記界磁電流の当該通電は、前記磁気トンネル接合の当該冷却前に実行される、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−30769(P2013−30769A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−155186(P2012−155186)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.RRAM
2.FRAM
【出願人】(509096201)クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム (33)
【Fターム(参考)】