説明

スタビライザブッシュ

【課題】装置の部品点数や組立工程数を増加させることなく、軸受穴とスタビライザバーとの間への異物侵入を防止するシールリップ部を設け、かつシールリップ部により軸受穴内からのグリスの排出を抑制する。
【解決手段】スタビライザブッシュ10では、ゴム弾性体12と一体的に形成されたシールリップ部40が、軸受穴20における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出すると共に、この軸受穴20内を挿通したスタビライザバー50の外周面に全周に亘って圧接する。これにより、軸受穴20の内周面とスタビライザバー50の外周面との間に形成される微小間隙Gにおける両側の開口端がそれぞれシールリップ部40により閉塞されるので、この微小間隙G内に外部から微小な土、金属片、ダスト等の異物が侵入することを阻止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるスタビライザバーを車体側に弾性的に連結するスタビライザブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車体のロールを抑えて乗員の乗り心地性能、操縦安定性を向上させるために、ばね鋼の棒材からなるスタビライザバーのねじり剛性を利用した安定化装置としてのスタビライザが装備されたものがある。スタビライザバーは、車両の左右方向に延びるトーション部とその両端から車両の前後方向に延びる一対のアーム部とを有し、トーション部が防振マウントとしてのスタビライザブッシュを介して車体側に弾性的に連結されている。またスタビライザバーにおける一対のアームの先端部はそれぞれサスペンションアームを介して車輪側に連結されている。
【0003】
スタビライザブッシュは、軸方向へ貫通する軸受穴が形成された筒状のゴム弾性体及び、このゴム弾性体の外周側に装着されるブラケットを備えており、ゴム弾性体はトーション部の外周側に嵌挿される。このとき、ゴム弾性体は、軸受穴の内周面をトーション部の外周面に圧接させており、トーション部の軸直角方向への変位を弾性的に制限すると共にトーション部の捩り変形を許容する。
【0004】
上記のようなスタビライザブッシュでは、スタビライザバーに対してゴム弾性体の軸受穴内周面を低摩擦とすることが望ましく、それによりスタビライザバーのスタビライザブッシュに対する滑りによる異音の発生を抑えることができる。またスタビライザブッシュでは、軸受穴の内周面とスタビライザバーの外周面との間に埃、土、微小な金属片等の異物を噛み込むことも異音発生の原因となる。
【0005】
例えば、特許文献1に記載されたスタビライザブッシュでは、上記のような原因で発生する異音を防止するため、筒状のゴム弾性体の軸受穴内周面に周方向へ延在するグリス保持溝(グリス溝)を形成し、このグリス溝内にグリスを充填することにより、軸受穴の内周面とスタビライザバーの外周面との接触面に拡散されるグリスの潤滑作用により軸受穴の内周面のスタビライザブッシュの外周面に対する摩擦抵抗を低減している。
【0006】
また特許文献1記載のスタビライザブッシュでは、ゴム弾性体の両端面にそれぞれ合成繊維の不織布からなる円環状のダストシールをそれぞれ接着し、このダストシールの内周側の端部を全周に亘ってスタビライザバーの外周面に圧接させることにより、ゴム弾性体の軸受穴とスタビライザバーとの間に異物が侵入することを防止している。
【特許文献1】実開平2−88062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載のスタビライザブッシュでは、軸受穴の内周面とスタビライザバーとの接触面に拡散したグリスが軸受穴の一端及び他端まで達すると、そのまま外部へ排出されてしまう。このとき、不織布からなるダストシールでは、スタビライザバーの外周面との圧接力及び密着性を十分に高いものにできないので、ダストシールによりグリスの排出を抑制することは難しい。
【0008】
また特許文献1記載のスタビライザブッシュでは、ダストシール部材がゴム弾性体と異なる材質からなる別体の部品とされていることから、装置の部品点数が増加すると共に、装置の組立時にダストシール部材をゴム弾性体の両側の側端面にそれぞれ十分な強度で接着する必要があり、装置の組立工程数が増加するという問題もある。
【0009】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、装置の部品点数や組立工程数を増加させることなく、軸受穴とスタビライザバーとの間への異物侵入を防止するシールリップ部を設けることができ、しかもシールリップ部により軸受穴内からのグリスの排出を効果的に抑制できるスタビライザブッシュを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係るスタビライザブッシュは、車両におけるスタビライザバーの外周側に嵌挿され、ブラケットを介して車両における車体側へ連結される筒状のゴム弾性体と、前記ゴム弾性体に軸方向に沿って貫通するように形成され、スタビライザバーが挿通する軸受穴と、前記軸受穴の内周面における軸方向両端部にそれぞれ周方向へ延在するように形成され、ゲル状の潤滑剤が充填されるグリス溝と、前記ゴム弾性体と一体的に形成され、前記軸受穴における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出すると共に、前記軸受穴内を挿通したスタビライザバーの外周面に全周に亘って圧接するゴム製のシールリップ部と、を有することを特徴とする。
【0011】
また請求項1に係るスタビライザブッシュでは、ゴム弾性体12と一体的に形成されたシールリップ部が、軸受穴における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出すると共に、軸受穴内を挿通したスタビライザバーの外周面に全周に亘って圧接することにより、軸受穴の内周面とスタビライザバーの外周面との間に形成される微小間隙の開口端がシールリップ部により閉塞されるので、この微小間隙内に外部から異物が侵入することを阻止できる。
【0012】
ここで、シールリップ部がゴム弾性体と一体的に形成されていることから、スタビライザブッシュにシールリップ部を設けることにより、装置の部品点数及び組立工程数が増加することがない。
【0013】
また請求項1に係るスタビライザブッシュでは、シールリップ部がゴム弾性体と同一種類の材料(ゴム材料)により形成されることから、不織布等の他の材料によりシールリップ部を形成した場合と比較し、グリス等のゲル状の潤滑剤に対して高いシール性を得られ、軸受穴の内周面とスタビライザバーの外周面と間に形成される微小間隙内から軸方向外側へ伸展しようとする潤滑剤をシールリップ部により堰き止め、微小間隙内から潤滑剤が排出されることを効果的に阻止できる。
【0014】
また本発明の請求項2に係るスタビライザブッシュは、請求項1記載のスタビライザブッシュにおいて、前記シールリップ部は、スタビライザバーの外周面へ圧接する前の自由状態では、その基端側から先端側へ向って内周側へ傾斜するように形成され、スタビライザバーの外周面へ圧接した状態では、先端側が外周側へ撓み変形した状態となることを特徴とする。
【0015】
また本発明の請求項3に係るスタビライザブッシュは、請求項1又は2記載のスタビライザブッシュにおいて、前記グリス溝における軸方向外側の溝端から、該グリス溝に対して軸方向外側に位置する軸受穴の開口端までの間隔を1mm以上としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明のスタビライザブッシュによれば、装置の部品点数や組立工程数を増加させることなく、軸受穴とスタビライザバーとの間への異物侵入を防止するシールリップ部を設けることができ、しかもシールリップ部により軸受穴内からのグリスの排出を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係るスタビライザブッシュを図面に基づいて説明する。
【0018】
図1及び図2には、本発明の実施形態に係るスタビライザブッシュが示されている。このスタビライザブッシュ10は、自動車のサスペンション装置に設けたスタビライザバー50(図2(B)参照)を車体52に連結するものである。なお、図中、符号Sはスタビライザブッシュ10の軸心を示しており、この軸心に沿った方向を軸方向として以下の説明を行う。
【0019】
スタビライザブッシュ10は、図2に示されるように、ゴム材料により筒状に形成されたゴム弾性体12及び、このゴム弾性体12の外周側に装着される略U字状に湾曲した断面形状を有するブラケット14を備えている。ゴム弾性体12には、図1に示されるように、その頂部側に断面形状が略半円状とされた半円筒部16が形成されると共に、この半円筒部16の底端側に断面形状が略矩形状とされた直方体部18が一体的に形成されている。ここで、半円筒部16の外周面は、軸心Sを中心として略一定の曲率半径で湾曲した湾曲面により形成されている。ゴム弾性体12には、その両端面間を軸方向に沿って貫通する軸受穴20が穿設されており、この軸受穴20の断面形状は軸心Sを中心とする円形になっている。
【0020】
またゴム弾性体12には、軸受穴20の内周面と半円筒部16の外周面との間に軸心Sを中心とする径方向に沿ってスリット22が形成されており、このスリット22は、半円筒部16の周方向に沿った一端付近を直方体部18から切り離している。ゴム弾性体12をスタビライザバー50の外周側に嵌挿する際に、ゴム弾性体12のスリット22を押し広げることにより、ゴム弾性体12を屈曲部が形成されたスタビライザバー50の外周側における所定の部位(トーション部)へ嵌挿する作業が容易になる。
【0021】
ゴム弾性体12には、半円筒部16及び直方体部18の外周面における軸方向両端部にそれぞれ外周側へ延出するフランジ部24が形成されると共に、外周面における軸方向中心部に外周側へ突出する断面半円状の突起部26が全周に亘って形成されている。ブラケット14には、略U字状に湾曲した外嵌部28が形成されると共に、この外嵌部28の両端部からそれぞれ直方体部18の幅方向(矢印W方向)に沿って外側へ延出する脚部30が形成されている。
【0022】
ブラケット14は、外嵌部28がゴム弾性体12における半円筒部16及び直方体部18の外周側に装着されると共に、一対のフランジ部24がそれぞれボルト32及びナット34により車体52に締結固定される。このとき、ゴム弾性体12は、車体52及び外嵌部28により半円筒部16及び直方体部18が軸心S側へ圧縮された状態に保持される。これにより、ゴム弾性体12のスリット22が完全に閉じた状態に維持されると共に、軸受穴20の内周面がスタビライザバー50の外周面に確実に圧接する。
【0023】
ゴム弾性体12には、図2(A)に示されるように、軸受穴20の内周面における軸方向両端部にそれぞれ断面が略半円状とされたグリス溝36が形成されている。グリス溝36は軸受穴20内周面の全周に亘って形成されている。これら一対のグリス溝36内には、それぞれゲル状の潤滑剤としてグリス38(図2(B)参照)が充填される。ここで、グリス溝36は、その幅Bが0.5mm〜10mm、深さDが0.5mm〜5mmの範囲で設定されている。またグリス溝36は、その軸方向外側の溝端から、グリス溝36に対して軸方向外側に位置する軸受穴20の開口端までの間隔Lが1mm以上とされている。
【0024】
ゴム弾性体12には、軸受穴20における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出するチューブ状のシールリップ部40が一体的に形成されている。シールリップ部40は、ゴム弾性体12がスタビライザバー50の外周側へ嵌挿される前の自由状態では、その基端側から先端側へ向って内径が縮径するテーパ状に形成されている。シールリップ部40の内径は、基端部では軸受穴20の内径と実質的に等しく、先端部でスタビライザバー50の外径よりも小径になっている。
【0025】
一方、図2(B)に示されるように、ゴム弾性体12がスタビライザバー50の外周側に装着され、スタビライザバー50がゴム弾性体12の軸受穴20内を挿通した状態では、シールリップ部40は、その先端側が外周側へ撓み変形した状態となって、内周面をスタビライザバー50の外周面に全周に亘って圧接させる。これにより、軸受穴20の内周面とスタビライザバー50の外周面との間に形成される微小間隙Gにおける両側の開口端がそれぞれシールリップ部40により閉塞される。
【0026】
次に、上記のように構成されたスタビライザブッシュ10の作用を説明する。スタビライザブッシュ10は、スタビライザバー50の外周側に嵌挿されると共に、ブラケット14を介して車体52へ連結される。このとき、スタビライザバー50に車体52側又は車輪側から荷重が入力し、スタビライザバー50に捩り荷重が作用すると、スタビライザブッシュ10は、軸受穴20の内周面をスタビライザバー50の外周面に対して相対的に摺動させることにより、捩り荷重の大きさに応じたスタビライザバー50の捩り変形を許容し、スタビライザバー50に捩り方向への弾性的な反力を発生させる。このスタビライザバー50の反力は、車体52のロールを抑制するための復元力として車体52側へ伝達される。
【0027】
またスタビライザブッシュ10は、スタビライザバー50の弾性変形及び変形からの復元に伴ってスタビライザバー50の振動が発生すると、この振動によりゴム弾性体12を弾性変形させてゴム弾性体12の内部摩擦等による吸振作用により振動を吸収し、車体52側への振動伝達を抑制する。
【0028】
以上説明した本実施形態に係るスタビライザブッシュ10では、ゴム弾性体12と一体的に形成されたシールリップ部40が、軸受穴20における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出すると共に、この軸受穴20内を挿通したスタビライザバー50の外周面に全周に亘って圧接することにより、軸受穴20の内周面とスタビライザバー50の外周面との間に形成される微小間隙Gにおける両側の開口端がそれぞれシールリップ部40により閉塞されるので、この微小間隙G内に外部から微小な土、金属片、ダスト等の異物が侵入することを阻止できる。この結果、微小間隙G内に異物が侵入してスタビライザバー50の変形時に異音が発生することを防止できる。
【0029】
またスタビライザブッシュ10では、一対のシールリップ部40がそれぞれゴム弾性体12と一体的に形成されていることから、スタビライザブッシュ10にシールリップ部40を設けることにより、スタビライザブッシュ10の部品点数及び組立工程数が増加することもない。
【0030】
またスタビライザブッシュ10では、シールリップ部40がゴム弾性体12と同一種類の材料(ゴム材料)により形成されることから、不織布等の他の材料によりシールリップ部を形成した場合と比較し、グリス等のゲル状の潤滑剤に対して高いシール性を得られ、軸受穴20の内周面とスタビライザバー50の外周面と間に形成される微小間隙G内から軸方向外側へ伸展しようとするグリス38をシールリップ部40により堰き止め、微小間隙G内から外部へグリス38が排出されることを効果的に阻止できる。
【0031】
またスタビライザブッシュ10では、シールリップ部40がスタビライザバー50の外周面へ圧接する前の自由状態では、その基端側から先端側へ向って縮径するテーパ状に形成され、スタビライザバー50の外周面へ圧接した状態では、先端側を外周側へ撓み変形させた状態となることにより、シールリップ部40の先端側を十分に大きい圧接力でスタビライザバー50の外周面に圧接させることができると共に、シールリップ部40のスタビライザバー50に対する圧接力を周方向に沿って均一なものにできる。
【0032】
また本実施形態に係るスタビライザブッシュ10では、グリス溝36における軸方向外側の溝端から、このグリス溝36に対して軸方向外側に位置する軸受穴の開口端までの間隔Lを1mm以上とした。これにより、軸受穴20の内周面における、スタビライザバー50の外周面への圧接力(面圧)が最も高くなる両端部付近にグリス38を多めに分布させることができるので、スタビライザバー50に対する捩り方向への摩擦抵抗を効果的に抑制できる。このとき、シールリップ部が存在しない従来のスタビライザブッシュでは、グリス溝を軸受穴内周面の両端部にそれぞれ配置すると、開口端までの間隔が短いためグリスが短時間で軸受穴内から排出されてグリスの消費量が多くなってしまうが、本実施形態に係るスタビライザブッシュ10では、シールリップ部40により軸受穴20内からグリス38の排出を抑制できるので、グリス溝36が軸受穴20の両端部に配置されている場合でも、グリス38の消費量増加を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るスタビライザブッシュの構成を示す正面図である。
【図2】図1に示されるスタビライザブッシュの側面断面図であり、(A)はゴム弾性体がスタビライザバーの外周側へ嵌挿される前の状態を示し、(B)はゴム弾性体がスタビライザバーの外周側へ嵌挿された状態を示している。
【符号の説明】
【0034】
10 スタビライザブッシュ
12 ゴム弾性体
14 ブラケット
20 軸受穴
36 グリス溝
38 グリス
40 シールリップ部
50 スタビライザバー
G 微小間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるスタビライザバーの外周側に嵌挿され、ブラケットを介して車両における車体側へ連結される筒状のゴム弾性体と、
前記ゴム弾性体に軸方向に沿って貫通するように形成され、スタビライザバーが挿通する軸受穴と、
前記軸受穴の内周面における軸方向両端部にそれぞれ周方向へ延在するように形成され、ゲル状の潤滑剤が充填されるグリス溝と、
前記ゴム弾性体と一体的に形成され、前記軸受穴における両側の開口端からそれぞれ軸方向外側へ突出すると共に、前記軸受穴内を挿通したスタビライザバーの外周面に全周に亘って圧接するゴム製のシールリップ部と、
を有することを特徴とするスタビライザブッシュ。
【請求項2】
前記シールリップ部は、スタビライザバーの外周面へ圧接する前の自由状態では、その基端側から先端側へ向って内周側へ傾斜するように形成され、スタビライザバーの外周面へ圧接した状態では、先端側が外周側へ撓み変形した状態となることを特徴とする請求項1記載のスタビライザブッシュ。
【請求項3】
前記グリス溝における軸方向外側の溝端から、該グリス溝に対して軸方向外側に位置する軸受穴の開口端までの間隔を1mm以上としたことを特徴とする請求項1又は2記載のスタビライザブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−176274(P2007−176274A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375611(P2005−375611)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】