説明

ステアリング装置

【課題】 ステアリングホイールのテレスコピック位置調整時の摺動抵抗を軽減すると共に、アウターコラムとインナーコラムとの間のガタを少なくしたステアリング装置を提供する。
【解決手段】 押え板66は板バネで成形されており、そのバネ力によって、所定の予圧でローラ61の外周612をインナーコラム1の外周11に押圧している。インナーコラム1に対してアウターコラム2を車体前後方向にテレスコピック位置調整すると、ローラ61がニードル63の自転と公転によって、ピン62を中心として極めて小さな抵抗で回転し、ころがり接触するため、ステアリングホイールのテレスコピック位置調整を円滑に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置、特に、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールのテレスコピック位置を調整することができるテレスコピック位置調整式のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の体格や運転姿勢に応じてステアリングホイールの前後方向位置を調整する為の装置として、テレスコピック式ステアリング装置と呼ばれるステアリング装置がある。また、ステアリングホイールの前後方向位置と上下方向位置の両方の位置を調整する為の装置として、チルト・テレスコピック式ステアリング装置と呼ばれるステアリング装置がある。
【0003】
また、ステアリングホイールの前後方向の位置調整を、スイッチ操作に基づいて電動アクチュエータにより行なう、ステアリングホイールの電動式位置調整装置も、従来から広く使用されている。このようなテレスコピック位置調整式のステアリング装置では、相対的に摺動可能なアウターコラムとインナーコラムとの間の摺動抵抗を軽減して、小さな力で円滑にテレスコピック位置の調整を行えるようにする必要がある。
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載されたステアリング装置は、アウターコラムとインナーコラムとの間の摺動面にローラを介在させることによって、アウターコラムとインナーコラムとの間の摺動抵抗を軽減するようにしたステアリング装置である。
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2のステアリング装置では、回転するローラとローラを軸支するピンとの間がすべり接触しているため、ローラとピンとの間の摺動抵抗が大きい。また、アウターコラムとインナーコラムとの間の隙間を小さくして、テレスコピック位置調整時のガタを少なくするために、インナーコラムにローラを押し付ける力を大きくすると、ローラとピンとの間の摺動抵抗が更に大きくなるため、テレスコピック位置調整時のガタを小さくすることが難しい。
【0006】
【特許文献1】実開平4−128976号公報
【特許文献2】実公平6−295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ステアリングホイールのテレスコピック位置調整時の摺動抵抗を軽減すると共に、アウターコラムとインナーコラムとの間のガタを少なくしたステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、円筒状の外周を有するインナーコラム、上記インナーコラムの外周に相対的にテレスコピック位置調整可能に外嵌された中空円筒状のアウターコラム、上記インナーコラム及びアウターコラムに回転可能に軸支され、車体後方側にステアリングホイールが装着されるステアリングシャフト、上記アウターコラムに取付けられ、アウターコラムの軸心に対して直交する軸線を有するピン、上記ピンの外周に回転可能に外嵌され、上記インナーコラムの外周に当接する外周を有するローラ、上記ピンの外周とローラの内周との間に介挿された複数の転動体を備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0009】
第2番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記転動体がニードル、ころ、または、玉のうちのいずれかであることを特徴とするステアリング装置である。
【0010】
第3番目の発明は、第1番目の発明のステアリング装置において、上記ピンを上記アウターコラムの軸心に向って付勢する付勢部材を備えたことを特徴とするステアリング装置である。
【0011】
第4番目の発明は、第3番目の発明のステアリング装置において、上記付勢部材は板バネであることを特徴とするステアリング装置である。
【0012】
第5番目の発明は、第1番目から第4番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記ピンはアウターコラムの軸心方向に離間した位置に複数取付けられていることを特徴とするステアリング装置である。
【0013】
第6番目の発明は、第1番目から第4番目までのいずれかの発明のステアリング装置において、上記インナーコラムはその車体前方側が車体に枢動可能に支承されると共に、上記アウターコラムの車体後方側は、車体に取付け可能な車体取付けブラケットにチルト位置調整可能に支承されていることを特徴とするステアリング装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のステアリング装置では、インナーコラムの外周に当接して回転するローラの内周と、アウターコラムに取付けられたピンの外周との間に複数の転動体を介挿している。従って、ピンとローラとの間の接触がころがり接触となるため、ピンとローラとの間の摩擦抵抗が小さく、小さな力でテレスコピック位置調整を行うことができる。また、インナーコラムの外周にとローラを強い力で押し付けても、ピンとローラとの間の摩擦抵抗の増加が小さいため、アウターコラムとインナーコラムとの間のガタを小さくして、ステアリング装置の剛性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態のステアリング装置の要部を示す下面図である。図2は図1のA−A断面図である。図3は図1のB−B拡大断面図である。図4は図1のC−C拡大断面図である。図5は本発明の実施形態のローラの斜視図である。図6は車体取付けブラケットの側板を挟持するワッシャを示し、(1)は内側ワッシャの斜視図、(2)は外側ワッシャの斜視図である。本発明の実施形態は、ステアリングホイールの前後方向位置と上下方向位置の両方の位置を調整する、チルト・テレスコピック式のステアリング装置に、本発明を適用した場合について示している。
【0016】
車体前方側(図1の左側)に配置された円筒形の外周を有するインナーコラム(ロアーコラム)1の車体後方側に、中空円筒状のアウターコラム(アッパーコラム)2の車体前方側が、車体前後方向に摺動可能に外嵌して、伸縮式コラムを構成している。アウターコラム2には、車体後方側に図示しないステアリングホイールを装着したステアリングシャフトが回転可能に軸支されて、ステアリングホイールの回転が、図示しない車体前方側のステアリングギヤに伝達されて、車輪の操舵角を変えることができる。
【0017】
インナーコラム1は、その車体前方側端部が図示しないロアーブラケットに枢動ピンを中心として、車体に枢動可能に支承されている。図1及び図2に示すように、コの字型の車体取付けブラケット3が図示しない車体に取り付けられ、車体取付けブラケット3には左右の側板31、31が下方に延びて形成されている。側板31、31の内側には、アウターコラム2から下方に一体的に延びるディスタンスブラケット21の左右の側面22、22が挟み込まれている。
【0018】
ディスタンスブラケット21には図2の左右方向に貫通するテレスコ用長溝23が形成され、このテレスコ用長溝23を丸棒状の締付けロッド4が左右方向に貫通している。車体取付けブラケット3の側板31、31には、各々チルト用長溝32、32が形成され、このチルト用長溝32、32を締付けロッド4が貫通して、左右に延びている。
【0019】
締付けロッド4の左右両端には、雄ネジ41、41が形成され、この雄ネジ41、41にねじ込まれたナット42、42によって、ディスタンスブラケット21を側板31、31に適度の締付け力で締付けている。従って、アウターコラム2と一体のディスタンスブラケット21は、チルト用長溝32、32に沿って、締付けロッド4と共に図2の上下方向に移動して、ステアリングホイールのチルト位置の調整を行うことができる。また、アウターコラム2と一体のディスタンスブラケット21は、締付けロッド4に沿って、図2の紙面に直交する方向に移動して、ステアリングホイールのテレスコピック位置の調整を行うことができる。
【0020】
車体取付けブラケット3の側板31、31の内側とディスタンスブラケット21の左右の側面22、22との間には、図2及び図6(1)に示すような小判型のワッシャ51が介挿され、このワッシャ51に形成されたテレスコ用長溝511を、上記した締付けロッド4が左右方向に貫通している。また、車体取付けブラケット3の側板31、31の外側とナット42、42との間には、図2及び図6(2)に示すような円盤型のワッシャ52が介挿され、このワッシャ52に形成された円形の貫通孔521を上記した締付けロッド4が左右方向に貫通している。
【0021】
ワッシャ51、ワッシャ52には、車体取付けブラケット3の側板31との摺接面512、522に、テフロン(登録商標)等の低摩擦材が被覆されている。従って、ナット42、42を車体取付けブラケット3に対して適度に締付けて予圧を付与することで、車体取付けブラケット3に対してディスタンスブラケット21が、ガタ無く、小さな摺動抵抗で、チルト位置調整及びテレスコピック位置調整を行うことが可能となっている。
【0022】
ステアリングホイールのチルト位置調整及びテレスコピック位置調整は、手動操作によって行ってもよいし、図示しない電動モータで駆動される送りねじ機構等を回転駆動することによって、電動式で行ってもよい。
【0023】
図2に示すように、インナーコラム1の外周11に対してアウターコラム2を案内するために、アウターコラム2には、等角度間隔(120度間隔)に3箇所のローラ案内部6、6、6が形成されている。各ローラ案内部6、6、6は、図1に示すように、アウターコラム2の軸心方向に離間した位置に、同一構造のローラ案内部6が2箇所形成されているので、合計6箇所のローラ案内部6がアウターコラム2に形成されている。なお、ここではローラ案内部6が等角度間隔で3箇所に配置された例を示すが、周方向に不等間隔、3箇所以上の配置とすることもできる。
【0024】
6箇所のローラ案内部6は同一構造を有しているので、1箇所のローラ案内部6について詳細に説明する。図3から図5は、ローラ案内部6を拡大した図である。中央が細くくびれた鼓形のローラ61の内周611と、ピン62の外周621との間には、6個のニードル(転動体)63が介挿されている。6個のニードル63は、薄い金属で形成された円筒形の外輪65によって外周が包囲されと共に、隣接するニードル63間の間隔が保持器64によって保持されている。この外輪65はローラ61の内周611に圧入されている。
【0025】
アウターコラム2の外周には、アウターコラム2の軸心に平行な平面状の取付け座24が形成され、この取付け座24には、アウターコラム2の軸心に直交する方向に、断面が略U字形の支持凹部25が形成され、この支持凹部25にピン62が内嵌している。取付け座24には、取付け座24からアウターコラム2の内周27に貫通する矩形孔26が形成され、この矩形孔26にローラ61が入り込み、ローラ61の外周612がインナーコラム1の外周11に当接している。
【0026】
取付け座24には、矩形薄板状の押え板(付勢部材)66がボルト67、67によって固定されている。押え板66は板バネで成形されており、そのバネ力(付勢力)によって、ピン62の外周621をアウターコラム2の軸心に向って押し付け、所定の予圧で、ローラ61の外周612をインナーコラム1の外周11に押圧している。
【0027】
上述の様に構成される本発明の実施形態のステアリング装置では、インナーコラム1に対してアウターコラム2を車体前後方向にテレスコピック位置調整すると、ローラ61がニードル63の自転と公転によって、ピン62を中心として極めて小さな抵抗で回転し、ころがり接触するため、ステアリングホイールのテレスコピック位置調整を円滑に行うことができる。
【0028】
また、インナーコラム1にローラ61を押し付ける力(予圧)を大きくしても、ローラ61とピン62との間の抵抗の増加が小さいため、テレスコピック位置調整時のガタを少なくして、ステアリング装置の剛性を向上させることができる。本発明の実施形態では、ローラ案内部6は、アウターコラム2の軸心方向に離間した位置に2箇所形成されているので、テレスコピック位置調整時のガタを特に小さくすることができる。
【0029】
上記転動体としてのニードル63に代えて、ころや玉を採用してもよい。また、ローラ61の外周612の形状は、中央が細くくびれた鼓形に限定されるものではなく、直径が一定の円筒状であってもよい。さらに、ローラ61の材質としては、鉄、非鉄金属、樹脂等種々の材質のものが採用可能である。
【0030】
上記実施形態では、アウターコラム2がアッパーコラム、インナーコラム1がロアーコラムで構成されているが、アウターコラム2をロアーコラム、インナーコラム1をアッパーコラムにしてもよい。また、上記実施形態では、チルト・テレスコピック式のステアリング装置に適用した例について説明したが、テレスコピック位置の調整だけを行うステアリング装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態のステアリング装置の要部を示す下面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B拡大断面図である。
【図4】図1のC−C拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態のローラの斜視図である。
【図6】車体取付けブラケットの側板を挟持するワッシャを示し、(1)は内側ワッシャの斜視図、(2)は外側ワッシャの斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 インナーコラム
11 外周
2 アウターコラム
21 ディスタンスブラケット
22 側面
23 テレスコ用長溝
24 取付け座
25 支持凹部
26 矩形孔
27 内周
3 車体取付けブラケット
31 側板
32 チルト用長溝
4 締付けロッド
41 雄ネジ
42 ナット
51 ワッシャ
511 テレスコ用長溝
512 摺接面
52 ワッシャ
521 貫通孔
522 摺接面
6 ローラ案内部
61 ローラ
611 内周
612 外周
62 ピン
621 外周
63 ニードル
64 保持器
65 外輪
66 押え板
67 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外周を有するインナーコラム、
上記インナーコラムの外周に相対的にテレスコピック位置調整可能に外嵌された中空円筒状のアウターコラム、
上記インナーコラム及びアウターコラムに回転可能に軸支され、車体後方側にステアリングホイールが装着されるステアリングシャフト、
上記アウターコラムに取付けられ、アウターコラムの軸心に対して直交する軸線を有するピン、
上記ピンの外周に回転可能に外嵌され、上記インナーコラムの外周に当接する外周を有するローラ、
上記ピンの外周とローラの内周との間に介挿された複数の転動体を備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記転動体がニードル、ころ、または、玉のうちのいずれかであること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたステアリング装置において、
上記ピンを上記アウターコラムの軸心に向って付勢する付勢部材を備えたこと
を特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたステアリング装置において、
上記付勢部材は板バネであること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記ピンはアウターコラムの軸心方向に離間した位置に複数取付けられていること
を特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載されたステアリング装置において、
上記インナーコラムはその車体前方側が車体に枢動可能に支承されると共に、
上記アウターコラムの車体後方側は、車体に取付け可能な車体取付けブラケットにチルト位置調整可能に支承されていること
を特徴とするステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−45276(P2007−45276A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230303(P2005−230303)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】