説明

スパッタリングによる堆積方法、得られた製品及びスパッタリングターゲット

本発明は、ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物からなる光触媒膜でコーティングされた基材を製造するための方法であって、前記酸化物をスパッタリング技術によって堆積させる少なくとも1つの工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に表面特性を付与するために基材上に堆積される薄膜の分野に関する。本発明は、より詳しくはビスマスと別の金属との混合酸化物の光触媒膜の堆積に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマスと別の金属、例えばバナジウム又はタングステンとの混合酸化物の幾つかの特性には光触媒特性が含まれ、光触媒は可視光領域又は紫外線領域の放射線によって活性化される。放射線の作用のもと、電子−ホールの対が材料中に作り出され、それらが酸化還元反応に対する触媒作用に寄与し、特に有機化合物の分解を引き起こす。これによって防汚特性、汚染除去特性又は殺菌特性が得られる。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、このような材料に基づくコーティング、特には非常に小さな厚さを有することができ及びそれらの完全性を維持することができる一方で、機械的又は化学的な攻撃、例えばハンドリング、摩耗、汚染物質又は洗浄剤との接触に対して抵抗性であるコーティングを提供することである。
【0004】
この目的のため、本発明の1つの主題は、ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物に基づく光触媒膜でコーティングされた基材を得るための方法であって、前記酸化物をスパッタリング技術によって堆積させる堆積工程を少なくとも含む方法である。
【0005】
本発明の別の目的は、ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物に基づく光触媒膜でコーティングされた基材であって、本発明の方法によって得ることができる基材である。
【0006】
基材は、好ましくはガラスから作成され、特にはガラス板である。しかしながら、任意のタイプの材料を使用することができ、例えばセラミック、金属又はポリマー有機材料を使用することができる。基材は好ましくは透明又は半透明である。このため、ガラス又はポリマー有機材料、例えばポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートが好ましい。好ましくは、ガラス板は1m超、又は2若しくは3m超の少なくとも1つの寸法を有する。その厚さは好ましくは0.5〜19mm、特には3〜9mmである。ガラスはソーダ石灰シリカタイプのものであることができるか、あるいはホウケイ酸塩又はアルミノホウケイ酸塩タイプのものであることができる。ガラスは、クリア(透明)又はエクストラクリアであることができるか、又は着色されていてもよく、例えば青色、青銅色、灰色、琥珀色、桃色などに着色されていてもよい。ガラス板は、特にはアニーリングされ、強化され(toughened)、強化され(tempered)又は曲げられていてもよい。基材は平坦であってもよいし又は曲げられていてもよい。
【0007】
ビスマスと別の金属との混合酸化物は、混合酸化物が均一な相として結晶化できるように金属の組成が選択されるという意味で、特定の化合物であることが好ましい。特定の化合物は、所与の圧力下で一定の温度において溶融するという意味で純粋な物質として作用する完全に特定の化学量論組成の化合物である。実際、これらの化合物は、高い光触媒活性を示す可能性が最も高い。特定の化合物は好ましくは結晶性である。
【0008】
好ましくは、混合酸化物はビスマスとビスマス以外の単一金属との混合酸化物である。
【0009】
ビスマス以外の少なくとも1つの金属は、好ましくは遷移金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される。
【0010】
ビスマス以外の前記又は各金属は、特にはバナジウム、タングステン、ニオブ、タンタル、カルシウム、バリウム及びナトリウムから選択される。バナジウム及びタングステンによって最も良い結果が得られる。
【0011】
ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物は、好ましくはBiVO4、Bi2WO6、BiNbO4、BiTaO4、CaBi24、BaBiO3及びNaBiO3から選択される。これらの化合物、特にはBiVO4及びBi2WO6は、可視光によって活性化される光触媒作用の観点で最も有効である。混合酸化物BiVO4は、好ましくは灰重石(単斜相)型の結晶である。
【0012】
膜の厚さは好ましくは1nm〜1μm、好ましくは2〜50nm、5〜20nm、5〜15nm、5〜10nm、又は10〜20nmである。小さな厚さを選択することにより、可視光の反射及び吸収の作用を低減することが可能である。
【0013】
酸化物は、好ましくはマグネトロンスパッタリング技術、特にはDC(直流)スパッタリング、パルスDCスパッタリング(極性が場合により10〜500kHzの周波数で0.1〜10μs程度の時間にわたり周期的に反転される)又はRF(高周波)スパッタリングによって堆積される。これらの技術は、大きな基材上の短時間の堆積に最も適している。
【0014】
堆積工程に続いて、熱処理工程、特にはアニーリング、強化又は曲げタイプの熱処理工程を行うことができる。アニーリングは、例えば、レーザー、火炎アニーリングシステム又はプラズマトーチを用いた国際公開第2008/096089号に記載されているような急速アニーリングであることができる。この熱処理工程では、好ましくは少なくとも200℃、特には300℃、さらに強化又は曲げの場合には600℃超の温度に膜が加熱される。この工程では、膜の結晶化特性を改善することができ、それによって堆積後に既に存在する可能性のある種の周りに結晶を成長させることがより容易になる。
【0015】
本発明による基材は、その一方の側のみ又は両側を、あるいは一方の側及び/又はもう一方の側の一部のみをビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜でコーティングすることができる。
【0016】
ビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜とは別に、本発明による基材は、同じ側又は他方の側を、少なくとも1つの他の金属又は多層コーティングでコーティングすることができる。
【0017】
例えば、低E(低放射率)膜又はコーティング(特には少なくとも1つの銀膜を含む)、太陽光制御、反射防止、帯電防止、電気伝導性又は反射膜又はコーティング(例えば、鏡のための銀膜)、あるいは塗料、ラッカー又はエナメルのコートを堆積することが可能である。特には、ビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜の下に1つ又は複数の副層を堆積することが可能である。光触媒作用を劣化させる可能性のある基材に由来するアルカリ金属の移動に対するバリアとして作用する膜を堆積することが可能である。また、ビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜の光反射を低減することを意図した及び/又は反射において自然な若しくはわずかに青みがかった色を得るための1つ又は複数の膜を堆積することも可能である。この場合には、高屈折率の膜と低屈折率の膜を交互にすることで干渉効果を利用することが好ましい。また、所望の結晶相に応じてビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜の成長を促進させることを意図した膜を堆積することも可能である。
【0018】
ビスマスと別の金属との混合酸化物に基づく膜は、好ましくは基材から最も離れた膜であり、それゆえ周囲空気と接触している。このようにして、それは大気中の汚染物質と相互作用し、そしてその汚染除去又は自己洗浄作用を発揮するのにより適するであろう。
【0019】
基材の一方又は他方の側に堆積される他の膜は、好ましくはスパッタリング、特にはマグネトロンスパッタリングによって堆積される。
【0020】
本発明の別の主題は、本発明による少なくとも1つの基材を含むグレージング、特には建物、乗り物(後部窓、横窓、サンルーフ)、家具(例えば間仕切り、ドア、冷蔵庫の棚)、鏡、又はガラスカーテンウォールのためのグレージングである。
【0021】
グレージングは、単一又は多重グレージング(例えば二重グレージング又は三重グレージング)あるいは積層グレージングであることができる。
【0022】
本発明のさらに別の主題は、酸素、ビスマス及びビスマス以外の少なくとも1つの金属を含むスパッタリングターゲットである。このターゲットは、本発明の方法を実施するのに使用することを意図したものである。有利には、ターゲットは、酸素、ビスマス及びビスマス以外の金属から本質的になる。
【0023】
好ましくは、ビスマス以外の少なくとも1つの金属(又は前記若しくは各金属)は、遷移金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される。ビスマス以外の少なくとも1つの金属は、特にはバナジウム、タングステン、ニオブ、タンタル、カルシウム、バリウム及びナトリウムから選択される。
【0024】
ターゲットを得るための幾つかの方法が可能である。
【0025】
実施態様の第1の方法によれば、ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との少なくとも1つの混合酸化物の粉末が凝集される。この場合には、原料は、ビスマスとビスマス以外の前記又は各金属とを既に含有する混合酸化物の粉末である。とりわけ、それはBiVO4又はBi2WO6粉末であることができる。これらの混合酸化物粉末は、
−前駆体、特には種々の塩、硝酸塩、塩化物、アルコラートなどの沈殿、
−水熱処理、
−対応する酸化物を用いた圧力下及び/又は高温での固相反応
を含む種々の方法によって得ることができる。
【0026】
次いで、本発明によるターゲットを得るために、混合酸化物粉末を、凝集、特にはプレス及び焼結によって成形することができる。プレス又は焼結は、最大数百barになりうる圧力及び典型的には700〜1500℃の温度下において実施することができる。
【0027】
実施態様の第2の方法によれば、酸化ビスマス粉末とビスマス以外の金属の少なくとも1つの酸化物の粉末が凝集される。
【0028】
この場合には、プロセスは、酸化物粉末、それゆえ酸化ビスマス粉末と別の金属、例えばバナジウム又はタングステンの酸化物の粉末から開始される。これらの粉末は、本発明によるターゲットを得るために、凝集、特にはプレス及び焼結によって成形される。
【0029】
最初の2つの中間の実施態様の第3の方法によれば、ビスマスと別の金属の混合酸化物粉末と金属酸化物粉末とを凝集させることができる。例えば、ビスマスとバナジウムの混合酸化物粉末と酸化バナジウム粉末を凝集させることによってターゲットを形成することが可能である。
【0030】
DC又はパルスDCスパッタリング技術は、導電性ターゲットあるいはいずれにしても低い抵抗率を有するターゲットの使用を必要とする。必要に応じて、ターゲットは種々の手段によって導電性にすることができる。特には、ターゲットは、例えば不活性雰囲気(アルゴン、窒素など)又は還元雰囲気(例えば窒素/水素混合物)中での熱処理によって酸素を化学量論量以下にすることができる。その代わりに又はそれに加えて、ターゲットは、原子をドープすることにより(p−ドーピング又はn−ドーピング)、特にはアルミニウム、銀又は銅をドープすることにより導電性にすることができる。
【0031】
ターゲットは、最終的な膜と同じ化学量論組成を有することができるか又は異なる化学量論組成を有することができる。この第2の選択肢では、ビスマスと他の金属との間の焼結の際の揮発性の相違及び/又はスパッタリング速度の相違のためにより容易に凝集させることが可能である。この場合には、本質的に異なる幾つかの粉末、例えば酸化ビスマス粉末と別の金属酸化物の粉末、又はビスマスと別の金属の混合酸化物粉末と別の金属酸化物の粉末を凝集させることによって得られたターゲットを使用することが可能である。この技術を用いて、ターゲット中の酸化ビスマスと別の金属酸化物の各量は、最終的に膜における所望の化学量論組成を得るようにスパッタリング条件に容易に適合させることができる。
【0032】
本発明は、限定的でない実施態様の例を読むことでより良く理解されるであろう。
【実施例】
【0033】
化学式BiVO4の粒子を以下のようにして調製した。0.1mol/lのビスマスを含有する溶液500mlを、0.75mol/lの硝酸中にBi(NO33・5H2Oを溶解することによって調製した。磁気攪拌下で、V254.6gを溶液に加え、反応混合物中0.1mol/lのバナジウム濃度を得るようにした。混合物を室温で72時間攪拌した後、遠心分離を行い、水で3回洗浄して窒素流下で乾燥させた。得られた粒子は灰重石単斜晶構造を有していた。粒子は柱状であり、サイズは0.1〜1μmであった。
【0034】
次いで、これらの粒子を用いてスパッタリングターゲットを形成した。ターゲットを製造する第1の工程では、BiVO4粉末100gを液圧プレスを用いて5barの圧力下で成形し、直径10cm及び厚さ約1cmのディスクを得た。第2の工程では、得られたディスクを空気中900℃で24時間にわたり第1の熱処理を実施し、続いて窒素中900℃で24時間にわたり第2の熱処理を実施することによって焼結した。窒素中のこの処理により、ターゲットの抵抗率を低減することができる。
【0035】
このようにして製造されたターゲットはスパッタリングによる堆積のために使用することができた。これを行うために、ベースとなる真空(10-7〜10-5mbar)を堆積チャンバー中に作り出し、次いでアルゴン及び酸素の流れをチャンバー中に注入してチャンバーの圧力を1〜10μbarの一定圧力に調整した。
【0036】
透明なソーダ石灰シリカガラスの基材をチャンバーに置き、選択したモード(DC、パルスDC又はRF)に従ってターゲットを極性化し、それによってプラズマを作り出し、ターゲットに対面する基材位置にBiVO4ターゲットをスパッタリングした。
【0037】
アルゴンと酸素の比率は、膜の酸素組成を調整するよう選択することができる(ターゲットはすでに酸素が枯渇して導電性にされ、純粋なAr中で用いられる方法により、ターゲットと比較した膜中に存在する酸素の量をさらに低減することが可能である)。
【0038】
アニーリングの後、ガラス基材上に堆積されたビスマスとバナジウムの酸化物の光触媒膜を得た。コーティングされた基材は、すべてのタイプのグレージングに組み入れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物に基づく光触媒膜でコーティングされた基材を得るための方法であって、前記酸化物をスパッタリング技術によって堆積させる堆積工程を少なくとも含む、方法。
【請求項2】
前記基材がガラス板である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ビスマスと別の金属との混合酸化物が特定の化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ビスマス以外の少なくとも1つの金属が、遷移金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ビスマス以外の少なくとも1つの金属が、バナジウム、タングステン、ニオブ、タンタル、カルシウム、バリウム及びナトリウムから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物が、BiVO4、Bi2WO6、BiNbO4、BiTaO4、CaBi24、BaBiO3及びNaBiO3から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化物がDC又はRFマグネトロンスパッタリング技術によって堆積される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記堆積工程に続いて、熱処理工程、特にはアニーリング、強化又は曲げタイプの熱処理工程が行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との混合酸化物に基づく光触媒膜でコーティングされた基材であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる、基材。
【請求項10】
請求項9に記載の少なくとも1つの基材を含むグレージング、特には建物、乗り物、家具、鏡、又はガラスカーテンウォールのためのグレージング。
【請求項11】
酸素、ビスマス及びビスマス以外の少なくとも1つの金属を含むスパッタリングターゲット。
【請求項12】
ビスマス以外の少なくとも1つの金属が、遷移金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される、請求項11に記載のターゲット。
【請求項13】
ビスマス以外の少なくとも1つの金属が、バナジウム、タングステン、ニオブ、タンタル、カルシウム、バリウム及びナトリウムから選択される、請求項12に記載のターゲット。
【請求項14】
ビスマスとビスマス以外の少なくとも1つの金属との少なくとも1つの混合酸化物の粉末が凝集される、請求項11〜13のいずれか1項に記載のターゲットを得るための方法。
【請求項15】
酸化ビスマス粉末とビスマス以外の金属の少なくとも1つの酸化物の粉末が凝集される、請求項11〜14のいずれか1項に記載のターゲットを得るための方法。

【公表番号】特表2012−532985(P2012−532985A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518993(P2012−518993)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059810
【国際公開番号】WO2011/003974
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】