説明

スパッタリング装置

【課題】ワークに均一に成膜を行う。
【解決手段】ターゲット11とワークWとの間には、RFコイル23が配され、ターゲット11からワークWに向けて飛散するスパッタ粒子は、RFコイル23に高周波電力が供給されるとによってプラスイオンにイオン化される。ワークWまたはワークWを保持するワークホルダ8には、バイアス電源26によってマイナスのバイアスが与えられ、イオン化されたスパッタ粒子を吸着する。バイアス電源26に流れる電流は、付着したスパッタ粒子が直ちに電気的に中性とならないように制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面に成膜を行うスパッタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成膜対象となるワークに対して反射防止膜等の光学薄膜等の成膜を行うスパッタリング装置が知られている。スパッタリング装置では、真空槽内を稀薄なスパッタガスで満たし、その真空槽内でターゲットを一方の電極としてグロー放電を行う。そして、そのグロー放電で発生するプラズマの陽イオンがターゲットに衝突することによって、ターゲットからスパッタ粒子(原子,分子)を叩き出し、そのスパッタ粒子をワーク表面に堆積させて薄膜を形成する。また、スパッタガスの他に酸素ガスや窒素ガスのような反応ガスを真空槽内に導入し、化合物薄膜を形成する反応性スパッタリングも知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようなスパッタリング装置では、成膜についてある程度の均一性が得られるものの、光学薄膜を形成する上では、その均一性は十分に高いものとはいえなかった。これは、ターゲットの表面から叩き出されるスパッタ粒子が、かなり高い直線性をもって飛散し、しかも高い付着確率を有することに起因している。このような成膜を改善する対策の1つとして、成膜圧力を高くしてスパッタ粒子を散乱させることが考えられる。しかし、このようにしても、多くのスパッタ粒子が飛散する位置では、膜厚が増大してしまい、やはり満足のいく均一性がある薄膜を得ることは難しかった。また、スパッタ粒子が、かなり高い直線性をもって飛散するため、ターゲットに対向した面以外の部分には成膜を行うことができない、あるいはかなり薄い薄膜しか形成されないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、様々な形状のワークに対して良好に成膜を行うことができるとともに、均一性が十分に高い成膜を行うことができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、請求項1に記載のスパッタリング装置では、ターゲットからワークに向けて飛散するスパッタ粒子をイオン化するイオン化手段と、ワークまたはワークの背面側に近接して設けた導電性を有するバイアス電極板にマイナスのバイアスを与えるバイアス電源と、バイアス電源に流れる電流を、単位時間当たりにイオン化手段で発生するスパッタ粒子のプラスイオンの電荷量に相当する電流よりも小さく制限する電流制限手段とを備えたものである。
【0006】
請求項2記載のスパッタリング装置では、イオン化手段を、ターゲットとワークとの間に配置された高周波コイルと、この高周波コイルに高周波電力を供給する高周波電源とから構成したものである。
【0007】
請求項3記載のスパッタリング装置では、高周波コイルを、ターゲットよりもワークに寄った位置に配置したものである。
【0008】
請求項4記載のスパッタリング装置では、イオン化手段を、ターゲットとワークとの間に熱電子を放出する熱電子発生器としたものである。
【0009】
請求項5記載のスパッタリング装置では、イオン化手段を、ターゲットとワークとの間にイオンを照射するイオン銃としたものである。
【0010】
請求項6記載のスパッタリング装置では、バイアス電極板を、ワークの背面側の面形状と略相似形状とし、ワークの背面側の面に沿って配したものである。
【0011】
請求項7記載のスパッタリング装置では、バイアス電極を、ワークを保持する保持部材に一体に設けたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ターゲットからワークに向けて飛散するスパッタ粒子をイオン化するとともに、バイアス電源によってワークまたはワークの背面側に近接して設けた導電性のバイアス電極板にマイナスのバイアスを与えて、スパッタ粒子をワークの表面に吸着するので、ワークのターゲットに対向する面にのみならず、他の表面にも効率的にスパッタ粒子を付着させて成膜の均一化を図ることができる。また、これと同時にイオン化手段で発生するプラスイオンのスパッタ粒子の電荷量に相当する電流よりも小さくなるように、バイアス電源に流れる電流を制限するので、スパッタ粒子をワークに均一に付着・堆積させることができるようになり、膜厚の均一性の高い成膜を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に本発明を実施したスパッタリング装置2の構成を示す。真空槽3は、例えばステレンス製であって略円筒形状にしてある。この真空槽3の内部には、円筒状のカルーセル4を配してある。このカルーセル4は、真空槽3に垂直な回転軸4aを中心にして回動自在となっており、モータ(図示省略)によって所定の速度で回転される。
【0014】
真空槽3には、真空ポンプ5を接続してあり、成膜時には真空層3の内部がスパッタリングに必要な真空度となるように調節される。なお、カルーセル4を水平な回転軸を中心に回転させてもよい。また、ワークWの装填や取り出し、後述するターゲットの交換や点検整備等の作業のために、真空槽3は、大気圧までリークした後には周知の構造により開放することができる。
【0015】
カルーセル4の外周面には、成膜対象となるワークWを保持する多数のワークホルダ8を設けてある。各ワークホルダ8は、例えばカルーセル4の上下方向及び周方向のそれぞれについて一定のピッチで複数個並べられている。ワークホルダ8に取り付けられたワークWは、カルーセル4とともに回転軸4aを中心にして回動する。
【0016】
真空槽3内で、カルーセル4の外周にターゲットユニット10を配してある。ターゲットユニット10は、軸心が回転軸4aと平行な円筒形状をしたターゲット11,マグネトロンスパッタリングを行うための磁石12,ターゲット11の周面を覆うジャケット13,シャッタ板14等から構成してある。
【0017】
ターゲット11は、例えば円筒状の支持筒(図示省略)の外周面にアルミ,チタン,硅素等のワークWに成膜すべき材料を溶射等により層状に形成することで円筒状にしてある。このターゲット11は、回転軸11aを中心にして所定の速度で回転される。ジャケット13は、ターゲット11との間に適当な幅の間隙をあけて配されるとともに、カルーセル4側にターゲット11を露呈する開口13aを形成してある。シャッタ板14は、開口13aを閉じた閉じ位置と、この開口13aの前面から退避してターゲット11を露呈する開き位置との間で移動自在にしてある。
【0018】
磁石12は、上述の支持筒の内部に設けた中空管(図示省略)内に配されており、開口13aから露呈されるターゲット11の表面近傍に磁界を発生させる。これにより、開口13aから露呈されるターゲット11の表面をスパッタ面として高効率にスパッタリングが行われるようにしてある。
【0019】
駆動部16は、ターゲットユニット10に対してスパッタリングガスの供給,冷却水の供給,ターゲット11の回転、シャッタ板14の開閉駆動等を行う。スパッタガスは、ターゲット11とジャケット13との間の間隙に導入される。このスパッタガスとしては、例えばアルゴンガスを供給する。なお、反応性スパッタリングを行う場合には、スパッタガスに加えて反応ガス,例えば酸素ガスや窒素ガスを供給する。また、冷却水は、ターゲット11を形成した支持筒と内部に磁石12を配した中空管との間に通され、ターゲットユニット10が高温になることを防止する。
【0020】
スパッタ電源21は、スパッタリングに必要な電力をターゲットユニット10に供給する。このスパッタ電源21は、直流電源または直流パルス電源であって、そのマイナス電極を、導電性を有しターゲット11と電気的に接続された回転軸11aに接続してあり、プラス電極を、シャッタ板,ジャケットに接続するとともに接地してある。なお、回転軸11aと真空層3とは絶縁されている。
【0021】
成膜を行う場合には、スパッタガスを供給した状態で、スパッタ電源21から電力供給を行ってターゲット11を陰極としてグロー放電を行う。このグロー放電で発生するスパッタガスのプラズマの陽イオンをターゲット11に衝突させることで、ターゲット11からスパッタ粒子(原子や分子)を叩き出して飛散させる。この飛散したスパッタ粒子がワークWの表面に付着・堆積することで膜を形成する。カルーセル4の回転により、各ワークWが繰り返しターゲット11に対向することにより、ワークWの表面に必要な厚みの薄膜を形成する。
【0022】
なお、上記ターゲットユニット10の構成は、上記のものに限られるものではない。例えば平板状のターゲットを用いてもよく、またマグネトロンスパッタリングでなくてもよい。また、この例では、1台のターゲットユニット10を組み込んでいるが、形成すべき膜の種類,積層数、ワークの配列等に応じて成膜ステージの数、ターゲットユニットの台数を適宜に増減することができる。
【0023】
ターゲットユニット10とカルーセル4との間に、RFコイル(高周波コイル)23を配してある。このRFコイル23は、RF電源(高周波電源)24,マッチング回路25とともに、ターゲット11からワークWに向けて飛散するスパッタ粒子をイオン化するイオン化手段を構成する。
【0024】
RFコイル23は、マッチング回路25を介してRF電源24に接続してある。RF電源から、適当な高周波、例えば13.56MHzの高周波電力をRFコイル23に投入することにより、RFコイル23が囲む空間にプラスイオンにイオン化されたスパッタ粒子を含むプラズマを発生させる。スパッタ粒子のイオン化としては、RFコイル23によって生じる高周波磁界で励起されてスパッタ粒子自体がイオン化する場合や、高周波磁界で励起されてイオン化したスパッタガスとスパッタ粒子と間で電子の授受を行いスパッタ粒子がイオン化する場合などがある。
【0025】
各ワークWに向けて飛散するスパッタ粒子をイオン化するために、図2に示すように、カルーセル4にワークホルダ8を介して装着され、ターゲット11と対向して配されるワークWを囲むように、RFコイル23を配してある。
【0026】
バイアス電源26は、ワークWないしワークホルダ8にバイアスを印加するためのものであり、直流電源を用いている。バイアス電源26は、そのプラス電極を接地するとともに真空層3に接続してあり、マイナス電極を後述する電流制限回路27を介して回転軸4aに接続してある。カルーセル4、回転軸4a,ワークホルダ8は、いずれも導電性を有し互いに電気的に接続されている。このようにバイアス電源26を接続することによって、RFコイル23でイオン化されたスパッタ粒子をワークWに吸着するように、ワークWないしワークホルダ8にマイナスのバイアスを与える。
【0027】
なお、RFコイル23は、イオン化されたスパッタ粒子がターゲット11に戻らないように、ターゲット10よりもワークWに寄った位置に設け、できるだけワークWに近づけ、すなわちターゲットユニット10から離した位置に配するのがよい。また、この例では、スパッタ粒子がプラスイオンであることを前提に、ワークWないしワークホルダ8にマイナスのバイアスを与えているが、スパッタ粒子がマイナスイオンであるときには、ワークWないしワークホルダ8にプラスのバイアス電圧を与えればよい。
【0028】
電流制限回路27は、ワークWに対して均一な成膜を行うために設けられており、バイアス電源26に流れる電流、すなわちワークWに付着したプラスのスパッタ粒子に供給される電子数を抑制する。この電流制限回路27は、単位時間当たりにRFコイル23で発生するスパッタ粒子のプラスイオンの電荷量に相当する電流、すなわちそのプラスの電荷を中和するのに必要な電流よりも十分に小さい電流が流れるようにそのインピーダンスが調整される。
【0029】
上記の電流制限回路27は、抵抗器やインダクタンスやコンデンサ等で構成されたインピーダンスであり、そのインピーダンスが調整可能なように可変としてある。インダクタンスやコンデンサを含むようにするのは、RFコイル23の作動にともう高周波電流を流さないようにし、RFコイル23でのプラズマを維持するためである。
【0030】
上記のワークホルダ8は、導電性を有する金属製のワークWに対しては、そのワークWにバイアス電源26のマイナス電極を接続し、ワークWにバイアスを与えるための部材となる。一方、絶縁性を有する例えば樹脂製のワークWに対しては、ワークWのターゲット11に対向する面を正面としたときに、そのワークWの背面側に近接して設けたバイアス電極板となる。
【0031】
ワークWは、それが絶縁体製である場合に誘電体としての性質を持つ。電場に誘電体を置いた場合には、電気力線が誘電体を通過するため、誘電体の表面にイオン化されたスパッタ粒子が吸着される効果がある。そこで、バイアス電極板をワークWの背面側に近接して設け、樹脂製など絶縁体製のワークWを成膜対象とする場合に、バイアスを与えることによるイオン化されたスパッタ粒子を吸着する効果を得る。
【0032】
また、バイアス電極板をワークWの背面側の面形状と略相似形状とし、ワークWの背面側の面に沿って配することにより、イオン化されたスパッタ粒子を吸着する効果が、ワークWの各表面で効果的に得られるようにしている。
【0033】
この例に用いたワークWとバイアス電極板としての機能を持つワークホルダ8の形状を図3に示す。ワークWは、背面側に凹部を設けた直方体形状、ないし板状部材の周縁を折り曲げた矩形の皿状であり、正面31aの他、上面31b,下面31c,各側面31d,31e,背面側エッジ31fを成膜対象としている。また、このワークWには、背面側に凹部32が形成されている。このようなワークWとしては、一方、ワークホルダ8は、保持部8aとこの保持部8aとカルーセル4とを連結した支持軸8bとからなる。
【0034】
保持部8aは、ワークWを保持するとともに、バイアス電極板として機能する。この保持部8aは、背面側の面である凹部32の内壁面33と略相似形状の面形状に形成された密着面34を有しており、ワークWをワークホルダ8に取り付けると、密着面34が内壁面33に密着する。これにより、保持部8aでワークWを保持するとともに、バイアス電極板としての保持部8aを内壁面33に沿って配し、正面31aの他、上面31b,下面31c,各側面31d,31eについても、イオン化されたスパッタリ粒子がバイアスによって吸着されるようにする。
【0035】
また、バイアス電極板としての保持部8aよりも背面側エッジ31fが背後に突出するようにすることで、背面側エッジ31fについても、イオン化されたスパッタリ粒子を吸着するバイアスによる効果が得られるようにし、背面側エッジ31fに対しても成膜が行われるようにしている。
【0036】
この例では、バイアス電極板をワークの背面側の面に沿って配する形態として、保持部8aを内壁面33に密着させているが、バイアス電極板をワークの背面側の面から離して配してもよい。また、ワークWの形状は、その背面側の面形状を含めて、上記のものに限られるものではない。例えばワークWの背面側の面形状を、平面状、球面状、凸部を形成した形状、凹凸を形成した形状など、種々のものを採用することができ、バイアス電極の面形状もそれに対応させて適宜決めることができる。
【0037】
さらに、この例では、ワークを保持する保持部材にバイアス電極板を一体に設けた一つの形態として、ワークホルダ8にバイアス電極板の機能を持たせているが、例えば絶縁性の保持部材に、導電性のバイアス電極板を一体に取り付けた構成としてもよい。また、保持部材とバイアス電極板とを別々に設けてもよい。
【0038】
なお、ワークWが金属製の場合には、ワークWが電気的に接続されてバイアスされればよいから、成膜対象となる面以外の任意の部分でバイアス電極のマイナス電極が電気的に接続されるようになっていればよい。
【0039】
次に上記構成の作用について説明する。真空槽3を開放して、ワークホルダ8にワークWを取り付ける。この後に、真空槽3を閉じ、真空ポンプ5を作動させて真空槽3内をスパッタリングに必要な所定の真空度にする。そして、カルーセル4の回転を開始させてから、スパッタリング工程を開始する。なお、ワークWが金属製である場合には、カルーセル4の回転を開始してから、真空槽3内に設けたヒータにより各ワークWを加熱してもよい。
【0040】
スパッタリング工程では、まずターゲット11とジャケット13との間に駆動部16からスパッタガスが供給される。これにより、ターゲット11の周面は、スパッタガスがリッチな雰囲気に置かれた状態になる。また、駆動部16によってターゲット11の回転が開始される。
【0041】
シャッタ板14が閉じ位置であることを確認してから、スパッタ電源21によってターゲットユニット10に対して電力が供給される。これにより、ジャケット13及びシャッタ板14と、ターゲット11との間で放電が開始され、スパッタガスのプラズマが生成される。
【0042】
上記のようにして、シャッタ板14を閉じた状態でプラズマを発生させることにより、そのプラズマでターゲット11の表面のクリーニングが行われる。そして、クリーニングの完了後に、RF電源24からマッチング回路25を介してRFコイル23に高周波電力を投入し、またバイアス電源26から電流制限回路27を介してワークWないしワークホルダ8にマイナスのバイアスを開始してから、シャッタ板14が開き位置とされてスパッタリングによる成膜が開始される。
【0043】
シャッタ板14が開き位置となると、スパッタガスのプラズマでターゲット11の表面から叩きだされたスパッタ粒子がワークWに向かって飛散する。ワークWに向かうスパッタ粒子は、RFコイル23で囲まれる空間を通過する際にプラスイオンにイオン化される。そして、イオン化されたスパッタ粒子がワークWに付着する。
【0044】
ワークWないしワークホルダ8をバイアスしているため、図4に示すようにイオン化されたスパッタ粒子Pは、ワークWの各面に吸着されるようにして付着する。したがって、ワークWのターゲットに対向している正面31aばかりでなく、上面31bや下面31c、あるいは各側面31d,31e,背面側エッジ31f等についても略垂直にスパッタ粒子Pが入射して付着し、成膜が行われる。もちろん、ワークWに凹凸がある場合でも、その凹凸の各面にスパッタ粒子Pが付着し成膜が行われる。
【0045】
バイアスによる効果は、ワークWが金属である場合だけでなく、絶縁体製である場合にも、上述のように同様に得られる。しかも、ワークホルダ8をワークWの背面側の凹部32に上記のように配してあるため、絶縁体製のワークWの各面にバイアスの効果を得ることができる。
【0046】
ワークWに付着したスパッタ粒子は、ワークWを通じて電子が供給されることによって電気的に中和される。このようにして多数のスパッタ粒子によるワークWに対して成膜が行われるが、バイアス電源26に流れる電流は、電流制限回路27によって、単位時間当たりにRFコイル23で発生されるスパッタ粒子のプラスの電荷量を中和するのに必要な電流よりも十分に小さくされている。このため、概してバイアス電源26に流れる電流でワークWが電気的な中性を維持する程度で、イオン化されたスパッタ粒子がワークWに向かって付着し、しかも付着したスパッタ粒子は電気的な中性とは直ちにならない。
【0047】
上記のように、ワークWに付着したスパッタ粒子が電気的な中性となっていない間では、そのスパッタ粒子が付着している部分の近傍では、そのスパッタ粒子の電荷の影響を受けて電場が歪む。このため、図5に示すように、ワークWに付着しているが電気的に中和されていないスパッタ粒子P1の近傍に向かうスパッタ粒子P2は、付着しているスパッタ粒子P1を避けるようにその進路が曲がり、そしてワークWに付着する。
【0048】
結果として、次々にワークWに向けて飛散してくるスパッタ粒子は、電気的に中和されていないスパッタ粒子とは異なるワークWの表面に付着するようになるから、膜厚の均一性が高い成膜を行うことができる。
【0049】
上記実施形態では、1個のRFコイルを用いているが、プラズマを発生させるべき空間を分割するようにして複数のRFコイルを並べて配し、スパッタ粒子をイオン化してもよい。このようにすることによって、プラズマを発生させるべき空間に均一なプラズマを発生させることができ、成膜の均一化を図ることができる。例えば図6の例では、上下方向に並べた3個のRFコイル23を配し、ターゲット11に対向する各ワークWをカバーするようにしている。なお、RFコイル23は、RF電源24に対して並列に接続してあるとともに、それぞれにマッチング回路25を接続してある。
【0050】
上記では、スパッタ粒子をイオン化するイオン化手段としてRFコイル及びそのRF電源を用いたが、イオン化手段としてはこれに限られるものではなく、種々のイオン化手段を用いることができる。
【0051】
例えば、図7及び図8に示すように、イオン化手段として、電源35からの電力の投入により、イオンを照射するイオン銃36を用いてもよい。そして、イオン銃36から照射されたイオンによってスパッタ粒子をイオン化させる。
【0052】
なお、この場合には、図8に示されるように、イオン銃36からのイオンがターゲット11とワークWとの間の空間に照射されるようにするとともに、ターゲット11から各ワークWに向かうスパッタ粒子が飛散する空間の全域に照射するようにするのがよい。図7の例では、同時にターゲット11に対向するワークWが上下方向に並べてあることに対応して、イオンの照射領域が上下方向に長くなるようにイオン銃36を配してある。
【0053】
また、図9に示すように、例えばフィラメント38aから熱電子を放出する熱電子発生器38をイオン化手段として設け、電子イオン化法によってスパッタ粒子をイオン化してもよい。なお、この場合にも、ターゲット11から各ワークWに向かうスパッタ粒子が飛散する空間の全域にイオンが放出されるように、熱電子発生器38を配するのがよい。
【0054】
上記ではワークWをカルーセルで回転移動させながら、ワークを繰り返しターゲットに対向させて成膜を行う例について説明したが、例えばターゲットにワークを1回対向させることで成膜を行う場合や、ワークWを移動させないで成膜を行う場合にも、本発明を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を実施したスパッタリング装置の構成を示す説明図である。
【図2】RFコイルとワークの配置関係を示す説明図である。
【図3】ワークとワークホルダとの形状を一部を破断して示す斜視図である。
【図4】イオン化されたスパッタ粒子がワークに吸着される状態を模式的に示す説明図である。
【図5】ワークに付着したスパッタ粒子が電気的に中和されていない状態での他のスパッタ粒子の経路を模式的に示す説明図である。
【図6】複数のRFコイルを用いてスパッタ粒子をイオン化する例を示す説明図である。
【図7】スパッタ粒子をイオン化するイオン銃を配したスパッタリング装置の構成を示す説明図である。
【図8】イオン銃の配置を示す説明図である。
【図9】スパッタ粒子をイオン化する熱電子発生器を配した例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
2 スパッタリング装置
3 真空槽
8 ワークホルダ
8a 保持部
10 ターゲットユニット
11 ターゲット
23 RFコイル
24 高周波電源
26 バイアス電源
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に配されたターゲットを一方の電極として放電を行って、ターゲットからスパッタ粒子を放出し、放出したスパッタ粒子を成膜対象のワークに堆積させることにより成膜を行うスパッタリング装置において、
前記ターゲットから前記ワークに向けて飛散するスパッタ粒子をイオン化するイオン化手段と、
前記ワークまたは前記ワークの背面側に近接して設けた導電性を有するバイアス電極板にマイナスのバイアスを与えるバイアス電源と、
前記バイアス電源に流れる電流を、単位時間当たりに前記イオン化手段で発生するスパッタ粒子のプラスイオンの電荷量に相当する電流よりも小さく制限する電流制限手段とを備えたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記イオン化手段は、前記ターゲットと前記ワークとの間に配置された高周波コイルと、この高周波コイルに高周波電力を供給する高周波電源とからなることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記高周波コイルは、前記ターゲットよりも前記ワークに寄った位置に配置されていることを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記イオン化手段は、前記ターゲットと前記ワークとの間に熱電子を放出する熱電子発生器であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記イオン化手段は、前記ターゲットと前記ワークとの間にイオンを照射するイオン銃であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記バイアス電極板は、前記ワークの背面側の面形状と略相似形状とされ、前記ワークの背面側の面に沿って配されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記バイアス電極は、前記ワークを保持する保持部材に一体に設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−120925(P2009−120925A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299137(P2007−299137)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】