説明

スラストバランス調整装置及び回転機械

【課題】簡易な構成でコストを抑えつつスラスト軸受に作用するスラスト荷重を低減させることが可能なスラストバランス調整装置及び回転機械を提供する。
【解決手段】スラストバランス調整装置10は、回転体4に設けられたバランスピストン11と、バランスピストン11を回転可能に収容し、流体が流通可能に連通する略環状のバランス室12と、バランス室12内の外周側に設けられて流体の軸方向Aへの流通を制限し、相対的にバランスピストン11の軸方向A一方側を高圧室15に、他方側を低圧室16に設定する第一のシール手段13と、高圧室15または低圧室16の少なくとも一方に設けられてバランス室12とバランス室12の外側との流体の流通を制限する第二のシール手段14と、スラスト磁気軸受を駆動させて、バランスピストン11の軸方向Aの位置を調整して、高圧室15と低圧室16との圧力差を制御する圧力制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の軸方向のバランスを調整するスラストバランス調整装置、及び、これを備えた回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械としては、例えば、羽根車を有する回転体を回転駆動させることで吸入した流体を圧縮して吐出させる圧縮機や、流体を流入させることで羽根車を有する回転体を回転させてトルクを出力させるタービンなどが挙げられる。そして、このような回転機械では、回転体には、トルクとともに軸方向にもスラスト力が作用することとなるので、回転体をスラスト軸受によって、軸回りに回転可能に、軸方向に支持している。
【0003】
また、上記のような回転機械では、回転体に作用するスラスト力が大きくなると、これを支持するためのスラスト軸受の構造も大型化してしまうため、スラスト軸受に作用するスラスト荷重を流体の圧力差を利用して低減させるバランスピストンを採用したものが従来知られている。具体的には、例えば圧縮機において、回転体に外周側に張り出すようにバランスピストンを設け、バランスピストンの一方側では吐出部と連通させることで吐出圧力を作用させるとともに、他方側では吸込部と連通させることで吸込圧力を作用させるものである。これにより、バランスピストンには、吐出圧力と吸込圧力との圧力差によりスラスト力が作用し、スラスト軸受に作用するスラスト荷重を低減させることが可能である。さらに、このような圧縮機の構成において、バランスピストンの上記他方側と吸込部とを連通する経路の途中に設けられた調節弁を有し、その開閉を調整することで、バランスピストンに作用する圧力を調整することが可能なものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、このような圧縮機では、上記のように調整弁による圧力調整によって、定常運転時、並びに、起動・停止などの際のスラスト軸受の負荷変動が大きい時に、スラスト軸受に作用するスラスト荷重を適宜に低減させることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−318184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような構成では、流体を流通させる経路中に新たに調整弁と調整弁を制御する手段とを追加する必要があり、コストが増大してしまう問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成でコストを抑えつつスラスト軸受に作用するスラスト荷重を低減させることが可能なスラストバランス調整装置及び回転機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、スラスト磁気軸受で軸方向に支持された回転体に作用するスラスト力を調整して、軸方向のバランスを調整するスラストバランス調整装置であって、前記回転体に設けられ、外周側に張り出した略円盤状のバランスピストンと、該バランスピストンを回転可能に収容し、軸方向のいずれかの側から流体が流通可能に連通する略環状のバランス室と、該バランス室内の外周側に設けられて前記流体の軸方向への流通を制限し、相対的に前記バランスピストンの軸方向一方側を高圧室に、他方側を低圧室に設定する第一のシール手段と、前記高圧室または前記低圧室の少なくとも一方に設けられて前記バランス室と該バランス室の外側との前記流体の流通を制限する第二のシール手段と、前記スラスト磁気軸受を駆動させて、前記バランスピストンの軸方向の位置を調整して、前記高圧室と前記低圧室との圧力差を制御する圧力制御手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、バランス室に、軸方向のいずれか側から流通する流体は、外周側でバランスピストンの軸方向反対側へ流通する際に第一のシール手段で制限を受けることで、圧力が損失することとなる。これによりバランス室は、流体がその外側から流入することとなるバランスピストンの軸方向一方側が高圧室に、また、流体がその外側へ流出することとなるバランスピストンの軸方向他方側が低圧室となる。そして、両者の圧力差によりバランスピストンには、軸方向一方側から他方側へスラスト力が作用することとなる。そして、このバランスピストンに作用するスラスト力で、回転体に作用する他のスラスト力を相殺することにより、スラスト磁気軸受に作用するスラスト荷重を低減することができる。
【0009】
ここで、高圧室または低圧室の少なくとも一方には、バランス室と外部との流通を制限する第二のシール手段が設けられている。そして、圧力制御手段によってスラスト磁気軸受を駆動させてバランスピストンの軸方向の位置を調整して高圧室と低圧室との圧力差を制御することができる。より詳しくは、第二のシール手段が設けられた高圧室または低圧室を狭くするようにバランスピストンを軸方向に移動させれば、第二のシール手段による圧力損失を大きくすることができ、これにより外部との圧力差を大きくすることができる。また、広くするようにバランスピストンを軸方向反対側に移動させれば、第二のシール手段による圧力損失を小さくすることができ、これにより外部との圧力差を小さくすることができる。すなわち、圧力制御手段が、バランスピストンの軸方向の位置を調整することで、第二のシール手段による圧力損失を変化させ、これにより高圧室と低圧室との圧力差を変化させてスラスト力を自在に調整することができる。また、バランス室をシールする手段を第一のシール手段と第二のシール手段と二つ設け、また圧力制御手段として、スラスト磁気軸受のアクチュエータを利用することで実現できるので、構成を簡易なものとすることができ、コストの増大を抑えることができる。
【0010】
また、上記のスラストバランス調整装置において、前記バランスピストンは、前記スラスト磁気軸受を構成するスラストディスクであることがより好ましい。
【0011】
この構成によれば、スラスト磁気軸受のスラストディスクをバランスピストンとして、第一のシール手段及び第二のシール手段を設けることで、回転体にバランスピストンを別構成として設ける必要がなくなり、同様にスラスト力の調整を可能としつつ、より構成を簡易なものとしてコストの低減を図ることができる。
【0012】
また、本発明の回転機械は、回転体と、該回転体を回転可能に軸方向に支持するスラスト磁気軸受と、上記のスラストバランス調整装置とを備えることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、上記のスラストバランス調整装置を備えることにより、低コストで簡易な構成によりスラストバランスの調整を図ることができ、これによりスラスト磁気軸受の小型化も図ることができ、全体として、小型化、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスラストバランス調整装置では、第一のシール手段、第二のシール手段及び圧力制御手段により、簡易な構成でコストを抑えつつ、スラスト軸受に作用するスラスト荷重を低減させることができる。
また、本発明の回転機械では、上記スラストバランス調整装置を備えることにより、小型化、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態の圧縮機の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の圧縮機において、スラストバランス調整装置の詳細を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の圧縮機において、スラストバランス調整装置の詳細を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の圧縮機において、スラストバランス調整装置の詳細を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態を図1から図3に基づいて説明する。図1は、本実施形態の回転機械である圧縮機を示している。図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、回転軸2及び回転軸2に取り付けられた羽根車3からなる回転体4と、羽根車3を収容するハウジング5と、ハウジング5に設けられて回転軸2を回転可能に支持するジャーナル軸受6、6及びスラスト磁気軸受7と、回転体4のスラストバランスを調整するスラストバランス調整装置10を備える。
【0017】
羽根車3は、略円盤状の部材で、回転軸2の外周面に、軸方向Aに複数取り付けられている。各羽根車3には、内周側で軸方向Aに沿って流入した流体Cを径方向外周側へ送出可能な流路3aが放射状に複数形成されている。また、ハウジング5は、流体Cを装置外部から吸い込む吸込部5aと、流体Cを装置外部へ吐出する吐出部5bと、吸込部5aと吐出部5bとの間に設けられて各羽根車3を収容する作動室5cと、作動室5c同士を連通し、羽根車3の流路3aから外周側に送出された流体Cを次の羽根車3の流路3aの内周側に案内する連通路5dとを有する。
【0018】
ジャーナル軸受6、6は、ハウジング5の軸方向A両側に配置されており、回転軸2を軸回りに回転可能に、径方向に支持している。ジャーナル軸受6、6は、例えば滑り軸受や磁気軸受などが選択される。また、スラスト磁気軸受7は、ハウジング5において吸込部5aが設けられた流体吸入側となる軸方向A一方A1側に配置されており、回転軸2を軸回りに回転可能に、軸方向Aに支持している。スラスト磁気軸受7は、回転軸2に設けられた略円盤状のスラストディスク7aと、スラストディスク7aの軸方向A両側に設けられたスラスト電磁石7bとを備え、後述する軸受制御手段22からの指令に基づいてスラスト電磁石7bによって磁界を発生させることによりスラストディスク7aをスラスト電磁石7b間で支持することが可能となっている。また、各ジャーナル軸受6、6と、吸込部5a及び吐出部5bのそれぞれとの間には、回転軸2とハウジング5との間をシールするシール部材8が設けられており、吸込部5aから吸い込まれる流体C、また、吐出部5bから吐出する流体Cが回転軸2に沿ってジャーナル軸受6、6が設けられた部分に流出するのを制限している。
【0019】
図1から図3に示すように、スラストバランス調整装置10は、回転軸2の外周面に張り出した略円盤状のバランスピストン11と、ハウジング5に略環状に形成されて該バランスピストン11を回転可能に収容するバランス室12と、バランス室12内に設けられた第一のシール手段13及び第二のシール手段14と、スラスト磁気軸受7を駆動させて、前記バランスピストン11の軸方向Aの位置を調整する圧力制御手段20とを備える。
【0020】
バランス室12の軸方向A一方A1側は、吐出部5bと連通している。一方、ハウジング5において、反対側となるバランス室12の軸方向A他方A2側にはポート5eが形成されている。そして、ポート5eと吸込口5aとは管路5fで接続されている。このため、バランス室12の軸方向A他方A2側は、ポート5e及び管路5fとで構成されるバランスコネクタライン5gによって吸込部5aと連通している。
【0021】
そして、バランス室12の外周側の周壁面12aとバランスピストン11の外周面11aとの間に、第一のシール手段13が設けられている。第一のシール手段13は、例えばラビリンスシールであり、バランス室12内においてバランスピストン11の軸方向A一方A1側と他方A2側とで流体Cの流通を制限しており、これにより吐出部5bと連通する軸方向A一方A1側を相対的に高圧となる高圧室15とし、また、吸込部5aとバランスコネクタライン5gを介して連通する軸方向A他方A2側を相対的に低圧となる低圧室16として構成している。
【0022】
また、第二のシール手段14は、本実施形態では低圧室16側の側壁面12bと、バランスピストン11の側面11bとの間に設けられている。第二のシール手段14も、第一のシール手段13同様に例えばラビリンスシールであり、バランス室12において、低圧室16と、バランスコネクタライン5gを介して吸込部5aと連通する低圧室16の外側との流体Cの流通を制限している。
【0023】
このため、低圧室16内部の圧力は、第一のシール手段13によって生じる圧力損失により上記のとおり高圧室15の圧力よりも低いとともに、第二のシール手段14によって生じる圧力損失により吸込部5aの圧力よりも高く設定されている。ここで、第二のシール手段14によって生じる圧力損失は、第二のシール手段14が設けられたバランス室12の低圧室16の側壁面12bと、バランスピストン11の側面11bとのシール部ギャップGの大きさに依存し、当該シール部ギャップGが小さくなることで第二のシール手段14によるシール効果が向上して圧力損失は大きくなり、また、当該シール部ギャップGが大きくなることでシール効果が低下して圧力損失は小さくなる。
【0024】
また、図3に示すように、圧縮機1は、回転軸2の軸方向Aの位置を検出する位置センサ9を備えている。位置センサ9は、例えば、図示しないが回転軸2の軸端に設けられており、位置センサ9での検出結果は圧力制御手段20に入力されている。圧力制御手段20は、バランス室12内におけるバランスピストン11の軸方向Aの位置により、シール部ギャップGを変更することで、第二のシール手段14によって生じる圧力損失を変更することが可能である。そして、これにより低圧室16の圧力を変更して高圧室15と低圧室16との圧力差によってバランスピストン11に作用するスラスト力を変化させることが可能である。
【0025】
具体的には、圧力制御手段20は、バランスピストン11に作用させる必要スラスト力Fbを演算するスラスト力演算部21a、及び、該必要スラスト力Fbを発生させるためのシール部ギャップGを演算するギャップ演算部21bを具備するバランスピストン位置演算手段21と、該バランスピストン位置演算手段21での演算結果に基づいてスラスト磁気軸受7を駆動させる軸受制御手段22とを有する。バランスピストン位置演算手段21において、スラスト力演算部21aには、圧縮機1を含むシステム全体を制御する図示しない本体制御装置から現在設定されている吸込圧力Psと吐出圧力Pdの値の入力がされている。また、スラスト力演算部21aには、スラスト磁気軸受7で許容される許容スラスト荷重が記憶されている。そして、スラスト力演算部21aは、入力された吸込圧力Psと吐出圧力Pdとによって、羽根車3で発生する軸方向に作用する力の和F3を演算し、許容スラスト荷重との差分から、相殺すべきスラスト力Fである必要スラスト力Fbを演算することが可能である。
【0026】
また、ギャップ演算部21bには、予めシール部ギャップGの大きさと、第二のシール手段14による圧力損失量との関係が記憶されており、当該関係と流体Cの吸込圧力Ps及び吐出圧力Pdとに基づいて、必要スラスト力Fbとなるシール部ギャップGの大きさを演算し、さらに、シール部ギャップGと基準となる標準ギャップとの差分である調整ギャップ量ΔGを演算し軸受制御手段22に出力することが可能である。なお、本実施形態では、標準ギャップはスラスト磁気軸受7のスラストディスク7aがスラスト電磁石7b間の中央に位置する時のギャップの大きさを示している。そして、調整ギャップ量ΔGとしては、その調整する方向により正負いずれの符号ともなる。
【0027】
軸受制御手段22は、入力された調整ギャップ量ΔGに基づいてスラストディスク7aの調整すべき位置となる目標位置座標を演算する目標位置演算部22aと、目標位置と現在のスラストディスク7aとの位置に基づいてスラストディスク7aの移動量を演算するスラストディスク移動量演算部22bとを有する。目標位置演算部22aは、スラスト磁気軸受7のスラストディスク7aがスラスト電磁石7b間の中央に位置する時の軸方向Aの基準位置A0を表わす基準位置座標が記憶されており、当該基準位置座標にバランスピストン位置演算手段21から入力された調整ギャップ量ΔGを加算し、目標位置座標を演算することが可能である。
【0028】
また、スラストディスク移動量演算部22bには、目標位置演算部22aから目標位置座標が入力されているとともに、位置センサ9からは回転軸2の位置情報、すなわち現在のスラストディスク7aの位置情報が入力されている。そして、スラストディスク移動量演算部22bは、目標位置座標から、現在のスラストディスク7aの位置座標を減じることで、現在のスラストディスク7aの位置から目標位置となるのに必要なスラストディスク移動量を演算する。演算したスラストディスク移動量は、軸受制御手段22に設けられたPIDコントローラ22c及びフィルタ22dを経て制御信号としてスラスト磁気軸受7のスラスト電磁石7bに入力される。
【0029】
次に、この実施形態の圧縮機1及びスラストバランス調整装置10の作用について説明する。
図示しない本体制御装置により回転体4が回転駆動し、これにより所定の吸込圧力Psで吸込部5aから吸い込まれた流体Cは、各羽根車3の流路3aと連通路5dを経ることで圧縮されて設定された吐出圧力Pdで吐出部5bから吐出される。そして、流体Cが羽根車3の流路3aを経ることで、羽根車3は流体Cから軸方向Aの力を受け、全体として吸込圧力Psと吐出圧力Pdとの差分に応じた軸方向Aの力F3が作用することになる。
【0030】
一方、スラストバランス調整装置10のバランスピストン11には、軸方向A一方A1側では、吐出圧力Pdを有する流体Cが高圧室15まで流通しており、吐出圧力Pdが作用している。また、バランスピストン11の軸方向A他方A2側、すなわち低圧室16には、高圧室15との間に第一のシール手段13が設けられているとともに、低圧室16とバランスコネクタライン5g側との間には第二のシール手段14が設けられていることから、吐出圧力Pdよりも低く、吸込圧力Psよりも高い圧力が作用している。このため、バランスピストン11には、高圧室15と低圧室16との圧力差分だけ、羽根車3に直接作用する軸方向Aの力と反対側の向きでスラスト力Fが作用することとなる。これにより、羽根車3に作用する軸方向Aの力F3がバランスピストン11に作用するスラスト力Fによって相殺され、スラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重は低減されることとなる。
【0031】
ここで、圧力制御手段20において、バランスピストン位置演算手段21のスラスト力演算部21aには、上記のとおり、図示しない本体制御装置から吸込圧力Psと吐出圧力Pdの値の入力がされている。そして、上記のとおり、バランスピストン位置演算手段21では、スラスト力演算部21a及びギャップ演算部21bにより調整ギャップ量ΔGを演算し、軸受制御手段22に出力し、軸受制御手段22では、入力された調整ギャップ量ΔGに応じてスラストディスク7aが目標位置となるように制御信号をスラスト電磁石7bに入力している。
【0032】
すなわち、現在の位置(初期状態では基準位置A0)において、吸込圧力Psと吐出圧力Pdとによって羽根車3に作用する軸方向Aの力F3とバランスピストン11に作用するスラスト力Fとから求められるスラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重が、許容スラスト荷重よりも大きい場合には、軸受制御手段22は、スラスト磁気軸受7を駆動させて、スラストディスク7aを低圧室16におけるシール部ギャップGを大きくするように移動させる。これにより低圧室16と、バランスコネクタライン5g側との圧力差が小さくなり、相対的に高圧室15と低圧室16との圧力差が大きくなる。このため、バランスピストン11に作用し、羽根車3に作用する軸方向Aの力F3を相殺するスラスト力Fを大きくすることができ、これによりスラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重を許容スラスト荷重内に設定することができる。
【0033】
また、上記では、スラスト力演算部21aでは、スラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重が許容スラスト荷重より小さくなるように、必要スラスト力Fbを求めたが、さらに基準スラスト荷重を設定し、基準スラスト荷重となるように必要スラスト力Fbを求めるものとしても良い。この場合、吸込圧力Psと吐出圧力Pdとによって羽根車3に作用する軸方向Aの力F3とバランスピストン11に作用するスラスト力Fとから求められるスラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重が、基準スラスト荷重よりも小さくなると、バランスピストン11に作用するスラスト力Fが小さくなるように、スラストディスク7aの位置を調整することとなる。すなわち、軸受制御手段22は、スラスト磁気軸受7を駆動することで、スラストディスク7aを低圧室16におけるシール部ギャップGを小さくするように移動させる。これにより低圧室16と、バランスコネクタライン5g側との圧力差が大きくなり、相対的に高圧室15と低圧室16との圧力差が小さくなる。このため、バランスピストン11に作用し、羽根車3に作用する軸方向Aの力F3を相殺するスラスト力Fを小さくすることができ、これによりスラスト磁気軸受7に作用するスラスト荷重を許容スラスト荷重内において基準スラスト荷重に等しくなるように設定することができる。
【0034】
以上のように、本実施形態のスラストバランス調整装置10では、圧力制御手段20が、バランスピストン11の軸方向Aの位置を調整することで、第二のシール手段14による圧力損失を変化させ、これにより高圧室15と低圧室16との圧力差を変化させてスラスト力Fを自在に調整することができる。また、バランス室12をシールする手段を第一のシール手段13と第二のシール手段14と二つ設け、また圧力制御手段20として、スラスト磁気軸受7のアクチュエータを利用することで実現できるので、構成を簡易なものとすることができ、コストの増大を抑えることができる。
【0035】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を図4に基づいて説明する。なお、この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
本実施形態では、圧縮機の基本的な構成は第1の実施形態と同じくして、スラストバランス調整装置30のバランスピストンとして、スラスト磁気軸受7のスラストディスク7aを利用した点が異なっている。すなわち、本実施形態のスラストバランス調整装置30では、バランスピストンがスラストディスク7aで構成されているとともに、バランス室がスラストディスク7aを収容するディスク収容部7cで構成されている。そして、図示しないが、ディスク収容部7cの軸方向A他方側A2が吸込部5aと連通しているとともに、一方A1側では、図示しないバランスコネクタラインによって吐出部5bと連通している。また、ディスク収容部7cの外周側の周壁部7dとスラストディスク7aとの間に第一のシール手段13が設けられている。このため、図示しないバランスコネクタラインを介して吐出部5bと連通する軸方向A一方A1側を相対的に高圧となる高圧室31とし、また、吸込部5aと連通する軸方向A他方A2側を相対的に低圧となる低圧室32として構成している。
【0037】
また、第二のシール手段14が、低圧室32側の側壁面7eとスラストディスク7aとの間に設けられている。このため、第1の実施形態同様に、低圧室32内部の圧力は、第一のシール手段13によって生じる圧力損失により上記のとおり高圧室15の圧力よりも低いとともに、第二のシール手段14によって生じる圧力損失により吸込部5aの圧力よりも高く設定されている。
【0038】
以上のような本実施形態のスラストバランス調整装置30においても、同様にスラストディスク7aの軸方向Aの位置により、第二のシール手段14による圧力損失を変化させ、これにより高圧室31と低圧室32との圧力差を変化させてスラスト力を自在に調整することができる。また、本実施形態では、スラスト磁気軸受7のスラストディスク7aをバランスピストンとして、第一のシール手段13及び第二のシール手段14を設けることで回転体4にバランスピストンを別構成として設ける必要がなくなり、同様にスラスト力の調整を可能としつつ、より構成を簡易なものとしてコストの低減を図ることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0040】
なお、上記実施形態では、第二のシール手段は、低圧室側に設けられるものとしたが、これに限るものではなく、高圧室側、あるいは、両側にそれぞれ設けるものとしても良い。例えば、高圧室側に設けられた場合には、高圧室の圧力は吐出部の圧力よりも第二のシール手段による圧力損失分小さくなる。一方、低圧室の圧力は吸込部の圧力と略等しくなる。そして、高圧室における第二のシール手段が設けられたシール部ギャップを小さくすれば、高圧室と低圧室との圧力差を小さくすることができ、スラスト力を小さくすることができる。また、高圧室における第二のシール手段が設けられたシール部ギャップを大きくすれば、高圧室と低圧室との圧力差を大きくすることができ、スラスト力を大きくすることができる。
【0041】
また、上記実施形態では、圧力制御手段は、本体制御装置から吸込圧力Ps及び吐出圧力Pdの入力を受けて、これによりバランスピストンの位置調整を行うものとしたが、これに限るものではない。例えば、吸込部及び吐出部、あるいは、バランス室の軸方向両側に圧力センサを設けるものとして、これら圧力センサの検出結果に基づいて制御を行うものとしても良い。
【0042】
また、上記実施形態では、回転機械として圧縮機を例に挙げたが、これに限るものではなく、タービン等他の回転機械にも適用可能である。また、上記実施形態ではバランス室に流通する流体を、圧縮機で吸込、吐出を行う流体を使用したが、これに限らず、異なる流体を使用しても良く、少なくとも第一のシール手段を境界としてバランス室内の軸方向一方側を高圧室、他方側を低圧室と設定可能であれば良い。
【符号の説明】
【0043】
1 圧縮機(回転機械)
4 回転体
7 スラスト磁気軸受
7a スラストディスク(バランスピストン)
7c ディスク収容室
10、30 スラストバランス調整装置
11 バランスピストン
12 バランス室
13 第一のシール手段
14 第二のシール手段
20 圧力制御手段
A 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラスト磁気軸受で軸方向に支持された回転体に作用するスラスト力を調整して、軸方向のバランスを調整するスラストバランス調整装置であって、
前記回転体に設けられ、外周側に張り出した略円盤状のバランスピストンと、
該バランスピストンを回転可能に収容し、軸方向のいずれかの側から流体が流通可能に連通する略環状のバランス室と、
該バランス室内の外周側に設けられて前記流体の軸方向への流通を制限し、相対的に前記バランスピストンの軸方向一方側を高圧室に、他方側を低圧室に設定する第一のシール手段と、
前記高圧室または前記低圧室の少なくとも一方に設けられて前記バランス室と該バランス室の外側との前記流体の流通を制限する第二のシール手段と、
前記スラスト磁気軸受を駆動させて、前記バランスピストンの軸方向の位置を調整して、前記高圧室と前記低圧室との圧力差を制御する圧力制御手段とを備えることを特徴とするスラストバランス調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスラストバランス調整装置において、
前記バランスピストンは、前記スラスト磁気軸受を構成するスラストディスクであることを特徴とするスラストバランス調整装置。
【請求項3】
回転体と、
該回転体を回転可能に軸方向に支持するスラスト磁気軸受と、
請求項1または請求項2に記載のスラストバランス調整装置とを備えることを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190088(P2010−190088A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34155(P2009−34155)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】