説明

セラミック焼結体、放熱基体および電子装置

【課題】 従来のセラミックス回路基板は、耐熱サイクル特性および曲げ強度特性が良好であるものの、絶縁性能に対する信頼性の要求がさらに高くなっている現在、必ずしも十分とは言えなくなってきている。
【解決手段】 窒化珪素を主成分とし、希土類金属酸化物を含む粒界相を有してなり、任意の断面における面積が100μmの範囲で前記粒界相の数が42個以下であることを特徴とするセラミック焼結体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱部材を配置するセラミック焼結体に関する。また、このセラミック焼結体に、IGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)素子,MOSFET(金属酸化膜形電界効果トランジスタ)素子,LED(発光ダイオード)素子,FWD(フリーホイーリングダイオード)素子,GTR(ジャイアント・トランジスター)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンターヘッド素子,サーマルインクジェットプリンターヘッド素子等の各種電子部品が搭載される放熱基体に関する。さらに、この放熱基体に各種電子部品が搭載される電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワートランジスタモジュールまたはスイッチング電源モジュール等のパワーモジュールに代表される半導体装置等の電子装置の放熱基体が知られている。この放熱基体として、セラミック焼結体の一方の主面に回路部材として銅板を接合し、他方の主面に放熱性の良好な放熱部材として銅板を接合して構成された放熱基体が用いられている。
【0003】
例えば、セラミックス基板と、このセラミックス基板の少なくとも一方の主面に接合された金属回路部とを具備するセラミックス回路基板において、上記セラミックス基板の任意の一方向の表面粗さを算術平均粗さ基準でRa1とする一方、その方向と直交する方向の表面粗さをRa2としたときに、Ra1/Ra2およびRa2/Ra1の比の値が1.5以下であると共に、上記セラミックス基板の絶縁耐圧が20kV/mm以上であるセラミックス回路基板が知られている(下記の特許文献1を参照)。
【0004】
そして、窒化珪素焼結体から成るセラミックス基板の絶縁耐圧が38kV/mmであることが実施例9に記載され、現在この測定値が最も高い値となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−171037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたセラミックス回路基板は、耐熱サイクル特性および曲げ強度特性が良好であるものの、絶縁性能に対する信頼性の要求がさらに高くなっている現在、必ずしも十分とはいえない。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するために提案されたものであって、セラミック焼結体、放熱基体および電子装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係るセラミック焼結体は、窒化珪素を主成分とする複数の結晶粒子の間に、希土類金属酸化物を含む粒界相を有してなり、任意断面の100μmの領域内における前記粒界相の数が42個以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一形態に係る放熱基体は、上記セラミック焼結体からなる支持基板の第1主面側に回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一形態に係る電子装置は、上記放熱基体における回路部材上に電子部品を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一形態に係るセラミック焼結体によれば、絶縁耐圧が低下する要因である、粒界相に残留する気孔の数および粒界相を構成するガラス(非晶質)成分が減少するため、セラミック焼結体の絶縁耐圧が高くなり、絶縁性能に対する信頼性が高くすることができる。
【0012】
本発明の一形態に係る放熱基体および電子装置によれば、絶縁性能に対する信頼性の高いものを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一形態に係るセラミック焼結体の任意の断面における結晶構造を示し、(a)は倍率を1000倍として断面の2次電子像を撮影した写真であり、(b)は倍率を3000倍として断面の2次電子像を撮影した写真である。
【図2】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のA−A’線における断面図、(c)は底面図である。
【図3】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のB−B’線における断面図、(c)は底面図である。
【図4】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のC−C’線における断面図、(c)は底面図である。
【図5】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のD−D’線における断面図、(c)は底面図である。
【図6】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のE−E’線における断面図、(c)は底面図である。
【図7】本発明の一形態に係る放熱基体を示し、(a)は平面図、(b)は同図(a)のF−F’線における断面図、(c)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図面において共通の部位を表す場合は同一符号を用いる。
【0015】
本実施形態のセラミック焼結体は、窒化珪素を主成分とし、希土類金属酸化物を含む粒界相を有してなり、任意の断面における面積が100μmの範囲で粒界相の数が42個以下であるセラミック焼結体である。
【0016】
このように、任意の断面における粒界相の数を制限すると、絶縁耐圧が低下する要因である、粒界相に残留する気孔の数および粒界相を構成するガラス(非晶質)成分が減少するため、セラミック焼結体の絶縁耐圧が高くなり、絶縁性能に対する信頼性を高くすることができる。また、上述した作用と同様の作用により、セラミック焼結体の放熱特性を高くすることもできる。
【0017】
本実施形態のセラミック焼結体は、任意の断面における面積が100μmの範囲で粒界相の数を42個以下とすることで、セラミック焼結体の絶縁性能を示す絶縁破壊電圧は例えば43MV/m以上に、またセラミック焼結体の放熱特性を示す熱伝導率は例えば70W/(m・K)以上と非常に高い値を得ることができる。
【0018】
この粒界相は、主として、1対の結晶粒子の界面に挟まれる二面間粒界相と、3個以上の結晶粒子に挟まれる三重点粒界相とからなる。粒界相に含まれる希土類金属酸化物は、例えば、Y,La,Ce,Lu,Yb,Er,Dy,Sm,ScおよびGd等の希土類金属から選ばれる1種以上で構成される酸化物であり、これらの金属成分の中でも、Lu,Yb,Erが好適である。Lu,Yb,Erがダイシリケート相(RESi(REは希土類金属))およびモノシリケート相(RESiO(REは希土類金属))を形成すると、いずれの相も融点が高いため、高温における強度を高くすることができるとともに、耐酸化性を向上させることができる。
【0019】
また、ダイシリケート相(RESi(REは希土類金属))およびモノシリケート相(RESiO(REは希土類金属))は、窒化珪素に対して熱膨張係数の差が小さいため、クラックが発生しにくくなる。
【0020】
このような粒界相に含まれる希土類金属酸化物は、X線回折法を用いて同定することができる。
【0021】
図1は、本実施形態のセラミック焼結体の任意の断面における結晶構造を示す写真である。この任意の断面は、セラミック焼結体から試料を切り出し、この試料を樹脂埋めした後、ダイヤモンドの砥粒を用いて研磨することによって得られ、図1に示す写真は走査型電子顕微鏡を用い、(a)は倍率を1000倍として断面の2次電子像を撮影した写真であり、(b)は倍率を3000倍として断面の2次電子像を撮影した写真である。
【0022】
結晶粒子1は、窒化珪素を主成分とする結晶粒子であり、粒界相2は希土類金属酸化物を含む粒界相であって、この断面における粒界相2は互いに接することなく、独立した状態となっており、粒界相2a、2bは二面間粒界相、粒界相2c,2dは三重点粒界相である。
【0023】
粒界相の数については、倍率を3000倍として撮影した断面の2次電子像の写真から面積が100μmの範囲を5箇所(例えば、写真の中央,右上,右下,左上および左下)選び、この5箇所の範囲に存在する粒界相の数をそれぞれ数え、最も多い粒界相の数を本発明における粒界相の数とすればよい。ここで、粒界相2の数は、上記2次電子像の写真において、窒化珪素を主成分とする複数の結晶粒子1に囲まれ、他の粒界相2と接していない部分を1個とする。
【0024】
なお、本実施形態のセラミック焼結体における主成分とは、セラミック焼結体を構成する全成分100質量%のうち、50質量%以上を占める成分、好適には85質量%以上を占める成分をいう。
【0025】
セラミック焼結体における希土類金属酸化物の含有量は、1質量%以上15質量%以下であることが好適である。希土類金属酸化物の含有量が1質量%以上であれば、放熱基体を構成する支持基板に求められる機械的特性を確保することができ、15質量%以下であれば、前記支持基板に求められる絶縁性能および放熱特性がさらに高くなるからである。
【0026】
また、本実施形態のセラミック焼結体は、粒界相が実質的に酸化アルミニウムを含まないことが好適である。
【0027】
粒界相が酸化アルミニウムを含まなければ、粒界相を構成するガラス(非晶質)成分がさらに減少するため、セラミック焼結体の絶縁破壊電圧が高くなり、絶縁性能に対する信頼性を高くすることができる。
【0028】
ここで、粒界相が実質的に酸化アルミニウムを含まないとは、粒界相に酸化アルミニウムが含まれた場合、この酸化アルミニウムの含有量がセラミック焼結体100質量%に対して0.1質量%以下であることをいい、特に0.05質量%以下であることが好適である。
【0029】
酸化アルミニウムの含有量は、ICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。具体的には、ICP発光分析装置で測定することにより、Alの含有量を求め、この値を基に酸化物へ換算することにより、酸化アルミニウムの含有量を求めることができる。
【0030】
なお、粒界相には実質的に酸化アルミニウムを含まない方が好適であるが、酸化珪素を含んでいても何等差し支えない。
【0031】
また、粒界相を構成する化合物は、いずれも結晶化されていることが好ましく、その結晶化率は、50%以上であることが好適である。粒界相を構成する化合物の結晶化が促進されると、結晶相として析出する微細な粒子が導電経路を分断または迂回させることによって、絶縁破壊電圧を高くするからである。粒界相を構成する化合物の結晶化率は、X線回折法によって測定することができる。
【0032】
セラミック焼結体の機械的特性としては、3点曲げ強度が500MPa以上、ヤング率が300Gpa以上、ビッカース硬度(H)が13GPa以上、破壊靱性(K1C)が5MPam1/2以上であることが好ましい。機械的特性をこの範囲とすることでセラミック焼結体は、信頼性、即ち耐クリープ性やヒートサイクルに対する耐久性を向上させることができる。
【0033】
なお、3点曲げ強度およびヤング率については、JIS R 1601−1995に準拠して測定すればよい。但し、セラミック焼結体の厚みが薄く、セラミック焼結体から切り出した試験片の厚みを3mmとすることができない場合、セラミック焼結体の厚みをそのまま試験片の厚みとしてもよい。
【0034】
ビッカース硬度(H)および破壊靱性(K1C)については、それぞれJIS R 1610−2003,JIS R 1607−1995に準拠して測定すればよい。
【0035】
またセラミック焼結体の吸水率は0.35%以下、体積固有抵抗は常温で1012Ω・m以上、300℃で1010Ω・m以上であることが好ましい。吸水率および体積固有抵抗をこの範囲とすることで、セラミック焼結体を例えば放熱基体を構成する支持基板として用いた場合、絶縁性能が高い上、湿度の高い環境で用いられたとしても水分がセラミック焼結体に吸着しにくく、信頼性の高い支持基板として用いることができる。
【0036】
また、本実施形態の放熱基体は、セラミック焼結体からなる支持基板の第1主面側に回路部材を、第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなる放熱基体であって、回路部材および放熱部材の少なくとも一方と、支持基板との間に金属層を設けてなり、金属層は、銀および銅を主成分とするとともに、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、回路部材および放熱部材は、主成分が金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種以上を含有することが好適である。
【0037】
図2に示す本実施形態の放熱基体10は、本実施形態のセラミック焼結体からなる支持基板21の第1主面側に回路部材41を、第1主面に対向する第2主面側に放熱部材42をそれぞれ設けてなる放熱基体10であって、回路部材41および放熱部材42と、支持基板21との間にそれぞれ金属層31,32を設けてなり、金属層31,32は、銀および銅を主成分とするとともに、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、回路部材41および放熱部材42は、主成分が金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種以上を含有するものである。回路部材41および放熱部材42が金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種以上を含有する場合、これら金属成分はいずれも熱伝導率の高い成分であり、回路部材41上に搭載した半導体素子等の電子部品(不図示)から発生した熱を拡散しやすくさせることから、放熱特性の高い放熱基体とすることができる。
【0038】
なお、金属層31,32の主成分である銀および銅は、金属層31,32をそれぞれ構成する全成分100質量%のうち、いずれも35質量%以上を占める成分である。
【0039】
また、回路部材41および放熱部材42における主成分とは、回路部材41および放熱部材42をそれぞれ構成する全成分100質量%のうち、50質量%以上を占める成分、好適には90質量%以上を占める成分をいう。
【0040】
回路部材41および放熱部材42における主成分が銅である場合、無酸素銅、タフピッチ銅およびりん脱酸銅から選ばれる1種以上であることが好適である。特に、無酸素銅のうち、銅の含有率が99.995質量%以上の線形結晶無酸素銅、単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のいずれかを用いることが好適である。なぜなら、銅の含有率が高いほど電気抵抗が低く、熱伝導率が高いため、回路特性(電子部品の発熱を抑制し、電力損失を少なくする特性)や放熱特性が優れるからである。また、銅の含有率が高いほど、降伏応力が低く、高温下で塑性変形しやすくなるため、金属層31および回路部材41,金属層32および放熱部材42の各接合強度が高くなり、より信頼性が高くなるからである。
【0041】
なお、金属層31,32,回路部材41および放熱部材42を構成する各成分の含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分析法により求めることができる。
【0042】
支持基板21は、例えば、長さが30mm以上95mm以下、幅が10mm以上80mm以下であり、厚みは用途によって異なるが、熱抵抗を抑制し、耐久性を維持するという観点から、厚みは0.13mm以上0.64mm以下とすることが好適である。
【0043】
また、支持基板21の第1主面および第2主面には直径が0.15mm以上のピンホール状の欠陥がないことが好適である。直径が0.15mm以上のピンホール状の欠陥がなければ、湿度の高い環境でこの支持基板21が用いられたとしても水分が支持基板21の第1主面および第2主面に吸着しにくく、信頼性の高い支持基板として使用することができる。
【0044】
放熱基体10を構成する回路部材41のうち、大きい方の回路部材41aは、例えば、長さが5mm以上60mm以下,幅が5mm以上60mm以下である。また、小さい方の回路部材41bは、例えば、長さが2mm以上30mm以下、幅が2mm以上20mm以下である。厚みは回路部材41を流れる電流の大きさや回路部材41に搭載される電子部品(図示しない)の発熱量等によって決められ、例えば、0.2mm以上0.6mm以下である。
【0045】
また、放熱基体10を構成する放熱部材42は、発熱した電子部品(図示しない)から熱を逃がすという機能を有し、例えば、長さが5mm以上60mm以下,幅が5mm以上60mm以下,厚みが0.2mm以上0.6mm以下である。
【0046】
金属層31,32のA−A’線における厚みは、例えば10μm以上20μm以下である。
【0047】
また、本実施形態の放熱基体10は、図3に示すように金属層31,32が平面視して複数存在し、各金属層31,32はモリブデン,タンタル,オスミウムおよびタングステンから選ばれる1種以上を含有することが好適である。これら金属成分は融点が高いため、金属層31,32が溶けにくくなるので、隣り合う金属層、例えば金属層31aと金属層31bまたは金属層32aと金属層32bが短絡するおそれが低くなり、信頼性の高い放熱基体とすることができる。
【0048】
特に、金属層31,32におけるモリブデン,タンタル,オスミウムおよびタングステンから選ばれる1種以上の成分の含有量は4質量%以上12質量%以下、銅の含有量は36質量%以上44質量%以下、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上の含有量は1質量%以上4質量%以下、残部が銀であることが好適である。
【0049】
また、本実施形態の放熱基体10は、金属層31,32がインジウム,錫およびアンチモンから選ばれる1種以上を含有することが好適である。これら金属成分は融点が低いので、支持基板21の第1主面および第2主面の微小な凹部によく充填され、支持基板21と、回路部材41および放熱部材42とをさらに強固に密着させることができる。
【0050】
特に、金属層31,32におけるインジウム,錫およびアンチモンから選ばれる1種以上の成分の含有量は、1質量%以上5質量%以下、モリブデン,タンタル,オスミウムおよびタングステンから選ばれる1種以上の成分の含有量は4質量%以上12質量%以下、銅の含有量は36質量%以上44質量%以下、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上の含有量は1質量%以上4質量%以下、残部が銀であることが好適である。
【0051】
また、図3に示す放熱基体10は、回路部材41が金属層31に併せて複数存在する放熱基体であって、このように回路部材21が平面視で複数行、複数列に区分配置されている場合、同じ個数の回路部材が1行または1列に区分配置された放熱基体に比べ、支持基板21の形状を正方形または正方形に近い長方形にすることができる。このため、放熱基体1の製造工程で発生する放熱基体1の反りを抑制することができる。
【0052】
図3に示す放熱基体10は、例えば、金属層31の1個当たりのX方向の長さが12.4mm以上24.4mm以下、Y方向の長さが16.4mm以上20.4mm以下、厚みが10μm以上20μm以下である放熱基体である。
【0053】
また、回路部材41の1個当たりのX方向の長さは12.4mm以上24.4mm以下,Y方向の長さは16.4mm以上20.4mm以下、厚みは回路部材41を流れる電流の大きさや回路部材41に搭載される電子部品(不図示)の発熱量等によって決められ、例えば、0.2mm以上0.6mm以下である。
【0054】
また、放熱部材42の1個当たりのX方向の長さは20mm以上65mm以下,Y方向の長さは20mm以上65mm以下、厚みは回路部材41を流れる電流の大きさや回路部材41に搭載される電子部品(不図示)の発熱量等によって決められ、例えば、0.2mm以上0.6mm以下である。
【0055】
また、本実施形態の放熱基体10は、図4に示すように、回路部材41と支持基板21との間に複数の金属層31を、放熱部材42と支持基板21との間に単一の金属層32を設けた放熱基体であっても好適である。
【0056】
このように構成すると、回路部材41より放熱部材42の体積を容易に大きくすることができるので、回路部材上に搭載された電子部品から発生した熱を効率よく拡散し、放熱されるため、放熱基体10は放熱特性を高くすることができる。
【0057】
また、本実施形態の放熱基体10は、図5〜7に示すように、金属層31,32の端面の少なくとも一部が、回路部材41または放熱部材42の各端面より外側に位置していることが好適である。金属層31,32の端面の少なくとも一部が、回路部材41または放熱部材42の各端面より外側に位置すると、支持基板21にかかる応力が分散しやすいので、より信頼性の高い放熱基体とすることができる。
【0058】
また、本実施形態の放熱基体10は、放熱部材42側における支持基板21の主面の長辺に対する反りが0.3%以下であって、反りは放熱部材42に向かって凸状であることが好適である。このようにすると、放熱部材42の裏面側に熱をさらに拡散させるためのヒートシンクを取り付けた場合、ヒートシンクとの接触面積が増加し、熱がヒートシンクに逃げやすくなることから、より放熱特性を高くすることができる。
【0059】
さらに、本実施形態の電子装置は、本実施形態の放熱基体における回路部材上に電子部品を搭載した場合には、電子装置使用中にも、電子部品に蓄熱することがほとんどなくなるので、好適な電子装置とすることができる。
【0060】
次に、本実施形態のセラミック焼結体の製造方法について説明する。
【0061】
まず、窒化珪素質粉末のβ化率が40%以下であって、組成式Si6−ZAl8−Zにおける固溶量zが0.02以下である窒化珪素質粉末と、添加成分として希土類金属酸化物からなる粉末とを、バレルミル,回転ミル,振動ミル,ビーズミル,サンドミル,アジテーターミル等を用いて湿式混合し、粉砕してスラリーとする。特に、固溶量zは0.01以下であることが好適である。
【0062】
ここで、添加成分である希土類金属酸化物からなる粉末は、窒化珪素質粉末とこれら添加成分の粉末の合計との総和を100質量%とした場合に、1質量%以上15質量%になるようにすればよい。
【0063】
窒化珪素には、その結晶構造の違いにより、α型およびβ型という2種類の窒化珪素が存在する。α型は低温で、β型は高温で安定であり、1400℃以上でα型からβ型への相転移が不可逆的に起こる。
【0064】
ここで、β化率とは、X線回折法で得られたα(102)回折線とα(210)回折線との各ピーク強度の和をIα、β(101)回折線とβ(210)回折線との各ピーク強度の和をIβとした場合に、次の式によって算出される値である。
【0065】
β化率={Iβ/(Iα+Iβ)}×100 (%)
窒化珪素質粉末のβ化率は、セラミックス基体の強度および破壊靱性に影響する。β化率が40%以下の窒化珪素質粉末を用いるのは、強度および破壊靱性をともに高くすることができるからである。
【0066】
窒化珪素質粉末の粉砕で用いるメディアは、窒化珪素,ジルコニア,アルミナ等の各種焼結体からなるメディアを用いることができるが、純度が99質量%以上の窒化珪素質焼結体からなるメディアが好適である。
【0067】
なお、窒化珪素質粉末の粉砕は、粒度分布曲線の累積体積の総和を100%とした場合の累積体積が90%となる粒径(D90)が3μm以下であって、累積体積50%となる粒径(D50)が0.4μm以上0.8μm以下となるまで粉砕することが、焼結性の向上および結晶組織の針状化の点から好ましい。粉砕によって得られる粒度分布は、メディアの外径,メディアの量,スラリーの粘度,粉砕時間等で調整することができる。スラリーの粘度を下げるには分散剤を添加することが好ましく、短時間で粉砕するには、予め粒径(D50)が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0068】
そして、得られたスラリーを粒度200メッシュより細かいメッシュを通した後に乾燥させて窒化珪素を主成分とする顆粒(以下、窒化珪素質顆粒という。)を得る。なお、スラリーの段階でパラフィンワックスやポリビニルアルコール(PVA),ポリエチレングリコール(PEG)等の有機バインダを窒化珪素質粉末100質量部に対して1質量部以上10質量部以下で混合することが、成形性のために好ましい。乾燥は、スプレードライヤー等を用いた噴霧乾燥法により乾燥させてもよく、他の方法であってもよい。
【0069】
そして、窒化珪素質顆粒をロールコンパクション法等の粉末圧延法を用いてシート状に成形してセラミックシートとし、このセラミックシートを所定の長さに切断してセラミック成形体を得る。
【0070】
このようにして得られた複数のセラミック成形体を焼成炉内に置かれた、純度が95質量%以上の窒化珪素質焼結体からなる焼成用容器内に配置する。
【0071】
そして、焼成炉内の雰囲気を窒素雰囲気として、1800℃以上2000℃以下で5〜40時間、好適には20〜40時間保持することで本実施形態のセラミック焼結体を得ることができる。
【0072】
なお、セラミック成形体を焼成炉内で設置するとき、シリコン(Si)と二酸化珪素(SiO)とからなる混合粉末およびその成形体の少なくともいずれか1種からなる混合体も併せて焼成炉内に設置する。
【0073】
焼成炉内の温度を1800℃以上2000℃以下にすると、以下の式(1)に示す反応が進行して、一酸化珪素(SiO)が混合体から発生する。この一酸化珪素(SiO)と焼成炉内の雰囲気である窒素(N)とにより、式(2)に示す可逆反応は、右方向への進行が抑制され、窒化珪素(Si)の分解を抑えることができる。
【0074】
3Si+3SiO→6SiO・・・(1)
Si+3SiO⇔6SiO+2N・・・(2)
なお、式(2)の左辺に示す二酸化珪素(SiO)は、窒化珪素質粉末の粉砕によって、窒化珪素質粉末の一部が酸化したり、添加剤として二酸化珪素質粉末を添加したりすることによるものである。
【0075】
シリコン(Si)と二酸化珪素(SiO)とのモル比は、式(1)よりSi:SiO=1:1であって、シリコン(Si)と二酸化珪素(SiO)とからなる混合体の質量は、焼成用容器単位容積1cmに対して、0.003g以上0.02g以下であることが好適である。この範囲であれば、窒化珪素の結晶粒子は粒成長しやすく、粒界相の数を減少させられるため、セラミック焼結体の絶縁耐圧がより高くなり、絶縁性能に対する信頼性をさらに高くすることができる。
【0076】
以上のような製造方法で得られたセラミック焼結体は、絶縁耐圧が低下する要因である、粒界相に残留する気孔の数および粒界相を構成するガラス(非晶質)成分が減少するため、セラミック焼結体の絶縁耐圧が高くなり、絶縁性能に対する信頼性が高いセラミック焼結体である。
【0077】
次に、本実施形態の放熱基体の製造方法について説明する。
【0078】
本実施形態の放熱基体10を得るには、まず、例えば、長さが30mm以上95mm以下、幅が10mm以上80mmmm、厚さが0.13mm以上0.64mm以下のセラミック焼結体からなる支持基板21を800℃以上900℃以下で熱処理することで、支持基板21の表面に付着した有機物や残留炭素を除去する。
【0079】
次に、熱処理した支持基板21の第1主面および第2主面上に、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf)およびニオブ(Nb)から選ばれる1種以上を含有するAg−Cu合金のペーストを、スクリーン印刷,ロールコーター法,刷毛塗り等で塗布し、120℃以上150℃以下で乾燥させることによって、金属層31,32を形成する。
【0080】
そして、主成分が金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種以上を含有し、後のエッチングにより回路部材41および放熱部材42となる金属箔をそれぞれ金属層31,32に接触配置して、真空雰囲気中、800℃以上900℃以下で加熱することにより、金属箔が金属層31,32を介して支持基板21に接合された接合体を得ることができる。
【0081】
次に、回路部材41,放熱部材42がたとえば1行2列,2行4列,3行2列,3行3列等の行列状の区分配置となるように、接合された金属箔の表面の一部にレジストを印刷して、120℃以上150℃以下でレジストを乾燥させる。レジストを乾燥させた後、硝弗硫酸,弗硝酸または塩酸等を用いて接合体をエッチングすることにより、レジストが印刷されていない部分の金属箔の表面から支持基板21に向かって、金属箔および金属層が除去される。その後、レジストをアルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液,水酸化カリウム水溶液等を用いて除去することで、本実施形態の放熱基体を得ることができる。
【0082】
なお、回路部材41の主成分が銅である場合、レジストを除去した後、銅の酸化を抑制するために回路部材41の表面をパラジウムを介してニッケルまたは金で被覆してもよい。
【0083】
放熱部材42の主成分が銅である場合についても、上述した理由と同じ理由により放熱部材42の表面をパラジウムを介してニッケルまたは金で被覆してもよい。
【0084】
あるいは、回路部材41や放熱部材42をニッケルまたは金で被覆せずに、これら部材の各表面を化学研磨した後、2−アミノピリジン、2−アミノキノリン、2−アミノピリミジン、6−アミノピリミジン、2−アミノピラジン、2−アミノキナゾリン、4−アミノキナゾリン、2−アミノキノキサリン、8−アミノプリン、2−アミノベンゾイミダゾール、アミノトリアジン、アミノトリアゾールおよびこれらの置換誘導体のうちの少なくとも1種を含む水溶液に浸漬処理することにより、酸化を抑制してもよい。
【0085】
以上のような製造方法で得られた放熱基体10は、銀および銅と、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上の成分とが支持基板21、回路部材41および放熱部材42の各主成分とよく濡れるため、支持基板21と、回路部材41および放熱部材42とが強固に密着されており、しかも、回路部材41,放熱部材42ともにその主成分が熱伝導率の高い成分であることから、回路部材41上に搭載した半導体素子等の電子部品から発熱した熱が拡散しやすいため、放熱特性の高い放熱基体とすることができる。
【0086】
また、本実施形態の電子装置は放熱基体上に各種の電子部品を配置したものであるが、特に耐久性の高い放熱基体10における回路部材41上に電子部品を搭載したことから、耐久性の高い電子装置とすることができる。
【0087】
以上述べたように、本実施形態の放熱基体10は、上述の通り耐久性が高いため、IGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)素子、MOSFET(金属酸化膜形電界効果トランジスタ)素子,LED(発光ダイオード)素子FWD(フリーホイーリングダイオード)素子,GTR(ジャイアント・トランジスター)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンターヘッド素子,サーマルインクジェットプリンターヘッド素子等の各種電子部品で発生した熱を長期間に亘って放熱効率をほとんど低下させずに用いることができる。
【実施例】
【0088】
<実施例1>
まず、窒化珪素質粉末のβ化率が40%以下であって、組成式Si6−ZAl8−Zにおける固溶量zが表1に示す値である窒化珪素質粉末、添加成分として酸化エルビウムからなる粉末および有機バインダを、純度が99質量%以上の窒化珪素質焼結体からなるメディアを用いて、振動ミルにより湿式混合し、粉砕してスラリーとした。
【0089】
ここで、添加成分である酸化エルビウムからなる粉末は、窒化珪素質粉末と酸化エルビウムからなる粉末の合計との総和100質量%に対して8質量%とし、有機バインダは窒化珪素質粉末100質量部に対して6質量部とした。
【0090】
次に、得られたスラリーを粒度200メッシュより細かいメッシュを通した後にスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥法により乾燥させて窒化珪素質顆粒を得た。
【0091】
そして、粉末圧延法を用いて窒化珪素質顆粒をシート状に成形してセラミックシートとし、このセラミックシートを所定の長さに切断してセラミック成形体を得た。
【0092】
このようにして得られた複数のセラミック成形体を焼成炉内に置かれた、純度が95質量%以上の窒化珪素質焼結体からなる焼成用容器内に配置し、焼成炉内の雰囲気を窒素雰囲気として、1970℃で40時間保持することで本実施例のセラミック焼結体を得た。
【0093】
なお、セラミック成形体を焼成炉内で設置するとき、シリコン(Si)と二酸化珪素(SiO)とからなり、そのモル比(Si:SiO)が1:1である混合粉末を成形した成形体も併せて焼成炉内に設置し、焼成用容器単位容積1cmに対する成形体の質量を表1に示した。
【0094】
そして、得られたセラミック焼結体から試料を切り出し、この試料を樹脂埋めした後、ダイヤモンドの砥粒を用いて研磨した。この研磨された断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率を3000倍として撮影した2次電子像の写真から面積が100μmの範囲を5箇所(写真の中央,右上,右下,左上および左下)選び、この5箇所の範囲に存在する粒界相の数をそれぞれ数え、最も多い粒界相の数を本実施例における粒界相の数とした。なお、粒界相の数は、上記2次電子像の写真において、窒化珪素を主成分とする複数の結晶粒子に囲まれ、他の粒界相と接していない部分を1個とした。
【0095】
セラミック焼結体における酸化アルミニウムの含有量は、ICP発光分析装置で測定することにより、Alの含有量を求め、この値を基に酸化物へ換算することにより、酸化アルミニウムの含有量を求めた。
【0096】
セラミック焼結体の絶縁破壊電圧はJIS C 2110−1994(IEC 60243:1967(MOD))に準拠して測定した。セラミック焼結体の厚み方向における熱伝導率はJIS R 1611−1997で規定されるレーザーフラッシュ法により、2次元法にて測定した。これら測定値を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
試料No.1〜8は、窒化珪素を主成分とし、希土類金属酸化物を含む粒界相を有してなり、任意の断面における面積が100μmの範囲で粒界相の数が42個以下であることから、試料No.9に比べ、絶縁破壊電圧,熱伝導率ともに高く、絶縁性能および放熱特性に優れていることがわかる。
【0099】
また、粒界相の数が41〜43個とほぼ同等である試料No.5〜8において、試料No.5〜7は、粒界相が実質的に酸化アルミニウムを含まないことから、試料No.8より絶縁破壊電圧が高く、絶縁性能に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0100】
1:結晶粒子
2:粒界相
10:放熱基体
21:支持基板
31,32:金属層
41:回路部材
42:放熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素質のセラミック焼結体において、窒化珪素を主成分とする複数の結晶粒子の間に、希土類金属酸化物を含む粒界相を有してなり、任意断面の100μmの領域内における前記粒界相の数が42個以下であることを特徴とするセラミック焼結体。
【請求項2】
前記粒界相は実質的に酸化アルミニウムを含まないことを特徴とする請求項1に記載のセラミック焼結体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセラミック焼結体からなる支持基板の第1主面側に回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなることを特徴とする放熱基体。
【請求項4】
前記回路部材および前記放熱部材の少なくとも一方と、前記支持基板との間に、金属層を設けてなり、前記金属層は、銀または銅を主成分とするとともに、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびニオブから選ばれる1種以上を含有し、前記回路部材および前記放熱部材は、主成分が金、銀、銅、ニッケルおよびコバルトから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の放熱基体。
【請求項5】
前記金属層は、モリブデン、タンタル、オスミウムおよびタングステンから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の放熱基体。
【請求項6】
前記金属層は、インジウム、錫およびアンチモンから選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項4または5に記載の放熱基体。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか記載の放熱基体における前記回路部材上に電子部品を搭載したことを特徴とする電子装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−235335(P2010−235335A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82541(P2009−82541)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】