説明

ターボ分子ポンプの電源装置

【課題】 新しいポンプ制御プログラムによるポンプ本体の制御に容易に対応することができるターボ分子ポンプの電源装置。
【解決手段】 CPU10で処理されるプログラムは、互いに独立した機種依存プログラム(ポンプ制御プログラム)とローダプログラムとから成る。機種依存プログラムは、励磁アンプ11およびインバータ12を制御するためのプログラムである。ローダプログラムは、不揮発性メモリ13に格納されている機種依存プログラムを通信ポート17を介してPCから送信された機種依存プログラムで書き換えるためのプログラムである。LCD/スイッチ15により書き換えモードに設定されると、機種依存プログラムの書き換えが行われる。同一の電源装置2であっても、機種依存プログラムの書き換えを行うことにより種々のポンプ本体1に対応することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプのポンプ本体を駆動制御する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプはポンプ本体と電源装置とそれらを接続するケーブルとで構成され、一般的に、ポンプ本体の排気速度の違いにより種々の機種を備えている。ポンプ本体を駆動制御する電源装置には電源とモータ駆動制御部とが設けられており、磁気軸受式ターボ分子の場合にはさらに磁気軸受駆動制御部を有している。
【0003】
ポンプ本体の基本構成、すなわち回転翼が設けられたロータを回転駆動するモータ、およびロータを磁気浮上させる磁気軸受は、機種が異なっていてもほとんど共通である場合が多い。そのため、電源装置に関しては、ハードウェアが共通で制御用のプログラムが機種毎に異なる場合が多く、電源装置共通化に関する様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、電源装置内の不揮発性メモリに機種毎の制御プログラムを複数格納しておき、接続されるポンプ本体の機種に応じて制御プログラムを選択して使用するという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、電源装置側に格納されていた制御パラメータを、ポンプ本体側に設けられた記憶部に記憶させておくような構成も提案されている(例えば、特許文献2参照)。その場合、ポンプ本体と電源装置とが接続されるとポンプ本体側から電源装置に制御パラメータが送信され、電源装置は送信された制御パラメータを用いてポンプ本体を駆動制御する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−148383号公報
【特許文献2】特開平10−103285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した第1の例では、電源装置供給の後に開発された新機種のターボ分子ポンプに関しては電源装置のメモリ内に制御プログラムが格納されていないので、対応することができない。また、機種が多数になると、全ての機種の制御プログラムを容量の限られたメモリに格納しきれないという問題が生じる。
【0008】
一方、第2の例の場合には、ポンプ本体側に記憶された制御パラメータにより制御が行われるので、電源装置は種々のポンプ本体に対応することができる。しかし、ターボ分子ポンプの場合、ポンプ使用環境等に応じて後から機能アップや変更などを行う場合がある。そのような機能アップは制御パラメータを含む制御プログラムの変更により行われるが、機能アップ前に供給されたポンプ本体に記憶されている制御パラメータは機能アップ前の古い制御パラメータであるため、機能アップが要求される環境で使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、ポンプ本体の機種および使用状況によって異なるポンプ制御プログラムと、ポンプ制御プログラムを書き換えるためのローダプログラムとが格納される書き換え可能なメモリと、ポンプ制御プログラムによりポンプ本体の駆動制御が実行される運転モードと、ローダプログラムによりメモリに格納されたポンプ制御プログラムの書き換え動作が実行される書き換えモードとを選択する選択手段と、外部装置からポンプ制御プログラムが入力される入力部と、書き換えモード時に、ローダプログラムに基づいて入力部を介して外部装置からポンプ制御プログラムを読み込み、メモリに格納されたポンプ制御プログラムを読み込まれたポンプ制御プログラムで書き換える書き換え手段とを備えたことを特徴とするターボ分子ポンプの電源装置。
請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプの電源装置において、ポンプ運転状況モニタ等に使用可能な汎用の通信ポートを備え、その通信ポートを入力手段として兼用して用いるようにしたものである。
請求項3の発明では、請求項1に記載のターボ分子ポンプの電源装置において、外部装置はポンプ制御プログラムが格納された記録媒体であって、入力部は記録媒体からのポンプ制御プログラムの読み取りを行う読み取り手段である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メモリに格納されたポンプ制御プログラムを読み込まれたポンプ制御プログラムで書き換える書き換えることにより、新しいポンプ制御プログラムによるポンプ本体の制御に容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明に電源装置の一実施の形態を示す図であり、磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示すブロック図である。ターボ分子ポンプは、ポンプ本体1と電源装置2とそれらを接続するケーブル3とで構成される。ポンプ本体1に設けられたロータ4は、電磁石5により非接触支持されるとともにモータ6により回転駆動される。ロータ4の浮上位置は変位センサ7(例えば、非接触式の磁気センサ)により検出され、回転数は回転数センサ8によって検出される。
【0012】
一方、電源装置2には、ターボ分子ポンプ駆動部9とターボ分子ポンプ駆動部9を制御するCPU10とが設けられている。ターボ分子ポンプ駆動部9には、電磁石5に励磁用電流を供給する励磁アンプ11とモータ6を駆動するインバータ12とが設けられている。変位センサ7および回転数センサ8からの信号はCPU10に入力され、CPU10はそれらの信号に基づいてターボ分子ポンプ駆動部9の励磁アンプ11およびインバータ12を制御する。
【0013】
CPU10には、不揮発性メモリ13、揮発性メモリ14、LCD/スイッチ15および通信ポート17が接続されている。不揮発性メモリ13は記憶データを電気的に書き換えが可能なメモリであって、本実施の形態ではCPU10で処理されるプログラムが格納される。CPU10で処理されるプログラムは互いに独立したローダプログラムと機種依存プログラム(ポンプ制御プログラム)とから成り、それぞれ別個に格納されている。一方、揮発性メモリ14は、データを一時的に記憶するために設けられたメモリである。LCD/スイッチ15はユーザインターフェースのために設けられた入出力部であり、ポンプ状態を表示するLCD表示装置と、電源のオンオフや後述する書き換えモードの指示を入力するためのスイッチなどが設けられている。
【0014】
電源装置2には外部の一次電源(不図示)からAC電力が入力され、そのAC電力は不図示のAC/DCコンバータによりDC電力に変換される。通信ポート17は外部装置と情報の授受をするために従来から設けられているものであり、本実施の形態ではPC(パーソナルコンピュータ)と接続してPCから書き換え用の機種依存プログラムを受信する。
【0015】
本実施の形態における機種依存プログラムは、励磁アンプ11およびインバータ12を駆動制御するための制御プログラムであり、各種制御パラメータを含んでいる。例えば、軸受制御に関する制御パラメータとしては、PID制御の比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲインや、浮上安定性のためのノッチフィルタやローパスフィルタのパラメータなどがある。また、インバータ制御に関するロータ回転時の定格回転数や、保護機能に関する過負荷や過電流についてのパラメータなどがある。さらに、ポンプ使用条件に応じて上記パラ制御メータが変更されたり、シーケンスが変更されたりする場合もある。
【0016】
図2は本実施の形態における機種依存プログラムの書き換え動作を説明するフローチャートであり、電源装置2のCPU10において実行される処理を示したものである。LCD/スイッチ15に設けられた書き換えモードスイッチを押しながら電源をオンすると、図2のフローチャートに示す処理がスタートする。
【0017】
ステップS1ではプログラム書き換え処理用のローダプログラムが起動する。なお、図3のステップS1からステップS7までの処理がローダプログラムによる処理を表しており、ステップS8は機種依存プログラムによる処理を表している。ステップS2では、書き換えモードスイッチが操作されたか否かを判定し、操作されたと判定されるとステップS3へ進み、操作されていないと判定されるとステップS7へ進む。
【0018】
まず、書き換えモードの場合について説明する。書き換えモードスイッチが操作された場合には、ステップS2からステップS3へ進んでLCD/スイッチ15のLCD表示部にプログラム書き換えモード状態であることを表示する。ステップS4は、PCからの機種依存プログラムを受信したか否かを判定するステップであり、機種依存プログラムが受信されるのを待つ。
【0019】
PCからの機種依存プログラムが受信されたならば、ステップS5に進んで不揮発性メモリ13に記憶されている機種依存プログラムを受信した機種依存プログラムで書き換える。なお、受信した機種依存プログラムは一旦揮発性メモリ14に格納され、その後、不揮発性メモリ13に記憶されている機種依存プログラムを、揮発性メモリ14に格納された機種依存プログラムに書き換える。
【0020】
書き換えが完了したらステップS6において書き換えが正常に行われたかチェックし、その結果をLCD/スイッチ15のLCD表示部に表示して一連の書き換え処理を終了する。例えば、LCD表示部に書き換え完了表示とともに書き換え後の機種依存プログラムの種類を表示する。
【0021】
書き換えが終了したならば電源をオフし、通信ポート17とPCとの接続を切り離す。そして、再び電源をオンすると、図2においてステップS1→ステップS2→ステップS7→ステップS8の順に処理が進んで、書き換えられた新しい機種依存プログラムによりポンプ運転が開始される。
【0022】
一方、書き換えモードスイッチが操作されずにステップS3からステップS7へ進んだ場合には、ステップS7においてローダプログラムの処理を終了して機種依存プログラムへとジャンプする。ステップS8では機種依存プログラムを起動してターボ分子ポンプの制御を開始する。すなわち、ロータ4を磁気浮上させて回転駆動を開始する。なお、書き換え完了後に、機種依存プログラムによるポンプ制御へとジャンプしても良い。
【0023】
図3,4は本実施の形態の変形例を示す図である。図3はターボ分子ポンプの概略構成を示すブロック図であり、図1と同一部分には同一符号を付した。以下では異なる部分について説明する。図1に示した実施の形態では通信ポート17に接続されたPCから機種依存プログラムを電源装置内に取り込んだが、図3に示す変形例では通信ポート17に代えてメモリカードインターフェース20を設けた。不揮発性メモリ13内の機種依存プログラムを書き換える場合には、このメモリカードインターフェース20に機種依存プログラムが記録されたメモリカード21を装着する。
【0024】
図4は変形例における機種依存プログラムの書き換え動作を説明するフローチャートであり、図2のフローチャートと同一処理のステップには同一符号を付した。ステップS1でローダプログラムを起動したならば、ステップS12においてメモリカードインターフェース20にメモリカード21が装着されているか否かを判定する。
【0025】
メモリカード21が装着されている場合には、ステップS12からステップS3へ進んで、LCD/スイッチ15のLCD表示部にプログラム書き換えモード状態であることを表示する。そして、ステップS14でメモリカード21から機種依存プログラムを読み込み、ステップS5において下記かを処理を行う。ステップS6の処理を終了したならば、電源をオフしてメモリカード21を外す。
【0026】
上述したように、本実施の形態の電源装置2では、通信ポート17に接続されたPCやメモリカードインタフェース20に装着されたメモリカード21から機種依存プログラムを読み込んで、電源装置2の不揮発性メモリ13に格納された機種依存プログラムを書き換えることができる。そのため、以下のような作用効果を奏することができる。
(a)同一のハードウェア構成であっても不揮発性メモリ13に格納される機種依存プログラムによって各機種のポンプ本体1に対応することができる。そのため、製造時においては、出荷直前に機種依存プログラムの設定をすれば良く、電源装置2の在庫を全ての機種に対して用意しておく必要がない。そのため、在庫数の低減を図れるとともに在庫管理が容易となる。
(b)ターボ分子ポンプを使用するフィールドにおいては、電源装置の機種を容易に変更できるため、故障時のバックアップとして用意する電源装置の種類を減らすことができる。そのため、ターボ分子ポンプ故障時に、取り付けられている半導体製造装置等のダウンタイムを短縮することができる。
(c)機種依存プログラムの最新版への更新がフィールドでも容易に可能となる。例えば、使用環境に対応させるためのパラメータ変更やシーケンス変更を行う場合、ポンプ本体1や制御装置2を半導体製造装置等から外さなくても、ポンプメーカから提供されたメモリカード21を装着するだけで変更が可能となる。一方、従来の技術で記載したポンプ本体側に制御パラメータを記憶させておく構成では、制御パラメータとポンプ本体が一対一で対応しているため、出荷後に機種依存プログラム更新版がリリースされた場合には対応ができない。
【0027】
上述した実施の形態では、制御プログラムを処理する演算装置としてCPUを例に説明したが、DSP等のマイクロプロセッサー全般に対して適用できる。また、書き換え可能な不揮発メモリ、揮発性メモリ14をCPU10と独立して設けたが、これらがCPU10に内蔵されていても良い。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0028】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、機種依存プログラムはポンプ制御プログラムを、CPU10は選択手段および書き換え手段を、通信ポート17およびメモリカードインターフェース20は入力部を、メモリカードインターフェース20は読み取り部を、メモリカード21は記録媒体をそれぞれ構成する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に電源装置の一実施の形態を示す図であり、磁気軸受式ターボ分子ポンプの概略構成を示すブロック図である。
【図2】機種依存プログラムの書き換え動作を説明するフローチャートである。
【図3】変形例を示すブロック図である。
【図4】図3に示した変形例における書き換え動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 ポンプ本体
2 電源装置
9 ターボ分子ポンプ駆動部
10 CPU
11 励磁アンプ
12 インバータ
13 不揮発性メモリ
14 揮発性メモリ
15 LCD/スイッチ
17 通信ポート
20 メモリカードインタフェース
21 メモリカード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体の機種および使用状況によって異なるポンプ制御プログラムと、前記ポンプ制御プログラムを書き換えるためのローダプログラムとが格納される書き換え可能なメモリと、
前記ポンプ制御プログラムにより前記ポンプ本体の駆動制御が実行される運転モードと、前記ローダプログラムにより前記メモリに格納されたポンプ制御プログラムの書き換え動作が実行される書き換えモードとを選択する選択手段と、
外部装置からポンプ制御プログラムが入力される入力部と、
前記書き換えモード時に、前記ローダプログラムに基づいて前記入力部を介して前記外部装置からポンプ制御プログラムを読み込み、前記メモリに格納されたポンプ制御プログラムを前記読み込まれたポンプ制御プログラムで書き換える書き換え手段とを備えたことを特徴とするターボ分子ポンプの電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプの電源装置において、
ポンプ運転状況モニタ等に使用可能な汎用の通信ポートを備え、その通信ポートを前記入力手段として兼用して用いることを特徴とするターボ分子ポンプの電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のターボ分子ポンプの電源装置において、
前記外部装置は前記ポンプ制御プログラムが格納された記録媒体であって、前記入力部は前記記録媒体からの前記ポンプ制御プログラムの読み取りを行う読み取り手段であることを特徴とするターボ分子ポンプの電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57547(P2006−57547A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240815(P2004−240815)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】