説明

ダイヤモンドの合成方法及びその装置

【課題】気相ダイヤモンドの合成反応における反応ガスの導入量を精密かつ容易に制御できる気相ダイヤモンドの合成方法および気相ダイヤモンドの合成反応に有用である酸素の導入量を精密かつ容易に制御できる気相ダイヤモンドの合成方法を提供すること。液体原料である有機溶媒等を霧化しその霧化状有機溶媒等と水素ガスとの反応ガスを調製することができる気相ダイヤモンドの合成装置を提供すること。
【解決手段】熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設してなる気相ダイヤモンドの合成装置を使用し、この合成装置の内部に水素ガスを充満すると共に前記液体原料制御供給部に有機溶媒等を供給し、該有機溶媒等を静電霧化器で霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製して気相ダイヤモンドの合成反応を行うことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの合成方法及びその装置に関する。より詳しくは、気相ダイヤモンドの合成反応における反応ガスの導入量を精密かつ容易に制御することができる気相ダイヤモンドの合成方法に関する。更には、ダイヤモンドの合成に有用な酸素の導入量を精密かつ容易に制御することができるダイヤモンドの合成方法に関する。また、液体原料である有機溶媒を霧化して、水素との反応ガスを調製することができる静電霧化器を内設した気相ダイヤモンドの合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成ダイヤモンドの製造や工具材料へのダイヤモンド被覆は、気体の熱分解や気体同士の反応により固体を析出させるいわゆる化学蒸着法(CVD法)によって行われている。具体的にはメタン等の炭化水素からなるガスを水素ガスに希釈して、反応ガスとし、これを反応系に導入してダイヤモンドを析出させるものである。
【0003】
ダイヤモンド被覆に代表される気体を原料ガスとしたダイヤモンド薄膜の製造は、原料ガスを励起、分解させて、ダイヤモンドを堆積させて製膜する。反応ガスの励起、分解の方法により、熱フィラメントCVD法、プラズマCVD法、光CVD法に分類されている。このうち、熱フィラメントCVD法は、高純度の膜形成が可能であること、使用装置構成がきわめて簡易、被覆性が良いなどの長所をもっている。(たとえば、非特許文献1参照)
【0004】
ダイヤモンドを気相合成する場合に、水素ガスに対する原料濃度がダイヤモンドの結晶性に大きく影響を与える。たとえば、メタンガスと水素ガスを気体原料とした場合には、原料濃度が5vol%以下のときは、ダイヤモンドが生成するが、5vol%を超えると黒鉛状の非ダイヤモンド炭素しか生成しない。すなわち、反応ガスの導入量を精密に制御し、その原料濃度決定することは非常に重要であることが理解できる。
【0005】
一方、プラズマCVD法によるダイヤモンド合成において、原料ガスとして上記混合気体に代えてメタノール、エタノール、エチレングリコールなどの炭素含有液体を使用することができることが報告されている。(例えば、特許文献1参照)
【0006】
ダイヤモンド被覆やダイヤモンド合成の製造コストを低減させるためには、ダイヤモンドの結晶析出速度を向上させることが必要となるが、上記メタンガスを水素ガスで希釈した混合ガスを反応ガスとする従来の熱フィラメント法の結晶析出速度は、高々、1ないし2μm/h程度であるため、その結晶析出速度はきわめて低い値となるのに対して、メタンなどの原料ガスの代わりに、その原料として有機溶媒などの液体原料を採択することにより、結晶析出速度を10ないし30μm/hに向上できることが報告されている
(例えば、特許文献2参照)
【0007】
このように原料として、有機溶媒などの液体原料を使用した場合に結晶析出速度が向上する反応機構(メカニズム)については解明されていないが、原料にメタンなどの気体原料を用いた場合に比べ、有機溶媒などの液体原料を用いた場合には、ダイヤモンドの結晶の成長に最も重要であると言われているメチルラジカルの解離エネルギーが極めて小さいことが原因であると推定されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
ダイヤモンドの気相合成方法において、その液体原料をフィラメント近傍で反応させ、基板上にダイヤモンドを堆積させるためには、まず液体原料を気化させ、反応ガスとし、これを反応室に導入する必要がある。ここで、液体原料を気化させる方法としては、ネブライザー(超音波噴霧装置)、バブラー、湯浴等の加熱装置を用いて、気化する方法がある。ここで、上記ネブライザー(超音波噴霧装置)を使用した場合には、超音波振動子の出力と霧化量を検量する必要があり、手間がかかり、直接的に反応ガスの導入量を制御することはできない。また、上記バブラー装置を使用した場合には、この装置は簡易ではあるが、有機溶媒の蒸気圧に温度が強く依存するため液体の温度を一定に保持する必要があり、特に、室温付近の温度を保つには、たとえば夏場は冷却、冬場は加熱というように室温に応じて冷却または加熱かを使い分ける必要があり、結局複雑な温度制御が必要となり、好ましくない。さらに、湯浴などの加熱装置を使用する場合には、室温より高い温度は比較的容易に保持できるが、低い温度はその保持、制御困難である。このため、液体原料として、沸点の低い有機溶媒を使用することはできず、高い沸点を有する有機溶媒しか使用できず、結局、使用できる有機溶媒が限定されてしまうという不具合が生じる。
【0009】
すなわち、従来の熱フィラメント式気相ダイヤモンドの合成装置を使用して、液体原料を供給した場合には、上記いずれの方法を採用しても、水素ガスに対する原料ガスの濃度を精密に制御するのは困難である。これは、液体を気化させるために、気体の導入量をその蒸気圧(温度)により制御しなくてはならないからである。
【0010】
一方、熱フィラメントCVD法における気相ダイヤモンドの合成において、気体原料に微量の酸素を含有させることによって、ダイヤモンド結晶成長速度を向上させることができると同時にグラファイト非ダイヤモンド炭素成分を減少させる効果が報告されている。
【0011】
上記微量の酸素を含有させる場合の酸素の役割については、(1)原料状水素が反応管の壁面に吸着して、再結合して水素分子になるのを防止する、(2)励起種との反応により原子状水素を生成する、(3)非ダイヤモンド炭素成分を除去することによりダイヤモンド生成サイトを増加させる、(4)ダイヤモンド成長表面のダングリングボンドを終端することによる表面を安定化させる、(5)成長表面上の炭素過飽和を促進させること等が提案されている。
【0012】
一方、気体原料に過剰の酸素を含有させた場合には、逆にダイヤモンド結晶成長速度が減少することが報告されている。これは、過剰な酸素により、析出ダイヤモンドがエッチングされるものと考えられる。
【0013】
気体原料に微量の酸素を含有させる方法としては、原料としてガスを使用する場合には、ガスに直接酸素ガスを供給する、原料ガスに一酸化炭素を使用する、原料ガスに水蒸気を加えることが報告され、原料として液体を使用する場合には、含酸素有機溶媒を使用することが報告されている。
【0014】
このような観点から考えると、化学蒸着法(CVD法)によるダイヤモンド合成やダイヤモンド被覆において、ダイヤモンド結晶速度を向上させ、かつその結晶性を向上させるためには、炭素供給原料として原料ガスに代えて、有機溶媒などの液体原料を使用し、これを霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製すること、および供給される液体原料から、反応ガスの導入量を精密に制御して、反応ガスに所定量の酸素を含有させることがきわめて有効である。
【0015】
上記のとおり、化学蒸着法(CVD法)によるダイヤモンド合成やダイヤモンド被覆を製造するに際して、原料に所定量の酸素を含有させることは、きわめて有用である。ここで、ダイヤモンドの原料として、液体原料を採択した場合と気体原料を採択した場合における供給量制御の容易性を比較すると、利便性の観点から、市販されているマスフローコントローラーを使用できる点において、気体原料を採択した方が供給量の制御が容易となる。
【0016】
しかしながら、気体原料を採択した場合に、その酸素供給源として、酸素を含む一酸化炭素を用いることが考えられるが、人体への有毒性を勘案すれば、好ましくはなく、また、直接酸素を用いることは、その使用上の観点から、有機溶媒や炭化水素や水素などの可燃性物質と混合させることも好ましくない。
【0017】
すなわち、ダイヤモンド合成に有用な酸素を反応系に導入するためには、安全性の面から酸素含有化合物である水を採択して、供給原料として有機溶媒と水との混合物を用いることが適切であると考えられる。ところが、液体A(有機溶媒)と液体B(水)をある比率にて混合させた場合、その混合溶液が気化して生じる気体の組成は、混合溶液の組成と等しくない。これは、液体A(有機溶媒)と液体B(水)の蒸気圧が異なるためである。そのため、従来使用されているような、混合溶液から液体原料をバブラー方式にて反応系に導入する際に液体の組成から気体の組成を決定するには、液体A(有機溶媒)と液体B(水)の蒸気圧の温度依存性から算出しなければならず、結局、反応系に導入される気体の組成を精密かつ容易に制御するのは困難となる。酸素供給源として有用な水と有機溶媒の混合物を液体原料として採用しても、酸素導入量は、算出して求めることが必要となる。
【0018】
このように、液体原料を使用した気相ダイヤモンドの合成方法において、反応ガスの導入量を制御し、かつ、水素に対する原料濃度を精密かつ容易に制御することは困難であった。また、反応ガスの導入量を制御し、上記原料濃度を制御し、かつ、ダイヤモンドの合成に有用な酸素を精密に制御して、反応ガスに所定量含有させることはきわめて困難であった。
【0019】
【非特許文献1】「人造ダイヤモンド技術ハンドブック」第2章190頁ないし第200頁)
【特許文献1】特開平06−009294号公報
【特許文献2】特開平10−167889号公報
【非特許文献2】広瀬洋一著、「表面」25(1987)734−743、同著「精密工学会誌」53(1987)5−8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶媒などの液体原料を霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製し、その導入量を精密かつ容易に制御することができる気相ダイヤモンドの合成方法を提供することにある。また、他の目的は、有機溶媒などの液体原料と水との混合液を霧化しその霧化状混合溶液と水素ガスとの反応ガスを調製し、ダイヤモンド合成に有用な酸素の導入量を精密かつ容易に制御することができる気相ダイヤモンドの合成方法を提供することにある。更に他の目的は、有機溶媒または有機溶媒と水との混合液を霧化しその霧化状有機溶媒等と水素ガスとの反応ガスを調製することができる気相ダイヤモンドの合成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
すなわち、本発明は、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設してなる気相ダイヤモンドの合成装置を使用し、この合成装置に水素ガスを充満すると共に前記液体原料制御供給部に有機溶媒を供給し、該有機溶媒を静電霧化器で霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製して気相ダイヤモンドの合成反応を行うことを特徴とする気相ダイヤモンドの合成方法に関する。また、本発明は、前記液体原料制御供給部に有機溶媒と水との混合液を供給し、該混合液を静電霧化器で霧化しその霧化状混合液と水素ガスとの反応ガスを調製して気相ダイヤモンドの合成反応を行うことを特徴とする気相ダイヤモンドの合成方法に関する。更に、本発明は、前記有機溶媒として、その導電率が、1.0×10−11(S/m)ないし1.0×10−2(S/m)であるアルカン、アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル、ケトンから選ばれる少なくとも1つ以上を使用することを特徴とする気相ダイヤモンドの合成方法に関する。また、本発明は、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液を霧化する静電霧化器を内設したことを特徴とする気相ダイヤモンドの合成装置に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機溶媒を霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製するので、その導入量を精密かつ容易に制御することができる気相ダイヤモンドの合成方法が提供される。有機溶媒の供給量は、液体原料制御供給部の供給ポンプによって精密かつ容易に制御できるため、反応ガスの量を精密かつ容易に制御することができ、この結果、水素ガスに対する原料ガス濃度の制御を行うことができる。また、本発明によれば、有機溶媒と水との混合液を霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製するので、ダイヤモンドの合成に有用な酸素の導入量を精密かつ容易に制御することができる気相ダイヤモンドの合成方法が提供される。なお、有機溶媒と水の混合液を使用することによって、フィラメントの触媒効果を維持することもできる。さらに、本発明によれば、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設することによって、有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液を霧化しその霧化状有機溶媒等と水素ガスとの反応ガスを調製することができる気相ダイヤモンドの合成装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明についての詳細について説明する。まず、本発明の気相ダイヤモンドの合成方法において使用される気相ダイヤモンドの合成装置について、図1に基づいて説明する。本発明で使用される気相ダイヤモンドの合成装置Dとは、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体25と、この内部に該本体25外部に設置した液体原料制御供給部1と連通する有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液を霧化する静電霧化器3を内設したことを特徴とする装置である。
【0024】
本発明の気相ダイヤモンドの合成装置の本体を構成する熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体25とは、図1に示されているように、石英ガラス製の反応室17から構成されるものであり、その内部には、ダイヤモンドが生成する基板8と基板8を支持する石英ガラス製セルが固定されているものである。
さらに、基板8の上約10mmの位置には、コイル状のタングステン熱フィラメント7(例えば、線型0.15mmΦ、コイル径:1.5mmΦ、巻き数20回)が張ってあり、基板8の下側に近接して、加熱用のヒーター9が設けられている。基板8は、ヒーター9とタングステン熱フィラメント7からの輻射熱により加熱されることとなる。また、基板8の温度を測定するために、基板8を支える石英ガラス製セルの外部側面には熱電対10が設けられている。
上記反応室17の上側部18には、水素ガス等の反応ガスを導入するための導入口11が、また、その下側部19には、気相ダイヤモンドの合成反応後の反応ガスを排出する排気口14が設けられている。なお、ヒーター9の温度は熱電対10により一定温度に保持されるものであり、熱フィラメント7は、導線28により電力調節器15に、ヒーター9は導線29により電力調節器16にそれぞれ接続されている。
【0025】
上記装置本体25の外部には、水素ガスを供給するためのボンベ13が設置されており、その供給量を測定するためのMFC(マスフローコントローラー)12が設けられている。
【0026】
本発明の気相ダイヤモンドの合成装置Dは、上記の装置本体25と、この内部に該本体25外部に設置した液体原料制御供給部1と連通する有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液を霧化するための静電霧化器3を備えたことを特徴とするものである。
【0027】
液体原料制御供給部1は、上記装置本体25の外部に設けられているものであり、気相ダイヤモンド合成反応において、ダイヤモンドの炭素源となる有機溶媒を静電霧化器3に供給する装置である。そして、液体原料制御供給部1は連結管22を介して装置本体25内部の静電霧化器3と連通している。
【0028】
さらに、静電霧化器3の下方には、絶縁管6に保持された環状の対極5が設けられている。静電霧化器3と対極5は、直流高圧電源4にそれぞれ接続されており、直流高圧電源4に電圧を印加することにより、静電霧化器3の下端のノズル23から噴出される有機溶媒が静電霧化することになる。なお、静電霧化器3の対極5側をアース(アース30)し、静電霧化器3及び対極5を導線31、導線32により直流高圧電源4と接続した。
【0029】
本発明の液体原料制御供給部1は、ダイヤモンドの炭素源となる有機溶媒等を定量的に本体内部の静電霧化器3に供給できるものであれば良く、特に限定されるものではないが、たとえばガラス製の目盛り付シリンジなどが好ましい。さらに、液体原料制御供給部1は有機溶媒を定量的に本体25内部の静電霧化器3に供給するための供給ポンプ2につないである。そして、供給ポンプ2によりその圧力を調整することによって、有機溶媒を定量的に静電霧化器3に供給することが可能となる。
【0030】
本発明の静電霧化器3は、液体原料制御供給部1から供給された有機溶媒等を霧状にして、これを水素ガスとの反応ガスにするためのノズルの役割を有するものである。その形状は、特に限定されるものではないが、反応室17に取り付け易いように、その本体部分を円筒状の形状とし、その下先端部をキャピラリーやニードル針などのノズル23構造とするのが好ましい。
【0031】
静電霧化器3の材質は、特に限定されるものではないが、供給される有機溶媒に溶解しなければ良く、たとえば、アルミニウム金属、ステンレス鋼金属などの金属、ガラスなどを用いることができる。また、適宜上記本体部分とその下部先端部に異なる材質を使用することもできる。
【0032】
本発明の静電霧化器3の下先端部(金属キャピラリーやニードル針など)の管径は、有機溶媒を霧化できるのに、十分な大きさであることが必要で、使用する有機溶媒の表面張力、粘度の観点から、このましくは、0.1mmないし1.0mm、更に好ましくは、0.2mmないし0.5mm、最も好ましくは、0.4mmである。
【0033】
静電霧化器3を熱フィラメント式気相ダイヤモンドの合成装置本体25の内部に取り付けるには、静電霧化器3が反応室17の上側部18の所定の位置に固定され、かつ、反応室17が密閉されることが必要であり、たとえば、コルク栓やゴム栓をジョイントとして使用し、これらを接続することができる。また、静電霧化器3の取り付け位置は限定されるものではないが、有機溶媒を霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスが、フィラメントに広く行きわたるように、熱フィラメント7の直上方部に設置するのが好ましい。
【0034】
静電霧化器3の下部先端部のノズル23と熱フィラメント7との距離は、ダイヤモンド合成やダイヤモンド被覆など必要に応じて適宜調整することができ、好ましくは、80mmないし150mm、更に好ましくは、100mmないし120mmである。なお、静電霧化器3は必ずしも1つに限定されるものではなく、気相ダイヤモンドの合成反応上、必要に応じて2つ以上取り付けることも可能である。
【0035】
次に、本発明の気相ダイヤモンドの合成装置Dを使用して気相ダイヤモンドの合成方法について説明する。石英ガラス製反応室17の内部のヒーター9上に基板8を設置した後、反応室17を密閉する。水素ガス導入口11より、水素ガスを導入し、反応室17内部全体を水素ガスで置換する。ヒーター9に電流を流し、基板8の温度を所定の温度まで加熱する。基板温度は熱電対10によって測定する。熱フィラメント7に電流を流し、その温度を2000ないし3000℃にまで加熱する。なお、熱フィラメント7の温度は、図には示されていないが、光温度計を用いて測定することもできる。
【0036】
静電霧化器3に直流高圧電源4より、高電圧を印加した後、液体原料制御供給部1の供給ポンプ2により有機溶媒を静電霧化器3に一定量供給する。有機溶媒は、静電霧化器3の本体部に供給され、その下端のノズル23を経由して噴出霧化した霧化状有機溶媒27aは、直ちに反応室17内に供給され、本体導入口11から導入された水素ガス24とともに反応ガス27となり、コイル状の熱フィラメント7の近傍まで運ばれる。この結果、反応ガス27中の霧化した有機溶媒は、速やかに気化し、熱フィラメント7の近傍で気相ダイヤモンドの合成反応が起こる。
【0037】
ダイヤモンド析出終了後は、液体原料制御供給部1からの有機溶媒の供給を止め、直流高圧電源4、熱フィラメント7、ヒーター9の順に電源を切る。その後、反応室17を冷却後、基板8を取り出し、合成したダイヤモンドを得る。
【0038】
本発明の気相ダイヤモンドの合成方法において、液体原料制御供給部に供給できる有機溶媒とは、ダイヤモンドの気相合成反応において、ダイヤモンドを構成する炭素源となるものであり、静電霧化できる有機溶媒であることが必要であり、その
導電率が、1.0×10−11(S/m)ないし1.0×10−2(S/m)であるアルカン、アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル、ケトンから選ばれる少なくとも1つ以上を使用することができる。有機溶媒の導電率が上記の条件を満たさない場合には、該有機溶媒を霧化することができないため、好ましくない。
【0039】
アルカンとしては、ペンタン、へキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどが挙げられる。
【0040】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル1−プロパノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル1−ブタノール、3−メチル1−ブタノール、2、2ジメチル1−プロパノールなどが挙げられる。
【0041】
エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、メチルn−プロピルエーテル、メチルi−イソプロピルエーテル、n−ブチルメチルエーテル、sec−ブチルメチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルn−プロピルエーテル、エチルi−プロピルエーテルが挙げられる。
【0042】
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸が挙げられる。
【0043】
エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、ギ酸i−プロピル、ギ酸sec−ブチル、ギ酸tert−ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピルエステル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸i−プロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸sec−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n−プロピル、酪酸i−プロピル、酪酸n−ブチル、酪酸sec−ブチル、酪酸tert−ブチル、酪酸、吉草酸メチル、吉草酸エチル、吉草酸n−プロピル、吉草酸i−プロピル、吉草酸n−ブチル、吉草酸sec−ブチル、吉草酸tert−ブチルなどが挙げられる。
【0044】
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジエチルケトンが挙げられる。また、必要に応じて、上記の有機溶媒から二種類以上を採択して混合溶液として使用することもできる。
【0045】
上記有機溶媒を静電霧化器3で霧化するとは、静電霧化器3の先端部における液滴の静電的反発力による静電霧化現象を利用して、有機溶媒を細かい霧状にするものである。ここで、静電霧化現象とは、液体に電圧を印加することにより、液滴表面の電界が大きくなり、液滴表面に働く静電気力によって、電気流体力学的に不安定になり、液滴が多数の液滴微粒子や噴霧を発生することをいう。液体に電圧を印加した結果、その液体は、その粒子半径を2.0μmないし5.0μmの微粒子の状態で存在することとなる。
【0046】
有機溶媒を霧化するために、静電霧化器3に印加することができる電圧は、好ましくは−15ないし−1kv、さらに好ましくは、−10ないし−5kvである。上記範囲を超える電圧を印加しても、コロナ放電などの現象が起きてしまい、静電霧化現象が起こらず霧化することができないため好ましくない。
【0047】
本発明において、有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液が供給された静電霧化器3に電圧を印加すると上記の静電霧化現象により霧化する。そして、霧化した微粒子状の液体原料は、装置本体25の導入口11から一定量導入された水素ガス24と混合し、反応ガス27となる。その後、ガス量が調製された反応ガス27は、熱フィラメント7の近傍まで運ばれ、速やかに気化し、ダイヤモンドの気相合成反応が起こる。
【0048】
ダイヤモンドの気相合成反応とは、メタン等の炭素源と水素ガスとが反応して、ダイヤモンドが生成する反応をいう。フィラメント近傍付近での実際の反応の詳細については明らかではないが、水素ガスはフィラメント表面で解離して原子状の水素原子となり、その水素原子がメタンなどの炭素源と反応して、ラジカル種が発生し、ダイヤモンドが生成するものである。
【0049】
本発明の気相ダイヤモンドの合成方法において、反応室17に導入される反応ガスの導入量(水素ガスに対する原料濃度)が供給される液体原料の供給量を調整することによって制御できることは次の理由による。すなわち、バブラー方式に代表されるように、従来の液体原料をあらかじめ気体とする方式による場合は、使用する液体原料の蒸気圧により、気体となる物質量が決定されるため、液体供給量は、反応ガスの導入量とはならない。一方、本発明の装置を使用して、液体原料を霧化して、反応ガスとする場合には、反応室に導入される有機溶媒は、微粒子状の液体である。つまり、有機溶媒の状態は、液体であるので、液体が気化するに際して、その蒸気圧に依存することはなく、水素ガスと混合し、反応ガスとなり、熱フィラメント近傍まで運ばれ、速やかに気化することなる。したがって、液体原料制御供給部の有機溶媒の供給量を定めることにより、反応ガス導入量を精密かつ容易に制御することができる。
【0050】
たとえば、エタノールを有機溶媒として使用し、本発明の気相ダイヤモンドの合成装置により、ダイヤモンドを合成する場合は、エタノールは霧化され、微粒子状の液体で存在する。ここで、15℃でのエタノールの密度は0.7936g/cm3であり、25℃でのエタノールの密度は0.7850g/cm3であるから、その物質量の誤差は高々1%程度となる。したがって、液体供給量の濃度と液体原料が霧化した反応ガスの導入量は、ほぼ等しいこととなる。
一方、エタノールを有機溶媒として使用し、あらかじめエタノールを気化する場合には、その蒸気圧により、15℃における蒸気圧は、32.4mmHgであるのに対して、25℃における蒸気圧は59.2mmHgである。これらの値から、気体のエタノールの物質量を算出すると、その誤差は45%となる。
【0051】
本発明の気相ダイヤモンドの合成方法は、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に配置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設した気相ダイヤモンドの合成装置Dを使用しているので、有機溶媒などの液体原料を霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製し、その供給量を精密かつ容易に制御して気相ダイヤモンドの合成反応を行うことができるものである。
【0052】
また、本発明の気相ダイヤモンドの合成方法は、液体原料制御供給部に有機溶媒と水との混合液を供給し、この混合液を静電霧化器により霧化しその霧化状混合溶液と水素ガスとの反応ガスを調製し、酸素供給源である水から発生するダイヤモンド合成に有用な酸素の導入量を精密かつ容易に制御し、気相ダイヤモンドの合成反応を行うことができるものである。
【0053】
(製造例)
気相ダイヤモンドの合成装置の製造
(1)静電霧化器の製造
ステンレス製の皮下用注射針(製品名「1/4皮下用注射針」、外径0.4mm−内径0.2mm)を静電霧化器の先端部のキャピラリーとし、これを静電霧化器の本体として使用する長さ15cmのステンレス製管(外径3.18mm−内径1.59mm)の一端に銀ロウ付けした。この静電霧化器のステンレス本体に直流高電圧発生装置(松定プレシジョン製HCZE-30PNO.25)の高電圧印加端子を取り付け、静電霧化器を製造した。
(2)静電霧化器の装置本体への取り付け
熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体として、長さ250mm、外径57mm、肉厚2.5mmの円筒状の石英ガラス管の両端を、シリコンゴム栓(no.25)を密閉して反応室とし、シリコンゴム栓の両端をボルトとナットを用いてエポキシガラス製のベーグ積層板で押さえつけ、反応室の気密性を保った。
本体装置内部の反応室内部の熱フィラメントには、直径0.15mmのタングステン線(ニラコ社製)を使用し、1. 0mmのステンレス棒に巻きつけることによってらせん状のフィラメントとした。フィラメントの巻き数は、14巻/cmとした。このフィラメントは、直径1.0mmの二本のタングステン棒に引っ掛けることにより保持した。上記二本のタングステン棒間の距離は、4.0mmとした。
基板加熱用のヒーターには、直径0.3mmのモリブデン線(ニラコ社製)
を使用した。基板は、直接的にこのモリブデンのヒーターの上に載せられるため、角形らせん状に成形した。なお、モリブデンヒーターはステンレス棒で支持した。
【0054】
熱電対には、K熱電対を使用し、この熱電対は下部シリコンゴム栓により反応室内に挿入され、その先端が基板の裏背面に触れるように設置した。フィラメントとモリブデン製基板ヒーターへの電力調整には、スライダックを使用した。
本体装置の水素ガス導入口には石英ガラス製管を使用し、この石英ガラス製管をシリコンゴム栓に貫通させ、反応室上部に固定した。
水素ガスは、この水素ガス導入口を通じて反応室上部より供給され、霧化状有機溶媒と反応ガスを形成し、熱フィラメント上でダイヤモンドの気相合成反応に関与した後、反応室下部のシリコンゴム栓に取り付けられた排気口よりドラフト内に排気されることなる。なお、水素ガスの流量制御には、マスフローコントローラー(コフロック社製)を使用した。
なお、水素ガスボンベからマスフローコントローラーまではステンレス管で接続し、マスフローコントローラーから水素ガス導入管までの接続は、タイゴンチューブR−3603を用いた。
液体原料制御供給部には、硬質ガラス製のシリンジを使用し、これをアクリルの台座に設置した。さらに、モーター(オリエンタルモータ社製)設け、シリンジのプランジャーを一定速度で押すことにより、静電霧化器に有機溶媒を供給した。硬質ガラス製シリンジの先端と静電霧化器を本体部のステンレス管とを直径3.0mmテフロン(登録商標)チューブを用いて連結した。
【0055】
次に、本体反応室上部断面に、所定の半径の穴を開け、シリコンゴムに貫通させた上記静電霧化器をシリコンゴム部分の位置で装置本体に固定した。静電霧化器のステンレス製キャピラリーに対する、対極には直径1mmの銅線を使用し、その先端部をリング状(半径35mm)に成形した。静電霧化器の先端部の金属キャピラリーと対極の距離は50mmとした。なお、対極のリング部以外は、リング部とキャピラリー間で適宜高電圧が印加されるように絶縁性の石英ガラスで覆った。上記シリコンゴム栓を貫通した静電霧化器に反応室外部より高電圧を印加するために、装置本体外部の静電霧化器本体部及びその対極を金属製クリップ(図示されていない)で挟み、本発明の装置を製造した。
【実施例】
【0056】
以下、上記製造例の気相ダイヤモンドの合成装置を使用した実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限を受けるものではない。なお、本発明で得られたダイヤモンドの生成の確認及び物性の評価は以下の方法にて行った。
【0057】
(1)ラマン分光法による測定
ダイヤモンド析出の確認は、ラマン分光法により行った。測定装置には、日本分光社製レーザーラマン分光光度計NRS−2100を使用した。励起光として、Arレーザーを使用し、その波長は514.5nmとした。すべての測定は顕微ラマンモードで行った。レーザー出力は50mWとし、露光時間は10秒とし、得られた信号を三回積算した。なお、ダイヤモンド析出時の原料濃度は、一定量の水素ガスの流量(100sccm)に対して、液体原料制御供給部の有機溶媒の供給体積を調整設定し、以下の数式により算出した。
原料濃度(vol%)
=(送液速度)×(原料液体の密度)/(原料液体の物質量)/(水素流量)×100
【0058】
ダイヤモンドの膜厚測定および結晶析出速度の算出
ダイヤモンドの膜厚は、析出ダイヤモンド膜の破断面観察と、光学顕微鏡観察により行った。光学顕微鏡観察は、ニコン社製(商品名:Optilex)により行い、これら二つの観察結果から、ダイヤモンド膜厚を算出した。上記光学顕微鏡を使用した観察では、ダイヤモンドの膜上部と基板表面のそれぞれにフォーカスを合わせて、その際のステージの移動距離からダイヤモンドの膜厚を算出する。この場合において、ステージ移動微動つまみに付与されている1目盛りが1μmに相当するため、0.1μmの精度でダイヤモンドの膜厚が測定できる。なお、結晶析出速度は、上記測定結果より得られたダイヤモンドの膜厚を析出時間で割った値とした。
【0059】
(3)ダイヤモンドの性状の観察等
ダイヤモンドの性状および気相ダイヤモンドの合成を行った後のフィラメントの表面は、上記光学顕微鏡観察で使用した機器(ニコン社製Optilex)と走査型電子顕微鏡(日本フィリップス社製XL−30)により観察した。特に、高倍率を要する詳細な観察には、主に上記走査型電子顕微鏡(日本フィリップス社製XL−30)を使用した。操作方法は、アルミニウム製の走査型電子顕微鏡用ホルダー上にカーボン導電テープで合成したダイヤモンドの試料を固定して、上から金スパッタによりコーティングした。加速電圧を5kVとし、倍率は適宜調整した。
【0060】
結晶化度の算出
ダイヤモンドの結晶化度は、ラマン分光分析のFWHM(半値幅:cm−1)をそのラマン分光スペクトルチャートより調べることによって算出した。
【0061】
実施例1
酢酸メチルを用いたダイヤモンドの合成
液体原料として、酢酸メチルを使用し、本発明の気相ダイヤモンドの合成装置を使用して、ダイヤモンドを合成した。基板には、10mm×20mmに切り出した、厚さ0.4mmのシリコンウェハーを使用した。
なお、基板の処理は、特に行わなかった。熱フィラメントには、線径0.15mmのタングステン線を使用し、ヒーターには、線径0.3mmのモリブデン線を使用した。なお、水素ガスの流量は、100sccmに設定した。
原料ガスの供給量は、水素ガスに対して所定の濃度となるように、供給ポンプ2の送液速度を制御することにより行った。熱電対で測定した基板背板の温度が750ないし850℃となるようにヒーターで加熱調整した。熱フィラメントが点灯すると輻射熱により、ヒーターで設定したよりも、温度が上昇するので、ヒーターの電力を調整して常に800℃に保持した。熱フィラメントの温度は1950ないし2050℃とし、その温度測定には二色温度計(チノー社製・製品名IR-CAQ)を使用した。
フィラメントと基板の距離は、0.5mmとし、静電噴霧印加電圧は、−10ないし−8kv、析出時間は2.0時間、反応室の圧力は大気圧(760torr)とした。酢酸メチルの原料供給量は、シリンジ圧をモーターで調整し、1.0ml/hとした。析出時間2.0時間経過後、酢酸メチルの供給を停止し、各電源を切り、反応室を冷却後、基板を取り出し、合成ダイヤモンドを得た。
【0062】
ダイヤモンドの析出が確認された原料濃度を測定したところ、5.0ないし7.0vol%であった。結果を表1に示す。また、ダイヤモンドの性状を観察したところ、粒子状であった。
【0063】
次に、合成したダイヤモンドのラマン分光測定をしたところダイヤモンド炭素成分の析出に起因する1333cm−1に明瞭なピークが確認された。そのラマン分光スペクトルチャートを図2に示す。
【0064】
実施例2ないし実施例9
各種有機溶媒を使用したダイヤモンドの合成
液体原料として、表1に示した各種有機溶媒を使用する以外は、実施例1と同様にダイヤモンドの合成を行った。同様に、ダイヤモンドの析出が確認された原料濃度を表1に、ラマン分光スペクトルチャートを図2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1によれば、ダイヤモンド合成液体原料として、その蒸気圧などの溶媒の物性を全く考慮する必要がなく、各種の広範囲の有機溶媒を使用でき、しかも、有機溶媒を霧化しその霧化有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製しているので、液体原料の供給量から反応ガスの導入量が精密かつ容易に制御できる。気相ダイヤモンド合成方法において、液体原料の蒸気圧によらず、液体を気化することができるので、液体原料の選択性の幅が広がった。
【0067】
図2によれば、各種有機溶媒を使用してダイヤモンドを合成したいずれの場合にもダイヤモンド炭素成分の析出に起因する1333cm−1に明瞭なピークが確認された。各種広範囲の有機溶媒を使用して、結晶性の良いダイヤモンドが合成することができた。
【0068】
実施例10ないし実施例16
エタノールと水との混合液を使用したダイヤモンドの合成
次に、エタノールと水(酸素供給源)の混合液を使用し、水の添加量を変化させることにより、気相ダイヤモンドの合成における酸素の添加効果を調べた。液体原料として、エタノールと水との混合液を使用したこと及び基板のダイヤモンドスラリー中での超音波処理(前処理)を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
なお、エタノールと水との混合液は、液体原料の全供給量を1.0mlとし、そのエタノールと水の混合比(体積)を変化させた。あわせて、ダイヤモンドの合成後のフィラメントの状態についても観察した。ダイヤモンドを合成した結果を表2に、ラマン分光スペクトルチャートを図3に、ダイヤモンドの合成後(実施例14)のフィラメントの電子顕微鏡写真を図5に、その要部の拡大電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
比較例1ないし比較例7
水の添加効果の確認
実施例10ないし実施例16において、水を添加しないで、エタノールのみを液体原料として使用し、ダイヤモンド合成を行った。エタノールのみを使用した以外は、実施例10と同様の条件で行った。ダイヤモンドを合成した結果を表3に、ラマン分光スペクトルのチャートを図4に、ダイヤモンドの合成後(比較例5)のフィラメントの電子顕微鏡写真を図7に、その要部の拡大電子顕微鏡写真を図8に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
図3によれば、水の添加量の増加に伴い、ダイヤモンド炭素成分の析出に起因する1333cm−1のピークが徐々に鋭くなる一方、1580cm−1付近の非ダイヤモンド炭素成分の析出に起因するブロードなピークが減少されることが確認された。一方、図4によれば、液体原料に水を添加しない場合には、1580cm−1付近の非ダイヤモンド炭素成分由来のブロードなピークが残っていることが確認された。すなわち、エタノールに所定量の水を添加し霧化しその霧化状混合液と水素ガスとの反応ガスを調製することによって、微量の酸素を原料ガスに導入することができ、ダイヤモンドの結晶性を向上させることができる。
【0073】
また、図5は、実施例14(エタノール0.6ml:水0.4ml)においてダイヤモンドを合成した後のフィラメントの電子顕微鏡写真で、図6はその要部の拡大図である。これら図5、6によれば、フィラメント表面に黒鉛状炭素などの非ダイヤモンド成分の析出は、ほとんど見られずフィラメント表面は清浄であることがわかる。
一方、図7は、比較例5(エタノール0.6ml)においてダイヤモンドを合成した後のフィラメントの電子顕微鏡写真で、図8はその要部の拡大図である。図8を見ると明らかなように、水を添加しない場合はフィラメント表面に黒鉛状炭素等の非ダイヤモンド成分の析出が見られる。すなわち、水を添加することにより、フィラメント表面への非ダイヤモンド成分の析出を抑制できることが明らかとなった。
【0074】
比較例8
静電霧化器設置の効果
本発明の気相ダイヤモンドの合成装置Dにおいて、熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設した装置を使用し、有機溶媒を霧化する効果を確認するために、静電霧化器3に電圧を印加しないで、実施例1と同様に気相ダイヤモンドの合成を行った。静電霧化器3に電圧を印加しない以外は実施例1と同様の条件で行った。静電霧化器3の下端のノズルから有機溶媒の液滴が垂れ、そのまま真下に落下して、熱フィラメント7に当たり、これによって、熱フィラメント7の断線をもたらした。この結果、基板上にはスス状の炭素しか析出せず、ダイヤモンドを合成することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のダイヤモンドの合成方法は、半導体などの電子材料に使用される気相ダイヤモンドの合成に使用することが出来ることは勿論、炭化タングステン、サイアロンなどの各種工具材料へのダイヤモンド被覆に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施例および比較例で用いた気相ダイヤモンドの合成装置の概略図を示す。
【図2】実施例1ないし実施例9における各種有機溶媒を使用して得られたダイヤモンドのレーザーラマン分光スペクトルの測定結果のチャートを示す。
【図3】実施例10ないし16における有機溶媒と水との混合液として、エタノールと水の混合液を使用して得られたダイヤモンドのレーザーラマン分光スペクトルの測定結果のチャートを示す。
【図4】比較例1ないし7における有機溶媒として、エタノールのみを使用して得られたダイヤモンドのレーザーラマン分光スペクトルの測定結果のチャートを示す。
【図5】実施例14において、ダイヤモンドを合成した後のフィラメントの電子顕微鏡写真である。
【図6】図5要部の拡大電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例5において、ダイヤモンドを合成した後のフィラメントの電子顕微鏡写真である。
【図8】図7要部の拡大電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0077】
1 液体原料制御供給部
2 供給ポンプ
3 静電霧化器
4 高圧電源
5 環状対極
6 絶縁管
7 熱フィラメント
8 基板
9 ヒーター
10 熱電対
11 水素ガス導入口
12 マスフローコントローラー
13 ガスボンベ
14 排気口
15 電力調節器
16 電力調節器
17 反応室
18 反応室上側部
19 反応室下側部
20 導線支持体
21 導線支持体
22 連結管
23 ノズル
24 水素ガス
25 合成装置本体
26 ガス管
27 反応ガス
27a 霧化状有機溶媒
28 導線
29 導線
30 アース
31 導線
32 導線
D 本発明の合成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する静電霧化器を内設してなる気相ダイヤモンドの合成装置を使用し、この合成装置の内部に水素ガスを充満すると共に前記液体原料制御供給部に有機溶媒を供給し、該有機溶媒を静電霧化器で霧化しその霧化状有機溶媒と水素ガスとの反応ガスを調製して気相ダイヤモンドの合成反応を行うことを特徴とする気相ダイヤモンドの合成方法。
【請求項2】
液体原料制御供給部に有機溶媒と水との混合液を供給し、該混合液を静電霧化器で霧化しその霧化状混合液と水素ガスとの反応ガスを調製することを特徴とする請求項1記載の気相ダイヤモンドの合成方法。
【請求項3】
有機溶媒として、その導電率が、1.0×10−11(S/m)ないし1.0×10−2(S/m)であるアルカン、アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル、ケトンから選ばれる少なくとも1つ以上を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の気相ダイヤモンドの合成方法。
【請求項4】
熱フィラメント式ダイヤモンドの合成装置本体と、この内部に該本体外部に設置した液体原料制御供給部と連通する有機溶媒または該有機溶媒と水との混合液を霧化する静電霧化器を内設したことを特徴とする気相ダイヤモンドの合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−56744(P2006−56744A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240050(P2004−240050)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月22日 社団法人日本セラミック協会発行の「日本セラミック学会春季年会講演予稿集」に発表
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】