説明

ダイヤモンド電子素子の製造方法

【課題】リーク電流を抑制でき、かつ絶縁耐圧を十分に確保可能なダイヤモンド電子素子を得ることができるダイヤモンド電子素子の製造方法を提供する。
【解決手段】このダイヤモンド電子素子の製造方法では、Pダイヤモンド半導体層11の形成の際、ダイヤモンド基板10の一面10側に存在する結晶欠陥の核となるサイトをホウ素によって終端させることができる。これにより、Pダイヤモンド半導体層11及びPダイヤモンド半導体層12への欠陥の伝播が抑制されるので、ヒロック密度や異常粒子密度を低くでき、ショットキー障壁のレベルよりも低いレベルでのリーク電流の発生を抑止できる。また、電界の集中による絶縁破壊の発生も回避できる。また、Pダイヤモンド半導体層12のホウ素密度を抑えることで、逆電圧を印加したときのキャリアの移動速度が高められ、絶縁破壊のより確実な回避が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキー接合を用いたダイヤモンド電子素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショットキー接合を用いたダイオードやトランジスタなどの電子素子は、大電力用の電子素子として応用が期待されている。従来用いられていたシリコンによる電子素子は、バンドギャップ幅が十分でなく、通電時の発熱によって損失の増加や誤動作が生じることがあった。その後、シリコンよりもバンドギャップの大きいシリコンカーバイドやチッ化ガリウムによる電子素子の開発が進んでいるが、年々厳しさを増す使用環境下では、リーク電流に起因する損失の増加が看過できないレベルになってきている。そこで、近年では、バンドギャップが更に大きいダイヤモンドによる電子素子の開発が進められている(例えば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】H. Shiomi et al. Diamond Films andTechnology. Vol. 6, No.2 (1996),p95-120
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ダイヤモンドによる電子素子においても、実際にはリーク電流の低減が十分なものではなかった。この原因としては、ダイヤモンド半導体層中の欠陥等に起因する欠陥準位によって、本来のショットキー障壁のレベルよりも低いレベルでリーク電流が発生することが挙げられる。また、近年では、1kVを超えるような高い電圧が電子素子に印加される場合もある。この場合、ダイヤモンド半導体層の表面のわずかなヒロック(成長丘)にも電界が集中することで、絶縁破壊が発生することもあり得る。
【0004】
かかる絶縁破壊の発生を回避するために、ショットキー電極層を形成するダイヤモンド半導体層中のアクセプタ濃度を小さくし、素子にかかる電界を小さくする方法が提案されてきた。しかしながら、このような方法においては、アクセプタ濃度を下げるために導入したガスによってダイヤモンド半導体層のモーフォロジーが悪化し、異常粒子の密度が高くなってしまうという問題があった。そのため、異常粒子の存在する部分が、新たにリーク電流の発生要因となってしまっていた。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、リーク電流を抑制でき、かつ絶縁耐圧を十分に確保可能なダイヤモンド電子素子を得ることができるダイヤモンド電子素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係るダイヤモンド電子素子の製造方法は、ダイヤモンド基板の一面に、ホウ素濃度が1×1019cm−3以上のPダイヤモンド半導体層と、ホウ素濃度が1×1016cm−3以下のPダイヤモンド半導体層とを気相合成法を用いて順次積層する工程と、Pダイヤモンド半導体層上に、ショットキー電極層をパターン形成する工程とを備えたことを特徴としている。
【0007】
このダイヤモンド電子素子の製造方法では、Pダイヤモンド半導体層の形成の際に、ダイヤモンド基板の一面側に存在する転位や積層欠陥といった結晶欠陥の核となるサイトをホウ素によって終端させることができる。これにより、Pダイヤモンド半導体層及びPダイヤモンド半導体層への欠陥の伝播が抑制されるので、各ダイヤモンド半導体層の表面でのヒロック密度や異常粒子密度を低くすることが可能となり、ショットキー障壁のレベルよりも低いレベルでのリーク電流の発生を抑止でき、電界の集中による絶縁破壊も回避できる。また、pダイヤモンド半導体層のホウ素密度を抑えることで、逆電圧を印加したときのキャリアの移動速度が高められ、絶縁破壊のより確実な回避が実現される。
【0008】
また、ダイヤモンド基板は、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向±10°の方向に向かって1.5°〜10°の範囲で傾いていることが好ましい。この場合、Pダイヤモンド半導体層の表面原子のダイマー列が直線的に伸びてステップフロー成長が優勢となるため、ヒロック密度や異常粒子密度を更に低くすることができる。
【0009】
また、ダイヤモンド基板は、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<100>方向±10°の方向に向かって1.5°〜10°の範囲で傾いていることが好ましい。各ダイヤモンド半導体層の成長時に発生するヒロックや異常粒子は、<100>方向に伸びやすい傾向がある。そこで、ダイヤモンド基板におけるダイヤモンド単結晶の面方向を上述のように傾けることで、ヒロックや異常粒子の伸び方向を制御でき、各ダイヤモンド半導体層におけるヒロックや異常粒子の高さを抑えることが可能となる。
【0010】
また、ダイヤモンド基板は、ショットキー電極層の形成位置に種結晶及び成長セクタの境界部分が存在しない高圧合成基板であることが好ましい。転位の存在するダイヤモンド層は、欠陥準位が多いため、リーク電流や絶縁破壊の原因となる。そのため、これらの転位密度の大きい部分を除去することで、好適なショットキー接合が得られる。
【0011】
また、Pダイヤモンド半導体層の積層に先立って、ダイヤモンド基板の一面をドライエッチングすることが好ましい。これにより、ダイヤモンド基板の一面に存在する結晶欠陥や研磨傷などを予め除去できるので、各ダイヤモンド半導体層への欠陥の伝播をより確実に抑制できる。
【0012】
また、初期圧力60Torr以下、ダイヤモンド基板の温度800℃以下、反応ガス中のメタン濃度0.5%〜5%、及び反応ガス中の炭素に対するホウ素の元素組成率0.1%〜50%の条件下で、Pダイヤモンド半導体層を気相合成することが好ましい。このような条件を用いることにより、Pダイヤモンド半導体層の表面の平坦性を確保できる。
【0013】
また、マイクロ波パワー2kW以上、プラズマ密度10W/cm以上、反応ガス中のメタン濃度2%〜10%、及び反応ガス中の炭素に対する酸素の元素組成率10%〜50%の条件下で、Pダイヤモンド半導体層を気相合成することが好ましい。このような条件を用いることにより、Pダイヤモンド半導体層の表面の平坦性を確保できる。
【0014】
また、プラズマ中のHα発光強度に対するC発光強度の比が0.2以上となる条件下で、Pダイヤモンド半導体層を気相合成することが好ましい。この場合、Pダイヤモンド半導体層の表面の平坦性を一層確保できる。
【0015】
また、ショットキー電極層の面積が4mm以上であることが好ましい。
上述のように、各ダイヤモンド半導体層の結晶欠陥を抑制することにより、1kVを超えるような高い電圧を印加する場合であっても、損失の小さいショットキー特性が得られる。
【0016】
また、pダイヤモンド半導体層の膜厚が10μm以上であることが好ましい。この場合、1kV以上の高耐圧のショットキー特性が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るダイヤモンド電子素子の製造方法によれば、リーク電流を抑制でき、かつ絶縁耐圧を十分に確保可能なダイヤモンド電子素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るダイヤモンド電子素子の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るダイヤモンド電子素子の製造方法を適用して作製されたダイヤモンド電子素子の構成を示す図である。同図に示すように、ダイヤモンド電子素子1は、ダイヤモンド基板10と、Pダイヤモンド半導体層11と、Pダイヤモンド半導体層12と、オーミック電極層13,13と、ショットキー電極層14,14とを備えた、いわゆるショットキー型ダイオードである。
【0020】
ダイヤモンド基板10は、ダイヤモンド単結晶からなる高圧合成基板である。ダイヤモンド基板10は、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+4.3°の方向に向かって約2.1°傾いている。
【0021】
ダイヤモンド半導体層11及びPダイヤモンド半導体層12は、マイクロ波プラズマCVD装置を用いた気相合成法によって、ダイヤモンド基板の一面10aに順次形成されている。Pダイヤモンド半導体層11の厚さは、例えば1μmとなっている。また、Pダイヤモンド半導体層11中のホウ素濃度は、1×1019cm−3以上となっている。これにより、ダイヤモンド基板10の一面10aにおける結晶欠陥のPダイヤモンド半導体層11への伝播の抑制と、ダイヤモンド電子素子1のON抵抗の低減とが図られている。
【0022】
一方、Pダイヤモンド半導体層12の厚さは、例えば10μmとなっている。Pダイヤモンド半導体層12の所定の位置には、一対のコンタクトホール20,20が形成されている。また、Pダイヤモンド半導体層12中のホウ素濃度は、1×1016cm−3以下となっている。これにより、ダイヤモンド電子素子1に逆電圧が印加されたときに、ショットキー接合から空乏層が広がり易くなっており、キャリアの移動速度が確保される。Pダイヤモンド半導体層12の表面におけるヒロックの密度は、10cm−2以下に抑えられており、異常粒子の密度は、20cm−3以下に抑えられている。
【0023】
オーミック電極層13,13は、例えばTi/Pt/Auの3層構造となっている。オーミック電極層13,13は、コンタクトホール20内にそれぞれ形成されていると共に、コンタクトホール20の開口部分を覆うように、Pダイヤモンド半導体層12の表面において例えば直径2.5mmの円形状に形成されている。ショットキー電極層14,14は、例えばPtからなる。ショットキー電極層14,14は、Pダイヤモンド半導体層12の表面において、互いに離間するようにして、例えば直径2.5mmの円形状に形成されている。
【0024】
続いて、上述した構成を有するダイヤモンド電子素子1の製造工程について説明する。
【0025】
[実施例1]
まず、ダイヤモンド基板10として、図2(a)に示すように、ダイヤモンド単結晶からなる高圧合成基板を用意する。次に、X線トポグラフィー装置を用いることにより、ダイヤモンド基板において、ショットキー電極層14,14の形成位置に、種結晶、種結晶による転位、及び成長セクタの境界部分のいずれもが存在しないことを確認する。特に、高圧合成基板においては、種結晶から高密度の針状転位が発生し、成長セクタの境界部分には、積層欠陥などの結晶欠陥が集中する傾向がある。したがって、これらを予めショットキー電極層14,14の形成位置から外すことで、好適なショットキー接合の実現が可能となる。
【0026】
次に、例えばスカイフ盤を用いることにより、ダイヤモンド基板10の一面10a及び他面10bを研磨し、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+4.3°の方向に向かって約2.1°傾くように調整する。研磨の後、アセトンやイソプロピルアルコールなどの有機溶剤でダイヤモンド基板10を超音波洗浄する。また、熱濃硫酸及びフッ酸に浸した後、純水を用いてリンスする。
【0027】
次に、ダイヤモンド基板10の一面10aをドライエッチングによってエッチングする。これにより、ダイヤモンド基板10の一面10aから結晶欠陥や研磨によって発生した傷が除去される。ドライエッチングは、水素ガス又は酸素を含むガスによるマイクロ波プラズマCVDを用いてもよく、酸素ガスによる平行平板型プラズマエッチング又は誘導接合プラズマエッチングを用いてもよい。
【0028】
ドライエッチングを行った後、モリブデンコーティングが施された基板ホルダ上にダイヤモンド基板10を載置し、図2(b)に示すように、ダイヤモンド基板10の一面10aに、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてPダイヤモンド半導体層11を合成する。Pダイヤモンド半導体層11の合成にあたり、まず、水素ガスのみを50Torr、合計流量400sccmで導入し、マイクロ波パワー1200W、基板温度900℃にて15分間の処理を行う。
【0029】
次に、水素ガス中のメタン濃度を1%とし、また、炭素に対するホウ素の元素組成率が10%となるようにBを添加し、1時間の処理によって第1層を合成する。続いて、水素ガス中のメタン濃度を0.6%とし、また、炭素に対するホウ素の元素組成率が1.6%となるようにBを添加し、5時間の処理によって第2層を合成する。これにより、厚さが約1μm、ホウ素濃度が約7×1019cm−3のPダイヤモンド半導体層11が形成される。
【0030】
このようにして形成されたPダイヤモンド半導体層11では、ダイヤモンド基板10の一面10aに転位や積層欠陥といった結晶欠陥の核となるサイトが存在する場合であっても、これらのサイトがホウ素によって終端されるため、結晶欠陥の伝播が抑制される。また、ステップフロー成長に比べてアイランド成長が優勢となるため、結晶欠陥の均一な成長が阻害され、その結果、Pダイヤモンド半導体層11の表面での結晶欠陥、ヒロック、及び異常粒子の発生が抑制される。Pダイヤモンド半導体層11の表面の平坦性は、図4(a)に示すように、Ra=13Å程度であった。また、図4(b)に示すように、ヒロックや異常粒子の発生は見られなかった。
【0031】
次に、ダイヤモンドコーティングが施された基板ホルダにダイヤモンド基板10を載置し、図2(c)に示すように、Pダイヤモンド半導体層11の表面に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてPダイヤモンド半導体層12を合成する。Pダイヤモンド半導体層12の合成にあたり、まず、水素ガスのみを120Torr、合計流量400sccmで導入し、マイクロ波パワー2000W、プラズマ密度21W/cm、プラズマ中のHα発光強度に対するC発光強度の比0.2、基板温度1000℃にて15分間の処理を行う。続いて、水素ガス中のメタン濃度を4%とし、また、反応ガス中の炭素に対する酸素の元素組成率を40%とし、16時間の処理を行う。これにより、厚さ約10μm、ホウ素濃度が約4×1015cm−3のPダイヤモンド半導体層12が形成される。
【0032】
このようにして形成されたPダイヤモンド半導体層12では、ダイヤモンド基板10におけるダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+4.3°の方向に向かって約2.1°傾いているため、Pダイヤモンド半導体層12の成長時に表面原子のダイマー列が直線的に伸びてステップフロー成長が優勢となり、Pダイヤモンド半導体層12の表面での結晶欠陥、ヒロック、及び異常粒子の発生が抑制される。
【0033】
また、反応ガスとして酸素を含むガスを導入することで、ジボラン、トリメチルボロン、或いはその剥離ガスといったホウ素成分が除去される。このように、アクセプタとしてのホウ素の濃度を抑えることで、逆電圧を印加したときのキャリアの移動速度が高められ、絶縁破壊のより確実な回避が実現される。導入される酸素は、sp3以外の成分や結晶欠陥に対するエッチング効果も有している。さらに、マイクロ波パワー2000W、プラズマ密度10W/cm以上とすることで、マイクロ波プラズマによるエッチング効果も併せて作用する。このため、Pダイヤモンド半導体層12の表面から異常粒子の核が好適に除去される。
【0034】
ダイヤモンド半導体層12の表面の平坦性は、図5(a)に示すように、Ra=42Å程度であった。また、図5(b)に示すように、ヒロックは、ショットキー電極の形成範囲外に22cm−2程度確認されたが、異常粒子の発生は見られなかった。
【0035】
なお、ダイヤモンド単結晶の面方位の傾きが1.5°よりも小さい場合には、ステップ密度が不足してステップフロー成長が優勢とならず、Pダイヤモンド半導体層12の平坦性が確保されなかった。また、ダイヤモンド単結晶の面方位の傾きが10°よりも大きい場合には、ステップ密度が過剰となって成長が乱雑となり、Pダイヤモンド半導体層12の平坦性が確保されなかった。
【0036】
各ダイヤモンド半導体層11,12を形成した後、硫酸と硝酸の混酸中にてダイヤモンド基板10を煮沸洗浄する。次に、Pダイヤモンド半導体層12の表面に例えばAlからなるマスク層を成膜する。また、フォトリソグラフィーによってこのマスク層をパターニングした後、ICPプラズマ装置に例えばClガス及びBClガスを供給することにより、マスク層をドライエッチングする。そして、ICPプラズマ装置に例えばO2ガス及びCF4ガスを供給することにより、図3(a)に示すように、Pダイヤモンド半導体層12にコンタクトホール20,20を形成する。コンタクトホール20,20の形成後、所定の酸を用いてマスク層を除去する。
【0037】
次に、フォトリソグラフィーによるパターニングの後、Ti/Pt/Auをそれぞれ1000Åずつ蒸着し、リフトオフする。そして、これをArガスの雰囲気下で、1Torr、400℃の条件でアニールすることにより、図3(b)に示すように、コンタクトホール20内及びコンタクトホール20の開口部分を覆うように、オーミック電極層13,13を形成する。最後に、フォトリソグラフィーによるパターニングの後、Ptを1000Å蒸着してリフトオフし、Pダイヤモンド半導体層12上に、直径2.5mmのショットキー電極層14,14を形成すると、図1に示したダイヤモンド電子素子1が完成する。
【0038】
図6は、このダイヤモンド電子素子1のショットキー接合特性を示す図である。図6(a)に示すように、ダイヤモンド電子素子1の理想因子は1.21であり、図6(b)に示すように、逆方向電流は、2kVに至るまで10−6Acm−2以下に抑えられている。このダイヤモンド電子素子1を400℃の高温環境下で用いた場合、1MV/cmの逆バイアスの電界をかけたときのリーク電流は、1000時間経過後であっても8×10−7Acm−2程度であった。従来のダイヤモンド電子素子では、同様の環境下で1MV/cmの逆バイアスの電界をかけたときのリーク電流は、200時間で1μAcm−2に達していたことを鑑みれば、ダイヤモンド電子素子1では、リーク電流の効果的な低減が図られていることが確認できる。
【0039】
[実施例2]
実施例2は、実施例1における各種の条件を発明の範囲内で変更したものである。まず、ダイヤモンド基板10としてダイヤモンド単結晶からなる高圧合成基板を用意し(図2(a)参照)、次に、X線トポグラフィー装置を用いることにより、ショットキー電極層14,14の形成位置に、種結晶、種結晶による転位、及び成長セクタの境界部分のいずれもが存在しないことを確認する。
【0040】
次に、例えばスカイフ盤を用いることにより、ダイヤモンド基板10の一面10a及び他面10bを研磨し、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+5.6°の方向に向かって約3.1°傾くように調整する。研磨の後、アセトンやイソプロピルアルコールなどの有機溶剤でダイヤモンド基板10を超音波洗浄する。また、熱濃硫酸及びフッ酸に浸した後、純水を用いてリンスする。
【0041】
次に、ダイヤモンド基板10の一面10aをドライエッチングによってエッチングする。ドライエッチングを行った後、モリブデンコーティングが施された基板ホルダ上にダイヤモンド基板10を載置し、ダイヤモンド基板10の一面10aに、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてPダイヤモンド半導体層11を合成する(図2(b)参照)。
【0042】
ダイヤモンド半導体層11の合成にあたり、まず、水素ガスのみを50Torr、合計流量400sccmで導入し、マイクロ波パワー1200W、基板温度900℃にて15分間の処理を行う。次に、水素ガス中のメタン濃度を1%とし、また、炭素に対するホウ素の元素組成率が10%となるようにBを添加し、1時間の処理によって第1層を合成する。
【0043】
続いて、水素ガス中のメタン濃度を0.6%とし、また、炭素に対するホウ素の元素組成率が1.6%となるようにBを添加し、50時間の処理によって第2層を合成する。これにより、厚さが約10μm、ホウ素濃度が約8×1019cm−3のPダイヤモンド半導体層11が形成される。このようにして形成されたPダイヤモンド半導体層11の表面の平坦性は、図7(a)に示すように、Ra=37Å程度であった。また、図7(b)に示すように、ヒロックや異常粒子の発生は見られなかった。
【0044】
次に、ダイヤモンドコーティングが施された基板ホルダにダイヤモンド基板10を載置し、Pダイヤモンド半導体層11の表面に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてPダイヤモンド半導体層12を合成する(図2(c)参照)。Pダイヤモンド半導体層12の合成にあたり、まず、水素ガスのみを120Torr、合計流量400sccmで導入し、マイクロ波パワー4000W、プラズマ密度30W/cm、プラズマ中のHα発光強度に対するC発光強度の比0.2、基板温度1000℃にて15分間の処理を行う。
【0045】
続いて、水素ガス中のメタン濃度を8%とし、また、反応ガス中の炭素に対する酸素の元素組成率を20%とし、3時間の処理を行う。これにより、厚さ約10μm、ホウ素濃度が約5×1015cm−3のPダイヤモンド半導体層12が形成される。このようにして形成されたPダイヤモンド半導体層12の表面の平坦性は、図8(a)に示すように、Ra=91Å程度であった。また、図8(b)に示すように、ヒロック及び異常粒子の発生は見られなかった。
【0046】
各ダイヤモンド半導体層11,12を形成した後、硫酸と硝酸の混酸中にてダイヤモンド基板10を煮沸洗浄する。次に、Pダイヤモンド半導体層12の表面に例えばAlからなるマスク層を成膜する。また、フォトリソグラフィーによってこのマスク層をパターニングした後、ICPプラズマ装置に例えばClガス及びBClガスを供給することにより、マスク層をドライエッチングする。そして、ICPプラズマ装置に例えばO2ガス及びCF4ガスを供給することにより、Pダイヤモンド半導体層12にコンタクトホール20,20を形成する(図3(a)参照)。コンタクトホール20,20の形成後、所定の酸を用いてマスク層を除去する。
【0047】
次に、フォトリソグラフィーによるパターニングの後、Ti/Pt/Auをそれぞれ1000Åずつ蒸着し、リフトオフする。そして、これをArガスの雰囲気下で、1Torr、400℃の条件でアニールすることにより、コンタクトホール20内及びコンタクトホール20の開口部分を覆うように、オーミック電極層13,13を形成する(図3(b)参照)。最後に、フォトリソグラフィーによるパターニングの後、Ptを1000Å蒸着してリフトオフし、Pダイヤモンド半導体層12上に、直径2.5mmのショットキー電極層14,14を形成する。
【0048】
図9は、このダイヤモンド電子素子1のショットキー接合特性を示す図である。図9(a)に示すように、ダイヤモンド電子素子1の理想因子は1.28であり、図9(b)に示すように、逆方向電流は、2kVに至るまで10−6Acm−2以下に抑えられている。このダイヤモンド電子素子1を400℃の高温環境下で用いた場合、1MV/cmの逆バイアスの電界をかけたときのリーク電流は、1000時間経過後であっても1×10−6Acm−2程度であった。
【0049】
[比較例1]
比較例1では、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+7.1°の方向に向かって約0.2°傾くように調整した。その他の条件は、実施例1と同様とした。このダイヤモンド電子素子では、Pダイヤモンド半導体層の表面のヒロック密度が1.8×10cm−2に達した。また、リーク電流は10−3Acm−2を超え、所望のショットキー特性を得ることができなかった。
【0050】
[比較例2]
比較例2では、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向+22°の方向に向かって約2.0°傾くように調整した。その他の条件は、実施例1と同様とした。このダイヤモンド電子素子では、Pダイヤモンド半導体層の表面のヒロック密度が3.8×10cm−2に達し、平坦性もRa=1360Åとなった。比較例2についても、リーク電流は10−3Acm−2を超え、所望のショットキー特性を得ることができなかった。
【0051】
以上説明したように、このダイヤモンド電子素子の製造方法では、Pダイヤモンド半導体層11の形成の際に、ダイヤモンド基板10の一面10側に存在する転位や積層欠陥といった結晶欠陥の核となるサイトをホウ素によって終端させることができる。これにより、Pダイヤモンド半導体層11及びPダイヤモンド半導体層12への欠陥の伝播が抑制されるので、ショットキー障壁のレベルよりも低いレベルでのリーク電流の発生を抑止できる。欠陥の伝播が抑制される結果、各ダイヤモンド半導体層11,12の表面でのヒロック密度や異常粒子密度を低くすることが可能となるため、電界の集中による絶縁破壊や異常粒子に起因するリーク電流の発生も回避できる。また、Pダイヤモンド半導体層12のホウ素密度を抑えることで、逆電圧を印加したときのキャリアの移動速度が高められ、絶縁破壊のより確実な回避が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド電子素子の製造方法を適用して作製されたダイヤモンド電子素子の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るダイヤモンド電子素子の製造方法を示す図である。
【図3】図2の後続の工程を示す図である。
【図4】実施例1に係るダイヤモンド電子素子におけるPダイヤモンド半導体層の表面状態を示す図である。
【図5】実施例1に係るダイヤモンド電子素子におけるPダイヤモンド半導体層の表面状態を示す図である。
【図6】実施例1に係るダイヤモンド電子素子のショットキー接合特性を示す図である。
【図7】実施例2に係るダイヤモンド電子素子におけるPダイヤモンド半導体層の表面状態を示す図である。
【図8】実施例2に係るダイヤモンド電子素子におけるPダイヤモンド半導体層の表面状態を示す図である。
【図9】実施例2に係るダイヤモンド電子素子のショットキー接合特性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…ダイヤモンド電子素子、10…ダイヤモンド基板、10a…一面、11…Pダイヤモンド半導体層、12…Pダイヤモンド半導体層、14…ショットキー電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド基板の一面に、ホウ素濃度が1×1019cm−3以上のPダイヤモンド半導体層と、ホウ素濃度が1×1016cm−3以下のPダイヤモンド半導体層とを気相合成法を用いて順次積層する工程と、
前記Pダイヤモンド半導体層上に、ショットキー電極層をパターン形成する工程とを備えたことを特徴とするダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンド基板は、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<110>方向±10°の方向に向かって1.5°〜10°の範囲で傾いていることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項3】
前記ダイヤモンド基板は、ダイヤモンド単結晶の面方位が、<100>方向から<100>方向±10°の方向に向かって1.5°〜10°の範囲で傾いていることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項4】
前記ダイヤモンド基板は、前記ショットキー電極層の形成位置に種結晶及び成長セクタの境界部分が存在しない高圧合成基板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項5】
前記Pダイヤモンド半導体層の積層に先立って、前記ダイヤモンド基板の前記一面をドライエッチングすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項6】
初期圧力60Torr以下、前記ダイヤモンド基板の温度800℃以下、反応ガス中のメタン濃度0.5%〜5%、及び反応ガス中の炭素に対するホウ素の元素組成率0.1%〜50%の条件下で、前記Pダイヤモンド半導体層を気相合成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項7】
マイクロ波パワー2kW以上、プラズマ密度10W/cm以上、反応ガス中のメタン濃度2%〜10%、及び反応ガス中の炭素に対する酸素の元素組成率10%〜50%の条件下で、前記Pダイヤモンド半導体層を気相合成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項8】
プラズマ中のHα発光強度に対するC発光強度の比が0.2以上となる条件下で、前記Pダイヤモンド半導体層を気相合成することを特徴とする請求項7記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項9】
前記ショットキー電極層の面積が4mm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。
【請求項10】
前記pダイヤモンド半導体層の膜厚が10μm以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載のダイヤモンド電子素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−59798(P2009−59798A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224356(P2007−224356)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】