説明

ディスクブレーキ装置

【課題】電動モータを用いた構成でありながら、コンパクト且つ十分な制動力を発生できるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ディスクブレーキ装置は、制動面4aを有したローター4と、キャリパと、制動面4aに対向して配置されるアウターパッド、インナーパッド43と、両パッドを制動面4aに押し付ける作動を行わせる制動作動機構とを有し、制動作動機構が、ベースプレート35と、インナーパッド43を保持するウェッジプレート37と、ベースプレート35に対してウェッジプレート37を制動面4aに平行且つローター4の回転方向にスライド移動させながら制動面4aに垂直な方向に移動させる第1運動変換機構と、回転駆動力を出力する電動モータユニット24と、電動モータユニット24の回転駆動力を用いてウェッジプレート37を制動面4aに平行且つローター4の回転方向にスライド移動させる第2運動変換機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に用いられ、摩擦により制動力を発生させるディスクブレーキ装置に関し、さらに詳細には、制動力を発生させるための駆動源に電動モータを用いて構成されるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は車両等に広く用いられており、ブレーキペダルに対する踏込み操作に応じて、ホイールとともに回転するローターにパッドを押し付けて摩擦力を発生させることで、ローターの回転を制動するように構成される。従来、油圧力を用いてピストンを作動させることで、ローターに対してパッドを押し付けるタイプのディスクブレーキ装置や、油圧力の代わりに圧縮空気を用いてレバーを作動させるタイプのディスクブレーキ装置が良く知られている。
【0003】
例えば油圧力を用いてピストンを作動させるディスクブレーキ装置においては、ブレーキペダルに対する操作力を増幅させる倍力装置や、倍力装置によって増幅された操作力を液圧に変換するマスタシリンダー等の装置が必要となり、装置構成が複雑になりがちであった。そこで最近、ブレーキペダルに対する操作に応じて電動モータを回転駆動させ、この回転駆動力を用いてローターにパッドを押し付けて制動力を発生させるタイプのディスクブレーキ装置が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1のような構成とすることで、倍力装置やマスタシリンダー等を省いてシンプルなディスクブレーキ装置を構成できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−516169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動モータを用いて構成されるディスクブレーキ装置においては、電動モータの回転駆動力をローターにパッドを押し付ける押圧力に変換するための運動変換機構が必要となるが、十分に大きな押圧力でパッドを押し付けようとするとこの運動変換機構が大型になりやすく、それに伴ってディスクブレーキ装置の周辺に配設される他の装置の配設スペースが圧迫されるという課題があった。
【0006】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、電動モータを用いた構成でありながら、コンパクト且つ十分な制動力を発生できるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るディスクブレーキ装置は、制動対象となる回転体に連結されて回転する円盤状の制動面を有したローターと、前記ローターに対して回転方向に固定されて配置されたキャリパ(例えば、実施形態におけるキャリパアッセンブリ10)と、前記ローターの制動面に対向して配置される摩擦パッド(例えば、実施形態におけるアウターパッド41、インナーパッド43)と、前記キャリパに取り付けられて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付ける作動を行わせる制動作動機構とを有して構成されるディスクブレーキ装置であって、前記制動作動機構が、前記キャリパに取り付けられたベース部材(例えば、実施形態におけるベースプレート35)と、前記ベース部材に対向配置されて前記摩擦パッドを保持するスライド部材(例えば、実施形態におけるウェッジプレート37)と、前記ベース部材および前記スライド部材の間に設けられ、前記ベース部材に対して前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させながら前記制動面に垂直な方向に移動させる第1運動変換機構と、前記ベース部材に取り付けられて電力を受けて回転駆動力を出力する電動モータユニットと、前記電動モータユニットの回転駆動力を用いて前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させる第2運動変換機構とを備え、前記電動モータユニットの回転駆動力を用いて前記第2運動変換機構により前記スライド部材を前記スライド移動させることにより、前記スライド部材およびこれに保持された前記摩擦パッドを前記第1運動変換機構により前記制動面に垂直な方向に移動させて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けて前記ローターの回転を制動するように構成されたことを特徴とする。
【0008】
上述のディスクブレーキ装置において、制動操作される制動操作手段(例えば、実施形態におけるブレーキペダル92)と、前記制動操作手段の制動操作による制動力要求値を検出する制動力要求値検出手段(例えば、実施形態における踏込み力検出センサー92a)と、前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けることにより生じる制動力を検出する制動力検出手段(例えば、実施形態におけるセンサー31)と、前記電動モータユニットの回転駆動制御を行うモータ駆動制御装置(例えば、実施形態におけるコントローラ91)とを備え、前記モータ駆動制御装置は、前記制動力検出手段により検出された制動力が前記制動力要求値検出手段により検出された制動力要求値に対応する値となるように前記電動モータユニットの回転駆動制御を行うことが好ましい。
【0009】
また、上述のディスクブレーキ装置において、前記ローターの回転方向を検出する回転方向検出手段(例えば、実施形態における回転方向検出センサー93)を備え、 前記モータ駆動制御装置は、前記摩擦パッドが前記第1運動変換機構により前記ローターの回転方向に向かってスライド移動しながら前記制動面に押し付けられるように、前記電動モータユニットの回転駆動方向制御を行うことが好ましい。
【0010】
前記第1運動変換機構が、前記ベース部材および前記スライド部材における前記制動面に平行に延びて互いに対向する面において、それぞれ前記ローターの回転方向に直角な方向に延び且つ互いに対向して形成されたV字状の複数対のウェッジ溝と、前記ベース部材および前記スライド部材における互いに対向する複数対の前記ウェッジ溝内にそれぞれ挟持されて配置された複数のローラと、前記複数のローラの軸方向への移動および前記複数のローラ間の相対的な移動を規制するローラ保持部材(例えば、実施形態におけるケージ45)と、前記ベース部材および前記スライド部材における複数対の前記ウェッジ溝内に、前記ローラ保持部材により保持されたそれぞれの前記ローラを挟持した状態で、挟持方向に押圧力を付与するウェッジ付勢部材(例えば、実施形態におけるスプリング39d)とから構成されることが好ましい。
【0011】
前記第2運動変換機構が、前記電動モータユニットの出力回転軸に繋がって設けられたカム部材、もしくはインボリュート形状のピニオン歯部材と、前記スライド部材に形成されて、前記カム部材もしくはピニオン歯部材と噛合するラック歯(例えば、実施形態におけるラック側当接面37d)とから構成され、前記電動モータユニットにより前記カム部材もしくはピニオン歯部材を回転させることにより、前記ラック歯を介して前記スライド部材を前記スライド移動させるように構成されたことが好ましい。
【0012】
さらに、上述のディスクブレーキ装置において、前記ベース部材が、アジャスト機構(例えば、実施形態におけるアジャスタ本体部32、アジャスタ筒状体33、アジャスト用駆動歯車38)を介して前記キャリパに対して前記制動面に直交する方向に移動可能に取り付けられており、前記摩擦パッドの摩耗に応じて発生する前記制動面と前記摩擦パッドとの隙間の増加を、前記アジャスト機構により前記ベース部材を前記制動面に近づく方向に移動させて調整可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るディスクブレーキ装置は、ベース部材に対してスライド部材をローターの回転方向にスライド移動させながら制動面に垂直な方向に移動させる第1運動変換機構と、電動モータユニットと、電動モータユニットの回転駆動力を用いてスライド部材をローターの回転方向にスライド移動させる第2運動変換機構とを備えて構成される。そのため、第2運動変換機構により電動モータユニットの回転駆動力をスライド部材のスライド移動に変換した上で、さらに第1運動変換機構によりスライド部材のスライド移動を制動面に摩擦パッドを押し付けるための移動に変換することで、第2運動変換機構および第1運動変換機構によって増幅された制動力を制動面に作用させることが可能となる。よって、電動モータの回転駆動力を用いてローターに摩擦パッドを押し付ける構成でありながら、コンパクト且つ十分な制動力を発生できるディスクブレーキ装置を実現できる。
【0014】
上述のディスクブレーキ装置において、モータ駆動制御装置が、検出された実際の制動力が制動力要求値に対応する値となるように電動モータユニットの回転駆動制御を行うことが好ましい。このように構成した場合、電動モータユニットの回転駆動制御を行うことにより、意図した制動力を正確に作用させることが可能となる。
【0015】
上述のディスクブレーキ装置において、モータ駆動制御装置が、摩擦パッドが第1運動変換機構によりローターの回転方向に向かってスライド移動しながら制動面に押し付けられるように、電動モータユニットの回転駆動方向制御を行うことが好ましい。このように、ローターの回転方向に向かってスライド移動しながら制動面に押し付けられる構成とした場合、ローターと摩擦パッドとの間の摩擦力により摩擦パッドがスライド移動され、このスライド移動により押圧力が自動的に増幅される。そのため、摩擦力による摩擦パッドのスライド移動を許容することで、押圧力を自動的に増幅させることが可能となり、大きな制動力を発生させることができる。
【0016】
上述のディスクブレーキ装置において、第1運動変換機構が、ベース部材および前記スライド部材に形成されたV字状のウェッジ溝と、このウェッジ溝内に挟持されたローラと、ウェッジ溝内にローラを挟持した状態で挟持方向に押圧力を付与するウェッジ付勢部材とから構成されることが好ましい。この構成の場合、単にウェッジ溝にローラを嵌め込んで挟持するという簡単な構成でありながら、押圧力を自動的に増幅させることが可能となる。
【0017】
上述のディスクブレーキ装置において、第2運動変換機構が、電動モータユニットの出力回転軸に設けられたカム部材もしくはピニオン歯部材と、スライド部材に形成されてカム部材もしくはピニオン歯部材と噛合するラック歯とから構成されることが好ましい。この構成において、カム部材もしくはピニオン歯部材をインボリュート形状にすることで、ラック歯との間のすべりを低減でき、電動モータユニットの回転出力を効率良く(伝達ロスが少なく)スライド部材のスライド移動に変換することが可能となる。
【0018】
上述のディスクブレーキ装置において、ベース部材が、アジャスト機構を介して制動面に直交する方向に移動可能に取り付けられた構成が好ましい。このように構成した場合には、摩擦パッドが摩耗して制動面と摩擦パッドとの隙間が増加しても、このアジャスト機構を用いてその隙間を狭めるように調整できるので、制動面と摩擦パッドとの隙間を一定間隔に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用したディスクブレーキ装置の斜視図である。
【図2】図1におけるII−II部分の断面図である。
【図3】パッドおよびウェッジプレート部分(ケージおよび付勢ユニットを省略)を示した斜視図である。
【図4】パッドおよびウェッジプレート部分(ケージおよび付勢ユニットを含む)を示した斜視図である。
【図5】パッドおよびウェッジプレート部分(ベースプレートを含む)を示した斜視図である。
【図6】ウェッジプレート部分を示した平面図である。
【図7】インナーユニット部分を拡大した図に、制御構成を追記した説明図である。
【図8】ウェッジプレートの作動を説明するための説明図である。
【図9】電動モータの制御に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。本発明を適用した一例としてのディスクブレーキ装置1の斜視図を図1に示しており、まず、図1〜図7を参照しながらディスクブレーキ装置1の全体構成について説明する。なお、以下においては便宜上、車両の左右外側をアウター側、これとは反対に車両の左右内側をインナー側と称して説明を行う。
【0021】
ディスクブレーキ装置1は、図1および図2に示すように、インナー側のインナー空間11a内にインナーユニット20を収容するとともに、アウター側の開口部12aにインナーパッド43およびアウターパッド41を収容して構成されるキャリパアッセンブリ10が、円盤状に形成されたローター4の端部を両側から挟むように配置される。キャリパアッセンブリ10は、複数のスライドピン9によってローター4の軸方向にスライド移動可能にキャリア6に取り付けられており、このキャリア6は、アクスル2に固定されたサポートプレート5に取り付けられて固定されている。
【0022】
インナーユニット20は、図2に示すように、電動モータユニット24、電動モータユニット24の両側に設けられた2つのアジャストユニット30、電動モータユニット24のアウター側に設けられたベースプレート35、ベースプレート35に対向して配設されたウェッジプレート37、ベースプレート35とウェッジプレート37との間に挟持された円柱状のローラ36、ローラ36を保持するケージ45、およびウェッジプレート37をベースプレート35側に付勢する付勢ユニット39(図4〜図6を参照)から構成される。
【0023】
電動モータユニット24は、電力供給を受けて回転駆動力を出力する電動モータ25、電動モータ25の出力軸に取り付けられたカム部材27、および電動モータ25の回転角を検出するための回転角センサー28から構成される。カム部材27は、図3に示すように、電動モータ25の出力軸に取り付けられる本体部27aと、この本体部27aに繋がって形成されるとともに、両側面に例えばインボリュート形状のカム側当接面27bが形成された噛合歯27cとを備えて構成される。なお、電動モータユニット24は、電動モータ25の駆動軸が制動面4aに直交する向きで、ベースプレート35に取り付けられている。
【0024】
アジャストユニット30は、図2および図7に示すように、センサー31、アジャタ本体部32、アジャスタ筒状体33およびアジャスト用駆動歯車38から構成される。センサー31は、図7に示すように、制動面4aに対してインナーパッド43が押し付けられるときの押圧力を検出可能となっている。アジャスタ筒状体33は、筒状に形成されて内周面に螺旋状の筒側ねじ(図示せず)が形成された筒部33aと、この筒部33aのインナー側端部に形成された調整用従動歯車33bとから構成される。アジャタ本体部32の外周面には、筒部33aに形成された筒側ねじと噛合する螺旋状の本体側ねじ(図示せず)が形成されており、筒側ねじと本体側ねじとが噛合してアジャタ本体部32にアジャスタ筒状体33が取り付けられている。アジャスト用駆動歯車38は、両アジャストユニット30の調整用従動歯車33bと噛合している。このように構成されるアジャストユニット30により、ブレーキ操作が行われる毎にローター4の制動面4aとインナーパッド43との隙間が、所定間隔になるように調整される。
【0025】
ベースプレート35は、図6に示すように、ウェッジプレート37に対向する面に、ローラ36を嵌め込んで保持するための断面視V字状のウェッジ溝35aが2つ形成されている。ウェッジプレート37は、図4および図6に示すように、略平板状に形成されており、ベースプレート35に対向する面には、ベースプレート35のウェッジ溝35aに対応する位置に、ローラ36を嵌め込んで保持するための断面視V字状のウェッジ溝37aが2つ形成されている。
【0026】
ウェッジプレート37の中央部分には、図3に示すように、制動面4aに直交する方向に貫通してカム部材27が挿入される挿入空間37bが形成されている。この挿入空間37bの上部における本体部27aの側方に位置する部分に、ウェッジプレート37が側方にスライド移動されたときに本体部27aとの干渉を防止するための逃がし部37cが形成されており、一方、挿入空間37bの下部には、カム部材27のカム側当接面27bと当接するラック側当接面37dが形成されている。このため、電動モータ25が回転駆動されてカム部材27が回転されると、ウェッジプレート37がカム部材27の回転方向に押圧されて、ベースプレート35に対向した状態のままでカム部材27の回転方向にスライド移動される。なお、ラック側当接面37dの側方には、一対のねじ穴37eが形成されている。
【0027】
ケージ45は、図4に示すように、略平板状に形成されたベース部45aに対して、ローラ36を収容させて保持するための一対のローラ保持部45bと、中央部分に位置決め用開口部45cとが形成されて構成されている。ローラ36は、このローラ保持部45bに収容されることにより、上下、ローター4の回転方向、および制動面4aに直交する方向への移動が規制された状態で、回転可能に支持される。位置決め用開口部45cは、後述するベース部材39aに対応させて開口形成されており、ベース部材39aはこの位置決め用開口部45cに嵌合されて、ガイドされた状態で前後にスライドされるようになっている。
【0028】
付勢ユニット39は、図4〜図6に示すように、ウェッジプレート37に取り付けられたベース部材39aと、このベース部材39aに取り付けられた支持軸39cと、スプリング39dと、スプリング押さえ39eとから構成される。ベース部材39aには、一対のねじ挿入孔39bが形成されており、このねじ挿入孔39bに挿入した締結ねじ(図示せず)をウェッジプレート37のねじ穴37eに締結することで、ベース部材39aがウェッジプレート37に取り付けられる。スプリング39dは、支持軸39cに挿入されて収縮された状態でスプリング押さえ39eにより固定されており、スプリング39dによるインナー側への付勢力が常時ウェッジプレート37に作用する構成となっている。この付勢ユニット39により、ローラ36は、インナー側に付勢されたウェッジプレート37(ウェッジ溝37a)とベースプレート35(ウェッジ溝35a)とによって挟持された状態で保持されている。
【0029】
アウターパッド41(摩擦材とも称される)には、アウター側にシュープレート42が固定されており、インナーパッド43(摩擦材とも称される)には、インナー側にシュープレート44が固定されている。なお、アウターパッド41にシュープレート42(インナーパッド43にシュープレート44)を固定したものが、単にパッドと称される場合もある。
【0030】
アウターパッド41およびインナーパッド43は、制動面4aに押し付けられることで押圧力に応じた摩擦力を発生させ、ローター4(制動面4a)に対してローター4の回転を阻止する制動力を作用させる。アウターパッド41は、シュープレート42と一体となって、キャリパアッセンブリ10のアウター部分に形成されたブリッジ部12cとローター4との間に挿入されている。一方、インナーパッド43は、シュープレート44と一体となって、ウェッジプレート37とローター4との間に挿入されている。
【0031】
図7に示すように、車両には電動モータ25の作動を制御するコントローラ91が設けられており、このコントローラ91には、センサー31で検出された制動面4aに対してインナーパッド43が押し付けられるときの押圧力、および回転角センサー28で検出された電動モータ25の回転角が入力される。また、車両には、運転者がブレーキ操作をするためのブレーキペダル92が設けられており、このブレーキペダル92には、ブレーキペダル92に対する踏込み力(ブレーキ操作力)を信号に変換して検出する踏込み力検出センサー92aが設けられている。この踏込み力検出センサー92aで検出された電気信号は、コントローラ91へ出力される。なお、コントローラ91には、踏込み力検出センサー92aで検出されるブレーキ操作力と、そのブレーキ操作力に対応するインナーパッド43の押圧力とが、予め対応付けられて記憶されている。
【0032】
さらに、車両には、ローター4の回転方向(前進方向fまたは後進方向r)を検出するための回転方向検出センサー93が設けられており、回転方向検出センサー93で得られた検出結果はコントローラ91に出力される。
【0033】
ところで、後述するようにして、アウターパッド41およびインナーパッド43が繰り返してローター4の制動面4aに押し付けられて摩耗すると、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間がその摩耗分だけ大きくなる。そうすると、ブレーキペダル92が踏込まれてから実際にアウターパッド41およびインナーパッド43が制動面4aに押し付けられるまでのタイムラグが大きくなり、ブレーキ操作の応答性が低下することとなる。そこで、アウターパッド41およびインナーパッド43の摩耗によって隙間が大きくなった場合には、アジャスト用駆動歯車38が自動的に回転駆動され、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間が所定間隔になるように狭められる調整が行われ、ブレーキ操作の応答性を確保できるように構成されている。
【0034】
以上ここまでは、ディスクブレーキ装置1の全体構成について説明した。以下においては、このように構成されるディスクブレーキ装置1の作動について、図7および図8を参照しながら図9に示すフローチャートに沿って説明する。なお、以下においては、車両が前進走行または後進走行しつつブレーキペダル92に対して踏込み操作がされていない状態において、運転者によってブレーキペダル92が踏込み操作された場合のディスクブレーキ装置1の作動を例示して説明する。
【0035】
まず、図9に示すステップS110において、回転方向検出センサー93で検出されたローター4の回転方向(前進方向fまたは後進方向r)が、コントローラ91に入力される。次にステップS120に進み、踏込み力検出センサー92aで検出されたブレーキペダル92に対するブレーキ操作力を示す信号が、コントローラ91に入力される。続いてステップS130に進み、センサー31で検出された制動面4aに対するインナーパッド43の押圧力を示す信号が、コントローラ91に入力される。
【0036】
続くステップS140において、コントローラ91は、ステップS110で入力されたローター4の回転方向が前進方向fであるか否かを判定し、判定の結果ローター4の回転方向が前進方向fである場合には、前進方向fに向かってウェッジプレート37をスライド移動させるように、電動モータ25に対して駆動信号を出力する(ステップS151)。
【0037】
この駆動信号が入力されて電動モータ25が回転駆動されることにより、電動モータ25の回転駆動力が減速されてカム部材27に伝達され、カム部材27が回転駆動される。そうすると、カム部材27のカム側当接面27bがウェッジプレート37のラック側当接面37dを押圧し、カム部材27の回転方向(この場合は前進方向f)にウェッジプレート37がスライド移動される。なお、電動モータ25の回転角は、電動モータ25に隣接して設けられた回転角センサー28によって検出されて、コントローラ91に入力されている。
【0038】
このように、インボリュート形状に形成されたカム側当接面27bをラック側当接面37dに当接させて、ウェッジプレート37スライド移動させる構成とすることで、カム部材27が回転駆動されたときに、カム側当接面27bとラック側当接面37dとの間に生じるすべりを抑えて、カム部材27の回転駆動力を効率良くウェッジプレート37スライド移動に変換することができる。
【0039】
図7には、このようにして、ウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動されて、シュープレート44およびインナーパッド43が一体となって前進方向fにスライド移動された状態を、2点鎖線でウェッジプレート37f、シュープレート44fおよびインナーパッド43fとして示している。
【0040】
また、図8には、前進方向fにスライド移動されたウェッジプレート37f、シュープレート44fおよびインナーパッド43fの拡大図を示している。この図8から分かるように、ウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動されると、V字状のウェッジ溝37aうちで後進方向側の斜面に対してローラ36が押し付けられ、ローラ36に対してウェッジプレート37(ウェッジプレート37と一体となったシュープレート44およびインナーパッド43)が、この斜面の傾斜に沿うように相対的にアウター側(制動面4a側)に押し出される。
【0041】
一方、ステップS140において、判定の結果ローター4の回転方向が後進方向rである場合には、後進方向rに向かってウェッジプレート37をスライド移動させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される(ステップS152)。そうすることで、カム部材27のカム側当接面27bがウェッジプレート37のラック側当接面37dを押圧し、カム部材27の回転方向(この場合は後進方向r)にウェッジプレート37がスライド移動される。図7には、このようにして、ウェッジプレート37が後進方向rにスライド移動されたときのウェッジプレート37、シュープレート44およびインナーパッド43の位置を、それぞれ点線でウェッジプレート37r、シュープレート44rおよびインナーパッド43rとして示している。
【0042】
上述のようにして、カム部材27の回転角度に応じてウェッジプレート37が前進方向fまたは後進方向rにスライド移動されると同時に、制動面4aに近づく方向に移動されると、ある時点においてインナーパッド43が制動面4aに押し付けられる。そうすると、制動面4aからインナーパッド43に作用する反力が、シュープレート44、ウェッジプレート37、ローラ36、ベースプレート35およびアジャストユニット30を介してキャリパアッセンブリ10に作用して、キャリパアッセンブリ10がインナー側に押圧される。
【0043】
キャリパアッセンブリ10がインナー側に押圧されると、スライドピン9により、キャリア6に対してキャリパアッセンブリ10がインナー側にスライド移動される。そうすると、アウター側に形成されたブリッジ部12cにより、シュープレート42およびアウターパッド41が一体的にインナー側に押圧されて、アウターパッド41が制動面4aに押し付けられる。このようにして、アウターパッド41およびインナーパッド43のそれぞれを制動面4aに押し付けてローター4を挟持することで、ローター4の回転を阻止する制動力を作用させることができるように構成されている。
【0044】
このとき、ディスクブレーキ装置1は、ベースプレート35、ローラ36ウェッジプレート37により、制動面4aにインナーパッド43を押し付ける押圧力が自動的に増幅される(自己倍力を発生させる)構成となっており、この構成について図8を参照しながら説明する。なお、以下においては、制動面4aとインナーパッド43との間の摩擦係数をμとして説明を行う。
【0045】
図8に示すように、制動面4aに対してインナーパッド43が押圧力Fで押し付けられる場合には、インナーパッド43には前進方向fにF×μの摩擦力が作用する。このとき、インナーパッド43と一体になったウェッジプレート37にもこの摩擦力F×μが作用するとともに、ウェッジプレート37に形成されたウェッジ溝37aとローラ36との当接部分に摩擦力F×μが作用する。この当接部分においては、摩擦力F×μにおける制動面4aに直交する方向への分力の反力が、制動面4aに近づく方向に作用する反力F’として、ウェッジプレート37に作用することとなる。そのため、インナーパッド43は、元の押圧力Fにこの反力F’を加えた押圧力で制動面4aに押し付けられ、これらを合計した押圧力(F+F’)に対応した摩擦力(F+F’)×μがインナーパッド43に作用することとなる。
【0046】
インナーパッド43に対して前進方向fに作用する摩擦力が、F×μから(F+F’)×μへと増幅されると、それに伴ってインナーパッド43、シュープレート44およびウェッジプレート37が前進方向fにスライド移動される。そうすると、ウェッジプレート37は、ローラ36からさらに大きな反力を受けることとなり、これによりインナーパッド43は、さらに大きな押圧力で制動面4aに押し付けられる。このようにして、摩擦力によりインナーパッド43が前進方向fにスライド移動される作動と、より大きな押圧力でインナーパッド43が制動面4aに押し付けられる作動とが繰り返されることで、制動面4aに対するインナーパッド43の押圧力が自動的に増幅されるように構成されている。
【0047】
このように、ベースプレート35、ローラ36およびウェッジプレート37を用いて自己倍力を作用させる構成(ウェッジ機構)とすることで、比較的小型の電動モータ25を用いた場合であっても、十分に大きな押圧力でアウターパッド41およびインナーパッド43を制動面4aに押し付けて、ローター4に十分な制動力を作用させることが可能となる。このため、比較的小型の電動モータ25を用いてディスクブレーキ装置1を構成できるようになり、ディスクブレーキ装置1をコンパクトに構成できて、ホイール周辺に配設される他の構成部品の配設スペースを十分に確保できる。
【0048】
また、自己倍力を発生させるためにディスクブレーキ装置1では、ステップS151またはステップS152において、ローター4の回転方向に向けてウェッジプレート37をスライド移動させるように、電動モータ25の回転駆動が行われる。
【0049】
続いてステップS160に進み、このようにしてローター4に制動力が作用するときに、コントローラ91において、センサー31で検出されたインナーパッド43の押圧力が、踏込み力検出センサー92aで検出されたブレーキ操作力に対応する押圧力よりも大きいか否かの判定が行われる。
【0050】
ステップS160において、検出された押圧力が、検出されたブレーキ操作力に対応する押圧力よりも大きいと判定された場合には、ステップS171に進み、押圧力を弱める方向にウェッジプレート37を移動(インナー側にウェッジプレート37を移動)させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される。
【0051】
一方、検出された押圧力が、検出されたブレーキ操作力に対応付けられた押圧力よりも小さいと判定された場合には、ステップS172に進み、押圧力を強める方向にウェッジプレート37を移動(アウター側にウェッジプレート37を移動)させるように、コントローラ91から電動モータ25へ駆動信号が出力される。
【0052】
このようにして、押圧力をフィードバックさせてステップS160、S171およびS172を繰り返して行うことで、ブレーキペダル92に対するブレーキ操作力に対応した押圧力で制動面4aにインナーパッド43を押し付けるように、電動モータ25の回転駆動制御が行われる。そうすることで、運転者が意図する制動力をローター4に作用させて、車両を減速させることができる。
【0053】
上述した実施形態においては、2対のウェッジ溝35a,37cに2つのローラ36を挟持させた構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではない。ベースプレート35に対向した状態でウェッジプレート37がスライド移動される構成であれば良く、例えばウェッジプレート37の大きさ等に応じてウェッジ溝35a,37cの対数を設定可能である。
【0054】
上述の実施形態では、センサー31を用いてインナーパッド43の押圧力を検出し、この押圧力をフィードバックさせて電動モータ25の回転駆動制御を行う構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではない。例えば、インナーパッド43の押圧力を検出する代わりに、制動面4aにインナーパッド43を押し付けることにより生じるブレーキトルクを検出してフィードバックしたり、または、車両の減速度を検出してフィードバックすることで電動モータ25の回転駆動制御を行う構成でも良い。
【0055】
上述の実施形態では、単一の噛合歯27cを有したカム部材27、およびこの単一の噛合歯27cと噛合する単一のラックを備えた挿入空間37bが形成されたウェッジプレート37を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、複数の噛合歯を有したカム部材、およびこの複数の噛合歯と同時に噛合する複数のラックを備えたカム挿入空間が形成されたウェッジプレートを用いた構成でも良い。また、本体部27aと噛合歯27cとから構成されるカム部材27を例に挙げて説明したが、この構成のカム部材27に代えて、電動モータ25の回転駆動力を伝達するピニオン歯を備えて形成されるピニオン歯部材を用いても良い。
【0056】
上述の実施形態では、アウターパッド41およびインナーパッド43と制動面4aとの隙間に応じて、アジャスト用駆動歯車38が自動的に回転駆動されて、この隙間が調整される構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されるものではない。この構成に代えて、例えばアジャスト用駆動歯車を回転駆動させるアジャスト用の電動モータを別途設け、このアジャスト用の電動モータの回転駆動制御を行うことにより、パッドと制動面との隙間を自動で調整する構成としても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 ディスクブレーキ装置
4 ローター
4a 制動面
10 キャリパアッセンブリ(キャリパ)
24 電動モータユニット
27 カム部材、ピニオン歯部材
31 センサー(制動力検出手段)
32 アジャスタ本体部(アジャスト機構)
33 アジャスタ筒状体(アジャスト機構)
35 ベースプレート(ベース部材)
35a ウェッジ溝
36 ローラ
37 ウェッジプレート(スライド部材)
37a ウェッジ溝
37d ラック側当接面(ラック歯)
38 アジャスト用駆動歯車(アジャスト機構)
39d スプリング(ウェッジ付勢部材)
41 アウターパッド(摩擦パッド)
43 インナーパッド(摩擦パッド)
45 ケージ(ローラ保持部材)
91 コントローラ(モータ駆動制御装置)
92 ブレーキペダル(制動操作手段)
92a 踏込み力検出センサー(制動力要求値検出手段)
93 回転方向検出センサー(回転方向検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動対象となる回転体に連結されて回転する円盤状の制動面を有したローターと、前記ローターに対して回転方向に固定されて配置されたキャリパと、前記ローターの制動面に対向して配置される摩擦パッドと、前記キャリパに取り付けられて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付ける作動を行わせる制動作動機構とを有して構成されるディスクブレーキ装置であって、
前記制動作動機構が、前記キャリパに取り付けられたベース部材と、前記ベース部材に対向配置されて前記摩擦パッドを保持するスライド部材と、前記ベース部材および前記スライド部材の間に設けられ、前記ベース部材に対して前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させながら前記制動面に垂直な方向に移動させる第1運動変換機構と、前記ベース部材に取り付けられて電力を受けて回転駆動力を出力する電動モータユニットと、前記電動モータユニットの回転駆動力を用いて前記スライド部材を前記制動面に平行且つ前記ローターの回転方向にスライド移動させる第2運動変換機構とを備え、
前記電動モータユニットの回転駆動力を用いて前記第2運動変換機構により前記スライド部材を前記スライド移動させることにより、前記スライド部材およびこれに保持された前記摩擦パッドを前記第1運動変換機構により前記制動面に垂直な方向に移動させて前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けて前記ローターの回転を制動するように構成されたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
制動操作される制動操作手段と、前記制動操作手段の制動操作による制動力要求値を検出する制動力要求値検出手段と、前記摩擦パッドを前記制動面に押し付けることにより生じる制動力を検出する制動力検出手段と、前記電動モータユニットの回転駆動制御を行うモータ駆動制御装置とを備え、
前記モータ駆動制御装置は、前記制動力検出手段により検出された制動力が前記制動力要求値検出手段により検出された制動力要求値に対応する値となるように前記電動モータユニットの回転駆動制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記ローターの回転方向を検出する回転方向検出手段を備え、
前記モータ駆動制御装置は、前記摩擦パッドが前記第1運動変換機構により前記ローターの回転方向に向かってスライド移動しながら前記制動面に押し付けられるように、前記電動モータユニットの回転駆動方向制御を行うことを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記第1運動変換機構が、
前記ベース部材および前記スライド部材における前記制動面に平行に延びて互いに対向する面において、それぞれ前記ローターの回転方向に直角な方向に延び且つ互いに対向して形成されたV字状の複数対のウェッジ溝と、
前記ベース部材および前記スライド部材における互いに対向する複数対の前記ウェッジ溝内にそれぞれ挟持されて配置された複数のローラと、
前記複数のローラの軸方向への移動および前記複数のローラ間の相対的な移動を規制するローラ保持部材と、
前記ベース部材および前記スライド部材における複数対の前記ウェッジ溝内に、前記ローラ保持部材により保持されたそれぞれの前記ローラを挟持した状態で、挟持方向に押圧力を付与するウェッジ付勢部材とから構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記第2運動変換機構が、
前記電動モータユニットの出力回転軸に繋がって設けられたカム部材、もしくはインボリュート形状のピニオン歯部材と、
前記スライド部材に形成されて、前記カム部材もしくはピニオン歯部材と噛合するラック歯とから構成され、
前記電動モータユニットにより前記カム部材もしくはピニオン歯部材を回転させることにより、前記ラック歯を介して前記スライド部材を前記スライド移動させるように構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記ベース部材が、アジャスト機構を介して前記キャリパに対して前記制動面に直交する方向に移動可能に取り付けられており、
前記摩擦パッドの摩耗に応じて発生する前記制動面と前記摩擦パッドとの隙間の増加を、前記アジャスト機構により前記ベース部材を前記制動面に近づく方向に移動させて調整可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−237408(P2012−237408A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107678(P2011−107678)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000220712)株式会社TBK (13)
【Fターム(参考)】