説明

ディスク表面欠陥検査方法及び装置

【課題】ハードディスク装置における記録密度の向上に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクとのスペーシング(浮上量)は数十nmから数nmと非常に狭くなってきており、ディスク基板表面の1μm程度の微小欠陥の凹凸を弁別して検出することは重要な解決課題である。
【解決手段】回転するディスク基板表面に、斜め方向からレーザ光を照射するステップと、微小な凹凸の欠陥からの低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度を検出するステップと、前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が一定の場合、微小な凸状欠陥であると判断するステップと、前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が変化する(大きくなる)場合、微小な凹状欠陥であると判断するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク表面上の欠陥を光学的に検出して欠陥種類の判別を行うディスク表面欠陥検査方法及び装置に係り、特に1μm程度の微小な大きさの凹凸欠陥を弁別するディスク表面欠陥検査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置に用いられる磁気記録媒体には、ディスク基板上に磁性体を蒸着した磁気ディスクが使用される。この磁気ディスクに、磁気ヘッドで磁気情報の記録あるいは再生を行う。近年、ハードディスク装置における記録密度の向上に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクとのスペーシング(浮上量)は数十nmから数nmと非常に狭くなってきている。
【0003】
そのため、ディスク基板に浮上量より大きい凸状欠陥が存在すると、磁気ディスクと磁気ヘッドが接触し、ハードディスク装置が故障する原因となる。磁気ディスクの歩留まりを向上させるためには、磁性体を蒸着する前の状態において、上記した欠陥の有無を検査し、不良品を後工程に流さないようにすることが重要である。また、大きな凸状欠陥以外でも、凹状欠陥も問題となってきている。
【0004】
特許文献1には、ディスク基板からの散乱光と正反射光を同時に検出することにより、基板表面の異物、傷、バンプ欠陥、ピット欠陥を検出すると共に、正反射光を検出することにより、基板全体のうねりや局所的なうねりの影響を低減して、欠陥の信号レベルを確実に検出できるようにした表面欠陥検査方法及び装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、所定の狭い範囲でのみ散乱光を集光することのできる立体角の小さな集光手段を、投光系から照射されるレーザ光と同一軸上に所定の散乱光の指向性にあわせた仰角に配置することにより、立体角が小さく形成された集光手段は狭い範囲にある鋭い指向性を持つ散乱光のみを受光することができ、サークルスクラッチ欠陥を重点的に検出できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-2680189号公報
【特許文献2】特開2001-066263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の方法では、凹み欠陥と異物の弁別は、正反射光の重心ずれによる弁別を行っているが、そのサイズは5μm程度であり、1μm程度の微小欠陥の凹凸を判別することは困難である。これは、1μm程度の微小欠陥からの反射光を受光手段が受光した場合、従来の検出系では受光器の感度が高いため欠陥の波高値はオーバーレンジになってしまうためである。前述の通り、ハードディスク装置における記録密度の向上に伴い、磁気ヘッドと磁気ディスクとのスペーシング(浮上量)は数十nmから数nmと非常に狭くなってきており、ディスク基板(単に、ディスクともいう)表面の1μm程度の微小欠陥の凹凸を判別して検出することは重要な解決課題となっている。
【0008】
本発明の目的は、従来の方法では弁別が困難であるディスク表面上の1μm程度の微小な凹凸欠陥を弁別可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のディスク表面欠陥検査方法においては、
回転するディスク表面に、斜め方向からレーザ光を照射するステップと、
微小な凹凸の欠陥からの低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度を検出するステップと、
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が一定の場合、微小な凸状欠陥であると判断するステップと、
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が変化する場合、微小な凹状欠陥であると判断するステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
前記微小な凹状欠陥は深さが約1μm程度であり、前記微小な凸状欠陥は高さが約1μm程度である。
【0011】
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が変化する場合とは、前記低角度散乱光の強度に対して前記高角度散乱光の強度が低下する状態である。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のディスク表面欠陥検査装置においては、
回転するディスク表面に、斜め方向からレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する第1の低角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する前記第1の低角度散乱光受光器よりも低感度の第2の低角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する第1の高角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する前記第1の高角度散乱光受光器よりも低感度の第2の高角度散乱光受光器と、
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率を求め、
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が一定の場合、微小な凸状欠陥であると判断し、前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が変化する場合、微小な凹状欠陥であると判断する手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
前記微小な凹状欠陥は深さが約1μm程度であり、前記微小な凸状欠陥は高さが約1μm程度である。
【0014】
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が変化する場合とは、前記第2の低角度散乱光受光器の出力強度に対して前記第2の高角度散乱光受光器の出力強度が低下する状態である。
【0015】
前記第2の低角度散乱光受光器は、前記ディスク表面の約1μm程度の凹凸欠陥からの散乱光に対して感度特性を有し、前記第2の高角度散乱光受光器は、前記ディスク表面の約1μm程度の凹凸欠陥からの散乱光に対して感度特性を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ディスク表面上の1μm程度の微小な凹凸欠陥を弁別して検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るディスク表面欠陥検査装置の一実施例を示す概念図である。
【図2】本発明に係るディスク表面欠陥検査方法における微小凹凸欠陥の弁別方法を示す図である。
【図3】斜方から照射した場合における異物からの散乱光の発生状態を示す図である。
【図4】斜方から照射した場合における凹み欠陥からの散乱光の発生状態を示す図である。
【図5】ライト系とダーク系における異物とモデル化した凹みの散乱光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、散乱光光学系を用いた凹凸の散乱感度特性について説明する。対象欠陥の形状により発生する散乱光のパターンは異なってくる。
図3と図4は斜め方向から照明した場合における異物と凹み欠陥からの散乱光の発生状態を示す図である。図3はディスク基板(ディスク)1の表面に存在する異物等の凸状の欠陥10からの散乱光の発生状態を示す図であり、同図(a)は左側から斜方照明した場合を示し、同図(b)は同図(a)に示す照明方向に対して直角の方向から見たときの状態を示す。照明光20がディスク基板1に対して斜め方向から照明されると異物10からは、散乱光22a、22bのような分布で発生する。このように、異物10のような突起物からは、図3(b)に示すように左右対称に散乱する分布が多く見られる。但し、例外的に照明条件、異物の大きさによっては左右対称にならない場合もある。
【0019】
図4はディスク基板1の表面に存在する凹み欠陥などの傷欠陥12からの散乱光の発生状態を示す図であり、同図(a)は左側から斜方照明した場合を示し、同図(b)は同図(a)に示す照明方向に対して直角の方向から見たときの状態を示す。照明光30がディスク基板1に対して斜め方向から照明されると欠陥12からは、散乱光の32a、32bのような分布で発生する。傷12の直角方向には反射、散乱光32aの発生は大きいが、同図(b)に示すように、傷方向には反射、散乱光32bの発生が小さくなる。
【0020】
図5は低角度散乱光受光系(ライト系)と高角度散乱光受光系(ダーク系)における異物とモデル化した凹みの散乱光強度のシミュレーション結果を示す。異物の場合、ライト系とダーク系は常に同じ比率関係αを示しているに対して、凹み欠陥の場合、あるサイズ以上になるとライト系とダーク系の比率が欠陥サイズによって次第に大きくなることが分かった。本発明はこの欠陥形状による散乱光強度の特性を利用し、凹凸の弁別を図るものである。従来の検出系では受光器の感度が高いため欠陥の波高値はオーバーレンジになってしまうため、特性が得られず、弁別ができなかった。そこで、本発明ではこの特性が得られる感度レベルまで感度を落とした、ライト系とダーク系の受光器を追加することにした。
【0021】
図1に本発明の一実施例によるディスク表面欠陥検査装置の概念図を示す。図1に示すように従来装置のライト系(検出用)とダーク系(検出用)に対して、散乱光を反射ミラーにて分岐させて新たな低感度の受光系を追加することで、微小凹凸欠陥の弁別を行うものであり、構成は次の通りである。回転するディスク基板1の表面に対して、斜め方向からレーザ光を照射するレーザ源(投光器)2と、ディスク基板1の表面からのレーザ光の散乱光をレンズ3a,3b、反射ミラー4aを通して受光するライト系(検出用)受光器(第1の低角度散乱光受光器)5aと、ディスク基板1の表面からのレーザ光の散乱光をレンズ3a,3b、反射ミラー4aを通して受光する前記第1の低角度散乱光受光器5aよりも低感度のライト系(弁別用)受光器(第2の低角度散乱光受光器)5bと、ディスク基板1の表面からのレーザ光の散乱光をレンズ3c,3d、反射ミラー4bを通して受光するダーク系(検出用)受光器(第1の高角度散乱光受光器)6aと、ディスク基板1の表面からのレーザ光の散乱光をレンズ3c,3d、反射ミラー4b,4cを通して受光する前記第1の高角度散乱光受光器6aよりも低感度のダーク系(弁別用)受光器(第2の高角度散乱光受光器)6bと、から構成されている。ここで、第2の低角度散乱光受光器5bと、第2の高角度散乱光受光器6bは、前記図5で示した散乱光特性が得られるレベルまで感度を低下させている。
【0022】
図1に示す構成によれば、ディスク基板1上の1μmより大きなサイズの凹凸欠陥は、回転するディスク基板1表面にレーザ光源2からレーザ光を照射し、その散乱光を第1の低角度散乱光受光器5aと第1の高角度散乱光受光器6aで受光し、その出力から弁別して検出することができる。そして1μm程度の微小凹凸欠陥は、図2に示す処理を行うことで弁別して検出することができる。図2において、回転するディスク基板1表面にレーザ光源2からレーザ光を照射し、その散乱光を第2の低角度散乱光受光器5bと第2の高角度散乱光受光器6bで受光し、第2の低角度散乱光受光器5bの出力としてライト信号を、第2の高角度散乱光受光器6bの出力としてダーク信号を得る(ステップ200)。次に、ライト信号とダーク信号の比率をあるαというしきい値に設定し、ライト信号とダーク信号の比率がαであるか、変化しているか(αより大きいか)を判断する(ステップ202)。ライト信号とダーク信号の比率がαより大きくなっている場合は凹み欠陥として弁別する(ステップ204)。また、ライト信号とダーク信号の比率がαである場合には異物として弁別する(ステップ206)。
【0023】
以上説明したとおり本発明の実施例によれば、ディスク表面上の1μm程度の微小な凹凸欠陥を弁別して検出することが可能である。また、従来のディスク表面欠陥検査装置の受光系に、1μm程度の微小な凹凸欠陥を弁別するための受光系を追加するだけの構成であるので、コストの上昇を最小限に抑え、従来の検査機能を低下させることなく微小欠陥を弁別して検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ディスク表面上の1μm程度の微小な大きさの凹凸欠陥を弁別して検出することができるので、ディスク表面欠陥検査装置に適用して有用である。
【符号の説明】
【0025】
1…ディスク基板、2…レーザ光源、3a,3b,3c,3d…レンズ、4a,4b,4c…反射ミラー、5a…ライト系(検出用)受光器(第1の低角度散乱光受光器)、5b…ライト系(弁別用)受光器(第2の低角度散乱光受光器)、6a…ダーク系(検出用)受光器(第1の高角度散乱光受光器)、6b…ダーク系(弁別用)受光器(第2の高角度散乱光受光器)、10…異物、12…凹み欠陥、20…照明光、22a,22b…散乱光、30照明光、32a,32b…散乱光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するディスク表面に、斜め方向からレーザ光を照射するステップと、
微小な凹凸の欠陥からの低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度を検出するステップと、
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が一定の場合、微小な凸状欠陥であると判断するステップと、
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が変化する場合、微小な凹状欠陥であると判断するステップと、
を含むことを特徴とするディスク表面欠陥検査方法。
【請求項2】
前記微小な凹状欠陥は深さが約1μm程度であり、前記微小な凸状欠陥は高さが約1μm程度であることを特徴とする請求項1記載のディスク表面欠陥検査方法。
【請求項3】
前記低角度散乱光の強度と高角度散乱光の強度の比率が変化する場合とは、前記低角度散乱光の強度に対して前記高角度散乱光の強度が低下する状態であることを特徴とする請求項1記載のディスク表面欠陥検査方法。
【請求項4】
回転するディスク表面に、斜め方向からレーザ光を照射するレーザ光源と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する第1の低角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する前記第1の低角度散乱光受光器よりも低感度の第2の低角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する第1の高角度散乱光受光器と、
前記ディスク表面からの散乱光を受光する前記第1の高角度散乱光受光器よりも低感度の第2の高角度散乱光受光器と、
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率を求め、
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が一定の場合、微小な凸状欠陥であると判断し、前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が変化する場合、微小な凹状欠陥であると判断する手段と、
を有することを特徴とするディスク表面欠陥検査装置。
【請求項5】
前記微小な凹状欠陥は深さが約1μm程度であり、前記微小な凸状欠陥は高さが約1μm程度であることを特徴とする請求項4記載のディスク表面欠陥検査装置。
【請求項6】
前記第2の低角度散乱光受光器の出力と前記第2の高角度散乱光受光器の出力との比率が変化する場合とは、前記第2の低角度散乱光受光器の出力強度に対して前記第2の高角度散乱光受光器の出力強度が低下する状態であることを特徴とする請求項4記載のディスク表面欠陥検査装置。
【請求項7】
前記第2の低角度散乱光受光器は、前記ディスク表面の約1μm程度の凹凸欠陥からの散乱光に対して感度特性を有し、前記第2の高角度散乱光受光器は、前記ディスク表面の約1μm程度の凹凸欠陥からの散乱光に対して感度特性を有することを特徴とする請求項4記載のディスク表面欠陥検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−236985(P2010−236985A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84382(P2009−84382)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】