説明

デジタルPLL回路、情報再生装置、ディスク再生装置および信号処理方法

【課題】複数の倍速に対応できることを前提に、再生性能を落とすことなくトータルの回路規模および消費電力が小さく、しかもループ遅延が小さい安定なPLLを提供する。
【解決手段】A/D変換器は入力チャネルレートに依存せず高速なサンプリングを行い、ダウンコンバータにより必要なチャネルレートに落とす。これにより倍速数に依存せずにAAFの特性を単一化できるためアナログ回路を小型化できる。また、デジタル位相追従部は補間型完全デジタル位相追従構成とすることでループ遅延を最小化できる。一方、CAV再生時には入力レートに応じてタウンコンバータのデシメーション比Mを変更することでデジタル回路の動作クロックが必要以上に上がることを押さえ消費電力増加を防ぐ。デシメーション比Mの切り替え時はデジタル回路内部遅延を考慮してデジタル位相追従部の内部周波数切り替えタイミングを遅らせることで位相周りのないシームレスな切り替えを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にディスク状の記録媒体に記録されたデータから同期クロックを生成するデジタルPLL回路と、このデジタルPLL回路を用いた情報再生装置と、この情報再生装置を用いたディスク再生装置と、このデジタルPLL回路を用いた信号処理方法とに係る。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、DVD(Digital Versatile Disc)プレーヤーおよびDVDレコーダーなどの急速な普及に伴い、音楽データだけではなく映像データを含む大容量のデジタルデータを個人が記録あるいは再生することが当たり前となっている。映像情報を保存するために、DVD−R/+Rといった安価な記録用メディアが普及しており、これらの記録用メディアは、記録後にDVDプレーヤーでの再生が可能である。最近は、DVDプレーヤーから、より大容量記録再生が可能なBD(Blu−ray Disc)プレーヤーへの置き換えが進んでいる。
【0003】
光ディスク装置の情報再生技術に関して説明する。光ディスク媒体上には同心円状あるいはスパイラル状の案内溝(トラック)が形成されており、このトラックに沿って無数の微小情報ピットが形成されている。光ディスク装置は、集光したレーザビームを、スピンドルモータによって回転する光ディスク媒体記録面に照射する。このとき、光ディスク面とビーム集光用対物レンズの距離が一定になるようにフォーカシングサーボがかけられる。また、集光ビームがトラックを追従するように、光ディスク半径方向に対してトラッキングサーボがかけられる。これにより、集光ビームは光ディスク上に形成した微小情報ピットを正確に走査する。情報ピットの有無は集光ビーム反射光の明暗あるいは偏光として検出可能でありフォトディテクタにより再生RF(Radio Frequency:高周波)信号、すなわち電気信号として検出される。集光ビーム径は、レーザー波長および対物レンズNA(Numeral Aperture:開口)に依存し、かつ有限である。そのため、符号間干渉が発生し、再生RF信号の周波数特性は、高域ゲインが低下するLPF(Low Pass Filter:ローパスフィルタ)特性となる。そこで、高域ゲインを持ち上げるようなフィルタを通した後、PLL(Phase Locked Loop)によって同期クロックを抽出し、この同期クロックのタイミングでRF信号をデジタルデータとして識別する。その後、RLL(Run Length Limited:ランレングス制限)符号による復調やECC(Error Correction Code:誤り訂正符号)による誤り訂正を行った後、音楽情報や映像情報などとして取り出すことになる。記録時には、この逆でユーザ情報にECCパリティーを付加し、8/16変調を施し、フレーム単位に特殊コードを付加した情報を記録クロックに同期して光ディスク上に記録する。一定周波数で半径方向に蛇行した案内溝より蛇行成分を検出し、これを逓倍して記録クロックを生成する。検出した蛇行成分をウォブル信号と呼ぶ。記録したい位置でレーザパワーを上げることで、集光部分の温度を上昇させて、物理特性を可逆あるいは不可逆的に変化させることで、微小情報ピットが形成される。
【0004】
ところで、光ディスクなどのディスク状の記録媒体の回転を制御する方法には、主に次の2種類の方式が存在する。すなわち、線速度を一定に保つCLV(Constant Linear Velocity:線速度一定)制御方式と、回転角速度を一定とするCAV(Constant Angular Velocity:角速度一定)制御方式である。CAV制御では、スピンドルモータのトルクが小さくて済み、消費電力も抑えられる。その半面、内外周の線速度の比率は約2.4倍であり、再生信号から同期クロックを抽出するPLLのキャプチャ周波数レンジにおいては、内周での周波数レンジを1とするとき、1から2.4までの範囲をカバーする必要がある。
【0005】
続いて、再生RF信号から同期クロックを抽出する従来技術のPLLに関して説明する。光ディスク装置では、光ディスクからの読み出し性能をできるだけ上げるため、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)法などのデジタル信号処理によって、読み出したRF信号を2値化することが一般的になっている。このためにはRF信号をADC(Analog to Digital Convertor:アナログデジタル変換器)によってデジタル化する必要があり、PLLもデジタル化の後、サンプル列の位相誤差が最小になるように制御する必要がある。ADCのサンプリングクロックは周波数制御可能な局所発振器周出力とし、ADC後に正しく位相比較を行うためにHPF(High Pass Filter:ハイパスフィルタ)などで処理を行い、その出力から位相比較器により位相誤差を生成する。位相誤差はデジタルループフィルタに入力され周波数情報が生成される。この周波数情報をDAC(Digital to Analog Convertor:デジタルアナログ変換器)によりアナログ信号に変換しVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)といった局所発振器の発振周波数を制御する。すなわちデジアナ混在のPLLループが形成される。このPLLでは、ADC、DACの変換時間、VCOの応答速度、HPFによる出力遅延など、ADCから局所発振器出力に至るまでのループ遅延が大きく、ループゲインを上げた時に系の安定性が損なわれるという問題がある。
【0006】
これに対して、PLLのループ遅延を最小にするため、チャネルクロックよりも高い固定周波数でオーバーサンプリングしたデジタル情報を用いるクロックタイミングリカバリ方式がある。例えば、特許文献1(特開2010−154083号公報)には、従来のデジタルPLLに係る記載が開示されている。特許文献1のデジタルPLLについて、図1を用いて説明する。図1は、従来技術のデジタルPLL回路の構成を示すブロック図である。ADC101から出力された信号を、HPFなどのフィルタ115により処理した後、補間器102でレート変換し、位相比較器(PC:Phase Comparator)103により補間器102出力時点の位相誤差を生成する。この位相誤差をもとに、ループフィルタ(LPF)104は周波数情報を生成しNCO(Numerical Controlled Oscillator:数値制御発振器)106の発振周波数を制御する。NCO106は発振周波数に応じた補間位相Φを生成し、補間器102を制御することで位相同期ループを形成する。
【0007】
図1のデジタルPLLでは、ADCおよびDACの変換時間およびVCOの入出力応答時間が存在しないため、ループ遅延を小さくすることが可能である。もちろん、フィルタ115はループの外側に設けられているため、その影響を受けない。また、入力チャネルレートに対して2段階のサンプリングクロック周波数が選択でき、入力信号が低チャネルレート時にマスタクロック周波数が無駄に高くならないような構成となっている(特にCAV再生時の内周条件)。マスタクロック切り替え時に同期クロックの周波数ずれが発生しないようにセレクタ111と乗算器105によってNCO106の入力周波数値をステップ上に切り替える機能を有し、切り替え時の位相ずれをFIFO(First In First Out)メモリ116とセレクタ117によって補正する。
【0008】
同様に、PLLループ遅延を最小化しかつ低レート入力時でもサンプリングクロック周波数が高くならないようにした構成として、特許文献2(WO2008/129708号公報)には、従来技術によるクロックリカバリ方式が記載されている。特許文献2のクロックリカバリ方式について、図2を用いて説明する。図2は、従来技術のデジタルPLLを含む再生信号処理装置の構成を示すブロック図である。再生信号はADC202によりオーバーサンプリングされる。周波数比率算出部203は、ADC202の出力を入力して、再生信号チャネルクロックと、クロック生成部201の出力との、周波数比を算出する。この結果をもとにデジタル値生成部207は周波数情報を生成し、DAC211はこの周波数情報によりVCO212を制御し、VCO212の出力はサンプリングクロックとなる。すなわち、サンプリングクロック周波数はチャネルクロックとは非同期ではあるが、サンプリングクロックとチャネルクロックの周波数比は一定になるように制御される。一方、ADC202出力は位相補正量算出部204にも入力されて、位相補正量算出部204は位相誤差を生成する。擬似同期クロック生成部205は、この位相誤差を入力して、位相情報と共に疑似同期クロックを生成する。この構成のメリットは、PLLループを2段構成とすることによりPLLループディレイを短くすると同時に、特許文献1よりも高い自由度でADCサンプリングクロック周波数を制御することが可能となることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−154083号公報
【特許文献2】WO2008/129708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この特許文献1に開示されたデジタルPLLにはいくつかの問題がある。第1の問題点は、図1には図示していないADC前段のAAFを含む高帯域ブーストフィルタ回路の規模が大きくなってしまう点である。一般的な光ディスク装置は、CD(Compact Disc)/DVD/BDなど各種メディアに対応し、かつ、読み出し速度(以下、「倍速」と記す)も1倍速から16倍速までなどのように入力されるチャネルレートの周波数レンジが非常に広く、サンプリング周波数も倍速に比例して広いレンジが必要となる。特許文献1では、サンプリング周波数は2段階に切り替えることはできるもののレンジが不足するため、発振部113は周波数シンセサイザで構成し、倍速に応じて適したサンプリングクロックを発生させる必要がある。A/D変換を行う前提条件として、エリアシングノイズ除去のためADC前段で帯域を制限する必要があるのは言うまでもないが、サンプリング周波数レンジが広いということは、AAF(Anti−Aliasing Filter:アンチエリアシングフィルタ)のカットオフ周波数も広いレンジで切り替えが出来るようにする必要があることを意味する。さらに、ブースト特性も持たせたフィルタにする場合には、アナログ回路規模の増大、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)化時のダイサイズ増加、歩留り低下などが懸念される。第2の問題点は、CAV動作時の回路消費電力が大きい点である。これはサンプリングクロック周波数の切り替え種類が2種程度しか無いことに起因する。第3の問題点は、サンプリング周波数切り替え時の位相合わせのためにFIFOメモリによる切り替えを行うと、FIFOメモリに溜まっているデータ分だけエラーが発生することになる。場合によっては、PLLの位相スリップが発生し、切り替え直後の1syncフレーム期間全てがエラーとなることも考えられる。
【0011】
一方、特許文献2に開示された光ディスク装置にもいくつかの問題点がある。第1の問題点は、特許文献1の場合と同様にADC前段のAAFを含む高帯域ブーストフィルタ回路の規模が大きくなってしまう点である。理由も上述の通りである。第2の問題点は、アナログ回路(VCOおよびDAC)が必要であるために、回路量および消費電力が増えてしまう点である。これは、ADCのサンプリングクロック周波数を連続的に変化させる構成となっていることが原因である。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、複数の倍速に対応できることを前提に、再生性能を落とすことなく、トータルの回路規模および消費電力が小さく、しかもループ遅延が小さい安定なPLLを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0014】
本発明によるデジタルPLL回路は、AAF(1)と、ADC(2)と、ダウンコンバータ(3)と、デジタル位相追従部(5)とを具備する。ここで、AAF(1)は、入力したRF信号の周波数帯域を、所定のカットオフ周波数(fc)に基づいて制限する。ADC(2)は、AAF(1)の出力信号を、所定のサンプリング周波数(fs)に基づいてサンプリングする。ダウンコンバータ(3)は、ADC(2)の出力信号のデータレートを変換する。デジタル位相追従部(5)は、ダウンコンバータ(3)の出力信号から同期クロック信号(gclk)を所定の内部周波数に基づいて生成する。カットオフ周波数(fc)およびサンプリング周波数(fs)は、RF信号の周波数帯域が変動してもそれぞれに固定されている。ダウンコンバータ(3)は、RF信号の周波数帯域の上昇に応じてデータレートを低減する。
【0015】
本発明による信号処理方法は、入力したRF信号の周波数帯域を、所定のカットオフ周波数(fc)に基づいて制限するステップと、周波数帯域を制限した信号を、固定された所定のサンプリング周波数(fs)に基づいてサンプリングするステップと、サンプリングした信号のデータレートを変換するステップと、データレートを変換した信号から同期クロック信号(gclk)を所定の内部周波数に基づいて生成するステップとを具備する。ここで、カットオフ周波数(fc)およびサンプリング周波数(fs)は、RF信号の周波数帯域が変動してもそれぞれに固定されている。データレートを変換するステップは、RF信号の周波数帯域の上昇に応じてデータレートを低減するステップを具備する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるデジタルPLL回路および信号処理方法の第1の効果は、ADC周辺のアナログ回路の規模を最小限に抑えることができる点である。その理由は、ADCのサンプリング周波数を入力チャネル周波数に依存しない固定周波数にできるため単一特性のAAFで構成できること、および周波数シンセサイザが不要であること、さらに補間型デジタル位相同期構成のためVCOやDACが不要であるためである。
【0017】
本発明によるデジタルPLL回路および信号処理方法の第2の効果は、PLLのループディレイを小さくしながら、PLL部の消費電力が低倍速ほど低くなる点である。その理由は、高速サンプル後に倍速に応じてデシメーション比Mを変更して、サンプル補間デジタルPLLへの入力レートを変更するためである。
【0018】
本発明によるデジタルPLL回路および信号処理方法の第3の効果は、PLL同期状態でデシメーション比Mを切り替えても位相同期が維持できる点である。その理由は、タイミング制御手段によりデジタルPLLの周波数の切り替えタイミングを遅らせたためである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、従来技術のデジタルPLL回路の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、従来技術のデジタルPLLを含む再生信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1による第1のデジタルPLL回路の全体的な構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1による第1のデジタルPLL回路におけるダウンコンバータの構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1による第2のデジタルPLL回路の全体的な構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における各信号の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図7】図7は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における、AAF、ADC、ダウンコンバータ、等化器の周波数特性を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における、デジタル位相追従部の動作を示すタイミングチャートである。
【図9】図9は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における各種数値の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図10】図10は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における各種信号の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図11】図11は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における位相比較器の動作例を示すタイミングチャートである。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2による情報検出器の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態3によるディスク再生装置の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明によるデジタルPLL回路および信号処理方法を実施するための形態を以下に説明する。
【0021】
(実施の形態1)
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図3は、本発明の実施の形態1による第1のデジタルPLL回路の全体な構成を示すブロック図である。図3のデジタルPLL回路は、AAF1、ADC2、ダウンコンバータ3、デジタル等化器4、デジタル位相追従部5およびタイミング生成器6を具備している。ダウンコンバータ3は、その内部に、デシメーションフィルタとしてのLPF31、デシメータ32およびクロック分周器33を具備している。デジタル位相追従部5は、その内部に、補間器51、位相比較器(PC)52、ループフィルタ53およびNCO54を具備している。
【0023】
図3のデジタルPLL回路における構成要素同士の接続関係および入出力する信号について概略的に説明する。AAF1において、入力部はRF信号を入力する。なお、カットオフ周波数fcは、AAF1の特性パラメータとして用いられる。ADC2において、第1の入力部はAAF1の出力部に接続されており、第2の入力部は周波数がfsであるサンプリングクロック信号sclkを入力し、出力部はデジタル化されたRF信号であるSRF信号を出力する。ここで、周波数fsはいわゆるサンプリング周波数である。LPF31において、第1の入力部はADC2の出力部に接続されてSRF信号を入力し、第2の入力部はデシメーション比Mを表す信号を入力する。クロック分周器33において、入力部はサンプリングクロック信号sclkを入力し、出力部は周波数がfs/Mであるクロック信号mclkを出力する。デシメータ32において、入力部はLPF31の出力信号を入力し、出力部はデータレートを1/M倍にしたMRF信号を出力する。デジタル等化器4において、第1の入力部はデシメータ32の出力部に接続されてMRF信号を入力し、第2の入力部はクロック分周器33の出力部に接続されてクロック信号mclkを入力し、出力部はERF信号を出力する。補間器51において、第1の入力部はデジタル等化器4の出力部に接続されてERF信号を入力し、第2の入力部はNCO54の第1の出力部に接続されてΦ信号を入力し、出力部はGRF信号を出力する。位相比較器52において、入力部は補間器51の出力部に接続されてGRF信号を入力し、出力部は位相誤差信号を出力する。ループフィルタ53において、第1の入力部は位相比較器52の出力部に接続されて位相誤差信号を入力し、第2の入力部はタイミング生成器6の第2の出力部に接続されてプリセット信号を入力し、第3の入力部は周波数情報fnco×M’/Mを入力し、出力部は周波数情報fncoを出力する。NCO54において、入力部はループフィルタ53の出力部に接続されて周波数情報fncoを入力し、第1の出力部はΦ信号を出力し、第2の出力部は周波数がfchであるgclk信号を出力する。タイミング生成器6において、入力部はM’を入力し、第1の出力部はデシメーション比Mを出力し、第2の出力部はプリセット信号を出力する。
【0024】
図3のデジタルPLL回路の動作について詳細に説明する。光ディスク等から読み出したRF信号は、まず、AAF1により周波数帯域が制限された信号に変換される。このとき、AAF1で用いられるカットオフ周波数fcは、次段に接続されるADC2で折り返し雑音の影響が無視できるように、サンプリングクロック周波数fsの半分以下とする。また、カットオフ周波数fcは、再生する必要のある最も高い倍速の信号が通る帯域に設定する。同様に、サンプリングクロックsclkは、入力チャネル倍速に依存せずに最高倍速時に最適なサンプリング周波数を有するものとする。これにより、AAF1の周波数特性は変更する必要が無くなり、回路をコンパクトにすることができる。なお、低倍速入力でもADC2を高速動作させることになるが、通常のフラッシュ方式のADCを用いる場合には、多数のコンパレータを駆動するためのアナログ回路が消費電力の主要部分を占めるので、トータルの消費電力は低速サンプリングの場合でも、高速サンプリングの場合でも大差はない。
【0025】
デジタル化されたRF信号であるSRF信号は、ダウンコンバータ3に入力されて、所望のデータレートに変換される。ここで、ダウンコンバータ3は、いわゆるデシメーションと呼ばれる処理を行う。単なる間引きによりデータレートを下げた場合は、折り返し雑音の影響を受けてしまう。この減少を避けるために、本発明の実施形態によるダウンコンバータ3では、デシメーションフィルタ31により帯域制限を行った後、デシメータ32により間引き処理を行う。デシメーションフィルタ31の周波数特性は、先のAAFと同様に、LPF特性を有するものとする。ADC2におけるサンプリング周波数をfs、デシメーション比をMとすると、MRF信号のデータレートはfs/Mとなる。このデシメーションフィルタ31は、通常のFIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)を用いて構成することもできるが、後述する構成により大幅に簡略化できる。入力される信号の倍速に応じてデシメーション比Mを変更する必要があるが、低倍速入力ほどデシメーション比Mを大きくする必要がある。
【0026】
デジタル等化器4は、高域ブースト特性を有し、ダウンコンバータ3が出力するMRF信号を入力してERF信号を生成する。その後、ERF信号はデジタル位相追従部5に供給される。なお、入力信号のSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)が高い場合には、デジタル等化器4は必須ではない。
【0027】
デジタル位相追従部5内の補間器51は、MRF信号あるいはERF信号を入力して、位相が入力信号から補間位相ΦだけシフトしたデータGRF信号を生成する。これより、位相比較器52は位相誤差を生成し、その出力はループフィルタ53に供給される。ループフィルタ53は、積分項と比例項あるいは積分項と1次LPF項を用いて構成され、多ビット幅で表現した周波数値fncoをNCO54に向けて出力する。NCO54は、周波数値fncoを積分して位相情報Φを生成する。
【0028】
デシメーション比をMからM’に切り替える場合、デジタル位相追従部5を動作させるクロック信号mclkの周波数はM/M’倍になる。このため、切り替え直前でPLL同期がとれていても、切り替えた瞬間に同期が外れてしまう。これを防ぐために、切り替えと同時にNCO54の入力周波数fncoをM’/M倍にする。具体的には、ループフィルタ53の構成を、積分項をプリセットできるようにし、切り替え直前の周波数値fncoに比率M’/Mを乗じた値を、タイミング生成器6が生成するプリセットタイミングで設定する。プリセットタイミング信号は、デジタル等化器4、補間器51、位相比較器52の内部遅延を考慮し、ダウンコンバータ3でデシメーション比Mの値を切り替えるタイミングに対して適宜に遅延させる。これにより、切り替えの前後で位相の連続性を保つことが可能である。なお、CAV連続再生時などのように、チャネル周波数が連続的に変化する場合には、データ再生中にデシメーション比Mの値の切り替えが必要である。一方、CLV制御のみを用いるシステムの場合あるいはデシメーション比Mの値の切り替え直後にはデータ再生を行わないシステムの場合には、タイミング生成器6を含めた周波数値fncoをプリセットする構成および機能は不要である。また、位相が同期していない場合は、データの再生も不可能なので、デシメーション比Mの値の切り替えに伴って周波数値fncoを変更する必要はない。なお、PLLロック判別器を設けて、それによって周波数値fncoを切り替えるか否かを選択する機能を追加してもよい。
【0029】
次に、図4を用いて、ダウンコンバータ3を構成するデシメーションフィルタ31、デシメータ32、クロック分周器33の詳細について説明する。
【0030】
図4は、本発明の実施の形態1による第1のデジタルPLL回路におけるダウンコンバータ3の構成を示すブロック図である。図4のダウンコンバータ3は、デシメーションフィルタ31と、デシメータ32と、クロック分周器33とを具備している。デシメーションフィルタ31は、乗算器311と、加算器312と、レジスタ313と、セレクタ314と、メモリ315と、タイミング制御器316とを具備している。
【0031】
図4のダウンコンバータ3における構成要素同士の接続関係および入出力する信号について、概略的に説明する。デシメーションフィルタ31において、第1の入力部はSRF信号を入力し、第2の入力部はタップ係数αを入力し、出力部は加算器312における第1の入力部に接続されている。加算器312において、第1の入力部はデシメーションフィルタ31における出力部に接続されており、第2の入力部はセレクタ314における出力部に接続されており、出力部はレジスタ313における入力部に接続されている。レジスタ313において、入力部は加算器312における出力部に接続されており、出力部はセレクタ314における第1の入力部およびデシメータ32における第1の入力部に接続されている。セレクタ314において、第1の入力部はレジスタ313における出力部に接続されており、第2の入力部は値0を入力し、タイミング信号入力部はタイミング制御器316における出力部からタイミング信号を入力し、出力部は加算器312における第2の入力部に接続されている。タイミング制御器316において、第1の出力部はセレクタ314におけるタイミング信号入力部およびクロック分周期33におけるタイミング信号入力部に向けてタイミング信号を出力する。メモリ315において、第1の入力部はデシメーション比Mを入力し、第2の入力部はタイミング制御器316における第2の入力部に接続されており、出力部はタップ係数αを乗算器311における第2の入力部に向けて出力する。デシメータ32において、第1の入力部はレジスタ313における出力部に接続されており、第2の入力部はクロック分周期33における出力部に接続されており、出力部は外部に向けてMRF信号を出力する。クロック分周期33において、入力部はsclk信号を入力し、タイミング信号入力部はタイミング制御器316における出力部からタイミング信号を入力し、出力部はデシメータ32における第2の入力部および外部に向けてmclk信号を出力する。
【0032】
図4のダウンコンバータ3の各構成要素の動作、すなわち本発明の実施形態によるデジタルPLL回路を用いた信号処理方法について、詳細に説明する。デシメーションフィルタ31は、一般的なFIRフィルタを用いて構成することができるが、その場合は次数と同じだけの乗算器が必要となる。しかし、本発明の場合は、入力レートに対して出力レートが遅いことから、逐次的に乗算をする構成をとることが可能である。図4のダウンコンバータ3は、SRF信号とタップ係数αを乗算器311にて乗算し、この乗算の結果を加算器312にてレジスタ313の値と加算する。この加算の結果は、レジスタ313に蓄えられる。すなわち、図4のダウンコンバータ3では、積和演算が時系列で行われる。メモリ315には、予めタップ係数αが格納されており、タイミング制御器316によりサンプリングクロックsclkの周期でアドレスがインクリメントされる。このサイクルをM回繰り返した後、デシメータ32内のレジスタに積和演算結果が格納される。同時に、レジスタ313は初期化され、あるいは乗算器311による乗算結果がそのままレジスタ313に格納される。Mサイクル毎にen信号が出力され、en信号によりサンプリングクロックsclkをゲーティングすることでサンプリングクロックsclkをM分周したクロック信号mclkを生成する。
【0033】
次に、図5を用いてデータレート変換の自由度を上げたデジタルPLL回路の構成例を示す。
【0034】
図5は、本発明の実施の形態1による第2のデジタルPLL回路の全体的な構成を示すブロック図である。図5のデジタルPLL回路は、図3のデジタルPLL回路に以下の変更を加えたものに等しい。第1の変更点として、ADC2における出力部およびLPF31における第1の入力部との間にインタポーレータ30を追加する。ここで、当然ながら、ADC2における出力部をインタポーレータ30における入力部を接続し、インタポーレータ30における出力部をLPF31における第1の入力部に接続する。図5ではデジタル等化器4が記載されているが、図3と同様に挿入しても構わない。補間器51における第1の入力部は、デシメータ32における出力部に接続されて、デシメータ32が出力するMRF信号を入力する。第2の変更点として、タイミング生成器6における入力部はデシメーション比M’に加えてインタポーレーション比L’を入力し、同じく出力部はデシメーション比Mに加えてインタポーレーション比Lを出力する。第3の変更点として、クロック分周期33は、入力したサンプリングクロックsclkの周波数fsに応じて周波数f=fs×L/Mを有する信号を出力する。図5のデジタルPLL回路のその他の構成は、図3の場合と同じであるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0035】
図5のダウンコンバータ3では、デシメータ32の前段にデータレートをL倍に引き上げるインタポーレータ30が追加されている。これによりMRF信号のデータレートはfs×L/Mとなり、mclkの周波数は、より細かい精度で指定ができる。特に、最高倍速を含むCAV再生時には効果がある。デシメーション比およびインタポーレーション比を、MおよびLからM’およびL’にそれぞれ切り替える時には、周波数値fncoを(LM’)/(ML’)倍に切り替える必要がある。
【0036】
次に、図6のタイミングチャートを用いて、デシメーション比M=4の例におけるダウンコンバータ3の動作について説明する。図6は、本発明の実施の形態1によるダウンコンバータ3における各信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図6のタイミングチャートには、図6(a)〜図6(f)の合計6つのタイミングチャートが描かれている。図6(a)は、サンプリングクロック信号sclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図6(b)は、SRF信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図6(c)は、タップ係数αの時間変化を示すタイミングチャートである。図6(d)は、en信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図6(e)は、mclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図6(f)は、MRF信号の時間変化を示すタイミングチャートである。
【0037】
SRF信号は、RF信号をサンプリングクロックsclkのタイミングでサンプリングすることで得られたデータ列であり、d0、d1、d2,d3、d4…と続くものとする。タップ係数αは、α0、α1、α2、α3、α0、…のように繰り返す。この例では、デシメーション比M=4なので、サンプリングクロック信号の4サイクルがタップ係数αの1周期に相当する。MRFの値を、e0、e1、e2…と続くものとし、4サイクル分のサンプリングクロック信号が出力される度にMRFが1つ出力されるものとする。この時、
e0= d0×α0 + d1×α1 + d2×α2 + d3×α3 、
e1= d4×α0 + d5×α1 + d6×α2 + d7×α3 、
などとなる。en信号は、サンプリングクロック信号の4サイクル毎にHighとなり、このタイミングにおいて、クロック分周器33のゲーティングセルはen信号に制御されてmclkを出力する。
【0038】
次に、図7の特性図を用いて各種フィルタの周波数特性について説明する。図7は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における、AAF1、ADC2、ダウンコンバータ3、デジタル等化器4の周波数特性を示すグラフである。図7のグラフは、AAF1単独の周波数特性の例を示す曲線と、デシメーションフィルタ31、デジタル等化器4の各周波数特性およびRF信号を入力してからERF信号を出力するまでの間のトータルの周波数特性の例を示す曲線とを示している。
【0039】
図7のグラフは、入力信号としてはDVDの2倍速再生信号を想定しており、AAF1は4次、カットオフ周波数fc=200MHz、サンプリングクロック信号sclkの周波数fsは780MHz、デシメータは2段構成とし初段はM=2、次段はM=7、デシメーションフィルタは14次FIRフィルタ相当、デジタル等化器4は5次FIRフィルタとし、3T−3T周波数で3dBブーストするようなタップ係数とした条件下で作成されている。なお、実際には、デジタルフィルタによって遮断特性およびブースト特性が自由に設定可能であることは言うまでも無い。
【0040】
次に、図8のタイミングチャートを用いてデジタル位相追従部5の動作について説明する。図8は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における、デジタル位相追従部5の動作を示すタイミングチャートである。図8には、図8(a)〜図8(g)の、合計7つのタイミングチャートが描かれている。図8(a)は、チャネルクロック信号CLKの時間変化を示すタイミングチャートである。図8(b)は、mclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図8(c)は、補間器51が入力するDRF信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図8(d)は、補間器位相Φの時間変化を示すタイミングチャートである。図8(e)は、イネーブル信号enの時間変化を示すタイミングチャートである。図8(f)は、同期クロック信号gclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図8(g)は、補間器51が出力するGRF信号の時間変化を示すタイミングチャートである。なお、図8(c)において、黒丸はサンプリング点を表しており、また、図8(d)および図8(g)において、黒丸は、図8(c)におけるサンプリング点に対応するタイミングを表している。
【0041】
図8のタイミングチャートにおいて、入力信号としては、2T長のマークおよび2T長のスペースが交互に連続した信号(すなわち「11001100…」)を用いるものとする。ここで、Tはチャネルクロック周期であり、入力信号はチャネルクロック信号CLKよりも若干高い周波数のデータレートで入力される。もちろん、この時点での入力信号は、チャネルクロック信号CLKに同期していない。補間位相Φは、図8(d)に示されるとおり、のこぎり波状であり、その不連続タイミングでイネーブル信号enが一旦Lowとなる。補間器51内の補間関数は、回路規模及び補間精度を勘案して決定する必要があるが、通常は1次関数で問題ない。位相同期がかかっている状態で位相誤差に応じて補間器51の補間位相Φを制御することで、補間器51からは、あたかもアナログPLLで同期をかけてA/D変換したようなデータ列が出力される。補間位相Φが制御範囲を超えると、1サイクル分動作を休むことになるので、不連続部分が発生する。この不連続部分に対応する時間だけ同期クロック信号gclkをとめることで、レートを合わせている。同期クロック信号gclkの発振周波数は、局所的にはmclkと同じだが、平均するとチャネルレートに一致する。
【0042】
次に、図9のタイミングチャートを用いてCAV再生時の全体動作について説明する。図9は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における各種数値の時間変化を示すタイミングチャートである。図9のタイミングチャートには、図9(a)〜図9(d)の、合計4つのタイミングチャートが描かれている。図9(a)は、チャネルレートすなわち入力信号の倍速数の時間変化を示すタイミングチャートである。図9(b)は、デシメーション比Mの時間変化を示すタイミングチャートである。図9(c)は、周波数fs/Mの時間変化を示すタイミングチャートである。図9(d)は、周波数fncoの時間変化を示すタイミングチャートである。
【0043】
図9のタイミングチャートは、DVDを最大4.8倍速のCAV方式にて最内周から最外周まで連続再生した場合の、各種数値の時間変化を示している。DVDの記録領域を、半径方向に4つのゾーンに分割して、内周から順にゾーン1、ゾーン2、ゾーン3、ゾーン4とする。サンプリングクロック信号sclkの周波数fsは、ディスク半径によらず780MHz固定として、ゾーン1〜ゾーン4のデシメーション比Mをそれぞれ12、10、8、6とする。ゾーン1〜ゾーン4のmclk周波数は、各ゾーン内で一定で、それぞれ65MHz、78MHz、97.5MHz、130MHzとなり、DVDの倍速に換算するとそれぞれ2.48倍速、2.98倍速、3.73倍速、4.97倍速に相当する。
【0044】
DVDの最内周から再生を開始すると、図9(a)に示したとおりにチャネルレートは徐々に増加し、図9(d)に示したとおりにfncoも増加する。ゾーン1からゾーン2に切り替る際には、図9(b)に示したとおりにMが小さくなり、mclk周波数が1.2倍増加する。そのままではgclk周波数も1.2倍になってしまうので、これを防ぐためにデジタル位相追従部5内の周波数を1/1.2に落とす。このため、fncoの値は一旦減少するが、DVD読み取り位置の半径と共にまた徐々に増加してゆく。ゾーンの切り替りごとに、mclkを上げることと、fncoを逆比で下げることとが繰り返されるため、fncoの波形はのこぎり波状となる。デシメーション比Mを変えずにディスク全面を連続再生する場合には、DVD全面においてデシメーション比Mを最外周部と同じ条件、すなわち図9(b)の場合はゾーン4の条件に合わせる必要がある。この場合、DVDの最内周部でもmclk周波数を130MHzに保った状態で回路を動作させる必要があり、これは消費電力的に無駄が発生することにつながる。
【0045】
次に、図10のタイミングチャートを用いてデシメーション比M切り替え時の動作について説明する。図10は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における各種信号の時間変化を示すタイミングチャートである。図10には、図10(a)〜図10(f)の、合計6つのタイミングチャートが描かれている。図10(a)は、サンプリングクロック信号sclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図10(b)は、クロック信号mclkの時間変化を示すタイミングチャートである。図10(c)は、デシメーション比Mの時間変化を示すタイミングチャートである。図10(d)は、プリセット信号presetの時間変化を示すタイミングチャートである。図10(e)は、周波数fncoの時間変化を示すタイミングチャートである。図10(f)は、同期クロック信号gclkの時間変化を示すタイミングチャートである。
【0046】
図10のタイミングチャートは、デシメーション比Mを3から2に切り替えた場合の動作を示している。切り替え直前の周波数fncoの値は8121で、デシメーション比Mが2に切り替わった後、内部遅延分相当に遅延させた発振周波数プリセット信号presetが発生する。このとき、クロック信号mclkの周波数は1.5倍に増加するので、周波数fncoは8121の1/1.5である5414に設定される。これにより、切り替え前後で同期クロック信号gclkの周波数は平均的に同じ周波数となる。
【実施例】
【0047】
次に、具体的な実施例を用いて本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路の構成及び動作を説明する。
【0048】
図3の構成図を用いて、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路の動作について説明する。まず、AAF1が、入力したRF信号に対して帯域制限を行った信号を出力し、次に、ADC2が、AAF1の出力信号をデジタル化して出力する。ここで、帯域制限に用いるカットオフ周波数は、サポートする最高倍速の周波数に合わせて設定する。例えば、DVDの24倍速再生ではチャネル周波数が628MHzではあるが、RLL符号の周波数特性より低周波からチャネル周波数の6分の1まで群遅延なく通ればよい。従って、この実施例では、再生マージン等も考慮して、AAF1のカットオフ周波数は100MHz〜200MHzであればよい。また、通過帯域では位相周りが出来るだけ少ないものとし、次数としては4次以上が望ましい。後段のデジタル位相追従部5のため、ADC2はオーバーサンプリングを行うものとする。AAF1のカットオフ周波数fcと、ADC2のサンプリング周波数とは、必ずしも単一とする必要もないが、システム全体の消費電力と回路規模を考慮して、2種類程度の選択肢を持たせてもよい。
【0049】
例えば、チャネルクロック同期(すなわち、1T同期)のPLLの場合には、スピンドルの回転変動を考慮して、サンプリング周波数の101%である634MHzを用いるものとする。チャネルクロック周波数の半分の周波数に同期(すなわち、2T同期)とする場合には、サンプリングクロック周波数を317MHzとしても良い。ADC2の量子化ビット数は、6bit以上で8bit程度が望ましい。
【0050】
デシメーションフィルタ31は高速動作させる必要があるので、通常のFIRフィルタ型ではなく、図4に記載の逐次積和型であることが望ましい。デシメーションフィルタ31のカットオフ周波数を下げるためには、フィルタの次数を大きくする必要があるが、例えば、20次のフィルタを実現するために、2次フィルタの後段に10次フィルタを接続するという多段接続構成を用いても良い。これにより、タップ係数αを格納するためのメモリ315の容量を節約することができる。DVDを1倍速再生する時には、サンプリング周波数は24倍速再生時と同じのまま、デシメーション比Mを24に設定する。この場合、デシメーション後の出力であるMRF信号のデータレートは、1T同期制御では634MHz/24=26.4MHzとなる。
【0051】
デジタル等化器4は、このMRF信号を入力して、高域のゲインを持ち上げるような等化を行って出力する。具体的には、5次程度の対称タップのFIRフィルタを用いる。もちろん、入力波形のSNRが十分高い場合には、このデジタル等化器4はバイパスしてもかまわない。
【0052】
デジタル位相追従部5内の補間器51は、デジタル等化器4の出力信号を入力する。補間器51は、例えば、連続する2サンプリング周期分のERFデータを線形補間して、補間位相Φに相当するデータGRFを生成する。補間関数は高次のものでもかまわないが、必要以上に高次の関数で構成すると補間器51内の遅延の影響でPLLループ遅延が増加するため、3次以下が妥当である。位相比較器52は、補間器51の出力信号を入力し、位相誤差を出力する。
【0053】
図11は、本発明の実施の形態1によるデジタルPLL回路における位相比較器52の動作例を示すタイミングチャートである。図11のタイミングチャートは、位相比較器52が2T長のマークおよびスペースが交互に連続した信号(11001100…)を入力したときの出力波形を示す波形図である。図11には、図11(a)および図11(b)が描かれている。図11(a)は、入力信号の波形を示す波形図である。図11(b)は、出力信号の波形を示す波形図である。
【0054】
図11(a)の入力信号における黒丸は、A/D変換のサンプリング点を表している。位相比較器52は、サンプリングされた入力信号列から、エッジ近傍の振幅値を符号補正して出力する。図11(b)に示すように、位相差が−πまでくると+πに戻るようになっており、したがって検出レンジは±πの範囲内となる。この構成の位相比較器52の位相差検出レンジは、±πとなるが、レンジを広げた位相周波数比較器構成にしてもよい。
【0055】
位相誤差を受けて、次段のループフィルタ53は周波数値を補正する。ループフィルタ53の構成としては、積分項および比例項の組み合わせあるいは積分項および1次LPF項の組み合わせを用いるのが一般的である。周波数情報fncoを伝達するためには、キャプチャレンジと追従精度を考慮して、10bitから20bitのバス幅を用意することが望ましい。ループフィルタ53内の積分項は、加算器およびFF(Flip Flop)にて構成した係数1の1次IIR(Infinite Impluse Response:無限インパルス応答)フィルタ回路である。ここで、このFFは、タイミング生成器6が生成するタイミング信号に応じて任意の値をプリセット可能であるものとする。NCO54は、周波数値fncoを入力し、補間器51の補間位相Φと同期クロック信号gclkを生成する。補間位相Φは、周波数値fncoをモジュロ演算しながら積算することで生成することができる。また、積分時のオーバーフローが発生するタイミング毎にイネーブル信号を生成し、このイネーブル信号でクロック信号mclkをゲーティングすることでも、同期クロック信号gclkを生成することができる。
【0056】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について図面を参照して詳細に説明する。図12は、本発明の実施の形態2による情報検出器の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。図12の情報検出器は、本発明の実施の形態1による図5のデジタルPLL回路の後段にPRML部7を追加したものに等しいので、その他の詳細な説明を省略する。なお、図12のPRML部7は、デジタル位相追従部5が出力するGRF信号および同期クロック信号gclkに基づいて2値化データを生成出力するものである。
【0057】
本発明の実施の形態1は同期クロックを抽出するデジタルPLL回路であったが、実施の形態2はベースバンド伝送された入力信号から2値情報を検出する情報検出器である。構成としては、実施の形態1のデジタル位相追従部5が出力するGRF信号を受けたPRML部7が追加されている。もちろん、PRML部7はデジタル位相追従部5が出力するクロックに同期して動作させるものとする。PRML部7はレベル検出器を用いて構成してもよいし、PRML検出器を用いて構成してもよい。
【0058】
図12には等化器が記載されていないが、図3と同様に、ダウンコンバータ3とデジタル位相追従部5の間にデジタル等化器4などを挿入してもよい。すなわち、図12の情報検出器は、本発明の実施の形態1による図5のデジタルPLL回路の後段にPRML部7を追加することで得られるが、同じく図3のデジタルPLL回路の後段にPRML部7を追加することでも本発明による情報検出器を構成することが可能である。
【0059】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について図面を参照して詳細に説明する。図13は、本発明の実施の形態3によるディスク再生装置の全体的な構成を概略的に示すブロック図である。図13のディスク再生装置は、本発明の実施形態2による図12の情報検出器において、前段には読み取りヘッド12およびRFアンプ13を追加し、後段には復調器8、誤り訂正器9およびシステムコントローラ10を追加したものに等しい。ここで、読み取りヘッド12の後段にはRFアンプ13が接続されており、RFアンプ13の後段には情報検出器におけるAAF1が接続されており、情報検出器におけるPRML部7の後段には復調器8、誤り訂正器9およびシステムコントローラ10がこの順番に直列に接続されている。図13のディスク再生装置のその他の構成については、図12のとおりであるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0060】
本発明の実施の形態3によるディスク再生装置は、実施の形態2による情報検出器をディスク再生装置の情報検出に応用したものである。図示されていないスピンドルモータがディスク状の情報記録媒体11を回転し、読み取りヘッド12が情報記録媒体11に記録された情報を読み出して電気信号に変換する。なお、ディスク状の情報記録媒体11は磁気ディスク、光磁気ディスク、相変化ディスクのいずれであっても、本発明は適用可能である。読み取りヘッド12の読み取り位置は、これも図示されていないアクチュエータなどの手段により正確に制御される。読み取りヘッド12の出力信号は一般的に微弱なため、RFアンプ13によって増幅される。なお、RFアンプ13は、図13の例では読み取りヘッド12とは分離された構成要素として示されているが、読み取りヘッド12の出力が十分大きければRFアンプ13は省略可能であり、また、読み取りヘッド12がRFアンプ13の機能を具備していても構わない。
【0061】
RFアンプ13が出力するRF信号は、情報検出器におけるAAF1に供給され、このRF信号を入力した情報検出器は一連の処理を行った後、このRF信号に対応する2値化データの列を出力する。復調器8はこの2値化データ列を復調して出力する。誤り訂正器9は、復調器8の出力信号にシンボル単位で誤り訂正を施して出力する。誤り訂正器9が出力した訂正後データは、システムコントローラ10を介してさらに上位のシステムに出力される。
【0062】
上記に説明したように、本発明によるデジタルPLL回路は、特にディスク状記録媒体上に記録された情報を再生するための、広いキャプチャンレンジを有するPLLとして好適である。
【符号の説明】
【0063】
1 アンチエリアシングフィルタ(AAF)
2 アナログデジタル変換器(ADC)
3 ダウンコンバータ
30 インタポーレータ(↑L)
31 デシメーションフィルタ(LPF)
311 乗算器
312 加算器
313 レジスタ(Z−1
314 セレクタ
315 メモリ
316 タイミング制御器
32 デシメータ(↓M)
33 クロック分周器(1/M)
4 デジタル等化器(EQ)
5 デジタル位相追従部
51 補間器
52 位相比較器(PC)
53 ループフィルタ(LPF)
54 NCO
6 タイミング生成器
7 PRML部
8 復調器
9 誤り訂正器
10 システムコントローラ
11 情報記録媒体
12 読み取りヘッド
13 RFアンプ
101 ADC
102 補間器
103 位相比較器(PC)
104 ループフィルタ(LPF)
105 乗算器
106 NCO
107 ゲーティングセル
108 2値化回路
109 同期判定器
110 切替タイミング生成器
111 セレクタ
112 セレクタ
113 発振部
114 分周器
115 フィルタ
116 FIFOメモリ(FIFO)
117 セレクタ
201 クロック生成部
202 ADC
203 周波数比率算出部
204 位相補正量算出部
205 擬似同期クロック生成部
206 変調データ生成部
207 デジタル値生成部
208 周波数ロック検出部
211 DAC
212 VCO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力したRF(Radio Frequency:高周波)信号の周波数帯域を、所定のカットオフ周波数に基づいて制限するAAF(Anti Aliasing Filter:アンチエリアシングフィルタ)と、
前記AAFの出力信号を、所定のサンプリング周波数に基づいてサンプリングするADC(Analog to Digital Converter:アナログデジタル変換器)と、
前記ADCの出力信号のデータレートを変換するダウンコンバータと、
前記ダウンコンバータの出力信号から同期クロック信号を所定の内部周波数に基づいて生成するデジタル位相追従部と
を具備し、
前記カットオフ周波数および前記サンプリング周波数は、前記RF信号の周波数帯域が変動してもそれぞれに固定されており、
前記ダウンコンバータは、前記RF信号の周波数帯域の上昇に応じて前記データレートを低減する
デジタルPLL(Phase Locked Loop)回路。
【請求項2】
請求項1に記載のデジタルPLL回路において、
前記データレートを切り替えるタイミングおよび前記デジタル位相追従部の内部周波数を切り替えるタイミングを制御するタイミング信号を生成するタイミング生成器
をさらに具備し、
前記データレートを所定の係数倍に切り替える際に、前記内部周波数を前記所定の係数の逆数倍に切り替える
デジタルPLL回路。
【請求項3】
請求項1または2に記載のデジタルPLLにおいて、
前記ダウンコンバータは、
カットオフ周波数が可変であるローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタの出力信号を間引きするデシメータと
を具備する
デジタルPLL回路。
【請求項4】
請求項3に記載のデジタルPLL回路において、
前記ダウンコンバータは、
前記ローパスフィルタの前段に接続されて、前記ADCの出力信号のデータレートを補間処理により倍増するインタポーレータ
をさらに具備する
デジタルPLL回路。
【請求項5】
請求項3に記載のデジタルPLL回路において、
前記ダウンコンバータの出力信号の波形を等化して前記デジタル位相追従部に供給するデジタル波形等化器
をさらに具備する
デジタルPLL回路。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載のデジタルPLL回路と、
前記デジタル位相追従部がさらに生成する同期サンプルRF情報から2値化データを生成する検出器と
を具備する
情報検出器。
【請求項7】
請求項6に記載の情報検出器と、
前記情報検出器の前段に接続されて、ディスク上の記録媒体に記録された情報を読み取った再生信号を前記RF信号として前記AAFに供給する読み取りヘッドと
を具備する
ディスク再生装置。
【請求項8】
入力したRF信号の周波数帯域を、所定のカットオフ周波数に基づいて制限するステップと、
前記周波数帯域を制限した信号を、固定された所定のサンプリング周波数に基づいてサンプリングするステップと、
前記サンプリングした信号のデータレートを変換するステップと、
前記データレートを変換した信号から同期クロック信号を所定の内部周波数に基づいて生成するステップと
を具備し、
前記カットオフ周波数および前記サンプリング周波数は、前記RF信号の周波数帯域が変動してもそれぞれに固定されており、
前記データレートを変換するステップは、
前記RF信号の周波数帯域の上昇に応じて前記データレートを低減するステップ
を具備する
信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−85111(P2012−85111A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229847(P2010−229847)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】