説明

トロイダル型無段変速機

【課題】第1出力側ディスクおよび第2出力側ディスクによりそれぞれ独立して回転駆動される第1駆動軸および第2駆動軸を備えたダブルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、バリエータの大型化を防ぐことができるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機であって、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの間にワンウェイクラッチ75が設けられている。ワンウェイクラッチは、後輪が空転して、後輪用駆動軸72B(すなわち第2従動歯車71B)の回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも速くなった場合に、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸を連結して(すなわちワンウェイクラッチ75が入りとなり)、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)のトルクを第2出力歯車4Bおよび第2従動歯車を介して前輪用駆動軸へ伝達するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図6および図7に示すように構成されている。図6に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁(中間壁)13に対しアンギュラ玉軸受107を介して支持されるとともに、この仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図7参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図6中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図6の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図6のA−A線に沿う断面図である図7に示すように、ケーシング50の内側であって、出力側ディスク3,3の側方位置には、両ディスク3,3を両側から挟む状態で一対のヨーク23A,23Bが支持されている。これら一対のヨーク23A,23Bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン15の両端部に設けられた枢軸14を揺動自在に支持するため、ヨーク23A,23Bの四隅には、円形の支持孔18が設けられるとともに、ヨーク23A,23Bの幅方向の中央部には、円形の係止孔19が設けられている。
【0007】
一対のヨーク23A,23Bは、ケーシング50の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64,68により、支持ポスト64,68を支点として揺動できるように支持されている。これらの支持ポスト64,68はそれぞれ、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられている。
すなわち、一対のヨーク23A,23Bをそれぞれ揺動自在に支持する一対ずつの支持ポスト、すなわち、一対のヨーク23A,23Bのうちの一方のヨーク23Aを揺動自在に支持する一対の支持ポスト64,64と、他方のヨーク23Bを揺動自在に支持する一対の支持ポスト68,68とを備える。
【0008】
また、前記ヨーク23A(23B)を支持する一対の前記支持ポスト64,64(68,68)は、前記入力軸1の軸方向に沿って並んで配置されている。
また、一対のヨーク23A,23Bをそれぞれ揺動自在に支持する一対ずつの前記支持ポスト64,64,68,68は、各ヨーク23A,23B毎に第1キャビティ221側に配置される前記支持ポスト64,68と、第2キャビティ222側に配置される前記支持ポスト64,68とからなる。
したがって、ヨーク23A,23Bは、各支持ポスト64,68に支持された状態で、その一端部が第1キャビティ221の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ222の外周部分に対向している。
【0009】
第1および第2のキャビティ221,222は同一構造であるため、以下、第1キャビティ221のみについて説明する。
【0010】
図7に示すように、ケーシング50の内側において、第1キャビティ221には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸(傾転軸)14,14を中心として揺動(傾転)する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図7においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向(図7の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面(パワーローラ11)側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0011】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動(傾転)させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0012】
また、前述したように、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図7の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。前述したように、各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受(傾転軸受)30を介して揺動自在(傾転自在)に支持されている。また、前述したように、ヨーク23A,23Bの幅方向(図7の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、支持ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52(支持部材)を介して支持されている支持ポスト64(球面ポスト)によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、支持ポスト68(球面ポスト)およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0013】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図7で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0014】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉26,26と、これら各玉26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0015】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0016】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図7の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(枢軸14から延びる軸部)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0017】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0018】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位(オフセット)する。例えば、図7の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0019】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0020】
ところで、ダブルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、2つのバリエータがそれぞれ、4輪駆動車の前輪および後輪に接続され、各バリエータを独立して変速制御することにより、センターデフを省略可能な4輪駆動用トロイダル型無段変速機が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0021】
このトロイダル型無段変速機は、例えば、図8に示すように構成されている。すなわち、第1バリエータ70Aの第1出力側ディスク3A(3)および第2バリエータ70Bの第2出力側ディスク3B(3)にそれぞれ、別個に第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bが一体的に回転するように連結され、これら第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bにそれぞれ、第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bが歯合され、これら第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bにそれぞれ、前輪用駆動軸72Aおよび後輪用駆動軸72Bが一体的に回転するように連結されている。これにより、前輪用駆動軸72Aおよび後輪用駆動軸72が第1出力側ディスク3Aおよび第2出力側ディスク3Bによりそれぞれ独立して回転駆動される。そして、前記一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させ、これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15を互いに逆方向に変位させる際に、各変位量を独立して制御できるようにし、この変位量の独立制御により、自動車の旋回時、前輪の回転速度に比べて後輪の回転速度を遅くすべく、前輪用駆動軸72Aの回転速度を後輪用駆動軸72Bより遅くするようにしている。なお、図8において、上記以外の構成要素は、図6および図7とほぼ同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2001−165266号公報
【特許文献2】特開2002−206609号公報
【特許文献3】特開平8−312745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、このような従来の4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速では、第1出力側ディスク3Aおよび第2出力側ディスク3Bによりそれぞれ独立して前輪用駆動軸72Aおよび後輪用駆動軸72Bが回転駆動されるので、図9に示すように、前輪および後輪の一方の駆動輪(例えば後輪)が空転すると、他方の駆動輪(例えば前輪)と接続されたバリエータ(例えば、第1バリエータ70A)が100%のトルク伝達を行うことになり、したがってバリエータの大型化が避けられない。
【0024】
この理由をより具体的に説明すると、以下の通りである。
すなわち、図6および図7に示す通常のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速では、前輪と後輪がそれぞれ50%でトルク伝達を行うので、300Nmが原動機からの動力入力軸1に入力されると、両バリエータが150Nmずつ受け持つことになる。そして、両バリエータが1つの出力歯車4により同一の駆動軸を回転駆動し、これにより前輪または後輪を回転駆動させるので、前輪または後輪の車輪が空転した場合、両キャビティに入力されるトルクが小さく(ゼロ)になる。
【0025】
一方、図8に示す4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速では、通常は前輪と後輪が大体それぞれ50%(この前輪と後輪のトルク配分比率は設計により決まり必ずしも50%対50%にはならない。)でトルク配分されるが、一方の駆動軸(例えば、後輪用駆動軸70B)が空転した場合、他方のバリエータ(例えば、第1バリエータ70A)に300Nmのトルクが入力されるため、各バリエータ70A,70Bを300Nm伝達するものとして設計する必要があり、そのため各バリエータ70A,70Bが大型化してしまう。
【0026】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、第1出力側ディスクおよび第2出力側ディスクによりそれぞれ独立して回転駆動される第1駆動軸および第2駆動軸を備えたダブルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、バリエータの大型化を防ぐことができるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、それぞれが断面円弧状の凹面である内側面を有し、互いに同心に且つ互いに同期した回転自在に支持された第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと、
断面円弧状の凹面であるその内側面を第1入力側ディスクの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと同心に、かつこれら第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクとは独立した回転自在に支持された第1出力側ディスクと、
断面円弧状の凹面であるその内側面を第2入力側ディスクの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと同心に、かつこれら第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクとは独立した回転自在に支持された第2出力側ディスクと、
第1入力側ディスクの内側面と第1出力側ディスクの内側面との間に挟持された、それぞれの周面を球状凸面とした複数個の第1パワーローラと、
第2入力側ディスクの内側面と第2出力側ディスクの内側面との間に挟持された、それぞれの周面を球状凸面とした複数個の第2パワーローラと、
第1出力側ディスクおよび第2出力側ディスクによりそれぞれ独立して回転駆動される第1駆動軸および第2駆動軸と、
を備えたトロイダル型無段変速機において、
第1駆動軸および第2駆動軸のうちの一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸へ動力伝達を行う動力伝達手段が設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項1に記載の発明においては、前記動力伝達手段が設けられているので、第1駆動軸および第2駆動軸のうちの一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、例えば、一方の駆動軸に固定された車輪が空転した場合などに、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸へ動力伝達を行う。そのため、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクが構成するバリエータ(変速部)に、原動機からのトルクが入力される。したがって、車輪の空転時等にも、他方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクが構成するバリエータにだけ原動機からのトルクが入力するのを避けることができるので、バリエータの大型化を防ぐことができる。
【0029】
前記動力伝達手段は、例えば、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクと他方の駆動軸との間に設けられ、一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸への動力伝達を行うワンウェイクラッチで構成することができる。
【0030】
また、前記動力伝達手段は、例えば、一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなったことを検出する検出手段と、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクと他方の駆動軸との断接を行うクラッチとを備えた構成とすることができる。前記クラッチとしては、例えば、湿式あるいは乾式のクラッチを用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、第1出力側ディスクおよび第2出力側ディスクによりそれぞれ独立して回転駆動される第1駆動軸および第2駆動軸を備えたダブルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、第1駆動軸および第2駆動軸のうちの一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸へ動力伝達を行う動力伝達手段が設けられているので、空転時等にも、他方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクが構成するバリエータの方にだけ原動機からのトルクが入力するのを避けることができるため、バリエータの大型化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態に係る4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機を示す概略構成図である。
【図2】図1のトロイダル型無段変速おける空転無し時のトルクの流れを示す図である。
【図3】図1のトロイダル型無段変速おける空転時のトルクの流れを示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機を示す概略構成図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機を示す概略構成図である。
【図6】従来から知られているダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図7】図6のA−A線に沿う断面図である。
【図8】従来の4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機の概略構成を示す図である。
【図9】図9のトロイダル型無段変速機おける空転時のトルクの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明の特徴は、バリエータの出力側ディスクと駆動軸との間の動力伝達機構の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と略同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図6から図9と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0034】
図1は、本発明の第1実施形態を示す図である。
このトロイダル型無段変速機は、4輪駆動用のダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機であって、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの間にワンウェイクラッチ(動力伝達手段)75が設けられている点を除いて、図8のトロイダル型無段変速機と略同様に構成されている。
【0035】
すなわち、原動機からの動力が入力される入力軸1に、一対の入力側ディスク2,2がこの入力軸1と一体的に回転するように支持されている。ここで、図1において、左側の入力側ディスク2および右側の入力側ディスク2をそれぞれ、第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bとする。そして、これらの第1入力側ディスク2Aと第2入力側ディスク2Bとの間に、一対の出力側ディスク3,3が設けられている。図1において、左側の出力側ディスク3(以下、第1出力側ディスク3Aという。)は、その内側面を第1入力側ディスクの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bと同心に、かつこれら第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bとは独立した回転自在に支持されている。一方、右側の出力側ディスク3(以下、第2出力側ディスク3Bという。)は、その内側面を第2入力側ディスク2Bの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bと同心に、かつこれら第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bとは独立した回転自在に支持されている。第1入力側ディスク2Aの内側面と第1出力側ディスク3Aの内側面との間および第2入力側ディスク2Bの内側面と第2出力側ディスク3Bの内側面との間にはそれぞれ、複数個のパワーローラ11(図示せず;図7参照)が挟持されている。第1入力側ディスク2A、第1出力側ディスク3Aおよびパワーローラ11は、第1バリエータ70Aを構成し、また第2入力側ディスク2B、第2出力側ディスク3Bおよびパワーローラ11は、第2バリエータ70Bを構成している。
【0036】
第1バリエータ70Aの第1出力側ディスク3Aおよび第2バリエータ70Bの第2出力側ディスク3Bにはそれぞれ、別個に第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bが一体的に回転するように連結され、これら第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bにはそれぞれ、第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bが歯合され、これら第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bにはそれぞれ、前輪用駆動軸(第1駆動軸)72Aおよび後輪用駆動軸(第2駆動軸)72Bが一体的に回転するように連結され、これら前輪用駆動軸72Aおよび後輪用駆動軸72Bにはそれぞれ前輪および後輪が固定されている。これにより、前輪用駆動軸72A(すなわち前輪)および後輪用駆動軸72B(すなわち後輪)がそれぞれ、第1出力側ディスク3A(すなわち第1バリエータ70A)および第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)により独立して回転駆動される。そして、前述の一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させ、これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15を互いに逆方向に変位させる際に、各変位量を独立して制御できるようにし、この変位量の独立制御により(駆動装置32,32の独立制御により)、自動車の旋回時、前輪の回転速度に比べて後輪の回転速度を遅くすべく、前輪用駆動軸72Aの回転速度を後輪用駆動軸72Bより遅くするようにし、これによりセンターデフを省略可能としている。
【0037】
第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの間に介在されているワンウェイクラッチ75は、後輪が空転して、後輪用駆動軸72B(すなわち第2従動歯車71B)の回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも速くなった場合に、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aを連結して(すなわちワンウェイクラッチ75が入りとなり)、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)の駆動力を第2出力歯車4Bおよび第2従動歯車71Bを介して前輪用駆動軸72Aへ伝達するようになっている。このワンウェイクラッチ75は、後輪用駆動軸72B(すなわち第2従動歯車71B)の回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも速くなくなった場合には、ワンウェイクラッチ75が切りとなり、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの連結が解除される。
【0038】
この実施の形態では、第1出力歯車4Aと第1従動歯車71Aのギヤ比と第2出力歯車4Bと第2従動歯車71Bのギヤ比が異なっている。すなわち、第2出力歯車4Bの歯数が第1出力歯車4Aの歯数より少ないとともに、第2従動歯車71Bの歯数が第1出力歯車4Aの歯数より多くなっている。これにより、第1バリエータ70Aと第2バリエータ70Bとが同じ変速比である場合(すなわち第1出力歯車4Aと第2出力歯車4Bの回転速度が同じ場合)には、後輪用駆動軸72Bの回転速度は、前輪用駆動軸72Aよりも遅くなるようになっている。例えば、後輪用駆動軸72Bの回転速度は、前輪用駆動軸72Aより20%程度遅くなるように設定される。他方、後輪用駆動軸72Bの回転速度と前輪用駆動軸72Aの回転速度を同じにするためには、第1バリエータ70Aと第2バリエータ70Bとの変速比を変えることになる。
【0039】
このトロイダル型無段変速機にあっては、図2に示すように、通常は、前輪と後輪が大体それぞれ50%でトルク伝達を行う(この前輪と後輪のトルク配分比率は設計により決まり必ずしも50%対50%にはならない。)ので、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
一方、図3に示すように、後輪が空転した場合、後輪用駆動軸72Bが空転し、この後輪用駆動軸72Bと一体回転する第2従動歯車71Bが空転する。そして、この第2従動歯車71Bの回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも速くなると、ワンウェイクラッチ75が作動して入りとなり、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aを連結し、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)のトルクを第2出力歯車4Bおよび第2従動歯車71Bを介して前輪用駆動軸72Aへ伝達する。これにより、後輪が空転した場合でも、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
したがって、空転時にも、前輪用駆動軸72Bを回転駆動する第1バリエータ70Aにだけに原動機からのトルクが入力するのを回避することができるので、バリエータの大型化を防止することができる。
また、ワンウェイクラッチ75を用いているので、右輪あるいは左輪の空転を検出する検出する検出手段を別途設ける必要がないため、構造を簡略化することができる。
【0040】
図4は、本発明の第2実施形態を示す図である。
このトロイダル型無段変速機では、一対の出力側ディスク3,3の間に、一体的に形成された一対の入力側ディスク2,2が配置されている。ここで、図1の場合と同様に、図4において左側の入力側ディスク2および右側の入力側ディスク2をそれぞれ、第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bと、また左側の出力側ディスク3および右側の出力側ディスク3をそれぞれ第1出力側ディスク3Aおよび第2出力側ディスク3Bとする。第1入力側ディスク2Aの内側面と第1出力側ディスク3Aの内側面との間および第2入力側ディスク2Bの内側面と第2出力側ディスク3Bの内側面との間にはそれぞれ、複数個のパワーローラ11(図示せず)が挟持されている。第1入力側ディスク2A、第1出力側ディスク3Aおよびパワーローラ11は、第1バリエータ70Aを構成し、また第2入力側ディスク2B、第2出力側ディスク3Bおよびパワーローラ11は、第2バリエータ70Bを構成している。
【0041】
一体的に形成された第1入力側ディスク2Aおよび第2入力側ディスク2Bの外周には、入力歯車76が固定されており、この入力歯車76に原動機からのトルクが入力される。
また、第1バリエータ70Aの第1出力側ディスク3Aおよび第2バリエータ70Bの第2出力側ディスク3Bにはそれぞれ、別個に第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bが一体的に回転するように連結され、これら第1出力歯車4Aおよび第2出力歯車4Bにはそれぞれ、第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bが歯合され、これら第1従動歯車71Aおよび第2従動歯車71Bにはそれぞれ、左輪用駆動軸(第1駆動軸)77Aおよび右輪用駆動軸(第2駆動軸)77Bが一体的に回転するように連結され、これら左輪用駆動軸77Aおよび右輪用駆動軸77Bにはそれぞれ左輪(駆動輪)および右輪(駆動輪)が固定されている。これにより、左輪用駆動軸77A(すなわち左輪)および右輪用駆動軸77B(すなわち右輪)がそれぞれ、第1出力側ディスク3A(すなわち第1バリエータ70A)および第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)により独立して回転駆動される。そして、前述の一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させ、これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15を互いに逆方向に変位させる際に、各変位量を独立して制御できるようにし、この変位量の独立制御により(駆動装置32,32の独立制御により)、自動車の旋回時、外側の車輪の回転速度に比べて内側の回転速度を遅くすべく、左輪用駆動軸77Aおよび右輪用駆動軸77の一方の駆動軸の回転速度を他方の駆動軸より遅くするようにし、これによりデファレンシャル(差動装置)を省略可能としている。
【0042】
そして、このトロイダル型無段変速機では、右輪用駆動軸77Bと左輪用駆動軸77Aとの間にワンウェイクラッチ(動力伝達手段)78が設けられるとともに、左輪用駆動軸77Aと右輪用駆動軸77Bとの間にワンウェイクラッチ(動力伝達手段)79が設けられている。
右輪用駆動軸77Bと左輪用駆動軸77Aとの間に介在されているワンウェイクラッチ78は、右輪が空転して、右輪用駆動軸77Bの回転速度が前輪用駆動軸77Aの回転速度よりも速くなった場合に、右輪用駆動軸77Bと左輪用駆動軸77Aを連結して(すなわちワンウェイクラッチ78が入りとなり)、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)の駆動力を第2出力歯車4B、第2従動歯車71Bおよび右輪用駆動軸77Bを介して左輪用駆動軸77Aへ伝達するようになっている。このワンウェイクラッチ78は、右輪用駆動軸77Bの回転速度が左輪用駆動軸77Aの回転速度よりも速くなくなった場合には、ワンウェイクラッチ75が切りとなり、右輪用駆動軸77Bと左輪用駆動軸72Aとの連結が解除される。
一方、左輪用駆動軸77Aと右輪用駆動軸77Bとの間に介在されているワンウェイクラッチ79は、左輪が空転して、左輪用駆動軸77Aの回転速度が右輪用駆動軸77Bの回転速度よりも速くなった場合に、左輪用駆動軸77Aと左輪用駆動軸77Bを連結して(すなわちワンウェイクラッチ79が入りとなり)、第1出力側ディスク3A(すなわち第1バリエータ70A)の駆動力を第1出力歯車4A、第1従動歯車71Aおよび左輪用駆動軸77Aを介して右輪用駆動軸77Bへ伝達するようになっている。このワンウェイクラッチ79は、左輪用駆動軸77Aの回転速度が右輪用駆動軸77Bの回転速度よりも速くなくなった場合には、ワンウェイクラッチ79が切りとなり、左輪用駆動軸77Aと右輪用駆動軸72Bとの連結が解除される。
【0043】
この実施の形態では、第1出力歯車4Aと第1従動歯車71Aのギヤ比と第2出力歯車4Bと第2従動歯車71Bのギヤ比が同じになっている。すなわち、第2出力歯車4Bの歯数と第1出力歯車4Aの歯数とが同じであるとともに、第2従動歯車71Bの歯数と第1出力歯車4Aの歯数とが同じになっている。
【0044】
このトロイダル型無段変速機にあっては、通常は、前輪と後輪が大体それぞれ50%でトルク伝達を行うので、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
一方、右輪が空転した場合、右輪用駆動軸77Bが空転する。そして、この右輪用駆動軸77Bの回転速度が左輪用駆動軸77Aの回転速度よりも20%速くなると、ワンウェイクラッチ78が作動して入りとなり、右輪用駆動軸77Bと前輪用駆動軸77Aを連結し、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)のトルクを第2出力歯車4B、第2従動歯車71Bおよび右輪用駆動軸77Bを介して左輪用駆動軸77Aへ伝達する。これにより、右輪が空転した場合でも、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
また、左輪が空転した場合、左輪用駆動軸77A空転する。そして、この左輪用駆動軸77Aの回転速度が右輪用駆動軸77Bの回転速度よりも20%速くなると、ワンウェイクラッチ79が作動して入りとなり、左輪用駆動軸77Aと右輪用駆動軸77Bを連結し、第1出力側ディスク3A(すなわち第1バリエータ70A)のトルクを第1出力歯車4A、第1従動歯車71Aおよび左輪用駆動軸77Aを介して右用駆動軸77Bへ伝達するようになっている。これにより、左輪が空転した場合でも、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
したがって、空転時にも、左輪用駆動軸77Aを回転駆動する第1バリエータ70Aあるいは右輪用駆動軸77Bを回転駆動する第2バリエータ70Bにだけに原動機からのトルクが入力するのを回避することができるので、バリエータの大型化を防止することができる。
また、ワンウェイクラッチ78,79を用いているので、右輪あるいは左輪の空転を検出する検出する検出手段を別途設ける必要がないため、構造を簡略化することができる。
【0045】
図5は、本発明の第3実施形態を示す図である。
このトロイダル型無段変速機においては、図1の第1実施形態のワンウェイクラッチ75に代えて、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの間に、これら第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの結合の断接(切断および接合)を行うクラッチ91が設けられている。クラッチ91としては、湿式クラッチでも乾式クラッチでもよい。また、後輪の空転を検出する検出手段が設けられている。この検出手段としては、例えば、伝達特性の代用特性である駆動装置32,32の駆動シリンダ31,31の変速制御差圧を検出し、両バリエータ70A,70の一方のバリエータの差圧に対して他方のバリエータの差圧がある閾値よりも小さいことを空転の判別基準として用いる手段でもよい。または、後輪が空転した場合は、後輪用駆動軸72Bが増速側に変速するので、この検出手段として、両バリエータ70A,70Bの変速比、両出力側ディスク3A,3Bの回転数あるいは両駆動軸72A,72Bの回転数の差あるいは割合から空転を判別するものでもよい。この検出手段とクラッチ91とにより、動力伝達手段が構成される。他の構成は、図1の第1実施形態と同様である。
【0046】
このトロイダル型無段変速機にあっては、通常は、前輪と後輪が大体それぞれ50%でトルク伝達を行うので、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。
一方、後輪が空転した場合、後輪用駆動軸72Bが空転し、この後輪用駆動軸72Bと一体回転する第2従動歯車71Bが空転する。そして、この第2従動歯車71Bの回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも一定速度速くなる(例えば20%速くなる)と、これを前記検出手段が検出し、この検出に基づいてクラッチ91が作動して入りとなり、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aを連結し、第2出力側ディスク3B(すなわち第2バリエータ70B)のトルクを第2出力歯車4Bおよび第2従動歯車71Bを介して前輪用駆動軸72Aへ伝達する。これにより、後輪が空転した場合でも、原動機からのトルクを第1バリエータ70Aおよび第2バリエータ70Bがそれぞれ大体50%ずつ受け持つことになる。なお、クラッチ91は、後輪用駆動軸72B(すなわち第2従動歯車71B)の回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも前記一定速度より速くなくなった場合には、クラッチ91が切りとなり、第2従動歯車71Bと前輪用駆動軸72Aとの連結が解除される。
したがって、空転時にも、前輪用駆動軸72Bを回転駆動する第1バリエータ70Aにだけに原動機からのトルクが入力するのを回避することができるので、バリエータの大型化を防止することができる。
なお、前記検出手段は、第2従動歯車71B(後輪用駆動軸72B)の回転速度が前輪用駆動軸72Aの回転速度よりも一定速度速くなるとこれを検出するものであるが、この一定速度速くなるには、僅かに速くなると検出する場合も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ダブルキャビティ式のハーフトロイダル型無段変速機の他、トラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
2A(2) 第1入力側ディスク
2B(2) 第2入力側ディスク
3A(3) 第1出力側ディスク
3B(3) 第2出力側ディスク
11 第1パワーローラ、第2パワーローラ
14 枢軸
72A 前輪用駆動軸(第1駆動軸)
72B 後輪用駆動軸(第2駆動軸)
77A 左輪用駆動軸(第1駆動軸)
77B 右輪用駆動軸(第2駆動軸)
75,78,79 ワンウェイクラッチ(動力伝達手段)
91 クラッチ(動力伝達手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが断面円弧状の凹面である内側面を有し、互いに同心に且つ互いに同期した回転自在に支持された第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと、
断面円弧状の凹面であるその内側面を第1入力側ディスクの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと同心に、かつこれら第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクとは独立した回転自在に支持された第1出力側ディスクと、
断面円弧状の凹面であるその内側面を第2入力側ディスクの内側面に対向させた状態で第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクと同心に、かつこれら第1入力側ディスクおよび第2入力側ディスクとは独立した回転自在に支持された第2出力側ディスクと、
第1入力側ディスクの内側面と第1出力側ディスクの内側面との間に挟持された、それぞれの周面を球状凸面とした複数個の第1パワーローラと、
第2入力側ディスクの内側面と第2出力側ディスクの内側面との間に挟持された、それぞれの周面を球状凸面とした複数個の第2パワーローラと、
第1出力側ディスクおよび第2出力側ディスクによりそれぞれ独立して回転駆動される第1駆動軸および第2駆動軸と、
を備えたトロイダル型無段変速機において、
第1駆動軸および第2駆動軸のうちの一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸へ動力伝達を行う動力伝達手段が設けられていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記動力伝達手段は、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクと他方の駆動軸との間に設けられ、一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなった場合に、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクから他方の駆動軸への動力伝達を行うワンウェイクラッチであることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記動力伝達手段は、一方の駆動軸の回転速度が他方の駆動軸の回転速度よりも速くなったことを検出する検出手段と、一方の駆動軸を回転駆動する出力側ディスクと他方の駆動軸との断接を行うクラッチとを備えていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−174560(P2011−174560A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39750(P2010−39750)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】