説明

ナノチューブの形成方法

【課題】電子素子へ容易に適用が可能な状態で、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが形成できるようにする。
【解決手段】基板10の上に、CoおよびNiより選択された金属の微粒子103を直接形成する。次に、ステップS103で、ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの少なくとも1つからなる原料ガスを用いた熱化学気相成長法により、微粒子103よりキャリアがドープされたカーボンナノチューブ104を成長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリアをドープしたカーボンナノチューブを形成するナノチューブの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルオーダーの微細な直径を有し、炭素原子から構成される単層あるいは2層の円筒形状の構造体であるカーボンナノチューブが、注目されている。よく知られているように、カーボンナノチューブは、電気的および機械的に優れた性質を有しており、化学的にも安定である。このため、カーボンナノチューブには、微細な電界効果トランジスタや単電子トランジスタ、また量子ビットのチャンネルとしての応用が期待されている。
【0003】
しかし、カーボンナノチューブを電子素子として応用するに際して、次に示すような解決されるべき問題がある。
【0004】
第1に、所謂p型およびn型の伝導型制御の問題がある。通常、カーボンナノチューブを用いて素子を作製する場合、基板上に直接カーボンナノチューブを成長することができる化学気相成長法が用いられる。しかしながら、窒素やホウ素などの異種元素が混入したカーボンナノチューブを、化学気相成長法を用いて合成する試みは後述するようにいくつかあるが、伝導型やキャリア濃度が制御されたカーボンナノチューブを、基板の上に直接形成(合成)する方法は、未だ十分に確立していない。
【0005】
第2に、カーボンナノチューブのバンドギャップの制御の問題がある。カーボンナノチューブの電子構造は、よく知られているようにカイラリティに強く依存し、カイラリティによって金属的にもあるいは半導体的にもなり得る。また、半導体的カーボンナノチューブのバンドギャップも、カイラリティに依存する。例えば、カーボンナノチューブでトランジスタを作製する場合、カーボンナノチューブが半導体的電子構造を持つことが重要となる。しかしながら、現在では、カイラリティを制御する技術が確立していないため、特定のバンドギャップを持つ半導体カーボンナノチューブのみを合成(形成)することができない。
【0006】
これに対し、バンドギャップの制御として、カーボンナノチューブに異種元素を混入してバンドギャップを広げることが考えられる。しかしながら、異種元素の混入によりバンドギャップが制御されたカーボンナノチューブをCVD法で合成する方法も、未だ確立していない。
【0007】
ここで、これまでのCVD法による、異種元素ドープカーボンナノチューブ合成の研究について説明する。キャリアドープされたカーボンナノチューブを、化学気相成長法を用いて合成する試みとして、原料ガスとしてフェロセンFe(C552,エタノールC26O,およびベンジルアミンC79Nを混合した液体の蒸気を用いた研究が報告されている(非特許文献1参照)。カーボンナノチューブの一部の炭素原子をV族の窒素に置換できれば、n型伝導が発現する可能性がある。
【0008】
上述した非特許文献1の技術では、窒素の供給源としてベンジルアミンの蒸気を用いている。非特許文献1の技術では、エアロゾルCVD法により、まず、フェロセン中の鉄を、カーボンナノチューブ成長の核となる触媒にしている。また、カーボンナノチューブ成長のための原料として、ベンジルアミンのエタノールに対する重量比が26%以下の条件で、単層カーボンナノチューブの合成に成功している。
【0009】
ただし、非特許文献1では、ベンジルアミンのエタノールに対する重量比が33%以上では、単層カーボンナノチューブは生成されないとされている。また、この非特許文献1の報告では、実際のカーボンナノチューブの伝導型やキャリア濃度は特定されていない。いずれにしても、導電型の発現のためには、高濃度の不純物導入が重要となり、高濃度に窒素をドープするには、ベンジルアミンの濃度がより高い混合比の原料を用いることが望ましい。しかしながら、この条件は、非特許文献1の技術では、実現されていないものと考えられる。
【0010】
また、基板上の任意の場所にカーボンナノチューブ成長の起点となる触媒を固定する通常の熱CVD法と比較し、加熱を行う電気炉内で触媒を原料とともに噴霧するエアロゾルCVD法は、カーボンナノチューブの位置制御性が極めて乏しいという問題もある。
【0011】
同様な不純物の導入を行う研究に、キシレン(C810)とアセトニトリル(C23N)を混合した液体の蒸気を用いたCVDによるカーボンナノチューブの形成が報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、非特許文献2の図3(a)に示されている原料中の窒素含有量3%から33%の場合の、ラマンスペクトルのGバンドおよびDバンドのピーク幅、およびこれらのピーク強度比は、いずれも単層あるいは2層などの細い1nm径のカーボンナノチューブのものではない。
【0012】
これらの結果は、意図せずに合成されてしまったアモルファスカーボンや欠陥を多量に含む多層カーボンナノチューブが、主な観察対象になったためと考えられる。例えば、非特許文献2の図1に示されている走査電子顕微鏡像からは、多数の副生成物が観測できるが、単層カーボンナノチューブらしきものは、1本あるいは2本程度が観察されている程度と考えられる。
【0013】
また、希釈しないベンジルアミンのみを原料に用いたCVD法により、単層から3層程度の細いカーボンナノチューブの合成に成功した例も報告されている(非特許文献3参照)。非特許文献3では、鉄系の触媒と酸化マグネシウム粉末の触媒担持体を用い、ベンジルアミン蒸気のみを原料にした熱CVD法により、触媒担持体に担持されている鉄系の触媒より、カーボンナノチューブを合成している。
【0014】
非特許文献3の報告では、図7に、形成されたカーボンナノチューブの、N1sのX線光電子分光(XPS)の結果が示されている。しかしながら、この結果からは、カーボンナノチューブのみから得られたものか、あるいは触媒担持体や基板からのスペクトルも含まれたものなのかを明らかにすることができない。非特許文献3の図1のSEM像に示されているカーボンナノチューブの量では、触媒担持体表面の汚染もXPSに寄与すると考えられる。このため、非特許文献3の報告結果は、キャリアドーピングされたカーボンナノチューブが形成されたことが、確定できない。また。非特許文献3では、触媒担持体が分散したエタノールを用い、基板の上に触媒担持体を配置しているため、形成されるカーボンナノチューブの位置制御が困難であり、電子素子への応用に適していない。
【0015】
また、炭素原子の一部をIII族のホウ素で置換したカーボンナノチューブのCVD合成の試みも報告されている(非特許文献4)。炭素の一部をホウ素で置換できれば、p型の伝導型が得られる可能性がある。非特許文献4では、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気のみを原料ガスとして用いた熱CVD法による単層カーボンナノチューブの合成が報告されている。
【0016】
しかし、酸化マグネシウム粉末の触媒担持体に混合した触媒よりカーボンナノチューブを成長させているため、カーボンナノチューブの成長期点の制御が困難である。また、非特許文献4の図5には、ホウ素1sのXPSスペクトルが示されているが、カーボンナノチューブのみから得られたものか、あるいは触媒担持体や基板からのスペクトルも含まれたものなのか明らかでない。結果として、非特許文献4では、キャリアドーピングされたカーボンナノチューブが、形成されたかどうかが定かではない。
【0017】
また、バンドギャップの制御を目指し、CVD法により単層カーボンナノチューブに窒素とホウ素の両方を混入させる試みも報告されている(非特許文献5)。非特許文献5では、炭素源にメタンガス、窒素源にエチレンジアミンの蒸気、ホウ素源にボラジンガスを用い、またホットフィラメントを用いたCVD法により単層あるいは2層のBCNカーボンナノチューブの合成が報告されている。しかし、非特許文献5の技術においても、酸化マグネシウム粉末に担持された鉄系の触媒が用いられており、電子素子としての応用上好ましくない。また、ホットフィラメントが用いられており、より簡便な熱CVD法による合成方法の開発が望ましい。また、非特許文献5では、得られたカーボンナノチューブのバンドギャップの分析が行われておらず、バンドギャップの変調の有無は定かではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】F. Villalpando-Paez et al. , "Synthesis and characterization of long strands of nitrogen-doped single-walled carbon nanotubes", Chemical Physics Letters, Vol.424, pp.245-352, 2006.
【非特許文献2】Gayatri Keskar et al. , "Growth, nitrogen doping and characterization of isolated single-walled carbon nanotubes using liquid precursors", Chemical Physics Letters, vol.412, pp.269-273, 2005.
【非特許文献3】P. Ayala, "Tailoring N-doped single and double wall carbon nanotubes from a nondiluted carbon/Nitrogen feedstock", The Journal of Physical Chemistry C, vol.111, pp.2879-2884, (2007).
【非特許文献4】P. Ayala et al. , "A one step approach to B-doped single-walled carbon nanotubes", Journal of Materials Chemistry, vol.18, pp.5676-5681, 2008.
【非特許文献5】J. C. Tsang et al. , "Doping and phonon renormalization in carbon nanotubes", Nature Nanotechnology, vol.2, pp.725-730, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、従来の技術では、電子素子へ容易に適用が可能な状態で、キャリアがドープされたカーボンナノチューブを形成する技術が提案(提供)されていないという問題があった。
【0020】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、電子素子へ容易に適用が可能な状態で、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係るナノチューブの形成方法は、酸化シリコンからなる基板の上に、CoおよびNiより選択された金属の微粒子を直接形成する第1工程と、ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの少なくとも1つからなる原料ガスを用いた熱化学気相成長法により、微粒子よりキャリアがドープされたカーボンナノチューブを成長する第2工程とを少なくとも備える。なお、微粒子は、粒子径が5nm以下であれば、単層および2層のカーボンナノチューブが形成できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、基板に直接形成したCoおよびNiより選択された金属の微粒子より、ベンジルアミン、ホウ酸トリイソプロピルを原料とした熱化学気相成長法でカーボンナノチューブを形成するようにしたので、電子素子へ容易に適用が可能な状態で、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるナノチューブの形成方法を説明するためのフロー図である。
【図2】図2は、走査型電子顕微鏡によりカーボンナノチューブを観察した写真である。
【図3】図3は、透過型電子顕微鏡によりカーボンナノチューブを観察した写真である。
【図4】図4は、走査型電子顕微鏡によりカーボンナノチューブを観察した写真である。
【図5】図5は、走査型電子顕微鏡によりカーボンナノチューブを観察した写真である。
【図6】図6は、カーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す特性図である。
【図7】図7は、励起波長を785nmとしたカーボンナノチューブのラマンスペクトルを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるナノチューブの形成方法を説明するためのフロー図である。本実施の形態におけるナノチューブの形成方法は、まず、ステップS101で、図1の(a)に示すように、酸化シリコンからなる基板101の上に、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)より選択された金属を含む触媒金属材料層102を形成する。例えば、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いたスパッタ法により、酸化コバルト(Co34)を堆積し、触媒金属材料層102とすればよい。
【0025】
次に、ステップS102で、図1の(b)に示すように、基板101の上に、CoおよびNiより選択された金属の微粒子103を直接形成する。基板101の表面上に接触した状態に、微粒子103を形成する。例えば、Co34からなる層厚1nm程度の触媒金属材料層102を、アルゴンおよび水素の雰囲気で836℃にまで加熱して還元すれば、直径5nm以下の粒子径のCoからなる微粒子103が形成できる。なお、粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察の結果により測定できる。
【0026】
次に、ステップS103で、図1の(c)に示すように、ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの少なくとも1つからなる原料ガスを用いた熱化学気相成長法により、微粒子103よりキャリアがドープされたカーボンナノチューブ104を成長する。例えば、ベンジルアミンを用いれば、Nが不純物として導入されてドーパントとして機能し、カーボンナノチューブにキャリアがドープされた状態となる。また、ホウ酸トリイソプロピルを用いれば、Bが不純物として導入されてドーパントとして機能し、カーボンナノチューブにキャリアがドープされた状態となる。
【0027】
例えば、基板加熱温度を836℃とし、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気10sccmとし、これにキャリアガスとしてのAr1000sccmを混合した混合ガス(圧力条件26664.4Pa)を基板101の上に供給する。上記混合ガスの供給(混合ガスへ曝す)時間は10分とする。なお、sccmは流量の単位であり、0℃・1013hPaの流体が1分間に1cm3流れることを示す。この条件により、図2の走査型電子顕微鏡の観察による写真に示すように、いかなる触媒担持体を用いることなく、基板上に直接、高密度にカーボンナノチューブが成長した。
【0028】
また、基板加熱温度を800℃とし、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気2sccmとし、キャリアガスと混合せずに基板101に供給すると、図3の透過型電子顕微鏡の観察による写真に示すように、Coからなる微粒子より、2層のカーボンナノチューブが成長する。なお、上述の条件において、加熱を行う処理室内のガスの圧力は53.3Paであった。
【0029】
本実施の形態におけるカーボンナノチューブの形成では、主に単層ナノチューブが得られているが、触媒粒子の径が比較的大きなものからは、図3を用いて説明したように、2層ナノチューブも形成され得る。触媒粒子の粒子径を制御することにより、単層カーボンナノチューブと2層カーボンナノチューブとの割合を変化させることができると考えられる。いずれにおいても、微粒子103の粒子径が5nm以下の範囲であれば、単層カーボンナノチューブおよび2層カーボンナノチューブが形成できる。
【0030】
また、基板加熱温度を800℃とし、ベンジルアミンの蒸気10sccmとし、これにキャリアガスとしてのAr1000sccmおよび水素30sccmを混合した混合ガス(圧力条件26664.4Pa)を基板101の上に供給する。上記混合ガスの供給時間は10分とする。この条件により、図4の走査型電子顕微鏡の観察による写真に示すように、いかなる触媒担持体を用いることなく、基板上に直接、高密度にカーボンナノチューブが成長した。ベンジルアミンを用いる場合、上述したように水素ガスが混合されていてもよい。なお、発明者らの実験によれば、ホウ酸トリイソプロピルの場合、水素の混入はカーボンナノチューブの成長を阻害することが確認されている。これは、ホウ酸トリイソプロピルは、水素と反応し、カーボンナノチューブの成長に寄与しない分子を生成させるためと考えられる。
【0031】
以上に説明したように、基板の上に直接形成した触媒金属の微粒子より、ホウ酸トリイソプロピルおよびベンジルアミンを原料とした熱CVD法により、カーボンナノチューブが形成できることがわかる。このように、酸化マグネシウム粉末などの触媒担持体を用いることなくカーボンナノチューブが形成できるので、電子素子へ容易に適用が可能である。また、ホウ酸トリイソプロピルおよびベンジルアミンを原料としているので、熱CVD法によるカーボンナノチューブの成長中に、ホウ酸トリイソプロピルとベンジルアミンの供給を切り替えることで、1本のカーボンナノチューブ内に、pn接合を形成することができるものと考えられる。
【0032】
例えば、基板加熱温度を845℃とし、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気5sccmおよびベンジルアミンの蒸気5sccmとし、これにキャリアガスとしてのAr1000sccmを混合した混合ガス(圧力条件9865.8Pa)を基板101の上に供給する。上記混合ガスの供給時間は10分とする。この条件により、図5の走査型電子顕微鏡の観察による写真に示すように、いかなる触媒担持体を用いることなく、基板上に直接、高密度にカーボンナノチューブが成長した。このように、ホウ酸トリイソプロピルおよびベンジルアミンを同時に供給しても、基板の上に直接高密度のカーボンナノチューブが形成できる。
【0033】
次に、本実施の形態により形成されるカーボンナノチューブにおけるキャリアドープについて説明する。図6は、ベンジルアミン、ホウ酸トリイソプロピル、およびベンジルアミンとホウ酸トリイソプロピルとの両方を用い、本実施の形態におけるナノチューブの形成方法により形成したカーボンナノチューブのラマンスペクトルである。図6の(a)がホウ酸トリイソプロピルを用いた場合、(b)がベンジルアミンを用いた場合、(c)が両方を用いた場合を示している。また、図6の(d)は、参照としてエタノールを原料にして形成したカーボンナノチューブのラマンスペクトルである。エタノールを原料にした場合は、ドープしていない条件としている。
【0034】
ベンジルアミンを原料としたカーボンナノチューブの形成では、ベンジルアミンの蒸気の供給量2sccm、成長圧力266.6Pa、成長温度800℃、成長時間10分とした。ホウ酸トリイソプロピルを原料としたカーボンナノチューブの形成では、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気の供給量10sccm、水素の供給量1sccm、成長圧力133.3Pa、成長温度は800℃、成長時間10分とした。また、ベンジルアミンとホウ酸トリイソプロピルとの両方を原料としたカーボンナノチューブの形成では、ベンジルアミンの蒸気の供給量5sccm、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気の供給量5sccm、成長温度850℃、成長圧力533.3Pa、成長時間30分とした。
【0035】
図6は、Gバンドと呼ばれるカーボンナノチューブの面内振動モードのスペクトルを示している。エタノールから合成してドープされていないカーボンナノチューブのGバンドは、図6の(d)に示すように、1594cm-1に観測されている。
【0036】
これに対し、ベンジルアミンから合成したカーボンナノチューブ、ホウ酸トリイソプロピルから合成したカーボンナノチューブ、およびベンジルアミンとホウ酸トリイソプロピルとの両方から合成したカーボンナノチューブでは、図6の(a)、(b)、および(c)に示すように、Gバンドがおよそ1598cm-1に観測されている。
【0037】
これらは、ドープされていないカーボンナノチューブに比べて、4cm-1ほど高波数側にシフトしている。このシフトは、これらのカーボンナノチューブに不純物(B,N)が混入しているだけではなく、不純物が実際にドーパントとして機能し、カーボンナノチューブにキャリアがドープされていることを示している。
【0038】
カーボンナノチューブの太さ1.5nmを仮定し、非特許文献5を参考にしてキャリア量を見積もると、図6に示した結果より、約0.5%という値が得られる。このように、本実施の形態によれば、熱CVD法により、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが形成できる。また、ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの両方を供給して成長したカーボンナノチューブにも、キャリアがドープできる。
【0039】
図7は、本実施の形態におけるカーボンナノチューブの形成方法において、ベンジルアミンとホウ酸トリイソプロピルとの両方を原料として形成したカーボンナノチューブ(BNドープカーボンナノチューブ)のラマンスペクトルである。励起波長は、785nmとした。図7の(a)、(b)、(c)は、同じ、BNドープカーボンナノチューブの異なる箇所より得られたラマンスペクトルである。なお、参照のため、図7の(d)に、エタノール蒸気を原料に合成したドープしていないカーボンナノチューブのラマンスペクトルを併せて示している。
【0040】
BNドープカーボンナノチューブの成長条件は、ベンジルアミンの蒸気の供給量5sccm、ホウ酸トリイソプロピルの蒸気の供給量5sccm、成長温度850℃、成長圧力533.3Pa、成長時間30分である。図7には、ラジアルブリージングモード(radial breathing mode:RBM)と呼ばれるカーボンナノチューブの円筒構造に特有の振動モードが示されている。観測されるラマンシフトは、ほぼカーボンナノチューブの直径に反比例することが知られている。励起光を強く吸収するカーボンナノチューブのみが選択的に観測される。
【0041】
励起光785nmの場合、一般的なカーボンナノチューブでは、図7の(d)に示すノンドープ試料のように、150〜160cm-1に金属的なカーボンナノチューブが強く観察され、200〜240cm-1に半導体的なカーボンナノチューブが強く観測される。160〜200cm-1には、励起光と共鳴するカーボンナノチューブが存在しないためピークは観測されない。
【0042】
しかしながら、本実施の形態によるBNドープカーボンナノチューブでは、図7の(a)、(b)、および(c)に示すように、160〜200cm-1にもいくつかのピークが観測されていることがわかる。この結果は、BNドープカーボンナノチューブで強い光吸収が起こるエネルギーが、ノンドープカーボンナノチューブとは、ずれていることを示している。
【0043】
また、これらのことは、BNドープカーボンナノチューブのバンドギャップも、図7の(a)、(b)、(c)に示した試料では、(d)のノンドープカーボンナノチューブとは異なり、BNのドープによってバンドギャップが変調していることを示している。バンドギャップ変調により、本来は785nmでは観測されないカーボンナノチューブが、観測されるようになっている。
【0044】
このように、本発明によれば、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが形成できるようになる。ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの少なくとも一方を原料とすることで、例えば、NおよびBの少なくとも一方が不純物として導入されたカーボンナノチューブが形成され、導入された不純物がドーパントとして機能し、カーボンナノチューブにキャリアがドープされた状態となる。また、図6に示した結果とも併せると、本発明のナノチューブの形成方法によれば、バンドギャップの制御とキャリアドーピングを同時に行うことができることを示している。なお、Gバンドのピークシフトは、非特許文献2の結果とは、正反対の結果となっている。従って、非特許文献2の結果では、キャリアがドープされたカーボンナノチューブが得られているとは判断できないものと考えられる。
【0045】
上述した本発明によれば、カーボンナノチューブに対するキャリアドーピング、あるいはカーボンナノチューブのバンドギャップの制御、もしくはこれらの両方を達成することができる。また、本発明により形成したカーボンナノチューブを用いて作製したデバイスは、基板の表面に直接形成しているので、電子素子、発光素子等の製造に適用可能である。
【0046】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの組み合わせおよび変形が実施可能であることは明白である。例えば、Coからなる微粒子103は、酸化コバルトからなる触媒金属材料層102を還元することで形成しているが、これに限るものではない。例えば、触媒金属材料層102は、Coから構成してもよい。Coをスパッタ法や真空蒸着法などにより堆積した触媒金属材料層102を加熱することで、微粒子103を形成してもよい。また、他のコバルト化合物から触媒金属材料層102を形成し、これを加熱して微粒子103を形成してもよい。
【0047】
また、金属としては、Coに限らず、Niを用いることができる。発明者らの研究では、同様な成長条件で触媒として鉄を用いた場合、カーボンナノチューブがほとんど形成されていない。これに対し、触媒としてCoおよびNiを用いる場合、酸化マグネシウム粉末などの担持体を用いることなく、基板の上に直接形成した触媒金属の微粒子より、効率よくカーボンナノチューブが合成できた。これは、CoおよびNiに比較し、鉄が酸化されやすいなどの化学的性質の相違によると考えられる。また、ホウ酸トリイソプロピルは、酸素を含んでいるので、鉄を用いた場合、微粒子が酸化されて触媒機能が著しく損なわれる可能性がある。
【符号の説明】
【0048】
101…基板、102…触媒金属材料層、103…微粒子、104…カーボンナノチューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化シリコンからなる基板の上に、CoおよびNiより選択された金属の微粒子を直接形成する第1工程と、
ベンジルアミンおよびホウ酸トリイソプロピルの少なくとも1つからなる原料ガスを用いた熱化学気相成長法により、前記微粒子よりキャリアがドープされたカーボンナノチューブを成長する第2工程と
を少なくとも備えることを特徴とするナノチューブの形成方法。
【請求項2】
請求項1記載のナノチューブの形成方法において、
前記微粒子は、粒子径が5nm以下であることを特徴とするナノチューブの形成方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20910(P2012−20910A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161380(P2010−161380)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】