説明

ハイブリッドエンジン

【課題】ハイブリッドエンジンにおいて、減速時にエンジンブレーキをかけると、そのポンピングロスが回生効率を低下させることがある。
【解決手段】電動機と多気筒の内燃機関との出力軸を選択的に接続して動力を出力するハイブリッドエンジンにおいて、内燃機関が、各気筒においてピストンが上死点に達している際のピストン頂面の位置よりも上に設けてなる連通孔と、それぞれの連通孔を介して気体が流通するように各気筒を接続する接続管路と、接続管路の気体の流通を制御する流通制御手段とを備えてなり、流通制御手段は、減速時に電動機を回生運転する場合に接続管路を介して気体を各気筒に流通させるとともに、回生運転以外の電動機の運転状態の場合には接続管路を介しての気体の流通を阻止するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドエンジンに関し、特に、回生運転時の効率を向上させる構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関と電動機とを組み合わせたハイブリッドエンジンを搭載した車両において、ハイブリッドエンジンの燃料カット制御時であって、ブレーキ操作により減速した際には、電動機を発電機として回生運転させるとともに内燃機関にはエンジンブレーキを機能させる。この場合に、エンジンブレーキにより内燃機関に生じるポンピングロスに起因して回生効率が低下するとともに乗り心地も悪くなることがある。このような事情に鑑みて、ポンピングロスによるショックを低減するとともに燃費の向上を図るために、内燃機関の吸気弁と排気弁とを常時開くように構成したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−2239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、このような構成のものであると、ブレーキ操作による減速走行時には、吸気ポートからシリンダ内に流れ込んだ外気がほぼそのままの状態で触媒に到達することがある。つまり減速走行時における走行風により、シリンダ内に外気が送り込まれ、排気弁が常時開いているために外気が触媒に到達し得る状態になるものである。
【0004】
この結果、外気により触媒が冷却され、燃料カット復帰時の内燃機関始動時に排気ガスの浄化率が低下する。また外気がシリンダに流れ込んでいるので、シリンダ内の温度が低下し、内燃機関の始動時の着火性をも低下させるものである。
【0005】
これに加えて、吸気弁と排気弁とを常時開いた状態に制御するには、それらの動弁系が複雑になる。つまり、動弁系をカムやカムシャフトなどを含む機構により実現すると、内燃機関を通常運転する場合の吸排気弁制御と、減速運転する場合の常時開弁制御とで、制御自体を切り替える必要がある。このため、通常の内燃機関とは異なり、常時開弁状態になるような機構及び制御を切り替えるための機構を追加しなければならず、動弁系が複雑になるものである。
【0006】
そこで本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明のハイブリッドエンジンは、電動機と多気筒の内燃機関との出力軸を選択的に接続して動力を出力するハイブリッドエンジンにおいて、各気筒においてピストンが上死点に達している際のピストン頂面の位置よりも上に設けてなる連通孔と、それぞれの連通孔を介して気体が流通するように各気筒を接続する接続管路と、接続管路の気体の流通を制御する流通制御手段とを備えてなり、流通制御手段は、減速時に電動機を回生運転する場合に接続管路を介して気体を各気筒に流通させるとともに、回生運転以外の電動機の運転状態の場合には接続管路を介しての気体の流通を阻止することを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、減速時において、流通制御手段が、接続管路を介して気体を各気筒に流通させるので、上死点に向かうピストンにより圧縮される気体が下死点に向かって移動する気筒に流れ込む。このため、減速時の内燃機関のポンピングロスが低減され、車輪からの回転駆動力が電動機に伝達されて、効率よく電動機が回生運転される。また、連通孔が上死点に達している際のピストン頂面の位置よりも上に設けてあるので、ピストンにより圧縮される容積が最少となるので、上記ポンピングロスが低減される。
【0009】
加えて、減速時における内燃機関の吸排気弁の制御は、通常運転時の制御から変更する必要がなく、減速時に常時両者が開いているものに比較して、吸気弁の開時間が短いので、シリンダへの外気の導入量が減少する。したがって、シリンダ内の温度の低下及び触媒の冷却を抑制でき、再始動性の低下を防止するとともに触媒の浄化効率の低下を防止する。
【0010】
簡潔な構造にするためには、流通制御手段が、気筒間の気体の流通を阻止する開閉弁を備え、開閉弁がほぼ同時に開閉されるものが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上説明したような構成であり、減速時の内燃機関のポンピングロスが低減され、車輪からの回転駆動力が電動機に伝達されて、電動機の回生運転の効率を高くすることができる。また、連通孔が上死点に達している際のピストン頂面の位置よりも上に設けてあるので、ピストンにより圧縮される容積が最少となり、上記ポンピングロスを低減することができる。
【0012】
加えて、減速時における内燃機関の吸排気弁の制御は、通常運転時の制御から変更する必要がなく、減速時に常時両者が開いているものに比較して、シリンダへの外気の導入量が減少することから、シリンダ内の温度の低下及び触媒の冷却を抑制でき、再始動性の低下を防止するとともに触媒の浄化効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜4を参照して説明する。
【0014】
この実施形態のハイブリッドエンジン(以下、エンジンと称する)1は、三気筒の内燃機関2と、内燃機関2の駆動力を補助して発電機としても機能する電動機3とを備えて、車両、例えば自動車に搭載されるものである。
【0015】
内燃機関2は、吸気系にエアフィルタが取り付けられ、排気系に触媒を有し、さらにそれぞれの気筒において少なくとも対をなす吸気弁4と排気弁5とを備え、燃料の供給を燃料噴射弁により行う型式のものであれば、燃料の種類を問わない。そして、自動車がブレーキ操作により減速走行状態になり、内燃機関2及び/又は自動車の運転状態が所定の条件を満たす場合、例えば、機関回転数が所定回転数以下になる、あるいは機関回転数が所定回転数以下になるとともに、車速が所定車速以下になる場合、燃料の供給を停止するように燃料噴射弁が制御される型式のものである。
【0016】
内燃機関2はさらに、それぞれのシリンダ6において、ピストン7が上死点に達している際のピストン頂面7aの位置よりも上のシリンダヘッドの部位に連通孔8を備えている。それぞれの連通孔8は、その連通孔8を開閉する開閉弁9を備え、気体が流通する管路である接続管路10により相互に接続されている。流通制御手段を構成する開閉弁9は、常時は連通孔8を閉じているもので、減速時にモータ11により回転されるカム12により、全数がほぼ同時に全開にされるものである。開閉弁9以外に、接続管路10、モータ11、回転軸12a、カム12b及び以下に説明する電子制御装置13が、流通制御手段を構成する。なお、このようにモータ11により開閉弁9を開弁するものでは、開閉弁9の開度を回転角度により制御して、エンジンブレーキにおけるトルク量を制御するように構成するものであってもよい。
【0017】
モータ11は、電子制御装置13により制御する。電子制御装置13は、マイクロコンピュータシステムを主体に構成されおり、モータ11の他に、燃料噴射量を含む内燃機関2の種々の運転状態を制御するものである。電子制御装置13には、アクセルセンサ、ブレーキ油圧センサ、エンジン回転センサ、車速センサ、充電容量センサなどが電気的に接続される。また、電子制御装置13には、電動機3を制御するための電動機制御装置14が電気的に接続してある。電動機制御装置14は、電子制御装置13から入力される各種の情報に基づいて車輪を駆動する時の電動機3を制御するとともに、減速時における回生運転の際の発電量の制御を行うものである。なお、図示しないが、電動機3とその電源であるバッテリとの間には、電力制御回路(インバータあるいはDC−DCコンバータ)が設けてあり、電力制御回路が電動機3に対して電力を供給するとともに、回生運転時の電力をバッテリに充電するものである。
【0018】
このような構成において、電子制御装置13が、アクセルセンサ及びブレーキ油圧センサそれぞれから出力される信号に基づいて減速時であることを判断する。これに加えて、エンジン回転センサ及び車速センサそれぞれから出力される信号に基づいて燃料の噴射を停止する燃料カットを判定し、燃料噴射弁を制御する。
【0019】
電子制御装置13が減速時であることを判断するとともに、燃料カットを実行すると、モータ11が制御されて開閉弁9が全て開弁されて全開となる。開閉弁9を全開にすると、それぞれのシリンダ6は連通孔8を介して接続管路10により気体が相互に流通する状態になる。この実施形態にあっては、内燃機関2は三気筒であるので、120°CA(クランク角度)の間隔をあけて、二つのシリンダ6でピストン7が上昇する、つまりシリンダ6内に存在する気体を圧縮するように動き、残るシリンダ6においてピストン7が降下するものである。
【0020】
すなわち、吸気行程に対応するシリンダ6(図3の(a)に示す)では、排気弁5が閉弁し吸気弁4が開弁した状態でピストン7が降下する。したがって、ピストン7が上昇するシリンダ6からの気体を、接続管路10を介して吸い込むとともに、吸気弁4の取り付けられた吸気ポートを介して外気を吸い込むものである。同様に、膨張行程に対応するシリンダ6(図3の(c)に示す)では、吸気弁4及び排気弁5が閉弁した状態でピストン7が降下する。したがって、ピストン7が上昇するシリンダ6からの気体のみを、接続管路10を介して吸い込むものである。
【0021】
これに対して、圧縮行程に対応するシリンダ6(図3の(b)に示す)では、吸気弁4及び排気弁5が閉弁した状態でピストン7が上昇する。したがって、ピストン7が降下するシリンダ6に対して、接続管路10を介して気体を押し出すものである。同様に、排気行程に対応するシリンダ6(図3の(d)に示す)では、吸気弁4が閉弁し排気弁5が開弁した状態でピストン7が上昇する。したがって、ピストン7が降下するシリンダ6に対して、接続管路10を介して押し出すとともに、排気弁5の取り付けられた排気ポートを介して排気系に気体を排出するものである。なお、図3において、実線の矢印により、ピストン7の動く方向を示すとともに、点線の矢印により、ピストン7の動きに応じた気体の移動方向を示す。
【0022】
このように、三つのシリンダ6は、上昇するものと降下するものとが混在するもので、図4に示すように、例えば第三気筒においてピストン7が上昇中に第一気筒及び第二気筒においてピストン7が降下する。したがって、接続管路10により連通された状態では、各シリンダ6の内燃機関の運転中の容積の合計は、ほぼ一定になり、例えば一つのシリンダ6においてピストン7が上昇中であっても気体を圧縮してポンピングロスとなることはない。
【0023】
この結果、ピストン7が上昇している気筒からピストン7が降下しているシリンダ6に対して、シリンダ6内の気体が移動する。したがって、ピストン7が上昇しているシリンダ6におけるポンピングロスが低減され、内燃機関2によるエンジンブレーキはほぼなくなる。代わって、自動車の走行により得られるタイヤからの回転駆動力は、電動機3に伝達され、電動機3は発電機として機能する、つまり回生運転される。
【0024】
この場合、内燃機関2は、全ての開閉弁9が全開になっているので、内燃機関2によるエンジンブレーキはほとんど機能しない。つまり、内燃機関2によるエンジンブレーキの引きずり損失を低減することができる。そしてその代わりに、電動機3が回生運転されることにより、自動車としてはエンジンブレーキが作用している状態となる。
【0025】
この実施形態においては、連通孔8がシリンダヘッドの上死点より上の部位に設けてある。このため、ピストン7が上昇して最終的に形成される容積は最少となる。これによって、減速時における内燃機関2のポンピングロスを低減することができるものである。
【0026】
以上のように、減速時に燃料カットを実行している運転状態において、それぞれのシリンダ6における吸気弁4と排気弁5とは、燃料を供給している場合と同じに、吸気行程に対応するシリンダ6の吸気弁4が開弁し、排気行程に対応するシリンダ6の排気弁5が開弁する。そして膨張行程及び圧縮工程に対応するシリンダ6にあっては、吸気弁4と排気弁5とが閉弁している。つまり、吸気弁4と排気弁5との両方が、同時に開弁している時間は、バルブタイミングにおけるオーバーラップ期間のわずかなものである。このため、吸気系と排気系とがシリンダ6内を介して連通状態になる時間はわずかである。
【0027】
このように、吸気弁4と排気弁5とが同時に開弁している時間が短いため、減速時の走行において、走行風により吸気系に達する外気がシリンダ6内に流入することはごく少量である。このため、シリンダ6内が、燃料カットを実行している間に外気により冷却されて内部温度が低下することを抑制することができる。このことは、燃料カットから復帰して、内燃機関を再始動する場合の始動性を確保することができ、また排気系の触媒の温度が低下していないので、排気ガスの浄化効率が低下することを防止することができる。
【0028】
この実施形態にあっては、それぞれのシリンダ6毎に取り付けられる開閉弁9を、モータ11により全数を同時に開閉するようにしているので、それぞれのシリンダ6の連通状態を簡潔な構造により制御することができる。したがって、製造コストを低く抑えることができる。また、このような弁制御のための機構にすることにより、電動機3の電源となる充電可能な電池つまりバッテリの充電状態に応じて、開閉弁9の開度を決定するとよい。具体的には、電子制御装置13に入力されるバッテリの残存容量を検出する充電容量センサからの出力に基づいて、バッテリの充電状態を判断し、バッテリが満充電に近い時には、開閉弁9を閉じ側に制御して発電を抑制するものである。このような構成を取ることにより、内燃機関2によるエンジンブレーキと回生運転とのバランスを好適な状態に保つことができる。
【0029】
なお、上記実施形態においては、減速時において開閉弁9を開弁するものを説明したが、内燃機関2の始動時に、開閉弁9を開弁するものであってもよい。このように始動時に開閉弁9を開弁することにより、クランキング時のポンピングロスを低減することができる。この結果、電動機3への通電時間を短縮することができるので、内燃機関2の始動時における電力消費を低減することができる。
【0030】
また、開閉弁9は、それぞれを電磁弁又は油圧弁として、あるいは個別に電磁気的に駆動することが可能な構成として、電子制御装置13によりそれぞれ個別に開閉し得る構成とするものであってもよい。さらには、開閉弁は個別にモータにより開閉するものであってもよい。
【0031】
さらには、開閉弁は、隣り合うシリンダ間を接続する接続管路の部分に取り付けるものであってもよい。すなわち、三気筒の内燃機関の場合、接続管路の、第一のシリンダと第二のシリンダとを接続する部分に開閉弁を取り付けるとともに、第二のシリンダと第三のシリンダとを接続する部分に開閉弁を取り付ける構成である。
【0032】
加えて、充電容量センサに代えて、バッテリの充放電電流及び端子電圧を測定しておき、充放電電流の積算値及び端子電圧に基づいて残存容量を推定(検出)するものであってよい。このようなバッテリの残存容量の検出方法は、前述のものに限らず、当該分野で広く知られているものを適宜採用するものであってよい。
【0033】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の活用例として、上記実施形態のように、減速時において、開閉弁を開弁して、回生運転の効率を向上させる以外に、例えば内燃機関がV型内燃機関である場合、低負荷時の燃費を向上させる制御に適用してもよい。すなわち、例えば6気筒V型内燃機関において、片方のバンクを構成しているシリンダそれぞれに連通孔を設けるとともに、開閉弁及び接続管路を設けて、低負荷の場合は開閉弁を開弁して片方のバンクにおけるフリクションロスを低減するので、片側の三気筒のみで低負荷に見合った出力を発生させることができ、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態の概略構成説明図。
【図2】同実施形態の構成を模式的に示す模式図。
【図3】同実施形態のピストンの動きとシリンダ内の気体の動きとを示す模式図。
【図4】同実施形態のピストンの動きに対応するシリンダ内の容積の変化と合計容積の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0036】
1…ハイブリッドエンジン
2…内燃機関
3…電動機
7…ピストン
7a…ピストン頂面
8…連通孔
9…開閉弁
10…接続管路
11…モータ
12a…カム
12b…回転軸
13…電子制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と多気筒の内燃機関との出力軸を選択的に接続して動力を出力するハイブリッドエンジンにおいて、内燃機関が、各気筒においてピストンが上死点に達している際のピストン頂面の位置よりも上に設けてなる連通孔と、それぞれの連通孔を介して気体が流通するように各気筒を接続する接続管路と、接続管路の気体の流通を制御する流通制御手段とを備えてなり、
流通制御手段は、減速時に電動機を回生運転する場合に接続管路を介して気体を各気筒に流通させるとともに、回生運転以外の電動機の運転状態の場合には接続管路を介しての気体の流通を阻止するハイブリッドエンジン。
【請求項2】
流通制御手段が、気筒間の気体の流通を阻止する開閉弁を備え、開閉弁がほぼ同時に開閉される請求項1記載のハイブリッドエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213637(P2008−213637A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52968(P2007−52968)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】