説明

ハイブリッド自動車

【課題】リバース走行する際に第1の電動機にロック故障が生じていないことを確かめた上でリバース走行を許可し、第1の電動機にロック故障が生じているときにリバース走行することによって内燃機関が逆回転して破損するのを防止する。
【解決手段】運転者がシフトレバーをリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更したときにモータMG1からエンジンをクランキングする方向のトルクを出力し(S110)、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至ったときにはモータMG1にロック故障が生じていないと判断してリバース走行を許可し(S160)、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至らないときにはモータMG1にロック故障が生じていると判断してリバース走行を禁止する(190)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関し、詳しくは、内燃機関と、第1の電動機と、内燃機関の出力軸と第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構を介することなく駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、第1の電動機および第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、を備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、エンジンと、第1のモータジェネレータと、エンジンの出力軸と第1のモータジェネレータの回転軸と車軸側とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構を介することなく車軸側に動力を出力可能な第2のモータジェネレータと、第1のモータジェネレータおよび第2のモータジェネレータと電力のやりとりが可能なバッテリと、第1のモータジェネレータのロータを回転不能に固定するロック機構とを備え、ハイブリッド車両を運転走行していないときにロック機構によるロックを解除した状態で第1のモータジェネレータからトルクを出力し、第1のモータジェネレータの回転数変化が生じたときにはロック機構にロック故障は生じていないと判定し、第1のモータジェネレータの回転数変化が生じないときにはロック機構にロック故障が生じていると判定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車では、上述した故障判定をハイブリッド車両を運転走行していないときに実行することにより、走行中に運転者に違和感を与えることなく、ロック機構のロック故障を適切に判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−208585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハイブリッド自動車の構成からロック機構を取り除いたハイブリッド自動車では、ロック機構のロック故障を判定する必要はないが、第1のモータジェネレータにロック故障が生じているときにリバース走行すると、エンジンが逆回転してエンジンが破損する場合が生じる。このため、リバース走行するときに第1のモータジェネレータにロック故障が生じていないことを確かめる必要がある。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、内燃機関と、第1の電動機と、内燃機関の出力軸と第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構を介することなく駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、第1の電動機および第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、を備えるハイブリッド自動車において、リバース走行する際に第1の電動機にロック故障が生じていないことを確かめた上でリバース走行を許可し、第1の電動機にロック故障が生じているときにリバース走行することによって内燃機関が逆回転して破損するのを防止することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関と、第1の電動機と、前記内燃機関の出力軸と前記第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構を介することなく前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、前記第1の電動機および前記第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、を備えるハイブリッド自動車において、
シフトレバーがリバース走行位置に変更されたとき、前記内燃機関がクランキングされる方向のトルクが前記第1の電動機から出力されるよう該第1の電動機を制御するトルク出力制御を実行し、前記トルク出力制御による前記第1の電動機からのトルクの出力が確認できたときには前記トルク出力制御を停止して運転者の操作に基づくリバース走行制御を許可し、前記トルク出力制御による前記第1の電動機からのトルクの出力が確認できないときには前記トルク出力制御を停止して前記リバース走行制御を禁止するリバース許可禁止手段、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド自動車では、シフトレバーがリバース走行位置に変更されたときには、まず、内燃機関がクランキングされる方向のトルクが第1の電動機から出力されるよう第1の電動機を制御するトルク出力制御を実行する。そして、このトルク出力制御による第1の電動機からのトルクの出力が確認できたときにはトルク出力制御を停止して運転者の操作に基づくリバース走行制御を許可する。第1の電動機からのトルクの出力が確認できたときには第1の電動機にはロック故障が生じていないと判定できるから、リバース走行を許可するのである。一方、トルク出力制御による第1の電動機からのトルクの出力が確認できないときにはトルク出力制御を停止してリバース走行制御を禁止する。第1の電動機からのトルクの出力が確認できないときには第1の電動機にはロック故障が生じている可能性があると判定できるから、リバース走行により内燃機関が逆回転して破損するのを防止するためにリバース走行を禁止するのである。したがって、本発明のハイブリッド自動車では、リバース走行する際に第1の電動機にロック故障が生じていないことを確かめた上でリバース走行を許可することができ、第1の電動機にロック故障が生じているときにリバース走行することによって内燃機関が逆回転して破損するのを防止することができる。ここで、トルク出力制御による第1の電動機からのトルクの出力の確認は、第1の電動機の回転数が例えば閾値を超えたか否かにより行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるリバース許可禁止処理ルーチンの一例を示すフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbやシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキポジションBP,車速センサ88からの車速Vを入力すると共にエンジンECU24やモータECU40と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。なお、シフトポジションSPとしては、駐車ポジション(Pポジション)、前進方向の走行用ポジション(Dポジション)、リバース走行用のポジション(Rポジション)などがある。
【0012】
実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット70によって実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット70では、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸36に要求される要求トルクを設定すると共に駆動軸36に実際に出力する制御用トルクTd*がレート処理により要求トルクに一致するよう制御用トルクTd*を設定する。また、要求トルクに駆動軸36の回転数(例えば、モータMG2の回転数や車速に換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて得られる走行に要求される走行用パワーとバッテリ50から放電可能な電力量としての残容量(SOC)に基づいて設定されるバッテリ50の充放電要求パワーとの和としてエンジン22から出力すべき要求パワーを設定すると共にエンジン22から実際に出力する制御用パワーPe*がレート処理により要求パワーに一致するよう制御用パワーPe*を設定する。続いて、バッテリ50の温度Tbに基づいて設定されるバッテリ50から充放電してもよい最大電力としての入出力制限の範囲内で制御用パワーPe*とエンジン22を効率よく運転することができるエンジン22の回転数とトルクとの制約としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)とを用いてエンジン22の目標回転数と目標トルクとを設定すると共にエンジン22の回転数が目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令を設定し、更に、制御用トルクTd*からモータMG1をトルク指令で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータMG2のトルク指令として設定する。そして、設定したエンジン22の目標回転数と目標トルクとをエンジンECU24に送信すると共にモータMG1,MG2のそれぞれのトルク指令をモータECU40に送信する。目標回転数と目標トルクとを受信したエンジンECU24は、目標回転数と目標トルクとによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行し、モータMG1,MG2のそれぞれのトルク指令を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。
【0013】
次に、運転者がシフトレバーをリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更したときの処理について説明する。図2は、実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるリバース許可禁止処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、運転者によりシフトレバーがリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更され、シフトポジションセンサ82によりシフトポジションSPがリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更されたのを検出したときに実行される。
【0014】
リバース許可禁止処理ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、まず、モータMG1にロック故障が検出されていないか否かを判定する(ステップS100)。このモータMG1のロック故障の検出は、以前にこのルーチンが実行されて後述するステップS180でモータMG1がロック故障と判定されたことを意味する。したがって、以前にモータMG1がロック故障と判定されたときにはモータMG1にロック故障が検出されていると判断し、リバース走行を禁止して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0015】
一方、モータMG1のロック故障が検出されていないときには、モータMG1からエンジン22をクランキングする方向のトルクが出力されるようモータECU40にトルク出力指示を行ない(ステップS110)。所定時間(例えば、1秒や2秒,3秒など)が経過するまでに入力したモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至るか否かを判定する(ステップS120〜S140)。ここで、モータMG1の回転数Nm1は、実施例では、モータMG1に取り付けられた図示しない回転位置検出センサにより検出されたモータMG1のロータの回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、閾値Nrefとしては、モータMG1の回転数が確認できればよいので、例えば、40rpmや50rpm、70rpmなどを用いることができる。
【0016】
所定時間が経過するまでに入力したモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至ったときには、モータMG1にロック故障が生じていないと判断し、モータMG1からのエンジン22をクランキングする方向へのトルクの出力を停止すると共に(ステップS150)、リバース走行を許可して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。リバース走行が許可されると、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じたリバース走行へのトルクがモータMG2から出力されるようモータMG2を駆動制御してリバース走行を行なう。
【0017】
ステップS120〜S140で所定時間が経過するまでに入力したモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至らないと判定したときには、モータMG1からのエンジン22をクランキングする方向へのトルクの出力を停止すると共に(ステップS170)、モータMG1にロック故障が生じていると判定して故障ランプ89を点灯し(ステップS180)、リバース走行を禁止して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。このように、モータMG1にロック故障が生じているときにリバース走行を禁止するのは、リバース走行することによってエンジン22が逆回転して破損するのを防止するためである。
【0018】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、運転者がシフトレバーをリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更したときにモータMG1からエンジン22をクランキングする方向のトルクを出力し、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至ったときには、モータMG1にロック故障が生じていないと判断してリバース走行を許可し、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至らないときには、モータMG1にロック故障が生じていると判断してリバース走行を禁止することにより、リバース走行する際にモータMG1にロック故障が生じていないことを確かめた上でリバース走行を許可することができ、モータMG1にロック故障が生じているときにリバース走行することによってエンジン22が逆回転して破損するのを防止することができる。しかも、モータMG1にロック故障が生じているときには故障ランプ89を点灯するから、モータMG1にロック故障が生じているのを運転者に知らせることができる。
【0019】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「第1の電動機」に相当し、プラネタリギヤ30が「遊星歯車機構」に相当し、モータMG2が「第2の電動機」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、運転者がシフトレバーをリバース走行用のポジション(Rポジション)に変更したときにモータMG1からエンジン22をクランキングする方向のトルクを出力し、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至ったときには、モータMG1にロック故障が生じていないと判断してリバース走行を許可し、所定時間が経過するまでにモータMG1の回転数Nm1が閾値Nref以上に至らないときには、モータMG1にロック故障が生じていると判断してリバース走行を禁止する図2のリバース許可禁止処理ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「リバース許可禁止手段」に相当する。
【0020】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0021】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、51 温度センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89 故障ランプ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、第1の電動機と、前記内燃機関の出力軸と前記第1の電動機の回転軸と駆動軸とに3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構を介することなく前記駆動軸に動力を出力可能な第2の電動機と、前記第1の電動機および前記第2の電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、を備えるハイブリッド自動車において、
シフトレバーがリバース走行位置に変更されたとき、前記内燃機関がクランキングされる方向のトルクが前記第1の電動機から出力されるよう該第1の電動機を制御するトルク出力制御を実行し、前記トルク出力制御による前記第1の電動機からのトルクの出力が確認できたときには前記トルク出力制御を停止して運転者の操作に基づくリバース走行制御を許可し、前記トルク出力制御による前記第1の電動機からのトルクの出力が確認できないときには前記トルク出力制御を停止して前記リバース走行制御を禁止するリバース許可禁止手段、
を備えるハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140061(P2012−140061A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292955(P2010−292955)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】