説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】 急減速に伴うエンジンストールの回避と再加速時の加速性能の確保との両立を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジンEと、モータジェネレータMGと、モータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとの間に介装した自動変速機ATと、エンジンEとモータジェネレータMGとを断接可能な第1クラッチCL1と、車両の制動開始を検出する制動開始検出部401と、エンジンEのエンジン回転数低下量を検出するエンジン回転数低下量検出部402と、車両の制動開始時点からのエンジン回転数低下量が自動変速機ATの現変速段で回転数閾値Neoを維持可能な場合には、現変速段を維持し、現変速段で回転数閾値Neoを維持不能な場合には、変速時間に基づき決定される選択可能な変速段であって回転数閾値Neoを維持可能な変速段のうち最も高い変速段に変速し、それ以外のとき第1クラッチCL1を開放するエンジン回転数維持制御部403と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の制御装置では、スロットルバルブが全閉状態のとき、エンジンの回転低下率が低い領域では、エンジンとモータとを断接するクラッチの目標スリップ率を小さな値に抑制し、回転低下率が高い領域では、急減速と見なして目標スリップ率を大きくしている。上記説明に関係する技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平6−94122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、変速が遅れた場合、急減速によりエンジン回転数が急激に低下してエンジンストールが発生する可能性がある。また、クラッチをスリップさせるため、ドライバの再加速要求時、車両の加速性能が悪化するという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、急減速に伴うエンジンストールの回避と再加速時の加速性能の確保との両立を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、車両の制動開始時点からのエンジン回転数低下量が自動変速機の現在の変速段で所定のエンジン回転数を維持可能な場合には、現在の変速段を維持し、現在の変速段で所定のエンジン回転数を維持不能な場合には、変速時間に基づき決定される選択可能な変速段であって所定エンジン回転数を維持可能な変速段のうち最も高い変速段に変速し、それ以外のときクラッチを開放する。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、エンジン回転数の低下量に応じて、所定のエンジン回転数を維持できる変速段を選択する。このとき、選択する変速段は、現在の変速段からの変速時間に基づき選択可能な変速段のうち最も変速段の高いものとする。一方、変速により所定のエンジン回転数を維持不能な場合にはクラッチを開放する。
これにより、急減速に伴うエンジンストールの回避と再加速時の加速性能の確保との両立を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、ハイブリッド車両の駆動系構成を説明する。
図1は実施例1のエンジン始動制御装置が適用された後輪駆動によるハイブリッド車両を示す全体システム図である。実施例1におけるハイブリッド車の駆動系は、図1に示すように、エンジンEと、第1クラッチ(クラッチ)CL1と、モータジェネレータ(モータ)MGと、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0009】
エンジンEは、例えばガソリンエンジンであり、後述するエンジンコントローラ1からの制御指令に基づいて、スロットルバルブのバルブ開度等が制御される。なお、エンジン出力軸にはフライホイールFWが設けられている。
【0010】
第1クラッチCL1は、エンジンEとモータジェネレータMGとの間に介装されたクラッチであり、後述する第1クラッチコントローラ5からの制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された制御油圧により作動し、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。具体的には、第1クラッチCL1は非制御時において、板ばねの付勢力によって完全締結しているノーマルクローズ型の乾式クラッチである。第1クラッチCL1の開放指令が出力されると、伝達トルク容量指令に応じた油圧がピストンに供給されてストロークし、ストローク量に応じた伝達トルク容量に設定される。所定以上のストロークが行われると、クラッチプレート間の接触が絶たれて開放する。また、ピストンにはクラッチ開放時のフリクションロスを軽減するために、クラッチプレートの接触が絶たれた後も更にピストンに付与する油圧を高めて余分に所定量ストロークさせる。
【0011】
一方、第1クラッチCL1が開放された状態から締結するときは、ピストンに付与する油圧を徐々に低くする。すると、ピストンがストロークを開始し、所定量ストロークしたときにクラッチプレートが当接し始める(ガタ詰めに相当)。ちなみに、クラッチプレートが当接したか否かはエンジン回転数が上昇を開始したか否かで判断できる。それ以後は、ピストンに作用する油圧を低くするほど高い伝達トルク容量となる。なお、実施例1ではノーマルクローズ型の乾式クラッチとしたが、ノーマルオープン型でもよいし、湿式クラッチでも良いし、多板であっても単板であっても構わない。
【0012】
モータジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータジェネレータであり、後述するモータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この状態を「力行」と呼ぶ)、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータジェネレータMGのロータは、図外のダンパーを介して自動変速機ATの入力軸に連結されている。
【0013】
第2クラッチCL2は、モータジェネレータMGと左右後輪RL,RRとの間に介装されたクラッチであり、後述するATコントローラ7からの制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、スリップ締結を含み締結・開放が制御される。
【0014】
自動変速機ATは、前進5速後退1速等の有段階の変速比を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える変速機であり、第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、いくつかの摩擦締結要素を流用している。
【0015】
そして、自動変速機ATの出力軸は、車両駆動軸としてのプロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。なお、前記第1クラッチCL1と第2クラッチCL2には、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチを用いている。
【0016】
このハイブリッド駆動系には、第1クラッチCL1の締結・開放状態に応じて3つの走行モードを有する。第1走行モードは、第1クラッチCL1の開放状態で、モータジェネレータMGの動力のみを動力源として走行するモータ使用走行モードとしての電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」と略称する。)である。第2走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用走行モード(以下、「HEV走行モード」と略称する。)である。第3走行モードは、第1クラッチCL1の締結状態で第2クラッチCL2をスリップ制御させ、エンジンEを動力源に含みながら走行するエンジン使用スリップ走行モード(以下、「WSC走行モード」と略称する。)である。このモードは、特にバッテリSOCが低いときやエンジン水温が低いときに、クリープ走行を達成可能なモードである。なお、EV走行モードからHEV走行モードに遷移するときは、第1クラッチCL1を締結し、モータジェネレータMGのトルクを用いてエンジン始動を行う。
【0017】
上記「HEV走行モード」には、「エンジン走行モード」と「モータアシスト走行モード」と「走行発電モード」との3つの走行モードを有する。
「エンジン走行モード」は、エンジンEのみを動力源として駆動輪を動かす。「モータアシスト走行モード」は、エンジンEとモータジェネレータMGの2つを動力源として駆動輪を動かす。「走行発電モード」は、エンジンEを動力源として駆動輪RL,RRを動かすと同時に、モータジェネレータMGを発電機として機能させる。
【0018】
定速運転時や加速運転時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。
【0019】
また、更なるモードとして、車両停止時には、エンジンEの動力を利用してモータジェネレータMGを発電機として動作させる発電モードを有する。
【0020】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、互いの情報交換が可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0021】
エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令等に応じ、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数,Te:エンジントルク)を制御する指令を、例えば、図外のスロットルバルブアクチュエータへ出力する。なお、エンジン回転数Ne等の情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0022】
モータコントローラ2は、モータジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報を入力し、統合コントローラ10からの目標モータジェネレータトルク指令等に応じ、モータジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータジェネレータ回転数,Tm:モータジェネレータトルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電状態を表すバッテリSOCを監視していて、バッテリSOC情報は、モータジェネレータMGの制御情報に用いると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
第1クラッチコントローラ5は、第1クラッチ油圧センサ14と第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令に応じ、第1クラッチCL1の締結・開放を制御する指令を第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。なお、第1クラッチストロークC1Sの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0024】
ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と車速センサ17と第2クラッチ油圧センサ18と運転者の操作するシフトレバーの位置に応じた信号を出力するインヒビタスイッチからのセンサ情報を入力し、統合コントローラ10からの第2クラッチ制御指令に応じ、第2クラッチCL2の締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブ内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する。なお、アクセルペダル開度APOと車速VSPとインヒビタスイッチの情報は、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0025】
ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19とブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(摩擦ブレーキによる制動力)で補うように、統合コントローラ10からの回生協調制御指令に基づいて回生協調ブレーキ制御を行う。
【0026】
統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21と、第2クラッチ出力回転数N2outを検出する第2クラッチ出力回転数センサ22と、第2クラッチ伝達トルク容量TCL2を検出する第2クラッチトルクセンサ23と、ブレーキ油圧センサ24と、第2クラッチCL2の温度を検知する温度センサ10aと、前後加速度を検出するGセンサ10bからの情報およびCAN通信線11を介して得られた情報を入力する。
【0027】
また、統合コントローラ10は、エンジンコントローラ1への制御指令によるエンジンEの動作制御と、モータコントローラ2への制御指令によるモータジェネレータMGの動作制御と、第1クラッチコントローラ5への制御指令による第1クラッチCL1の締結・開放制御と、ATコントローラ7への制御指令による第2クラッチCL2の締結・開放制御と、を行う。
【0028】
図2は、実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図であり、統合コントローラ10は、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0029】
目標駆動力演算部100では、図3に示す目標駆動力マップを用いて、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0030】
モード選択部200は、モードマップに基づいて目標モードを選択する。図5はモードマップを表す。モードマップ内には、EV走行モードと、WSC走行モードと、HEV走行モードとを有し、アクセルペダル開度APOと車速VSPとから目標モードを演算する。但し、EV走行モードが選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標モードとする。
【0031】
目標充放電演算部300では、図4に示す目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。また、目標充放電量マップには、EV走行モードを許可もしくは禁止するためのEVON線がSOC=50%に設定され、EVOFF線がSOC=35%に設定されている。
【0032】
SOC≧50%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が出現する。モードマップ内に一度EV走行モード領域が出現すると、SOCが35%を下回るまでは、この領域は出現し続ける。
【0033】
SOC<35%のときは、図5のモードマップにおいてEV走行モード領域が消滅する。モードマップ内からEV走行モード領域が消滅すると、SOCが50%に到達するまでは、この領域は消滅し続ける。
【0034】
動作点指令部400では、アクセルペダル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらの動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標モータジェネレータトルクと目標第2クラッチ締結容量と自動変速機ATの目標変速段と第1クラッチCL1の伝達トルク容量指令である第1クラッチソレノイド電流指令を演算する。
【0035】
変速制御部500では、シフトマップに示すシフトスケジュールに沿って、目標第2クラッチ締結容量と目標変速段を達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御する。なお、シフトマップは、車速VSPとアクセルペダル開度APOに基づいてあらかじめ目標変速段が設定されたものである。
【0036】
次に、実施例1のエンジン回転数維持制御について説明する。
動作点指令部400は、制動開始検出部(制動開始検出手段)401と、エンジン回転数低下量検出部(エンジン回転数低下量検出手段)402と、エンジン回転数維持制御部(エンジン回転数維持制御手段)403とを備える。
【0037】
制動開始検出部401は、CAN通信線11を介してブレーキコントローラ9に入力されたブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報を入力し、ブレーキストロークに基づいて車両の制動開始を検出する。
【0038】
エンジン回転数低下量検出部402は、CAN通信線11を介してエンジンコントローラ1に入力されたエンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報を入力し、エンジン回転数の変化量からエンジン回転数低下量を算出する。
【0039】
エンジン回転数維持制御部403は、スロットルバルブ全閉時(フューエルカット時)、車両の制動開始時点からのエンジン回転数低下量に基づき、所定のエンジン回転数(エンジンEが安定して出力できるエンジン回転数)が維持されるように、自動変速機ATの目標変速段を決定し、決定した目標変速段を変速制御部500に出力する。このとき、所定のエンジン回転数を維持可能な変速段が無い場合は、第1クラッチCL1を開放(全開放)する。
【0040】
[エンジン回転数維持処理]
図6は、上記エンジン回転数維持処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この処理は、スロットルバルブ全閉時であって、ドライバがブレーキペダルの踏み込みを開始してからブレーキペダルから足を離すまでの間、所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0041】
ステップS1では、現在のエンジン回転数、すなわち、現在の変速段(現変速段)でのエンジン回転数Ne cur_gpと現変速段のエンジン回転数変化量ΔNe cur_gpとの差分が、回転数閾値Neoよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS2へ移行し、NOの場合にはステップS5へ移行する。ここで、回転数閾値Neoは、エンジンEが安定して出力できるエンジン回転数とする。また、エンジン回転数変化量ΔNe cur_gpは、現変速段の変速比、車速VSPおよびエンジン回転数Neから算出する。
【0042】
ステップS2では、現変速段よりもロー側の変速段を選択した場合のエンジン回転数Ne xthと現変速段以下の変速段を選択したときのエンジン回転数変化量ΔNe xthとの差分が、回転数閾値Neoよりも大きいか否かを判定する。YESの場合にはステップS3へ移行し、NOの場合にはステップS4へ移行する。ここで、エンジン回転数変化量ΔNe xthは、当該変速段を選択したときの変速比、車速VSPおよびエンジン回転数Neから算出する。
【0043】
なお、このステップの処理は、現変速段よりもロー側の変速段について、変速段が最もハイ側のものから順次行い、上記条件に合致する変速段が見つかったステップS4へ進む。現変速段よりもロー側の変速段の全てが条件に合致しない場合、ステップS3へ移行する。
【0044】
ステップS3では、第1クラッチCL1の開放指令を第1クラッチコントローラ5へ出力し、リターンへ移行する。
【0045】
ステップS4では、ステップS2の条件を満たす全ての変速段のうち、最もハイ側の変速段を目標変速段とする変速指令をATコントローラ7へ出力し、リターンへ移行する。
【0046】
ステップS5では、現変速段を維持する指令をATコントローラ7へ出力し、リターンへ移行する。
【0047】
[復帰処理]
統合コントローラ10の変速制御部500は、上記エンジン回転数維持処理終了時、自動変速機ATの変速段が、アクセルペダル開度APOと車速VSPに応じてあらかじめ設定された変速スケジュールに基づく目標変速段と異なる変速段である場合には、当該変速スケジュールに基づく変速段へと復帰させる復帰処理を行う。この復帰処理では、エンジン回転数低下量が変化し、エンジンストールが発生しないと判定した変速段を目標変速段とする。
【0048】
また、上記エンジン回転数維持処理終了時、第1クラッチCL1が開放状態である場合には、下記の2条件が成立したとき、通常のN-Dセレクト(第1クラッチCL1の締結)で駆動力を復帰させる。
・車速VSPがあらかじめ決められた変速パターンのうち、最もロー側の変速段(第1速変速段)を選択する車速となったとき
・エンジン回転数低下量が変化し、エンジンストールが発生しないと判定した変速段を選択できるとき
【0049】
次に、作用を説明する。
実施例1では、スロットルバルブ全閉時にドライバがブレーキペダルの踏み込みを開始して車両が制動開始したとき、急減速に伴うエンジンストールを回避するために、エンジン回転数Neの低下量に応じてエンジンEが安定して出力できるエンジン回転数(以下、目標エンジン回転数)を得られる変速段を選択するエンジン回転数維持処理を実行する。
【0050】
このエンジン回転数維持処理では、現変速段で目標エンジン回転数が維持可能な場合、現変速段を維持する。このとき、図6のフローチャートでは、ステップS1→ステップS5へと進む流れとなる。
【0051】
また、現変速段で目標エンジン回転数が維持できない場合は、現変速段よりもロー側の変速段であって、目標エンジン回転数を維持でき、かつ、現変速段からの変速時間に基づき選択可能な変速段のうち、最もハイ側の変速段へと変速する。このとき、図6のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS4へと進む流れとなる。
【0052】
すなわち、実施例1のエンジン回転数維持処理では、エンジン回転数Neの低下量に応じて、目標エンジン回転数を維持可能な最も高い変速段へと自動変速機ATを変速させる。このため、エンジンEが安定して出力できる回転数を確保でき、エンジンストールの回避と再加速時の加速性能の確保との両立を図ることができる。
【0053】
さらに、実施例1のエンジン回転数維持処理では、目標エンジン回転数を維持可能な変速段が無い場合には、第1クラッチCL1を開放する。このとき、図6のフローチャートでは、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進む流れとなる。
【0054】
例えば、モータジェネレータMGの失陥もしくはSOC残量等に起因する出力制限時、車両はエンジンEのみを動力源して走行しているため、急減速に伴いエンジンストールが発生した場合、ドライバの要求駆動力に応じた車両の駆動力を確保できない。
【0055】
これに対し、実施例1では、エンジンEが安定して出力できる回転数を確保可能な変速段が無い場合には、第1クラッチCL1を開放するため、エンジンストールを回避でき、その後第1クラッチCL1を締結することで、モータジェネレータMGの失陥もしくは出力制限時であっても、ドライバの要求駆動力に応じた車両の駆動力を確保できる。
【0056】
また、実施例1では、エンジン回転数維持処理終了時、自動変速機ATの変速段をアクセルペダル開度APOと車速VSPに応じてあらかじめ設定された変速スケジュールに基づく目標変速段へ復帰させる際、エンジン回転数低下量が変化し、エンジンストールが発生しないと判定した変速段を目標変速段とする。
【0057】
すなわち、エンジンストールが発生しないと判定した場合、適宜通常の変速スケジュールに基づく変速段へ復帰させることにより、エンジン回転数維持処理の介入に伴いドライバに与える違和感を軽減できる。
【0058】
また、実施例1では、エンジン回転数維持処理終了時、第1クラッチCL1が開放状態である場合には、車速VSPがあらかじめ決められた変速パターンのうち、最もロー側の変速段を選択する車速となり、かつ、エンジン回転数低下量が変化し、エンジンストールが発生しないと判定した変速段を選択できるとき、通常のN-Dセレクト時の制御により第1クラッチCL1を締結し、駆動力を復帰させる。
【0059】
これにより、第1クラッチCL1の開放後、エンジンストールと判定した場合、適宜エンジンEから駆動輪RL,RRへと駆動力が伝達できるようになるため、再加速時の加速性能を高めることができる。
【0060】
図7は、実施例1のエンジン回転数維持作用を示す説明図であり、自動変速機ATの変速段は第4速で、エンジン回転数1,500rpmでコースト走行中にドライバがブレーキを踏んだ場合を前提とする。
【0061】
まず、減速度が小さい場合には、現変速段でエンジンEが安定して出力できる回転数(この場合、1,000rpm)を維持できるため、現変速段を維持する。
【0062】
続いて、減速度が中程度の場合を説明する。まず、実施例1の制御を適用せず、第1クラッチCL1のスリップ制御のみで対応する場合(の破線)には、自動変速機ATの変速段を第4速から第3速へ切り替える際、変速遅れが発生するため、エンジン回転が車輪速に引きずられて600rpmまで低下している。このため、ドライバがアクセルを踏み込んだ場合、エンジン回転が上昇するまでに時間を要し、再加速性の加速性能が悪化することにより、ドライバに違和感を与える。また、エンジン回転はエンジンEが安定して出力できる回転数を下回っているため、エンジンストールが発生する可能性もある。
【0063】
これに対し、実施例1(実線)では、現在の変速段ではエンジン回転数1,000rpmを維持不能であるため、変速時間に基づき決定される選択可能な変速段であってエンジン回転数1,000rpmを維持可能な変速段のうち最も高い変速段(第2速)を目標変速段とし、自動変速機ATの変速段を第4速から第2速へ切り替える。このため、エンジンEが安定して出力できる回転数1,000rpmを維持でき、エンジンストールの回避と再加速性能の確保との両立を図ることができる。
【0064】
次に、減速度が大きい場合を説明する。まず、実施例1の制御を適用せず、第1クラッチCL1のスリップ制御のみで対応する場合(破線)には、自動変速機ATの変速段を第4速からロー側の変速段へと切り替える際、変速遅れが発生するため、エンジン回転が車輪速に引きずられて200rpmまで低下し、エンジンストールが発生している。
【0065】
これに対し、実施例1(実線)では、エンジンEが安定して出力できる回転数1,000rpmを維持可能な変速段が無い場合には、第1クラッチCL1を開放するため、エンジンストールを回避できる。
【0066】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、エンジンEと、モータジェネレータMGと、モータジェネレータMGと駆動輪RL,RRとの間に介装した自動変速機ATと、エンジンEとモータジェネレータMGとを断接可能な第1クラッチCL1と、車両の制動開始を検出する制動開始検出部401と、エンジンEのエンジン回転数低下量を検出するエンジン回転数低下量検出部402と、車両の制動開始時点からのエンジン回転数低下量が自動変速機ATの現変速段で回転数閾値Neoを維持可能な場合には、現変速段を維持し、現変速段で回転数閾値Neoを維持不能な場合には、変速時間に基づき決定される選択可能な変速段であって回転数閾値Neoを維持可能な変速段のうち最も高い変速段に変速し、それ以外のとき第1クラッチCL1を開放するエンジン回転数維持制御部403と、を備える。これにより、急減速に伴うエンジンストールの回避と再加速時の加速性能の確保との両立を図ることができる。
【0067】
(他の実施例)
以上、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を、実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。例えば、FR型のハイブリッド車両について説明したが、FF型のハイブリッド車両であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1の後輪駆動のハイブリッド車両を示す全体システム図である。
【図2】実施例1の統合コントローラ10の制御ブロック図である。
【図3】図2の目標駆動力演算部にて目標駆動力演算に用いられる目標駆動力マップの一例を示す図である。
【図4】図2の目標充放電演算部にて目標充放電電力の演算に用いられる目標充放電量マップの一例を示す図である。
【図5】図2のモード選択部にて目標モードの選択に用いられるモードマップを示す図である。
【図6】実施例1のエンジン回転数維持処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施例1のエンジン回転数維持作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
AT 自動変速機
CL1 第1クラッチ(クラッチ)
E エンジン
MG モータジェネレータ(モータ)
RL,RR 左右後輪(駆動輪)
1 エンジンコントローラ
2 モータコントローラ
3 インバータ
4 バッテリ
5 クラッチコントローラ
6 クラッチ油圧ユニット
7 コントローラ
8 クラッチ油圧ユニット
9 ブレーキコントローラ
10a 温度センサ
10b Gセンサ
11 CAN通信線
12 エンジン回転数センサ
13 レゾルバ
14 クラッチ油圧センサ
15 クラッチストロークセンサ
16 アクセル開度センサ
17 車速センサ
18 クラッチ油圧センサ
19 車輪速センサ
20 ブレーキストロークセンサ
21 モータ回転数センサ
22 クラッチ出力回転数センサ
23 クラッチトルクセンサ
24 ブレーキ油圧センサ
100 目標駆動力演算部
200 モード選択部
300 目標充放電演算部
400 動作点指令部
401 制動開始検出部(制動開始検出手段)
402 エンジン回転数低下量検出部(エンジン回転数低下量検出手段)
403 エンジン回転数維持制御部(エンジン回転数維持制御手段)
500 変速制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記モータと駆動輪との間に介装した自動変速機と、
前記エンジンと前記モータとを断接可能なクラッチと、
車両の制動開始を検出する制動開始検出手段と、
前記エンジンのエンジン回転数低下量を検出するエンジン回転数低下量検出手段と、
車両の制動開始時点からのエンジン回転数低下量が前記自動変速機の現在の変速段で所定のエンジン回転数を維持可能な場合には、現在の変速段を維持し、現在の変速段で所定のエンジン回転数を維持不能な場合には、変速時間に基づき決定される選択可能な変速段であって所定エンジン回転数を維持可能な変速段のうち最も高い変速段に変速し、それ以外のとき前記クラッチを開放するエンジン回転数維持制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−143384(P2010−143384A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322461(P2008−322461)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】