説明

ハイブリッド車両の駆動制御装置

【課題】固定ギアモードを経由して変速が行われるマルチモードのハイブリッド車両において、燃費優先の変速制御とドライバビリティ優先の変速制御とを状況に応じて適切に切り替える。
【解決手段】ハイブリッド車両の駆動装置は、エンジンとモータジェネレータとが動力分配機構を介して出力軸に連結され、動力分配機構と出力軸との間には変速機構が設けられる。変速制御手段は、動力伝達効率を優先して変速を行う燃費優先変速制御と、ギア比が所定の許容変動幅内となったときに変速を行うドライバビリティ優先変速制御とを、要求パワーに応じて選択的に実行する。変速機構の構造上、変速時には一時的に複数の出力段が同時に出力軸に接続される固定段モードが発生し、燃費優先変速制御では、固定段モードにおいてエンジンの回転数が変動する。そこで、要求パワーに応じて2つの変速制御を選択的に実行することにより、ドライバビリティの低下を防止しつつ燃費を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機を備えるハイブリッド車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に加えて、電動機やモータジェネレータなどの動力源を備えるハイブリッド車両が既知である。ハイブリッド車両では、内燃機関を可及的に高効率状態で運転する一方、駆動力やエンジンブレーキ力の過不足を電動機又はモータジェネレータで補う。このようなハイブリッド車両においては、差動作用のある動力分配機構を介して内燃機関(エンジン)とモータジェネレータとを出力軸に連結し、モータジェネレータの回転数を連続的に変化させることにより、エンジンの回転数を連続的に変化させ、いわゆる無段変速モードでの運転が可能となる。
【0003】
また、上記のようなハイブリッド車両に同期変速機を組み合わせることにより、広範囲なギアレンジで高い伝達効率を維持できるシステムが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−155891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなハイブリッド車両においては、同時固定段を含むシーケンシャルな変速のみが可能である。例えば、1速から2速への変速時には、出力軸を1速及び2速のギアに固定した固定段モードを経る必要がある。従って、変速を燃費優先で実施すると、固定段モードを経由する変速の前後で変速比が変化するため、エンジン回転数が瞬間的に変動する。
【0006】
これにより、ドライバビリティが低下することが考えられる。また、内燃機関の冷間始動時など、触媒が十分に暖気されていない状態では、エンジン回転数の変動が大きいと空燃比が変動し、エミッションの悪化や失火の恐れなどが懸念される。さらに、変速時にはモータジェネレータによりエンジン回転数が制御されるため、上記のようなエンジン回転数の変動はモータジェネレータにより制御する必要がある。よって、バッテリの温度や充電状態によっては、モータジェネレータによる対応が遅れたり不十分となり、変速の遅れが生じたり変速が不能となったりする可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、固定段モードを経由して変速が行われるマルチモードのハイブリッド車両において、燃費優先の変速制御とドライバビリティ優先の変速制御とを状況に応じて適切に切り替えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点では、エンジンとモータジェネレータとを動力分配機構を介して出力軸に連結してなるハイブリッド車両の駆動制御装置は、前記動力分配機構と前記出力軸との間に設けられ、複数の無段変速段にわたって変速を行う変速機構と、複数の前記無段変速段の変速用ギアを出力軸に接続することにより変速比が固定された固定段モードを介して変速を行う変速制御手段と、を備え、前記変速制御手段は、動力伝達効率を優先して変速を行う第1の変速制御と、ギア比が所定の許容ギア比変動幅内となったときに変速を行う第2の変速制御とを、要求パワーに応じて選択的に実行する。
【0009】
上記のハイブリッド車両の駆動装置は、エンジンとモータジェネレータとが動力分配機構を介して出力軸に連結されている。これにより、エンジンを最も効率の良い運転状態で運転するとともに、エンジンの出力トルクをモータジェネレータで電気エネルギーとして保存したり、その電気エネルギーを駆動トルクに変換して出力軸に供給してアシストしたりして、全体として効率の良い運転を行う。動力分配機構と出力軸との間には変速機構が設けられ、例えば第1速〜第4速などの複数の変速段にわたり変速が行われる。変速機構による変速動作は変速制御手段により行われる。ここで、変速制御手段は、要求パワーに応じて、動力伝達効率を優先して変速を行う第1の変速制御と、ギア比が所定の許容変動幅内となったときに変速を行う第2の変速制御とを選択的に実行する。変速機構の構造上、変速時には一時的に複数の出力段が同時に出力軸に接続される固定段モードが発生する。動力伝達効率を優先する第1の変速制御では、固定段モードにおいてエンジンの回転数が変動することになり、これがドライバビリティ悪化の要因となる。一方、ギア比が所定の許容変動幅内となったときに変速を行う第2の変速制御では、エンジン回転数の変動は非常に少ないが、動力伝達効率の低い点で変速されるため、燃費改善代は小さくなる。そこで、要求パワーに応じて、第1の変速制御と第2の変速制御とを選択的に実行することにより、ドライバビリティの低下を防止しつつ、できる限り燃費を確保した運転を行うことが可能となる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の駆動制御装置の一態様では、前記変速制御手段は、第1の変速制御の実行中において、変速時におけるエンジン回転数の変動幅が所定のエンジン回転数許容変動幅以上となる場合には、前記第2の変速制御を行う。第1の変速制御では基本的に燃費優先で変速が行われるが、変速時のエンジン回転数の変動が許容変動幅以上となる場合には、ドライバビリティの低下を防止する観点で、第2の変速制御に切り替える。これにより、ある程度の許容範囲内で燃費とドライバビリティを両立することができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の駆動制御装置の他の一態様では、前記変速制御手段は、前記要求パワーに応じて前記ギア比許容変動幅を変化させる。第2の変速制御において、ギア比の許容変動幅を広くするとエンジン回転数の変動が大きくなるが、燃費は改善される。一方、ギア比の許容変動幅を狭くするとエンジン回転数の変動は小さくなるが、燃費の改善は望めない。よって、この態様では、ユーザによる要求パワーに応じて、ギア比の許容変動幅を変化させることにより、エンジン回転数変動に対するユーザの許容度の範囲内で燃費を向上させる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の駆動制御装置の他の一態様では、前記エンジンの排気通路に設けられた触媒の活性を判定する触媒活性判定手段を備え、前記変速制御手段は、前記触媒が不活性状態である場合には、前記第2の変速制御を選択する。エンジンの排気通路に設けられた触媒は、暖気が完了した活性状態にないと通常の排気浄化性能を発揮できない。触媒が不活性状態にある場合には、変速の際にエンジン回転数の変動が大きいと、空燃比の乱れにより排気エミッションの悪化などの問題が生じうる。そこで、触媒が不活性状態にあるときには、エンジン回転数の変動が少ない第2の変速制御を実行することにより、エミッションの悪化を防止する。好適な例では、前記変速制御手段は、前記触媒が不活性状態である場合には、前記変速機構を所定の変速段に固定する。これにより、触媒の不活性状態では変速が行われないので、エンジン回転数の変動に起因するエミッションの悪化を確実に防止することができる。
【0013】
上記のハイブリッド車両の駆動制御装置の他の一態様では、前記モータジェネレータに接続されたバッテリの充放電制限量を検出する充放電制限量検出手段を備え、前記変速制御手段は、前記充放電制限量が第1の所定制限量以上である場合には、前記第2の変速制御を選択する。燃費を優先する第1の変速制御においては、エンジン回転数の変動が発生すると、その変動分はモータジェネレータの動作により制御されるが、モータジェネレータの動作はバッテリの充放電を伴う。よって、バッテリの充放電が制限された状態では、エンジン回転数の変動を生じさせないことが好ましい。よって、バッテリの充放電制限量が所定制限量以上である場合には、エンジン回転数の変動が少ない第2の変速制御を実行する。
【0014】
この場合の好適な例では、前記変速制御手段は、前記充放電制限量が第2の所定制限量以上である場合には、前記変速機構を所定の変速段に固定する。このように、変速を禁止することによりエンジン回転数の変動が防止され、バッテリへの負担を無くすことができる。また、他の好適な例では、前記変速制御手段は、前記充放電制限量に基づいて、前記ギア比許容変動幅を変化させる。これにより、バッテリの充放電制限が大きいときにはエンジン回転数の変動が小さくなるように第2の変速制御におけるギア比の許容変動幅を設定し、バッテリの充放電制限が小さいときにはある程度のエンジン回転数の変動を許容して、燃費の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0016】
図1に、本発明に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の一例を示す。図1の例では、ハイブリッド車両は、内燃機関(エンジン)1と、第1のモータジェネレータ(MG1)2及び第2のモータジェネレータ(MG2)3とを動力装置として備える。エンジン1の出力トルクは動力分配機構4により第1のモータジェネレータ2と出力軸とに分配され、第2のモータジェネレータ3により駆動トルク及びブレーキ力のアシスト(補助)が行われる。この構成は、機械分配式2モータハイブリッド装置と呼ばれる。
【0017】
エンジン1は燃料を燃焼して動力を発生する熱機関であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどが挙げられる。第1のモータジェネレータ2はエンジン1からトルクを受けて回転することにより主として発電を行うものであり、発電に伴う反力トルクが作用する。
【0018】
第2のモータジェネレータ3は、駆動トルク又はブレーキ力を補助(アシスト)する。駆動トルクをアシストする場合、第2のモータジェネレータ3は電力の供給を受けて電動機として機能する。一方、ブレーキ力をアシストする場合には、第2のモータジェネレータ3は、図示しない駆動輪から伝達されるトルクにより回転させられて電力を発生する発電機として機能する。
【0019】
動力分配機構4は、実質的に2組の遊星歯車機構を組み合わせて構成されており、図1に示す例では、シングルピニオン型遊星歯車機構とダブルピニオン型遊星歯車機構とを組み合わせたラビニョ型遊星歯車機構が使用されている。具体的には、外歯歯車である第1サンギア5と、第1サンギア5に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギア6との間に、第1サンギア5とリングギア6とに噛み合っているロングピニオン7が配置されている。第1サンギア5とリングギア6とロングピニオン7との三者でシングルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。また、第1サンギア5に隣接して第2サンギア8が同一軸線上に配置され、第2サンギア8に噛み合っているショートピニオン9がロングピニオン7に噛み合っている。したがって、第2サンギア8と各ピニオン9、7とリングギア6との四者でダブルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。そして、互いに噛み合っているロングピニオン7とショートピニオン9とは複数対設けられており、これらのピニオン7、9がキャリヤ10によって自転かつ公転するように保持されている。
【0020】
動力分配機構4におけるリングギア6にエンジン1からトルクが入力される。したがって、リングギア6がこの発明の入力要素となっている。なお、図1では、エンジン1がリングギア6に直接連結された構成が示されているが、エンジン1とリングギア6との間にトルクコンバータや発進用のクラッチ(それぞれ図示せず)を設けてもよい。
【0021】
動力分配機構4における第1サンギア5には、第1のモータジェネレータ2からトルクが伝達される。したがって、第1サンギア5が反力要素となっている。具体的には、エンジン1と同一軸線上に反力軸11が配置されており、反力軸11のエンジン1側とは反対側の端部が、ギア対12を介して第1のモータジェネレータ2のロータに連結されている。なお、第1のモータジェネレータ2のステータは、ケーシング13などの固定部に連結されて固定されている。
【0022】
上述した動力分配機構4は、入力要素となっているリングギア6と、反力要素となっている第1サンギア5と、第2サンギア8と、キャリヤ10との四つの要素を回転要素とするものであり、第2サンギア8とキャリヤ10とが選択的に出力要素とされる。そして、リングギア6と、第1サンギア5あるいは第2サンギア8と、キャリヤ10との三者で差動作用を生じるように構成されている。
【0023】
これらの出力要素と出力部材との間に、両者の間で選択的にトルクを伝達させる同期連結機構が設けられている。具体的には、反力軸11の外周側に、それぞれ中空軸である第1および第2の中間軸14,15が回転自在に嵌合されている。外周側の第2中間軸15はキャリヤ10に連結されており、内周側の第1中間軸14は第2サンギア8に連結されるとともに第2中間軸15の先端側(エンジン1とは反対側)に突出している。
【0024】
中間軸14,15から所定距離離れ、かつ中間軸14,15に対して平行に出力軸16が回転自在に配置されている。第1中間軸14と出力軸16との間に、第1速用ギア対17及び第3速用ギア対18が配置されている。ギア対17,18は、軸線方向において互いに隣接して配置されている。また、第2中間軸15と出力軸16との間に第2速用ギア対19及び第4速用ギア対20が配置されている。ギア対19,20は、軸線方向において互いに隣接して配置されている。
【0025】
ギア対17〜20のそれぞれは、各中間軸14,15側の駆動ギアと、これに常時噛み合っている出力軸16側の従動ギアとから構成されている。各ギア対17、18の出力軸16側の従動ギアは、クラッチ機構21に連結されている。また、各ギア対19、20の出力軸16側の従動ギアは、クラッチ機構22に連結されている。クラッチ機構21、22は、相互に対向配置されたドグ歯を係合させるドグクラッチとして構成され、本発明における変速機構を構成する。具体的には、クラッチ機構21において、アクチュエータ31を図中左方向に移動させることにより出力軸16は第1速用ギア対17の従動ギアと係合し、アクチュエータ31を図中右方向に移動させることにより出力軸16は第3速用ギア対18の従動ギアと係合する。同様に、クラッチ機構22において、アクチュエータ32を図中左方向に移動させることにより出力軸16は第2速用ギア対19の従動ギアと係合し、アクチュエータ32を図中右方向に移動させることにより出力軸16は第4速用ギア対20の従動ギアと係合する。このように、アクチュエータ31、32を駆動することにより、第1速〜第4速のいずれかの変速段を選択することができる。なお、このようなアクチュエータ31、32の駆動制御は、図示しないECUにより実行される。
【0026】
上記の構成において、変速機構により、第1速から第4速のいずれかの変速段が選択されている場合、本駆動制御装置は無段変速モードで動作する。即ち、動力分配機構4により、第1のモータジェネレータ2の回転数を連続的に変化させるとエンジン1の回転数が連続的に変化し、無段変速モードでの運転が実行される。これに対して、第1速から第2速、第2速から第3速などの変速時には必ず一時的に複数のギアが出力軸に接続された状態(以下、「固定段モード」と呼ぶ。)を経る必要がある。例えば、図1において、第1速での運転時にはクラッチ機構21は第1速用ギア対17側に係合している。第1速から第2速への変速時には、まず、クラッチ機構21はそのままで、アクチュエータ32が図中左方向へ駆動され、クラッチ機構22は第2速用ギア対19側に係合する。このとき、一時的に、第1速用ギア対17と第2速用ギア対19とが同時に出力軸16に連結された状態、即ち固定段モードとなる。その後、アクチュエータ31が図中右方向へ移動してクラッチ21が解放され、出力軸16は第2速用ギア対19のみに連結した状態となる。こうして、第1速から第2速への変速が行われる。
【0027】
このように、本実施形態の駆動制御装置では、変速時に必ず固定段モードが発生する。図2は、第1速〜第4速のいずれかの変速段で運転している状態である無段変速モードと、上記の固定段モードとにおけるエンジン回転数とエンジントルクとの関係を示す。図2において、グラフ201は無段変速モードの動作線を示し、グラフ202は固定段モードの動作線を示す。なお、グラフ205は熱効率を示す。
【0028】
いま、ある変速段(例えば第2速)の無段変速モードで運転しているときの動作点を204とし、そこから変速を行うために固定段モードへ移行したときの動作点を203とすると、図示のように、変速時にエンジン回転数及びエンジントルクは図中矢印に従って変動することとなる。このように、本実施形態のようなマルチモードのハイブリッドシステムでは、変速時に必ず固定段モードを経由するため、燃費優先で変速を実施するとエンジン回転数が変動する。
【0029】
これについて詳しく説明する。図3(a)は、燃費優先変速制御における変速比(ギア比)と理論伝達効率(動力伝達効率)との関係を示す。図示のように、第1速〜第4速のそれぞれについて、変速比と理論伝達効率との関係を示すグラフが存在する。ここで、燃費優先変速制御では、常に理論伝達効率が高い変速段を使用するので、図中太線で示すグラフに従って変速が行われる。しかしながら、前述のように変速時には必ず固定段モードを経由するので、固定段モード中のみ動作点が移動する。例えば第1速から第2速への変速時には、動作点はまず1速のグラフに従って移動し、点215に至った後、矢印211に示すように一度1−2速固定状態の点216に移動した後、再び点215に戻り、その後は第2速のグラフに従って推移する。同様に、第2速から第3速への変速時には動作点は矢印212で示すように移動し、第3速から第4速への変速時には動作点は矢印213に示すように移動する。よって、いずれの場合も、変速時に一時的に固定段モードを経由するため、変速比(ギア比)が変動する。車速(出力)が一定の条件下では、ギア比の変動はエンジン回転数の変動と等価となる。よって、図3(a)に例示するような燃費優先変速制御では、変速時に必ずエンジン回転数の変動を生じることとなる。なお、燃費優先変速制御は本発明の第1の変速制御に相当する。
【0030】
次に、図3(b)にドライバビリティ優先変速制御における変速比と理論伝達効率との関係を示す。ドライバビリティ優先の変速制御では、ギア比が固定段モードの同期回転数近傍になった時点で変速を実施する。図3(b)の例では、第1速での運転において、1−2速固定状態に対応するギア比になった時点で矢印221、222に示すように、一時的に固定段モードを経由した後、第2速での運転に移行する。第2速から第3速への変速時には矢印223、224に従って、第3速から第4速への変速時には矢印225、226に従って、動作点が移動する。このように、ドライバビリティ優先変速制御では、変速時において理論伝達効率は低下するものの、ギア比の変動が無いのでエンジン回転数の変動が生じない。なお、ドライバビリティ優先変速制御は本発明の第2の変速制御に相当する。
【0031】
以上のように、本実施形態の如きマルチモードのハイブリッド車両の駆動制御装置では、燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御のいずれかを選択して行うことができる。そこで、本発明では、状況に応じてこれら2つの変速制御を選択して変速を実行する。
【0032】
[第1実施例]
以下、本発明の第1実施例について説明する。第1実施例では、ドライバビリティの観点から、ユーザの要求に応じて燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御とを使い分けるものである。例えば加速時などの高負荷加速要求時には、もともとエンジン回転数は高くなるため、上述のように変速時にエンジン回転数が変動してもユーザはそれほど気にはならないことが多い。よって、車速やアクセル開度などのユーザ要求が高負荷加速要求である場合には、燃費優先変速制御を行う。一方、車速などの変化が少ない定常走行時などの軽負荷定常要求時は一般的にエンジン回転数は低く、ユーザはエンジン回転数の変動によるドライバビリティの低下を感じ易い。よって、ユーザ要求が低負荷定常要求時には、ドライバビリティ優先変速制御を実行する。ドライバビリティ優先変速制御は、前述のように、ギア比が同期回転数近傍となったときのみ変速を実施する制御方法であり、変速前後のエンジン回転数変化を低減することができる。このように、ユーザ要求に応じて燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御とを切り替えることにより、ドライバビリティと燃費とを両立することができる。
【0033】
また、ユーザ要求により燃費優先の運転モードなどが選択されている場合には、燃費優先変速制御を優先することとしてもよい。これは、ユーザが自ら燃費優先の運転モードを選択しているときには、ユーザのドライバビリティに対する許容度は大きいと考えられるからである。これにより、軽負荷時でも積極的に燃費優先変速制御を実施し、燃費をさらに向上させることができる。
【0034】
これに加えて、ドライバビリティ優先変速制御においては、ギア比が同期回転数近傍となったか否かの判定基準を、ユーザ要求パワーに応じて可変としてもよい。これについて図4を参照して詳しく説明する。図4は図3(b)と同様にドライバビリティ優先変速制御時の変速比と理論伝達効率との関係を示す。ここで、図3(b)の例では、ギア比が同期回転数となったときに変速を行っている。例えば、第1速から第2速への変速は、1−2速固定時のギア比において行われている。これに対して、本例では、図4に示すように、変速を行う際のギア比に幅を持たせる。この幅を「ギア比許容変動幅」と呼ぶ。図4においては、1−2速固定時のギア比を基準として決定されたギア比許容変動幅の範囲内のギア比になったときに第1速から第2速への変速を行う。第2速から第3速、第3速から第4速の場合も同様に、それぞれのグラフの太線部分が上下方向に重なる範囲がギア比許容変動幅に相当する。なお、ギア比許容変動幅は、エンジン回転数許容変動幅から以下の式で得ることができる。
【0035】
(ギア比許容変動幅)
=(目標エンジン回転数+エンジン回転数許容変動幅)/(ドライブシャフト回転数)
次に、ユーザ要求パワーに応じてギア比許容変動幅を変える方法について説明する。ギア比許容変動幅は、車速一定の条件下ではエンジン回転数の許容変動幅と等価となる。図5は、ユーザ要求パワーとエンジン回転数許容変動幅との関係を示す。実線のグラフ230に示すように、ユーザ要求パワーが小さいときは、ユーザはエンジン回転数変動に対して敏感であるため、エンジン回転数許容変動幅、即ちギア比許容変動幅を小さくする。一方、ユーザ要求パワーが大きいときは、元々エンジン回転数は高く、ユーザはエンジン回転数変動にそれほど敏感ではないので、エンジン回転数許容変動幅、即ちギア比許容変動幅を大きく設定する。エンジン回転数許容変動幅を大きく設定すると、その範囲内で理論伝達効率の高い変速段(ギア)を使用することができるので、その分燃費を改善することができる。
【0036】
具体的には、ユーザ要求パワーが低負荷であるときにはドライバビリティ優先変速制御を行うが、その後、ユーザ要求パワーが増加するにつれてエンジン回転数許容変動幅、つまりギア比許容変動幅を増加させる。そして、ユーザ要求パワーが所定の高負荷になったときに、ドライバビリティ優先変速制御を燃費優先変速制御に切り替える。このように、ユーザ要求パワーに応じてギア比許容変動幅を変化させることにより、燃費優先変速制御からドライバビリティ優先変速制御への移行をスムーズに行うことが可能となる。また、優先変速制御からドライバビリティ優先変速制御に移行する場合も、ユーザ要求パワーに応じてドライバビリティ優先変速制御への切り替え後のエンジン回転数許容変動幅を制御することにより、スムーズな移行が可能となる。
【0037】
さらには、ユーザ要求により燃費優先の運転モードなどが選択されている場合には、そうでない場合と比較してエンジン回転数許容変動幅を大きく設定することとしてもよい。例えば、図5において、燃費優先の運転モードが選択されている場合にはグラフ230に従ってエンジン回転数許容変動幅を設定し、燃費優先の運転モードが選択されていない場合にはグラフ231に従ってエンジン回転数許容変動幅を設定する。このように、ユーザが自ら燃費優先の運転モードを選択しているときは、その分ドライバビリティの悪化に対する許容度は大きいと考えられるので、エンジン回転許容変動幅を大きく設定して、その分燃費を改善することが好ましい。
【0038】
図6に、第1実施例による変速制御例に対応するフローチャートを示す。この処理は、図示しないECUなどがユーザ要求に基づいて図1に示すアクチュエータ31、32などを制御することにより実行される。
【0039】
まず、ECUは、車速、アクセル開度などのユーザ要求パワー、並びに、燃費優先の運転モードを選択するスイッチ(以下、「燃費優先スイッチ」と呼ぶ。)の状態などのユーザ要求を取得する(ステップS101)。次に、ECUは、ユーザ要求パワーに基づいて、エンジン要求パワー、エンジン目標回転数、目標ギア比、エンジン回転数許容変動幅などを決定する(ステップS102)。この時、エンジン回転数許容変動幅は、ユーザ要求パワーに応じた基準値に設定される。また、この際、基本的には、ユーザ要求パワーが高負荷である場合に燃費優先変速制御が選択され、ユーザ要求パワーが低負荷である場合はドライバビリティ優先変速制御が選択される。
【0040】
次に、ECUは燃費優先スイッチがオンであるか否かを判定し(ステップS103)、オンである場合には、エンジン回転数許容変動幅を燃費優先スイッチオン時の値に設定する(ステップS104)。これは、例えば図5のグラフ231に従って決定される。一方、オフである場合には、ECUはエンジン回転数許容変動幅を燃費優先スイッチオフ時の値に設定する(ステップS105)。これは、例えば図5のグラフ230に従って決定される。そして、ECUは、目標ギア比で最大伝達効率を得るギア段を目標ギア段とし、変速を行う(ステップS106)。
【0041】
[第2実施例]
第2実施例は、排気のエミッションの観点から燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御とを使い分けるものである。エンジンの冷間始動時など、排気浄化のための触媒が正規の浄化率を発揮するのに十分な程度に暖機されていない状態では、エンジン回転数の変化が大きいと、空燃比が乱れてエンジンからの排出ガスのエミッションが悪化する可能性がある。そこで、触媒が正規の浄化性能を発揮できる活性状態にない場合には、ドライバビリティ優先変速制御を選択することにより、変速時のエンジン回転数変化を極力小さくしてエミッションの悪化を防止する。
【0042】
具体的には、例えば温度センサなどにより排気浄化触媒の温度を検出し、所定の触媒活性温度に達しているか否かを判定する。触媒が活性状態にあるときには、エミッション悪化の恐れが少ないので燃費優先変速制御を行う。一方、触媒が不活性状態である場合には、エミッション悪化を防止するため、ドライバビリティ優先変速制御を行う。
【0043】
また、上記の制御に加えて、触媒が不活性状態にある場合には、変速自体を禁止してもよい。本実施形態の駆動制御装置では、図3(a)及び3(b)に示すように、第1速〜第4速のマルチモード変速が可能であるが、例えば図1に示す変速機構(クラッチ機構21、22及び変速用ギア対17〜20)を設けない場合の変速比と理論伝達効率との関係は、図3(a)及び3(b)の破線219で示す「変速機構なし」の場合に相当し、これは本例における第2速の特性とほぼ同等である。よって、触媒が不活性状態である場合には、変速動作を禁止し、変速段を第2速に固定することによりエンジン回転数の変動を回避し、エミッションの悪化を防止することができる。
【0044】
さらには、エミッション向上の観点から、エアフローメータや空燃比センサなど、エンジンの排気制御デバイスに故障がある場合には、同様に変速を禁止してエミッションの悪化を防止することもできる。
【0045】
図7に、第2実施例による変速制御例のフローチャートを示す。この処理は、エンジンの排気制御デバイスなどに接続されたECUが実行する。まず、ECUは、エアフローメータ、空燃比センサ、酸素センサ、触媒などの排気制御デバイスが正常であるか否かを判定する(ステップS201)。いずれかの排気制御デバイスが正常でない場合(ステップS201;No)、処理はステップS205へ進み、ECUはドライバビリティ優先変速制御を実行する。
【0046】
一方、全ての排気制御デバイスが正常である場合(ステップS201;Yes)、ECUは、排気温度センサの出力又はエンジンの運転履歴などから触媒の暖機状態、即ち触媒が活性状態にあるか否かを確認する(ステップS202)。触媒の暖機が完了している場合(ステップS203;Yes)、ECUは燃費優先変速制御を実行する(ステップS204)。一方、触媒の暖機が完了しておらず、不活性状態にある場合(ステップS203;No)、ECUはドライバビリティ優先変速制御を実行する(ステップS205)。
【0047】
なお、第2実施例においても、触媒の暖機状態に応じて、エンジン回転数許容変動幅を変化させることとしてもよい。即ち、触媒の暖機状態が不十分なときにはドライバビリティ優先変速制御を行い、触媒の暖機が進むにつれてドライバビリティ優先変速制御におけるエンジン回転数許容変動幅を広くしていく。そして、触媒の暖機が完了したときには燃費優先変速制御に切り替える。これにより、エミッションの悪化を防止しつつ、徐々に燃費優先制御に移行することができる。
【0048】
[第3実施例]
第3実施例は、モータジェネレータやバッテリへの負担軽減の観点から、燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御とを使い分けるものである。変速時にエンジン回転数が変動すると、その変動分はモータジェネレータの作動により制御されるため、バッテリの充放電が発生する。よって、バッテリの極冷間時や高温時、バッテリ充電量(SOC)低下時など、バッテリの充放電が制限されている状況では、エンジン回転数の変動を抑制するため、ドライバビリティ優先変速制御を実行する。これにより、変速時のバッテリ消費電力を軽減することができる。また、バッテリを保護して、劣化の促進や寿命の短縮を図ることができる。
【0049】
上記の制御に加えて、バッテリの充放電が制限される状況では、第2実施例で述べたように変速を禁止してもよい。これにより、変速に伴うバッテリからのエネルギー消費を抑えることができる。例えば、バッテリの充放電制限量が第1の制限量に達したときにドライバビリティ優先変速制御を実行し、さらに第1の制限量より大きい第2の制限量に達したときに変速段を第2速に固定して変速を禁止する。
【0050】
さらに、バッテリの充放電制限量に応じて、ドライバビリティ優先変速制御におけるエンジン回転数許容変動幅を変化させることとしてもよい。具体的には、図9に示すように、バッテリの充放電制御量が大きい場合(即ち、バッテリの充放電を極力行わないことが望ましい場合)にはエンジン回転数許容変動幅を小さくし、エンジン回転数の変動を抑制する。一方、バッテリの充放電制御量が小さい場合にはエンジン回転数許容変動幅を大きくし、可能な範囲で燃費を向上させる。
【0051】
図8は、第3実施例による変速制御例のフローチャートである。この処理は、ECUがバッテリの充放電制限量を監視しつつ実行する。まず、ECUは、バッテリの温度及び充電量などから、バッテリの充放電制限量を算出し(ステップS301)、算出した充放電制限量に基づいて、図9に示す特性などを参照して、エンジン回転数許容変動幅を算出する(ステップS302)。そして、ECUは、目標ギア比で最大伝達効率を得るギア段を目標ギア段とし、変速を行う(ステップS303)。
【0052】
以上のように、第3実施例では、モータジェネレータやバッテリへの負担軽減の観点から、燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御とを使い分けることにより、変速時のバッテリ消費電力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態によるハイブリッド装置の概略構成を示す。
【図2】無段変速モードと固定段モードの動作特性を示す。
【図3】燃費優先変速制御とドライバビリティ優先変速制御の例を示す。
【図4】ギア比許容変動幅を可変としたドライバビリティ優先変速制御の例を示す。
【図5】ユーザ要求パワーによるエンジン回転数許容変動幅の変化例を示す。
【図6】第1実施例による変速制御のフローチャートである。
【図7】第2実施例による変速制御のフローチャートである。
【図8】第3実施例による変速制御のフローチャートである。
【図9】バッテリの充放電制限量とエンジン回転数許容変動量の関係を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2、3 モータジェネレータ
4 動力分配機構
16 出力軸
21、22 クラッチ機構
17、18、19、20 変速用ギア対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータジェネレータとを動力分配機構を介して出力軸に連結してなるハイブリッド車両の駆動制御装置であって、
前記動力分配機構と前記出力軸との間に設けられ、複数の無段変速段にわたって変速を行う変速機構と、
複数の前記無段変速段の変速用ギアを出力軸に接続することにより変速比が固定された固定段モードを介して変速を行う変速制御手段と、を備え、
前記変速制御手段は、動力伝達効率を優先して変速を行う第1の変速制御と、ギア比が所定のギア比許容変動幅内となったときに変速を行う第2の変速制御とを、要求パワーに応じて選択的に実行することを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、第1の変速制御の実行中において、変速時におけるエンジン回転数の変動幅が所定のエンジン回転数許容変動幅以上となる場合には、前記第2の変速制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記変速制御手段は、前記要求パワーに応じて前記ギア比許容変動幅を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの排気通路に設けられた触媒の活性を判定する触媒活性判定手段を備え、
前記変速制御手段は、前記触媒が不活性状態である場合には、前記第2の変速制御を選択することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記変速制御手段は、前記触媒が不活性状態である場合には、前記変速機構を所定の変速段に固定することを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記モータジェネレータに接続されたバッテリの充放電制限量を検出する充放電制限量検出手段を備え、
前記変速制御手段は、前記充放電制限量が第1の所定制限量以上である場合には、前記第2の変速制御を選択することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項7】
前記変速制御手段は、前記充放電制限量が第2の所定制限量以上である場合には、前記変速機構を所定の変速段に固定することを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項8】
前記変速制御手段は、前記充放電制限量に基づいて、前記ギア比許容変動幅を変化させることを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−113670(P2009−113670A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289760(P2007−289760)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】