説明

ハイブリッド軸受を備える電動機

【課題】始動の際にも定常運転状態においても最小限の摩擦しか引き起こさず、しかも、特に、ミニディスクドライブ装置用スピンドルモータに好適に用いることができるハイブリッド軸受を備える電動機を提供する。
【解決手段】流体軸受として形成されたラジアル軸受(28)及び磁性素子によって形成されたアキシャル磁気軸受(30)を備え、ロータをステータ(20)に相対的に軸支するハイブリッド軸受を具備する電動機であって、該磁性素子が、半径方向において互いに対向するよう配設された少なくとも1個の永久磁石(34)及び1個の磁束導体(32)を含む電動機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1による上位概念による、ハイブリッド軸受を備える電動機に関する。そのような電動機は下記の特許文献1に記載されている。
【0002】
本発明は、ディスク径が2.5インチ、1インチ又はそれ以下であるハードディスクドライブ装置に組み込まれるスピンドルモータ及び他種の小型永久磁石式モータの分野で好適に利用できる。
【背景技術】
【0003】
上記したような用途では、ブラシレスの電気整流式直流モータが用いられる。ここで述べるような構造を有するスピンドルモータでは、モータ軸が、1枚又は複数枚のハードディスクを担持するハブに連結されている。又、ロータマグネットがハブに結合された上、ステータと同軸に配設される。
【0004】
例えば、下記の特許文献1では、ハードディスクを担持し、ロータに連結されたロータハブに結合された軸を有するハードディスクドライブ装置が記載されている。その軸は軸受スリーブを貫通し、その軸受スリーブと軸の間にはラジアル動圧軸受及び軸方向のスラスト軸受が形成されている。その、軸方向のスラスト軸受には、磁性素子を介して予圧が付与されて、始動トルクを下げるようになっている。
【0005】
尚、磁気軸受の用途、理論及び計算例については、文献に広く論述されている。磁気軸受が、特に、軸受摩擦を減少させることにおいて特に有効であることは疑う余地がない。受動形磁気軸受における主たる問題は、少なくとも一つの自由度に対して安定化装置が必要とされることである。それは、磁石だけでは軸受を安定した平衡状態に保つことができないからである。したがって、永久磁石のみを用いて安定的な軸受を作ることは不可能である。ゆえに、いわゆる「磁気浮上(浮遊状態)」のため、別の安定化装置を追加する必要がある。このために、従来の技術では多くの解決策が提案された。
【0006】
例えば、非特許文献1の中で、アール・エフ・ポスト(R.F.Post)は、浮遊(浮上)素子と安定化素子を特殊に組み合わせて使用する磁気軸受装置について記載している。その中でポストは、アーンショーの定理(Earnshaw-Theorem)を満たす軸受を作るのに加重的に必要とされる3つの主たる構成要素について述べている。その第1の構成要素は一対のリングマグネットである。その一方のリングを静止させ、他方のリングを回転させることで浮遊力(浮上力)が生じる。安定化の働きをするもう一つの要素をポストは「ハルバッハ(Halbach)安定装置」と称する。その、ハルバッハ安定装置では、リングマグネットはハルバッハ磁界分布に従って配列され、割り当てられた導体と対向する、各々が単独である複数個の永久磁石が用いられている。第3の要素は機械的な軸受装置である。但し、その軸受装置は回転数が低い場合に稼動させ、回転数が高い場合はできる限り切り離されることが望ましい。ポストは、更に、渦電流に基づく緩衝装置の使用についても論じている。ポストによって開示された装置は、比較的大掛かりであり、大量生産される電動機、特に、ディスク径が2.5インチ、1インチ又はそれ以下であるハードディスクドライブ装置(ミニディスクドライブ装置)に用いられるスピンドルモータには不適である。
【0007】
特許文献2には、受動形アキシャル磁気軸受、並びに動圧軸受若しくは玉軸受として実現されてよいピボット軸受を備えるスピンドルモータが記載されている。上述した、受動形アキシャル磁気軸受は軸方向に引力を発生させ、ピボット軸受は先に述べた構造体を、半径方向にも安定した軸受装置が形成されるよう、安定化させる。類似する先行技術が特許文献3及び特許文献4にも記載されている。
【0008】
特許文献5には、浮遊素子及び安定化素子を備える水平軸に使用される受動形磁気軸受が記載されている。その浮遊素子は、一対の静止した、湾曲した強磁性セグメントから成る。それらの強磁性セグメントは半径方向に作用する環状(リング状)の磁石配列の内側に位置する。その磁石配列は中空の軸の内周に配設されている。上述した、湾曲した複数個のセグメントと磁石配列の間で作用する吸引力は、垂直方向に作用して軸を浮上させるとともに、水平方向にも作用して軸の調心をする。上記安定化素子は、磁石の環状のハルバッハ配列と、そのハルバッハ配列の内側に配設された、静止した環状の磁気回路から成る。そのハルバッハ配列は上述した中空の軸の内周に位置する。上記ハルバッハ配列と磁気回路の間で作用する反発力は、上記ハルバッハ配列と上記磁気回路の間隔と反比例して増大し、それによって、軸が平衡を失った場合、その軸を平衡状態に戻す復元力として作用する。上述の軸受は、磁性部材と強磁性部材の間で、相応の交流電流損を生じさせる交流電流が流れるよう構成されている。
【0009】
特許文献6には、スピンドルモータ用磁気軸受であって、ベースプレートとモータスピンドルの間に取り付けられた磁性部材を備えたものが記載されている。その磁性部材は、同軸に配設された内側及び外側の磁性部分を備える。その、内側及び外側の磁性部分は互いに反発するようになっており、それによってスピンドルが浮遊して機械的摩擦が最小限に抑えられる。その磁気軸受は、回転するスピンドルを軸支する静止した軸の中に配設され、上記スピンドルの先端部は先のベースプレートの相手部材対応部材に支持される。
【0010】
特許文献7には、軸方向の受動形(軸方向)磁気スラスト軸受及びラジアルすべり軸受又は玉軸受を備える、ロータモータ用磁気軸受構造が記載されている。
【0011】
要約すると、先行技術では、玉軸受をベースとする、スチール・スラスト軸受又はダイアモンド・スラスト軸受、磁性流体軸受、渦電流素子、軸方向スラスト軸受としてのすべり軸受を含む安定化装置を備える磁気軸受及び動圧軸受、乃至流体軸受又は空気軸受と組み合わされたハイブリッド受動形磁気軸受が開示されている。
【特許文献1】米国特許第6,172,847号明細書
【特許文献2】米国特許第5,541,460号明細書
【特許文献3】米国特許第5,561,335号明細書
【特許文献4】米国特許第5,545,937号明細書
【特許文献5】米国公開特許第2003/0042812号明細書
【特許文献6】米国公開特許第2003/0117031号明細書
【特許文献7】米国公開特許第2004/0046467号明細書
【特許文献8】独国特許出願第102005042519.4号公開公報
【非特許文献1】2000年2月17日発行の「周囲温度下にある受動形磁気軸受の安定性に係わる問題点(”Stability Issues in Ambient-Temperature Passive Magnetic Bearing Systems”)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、始動の際にも定常運転状態においても最小限の摩擦しか引き起こさず、しかも、特に、ミニディスクドライブ装置用スピンドルモータに好適に用いることができるハイブリッド軸受を備える電動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は請求項1に記載の特徴を有する電動機によって解決される。
【0014】
本発明では、ロータをステータに相対的に軸支するハイブリッド軸受を備える電動機が提供され、そのハイブリッド軸受はラジアル軸受及びアキシャル軸受を含む。本発明の好適な実施態様では、ラジアル軸受は流体軸受である。又、アキシャル軸受は磁性素子、特に、半径方向において互いに対向するよう配設された少なくとも1個の永久磁石と磁束導体を備える。そのような磁性素子から形成されたアキシャル軸受は完全に無接触であって、軸と軸受スリーブの間に軸方向に安定した浮遊状態をもたらす。上記の流体軸受はアキシャル磁気軸受を半径方向に安定させる。本発明による軸受は、磁性素子が半径方向において互いに引き合い、それによって、軸方向において互いの位置を合わせあって所望の浮遊状態を保つという原理を基とする。
【0015】
それによって、軸方向のスラスト軸受やピボット軸受や玉軸受といった通常のアキシャル軸受を全く必要としない。軸端部と軸受スリーブ底部の間に介在する空隙(空気隙間)は比較的大きくしてよく、しかも、電動機が停止している間も介在させてよい。そうすることで、電動機の始動時にも、定常運転時にも、摩擦は最小限で済む。それによって、電動機の消費電力も従来の技術と比べて減らすことができる。
【0016】
本発明の一つの実施態様では、ハイブリッド軸受は、軸が収容された軸受スリーブを含む。その軸は、例えば、ハードディスクドライブ装置に属するディスクを担持するハブに連結され、上記の磁性素子の一方が上記軸受スリーブの外周面に配設される一方で、他方の磁性素子は上記ハブに連結される。好適には、そのハブが上記軸受スリーブを包み込むように設けられ、上記軸受スリーブと上記ハブの内周面の間に上述した磁性素子の収容スペースが形成されるようにする。このような構成では、他方の磁性素子が、好適には、ハブの内周面に配設される。
【0017】
本発明の他の一つの実施態様では、アキシャル磁気軸受は軸受スリーブと軸の問に配設されている。
【0018】
本発明の好適な実施態様では、各々の磁性素子は軸方向寸法がほぼ同一であって、
半径方向に整列している。それらの磁性素子は、好適にはリング状に形成され、互いに同心に配設されている。それによって、それらの磁性素子は互いに軸方向に最適に整列し(最適な位置関係となり)、軸方向における安定した浮遊状態が確保される。
【0019】
本発明の第1の実施態様では、磁束導体が、薄板積層体により形成される。それらの薄板は半径方向に配向されている。本実施態様では、永久磁石は、軸方向若しくは半径方向に磁化されたリングマグネットを含む。この実施態様では、主に、上記磁束導体の端部が磁気的作用性を有することから、その磁束導体と永久磁石の間に形成される磁束乃至磁力線は、主に、その磁束導体と永久磁石の端部のところに形成される。
【0020】
磁束導体を成す薄板積層体は電気薄綱板を積層して形成される。磁束導体として薄板積層体を用いることで渦電流の発生を完全に回避できるので、渦電流による電力損も生じない。
【0021】
本発明の第2の実施態様(その実施態様においても磁束導体は薄板積層体により形成される)では、永久磁石は、ハルバッハ配列にしたがって磁化された1個若しくは複数個のリングマグネットを含む。互いに隣接し、軸方向において互いに反対の極性に磁化された2個のリングマグネットを用いることでそのようなハルバッハ型磁化の最も簡単な形態が実現できる。但し、本発明は上記した最も簡単な形態に限定されない。
【0022】
上述した、本発明の第2の実施形態では、永久磁石と磁束導体の間を流れる磁束は、先に述べた磁性素子配列の軸方向における中心部に殆どすべて集中するので、上記磁束導体は、端部よりも中心部においてより多くの磁束を受け入れることができるよう軸方向の全長にわたって変化する(軸方向の異なる位置で異なる寸法を有する)ように形成されている)。その目的で、例えば、先の薄板積層体を成す各薄板を、その薄板積層体の中心部の厚さが端部よりも狭い幅となるよう構成してよい。尚、積層体を成す薄板の形態としては上記以外の形状も考えられる。
【0023】
本発明の第3の実施態様では、磁束導体及び永久磁石は、各々、半径方向においてハルバッハ配列に従って磁化された1個又は複数個のリングマグネットを含む。本実施態様を最も簡単な方法で実現するには、ロータ側とステータ側に、各々2個のリングマグネットを配設し、それらのマグネットを、半径方向において互いに逆の極性に磁化する。そのような構成によってアキシャル磁気軸受は特に大きな軸方向力に耐えることができる。その、大きな軸方向力は、設計にもよるが、10から40ニュートン若しくはそれを上回る力である。
【0024】
本発明の色々な態様によるハイブリッド軸受は、アキシャル磁気軸受が、軸方向には安定化されるものの半径方向では安定しない点で共通している。故に、この軸受を半径方向に安定化させることが必要である。そのために、本発明では、好適には、流体軸受を用いる。その流体軸受の駆動隙間、すなわち、軸と軸受スリーブの間に介在する隙間は、各々の磁性素子の間に介在する空隙より小さいことが望ましい。それは、軸が傾斜した際にマグネットが損傷するのを防ぐためである。更には、オイルが満たされた軸受を用いることが望ましい。それは、発生しうる軸の傾斜を抑制するためである。
【0025】
上述したような態様による様々な軸受では、軸方向変位に対する軸方向の復元力特性が各々異なる。このことについては、後に、図を参照しながら詳しく説明する。
【0026】
本発明の好適な実施態様では、軸受スリーブおよび軸は、非磁性材料若しくは磁性材料から作られる。その場合、磁束導体の透磁率を、軸受スリーブおよび軸の透磁率より十分に大きくする必要がある。ハブは、強磁性の材料から作られることが望ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、始動時と定常運転時の何れにおいても最小限の摩擦しか引き起こさず、しかも、渦電流の発生を完全に回避できるので消費電力を低減させることができ、特に、ミニディスクドライブ装置用スピンドルモータに好適に用いることができるハイブリッド軸受を備える電動機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明を、好適な実施態様を基に、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の第1の実施態様による電動機の部分概略断面図である。本発明の好適な実施態様では、その電動機は、スピンドルモータ、特に、ブラシレス直流モータとして形成されている。その電動機は軸受スリーブ12が保持されるベースプレート10を含む。軸受スリーブ12は、ハブ16に連結された軸14を収容する。図1の実施態様では、軸14は中心空洞(センター孔)を備える軸として示され、ハブ16と結合されている。ハブ16は、ステータ20と同軸に配設されたロータマグネット18を担持している。ステータ20は、図1では、ステータの薄板積層体22及び巻線24の一部分をもって概略的に図示されている。図1のように構成された電動機の基本的構造は、例えば、特許文献8に説明されている。
【0029】
軸受スリーブ12および軸14は、磁性材料と非磁性材料の何れから作ってもよく、ハブ16は強磁性材料から作ることが望ましい。図示された実施態様では、ハブ16は、ハードディスクドライブ装置に属する1枚若しくは複数枚のメモリーディスクを搭載できるよう構成されている。
【0030】
軸受スリーブ12と軸14の間には、流体軸受の形態をとる2つのラジアル軸受が形成されている。そのため、軸受スリーブ12と軸14の間に介在する隙間には、好適には、軸受オイルが満たされ、軸受スリーブ12の内周面若しくは軸14の外周面には圧力生成用の溝が形成されている。このことは従来の技術から公知である。
【0031】
アキシャル磁気軸受30は、図示された実施態様では、ステータの薄板積層体と同じく電気薄綱板を積層して成ってよい薄板積層体32と永久磁石34との組み合わせで形成される。薄板積層体32及び永久磁石34は、各々環状(リング状)に形成され、互いに同心に配設されている。図1に示されるとおり、薄板積層体32及び永久磁石34は、軸方向における寸法が同一であって、半径方向に互いに整列している。薄板積層体32に属する各薄板が半径方向に配向されているので、薄板積層体32における渦電流の発生を回避することができる。図示された実施態様では、永久磁石34は、軸方向に磁化されている。しかし、電動機の設計によっては、永久磁石34を半径方向に磁化することも考えられる。
【0032】
図1に示されているように、本発明の第1の実施態様では、薄板積層体32の端部が特に有効であるため、永久磁石34と薄板積層体32の間を流れる磁束の大半は外側にある薄板の領域を通る。ロータマグネット18及びハブ16が、軸受スリーブ12及びベースプレート10と相対的に、可動範囲を軸方向に動くと、薄板積層体32と永久磁石34の協働により復元力が発生し、ロータマグネット及びハブを、ベースプレート及び軸受スリーブと相対的に、軸方向に安定的に浮遊させる。更に、永久磁石34は薄板積層体32を半径方向に引きつけるが、この場合、半径方向における安定性をより向上させるのがラジアル軸受26、28である。
【0033】
軸受スリーブ12および軸14は、好適には、磁性の材料若しくは非磁性の材料から成るが、その場合、軸受スリーブ12および軸14の透磁率は薄板積層体32の透磁率より大幅に、すなわち、少なくとも一桁小さいことが望ましい。
【0034】
本発明の構造によって、軸受内の摩擦を大幅に減らすことができる。それは、本発明の構造では軸方向のスラスト軸受を全く必要とせず、そのため軸方向の空隙(空気隙間)を大きくとることができるからである。電動機が運転されていないときも受動形磁気軸受の作用があるため、電動機を始動させるときでさえ、摩擦トルクはほとんど生じない(無視できないほどの摩擦トルクが発生しない)。
【0035】
図1に示されるように、本発明では、ロータマグネット18とステータ20の間でも、ある程度の軸方向の中心に向かう力が発生する。しかしながら、そのような中心に向かう力はアキシャル磁気軸受30(薄板積層体32、永久磁石34)の復元力と比べれば無視できるものであって、軸受として機能させるには不可欠ではない。
【0036】
図2は、アキシャル磁気軸受の軸方向復元力特性を、その磁気軸受を、安定状態(平衡状態)からの軸方向の変位との関係において示す。図2に示されるように、本実施態様では、4から6ニュートンの範囲の復元力を達成できる。尚、その復元力は電動機の設計及び寸法に応じて変化する可能性があり、図2に示された値はあくまでも一例である。図2からもわかるように、軸方向の復元力特性はある程度の非対称性を示す。これは、強磁性材料から作られるハブ16の影響によるものである。
【0037】
図3(a)は、本発明の第2の実施態様による電動機の部分概略断面図である。図1と同一の構成部材には図1と同一の符号を付してある。図3(a)に示す実施態様が図1に示す実施態様と異なるのはアキシャル磁気軸受30の構造である。アキシャル磁気軸受30は、第1の実施態様と同様に受動形磁気軸受として形成され、半径方向に配向された薄板から成る薄板積層体38を含む。その薄板積層体は、好適には、電気薄鋼板を積層してなる。本実施態様では永久磁石34に代えて、ハルバッハ配列された2枚若しくはそれ以上の枚数のリングマグネットが含まれる。図3(a)では最も簡単なハルバッハ配列が示されている。そのハルバッハ配列では、軸方向に互いに反対の極性に磁化された2個の永久磁石40、42が設けられている。図3(b)、図3(c)、図3(d)は、第2の実施態様の変形例を示し、これらの変形例はハルバッハ配列により良く近似したものである。
図3(a)に示された実施態様では、磁束は薄板積層体38の中心部に集中し、端部のところよりも磁束密度が高い。このことから、本発明の第2の実施態様では、薄板積層体38を、その形状が軸方向長さにわたって変化する(軸方向の異なる位置で異なる形状を有する)よう形成することも考えられる。例えば、薄板積層体38の中心部の薄板を、端部より細く(狭い幅で)形成してもよい。又、薄板積層体38の中心部及び外側の端部を、他の部分より広く(広幅に)して、突出させて磁束の集中を助けるようにしてもよい。それによって、アキシャル磁気軸受における最も大きい復元力がその磁気軸受の中心部で得られるようにすることができる。
【0038】
一方、図4は、本発明の第2の実施態様における、軸方向変位に対する軸方向の復元力特性を示す。図3(a)及び図4に示す実施態様においては、強磁性材料から作られるハブ16がより大きな影響を与えることが分かる。その結果軸方向の復元力特性にそれに応じた非対称性が与えられる。
【0039】
図5は、本発明の第3の実施態様による電動機の部分概略断面図である。これまでに説明した実施態様に対応する構成部品には、これまでに用いたのと同一の符号を付してある。
【0040】
本発明の第3の実施態様がこれまでの実施態様と異なる点は、アキシャル磁気軸受30が、互いに対向する2個のリングマグネット44、46から形成される点である。それらのリングマグネットは半径方向に磁化され、ハルバッハ配列を成す。図5の実施態様では、最も簡単なハルバッハ配列の形態が示されている。この形態は、半径方向に、互いに逆極性に磁化された永久磁石44’、44”及び46’、46”から成る。永久磁石44’、44”及び46’、46”は互いに半径方向に引き合い、それによって、ロータマグネット18及びハブ16を、軸受スリーブ12及びベースプレート10に対して、浮遊状態に保つ。尚、半径方向における安定性の向上は、これまでに述べた実施態様と同様に、ラジアル軸受26、28によってもたらされる。
【0041】
図6に示す特性から見出されるとおり、本発明の第3の実施態様では、先の2つの実施態様より遥かに大きな復元力が発生する。その復元力は、設計によっては10ニュートンより明らかに大きく、例えば、40ニュートン若しくはそれを上回る可能性がある。更に、この実施態様における軸方向変位に対する軸方向の復元力特性は、実質的に直線状である。
【0042】
本発明の第1の実施態様に係る更なる詳細な説明は、本発明の第2の実施態様及び第3の実施態様にも当てはまる。更に、本発明のいずれの実施態様においても、軸の傾斜を大幅に抑制する目的でアキシャル磁気軸受30を軸方向において、可能な限り軸受スリーブ12の中心に配設するのが望ましい。更に、軸受スリーブ12と軸14の間の空隙、すなわち、流体軸受の空隙は、できる限り、各磁石の間の隙間より小さいことが望ましい。それは、軸が傾斜したとき、マグネットが損傷するのを避けるためである。流体軸受にオイルを充填することで、上述した軸の傾斜を更に抑制することができる。
【0043】
図5に示す実施態様では、軸受スリーブ12の閉塞端部がカウンタープレート48によって閉塞され、相応する軸14の端部に、軸14が軸受スリーブ12から脱落するのを防ぐ別体のリングが取り付けられている点を符号50で示す。但し、本発明では重要ではない。
【0044】
図7、図8、及び図9は、各々、本発明の第1、第2及び第3の実施態様を変形した実施態様を示す。それらの実施態様は、ステータとロータの相対的配置及び磁気軸受の配置方法において上記のそれぞれの実施態様と異なる。
【0045】
図7から図9に示す実施態様による電動機は、それぞれ、複数個の部材から成る軸受スリーブ54が収容されたベースプレート52を含む。軸受スリーブ54は、内側のスリーブ54’と外側のスリーブ54”を含む。この、内側のスリーブ54’と外側のスリーブ54”の端部はカウンタープレート54’”によって閉塞されている。又、軸受スリーブ54には軸56が収容され、ハブ58に連結されている。そのハブはロータマグネット60を担持している。又、薄板積層体64及び巻線66を備えるステータ62が外側のスリーブ54”の外側にあり、外側のスリーブ54”を介してベースプレート52に結合されている。内側のスリーブ54’と軸56の間には、実質的には、第1から第3の実施態様(図1、図3(a)及び図5)に具備されるラジアル軸受26、28と同じように作用する2個のラジアル軸受68、70が形成されている。図7に示すアキシャル磁気軸受72は、第1の実施態様とは異なり、薄板積層体74と、それに対向して設けられた、半径方向若しくは軸方向に磁化された永久磁石76によって形成される。ここでは、上記薄板積層体を成す各薄板はその薄板積層体の中心部に向かって半径方向の寸法が次第に小さくなる。それによって、薄板74と永久磁石76の間隔は、上記薄板積層体の2つの外側端部のところで最も狭くなる。又、磁束がこの場所に最も集中することから、この実施態様では復元力が特に大きい。図7に示す電動機の作動の仕方は、図1に関して説明した作動の仕方と同一であることから、図7に示す電動機の作動の仕方については図1に関する説明を参照されたい。
【0046】
図8及び9に示す実施態様は、基本的には図7に示す実施態様と同一である。したがって、それらの図において同一の部材には同一の符号を付し、繰り返して説明しない。上記実施態様が互いに異なるのはアキシャル磁気軸受の構造のみであって、図8に示すアキシャル磁気軸受は図3(a)に示すアキシャル磁気軸受に相応し、図9に示すアキシャル磁気軸受は図5に示すアキシャル磁気軸受に相応する。それゆえに、詳細については図3(a)及び図5の説明を参照されたい。
【0047】
図8では、アキシャル磁気軸受は薄板積層体78と、それに対向して設けられた、軸方向において互いに逆の極性で磁化された2個のリングマグネット80、82によって形成される。そのアキシャル磁気軸受の作用の仕方は図3(a)に関して説明されているのと同様である。図8に示す実施態様でも各薄板の幅は軸方向に変化するが、この実施態様では、各薄板は、薄板積層体の中心部から発して外側端部に向かって半径方向の寸法が次第に小さくなる。それによって、薄板積層体とマグネットの間隔は、中心部のところで最も狭くなり、その間隔が最も狭いところに磁束が最も集中する。この構成によっても特に大きな復元力がもたらされる。
【0048】
図9に示す実施態様では、アキシャル磁気軸受は、図5の実施態様と同様に、互いに対向し、半径方向に磁化されたリングマグネットの対84、86によって形成される。そのアキシャル磁気軸受の作用の仕方は図5に関して説明されているのと同様である。
【0049】
図8及び9においても、リングマグネット80、82乃至リングマグネットの対84、86は、ハルバッハ配列に近似したものの簡単な形態を構成し、例えば、図3(b)及び図3(c)に示すような、ハルバッハ配列により近似した磁石配列を代わりに用いても良い。
【0050】
これまでの説明で、用いられる材料、ラジアル軸受及びアキシャル軸受における絶対的若しくは相対的寸法及び機能について述べたが、
それらの事項は、基本的には、本発明の全ての実施態様に適用可能である。尚、それらの事項は、設計によっては変更されることもあり得る。
【0051】
本発明による電動機は、ハブの外周寸法においてその直径がおよそ7から8mm又はそれ以下、例えば、4.5mmであるミニディスクドライブ装置用スピンドルモータとして特に好適である。リングマグネット及び薄板積層体の厚さは0.5mmから1mm程度であって、薄板積層体を構成する各薄板は、例えば、電気鋼から作られ、永久磁石は焼結ネオジウムから成ってよい。但し、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
【0052】
これまでの説明、図面及び特許請求の範囲に開示された特徴は、単独で又は任意の組み合わせで、その様々な実施形態において本発明の実現に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施態様による電動機の部分概略断面図である。
【図2】本発明の第1の実施態様による電動機において磁気軸受から発生する軸方向力特性を示す。
【図3】(a)は、本発明の第2の実施態様による電動機の部分概略断面図であり、(b)、(c)及び(d)は、永久磁石の他の構成例を示す概略図である。
【図4】本発明の第2の実施態様による電動機において磁気軸受から発生する軸方向力特性を示す。
【図5】本発明の第3の実施態様による電動機の部分概略断面図である。
【図6】本発明の第3の実施態様による電動機において磁気軸受から発生する軸方向力特性を示す。
【図7】本発明の第1の実施態様の変形例の電動機の概略断面図である。
【図8】本発明の第2の実施態様の変形例の電動機の概略断面図である。
【図9】本発明の第3の実施態様の変形例の電動機の概略断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 ベースプレート、 12 軸受スリーブ、 14 軸、 16 ハブ、 18 ロータマグネット、 20 ステータ、 22 ステータの薄板積層体、 24 巻線、 26、28 ラジアル軸受、 30 アキシャル磁気軸受、 32 薄板積層体、 34 永久磁石、 38 薄板積層体、 40、42 リングマグネット、 44、46 リングマグネット、 44’、44” リングマグネット、 46’、46” リングマグネット、 48 カウンタープレート、 50 リング、 52 ベースプレート、 54 軸受スリーブ、 54’ 内側のスリーブ、 54” 外側のスリーブ、 54’” カウンタープレート、 56 軸、 58 ハブ、 60 ロータマグネット、 62 ステータ、 64 ステータの薄板積層体、 66 巻線、 68、70 ラジアル軸受、 72 アキシャル磁気軸受、 74 薄板積層体、 76 永久磁石、 78 薄板積層体、 80、82 リングマグネット、 84、86 リングマグネットの対。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体軸受として形成されたラジアル軸受(26,28)及び磁性素子によって形成されたアキシャル軸受(30)を備え、
ロータをステータに軸支するハイブリッド軸受を具備する電動機であって、
該磁性素子が、半径方向において互いに対向するよう配設されたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記磁性素子が、少なくとも1個の永久磁石(34;40,42;76)及び1個の磁束導体(32;38、76)を含むことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記ハイブリッド軸受は、軸(56)が収容された軸受スリーブ(54)を備え、
前記磁性素子の一方(76;80;86)が該軸受スリーブ(54)の周囲に配設され、
前記磁性素子の他方(74;78、84)が該軸(56)に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項4】
前記ハイブリッド軸受は、軸(14)が収容された軸受スリーブ(12)を備え、
前記軸がハブ(16)に連結され、且つ前記磁性素子の一方(32;38、74)の一方が前記軸受スリーブ(12)の周囲に配設され、前記磁性素子の他方(34;40,42;76)の一方が該軸がハブ(16)に結合されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項5】
前記ハブは前記軸受スリーブ(12)を包むように形成され、
前記軸受スリーブ(12)と前記ハブ(16)の内周面の間に前記磁性素子の収容スペースが形成され、
前記磁性素子の前記他方(34;40,42;76)が前記ハブ(16)の内周面に配設されている
ことを特徴とする請求項4に記載の電動機。
【請求項6】
前記磁性素子は、半径方向に実質的に整列していることを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の電動機。
【請求項7】
前記磁性素子がリング状に形成され、互いに同心に構成されることを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載の電動機。
【請求項8】
前記磁性素子の軸方向寸法がほぼ同一であることを特徴とする請求項7に記載の電動機。
【請求項9】
前記磁束導体は、各薄板が半径方向に配向された薄板積層体(32;38;74;78)によって形成されたことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機。
【請求項10】
前記永久磁石は、軸方向又は半径方向に磁化されたリングマグネット(34;40、42;76;80、82)を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機。
【請求項11】
前記永久磁石は、軸方向において互いに逆の極性に磁化された2個のリングマグネット(40、42;80、82)を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機。
【請求項12】
前記永久磁石は、軸方向においてハルバッハ配列にしたがって磁化された1個若しくは複数個のリングマグネットを含むことを特徴とする請求項8に記載の電動機。
【請求項13】
前記磁束導体に属する薄板積層体(38、74、78)の各薄板が該薄板積層体の軸方向長さにわたって異なる寸法を有することを特徴とする請求項11又は12に記載の電動機。
【請求項14】
前記薄板積層体の薄板は、前記薄板積層体(38、74)の中心部において、該薄板積層体の端部よりも幅が狭いことを特徴とする請求項13に記載の電動機。
【請求項15】
前記薄板積層体の薄板は、前記薄板積層体(38、78)の中心部において、該薄板積層体の外側端部よりも幅が広いことを特徴とする請求項13に記載の電動機。
【請求項16】
前記磁束導体に属する前記薄板積層体(32;38;74;78)の前記薄板は、電気鋼から作られていることを特徴とする請求項9乃至15の何れか一項に記載の電動機。
【請求項17】
前記磁性素子は、それぞれ半径方向において互いに逆の極性に磁化された2個のリングマグネット(44、46;84、86)を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機。
【請求項18】
前記磁性素子は、各々半径方向においてハルバッハ配列に従って磁化された1個又は複数個のリングマグネットを含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の電動機。
【請求項19】
前記磁束導体(32;38;74)の透磁率は、前記軸受スリーブ(12)及び前記軸(14)の透磁率より大きいことを特徴とする請求項2乃至18のいずれか一項に記載の電動機。
【請求項20】
前記ハブ(16)が、強磁性の材料から作られていることを特徴とする請求項4又は5に記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−154451(P2008−154451A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323194(P2007−323194)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】