説明

ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ及びその用途。

【課題】 難燃化手法として、燃焼時に有毒ガスである臭化水素などを発生させる難燃剤を用いることなく、優れた誘電特性を有すると共に、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などに優れるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物及びそれを用いたプリプレグを提供する。
【解決手段】 (A)架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び(B)架橋剤を含むと共に、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、(C)分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体3〜75質量部、及び(D)水酸化アルミニウム5〜300質量部を含むハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、及び該樹脂組成物をガラス繊維基材や有機繊維基材に含浸させてなるプリプレグである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、それを用いたプリプレグ及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、難燃化手法としてハロゲン系難燃剤を用いておらず、燃焼時に有毒ガスである臭化水素などを発生させることなく、優れた誘電特性を有すると共に、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などに優れるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、及び該難燃性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、フィルム、樹脂付きの金属箔やポリイミドフィルムや液晶ポリマーフィルム、並びにこれらを使用した積層板、銅張積層板、プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高速、高集積化とメモリーの大容量化が進み、それに伴って各種電子部品の小型化、軽量化、薄型化が急速に進んでいる。これに伴い、材料の面でもより優れた耐熱性、寸法安定性、電気特性が要求されている。プリント配線板用には、従来からフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられてきた。これらの樹脂は、各種の性能をバランスよく有しているが、高周波領域での誘電特性が十分でないという欠点をもっていた。この問題を解決する新しい材料として、ポリフェニレンエーテルが注目を浴び、銅張積層板への応用が試みられてる。このような用途に用いられるポリフェニレンエーテルとして、例えば硬化性ポリフェニレンエーテルが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、近年、衛星通信などに用いられるXバンド(8〜12GHz)領域などの超高周波領域で使用される積層板には優れた誘電特性をもつ材料が要求されることから、その材料として主にポリフェニレンエーテルが使用されている。そして難燃化手法として、1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタンなどの芳香族臭素系難燃剤の単独系と酸化アンチモンとの併用系が採用されてきた。
しかしながら、このような臭素系難燃剤は、主な難燃機構として、ポリマーの熱分解により生成し、気相に拡散したラジカル化合物をトラップして燃焼サイクルを中断し、難燃化を発揮する。このため、臭化水素、一酸化炭素等の有毒ガスが発生する可能性が高い。またダイオキシン、フラン類の発生も懸念される。さらに酸化アンチモンは劇物に指定されており、また発ガン性も懸念されている。そのため使用が抑制されつつある。
【0003】
【特許文献1】特開平1−113426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下で、難燃化手法として、燃焼時に有毒ガスである臭化水素などを発生させる難燃剤を用いることなく、優れた誘電特性を有すると共に、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などに優れるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、及び該難燃性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、フィルム、樹脂付きの金属箔やポリイミドフィルムや液晶ポリマーフィルム、並びにこれらを使用した積層板、銅張積層板、プリント配線板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂と架橋剤を含むと共に、難燃剤として、ある種のリン系化合物と水酸化アルミニウムをそれぞれ特定の割合で含むハロゲンフリー難燃性樹脂組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(A)架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び(B)架橋剤を含むと共に、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、(C)分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体3〜75質量部、及び(D)水酸化アルミニウム5〜300質量部を含むことを特徴とするハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
(2)(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分それぞれのハロゲン含有量が、ハロゲン原子として0.1質量%以下である上記(1)項に記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
(3)(A)成分の架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物、並びにアリル化ポリフェニレンエーテルの中から選ばれる少なくとも一種である上記(1)又は(2)項に記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
(4)(B)成分の架橋剤が、トリアリルイソシアヌレート及び/又はトリアリルシアヌレートである上記(1)、(2)又は(3)項に記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
(5)(C)成分の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体が、一般式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立にハロゲン原子を含まない有機基、R4は水素原子又はハロゲン原子を含まない有機基、a及びbは、それぞれ0〜4の整数、cは0〜3の整数を示す。ただし、R1〜R4中の少なくとも1つがエチレン性二重結合を2つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基であるか、又はR1〜R4中の少なくとも2つがエチレン性二重結合を1つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基である。)
で表される化合物である上記(1)ないし(4)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
【0008】
(6)(D)成分の水酸化アルミニウムが、平均粒径0.1〜10.0μmである上記(1)ないし(5)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物、
(7)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物をガラス繊維基材に含浸させてなるプリプレグ、
(8)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を有機繊維基材に含浸させてなるプリプレグ、
(9)上記(7)又は(8)項に記載のプリプレグを加熱処理し、ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を硬化させてなる基板、
(10)上記(7)又は(8)項に記載のプリプレグを複数枚重ね合わせて加圧加熱処理し、ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を硬化させて一体化してなる積層板、
(11)上記(9)項に記載の基板又は上記(10)項に記載の積層板の少なくとも片面に銅箔を接合してなる銅張積層板
(12)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなるフィルム、
(13)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜が金属箔の片面に形成されてなる樹脂付き金属箔、
(14)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜がポリイミドフィルムの片面に形成されてなる樹脂付きポリイミドフィルム、
(15)上記(1)ないし(6)項のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜が液晶ポリマーフィルムの片面に形成されてなる樹脂付き液晶ポリマーフィルム、及び
(16)上記(11)項に記載の銅張積層板を用いて得られたことを特徴とするプリント配線板、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、難燃化手法としてハロゲン系難燃剤を用いておらず、燃焼時に有毒ガスである臭化水素などを発生させることなく、優れた誘電特性を有すると共に、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などに優れるハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を提供することができる。さらに前記難燃性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、フィルム、樹脂付きの金属箔やポリイミドフィルムや液晶ポリマーフィルム、並びにこれらを使用した積層板、銅張積層板、プリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物と称すことがある。)は、(A)変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、(B)架橋剤、(C)分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体及び(D)水酸化アルミニウムを含む樹脂組成物である。
本発明の樹脂組成物における(A)成分の変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、架橋性官能基を有しており、このような変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、(1)ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物、あるいは(2)アリル化ポリフェニレンエーテルを好ましく用いることができる。
前記(1)のポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物において、原料として用いられるポリフェニレンエーテルとしては、例えば、2,6−ジメチルフェノールの単独重合で得られるポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)のスチレングラフト共重合体、2,6−ジメチルフェノールと2−メチル−6−フェニルフェニレンエーテルの共重合体、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールの共重合体、2,6−ジメチルフェノールと多官能フェノール化合物の存在下で重合して得られた多官能ポリフェニレンエーテル、2,6−ジメチルフェノールを置換アニリンや脂肪族第2アミンの存在下で重合して得られる含窒素ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
また、もう一つの原料である不飽和カルボン酸や酸無水物は、二重結合と少なくとも1個のカルボン酸もしくはジカルボン酸無水物基とを分子構造内にもつ化合物であり、このようなものとしては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記のポリフェニレンエーテルの不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物による変性反応方法については特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
【0011】
一方、前記(2)のアリル化ポリフェニレンエーテルとしては、例えば2,6−ジメチルフェノールと2−アリル−6−メチルフェノールの共重合体、特公平5−8931号公報記載のn−ブチルリチウムと臭化アリルを用いた方法などにより合成したもの等が挙げられる。
本発明においては、(A)成分として、前記(1)のポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物を一種用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよく、また、前記(2)のアリル化ポリフェニレンエーテルを一種用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。あるいは前記(1)のポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物一種以上と、前記(2)のアリル化ポリフェニレンエーテル一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物における(B)成分の架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート及び/又はトリアリルシアヌレートが好ましく用いられる。このトリアリルイソシアヌレートやトリアリルシアヌレートを用いることにより、誘電特性並びに耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性、耐薬品性、信頼性等に優れた硬化物を得ることができる。
当該(B)成分の配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量に対し、通常10〜70質量%の範囲で選定される。この(B)成分の配合量が上記の範囲にあれば、前記の特性を有する硬化物を得ることができる。好ましい配合量は25〜60質量%であり、特に35〜55質量%が好ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物における(C)成分の分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体としては、一般式(I)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立にハロゲン原子を含まない有機基、R4は水素原子又はハロゲン原子を含まない有機基、a及びbは、それぞれ0〜4の整数、cは0〜3の整数を示す。ただし、R1〜R4中の少なくとも1つがエチレン性二重結合を2つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基であるか、又はR1〜R4中の少なくとも2つがエチレン性二重結合を1つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基である。)
で表される化合物を用いることができる。
前記一般式(I)において、R1、R2及びR3で示されるハロゲン原子を含まない有機基としては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数4〜8のポリエニル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基、炭素数4〜8のポリエニルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基などを挙げることができ、R4で示されるハロゲン原子を含まない有機基としては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数4〜8のポリエニル基、(メタ)アクリロイル基、スチリル基などを挙げることができる。
また、2つのR4Oは互いに同一でも異なっていてもよく、R1、R2及びR3が、それぞれ2つ以上ある場合は、複数のR1、R2及びR3は、それぞれにおいて同一でも異なっていてもよい。
さらに、前記分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体としては、ハイドロキノン誘導体、レゾルシン誘導体、カテコール誘導体などを挙げることができる。
前記一般式(I)で表される分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体の具体例としては、特に、得られる硬化物の誘電特性及び耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などの観点から、以下に示す式(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)及び(g)で表される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R1、R2、a及びbは、前記と同じである。)
本発明においては、この(C)成分の9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、3〜75質量部の範囲で選定される。この配合量が上記範囲にあれば、得られる硬化物は、良好な誘電特性、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などを発揮することができる。好ましい配合量は10〜35質量部であり、特に5〜40質量部が好適である。
【0018】
本発明の樹脂組成物における(D)成分の水酸化アルミニウムとしては、特に組成物における分散性、沈降性及び安定性などの観点から、平均粒径が0.1〜10μmであって、最大粒径が30μm以下の形状のものが好適である。この(D)成分の配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、5〜300質量部の範囲で選定される。この配合量が上記の範囲にあれば、得られる硬化物は、良好な誘電特性、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などを発揮することができる。好ましい配合量は10〜150質量部であり、特に15〜100質量部が好適である。
本発明の樹脂組成物には、硬化させる際に、前記(A)成分と(B)成分の架橋反応を促進させるために、反応促進剤を含有させることができる。この反応促進剤としては、例えば有機過酸化物などのラジカル開始剤を用いることができる。
本発明の樹脂組成物においては、前記の(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分として、ノンハロゲン化合物であって、ハロゲン含有量が、ハロゲン原子として0.1質量%以下のものが用いられる。
【0019】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、他のハロゲンを含有しない難燃剤、充填剤、前記(A)成分及び(B)成分以外の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂などを含有させることができる。
前記ハロゲンを含有しない難燃剤としては特に制限はなく、例えばリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレム、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、赤燐、芳香族リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、ホスフィンオキサイド、ホスファゼン、メラミンシアノレート等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、特に誘電特性、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性、耐薬品性、信頼性等の観点からピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウムを好ましく使用できる。これらの難燃剤の配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、20質量部以下が好ましい。20質量部を超えると、誘電特性、耐熱性、密着性、耐湿性などが低下する傾向がみられる。
前記充填剤としては特に制限はなく、例えばタルク、溶融シリカ、合成シリカ、アルミナ、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、低融点ガラス、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、80質量部以下が好ましい。80質量部を超えると、金属箔との密着性や、組成物の溶融流動性が低下する原因となる。
前記熱可塑性樹脂の例としては、GPPS(汎用ポリスチレン)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、ポリブタジエン、スチレンブタジエンブロックコポリマーなどがあり、熱硬化性樹脂の例としてはエポキシ樹脂などがある。これらの樹脂は単独もしくは二種以上混合して用いることができる。
【0020】
本発明のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物は、以下のようにして本発明のプリプレグを作製することができる。当該樹脂組成物を、トルエンなどの適当な有機溶剤で希釈してワニスとなし、これをガラス不織布、ガラス織布等のガラス繊維基材や、有機不織布、有機織布等の有機繊維基材に塗布、含浸させ、加熱するという通常の方法により、本発明のプリプレグを製造することができる。
このようにして得られたプリプレグを加熱処理して、当該樹脂組成物を硬化させることにより、本発明の基板を作製することができ、また、前記プリプレグを複数枚重ね合わせて、通常の条件で加圧加熱処理し、当該樹脂組成物を硬化させて一体化することにより、本発明の積層板を作製することができる。この際、プリプレグを複数枚重ね合わせ、その積層構造の片面又は両面に銅箔を重ね合わせたのち、通常の条件で加圧加熱処理することにより、本発明の銅張積層板を作製することができる。
多層板は、銅張積層板(内層板)に回路を形成し、ついで銅箔をエッチング処理した後、内層板の少なくとも片面にプリプレグ及び銅箔を重ね合わせ、これを例えば195℃、4MPaの圧力で120分間加圧加熱処理するという通常の方法により製造することができる。さらに本発明のプリント配線板は、銅張積層板もしくは多層板にスルーホールを形成し、スルーホールメッキを行った後、所定の回路を形成するという通常の方法により製造することができる。
【0021】
本発明はまた、前記のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなるフィルム、並びに当該樹脂組成物からなる未硬化膜が、金属箔の片面に形成されてなる樹脂付き金属箔、前記未硬化膜がポリイミドフィルムの片面に形成されてなる樹脂付きポリイミドフィルム及び前記未硬化膜が液晶ポリマーフィルムの片面に形成されてなる樹脂付き液晶ポリマーフィルムをも提供する。これらのフィルム、樹脂付き金属箔、樹脂付きポリイミドフィルム及び樹脂付き液晶ポリマーフィルムは、通常の方法により作製することができる。
前記のガラス不織布、ガラス織布、有機不織布、有機織布、銅箔は、通常エポキシ銅張積層板に使用されるものであれば、特に制限はなく、使用することができる。また、前記ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルムについても特に制限はなく、使用することができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた銅張積層板の諸特性を以下に示す要領に従って求めた。
(1)耐燃性
UL−94難燃性試験に準じて測定する。
(2)ガラス転移温度
TMA法により測定する。
(3)誘電率、誘電正接
インピーダンスアナライザー法により測定する。
(4)耐熱性
288℃のハンダに5分間浸漬した後の膨れの発生の有無により評価する。
○:膨れなし
×:膨れあり
(5)耐ミーズリング性
121℃、0.2MPa、5時間のプレッシャークッカーテスト後、260℃のハンダ浴に30秒間浸漬した後のミーズリングの発生の有無により評価する。
○:ミーズリングの発生なし
×:ミーズリングの発生あり
(6)ハロゲン含有量
ハロゲンフリー規格のJPCA−ES−01に準じて測定する。
○:合格
×:不合格
【0023】
実施例1
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(a)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0024】
実施例2
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(b)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0025】
実施例3
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(c)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0026】
実施例4
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(d)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0027】
実施例5
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(e)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0028】
実施例6
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(f)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0029】
実施例7
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(g)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0030】
実施例8
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(e)](a=0,b=0)15質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)38質量部、ポリリン酸アンモニウム「ExolitAP422」(Clariant社製)7質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0031】
実施例9
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド誘導体[式(e)](a=0,b=0)19質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)25質量部、水酸化マグネシウム「SN−E」(ティーエムジー社製)20質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0032】
実施例10
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、GPPS(汎用ポリスチレン、旭化成社製、重量平均分子量27万)6質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(d)](a=0,b=0)22質量部、水酸化アルミニウム「H42M」(昭和電工社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0033】
比較例1
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、下記9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド誘導体[式(h)]30質量部、及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【化4】

【0034】
比較例2
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体[式(d)](a=0,b=0)30質量部、及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0035】
比較例3
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、ホウ酸亜鉛「ZB−XF」(BORAX社製)60質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0036】
比較例4
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、芳香族縮合リン酸エステル「PX−200」(大八化学社製)30質量部、ホウ酸亜鉛「ZB−XF」(BORAX社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0037】
比較例5
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、ホスファゼン系難燃剤「SP−100」(大塚化学社製)30質量部、ホウ酸亜鉛「ZB−XF」(BORAX社製)40質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0038】
比較例6
アリル化ポリフェニレンエーテル52質量部、トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)48質量部、粉砕シリカ「FUSELEX E−2」(龍森社製、平均粒径7μm)15質量部、三酸化アンチモン4質量部、臭素系難燃剤「SAYTEX8010」(アルベマール浅野社製)20質量部及び有機過酸化物「パーヘキシ25B」(日本油脂社製)6質量部をトルエンに溶解又は分散させてワニスを調製した。
【0039】
試験例1
実施例1〜10、比較例1〜6で得られたポリフェニレンエーテル樹脂ワニスのそれぞれを100μmガラス織布に含浸・塗布・乾燥することにより樹脂含有量50質量%のプリプレグを得た。
こうして得られた100μmプリプレグ8枚を重ね合わせたものを準備し、この積層体の両面に厚さ18μmの銅箔を重ね合わせて195℃の温度、4MPaの圧力で120分間加熱・加圧し、厚さ0.80mmの銅張積層板を得た。各銅張積層板の評価結果を第1表及び第2表に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物は、難燃化手法としてハロゲン系難燃剤を用いておらず、燃焼時に有毒ガスである臭化水素などを発生させることなく、優れた誘電特性を有すると共に、耐燃性、耐熱性、密着性、耐湿性などに優れており、例えばプリプレグ、フィルム、樹脂付きの金属箔やポリイミドフィルムや液晶ポリマーフィルム、積層板、銅張積層板、プリント配線板などを作製することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、及び(B)架橋剤を含むと共に、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対し、(C)分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体3〜75質量部、及び(D)水酸化アルミニウム5〜300質量部を含むことを特徴とするハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分それぞれのハロゲン含有量が、ハロゲン原子として0.1質量%以下である請求項1に記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分の架橋性官能基を有する変性ポリフェニレンエーテル系樹脂が、ポリフェニレンエーテルと不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物との反応生成物、並びにアリル化ポリフェニレンエーテルの中から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の架橋剤が、トリアリルイソシアヌレート及び/又はトリアリルシアヌレートである請求項1ないし3のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)成分の分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの二価フェノール誘導体が、一般式(I)
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立にハロゲン原子を含まない有機基、R4は水素原子又はハロゲン原子を含まない有機基、a及びbは、それぞれ0〜4の整数、cは0〜3の整数を示す。ただし、R1〜R4中の少なくとも1つがエチレン性二重結合を2つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基であるか、又はR1〜R4中の少なくとも2つがエチレン性二重結合を1つ以上有するハロゲン原子を含まない有機基である。)
で表される化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
(D)成分の水酸化アルミニウムが、平均粒径0.1〜10.0μmである請求項1ないし5のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物をガラス繊維基材に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を有機繊維基材に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のプリプレグを加熱処理し、ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を硬化させてなる基板。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のプリプレグを復数枚重ね合わせて加圧加熱処理し、ハロゲンフリー難燃性樹脂組成物を硬化させて一体化してなる積層板。
【請求項11】
請求項9に記載の基板又は請求項10に記載の積層板の少なくとも片面に銅箔を接合してなる銅張積層板。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項13】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜が金属箔の片面に形成されてなる樹脂付き金属箔。
【請求項14】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜がポリイミドフィルムの片面に形成されてなる樹脂付きポリイミドフィルム。
【請求項15】
請求項1ないし6のいずれかに記載のハロゲンフリー難燃性樹脂組成物からなる未硬化膜が液晶ポリマーフィルムの片面に形成されてなる樹脂付き液晶ポリマーフィルム。
【請求項16】
請求項11に記載の銅張積層板を用いて得られたことを特徴とするプリント配線板。



【公開番号】特開2006−63243(P2006−63243A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249569(P2004−249569)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】