説明

パターン検査装置、パターン検査方法及びプログラム

【目的】より実画像に近い参照画像を生成可能なパターン検査を行う装置を提供することを目的とする。
【構成】パターン検査装置100は、サンプル光学画像データをN倍の解像度に変換する倍率変換部50と、サンプル光学画像データのN倍の解像度で対応する階調値を定義した設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分するLPF54と、この設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分するPSF56と、これらの画像データを用いて光学モデル関数の係数を取得する係数取得部142と、パターン形成された被検査試料の実光学画像データを取得する光学画像取得部150と、係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照回路112と、実光学画像データと参照画像データを比較する比較回路108と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン検査装置、パターン検査方法、或いは、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに係り、例えば、半導体製造に用いる試料となる物体のパターン欠陥を検査するパターン検査技術に関し、半導体素子や液晶ディスプレイ(LCD)を製作するときに使用されるフォトマスク、ウェハ、あるいは液晶基板などの極めて小さなパターンの欠陥を検査する装置およびその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。これらの半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスク或いはレチクルともいう。以下、マスクと総称する)を用いて、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。よって、かかる微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、微細な回路パターンを描画することができるパターン描画装置を用いる。かかるパターン描画装置を用いてウェハに直接パターン回路を描画することもある。例えば、電子ビームやレーザビームを用いて描画される。
【0003】
そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、1ギガビット級のDRAM(ランダムアクセスメモリ)に代表されるように、LSIを構成するパターンは、サブミクロンからナノメータのオーダーになろうとしている。歩留まりを低下させる大きな要因の一つとして、半導体ウェハ上に超微細パターンをフォトリソグラフィ技術で露光、転写する際に使用されるマスクのパターン欠陥があげられる。近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。そのため、LSI製造に使用される転写用マスクの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0004】
一方、マルチメディア化の進展に伴い、LCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)は、500mm×600mm、またはこれ以上への液晶基板サイズの大型化と、液晶基板上に形成されるTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)等のパターンの微細化が進んでいる。従って、極めて小さいパターン欠陥を広範囲に検査することが要求されるようになってきている。このため、このような大面積LCDのパターン及び大面積LCDを製作する時に用いられるフォトマスクの欠陥を短時間で、効率的に検査するパターン検査装置の開発も急務となってきている。
【0005】
ここで、従来のパターン検査装置では、拡大光学系を用いてリソグラフィマスク等の試料上に形成されているパターンを所定の倍率で撮像した光学画像と、設計画像データ、あるいは試料上の同一パターンを撮像した光学画像と比較することにより検査を行うことが知られている。例えば、パターン検査方法として、同一マスク上の異なる場所の同一パターンを撮像した光学画像データ同士を比較する「die to die検査」や、マスクパターンを描画する時に使用したCADデータを検査装置入力フォーマットに変換した描画データ(設計パターンの情報)をベースに設計画像データを参照画像データとして生成して、参照画像データとパターンを撮像した測定データとなる光学画像データとを比較する「die to database検査」がある。かかる検査装置における検査方法では、試料はステージ上に載置され、ステージが動くことによって光束が試料上を走査し、検査が行われる。試料には、光源及び照明光学系によって光束が照射される。試料を透過あるいは反射した光は光学系を介して、センサ上に結像される。センサで撮像された画像は測定データとして比較回路へ送られる。比較回路では、画像同士の位置合わせの後、測定データと参照データとを適切なアルゴリズムに従って比較し、一致しない場合には、パターン欠陥有りと判定する。
【0006】
ここで、参照画像は、設計データから展開される多値画像にマスク及び光学特性をモデル化したモデル関数でフィルタ演算をおこなうことにより生成される。しかし、例えば、アシストパターンのような微細なマスクパターンの欠陥検査を行うには、高精度な参照画像を生成する必要が生じる。そのため、例えば、設計データから展開される多値画像の分解能を光学画像の分解能のN倍に高めておく。そして、この分解能が高い多値画像と学習用のサンプル画像を使ってモデル関数の係数を推定するといった手法が検討されていた。そして、この手法では、推定された係数を使って、実際の検査対象となる画像に対応する設計データから展開される多値画像にフィルタ演算をおこなって検査に用いる参照画像を作成する。そして、この参照画像と実光学画像と比較することで高精度な検査を行うとするものである。
【0007】
ここで、係数の推定に用いるサンプル画像は、実光学画像と同じ画素単位の情報しかもっていない。そのため、分解能がN倍に高められた参照画像に分解能を合わせるため、サンプル画像の分解能もN倍に変換されることが必要となる。しかしながら、分解能がN倍に変換されたサンプル画像には、設計データから展開される多値画像がもつ本来の高い周波数成分が失われている。そのため、高い周波数成分が失われているサンプル画像と高い周波数成分をもつ設計データから展開される多値画像とを使ってモデル関数の係数を推定すると、実画像の参照画像を生成した際に、実画像と比べてぼけた参照画像が生成されることになってしまうといった問題があった。その結果、実際には欠陥ではないものを欠陥と誤判定(擬似欠陥検出)してしまうといった問題があった。
【0008】
ここで、参照画像を作成するにあたって、パターンのコーナ部を丸めるフィルタ処理を行なう技術が文献に開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この処理は、パターンのコーナ部を精度よく検査するためのフィルタ処理であって上述した問題を解決するものではない。
【特許文献1】特開2005−338666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、高い周波数成分が失われているサンプル画像と高い周波数成分をもつ設計データから展開される多値画像とを使ってモデル関数の係数が推定されることによって、実画像と比べてぼけた参照画像を生成してしまうといった問題があった。その結果、実際には欠陥ではないものを欠陥と誤判定(擬似欠陥検出)してしまうといった問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、より実画像に近い参照画像を生成可能なパターン検査を行う装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様のパターン検査装置は、
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する倍率変換部と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算するローパスフィルタと、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する光学フィルタと、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の他の態様のパターン検査装置は、
設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する光学フィルタと、
前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他の態様のパターン検査装置は、
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する倍率変換部と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる逆フィルタと、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する光学フィルタと、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様のパターン検査方法は、
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する工程と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する工程と、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する工程と、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する工程と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の態様のパターン検査方法は、
設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データを取得する工程と、
前記設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する工程と、
前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の他の態様のパターン検査方法は、
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する工程と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる工程と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する工程と、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する工程と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様のコンピュータに実行させるためのプログラムは、
第1のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記第1のサンプル光学画像データを読み出し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する処理と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する処理と、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する処理と、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターン形成された被検査試料における被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する処理と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の他の態様のコンピュータに実行させるためのプログラムは、
設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する処理と、
前記設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記サンプル光学画像データを読み出し、前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する処理と、
を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の他の態様のコンピュータに実行させるためのプログラムは、
第1のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記第1のサンプル光学画像データを読み出し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する処理と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる処理と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する処理と、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターン形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部して、結果を出力する処理と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学モデル関数の係数を取得するにあたって、サンプル光学画像と設計画像データの周波数条件を合わせることができる。その結果、実画と比べてぼけた参照画像を生成する係数の推定を防止することができる。よって、擬似欠陥を低減させることができる。その結果、検査のやり直しを防ぐなど装置の有効利用を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す概念図である。
図1において、マスクやウェハ等の基板を試料として、かかる試料の欠陥を検査するパターン検査装置100は、光学画像取得部150と制御回路160を備えている。光学画像取得部150は、XYθテーブル102、光源103、拡大光学系104、フォトダイオードアレイ105、センサ回路106、レーザ測長システム122、オートローダ130、照明光学系170を備えている。制御回路160では、コンピュータとなる制御計算機110が、データ伝送路となるバス120を介して、位置回路107、比較部の一例となる比較回路108、展開回路111、参照画像データ作成部の一例となる参照回路112、オートローダ制御回路113、テーブル制御回路114、モデル係数推定回路140、記憶装置の一例となる磁気ディスク装置109、磁気テープ装置115、フレキシブルディスク装置(FD)116、CRT117、パターンモニタ118、プリンタ119に接続されている。また、XYθテーブル102は、X軸モータ、Y軸モータ、θ軸モータにより駆動される。図1では、本実施の形態1を説明する上で必要な構成部分について記載している。パターン検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれても構わないことは言うまでもない。
【0022】
図2は、実施の形態1におけるパターン検査方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図2において、実施の形態1におけるパターン検査方法は、サンプル光学画像取得工程(S102)、設計画像取得工程(S104)、モデル係数推定工程(S106)、参照画像データ作成工程(S108)、実光学画像データ取得工程(S110)、比較工程(S112)といった一例の工程を実施する。
【0023】
検査を行なう際には、まず、検査開始前に、まず、オートローダ制御回路113により制御されたオートローダ130により被検査試料となるフォトマスク101は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能に設けられたXYθテーブル102上にロードされ、そして、XYθテーブル102上に載置される。
【0024】
XYθテーブル102は、制御計算機110の制御の下にテーブル制御回路114により駆動される。X方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X−Y−θ)モータの様な駆動系によって移動可能となっている。これらの、Xモータ、Yモータ、θモータは、例えばステップモータを用いることができる。そして、XYθテーブル102の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。また、XYθテーブル102上のフォトマスク101はオートローダ制御回路113により駆動されるオートローダ130から自動的に搬送され、検査終了後に自動的に排出されるものとなっている。
【0025】
図3は、実施の形態1における光学画像の取得手順を説明するための図である。
被検査領域は、図3に示すように、例えばY方向に向かって、スキャン幅Wの短冊状の複数の検査ストライプ20に仮想的に分割される。そして、更にその分割された各検査ストライプ20が連続的に走査されるようにXYθテーブル102の動作が制御され、X方向に移動しながら光学画像が取得される。フォトダイオードアレイ105では、図3に示されるようなスキャン幅Wの画像を連続的に入力する。そして、第1の検査ストライプ20における画像を取得した後、第2の検査ストライプ20における画像を今度は逆方向に移動しながら同様にスキャン幅Wの画像を連続的に入力する。そして、第3の検査ストライプ20における画像を取得する場合には、第2の検査ストライプ20における画像を取得する方向とは逆方向、すなわち、第1の検査ストライプ20における画像を取得した方向に移動しながら画像を取得する。このように、連続的に画像を取得していくことで、無駄な処理時間を短縮することができる。ここでは、フォワード(FWD)−バックワード(BWD)手法を用いているが、これに限るものではなくフォワード(FWD)−フォワード(FWD)手法を用いても構わない。
【0026】
そして、パターン形成された被検査試料となるフォトマスク101における光学画像データ(測定データ)を取得する。測定データは、光学画像取得部150によって取得される。具体的には、光学画像データは、以下のように取得される。フォトマスク101に形成されたパターンには、XYθテーブル102の上方に配置されている適切な光源103によって光が照射される。光源103から照射される光束は、照明光学系170を介して試料となるフォトマスク101を照射する。フォトマスク101の下方には、拡大光学系104、フォトダイオードアレイ105及びセンサ回路106が配置されており、露光用マスクなどの試料となるフォトマスク101を透過した光は拡大光学系104を介して、フォトダイオードアレイ105に光学像として結像し、入射する。拡大光学系104は図示しない自動焦点機構により自動的に焦点調整がなされていてもよい。
【0027】
フォトダイオードアレイ105上に結像されたパターンの像は、フォトダイオードアレイ105によって光電変換され、更にセンサ回路106によってA/D(アナログデジタル)変換される。フォトダイオードアレイ105には、例えばTDI(タイムディレイインテグレータ)センサのようなセンサが設置されている。ステージとなるXYθテーブル102をX軸方向に連続的に移動させることにより、TDIセンサはフォトマスク101のパターンを撮像する。これらの光源103、拡大光学系104、フォトダイオードアレイ105、センサ回路106により高倍率の検査光学系が構成されている。
【0028】
センサ回路106から出力された測定データ(光学画像)は、位置回路107から出力されたXYθテーブル102上におけるフォトマスク101の位置を示すデータとともに比較回路108に送られる。測定データは例えば8ビットの符号なしデータであり、各画素の明るさの階調を例えば0〜255で表現している。
【0029】
他方、測定データと比較される画像データ(参照データ)は、展開回路111及び参照回路112によって以下のように作成される。フォトマスク101のパターン形成時に用いた設計パターンの情報は、記憶装置(記憶部)の一例である磁気ディスク装置109に記憶される。そして、展開回路111は、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して設計パターンの情報を読み出し、読み出されたフォトマスク101の設計図形データとなる設計パターンを2値ないしは多値のイメージデータ(設計画像データ)に変換する。そして、このイメージデータが参照回路112に送られる。参照回路112は、送られてきた図形のイメージデータである設計画像データに適切なフィルタ処理を施す。
【0030】
以上のように、パターン形成された被検査試料となるフォトマスク101における光学画像データ(測定データ)は、光学画像取得部150によって取得される。しかし、光学画像取得部150の構成要素となるセンサ回路106から得られた光学画像としての測定データは、拡大光学系104の解像特性やフォトダイオードアレイ105のアパーチャ効果等によってフィルタが作用した状態、言い換えれば連続変化するアナログ状態にある。そのため、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データとそのまま比較したのでは、実際には欠陥ではないものを欠陥と誤判定(擬似欠陥検出)してしまう。そのため、設計画像データにもフォトマスク101及び光学特性をモデル化したモデル関数でフィルタ処理を施すことにより、測定データに合わせることができる。そして、設計画像データをフィルタ処理した参照データとフォトマスク101から得られた測定データとを比較することになる。この参照データyは、設計画像データuにフィルタとなる光学モデル関数fを畳み込み積分(コンボリューション)して求めることができる。これを周波数空間で表すと以下の式(1)のように示すことができる。
【0031】
【数1】

【0032】
この光学モデル関数fの係数ai,jを適切に設定することで高精度に測定データに合わせ込まれた参照データを作成することができる。そのために、まず、フォトマスク101の検査前にかかる光学モデル関数fの係数ai,jを求める。
【0033】
サンプル光学画像取得工程(S102)として、学習用のサンプル光学画像データ(第1のサンプル光学画像データ)を取得する。学習用のサンプル光学画像データは、被検査試料となるフォトマスク101の一部の画像を光学画像取得部150により取得してもよいし、別途、用意しても構わない。そして、サンプル光学画像データは、磁気ディスク装置109に格納される。
【0034】
設計画像取得工程(S104)として、サンプル光学画像データに対応した設計画像データ(第1の設計画像データ)を取得する。サンプル光学画像データに対応する設計画像データについても被検査試料となるフォトマスク101のパターン形成に用いた設計データから展開回路111によって展開された画像を用いてもよいし、別途、用意しても構わない。設計画像データは、磁気ディスク装置109に格納される。
【0035】
モデル係数推定工程(S106)として、モデル係数推定回路140は、光学モデル関数fの係数ai,jを推定する。
図4は、実施の形態1におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
モデル係数推定回路140内では、倍率変換部50が、磁気ディスク装置109から係数ai,jを求めるための学習用のサンプル光学画像データ(第1のサンプル光学画像データ)を読み出して入力する。他方、リサイズ部52が、サンプル光学画像データに対応した設計画像データ(第1の設計画像データ)を磁気ディスク装置109から読み出して入力する。設計画像データは、サンプル光学画像データのN倍の解像度でサンプル光学画像データに対応する階調値が定義されている。上述したように、例えば、アシストパターンのような微細なマスクパターンの欠陥検査を行うには、高精度な参照画像を生成する必要が生じる。設計画像データをサンプル光学画像データのN倍の解像度とすることで、高精度な参照画像を生成するための係数を推定することができる。
【0036】
倍率変換部50は、入力したサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する。これにより、設計画像データと解像度を合わせることができる。
図5は、実施の形態1における倍率変換の内容を説明するための概念図である。
図5では、一例として、実線で示された例えば2×2画素のサンプル光学画像データが示されている。ここでは、N=4、すなわち各画素をさらに点線で示す4×4のサブ画素のサイズまで倍率を変換する。各サブ画素内のデータ値(階調値)は、例えば、線形補間或いは双3次補間等の手法によって求めればよい。ここで、係数の推定に用いるサンプル光学画像データは、実光学画像と同じ画素単位の情報しかもっていない。そのため、サンプル画像の分解能もN倍に変換されることが必要であるが、分解能がN倍に変換された第2のサンプル光学画像データyi,jは、設計データから展開される多値画像がもつ高い周波数成分が失われている。分解能がN倍に変換された第2のサンプル光学画像データyi,jは、評価関数演算部58に出力される。
【0037】
リサイズ・コーナー丸め部52は、入力した設計画像データにリサイズおよびコーナー丸め処理を行なう。そして、リサイズ・コーナー丸めされた設計画像データは、ローパスフィルタ(LPF)54に出力される。
【0038】
LPF54は、設計画像データを入力し、設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する。
図6は、実施の形態1における低域ろ過関数の係数行列の一例を示す図である。
図6では、一例として、4×4のマス目のデータ領域をもつ設計画像データに対応した低域ろ過関数の係数行列の一例が示されている。例えば、全てを加算すると1になるようにマス目の合計数分の1の係数行列が設定されている。この4×4のマス目サイズは、図5の実線で示した2×2画素をさらに1/Nのサブ画素サイズになるようにN倍解像度を上げたものに合わせている。ここでは、図5の点線で示したように4倍に倍率を上げたものと同じ解像度の画像を一例として示している。このような低域ろ過関数をリサイズ後の設計画像データに対して畳み込み積分することでサンプル光学画像データと同様に高い周波数成分を失わせることができる。その結果、LPF54の出力データとサンプル光学画像データとで周波数成分の条件を合わせることができる。そして、LPF54を通過した第2の設計画像データは、光学フィルタ(PSF)56に出力される。
【0039】
PSF56は、第2の設計画像データと式(1)で示した光学モデル関数fとを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する。設計画像データui,jと光学モデル関数fの係数ai,jとを用いて、演算によって作成されるサンプル用の参照画像データy’i,j(第3の設計画像データ)は、以下の式(2)で示すことができる。
【0040】
【数2】

【0041】
図7は、実施の形態1における光学モデル関数の係数行列の一例を示す図である。
図7では、一例として、8×8のマス目のデータ領域をもつ設計画像データに対応した光学モデル関数fの係数行列の一例が示されている。ここでも8×8のマス目サイズは、図5の実線で示した2×2画素をさらに1/Nのサブ画素サイズになるようにN倍解像度を上げたものに合わせている。ここでの各係数ai,jは、任意の値を予め設定しておけばよい。
【0042】
図8は、実施の形態1における設計画像データの一例を示す図である。
図8では、一例として、8×8のマス目のデータ領域をもつ設計画像データui,jの一例が示されている。ここでも8×8のマス目サイズは、図5の実線で示した2×2画素をさらに1/Nのサブ画素サイズになるようにN倍解像度を上げたものに合わせている。
【0043】
そして、第2の設計画像データui,jに光学モデル関数fの係数行列を畳み込み積分することで、サンプル用の参照画像データy’i,jを作成することができる。そして、得られたサンプル用の参照画像データy’i,jが第2のサンプル光学画像データyi,jに一致していれば、擬似欠陥の検出を回避することができることになる。しかし、ここでは、各係数ai,jが任意の値に設定されているので、第2のサンプル光学画像データyi,jに近いデータにはなっていない場合が多い。そのため、以降のフィードバック演算を行なうことでより適切な各係数ai,jを推定する。サンプル用の参照画像データy’i,jは、評価関数演算部58に出力される。
【0044】
係数取得部142は、評価関数演算部58とパラメータ学習部60を有している。係数取得部142は、第2のサンプル光学画像データyi,jとサンプル用の参照画像データy’i,jとを用いて所定の演算を行なうことで、光学モデル関数fの各係数ai,jを取得する。まず、評価関数演算部58は、第2のサンプル光学画像データyi,jとサンプル用の参照画像データy’i,jとを入力する。そして、以下に示す式(3)を演算する。
【0045】
【数3】

【0046】
この式(3)の演算結果Sは、パラメータ学習部60に出力される。パラメータ学習部60は、演算結果Sを図示しないメモリに記憶すると共に、係数ai,jの値を変更して、PSF56にフィードバックする。そして、PSF56は、新たな係数ai,jの値を用いて、式(2)の演算を行ない、評価関数演算部58に演算結果となる新たなサンプル用の参照画像データy’i,jを出力する。そして、評価関数演算部58は、新たなサンプル用の参照画像データy’i,jを使って式(3)を演算し、演算結果Sをパラメータ学習部60に出力する。パラメータ学習部60は、演算結果Sを図示しないメモリに記憶すると共に、係数ai,jの値を変更して、PSF56にフィードバックする。このようにして、パラメータ学習部60は、係数ai,jの値を順に変更して、演算結果Sを蓄積する。そして、蓄積された演算結果Sの中から最小値を選択する。そして、パラメータ学習部60は、最小となった演算結果Sに用いた係数ai,jを取得する。このようにして、係数取得部142は、より適切な係数ai,jを推定する。
【0047】
ここで、リサイズ部52でも演算の際に係数ai,jを使っている場合には、図4に示すように、リサイズ部52にもフィードバックすればよい。そして、フィードバック回路の中にリサイズ部52とLPF54を含めればよい。そして、上述したように式(3)の演算結果Sがの最小となったときに用いた係数ai,jを取得すればよい。そして、パラメータ学習部60は、取得した係数ai,jを出力する。出力された係数ai,jは、磁気ディスク装置109に記憶される。或いは、参照回路112に出力されてもよい。
【0048】
以上のようにしてモデル係数推定回路140によって、適切な光学モデル関数fの係数ai,jを求めることができる。
【0049】
図9は、実施の形態1におけるサンプル光学画像データとサンプル用の参照画像データとを比較した一例を示す図である。
図9(a)では、LPF54を通さずにサンプル用の参照画像データを作成した場合のサンプル光学画像データ30とサンプル用の参照画像データ32とが示されている。実線で示すサンプル光学画像データ30に対して、点線で示すサンプル用の参照画像データ32は、立ち上がり或いは立下りの角度が緩慢となり、いわゆる”ボケた”ラインとなってしまう。この原因は、高域周波数成分を失ったサンプル光学画像データと高域周波数成分を有する設計画像データを使って係数ai,jを求めたためである。これに対して、LPF54を通すことで両者の周波数条件を合わせることにより得られた係数ai,jで参照画像データを作成すると図9(b)に示すようにサンプル光学画像データ30とサンプル用の参照画像データ32とを一致させることができる。
【0050】
図10は、実施の形態1におけるサンプル光学画像データとサンプル用の参照画像データとを比較した他の一例を示す図である。
特に、アシストパターンのような微細なマスクパターンの場合、LPF54の効果が顕著に表れる。LPF54を通さなかった設計画像データを使って係数ai,jを推定すると図10(a)に示すように、実線で示すサンプル光学画像データ30に対して、点線で示すサンプル用の参照画像データ32は、立ち上がり或いは立下りの勾配が緩慢となり、強度差がより大きくかけ離れてしまう。これに対して、LPF54を通すことで両者の周波数条件を合わせることにより、図10(b)に示すように微細なマスクパターンでもサンプル光学画像データ30とサンプル用の参照画像データ32とを一致させることができる。
【0051】
以上のようにして、検査前の準備を整える。そして、被検査対象となるフォトマスク101の検査を行なう。
【0052】
まず、実光学画像データ取得工程(S110)として、光学画像取得部150は、パターン形成された被検査試料となるフォトマスク101における実光学画像データを取得する。具体的な取得手法は上述した通りである。
【0053】
参照画像データ作成工程(S108)として、展開回路111と参照回路112とによって、参照画像データが作成される。
まず、展開回路111は、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して設計パターンの情報を読み出し、読み出されたフォトマスク101の設計図形データとなる設計パターンを2値ないしは多値のイメージデータ(設計画像データ)に変換する。そして、このイメージデータが参照回路112に送られる。参照回路112は、適切な光学モデル関数fの係数ai,jを用いて、フォトマスク101の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する。
【0054】
図11は、実施の形態1における参照回路の内部構成を示すブロック図である。
展開回路111から出力された設計画像データは、検査精度を上げるために実光学画像データのN倍の解像度で実光学画像データに対応する階調値が定義されている。まず、リサイズ部70が、設計画像データを入力する。そして、リサイズ部52と同様に定義されたパターンをリサイズする。そして、PSF56と同様の光学フィルタ(PSF)72にリサイズされた設計画像データは出力される。ここで、参照回路112は、磁気ディスク装置109から適切な光学モデル関数fの係数ai,jを読み出し、PSF72に設定しておく。
【0055】
PSF72は、適切な係数ai,jが設定された光学モデル関数fをリサイズされた設計画像データに式(2)に示す畳み込み積分演算を行なうことでフィルタ処理を行ない、参照画像データを作成する。そして、得られた参照画像データはN×N平均ダウンサンプリングフィルタ74に出力される。
【0056】
ここで、実光学画像データは、光学画像取得部150に設定された解像度で画素値が得られているので、PSF72出力時の参照画像データの解像度は実光学画像データのN倍の解像度となっている。このままでは階調値同士を比較することができないので、N×N平均ダウンサンプリングフィルタ74によりPSF72出力時の参照画像データの各データが示す領域サイズを実光学画像データの画素サイズに変更する。例えば、8×8のマス目を2×2のマス目に倍率変換する。変換後のデータ値は、まとめられる複数のマス目のデータ値の平均値を用いればよい。以上のようにして、実光学画像データの解像度と参照画像データの解像度を合わせる。そして、合わせた後の参照画像データは比較回路108に出力される。
【0057】
比較工程(S112)として、比較部108は、フォトマスク101の実光学画像データと参照回路112で作成された参照画像データを入力し、入力した実光学画像データと参照画像データの位置合わせを行なった後、所定のアルゴリズムに従って画素毎に両者を比較し、欠陥の有無を判定する。
【0058】
以上のように、LPF54で低域ろ過を行なって周波数条件を合わせることで高精度な光学モデルを得ることができる。この光学モデルを用いることで、擬似欠陥検出を低減することができる。
【0059】
実施の形態2.
実施の形態1では、光学画像の解像度より設計画像の解像度の方がN倍高いデータを用いていたが、これに限るものではない。実施の形態2では、両者が同じ解像度のデータを用いる場合について説明する。
【0060】
図12は、実施の形態2におけるパターン検査装置の構成を示す概念図である。
図12において、倍率レンズ172が追加された点以外は、図1と同様である。また、パターン検査方法の要部工程も図2と同様である。実施の形態2では、倍率レンズ172により光学画像の解像度を実施の形態1よりN倍向上させる。その結果、光学画像取得部150で得られる光学画像の解像度と設計画像の解像度とを一致させることができる。
【0061】
図13は、実施の形態2におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
図13において、倍率変換部50とLPF54とが削除された点以外は図4と同様である。光学画像の解像度をN倍向上させたことで倍率変換部50による倍率変換を不要とすることができる。その結果、高い周波数成分も失われることが無くなる。そのため、設計画像データについてもLPF54での低域ろ過処理を省くことができる。このようなモデル係数推定回路140を用いて適切な光学モデル関数fの係数ai,jを推定する。
【0062】
まず、光学画像取得部150により、設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データを取得する。学習用のサンプル光学画像データは、被検査試料となるフォトマスク101の一部の画像を用いる。或いは、別途、用意して磁気ディスク装置109に格納しておいても構わない。ここでは、倍率レンズ172を介することで、サンプル光学画像データは、解像度が実施の形態1よりN倍向上している。
【0063】
他方、リサイズ部52が、サンプル光学画像データに対応した設計画像データ(第1の設計画像データ)を磁気ディスク装置109から読み出して入力する。設計画像データは、サンプル光学画像データと同じ解像度でサンプル光学画像データに対応する階調値が定義されている。設計画像データは、実施の形態1のそれと同じである。よって、設計画像データについては、実施の形態1と同様、被検査試料となるフォトマスク101のパターン形成に用いた設計データから展開された画像を用いてもよいし、別途、用意しても構わない。リサイズ部52が行なうその他の内容は、実施の形態1と同様である。
【0064】
光学フィルタ(PSF)56は、リサイズ後の設計画像データを入力し、設計画像データと式(1)で示した光学モデル関数fとを畳み込み積分する。PSF56のその他の内容は、実施の形態1と同様である。そして、実施の形態1と同様、係数取得部142がサンプル光学画像データと光学モデル関数fで畳み込み積分された設計画像データとを用いて式(3)の演算を行なうことで、光学モデル関数fの係数ai,jを取得する。
【0065】
そして、参照回路112は、得られた光学モデル関数fの係数ai,jを用いて、被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する。ここで、実施の形態1では、参照画像を作成する際に、図11で示したN×N平均ダウンサンプリングフィルタ74によりPSF72出力時の参照画像データの各データが示す領域サイズを実光学画像データの画素サイズに変更した。しかし、実施の形態2では、倍率レンズ172により光学画像取得部150で得られる光学画像の解像度は、実施の形態1よりN倍向上させられている。そのため、N×N平均ダウンサンプリングフィルタ74で領域サイズを変更する必要がない。その他の内容は実施の形態1と同様である。
【0066】
以上のように、実施の形態2では、光学画像データを取得する際に、光学画像データ自体の解像度をN倍向上させて、設計画像データの解像度と合わせることで、両者の周波数条件を一致させることができる。その結果、高精度な光学モデルを得ることができる。この光学モデルを用いることで、擬似欠陥検出を低減することができる。
【0067】
実施の形態3.
実施の形態1では、設計画像データに対してLPF54により低域ろ過を行なって、光学画像データと周波数条件を合わせていたが、これに限るものではない。実施の形態3では、光学画像データの高域周波数成分を復元させることで設計画像データと周波数条件を合わせる構成について説明する。実施の形態3におけるパターン検査装置の構成は、図1と同様である。また、パターン検査方法の要部工程も図2と同様である。
【0068】
図14は、実施の形態3におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
図14において、LPF54の代わりに、逆フィルタ62を備えた点以外は図4と同様である。学習用のサンプル光学画像データを入力して、倍率変換部50によって倍率変換するまでの構成及び動作は、実施の形態1と同様である。また、リサイズ部52によってリサイズ処理されるまでの構成及び動作は、実施の形態1と同様である。
【0069】
逆フィルタ62は、変換により失った倍率変換後のサンプル光学画像データ(第2のサンプル光学画像データ)を入力して、逆フィルタ関数を畳み込み積分することでサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる。これにより、復元後のサンプル光学画像データでは、高周波成分が回復しているので、設計画像データと周波数条件が同じとなる。そのため、設計画像データについてもLPF54での低域ろ過処理を省くことができる。
【0070】
よって、光学フィルタ(PSF)56は、リサイズ部52によるリサイズ後の設計画像データを入力し、設計画像データと式(1)で示した光学モデル関数fとを畳み込み積分する。PSF56のその他の内容は、実施の形態1と同様である。そして、実施の形態1と同様、係数取得部142で高周波成分が回復したサンプル光学画像データと光学モデル関数fで畳み込み積分された設計画像データとを用いて式(3)の演算を行なうことで、光学モデル関数fの係数ai,jを取得する。このようなモデル係数推定回路140を用いて適切な光学モデル関数fの係数ai,jを推定する。以降の各工程は、実施の形態1と同様である。
【0071】
以上のように、実施の形態3では、倍率変換することで高域周波数成分が失われた光学画像データに対して、逆フィルタを使って高域周波数成分を復元することで、両者の周波数条件を一致させることができる。その結果、高精度な光学モデルを得ることができる。この光学モデルを用いることで、擬似欠陥検出を低減することができる。
【0072】
以上の説明において、「〜部」、「〜回路」或いは「〜工程」と記載したものは、コンピュータで動作可能なプログラムにより構成することができる。或いは、ソフトウェアとなるプログラムだけではなく、ハードウェアとソフトウェアとの組合せにより実施させても構わない。或いは、ファームウェアとの組合せでも構わない。また、プログラムにより構成される場合、プログラムは、磁気ディスク装置109、磁気テープ装置115、FD116、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録される。例えば、演算制御部を構成するテーブル制御回路114、展開回路111、参照回路112、モデル係数推定回路140、或いは比較回路108等は、電気的回路で構成されていても良いし、制御計算機110によって処理することのできるソフトウェアとして実現してもよい。また電気的回路とソフトウェアの組み合わせで実現しても良い。
【0073】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、各実施の形態では、透過光を用いているが、反射光あるいは、透過光と反射光を同時に用いてもよい。反射光を用いる場合には、透過部から得られる画素値と遮光部から得られる画素値の大小が逆になることは言うまでもない。
【0074】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0075】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのパターン検査装置或いはパターン検査方法は、本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1におけるパターン検査方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図3】実施の形態1における光学画像の取得手順を説明するための図である。
【図4】実施の形態1におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
【図5】実施の形態1における倍率変換の内容を説明するための概念図である。
【図6】実施の形態1における低域ろ過関数の係数行列の一例を示す図である。
【図7】実施の形態1における光学モデル関数の係数行列の一例を示す図である。
【図8】実施の形態1における設計画像データの一例を示す図である。
【図9】実施の形態1におけるサンプル光学画像データとサンプル用の参照画像データとを比較した一例を示す図である。
【図10】実施の形態1におけるサンプル光学画像データとサンプル用の参照画像データとを比較した他の一例を示す図である。
【図11】実施の形態1における参照回路の内部構成を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2におけるパターン検査装置の構成を示す概念図である。
【図13】実施の形態2におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
【図14】実施の形態3におけるモデル係数推定回路の内部構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
50 倍率変換部
52,70 リサイズ部
54 LPF
56,72 PSF
58 評価関数演算部
60 パラメータ学習部
62 逆フィルタ
100 パターン検査装置
101 フォトマスク
102 XYθテーブル
103 光源
104 拡大光学系
105 フォトダイオードアレイ
106 センサ回路
107 位置回路
108 比較回路
109 磁気ディスク装置
110 制御計算機
111 展開回路
112 参照回路
115 磁気テープ装置
140 モデル係数推定回路
142 係数取得部
150 光学画像取得部
160 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する倍率変換部と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算するローパスフィルタと、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する光学フィルタと、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とするパターン検査装置。
【請求項2】
設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する光学フィルタと、
前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とするパターン検査装置。
【請求項3】
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する倍率変換部と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる逆フィルタと、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する光学フィルタと、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する係数取得部と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する光学画像取得部と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する参照画像データ作成部と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部と、
を備えたことを特徴とするパターン検査装置。
【請求項4】
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する工程と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する工程と、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する工程と、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する工程と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とするパターン検査方法。
【請求項5】
設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データを取得する工程と、
前記設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する工程と、
前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とするパターン検査方法。
【請求項6】
第1のサンプル光学画像データを入力し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する工程と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる工程と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する工程と、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する工程と、
パターン形成された被検査試料における実光学画像データを取得する工程と、
前記係数を用いて、前記被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する工程と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する工程と、
を備えたことを特徴とするパターン検査方法。
【請求項7】
第1のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記第1のサンプル光学画像データを読み出し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する処理と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の低域ろ過関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する処理と、
前記第2の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第3の設計画像データを演算する処理と、
前記第2のサンプル光学画像データと前記第3の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターン形成された被検査試料における被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
設計画像データを入力し、前記設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分する処理と、
前記設計画像データと同じ解像度のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記サンプル光学画像データを読み出し、前記サンプル光学画像データと前記所定の光学モデル関数で畳み込み積分された設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターンが形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較して、結果を出力する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項9】
第1のサンプル光学画像データが記憶された記憶装置から前記第1のサンプル光学画像データを読み出し、前記第1のサンプル光学画像データをN倍の解像度の第2のサンプル光学画像データに変換する処理と、
前記第2のサンプル光学画像データの高周波成分を復元させる処理と、
前記第1のサンプル光学画像データのN倍の解像度で前記第1のサンプル光学画像データに対応する階調値を定義した第1の設計画像データを入力し、前記第1の設計画像データと所定の光学モデル関数とを畳み込み積分して、第2の設計画像データを演算する処理と、
高周波成分が回復した前記第2のサンプル光学画像データと前記第2の設計画像データとを用いて所定の演算を行なうことで、前記所定の光学モデル関数の係数を取得する処理と、
前記係数を用いて、パターン形成された被検査試料の実光学画像データに対応する参照画像データを作成する処理と、
前記被検査試料の実光学画像データを入力し、前記参照画像データと比較する比較部して、結果を出力する処理と、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−222626(P2009−222626A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68921(P2008−68921)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(305008983)アドバンスド・マスク・インスペクション・テクノロジー株式会社 (105)
【Fターム(参考)】