説明

パターン測定方法及びパターン測定装置

【課題】
本発明の目的は、複数のパターンを含むテンプレートを用いたマッチングの際に、一部のパターンの変形や、テンプレートとSEM画像間に倍率誤差がある場合であっても、高精度なマッチングが可能な方法、及び装置の提供にある。
【解決手段】
上記課題を解決するための一手法として、設計データの所定領域内に配置された複数のパターンのうち、一部を選択的に用いてマッチングを行う方法、及びそれを実現するための装置を提案する。また、上記課題を解決するための他の手法として、設計データの所定領域内に配置された複数のパターンに基づく第1のマッチングを行った後、前記所定領域内に配置された複数のパターンのうち、一部を用いて第2のマッチングを行う方法、及びそれを実現する装置を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン測定方法,パターン測定装置に係り、特に荷電粒子線装置によって取得された画像内のパターンを測定する方法,装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造工程において、走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置を用いたパターンの測定が一般に行われている。最近では、パターンの設計データ(以下、便宜上CAD(Computer Aided Design)データと称することもある)を用いた測定が行われるようになってきている。
【0003】
特許文献1には、CADデータに基づいて、パターンマッチングのテンプレートを作成し、CADデータに基づくテンプレートと走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)画像間のマッチングを行う技術が説明されている。また、特許文献2には、CADデータから抽出された輪郭線線分群を用いたパターンマッチングに関する技術が説明されている。
【0004】
また、特許文献3,4,5には、検査対象パターンと基準パターンのエッジ検出を行い、検出されたエッジを比較することによって、設計データに対するパターンの変形量を検出する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−328015号公報
【特許文献2】特開2007−079982号公報
【特許文献3】特開2001−338304号公報
【特許文献4】特開2002−031525号公報
【特許文献5】特開2006−234588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至5は、CADデータとSEM画像間のマッチングに関するものであるが、マッチングのためのテンプレート内に設けられた複数のパターンの一部が変形することによるマッチングずれを補正することを指向するものではない。また、CADデータに基づくパターン図形と、SEM画像との間には、種々の要因により倍率誤差が発生することがあるが、上記各引用文献には、テンプレート内に複数のパターンが含まれるときの倍率誤差に起因したマッチングずれを補正することを指向するものではなかった。
【0007】
以下に、複数のパターンを含むテンプレートを用いたマッチングの際に、一部のパターンの変形や、テンプレートとSEM画像間に倍率誤差がある場合であっても、高精度なマッチングが可能な方法、及び装置について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための一手法として、設計データの所定領域内に配置された複数のパターンのうち、一部を選択的に用いてマッチングを行う方法、及びそれを実現するための装置を提案する。また、上記課題を解決するための他の手法として、設計データの所定領域内に配置された複数のパターンに基づく第1のマッチングを行った後、前記所定領域内に配置された複数のパターンのうち、一部を用いて第2のマッチングを行う方法、及びそれを実現する装置を提案する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、パターンの一部の変形や、倍率誤差によらず、高精度なパターンマッチングを行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、上記課題を解決するための具体的な態様について説明する。以下の説明は半導体集積回路及びフォトマスク製造工程でのパターン寸法測定において、近年注目されているCADデータと実際に製造されたパターンを測長SEMと呼ばれる走査型電子顕微鏡により取得された画像との比較測定法、或いはパターンマッチングによる位置特定法に関するものである。なお、以下の説明では測長SEM(Critical Dimension−SEM)を例にとって説明するが、CD−SEMに限られることはなく、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置等の他の荷電粒子線装置への適用も可能である。
【0011】
特に、CADデータとの比較においては、測長SEMから得られた画像を重ね合わせ、画像データのパターンエッジの信号強度を定量化し、あらかじめ定義された閾値でエッジの代表点を定め、その代表点とCADデータの当該する部分との距離の差により寸法差を決めることが多い。このようにCADデータに基づく線分と、パターンエッジ間の距離を測定する技術は、EPE(Edge Placement Error)測定と称される場合があるが、EPE測定では、測長SEMとCADデータのどの部分を比較するかにより、測定結果が変わってしまう。このため、基準となる方法を定義し、評価する部分を確定させることが重要である。このためには、寸法測定に先立ち、CADデータと実際のフォトマスク画像の位置関係を定めることが必要となる。従来の技術では測長SEM画像と該当するCADデータ全体でパターンをマッチングすることで、位置関係を定めている。
【0012】
このパターンマッチングの例として、二次電子強度分布を示す測長SEM画像と、テンプレートと呼ばれるCADデータパターン、あるいは測定以前に取得された同形のパターン画像の位置に関する相関演算がある。すなわち画像の2次元方向に対する相関演算により評価され、相関が最も高いX,Y2方向の位置を定め、その位置でテンプレート画像と測長SEM画像の重ねあわせを行う。
【0013】
一方、フォトマスクのパターンは近年OPC(Optical Proximity Correction)処理がされているパターンが多く、周囲パターンとの位置関係により微小な階段状のパターンとなる場合や、パターン角部に凹凸が付く場合が多くなっている。
【0014】
さらに、SRAFパターン(Sub Resolution Assist Feature Patten)と呼ばれる補助パターンもある。このSRAFパターンはフォトマスクを使ったフォトリソグラフィによるシリコンウェーハ上への縮小転写にて、解像しない微小なパターンである。その目的は、1)ウェーハパターンの縮小転写時に強度分布上必要とされるパターン、2)エッチング時のマイクロローディング効果を減少させるために配置されるパターン、3)CMP(化学機械的研磨)の段差防止等である。
【0015】
これらOPCの一部、SRAFパターンといった補助パターンは、主パターンに比べパターン寸法が小さく、微小である。このため、パターン寸法の精度は要求されない場合が多い。またその形状も主パターンに比べ微小であるため、設計データに対するパターン忠実度が、主パターンに比べ劣る場合ある。この劣る理由は、フォトマスクプロセスにも限界があり、電子ビーム露光やレジストプロセス,エッチングプロセスにて主パターン程忠実にパターンを再現できないからである。
【0016】
以上、フォトマスクにおける補助パターンとそのパターン忠実度が劣ることを説明したが、補助パターンを含んだ場合には、測長SEM取得画像全体とCADデータのマッチングによる位置関係の定義が最適にならない場合がある。すなわち、補助パターンの位置とそのパターン忠実度の違いから、補助パターン起因でのマッチングずれが主パターンに影響する場合がある。
【0017】
CADデータパターンと差分測定は主パターンに対して行われることが多く、補助パターン起因のマッチングずれは主パターンでの測定結果に影響を及ぼすことは明らかである。
【0018】
さらに測長SEMで取得された画像全体とそのCADデータによるマッチングには別な課題がある。それは、測長SEMで取得された画像全体とCADデータ間の倍率誤差である。CADデータはグリッドと呼ばれる格子上でパターン位置を決めるので、最小グリッド単位で正確な位置が決まる。これに対して、測長SEMで取得された画像は、フォトマスク上のパターンならば描画時の画像取得された領域内での倍率誤差、ウェーハ上パターンであれば縮小転写時の倍率誤差が現れる。
【0019】
この倍率誤差がある場合に画像全体でマッチングを行うと測長SEM取得画像の中心部では、測長SEMとCADデータの寸法差が小さく、画像の端で大きくなることは明らかである。この傾向は一つの画面から複数のパターン寸法差を評価する場合など、倍率を小さくして寸法差を評価する場合に顕著になる。
【0020】
以上のような課題を解決するための具体的な手法として、以下のようなものがある。
【0021】
先ず、測長SEMで取得されたパターン画像一部と該当するCADパターンの一部にてパターンマッチングを行い、画像とCADデータの寸法差分を評価するものである。
【0022】
具体的な評価方法の例を次に示す。二次電子強度分布である測長SEM画像とCADデータパターンのマッチング処理を相関演算により行う。この場合、測長SEM画像データは測定画素毎に二次電子強度分布で数値化(強度値と呼ぶ)されており、画素毎の強度値を制御コンピュータのメモリに2次元配列情報として記憶してある。
【0023】
CADデータはパターン図形の外周の直線で構成されているので、CADデータから比較対照となる部分の図形の辺すなわち直線が存在する部分を、画素と同じピッチとなる様に分割する。そして、直線が存在する画素にある一定の正の数値を、存在しない部分を0とし、この結果をCADデータの画素情報として、メモリに2次元配列情報として記憶する。
【0024】
これらメモリに記憶された2種類の情報にて相関演算を行い、その最大値を取る位置をマッチング結果による位置とする。この相関演算では、測長SEM画像よりもCADデータの比較対照となる部分が小さいため、CADデータを1画素毎にX,Y、2方向にずらしながら測長画像の強度値とCADデータの画素情報の値で画素毎に積を取り、その和を相関演算の評価値とする。この相関演算の評価値が最大となるX,Yの位置が測長SEM画像に対するCADデータのずれが一番小さい位置であり、マッチングされた位置である。
【0025】
上記方法により、CADデータと測長SEMからの画像の一部によるマッチングが出来るため、寸法測定やその他計測評価を行うにあたり、最適な重ね合わせ状態で比較することが可能となる。
【0026】
次に、測長SEMで取得されたパターン画像一部と該当するCADパターンの一部にてパターンマッチングを行うことは上記方法と同じであるが、マッチングを2回で行う方法について説明する。
【0027】
この方法では、1回目は測長SEMで取得した画像全体と該当する部分のCADデータ全体でマッチングを行う。その結果を元にCADデータパターンの画像パターンに対する位置を決める。
【0028】
2回目は寸法評価対象となる部分のみでパターンマッチングを行う。この場合、1回目のマッチングにて10nm程度範囲で測長SEM画像とCADデータのマッチングが取れているので、相関演算を行う範囲すなわちCADデータのX,Y方向へのずらす範囲も小さくて良い。
【0029】
この2回のマッチングを行う理由は、本発明が解決しようとしている課題の項でも記したように補助パターン起因のマッチングずれを防ぐためである。なお、以下の説明ではマッチングを2回に分けて行う例を説明するが、これに限られることはなく、必要に応じて3回以上のマッチングを行うようにしても良い。また、1回目のパターンマッチングに対し、2回目以降のパターンマッチングではそのサーチの範囲を狭くすると共に、テンプレートとして表現されるパターンの数(テンプレート上の図形の数)を減らすことで、高精度且つ高効率なマッチング処理を行うことができる。特に2回目以降に用いられるテンプレートとして用いられる図形は、一部のOPCパターンやSRAFパターンのように、形状が不安定なものではなく、形状が安定しているパターンを選択することが望ましい。
【0030】
以上、測長SEM画像とCADパターンの一部によりマッチングを行うことで、寸法評価位置におけるマッチングの最適化を実現する手段を説明したが、一部のパターンにてマッチングを行うにはマッチングに使用するCADデータ内にてマッチングを行う部分に関して、区別あるいはパターンのクラス分けが必要となる。
【0031】
このパターンのクラス分けは、測長SEMでのみ使用されるため、CADデータに関して、従来とは別な処理によって、パターンマッチングを図形あるいは、辺を情報として予め与えておくことが必要となる。しかし、この情報は寸法やその他評価対象と同じであり、寸法その他評価対象部分は測定情報として必ず存在するため、本発明のパターンの一部でマッチング処理を行うことに関して特別な処理を行う必要も無い場合もある。
【0032】
寸法評価部分とマッチング評価部分が異なる場合であっても、マッチング部分の情報をCADの図形データ内にて定義しておけば良い。この定義方法は、CADデータの階層構造,対象データにフラグを付けることなどにより、容易に実現可能である。
【0033】
さらに、測長SEMで取得した画像とCADデータに倍率誤差がある場合に、適正なマッチングを行う例を説明する。このケースで典型的な例は、メモリセルパターン等の小さい領域での繰り返しパターンとなる場合である。一つの画像でメモリセルパターンを複数含む倍率で取得し、寸法評価をそれぞれのメモリセルで行う場合にもしも倍率誤差があると画像全体マッチングを行う場合には、画像中心部では誤差が少ないが外周部では倍率誤差により、マッチングがずれてしまう。
【0034】
以上のような倍率誤差に基づくマッチングずれの課題に対し、前述した2段階のマッチングを、メモリセル毎、あるいはメモリセル内の評価対象パターン毎に適用する。すなわち、寸法評価前に評価部分毎に再度マッチングを行えば、メモリセルの画像内での位置に起因する誤差を取り除くことができ、すべてのメモリセルに対しCADデータの寸法差を比較することが可能になる。
【0035】
以上のような構成によれば、測長SEMの画像データの評価対象部分と、該当CADデータ部分間でのマッチングが可能となるため、測長SEMからの画像とCADデータの寸法その他評価が補助パターンの出来栄えに左右されず、安定して行える。
【0036】
さらに、複数メモリセルその他の周期性のあるパターンを1つの画像内で測定する際に、画像に倍率誤差がある場合でも、メモリセル毎あるいは各メモリセル内の評価部分毎にマッチングを行うことで、CADデータとの寸法比較が各メモリセル毎に均一に実施可能となる。
【実施例1】
【0037】
以下図面を用いてより具体的な実施形態を説明する。また、以下に例示する走査電子顕微鏡は半導体集積回路製造用ウェーハあるいはフォトマスク上に形成されたパターンの形状、寸法測定用の測長機能付きであり、以下「測長SEM」と呼ぶ場合もある。次に走査電子顕微鏡の概略を説明する。
【0038】
図1に例示されたSEMの電子光学系は、電子を放出する電子源(電子銃)1から発せられる電子ビーム2をレンズ3によりウェーハまたはフォトマスクといった試料4上に収束させて任意の順序で走査することができる。電子線の照射により試料4の表面において発生する二次電子5は二次電子検出系6により検出され、画像データとして画像演算制御の機能を持たせた制御系7(制御プロセッサ)に入力される。試料4はX−Y−Zステージ8により3次元方向あるいはX−Yの2次元方向に移動可能である。制御系7は電子源1,レンズ3,二次電子検出系6,X−Y−Zステージ8、及び画像表示装置9の制御も行う。
【0039】
本例の場合、電子ビーム2は、図示しない走査コイルで試料4上を二次元的に(X−Y方向)に走査される。二次電子検出系6内の二次電子検出器で検出された信号は、制御系7内の信号増幅器で増幅された後、画像メモリに転送されて画像表示装置9に試料像として表示される。二次電子検出器は二次電子や反射電子を検出するものであっても、光やX線を検出するものであっても良い。
【0040】
なお、画像メモリのメモリ位置に対応したアドレス信号が、制御系7内、あるいは別に設置されたコンピュータ内で生成され、アナログ変換された後に、走査コイルに供給される。X方向のアドレス信号は例えば画像メモリが512×512画素(Pixel)の場合、0から512を繰り返すデジタル信号であり、Y方向のアドレス信号はX方向にアドレス信号が0から512に到達したときにプラス1される0から512の繰り返しのデジタル信号である。これが、走査コイルに達する前にアナログ信号に変換される。
【0041】
画像メモリのアドレスと電子ビームを走査するための偏向信号のアドレスが対応しているので、画像メモリには走査コイルによる電子線の偏向領域の二次元像が記録される。なお、画像メモリ内の信号は、読み出しクロックで同期された読み出しアドレス生成回路で時系列に順次読み出すことができる。アドレスに対応して読み出された信号はアナログ変換され、画像表示装置9の輝度変調信号となる。
【0042】
制御系7には、図示しない入力装置が設けられ、画像の取り込み条件(走査速度,画像積算枚数)や視野補正方式などの指定、および画像の出力や保存などを指定することができる。
【0043】
また本例で説明する装置は、検出された二次電子或いは反射電子等に基づいて、ラインプロファイルを形成する機能を備えている。ラインプロファイルは一次電子線を一次元、或いは二次元走査したときの電子検出量、或いは試料像の輝度情報等に基づいて形成されるものであり、得られたラインプロファイルは、例えば半導体ウェーハ上に形成されたパターン、あるいはフォトマスク上パターンの寸法測定等に用いられる。
【0044】
なお、図1の説明は制御系7が走査電子顕微鏡と一体、或いはそれに準ずるものとして説明したが、無論それに限られることはなく、走査電子顕微鏡鏡体とは別に設けられた制御プロセッサで以下に説明するような処理を行っても良い。その際には二次信号検出器で検出される検出信号を制御プロセッサに伝達したり、制御プロセッサから走査電子顕微鏡のレンズや偏向器等に信号を伝達する伝達媒体と、当該伝達媒体経由で伝達される信号を入出力する入出力端子が必要となる。
【0045】
更に、本例装置は、例えば半導体ウェーハあるいはフォトマスク上の複数点を観察する際の条件(測定個所,走査電子顕微鏡の光学条件等)を予めレシピとして記憶しておき、そのレシピの内容に従って、測定や観察を行う機能を備えている。
【0046】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。即ち、以下に説明する例は画像プロセッサを備えた走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に採用可能なプログラム、或いはプログラムプロダクトとしての説明でもある。
【0047】
更に、制御系7には、半導体ウェーハ上のパターンの設計データ(CADデータと呼ぶ場合もある)を記憶し、SEMの制御に必要なデータに変換する設計データ管理部10を備えている。当該設計データ管理部10は、図示しない入力装置等によって入力された半導体パターンの設計データに基づいて、上記SEMを制御するレシピを作成する機能を備えている。また、制御系7から伝達される信号に基づいて、レシピを書き換える機能をも備えている。なお、本例の説明では設計データ管理部10が、制御系7と別体のものとして説明するが、これに限られることはなく、制御系7と設計データ管理部10が一体であっても良い。
【0048】
図2はCADデータに基づいて形成されるレシピを用いた測定方法の概略を説明したものである。まず測定すべき点に対応したCADデータとその評価点に対して、測長SEMで計測を行うためのレシピを作成する。作成したレシピを用いて測定対象であるマスク上の測定位置の画像を測長SEMにて取得する。取得された画像をCADデータと比較し、測定領域を設定し、その範囲の寸法測定,評価を行う。この図2の中では測定に至る過程で、測定位置を合わせるため、アドレッシングと呼ばれる位置合わせ、電子ビーム焦点をパターン上に合わせるためのフォーカスなどの動作が必要であるが、これは特開2006−234588号公報記載の方法を用いた。
【0049】
図3は図2の作成したレシピを用いて測定対象であるマスク上の測定位置の画像を測長SEMにて取得、取得された画像をCADデータと比較し、測定領域を設定し、その範囲の寸法測定,評価までの過程を図で示したものである。
【0050】
まず、レシピ内に設定されている座標データで基づき、測定位置へステージが移動する(31)。次にアドレッシング動作と呼ばれる画像データとの位置合わせを行う(32)。これは測定倍率より低い倍率にて測長SEMの画像を取得し、この部分に該当するCADデータと比較を行う。この動作により、CADデータと画像データの位置誤差は最大20nm程度まで低減する。次に測定倍率に近い倍率にてオートフォーカス動作を行う(33)。このオートフォーカス動作により、測定画像取得時のビームの焦点を確定させる。その後、測定対象位置の画像取得をレシピで決められている倍率にて図1で説明した偏向にて二次電子信号を画像メモリに記憶することで取得する。この取得した画像とCADデータとの画像マッチングを行う(34)。
【0051】
画像マッチングの方法は、図4に示すようにCADデータから作成されたテンプレート、測長SEMから得られた画像データのそれぞれに対してエッジ抽出を行い(41)、エッジデータに対してノイズ除去を目的とした平滑化演算処理を行った後、相関演算処理によって、画像マッチングを行い、結果、コンピュータで記憶する。
【0052】
この状態で、CADデータと画像データの相互の位置関係が決定されているので、レシピに記載の処理方法に従いEPE計測と呼ばれるCADデータ,画像データ間の位置差分計測を制御装置あるいはコンピュータで実施し、表示装置へ出力及び結果を記憶する(35)。
【0053】
以上のように、テンプレートマッチングでは、測長SEMによって取得した画像すべてと、当該部分のテンプレートの間でマッチング処理が行われる。
【0054】
しかしながら、半導体集積回路製造用フォトマスクを対象とした測長SEMでは、OPCパターンやSRAFパターン(Sub Resolution Assist Feature Patten)と呼ばれる補助パターンが多数存在している。また主パターンの評価は寸法差分、及び面積差分で行われる。
【0055】
図5で示した測定SEMで取得した画像51の例では、正方形の主パターン52とその周りに縦横方向4つの長方形補助パターン53がある。この画像の例を図3,図4で示した方法でCADデータ61とマッチングしたところ、左側の補助パターンの不出来によって、全体がシフトした(図6)。その距離は10nmもあるため、±2nmが寸法精度仕様のマスクでは、CADデータと実際に出来上がったフォトマスクパターンを比較する上で問題となった。
【0056】
そこで、本例ではオートフォーカスが完了後、主パターンのみでマッチングを行った(図7)。その結果、主パターン部分の位置ずれが解消され測長SEM取得画像とCADデータの差分測定を行うことが出来た。
【0057】
CADデータ上のマッチングの対象領域には、本来、主パターン,補助パターンの両方が含まれるが、敢えて一方のパターンのみを選択的に適用、或いは他方のパターンを対象領域から除外する如き処理を行い、主パターンをテンプレートとして登録する。すなわち、本例では主パターンと、補助パターンを別扱いするようにした。この別扱いでは、CADデータ上にて主パターンに補助パターンとは別な記号やフラグを付けることで実現できる。また、主パターンのみでマッチングするのか、該当画像データ全体でマッチングするかはレシピ作成時にマッチング対象図形を選択することで決定できる。
【0058】
このマッチングで使用する主パターンと補助パターンの区別は画像表示装置上でも容易に示すことが可能である。すなわち、図7の主パターンの周りのマッチングで使用したCADデータ71を実線で、マッチングに使用しなかった補助パターンのCADデータ72を点線で示すことで、画面上で装置使用者がどのパターンでマッチングを実施したか容易に認識可能である。本実施例では、実線と点線で区別したが、色分けで区別するも容易に考えられる。
【0059】
図6の例示によれば、測長SEMで取得した画像のうち一部でマッチングを行うことを説明したが、この方式だけでなく、マッチングを2段階で行うことも可能である。すなわち、図8のフローチャートに例示するように、図4で示した測長SEM取得画像でCADデータとのマッチングを行った後、再度主パターンのみでマッチングを行っても良い。
【0060】
このようにマッチングを2段階とすることで、アドレッシング時の位置誤差<20nm⇒図4の画像全体でのマッチング時の位置誤差<10nm⇒主パターンのみでのマッチング時の位置誤差<2nmと徐々に誤差を小さくしながら評価が可能となるので、最終評価での主パターンでの相関演算の範囲が規定できる。その結果、相関演算への精度が向上し、測定結果に対する信頼性を向上させることができる。
【0061】
また、上述するような複数段階でのマッチングでは、比較的早い段階でのマッチング(例えば第1段階)では、形状のユニークさを優先したパターンの選択を行い、比較的後半の段階でのマッチング(例えば第2段階)では、形状が安定しているパターンの選択を行うことが望ましい。テンプレートマッチングにおいては、そのテンプレートに含まれるパターンについて特徴的な形状が求められる。これは、パターンが簡易な形状である場合、同等の形状をなすパターンとの識別が困難となり、マッチングに失敗してしまうためである。例えば図5に例示される主パターン52は、単なる四角形状であり、もし近隣に同等のパターンが形成されている場合、近隣のパターンを誤ってマッチング位置として認識してしまう可能性がある。このような状態を回避すべく、本例では、広範囲をサーチする際には、主パターンとSRAFパターンを複合したような複雑なパターンを採用し、サーチする範囲が定まり、精度の高いマッチングを行う際には、形状的に安定した主パターンを用いたマッチングを行っている。
【0062】
以上のような構成によれば、ユニークなパターン形状に基づくマッチングと、形状的な変化の少ないパターン形状に基づくマッチングの両立に基づくマッチングの高精度化を実現することができる。
【0063】
なお、上記の例では1段目のマッチングにて主パターン(第1のパターン)とSRAFパターン(第2のパターン)の複合パターンに基づくマッチングを行った後、当該1段目のマッチングにおいて特定された領域内において、主パターンを用いた2段目のマッチングを行う手法について説明したが、この例に限られず、ユニークな形状のパターンと、形状が安定しているパターンが異なる場合等に、上記手法の適用が可能となる。
【実施例2】
【0064】
実施例1では、測長SEMでの取得画像とCADデータのマッチング処理において、一部のパターンでマッチングを行う方法とその有効性を示したが、本実施例では、CADデータと測長SEM画像で倍率誤差が生じている場合のマッチング方法について説明する。
【0065】
CADデータはグリッドと呼ばれる格子上でパターン位置を決めるので、最小グリッド単位で正確な位置が決まる。これに対して、測長SEMで取得された画像は、フォトマスク上のパターンならば描画時の画像取得された領域内での倍率誤差、ウェーハ上パターンであれば縮小転写時の倍率誤差が現れる。
【0066】
図9はメモリ用ホールパターン92のフォトマスクの一部を測長SEMで取得した画像であり、5×5のホールパターン92が取得されている。この画像には、倍率差があり、CADデータを重ねたときの画像を図10に示す。図10は理解を容易にするため倍率誤差が誇張して表現してあるが、本質を阻害するものではない。
【0067】
図10の例で画像全体にてマッチングを行うと測長SEM取得画像の中心部では、測長SEMとCADデータの寸法差が小さく、画像の端で大きくなることは明らかである。この傾向は一つの画面から複数のパターン寸法差を評価する場合など、倍率を小さくして寸法差を評価する場合に顕著になる。本発明ではメモリセル1つのCADデータ101とその部分の画像データ毎にマッチングを行う。この結果メモリセルの画像内倍率に起因する誤差を取り除くことができ、すべてのメモリセルに対しCADデータの寸法差を比較することが可能になる。
【0068】
さらに実施例1で示した2段階のマッチングを適用することも可能である。まず、図8で示したようにまず全体でマッチングを実施し、その後、メモリセル1つのCADデータ毎に再度マッチングを行う。この結果、メモリセルの画像内での位置に起因する誤差を取り除くことができるだけでなく、画像全体でのマッチング結果と比較することで、倍率誤差をより正確に評価することが可能となる。
【0069】
図11に各ホール毎にマッチングをした後の結果を示す。25個のホールとの設計データとの位置関係が均等となったので、CADデータとの比較にて倍率誤差を考慮せずに寸法誤差が評価可能となった。
【0070】
また図12は図11と同じ評価であるが、ホールのコーナー部分を除きマッチングを行った結果を示す。マッチングを実施したのは図12で示すホールの直線部分121である。この部分のCADデータを太線で示している。このホールパターンのような角部は加工特性上丸みを帯び、その形状は一定ではない。よって、図12の太線121部分のように図形の一部を使用してマッチングを行うことで、より正確なCADデータとの位置合わせを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】走査電子顕微鏡の概略を説明する図。
【図2】設計データに基づいて生成されたレシピを用いて測定を行う処理の流れを説明する図。
【図3】CADデータとSEM画像間の比較に基づく寸法測定処理の流れを説明するフローチャート。
【図4】CADデータとSEM画像間のマッチング処理の流れを説明するフローチャート。
【図5】主パターンと補助パターンからなる複合パターンのSEM画像を示す図。
【図6】複合パターンを用いたマッチングの例を説明する図。
【図7】主パターンを選択的に用いてマッチングを行う例を説明する図。
【図8】主パターンによるマッチング処理の流れを説明するフローチャート。
【図9】ホールパターンのフォトマスクの一部について取得したSEM画像を説明する図。
【図10】CADデータとフォトマスクの一部について取得したSEM画像間でマッチングを行う例を説明する図。
【図11】CADデータについて、パターンごとにマッチングを行う例を説明する図。
【図12】ホールパターンの直線部を選択的にマッチングに適用した例を説明する図。
【符号の説明】
【0072】
1 電子源(電子銃)
2 電子ビーム
3 電子レンズ
4 試料
5 二次電子
6 二次電子検出系
7 制御系
8 X−Y−Zステージ
9 画像表示装置
10 設計データ管理部
31 測定位置へのステージ移動
32 アドレッシング動作
33 オートフォーカス動作
34 画像マッチング
35 CADデータとの寸法比較
41 測長SEMで取得したSEM画像
42 エッジ抽出
43 平滑化
44 マッチング処理
51 測長SEMで取得したSEM画像
52 主パターンの測長SEM画像
53 補助パターンの測長SEM画像
61 CADデータの表示
71 CADデータの主パターン
72 CADデータの補助パターン
81 画像全体でのマッチング処理
82 主パターンでのマッチング処理
91 測長SEMで取得したSEM画像
92 ホールパターン
101 CADデータの表示
121 マッチングに使用するCADパターンデータ表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置によって得られた画像と、予め登録されたテンプレートとの間でパターンマッチングを行うパターンマッチング方法において、
前記テンプレートには、前記画像内に含まれる複数のパターンの内、一部が選択的に設定されていると共に当該テンプレートと、前記複数のパターンが含まれる画像との間でパターンマッチングを行うことを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記複数のパターンには、SRAF(Sub Resolution Assist Feature)パターンと、当該SRAFパターンによって補助される主パターンが含まれると共に、当該主パターンを前記一部のパターンとして設定することを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記複数のパターンには、OPC(Optical Proximity Correction)パターンと、当該OPCパターンによって補正されるパターンが含まれると共に、当該補正されるパターンを前記一部のパターンとして設定することを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記テンプレートは、前記画像内に含まれるパターンの設計データに基づいて形成されることを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項5】
荷電粒子線装置によって得られた画像と、予め登録されたテンプレートとの間でパターンマッチングを行う制御装置を備えたパターンマッチング装置において、
前記制御装置は、前記画像内に含まれる複数のパターンの内、一部を選択的にテンプレートとして設定すると共に当該テンプレートと、前記複数のパターンが含まれる画像との間でパターンマッチングを行うことを特徴とするパターンマッチング装置。
【請求項6】
荷電粒子線装置によって得られた画像と、予め登録されたテンプレートとの間でパターンマッチングを行うパターンマッチング方法において、
第1のパターンと第2のパターンを含む複合パターンからなるテンプレートを用いて第1のパターンマッチングを行い、当該第1のパターンマッチング後、前記第1のパターンからなるテンプレートを用いて第2のパターンマッチングを行うことを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記第2のパターンは、SRAF(Sub Resolution Assist Feature)パターンであって、前記第1のパターンは当該SRAFパターンによって補助される主パターンであることを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項8】
請求項1において、
前記複数のパターンには、OPC(Optical Proximity Correction)パターンと、当該OPCパターンによって補正されるパターンが含まれると共に、当該補正されるパターンを前記一部のパターンとして設定することを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項9】
請求項1において、
前記テンプレートは、前記画像内に含まれるパターンの設計データに基づいて形成されることを特徴とするパターンマッチング方法。
【請求項10】
荷電粒子線装置によって得られた画像と、予め登録されたテンプレートとの間でパターンマッチングを行う制御装置を備えたパターンマッチング装置において、
前記制御装置は、第1のパターンと第2のパターンを含む複合パターンからなるテンプレートを用いて第1のパターンマッチングを行い、当該第1のパターンマッチング後、前記第1のパターンからなるテンプレートを用いて第2のパターンマッチングを行うことを特徴とするパターンマッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−222609(P2009−222609A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68656(P2008−68656)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】