説明

パターン認識方法、それに用いられる教示データ生成方法およびパターン認識装置

【課題】欠陥データを生成して不足分を補い認識率を高めるパターン認識方法と、それに用いる教示データの生成方法を提供する。
【解決手段】教示ファイルに格納されている多数の教示データに基づいて学習し、パターン認識して欠陥判定をする外観検査装置であって、一のデータを変形して新たな教示データを生成する教示データ生成装置40を備えており、教示ファイル35中の多数の教示データのうち、データ数の少ない特定の教示データについては、その特定の教示データを変形して新たな教示データを生成し、その生成された教示データを前記教示ファイルに補充して欠陥認識させる。生成すべき教示データが画像データであるときは、画像の拡大、縮小、回転を含むアフィン変換と、明るさ、コントラスト、エッジ強度を含む属性変換を行うことにより、新たな教示データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン認識方法、それに用いられる教示データ生成方法およびパターン認識装置に関する。さらに詳しくは、カメラを用いて印刷物や無地面(紙、フィルム、金属など)の対象物を撮像し、パターン認識やパターン分類をすることにより、製品や部品の外観欠陥の検査や類別を行う装置に広く適用されるパターン認識方法、それに用いられる教示データ生成方法およびパターン認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、印刷欠陥等の検査は、かつては人の手により行われていたが、パターン認識を応用した外観検査装置が導入され効果を上げてきている。しかし、検査装置の多くは対象の良否の判定を行うのみで、そのままでは不良の発生を抑えたり修正したりするためには役立たない。そこで、印刷欠陥をパターン認識したうえで、欠陥の種類を分別し、さらに発生原因を推定して、その結果を早期にフィードバックすることのできる検査装置の開発が求められている。
【0003】
ところで、印刷物の欠陥検査の場合、図13に示すような「穴」、「しみ」、「凸」、「すじ」などの印刷欠陥は多くの場合、同一種であっても形状や大きさなど特徴量の変動が大きいので、このような欠陥の認識システムの開発は、画像処理専門家の多大な労力を要する作業となっている。
そこで、外観検査システムは、非専門家でも簡単に操作でき、実例を示しながら自動的にシステム構成を行う学習型システムに対する期待が大きくなっている。
【0004】
特許文献1の技術は、上記に応えるものであり、印刷欠陥の種別ごとの特徴を言語または図形記号のようなメディアを用いて欠陥記述として指示し、この支持された欠陥記述をメンバシップ関数でファジー処理し、このファジー処理を行うファジー推論部の出力を、前記ファジー推論部を入力層とする階層形ニューラルネットワークに入力して、このネットワークにより前記検出により得た欠陥の種別を判定するようにしている。このように、あらかじめ画像の特徴ごとに記述用のクラス名を登録しておくことで、新しい欠陥の登録を感覚的な言葉で記述でき、またその記述を元に、ネットワークの構造を設計し、設計どおりのネットワークを構成するための教示もすることができる。その結果、数種類の欠陥について、高い認識率を得ることができた。
【0005】
しかし、上記従来技術は欠陥の発生頻度が高い印刷欠陥については、十分な認識率を示すが、発生頻度が低い印刷欠陥については、他の欠陥と比べてデータ数が少なくなるため、教示が十分に行えずにその欠陥の認識率が低下するという問題が指摘されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−333170号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、発生頻度の低い等の理由によりデータ数が少ない場合であっても高い認識率を達成できるパターン認識方法、それに用いられる教示データ生成方法およびパターン認識装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のパターン認識方法は、教示ファイルに格納されている多数の教示データに基づいて学習し、パターン認識をするパターン認識方法であって、前記教示ファイル中の多数の教示データのうち、データ数の少ない特定の教示データについては、その特定の教示データを変形して生成した新たな教示データを補充してパターン認識させることを特徴とする。
第2発明のパターン認識方法は、第1発明において、前記パターン認識方法が、パターン分類を行うものであって、その分類クラス毎の教示データ数に偏りがある場合に、データ数の少ない教示データを変形して、新たな教示データを生成することを特徴とする。
第3発明の教示データ生成方法は、生成すべき教示データが画像データであるとき、画像の拡大、縮小、回転を含むアフィン変換と、明るさ、コントラスト、エッジ強度を含む属性変換を行うことにより、新たな教示データを生成することを特徴とする。
第4発明のパターン認識装置は、教示ファイルに格納されている多数の教示データに基づいて学習し、パターン認識をするパターン認識装置であって、一のデータを変形して新たな教示データを生成する教示データ生成装置を備えており、前記教示ファイル中の多数の教示データのうち、データ数の少ない特定の教示データについては、前記教示データ生成装置により、前記特定の教示データを変形して新たな教示データを生成し、その生成された教示データを前記教示ファイルに補充してパターン認識させることを特徴とする。
第5発明のパターン認識装置は、第4発明において、前記教示データ生成装置が、前記パターン認識装置に内蔵されていることを特徴とする。
第6発明のパターン認識装置は、第5発明において、前記教示データ生成装置が、前記パターン認識装置とは独立して存在して、ネットワークで接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、データ数が少ないものには、それを変形した教示データを補充してデータ数を増やせるので、パターン認識に際し、高い認識率を達成できる。
また、新たな教示データの生成には、アフィン変換と属性変換により、適正なパターンの変形データが得られるので、変形データの生成が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の特徴は、パターン認識の実施に適用される教示データの生成技術にあり、その生成技術は印刷欠陥等の外観検査や紙、フィルム、金属などの無地面の欠陥の検出に用いられるパターン認識装置に適用される。本明細書でいうパターン認識は、広く上記の検査に利用される認識技術をいう。つぎに本発明を説明する前に適用対象である印刷欠陥の外観検査装置を説明しておく。
図1は本発明が適用されるパターン認識装置の一種である外観検査装置のブロック図である。図1における印刷物mはローラからローラに巻取られるようになっており、検査対象となる同一の印刷パターンが複数個、印刷物mの長手方向(流れ方向)に沿って一定の間隔で配置されて印刷されている。外観検査装置は、この印刷物m上の印刷欠陥を検出して判定するもので、カメラCと認識装置Aとから構成されている。
カメラCは、印刷物mの例えば上方に設置されている。このカメラCは、複数の光電変換素子、例えばCCD(charge coupled device)素子を1列(ライン状)に整列して構成した撮像手段であり、撮像信号Sを認識装置Aへ出力するようになっている。
本発明において重要な教示データ生成装置40は前記認識装置Aに接続されたり、組込まれたりするのであるが、その詳細は後述する。
【0011】
前記認識装置Aは、処理部10と判定部30とを備えている。
前記処理部10は、カメラCから出力される信号(撮像信号S)を処理して印刷物mの各印刷パターンに含まれる欠陥を抽出するとともに、その処理結果に基づいて抽出された欠陥を表示器20に表示させる。
また、判定部30は処理部10に接続されており、処理部10での処理結果を元に欠陥の種別を判定する。この判定部30にはパーソナルコンピュータ等により構成された、教示データ生成装置40が接続されているが、この教示データ生成装置40は入力手段も兼ねるものであって、判定部30に対する初期教示の操作等各種の操作が行われるようになっている。なお、41はモニタである。
【0012】
図2に基づき、処理部10の具体的構成を説明する。
処理部10は、A/D変換器11と、1周期分画像メモリ12と、比較回路13と、相違部検出回路14とを備えている。前記カメラCから出力される撮像信号SはA/D変換器11に入力され、カメラCの各画素毎の(多値の)ディジタルデータに変換され、このデータは1周期分画像メモリ12と比較回路13とにそれぞれ出力される。
【0013】
1周期分画像メモリ12は、前記印刷パターンの1周期分に相当するカメラCからの出力データ(画像データ)を記憶する。このメモリ12に記憶された画像は標準画像A(図3参照)である。この標準画像Aには、予め準備され登録された欠陥がない印刷パターンについての正常な画像が用いられる。なお、同一印刷パターンが続く場合に、その印刷パターンを用いてもよい。
【0014】
比較回路13は、リアルの撮像画像B(図3参照)として入力されるカメラCからの画像データに対応するアドレスの画像データを、1周期分画像メモリ12に記憶された1周期前の標準画像Aのデータの中から読み出して重ね合わせて比較するものであり、相違部検出回路14は比較回路13からの出力を受けて標準画像Aと撮像画像Bとの間の相違部を検出し、その相違部を解析するようになっている。
つまり、図3に示すように処理部10は、標準画像Aと撮像画像Bとを重ね合わせて比較し、両画像A,B間の相違部を抽出し、検出された相違部のうち欠陥についての画像部分のみを判定部30に出力する。
【0015】
図2に示すように判定部30は、特徴値抽出回路31と、複数のファジー回路32と、ニューラルネットワーク33と、初期設定回路34と、教示用ファイル35とを備えている。
【0016】
前記特徴値抽出回路31は、処理部10で抽出されて特徴値抽出回路31に入力される欠陥画像を2値画像化して、この欠陥画像を数値的に評価するための特徴値を計算により求める回路である。
欠陥の特徴値としては、その面積(大きさ)、円形度、直線度、矩形度、明るさ、コントラスト、エッジ強度等である。
大きさ特徴値は、欠陥の総画素数により求め、円形度特徴値は、前記面積と欠陥の周囲長との比により求め、直線度特徴値は欠陥の長軸長と短軸長との比により求め、矩形度特徴値は、欠陥の長軸長と短軸長の積で表される欠陥に外接するボックス面積と前記欠陥の面積との比により求められる。また、明るさ特徴値は欠陥の重心位置の明るさを求め、コントラスト特徴値およびエッジ強度特徴値は、いずれも周囲との関係を認識するために求められる。
【0017】
前記特徴値抽出回路31は、特徴値の種類に応じた数の出力端を有し、これら出力端にはそれぞれ別々にファジー回路32が接続されている。これらファジー回路32は、ニューラルネットワーク33の入力層をなし、内部関数としてファジー推論のメンバーシップ関数を持つとともに、特徴値が入力されると、それに対応するクラス値(所属度値)を出力する。例えば、欠陥の面積特徴値で代表して(以下同じ)説明すれば、面積は「大きい」、「やや大きい」、「中くらい」、「やや小さい」、「小さい」等の5段階のクラス(クラス1〜クラス3、…クラスn)の所属度に分けられ、特徴値抽出回路31から入力された面積特徴値が前記5段階のどのクラスに当たるのかを判定し、それをニューラルネットワーク33に出力する。
【0018】
前記ニュ−ラルネットワーク33は2段構成となっている。すなわち、2段ニューラルネットワーク(以下2段NNと略す)は、1段目に欠陥の種類を分類するFNNがあり、ここで欠陥の種類を分類する。2段目には1段目のFNNの出力層ユニット数と同じ数だけの(以下、NNと略す)があり、1段目の分類結果に対応したNNのみが動作する。ここではそれぞれ欠陥の大きさ等のレベルを分類する。NNの入力値は1段目、2段目ともに同じものが使用されている。なお、この構成は一例であり、1段目も2段目もNNで構成するなど、任意の構成をとってよい。
【0019】
2段NNの処理の流れを図4に基づき説明する。最初に欠陥画像に対してフィルタ処理を行い特徴値を抽出する。その特徴値を1段目のFNNに入力し(101)、動作させる。これにより欠陥の種類が分類される(102)。次に、1段目で分類された欠陥の種類に対応したレベル分類NNを起動して、欠陥のレベルを分類する(103)。例えば、1段目のFNNが、ある欠陥画像を「しみ」欠陥と分類した場合は、2段目の「しみ」欠陥レベル分類NNを起動する(103)。この結果、欠陥種類とその欠陥のレベルが分類されることになる(104)。
【0020】
上記のニュ−ラルネットワーク33の詳細を説明する。
(1段目FNNの概要)
(1)FNNの構成
FNNは、三層構造のパーセプトロン型NNの前段にファジー推論部を持った構造である。なお、入力値には欠陥画像からフィルタ処理によって抽出された「面積」、「明るさ」、「円形度」などの特徴値を用いる。
(2)ファジー推論部の働き
人間が用いる「大きい」、「小さい」などの感覚的な表現には、数値的な厳密さがないので、これをファジー推論の応用により「大きい」、「小さい」などの言葉に置き換える。
ファジー推論部はNNの入力層に直結しており、メンバーシップ関数により特徴表現へのクラス値に変換する。この関数は予め設定された各特徴記述間の境界値をもとに生成する。
(3)中間層ユニット
FNNでは、中間層のユニット数は欠陥の特徴表現の数により決定する。また、全体をバックプロパゲーション法で教示する前に、初期教示により中間層の教示を行い、中間層のユニット構成の方向を指定する。初期教示とは、中間層にも教示データを与えて入力層から中間層、中間層から出力層の教示を行うことを指す。
(4)出力層ユニット
出力層のユニット数は欠陥の種類数に対応する。ここで判断された欠陥の種類に応じて、その欠陥専用のレベル分類NNを起動する。
【0021】
(2段目レベル分類NNの概要)
(1)レベル分類NNの構成
2段目レベル分類NNは、入力、中間、出力層の3層構造である。最初に1段目の分類結果に対応する2段目レベル分類NNを1つだけ起動する。起動した欠陥レベル分類NNは、1段目で使用した入力データと同じデータを受け取り、欠陥のレベルが分類される。
2段目にFNNを使用しない理由は、2段目のレベル分類NNは、1種類の欠陥中のレベルを分類しなければならないため、正確な値が必要になることに起因する。
(2)レベル分類NNの入力層の動作
各欠陥のレベル分類NNの入力値には、1段目FNNで用いた入力値と同じ値を用いる。よって入力層のユニット数は、入力値の数と同じとなる。しかし、各入力値のとる範囲は異なるためそのまま入力できない。そのため、ここでは各入力値のとる最大値で割ることによって入力値が0から1の範囲となるように正規化を行う。
(3)レベル分類NNの出力層の動作
出力層のユニット数は、レベル分類対象となる欠陥の最大レベル数と同じとなる。ここで分類した結果が、2段NNの分類結果となる。
【0022】
以上のように、判定部30は、ファジー推論部とニューラルネットワークとを組合わせてなるファジーニューラルネットワークであり、このネットワークは三層の階層形ニューラルネットワークとなっている。この階層形ニューラルネットワークにおいて、その入力層はファジー推論部としての各ファジー回路32で形成され、中間層は欠陥の欠陥記述に対応する各ネットワーク前段回路で形成され、出力層は欠陥の種別に対応した出力をするネットワーク後段回路で形成されている。
【0023】
図2に示すように、ニュ−ラルネットワーク33の後段回路は前記欠陥の特徴値にそれぞれ対応した数の出力端42a,42b,42c…42nを有しており、これらから各欠陥についてのクラスの所属度を表す数値が出力される。こうして各出力端は42a,42b,42c…42nから出力される数値は0〜1.0であるから、その出力値が1.0に近いほど、実際にその欠陥種別である可能性が高いものと判断できる。そして、例えば出力端42aはインク跳ねによる欠陥に、出力端42bはドクター傷による欠陥に、出力端42cは掠れによる欠陥に、出力端42dは虫の混入による欠陥に、出力端42eは虫以外のごみの混入による欠陥に、出力端42fは汚れによる欠陥等にそれぞれ振り当てられている。
【0024】
以上のように判定部30が構成されているから、ネットワーク前段回路、後段回路の各ウェイト付け回路のウェイト値を初期教示により学習させておけば、期待通りの欠陥判定を行えるはずである。
なお、既述のように選択された特徴の種別やそのクラスの数は、判定部30の構成に対応付けられているが、その対応付けは学習により行う必要がある。また、この学習は、初期教示と稼働中教示(ニューラルネットワークにて通常行われているバックプロパゲーション法)の2段階に分けて実行されるが、前記「対応付け」は初期教示の過程で行われる。
【0025】
初期教示においては、対応する特徴のみに反応するように中間層のユニットに対し、欠陥についての欠陥記述を教示し、同時に中間層に教示信号どおりの出力を設定して、出力層のユニットに対して判定結果を教示する。
上記の初期教示と稼働中教示は図2および図3に示す教示用ファイル35に蓄えられた欠陥画像を用いて行われる。この教示用ファイルに蓄えられた欠陥画像が、頻度の多い欠陥についても頻度の少ない欠陥についても充分な数だけあれば高い欠陥認識率を達成できるのであるが、頻度の少ない欠陥については欠陥画像が少ないので、欠陥認識率も低下することは既述のとおりである。
【0026】
そこで、発生頻度の低い欠陥の認識率を高めるため、その欠陥のデータ数を増やすのであるが、その方法が本発明であって、発生頻度の低い欠陥の特徴記述から欠陥データを生成することを特徴とする。
【0027】
つぎに、本発明における教示データの生成方法を説明する。
図5に示すように、最初に生成元となる欠陥画像を複数個選択する(201)。もちろん、選択される欠陥画像は発生頻度の低い欠陥の画像である。そして、次に、その欠陥の特徴を記述する(202)。次にその記述内容から欠陥生成を行う(203)。最後に生成した欠陥画像を人に提示して正しい欠陥画像を選ぶ(204)、という手順で行う。
【0028】
以下では、印刷欠陥のうち「すじ」欠陥が、実際には発生頻度が低かったので、このすじ欠陥について、教示データ生成方法を、図6および図7に基づき説明する。
(欠陥特徴記述ステップ202)
記述に用いる特徴としては、「明るさ」「エッジ」「長さ」「幅」「面積」「方向」の6種類を用いる。例えば、図6の符号Xで示す元画像を、教示データ生成装置40によって、符号Zで示す画面のように、「明るさは暗い、エッジは鮮明、長さはやや短い、幅は広い、方向は不定」と記述して欠陥生成を行う。
(欠陥生成ステップ203)
このように記述して行くと、図6の符号Yに示すように生成画像が生成される。生成された欠陥画像に基づいて変形処理を行うと、例えば図7に示すように、不足分を大幅に補った多くの画像データとなる。
【0029】
ここで、前記特徴記述ステップ202と欠陥生成ステップ203の詳細を説明する。
(1)明るさ処理
明るさ処理は、つぎの式で表される。
g(x,y)=Th+s(f(x,y)−Th)・・・(1)
ここで、fは入力画像の輝度値、gは出力画像の輝度値で、Thは入力画像の周囲5pixelの輝度の平均値である。sは「非常に明るい」「暗い」等の記述内容によって取る値の範囲が決まっており、その範囲内からランダムに選ばれる。
(2)エッジ処理
エッジ処理は強調する場合とぼかす場合とで処理が異なる。
強調する場合の処理は、まず注目画素とその周囲の9点より最大の値を抜き出した画像と最小を抜き出した画像を作成する。これらをそれぞれfmax,fminとする。この2つの画像と元画像を比較してつぎの処理を行う。
max(x,y)−f(x,y)>f(x,y)−fmin(x,y)のとき
g(x,y)=f(x,y)−s(f(x,y)−fmin(x,y))・・・(2)
max(x,y)−f(x,y)≦f(x,y)−fmin(x,y)のとき
g(x,y)=f(x,y)+s(fmax(x,y)−f(x,y))・・・(3)
ぼかす場合はつぎの式を用いる。
【数1】

【数2】

(3)長さ・幅・面積・方向処理
長さ・幅処理は画像の縦と横に対してアフィン変換を用いた拡大縮小処理を行えばよい。ただし、このとき欠陥の面積が記述で指定された範囲を越えないようにする。方向処理も同様にアフィン変換を用いて回転処理を行えばよい。
【0030】
本発明の教示データ生成方法において、図5に示すステップ201〜203で不足教示データが完成すれば、それでよく、もしコンピュータ処理のみでは非現実的な欠陥データが生ずるときは、人為的に不適格な欠陥データを除くステップ(204)を入れればよい。
このようにして完成した不足分の欠陥データDを図3に示す教示用のファイル35に蓄積してやれば、以後は発生頻度の低い欠陥に対しても充分多くの欠陥パターンに基づく教示内容によって、後述するごとく、欠陥の種類とレベルを高精度で認識することができるようになる。
【0031】
上記の教示データを生成するための教示データ生成装置40としては、欠陥の元画像となる画像データを取込んで、特徴記述に基づき、明るさ処理やエッジ処理、長さ・幅・面積・方向処理を行う機能を有していれば足りる。
また、この教示データ生成装置40は、図2に示すように外観検査装置に組込んだものでもよいが、独立した装置として構成し、別に設けてある外観検査装置に接続してデータ送信してもよい。
【0032】
つぎに、本発明により教示データを補充した場合の有効性を、実験データにより説明する。
(1)実験方法
入力および教示データとして、実際に製造ラインで欠陥分類を行って得られたデータを用いた。使用したデータの欠陥種類数は28種類(凸欠陥5レベル、穴欠陥5レベル、ムラ欠陥4レベル、凹欠陥5レベル、凹欠陥(黒)、すじ欠陥5レベル、汚れ欠陥3レベル)である。しかし、すじ欠陥だけは全データ中にすじ欠陥レベル3の1つしか存在しなかったため使用可能な欠陥の種類は24種類であった。そして、その中から欠陥のデータ数が250個以上ある場合は50個、5個以上の場合は、データ数の5分の1個、5個未満のときは1個を抜き出して教示データを作成した。そして、抜き出したデータが50個未満のものに対して、欠陥生成を行い50個にした。その結果、教示データは欠陥生成を行った場合は7種類1200個、生成を行わない場合は7種類652個のデータとなった。教示データの詳細を図12の表5に示す。
教示回数は、1段目のFNNは、初期教示500回、バックプロパゲーション5000回を実行した。2段目のNNは、ネットワークごとにバックプロパゲーションを5000回実行した。その後、学習させたNNを教示データ、全データに対して動作させ、元の人間が分類した結果と一致しているか否かを調べた。
NNの中間層のユニット数は、入力層のユニット数と同じとする。また、FNNの入力の分割数は4とし、ファジー関数に用いる値は、入力の最大値/5×n(n=1〜4)とした。
比較のため、以下の4つのNN構成について認識率を調べた。
構成1:2段NN・欠陥生成を行う
構成2:2段NN・欠陥生成を行わない
構成3:FNN一段のみ・欠陥生成を行う
構成4:FNN一段のみ・欠陥生成を行わない
なお、欠陥レベルはその種類によっては人間でもレベルを特定することが困難な場合もあることを考え、レベルが±1ずれた場合も正解とみなした場合のデータを示すことにした。
(2)結果
構成1から4の実験結果をそれぞれ図8〜図11の表1から表4までに示す。
(3)考察
欠陥生成を行った構成(表1,表3)と欠陥生成を行っていない構成(表2,表4)の実験結果を比較すると、欠陥生成を行った場合はデータ全体の認識率は低下している(表2中の97.38%から表1中の97.2%へ低下、表4中の78.93%から表3中の77.48%へ低下)が、各欠陥ごとの認識率の平均は向上している(表2中の72.38%から表1中の88.21%へ向上、表4中の58.36%から表3中の71.95%へ向上)ことがわかる。データ全体に対する認識率が低下した原因については、データ数の少ない欠陥の認識率は向上したが、データ数の多い欠陥の認識率が低下してしまったためと考えられる。平均認識率が向上した原因は、データ数の少ない欠陥の認識向上率がデータ数の多い欠陥の認識低下率より大きかったためと考えられる。また今回使用したデータ中では1つしかなかったすじ欠陥を欠陥生成ありの場合は認識できて、欠陥生成なしの場合では認識できていない。実際の製造ラインでは致命的な欠陥ほど発生頻度は低いと考えられるため、発生頻度が低い欠陥の認識率が向上する欠陥生成は有効であると考えられる。
次にFNNと欠陥生成を組み合わせた場合(表3)と、2段NNと欠陥生成を組み合わせた場合(表1)のデータ全体に対する認識率と平均認識率を比較すると、FNNは欠陥生成を行うとデータ全体に対する認識率が約1.5%低下している(表4中の78.93%から表3中の77.48%へ低下)のに対し、2段NNは約0.4%しか低下していない(表2中の97.38%から表1中の97.02%へ低下)。またFNNは欠陥生成を行うと平均認識率が約14%向上している(表4中の58.36%から表3中の71.95%へ向上)のに対し、2段NNは約16%向上している(表2中の72.38%から表1中の88.21%へ向上)。このことから2段NNと欠陥生成を組み合わせるとデータ全体に対する認識率の低下を抑え、欠陥ごとの認識率の平均を大きく向上させることができると考えられる。
なお、表2および表4の実験結果より2段NNのデータ全体に対する認識率は約97%(表2参照)、一方FNNの認識率は約79%(表4参照)となっている。このことから2段NNはFNNよりも高い認識率を示すことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、カメラを用いて対象物を撮像し、パターン認識を行う装置、方法であれば、その使用目的や用途を問わず、例えば、製品や部品の外観欠陥の検査や類別を行う装置に広く適用可能である。したがって、印刷物の外観検査や紙、フィルム、金属などの無地面の検査などに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る教示データ生成装置が適用される外観検査装置Aのブロック図である。
【図2】図1における外観検査装置Aの処理部10と判定部30のブロック図である。
【図3】図2における処理部10と判定部30の機能説明図である。
【図4】図2におけるニューラルネットワーク33の処理フロー説明図である。
【図5】本発明における教示データ生成方法のフローチャートである。
【図6】教示データ生成方法における欠陥特徴記述ステップの説明図である。
【図7】教示データ生成方法における欠陥生成ステップの説明図である。
【図8】教示データ補充後の認識率を示す表であり、2段NN・教示データ生成ありの場合の表である。
【図9】教示データ補充後の認識率を示す表であり、2段NN・教示データ生成なしの場合の表である。
【図10】教示データ補充後の認識率を示す表であり、FNN一段のみ・教示データ生成ありの場合の表である。
【図11】教示データ補充後の認識率を示す表であり、FNN一段のみ・教示データ生成なしの場合の表である。
【図12】全教示データを示す表である。
【図13】印刷欠陥を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
C カメラ
10 処理部
30 判定部
31 特徴値抽出回路
32 ファジー回路
33 ニューラルネットワーク
35 教示用ファイル
40 教示データ生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
教示ファイルに格納されている多数の教示データに基づいて学習し、パターン認識をするパターン認識方法であって、
前記教示ファイル中の多数の教示データのうち、データ数の少ない特定の教示データについては、その特定の教示データを変形して生成した新たな教示データを補充してパターン認識させる
ことを特徴とするパターン認識方法。
【請求項2】
前記パターン認識方法が、パターン分類を行うものであって、その分類クラス毎の教示データ数に偏りがある場合に、データ数の少ない教示データを変形して、新たな教示データを生成する
ことを特徴とする請求項1記載のパターン認識方法。
【請求項3】
生成すべき教示データが画像データであるとき、
画像の拡大、縮小、回転を含むアフィン変換と、
明るさ、コントラスト、エッジ強度を含む属性変換を行うことにより、
新たな教示データを生成する
ことを特徴とする教示データ生成方法。
【請求項4】
教示ファイルに格納されている多数の教示データに基づいて学習し、パターン認識をするパターン認識装置であって、
一のデータを変形して新たな教示データを生成する教示データ生成装置を備えており、
前記教示ファイル中の多数の教示データのうち、データ数の少ない特定の教示データについては、前記教示データ生成装置により、前記特定の教示データを変形して新たな教示データを生成し、その生成された教示データを前記教示ファイルに補充してパターン認識させる
ことを特徴とするパターン認識装置。
【請求項5】
前記教示データ生成装置が、前記パターン認識装置に内蔵されている
ことを特徴とする請求項4記載のパターン認識装置。
【請求項6】
前記教示データ生成装置が、前記パターン認識装置とは独立して存在して、ネットワークで接続されている
ことを特徴とする請求項4記載のパターン認識装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−48370(P2006−48370A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228392(P2004−228392)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(591114641)株式会社ヒューテック (19)
【Fターム(参考)】