パワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板
【課題】セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層との界面強度が高く信頼性に優れたパワーモジュール用基板を効率よく生産することができるパワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面のうち少なくともアルミニウム層12が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層24を形成する固着工程と、固着層24が形成されたセラミックス基板11を鋳型50内に配置し、この鋳型50内に溶融アルミニウムMを充填し、セラミックス基板11と溶融アルミニウムMとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、セラミックス基板11と接触した状態で溶融アルミニウムMを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴とする。
【解決手段】セラミックス基板11の一方の面のうち少なくともアルミニウム層12が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層24を形成する固着工程と、固着層24が形成されたセラミックス基板11を鋳型50内に配置し、この鋳型50内に溶融アルミニウムMを充填し、セラミックス基板11と溶融アルミニウムMとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、セラミックス基板11と接触した状態で溶融アルミニウムMを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1−4に示すように、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)等からなるセラミックス基板の一方の面に回路層が形成されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。ここで、特許文献1−4においては、セラミックス基板の一方の面に、溶融アルミニウムを接触させることによって、上述の回路層を形成している。
【0003】
このようなパワーモジュール用基板においては、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとして使用される。
また、例えば特許文献1に示すように、パワーモジュールから発生する熱を効率的に放散するために、セラミックス基板の他方の面側にヒートシンクを配設したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−076551号公報
【特許文献2】特開2002−329814号公報
【特許文献3】特開2005−252136号公報
【特許文献4】特開2007−092150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のパワーモジュールにおいては、使用時に熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板と回路層との界面には、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差によって熱応力が作用し、セラミックス基板と回路層との界面において剥離等が発生するおそれがあった。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のようにヒートシンク上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板がヒートシンクによって拘束されるために、熱サイクル負荷時に、回路層とセラミックス基板との界面に大きなせん断力が作用することになる。よって、従来にもまして、セラミックス基板と回路層との界面強度を向上させる必要があった。
【0006】
ところで、特許文献1−4に記載されたように、セラミックス基板の表面に溶融アルミニウムを直接接触させることで回路層を形成する場合には、回路層とセラミックス基板との界面での剥離を防止するために、溶融アルミニウムとセラミックス基板との接触時間を十分に確保する必要があった。また、セラミックス基板が配設された鋳型内に溶融アルミニウムを充填する際の圧力を高く設定して、セラミックス基板と溶融アルミニウムとを高圧で接触させる必要があった。
このため、溶融アルミニウムの接触時間や圧力が変動した際には、セラミックス基板と回路層との界面強度が低下してしまうことになる。また、パワーモジュール用基板を効率良く生産することができないといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層との界面強度が高く信頼性に優れたパワーモジュール用基板を効率よく生産することができるパワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記セラミックス基板の一方の面のうち少なくとも前記アルミニウム層が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層が形成された前記セラミックス基板を鋳型内に配置し、この鋳型内に溶融アルミニウムを充填し、前記セラミックス基板と前記溶融アルミニウムとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、 前記セラミックス基板と接触した状態で前記溶融アルミニウムを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、セラミックス基板の一方の面のうち少なくともアルミニウム層が形成される領域にCuを含有する固着層が形成され、このセラミックス基板に対して溶融アルミニウムを接触させる構成としているので、セラミックス基板のうち固着層が形成された領域においては、溶融アルミニウムとの反応性が高くなり、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応が促進されることになる。このため、溶融アルミニウムとセラミックス基板との接触時間を短くしたり、溶融アルミニウムの充填圧力を低くしたりしても、セラミックス基板とアルミニウム層との界面強度を向上させることができ、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板を製出することが可能となる。
【0010】
ここで、前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2未満の場合には、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応を促進させる効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。また、前記固着工程におけるCuの固着量が20mg/cm2を超える場合には、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、CuとAlの反応物が過剰に生成してしまい、界面強度が低下するおそれがある。したがって、前記固着工程におけるCuの固着量を0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。
【0011】
また、前記固着工程では、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させる構成とされていてもよい。
Cu、及び、Ag,Mg,Ca,Niといった元素は、アルミニウムとの反応性が高い元素であることから、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に介在することによって界面強度を向上させることが可能となる。なお、Mg,Caといった活性な元素を固着する場合には、Alとともに固着させることにより、酸化ロスを抑えることができる。
【0012】
ここで、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が0.1mg/cm2未満の場合には、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応を促進させる効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。また、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が20mg/cm2を超える場合には、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、Cu及び添加元素とAlとの反応物が過剰に生成してしまい、界面強度が低下するおそれがある。したがって、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計を0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。
【0013】
前記固着工程においては、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって、Cuを固着させることが好ましい。
この場合、セラミックス基板の一方の面に、確実にCuを固着することが可能となる。また、Cuの固着量を精度良く調整することができる。
【0014】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を形成する構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層が形成され、かつ、セラミックス基板の他方の面に第2アルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板が製出されることになる。なお、第2アルミニウム層については、アルミニウム層と同様に、溶融アルミニウムをセラミックス基板の他方の面に接触させることで形成してもよいし、アルミニウム板をろう付け等で接合してもよい。
【0015】
本発明のパワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板であって、前記アルミニウム層において、前記セラミックス基板との界面から50μmの位置におけるCu濃度と、前記セラミックス基板との界面から100μmの位置におけるCu濃度との濃度差が0.1質量%以下とされており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面には、Cu濃度が前記アルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されていることを特徴としている。
【0016】
この構成のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、Cu濃度がアルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されているので、界面近傍に存在するCu原子により、セラミックス基板とアルミニウム層との界面強度の向上を図ることが可能となる。
なお、アルミニウム層中のCu濃度とは、アルミニウム層のうち接合界面から一定距離(例えば、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0017】
ここで、前記セラミックス基板がAlNで構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることが好ましい。
また、前記セラミックス基板がSi3N4で構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることが好ましい。
さらに、前記セラミックス基板がAl2O3で構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされていることが好ましい。
【0018】
セラミックス基板のアルミニウム層との界面に存在するCu原子の質量比が10質量%を超えると、AlとCuとの反応物が過剰に生成されることになり、この反応物が接合を阻害するおそれがある。一方、Cu原子の質量比が1質量%未満であると、Cu原子による界面強度の向上を充分に図ることができなくなるおそれがある。よって、セラミックス基板とアルミニウム層との界面におけるCu原子の質量比は、1〜10質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
ここで、エネルギー分散型X線分析法による分析を行う際のスポット径は極めて小さいため、前記界面の複数点(例えば、10〜100点)で測定し、その平均値を算出することになる。また、測定する際には、アルミニウム層の結晶粒界とセラミックス基板との界面は測定対象とせず、アルミニウム層の結晶粒とセラミックス基板との界面のみを測定対象とする。
なお、本明細書中におけるエネルギー分散型X線分析法による分析値は、日本電子製の電子顕微鏡JEM−2010Fに搭載したサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置NORAN System7を用いて加速電圧200kVで行った。
【0020】
また、本発明のパワーモジュール用基板においては、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を有する構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層が形成され、かつ、セラミックス基板の他方の面に第2アルミニウム層が形成されており、セラミックス基板の反りの発生が抑制される。また、例えば、アルミニウム層を回路層として半導体素子を配設し、第2アルミニウム層側にヒートシンクを配設することで、ヒートシンクを備えたパワーモジュールを構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層との界面強度が高く信頼性に優れたパワーモジュール用基板を効率よく生産することができるパワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層とセラミック基板との界面の模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層とセラミック基板との界面の模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層のCu濃度分布及びMg濃度分布を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図12】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層とセラミックス基板との界面の模式図である。
【図13】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図14】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の金属層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図15】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図16】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法の説明図である。
【図17】図16におけるセラミックス基板と金属層との接合界面を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0024】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層12及び金属層13は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0026】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42とを備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0027】
そして、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図2に示すように、界面30に、Cuが濃縮したCu高濃度部32が形成されている。このCu高濃度部32においては、Cu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面30におけるCu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部32の厚さHは4nm以下とされている。
【0028】
なお、ここで観察する界面30は、図2に示すように、回路層12及び金属層13の格子像の界面側端部とセラミックス基板11の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層12及び金属層13中のCu濃度とは、回路層12及び金属層13のうち界面30から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0029】
また、この界面30をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、界面30を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層12及び金属層13の結晶粒界とセラミックス基板11との界面30は測定対象とせず、回路層12及び金属層13の結晶粒とセラミックス基板11との界面30のみを測定対象としている。
【0030】
また、回路層12及び金属層13におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図3に示すように、Cuの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cuが一様に分布しており、界面30からの濃度勾配が確認されないのである。なお、回路層12及び金属層13におけるCu濃度は、セラミックス基板11の界面からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板11の界面30部分にのみCuが濃縮しているのである。
【0031】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0032】
まず、セラミックス基板11の一方の面にスパッタリングによってCuを固着して第1Cu層24を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面にスパッタリングによってCuを固着して第2Cu層25を形成する(Cu固着工程S01)。ここで、第1Cu層24及び第2Cu層25におけるCu量は、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下に設定されている。
【0033】
次に、第1Cu層24、第2Cu層25が形成されたセラミックス基板11を、鋳型50のキャビティ51内に設置する。この鋳型50を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口52から供給路53を介してキャビティ51内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S02)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。なお、鋳型50は、黒鉛で構成されており、そのキャビティ51の内面には、BN等の離型剤が塗布されている。
【0034】
次に、所定時間保持後、鋳型50を冷却し、キャビティ51内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S03)。このとき、600℃まで15分掛けて冷却する。
そして、鋳型50から取り出し、余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層12及び金属層13を形成する(仕上工程S04)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出されることになる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法及びパワーモジュール用基板10においては、Cu固着工程S01において、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、Cuを含有する第1Cu層24、第2Cu層25が形成され、溶融アルミニウム充填工程S02において、鋳型50のキャビティ51内に設置されたセラミックス基板11と溶融アルミニウムMとが接触される構成とされているので、セラミックス基板10のうち第1Cu層24、第2Cu層25が形成された領域においては、アルミニウムとの反応性が高くなり、セラミックス基板11と溶融アルミニウムMとの反応が促進されることになる。よって、溶融アルミニウムMとセラミックス基板11との接触時間を短くしたり、溶融アルミニウムMの充填圧力を低くしたりしても、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度を向上させることができ、信頼性に優れたパワーモジュール用基板10を製出することが可能となる。
【0036】
また、Cu固着工程S01におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされているので、Cuによる反応の促進の効果を確実に奏功せしめることができるとともに、CuとAlとの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度を向上させることが可能となる。
【0037】
さらに、Cu固着工程S01は、スパッタリングによって、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面にCuを固着させる構成とされているので、第1Cu層24、第2Cu層25におけるCu量を精度良く調整することができる。
また、本実施形態では、セラミックス基板11の一方の面に回路層12を、他方の面に金属層13を同時に形成する構成とされていることから、セラミックス基板11における反りの発生を防止することができる。
【0038】
また、本実施形態においては、溶融アルミニウム充填工程S02において、溶融アルミニウムMの充填温度を700〜850℃としているので、湯流れ性が確保され、キャビティ51内に溶融アルミニウムMを十分に充填させることができ、かつ、鋳型50に密着することがなく、鋳型50から容易に取り出すことができる。
【0039】
本実施形態であるパワーモジュール用基板10は、上述のように、Cu固着工程S01、溶融アルミニウム充填工程S02、凝固工程S03、仕上工程S04により、製出されたものである。ここで、セラミックス基板11に固着された第1Cu層24、第2Cu層25のCuは、溶融アルミニウムM内に容易に拡散することから、製出後のパワーモジュール用基板10では、回路層12及び金属層13において、図3に示すように、厚さ方向におけるCu濃度分布が確認されない。
【0040】
そして、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部32が形成されている。なお、Cu高濃度部32の厚さHは4nm以下とされている。このように、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30に、Cu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部32が形成されているので、界面30にCu原子が介在することにより、AlNからなるセラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0041】
また、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、セラミックス基板11の一方の面に回路層12が形成され、他方の面に金属層13が形成されており、金属層13の他方の面側にヒートシンク40が配設されているので、ヒートシンク40とセラミックス基板11との熱膨張係数の差に起因する熱応力を金属層13で緩和することができ、セラミックス基板11における亀裂の発生を防止することができる。よって、回路層12上に配設された半導体素子3とヒートシンク40との間の絶縁性を確保することができる。
【0043】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6に本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101を示す。
このパワーモジュール101は、パワーモジュール用基板110と、このパワーモジュール用基板110の一方の面(図6において上面)にはんだ層102を介して接合された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方の面(図6において下面)側に配設されたヒートシンク140と、を備えている。ここで、はんだ層102は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層102との間にNi膜(図示なし)が設けられている。
【0044】
本実施形態であるパワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面に配設された回路層112と、を備えている。
セラミックス基板111は、その一方の面側と他方の面側との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi3N4(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0045】
回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0046】
ヒートシンク140は、半導体素子103が搭載されるパワーモジュール用基板110を冷却するためのものである。本実施形態では、熱伝導性が良好なA6063(アルミニウム合金)で構成された放熱板とされている。また、このヒートシンク140は、図6に示すように、セラミックス基板111の他方の面に直接接合されている。
【0047】
そして、セラミックス基板111と回路層112との界面130を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図7に示すように、界面130に、Cuが濃縮したCu高濃度部132が形成されている。このCu高濃度部132においては、Cu濃度が、回路層112中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面130におけるCu濃度が、回路層112中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。
さらに、このCu高濃度部132においては、Mgを含有しており、界面130におけるMg濃度が、回路層112中のMg濃度よりも高くなっている。
【0048】
なお、ここで観察する接合界面130は、図7に示すように、回路層112の格子像の界面側端部とセラミックス基板111の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層112中のCu濃度とは、回路層112のうち界面130から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0049】
また、この接合界面130をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面130を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層112の結晶粒界とセラミックス基板111との接合界面130は測定対象とせず、回路層112の結晶粒とセラミックス基板111との接合界面130のみを測定対象としている。
【0050】
また、回路層112におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図8に示すように、Cu及びMgの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cu及びMgが一様に分布しており、界面130からの濃度勾配が認められていないのである。なお、回路層112におけるCu濃度及びMg濃度は、セラミックス基板111の界面130からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板111の界面130部分にのみCu及びMgが濃縮しているのである。
【0051】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法について、図9、図10を参照して説明する。
【0052】
まず、セラミックス基板111の一方の面にスパッタリングによってCu及びMgを固着して第1Cu層124を形成するとともに、セラミックス基板111の他方の面にスパッタリングによってCu及びMgを固着して第2Cu層125を形成する(Cu固着工程S101)。ここで、第1Cu層124及び第2Cu層125におけるCu量及びMg量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされている。
【0053】
次に、セラミックス基板111を、その一方の面が溶湯供給口152側を向くように、鋳型150のキャビティ151内に設置する。この鋳型150を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口152から供給路153を介してキャビティ151内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S102)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。
そして、所定時間保持後、鋳型150を冷却し、キャビティ151内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S103)。
【0054】
次に、セラミックス基板111を、その他方の面が溶湯供給口152側を向くように、鋳型150のキャビティ151内に設置する。この鋳型150を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口152から供給路153を介してキャビティ151内に第2溶融アルミニウムM2を充填する(第2溶融アルミニウム充填工程S104)。このとき、第2溶融アルミニウムM2の充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、第2溶融アルミニウムM2は、A6063(アルミニウム合金)とされている。
そして、所定時間保持後、鋳型150を冷却し、キャビティ151内に充填された第2溶融アルミニウムM2を凝固させる(第2凝固工程S105)。
【0055】
そして、セラミックス基板111を鋳型150から取り出し、余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層112及びヒートシンク140を形成する(仕上工程S106)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びヒートシンク140が製出されることになる。
【0056】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法においては、Cu固着工程S101により、セラミックス基板111の一方の面に、Cu及びMgを含有する第1Cu層124を形成し、溶融アルミニウム充填工程S102により、鋳型150に設置されたセラミックス基板111と溶融アルミニウムMとを接触させる構成とされているので、溶融アルミニウムMとセラミックス基板111との反応性が高くなり、セラミックス基板111と回路層112との界面強度を向上させることが可能となる。
【0057】
同様に、Cu固着工程S101により、セラミックス基板111の他方の面に、Cu及びMgを含有する第2Cu層125を形成し、第2溶融アルミニウム充填工程S104により、鋳型150に設置されたセラミックス基板111と第2溶融アルミニウムM2とを接触させる構成とされているので、第2溶融アルミニウムM2とセラミックス基板111との反応性が高くなり、セラミックス基板111とヒートンシンク140との界面強度を向上させることが可能となる。
【0058】
また、Cu固着工程S101におけるCu及びMgの固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされているので、Cu及びMgによるセラミックス基板111とアルミニウムとの反応を促進することができるとともに、Cu及びMgとAlの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板111と回路層112及びヒートシンク140との界面強度を向上させることが可能となる。
さらに、Cu固着工程S101は、スパッタリングによって、セラミックス基板111の一方の面及び他方の面に、Cu及びMgを固着させる構成としているので、第1Cu層124及び第2Cu層125における、Cu量及びMg量を精度良く調整することができる。
【0059】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板111の一方の面に回路層112を形成する工程と、セラミックス基板111の他方の面にヒートシンク140を形成する工程とを、別工程としていることから、回路層112とヒートシンク140とでアルミニウムの材質を異なるものとすることができる。
【0060】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板110は、上述のように、Cu固着工程S101、溶融アルミニウム充填工程S102、凝固工程S103、第2溶融アルミニウム充填工程S104、第2凝固工程S105、仕上工程S106により、製出されたものである。ここで、セラミックス基板111に固着された第1Cu層124のCu及びMgは、溶融アルミニウムM内に容易に拡散することから、製出後のパワーモジュール用基板110において、回路層112の厚さ方向におけるCu濃度分布及びMg濃度分布が確認されない。
【0061】
ただし、セラミックス基板111と回路層112との界面130を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層112中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部132が形成されている。なお、Cu高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。なお、このCu高濃度部132においては、Mgも濃縮していることになる。
このように、セラミックス基板111と回路層112との界面130に、Cu及びMgが濃縮されたCu高濃度部132が形成されているので、界面130にCu原子及びMg原子が介在することにより、Si3N4からなるセラミックス基板111と回路層112との界面強度の向上を図ることが可能となる。
同様に、セラミックス基板111とヒートシンク140との界面にもCu及びMgが濃縮することになり、セラミックス基板111とヒートシンク140との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0062】
また、セラミックス基板111と回路層112との界面130をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板111と回路層112との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0063】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図11に本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板210及びパワーモジュール201を示す。
このパワーモジュール201は、パワーモジュール用基板210と、このパワーモジュール用基板210の一方の面(図11において上面)にはんだ層202を介して接合された半導体素子203と、パワーモジュール用基板210の他方の面(図11において下面)側に配設されたヒートシンク240と、を備えている。ここで、はんだ層202は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層212とはんだ層202との間にNi膜(図示なし)が設けられている。
【0064】
本実施形態であるパワーモジュール用基板210は、セラミックス基板211と、このセラミックス基板211の一方の面に配設された回路層212と、他方の面に配設された金属層213とを備えている。
セラミックス基板211は、その一方の面側と他方の面側との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板211の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0065】
回路層212は、セラミックス基板211の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層212は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0066】
金属層213は、図16に示すように、セラミックス基板211の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板223が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層213は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板223がセラミックス基板211に接合されることで形成されている。
【0067】
ヒートシンク240は、半導体素子203が搭載されるパワーモジュール用基板210を冷却するためのものであり、天板部241と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路242とを備えている。ヒートシンク240(天板部241)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク240の天板部241と金属層213との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層215が設けられている。
【0068】
そして、セラミックス基板211と回路層212との界面230を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図12に示すように、界面230に、Cuが濃縮したCu高濃度部232が形成されている。このCu高濃度部232においては、Cu濃度が、回路層212中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面230におけるCu濃度が、回路層212中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部232の厚さHは4nm以下とされている。
【0069】
なお、ここで観察する接合界面230は、図12に示すように、回路層212の格子像の界面側端部とセラミックス基板211の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層212中のCu濃度とは、回路層212のうち界面230から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0070】
また、この接合界面230をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面230を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層212の結晶粒界とセラミックス基板211との接合界面230は測定対象とせず、回路層212の結晶粒とセラミックス基板211との接合界面230のみを測定対象としている。
【0071】
また、回路層212におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図13に示すように、Cuの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cuが一様に分布しており、界面230からの濃度勾配が認められていないのである。なお、回路層212におけるCu濃度は、セラミックス基板211の界面230からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板211の界面230部分にのみCuが濃縮しているのである。
【0072】
さらに、金属層213におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図14に示すように、金属層213のセラミックス基板211との接合界面236近傍には、接合界面236から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度が低下する濃度傾斜層237が形成されている。ここで、金属層213の接合界面236近傍のCu濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層213の接合界面236近傍のCu濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面236から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図14のグラフは、金属層213(金属板223)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0073】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板210の製造方法について、図15及び図17を参照して説明する。
【0074】
まず、セラミックス基板211の一方の面にスパッタリングによってCuを固着して第1Cu層224を形成するとともに、セラミックス基板211の他方の面にスパッタリングによってCuを固着して第2Cu層225を形成する(Cu固着工程S201)。ここで、第1Cu層224及び第2Cu層225におけるCu量が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされている。
【0075】
次に、セラミックス基板211を、その一方の面が溶湯供給口252側を向くように、鋳型250のキャビティ251内に設置する。この鋳型250を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口252から供給路253を介してキャビティ251内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S202)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。
そして、所定時間保持後、鋳型250を冷却し、キャビティ251内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S203)。
【0076】
次に、セラミックス基板211の他方の面に金属板223を接合する(金属板接合工程S204)。
まず、上述のセラミックス基板211を鋳型250から取り出し、セラミックス基板211の他方の面に金属板223を積層する。なお、金属板223は、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムの圧延板とされている。
そして、セラミックス基板211と金属板223とを積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板223とセラミックス基板211との界面に溶融金属領域227を形成する。ここで、溶融金属領域227は、図17に示すように、第2Cu層225のCuが金属板223に向けて拡散することによって、金属板223の第2Cu層225近傍のCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0077】
なお、上述の圧力が1kgf/cm2未満の場合には、セラミックス基板211と金属板223との接合を良好に行うことができなくなるおそれがある。また、上述の圧力が35kgf/cm2を超えた場合には、金属板223が変形するおそれがある。よって、上述の加圧圧力は、1〜35kgf/cm2の範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0078】
次に、溶融金属領域227中のCuが、さらに金属板223側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域227であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。これにより、セラミックス基板211と金属板223とが接合される。つまり、金属板2223とセラミックス基板211とは、いわゆる液相拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。
【0079】
そして、セラミックス基板211の一方の面側の余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層212を形成する(仕上工程S205)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製出されることになる。
【0080】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板210の製造方法においては、Cu固着工程S201により、セラミックス基板211の一方の面に、Cuを含有する第1Cu層224を形成し、溶融アルミニウム充填工程S202により、鋳型250に設置されたセラミックス基板211と溶融アルミニウムMとを接触させる構成とされているので、界面230に介在するCuにより、溶融アルミニウムMとセラミックス基板211との反応性が高くなり、セラミックス基板211と回路層212との界面強度を向上させることが可能となる。
【0081】
また、セラミックス基板211と金属板223とが液相拡散接合によって接合されることで金属層213が形成される構成とされているので、金属板223とセラミックス基板211とを強固に接合することができる。また、金属層213にはCuが固溶することにより、金属層213のうちセラミックス基板211との接合界面236近傍部分の強度を向上させることができる。
【0082】
また、Cu固着工程S201におけるCuの固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされているので、Cuによるセラミックス基板211とアルミニウムとの反応を促進することができるとともに、CuとAlの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板211と回路層212との界面強度を確実に向上させることが可能となる。
さらに、Cu固着工程S201は、スパッタリングによって、セラミックス基板211の一方の面及び他方の面に、Cuを固着させる構成としているので、第1Cu層224及び第2Cu層225におけるCuの固着量を精度良く調整することができる。
【0083】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板211の一方の面に回路層212を形成する工程と、セラミックス基板211の他方の面に金属層213を形成する工程とを、別工程としていることから、回路層212と金属層213とでアルミニウムの材質を異なるものとすることができる。
【0084】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板210では、回路層212において厚さ方向にCu濃度分布が認められず、金属層213において厚さ方向にCu濃度分布が認められている。これは、回路層212が溶融アルミニウムMをセラミックス基板211に接触させて形成していることから、Cuが溶融アルミニウムM内に容易に拡散するためである。一方、金属層213は、セラミックス基板211との接合界面236近傍のみに溶融金属領域227が形成されることから、Cuが金属板223の内部を拡散することになるため、Cuの濃度勾配が形成されるのである。
【0085】
ここで、セラミックス基板211と回路層212との界面230を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層212中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部232が形成されている。なお、Cu高濃度部232の厚さHは4nm以下とされている。
このように、セラミックス基板211と回路層212との界面230に、Cuが濃縮されたCu高濃度部232が形成されているので、界面230にCu原子が介在することにより、Al2O3からなるセラミックス基板211と回路層212との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0086】
また、セラミックス基板211と回路層212との界面230をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板211と回路層212との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を、純度99.99質量%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)で構成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば純度99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)等であってもよい。
【0088】
また、スパッタリングによってCuやMgを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなくめっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布等の手段によって、Cuを固着させてもよい。
さらに、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させる構成としてもよい。
【0089】
また、ヒートシンクの構造や材質については、本実施形態に限定されることはない。
さらに、第3の実施形態において、セラミックス基板と金属板との接合を、真空加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、N2雰囲気、Ar雰囲気及びHe雰囲気等でセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。
【実施例】
【0090】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
40mm角の厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、スパッタによってCu及び添加元素を固着させた。このセラミックス基板を黒鉛鋳型内に設置し、温度800℃で4Nアルミニウムからなる溶融アルミニウムを充填した。なお、充填圧力を3×105Paとした。そして、この鋳型を15分間で600℃まで冷却し、溶融アルミニウムを凝固させた。その後、鋳型から取り出し、切削加工によって、36mm角、厚さ0.6mmの回路層及び金属層を形成した。
ここで、スパッタによるCu及び添加元素の固着量を、表1に示すように変化させた。
【0091】
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなり、厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。これら緩衝層及びアルミニウム板は、Al−10.5質量%Siの厚さ50μmのろう材箔を用いて、温度610℃、圧力10kgf/cm2の条件で接合した。
【0092】
この試験片を、−40℃←→110℃の熱サイクルを2000回負荷し、その際の接合率を求めた。この結果を表1に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0093】
【表1】
【0094】
Cu及び添加元素を固着させずにセラミックス基板に溶融アルミニウムを接触させた比較例においては、接合率が63.5%と低い値を示した。
これに対して、本発明例1−21においては、比較例に比べて接合率が向上していることが確認される。特に、Cuの固着量を20mg/cm2以下、あるいは、Cu及び添加元素の固着量を20mg/cm2以下とした本発明例1−19においては、接合率が70%以上となっており、接合信頼性が向上していることが確認される。
【符号の説明】
【0095】
1、101、201 パワーモジュール
10、110、210 パワーモジュール用基板
11、111、211 セラミックス基板
12、112、212 回路層(アルミニウム層)
13、213 金属層(第2アルミニウム層)
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワー素子は、発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、特許文献1−4に示すように、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)等からなるセラミックス基板の一方の面に回路層が形成されたパワーモジュール用基板が広く用いられている。ここで、特許文献1−4においては、セラミックス基板の一方の面に、溶融アルミニウムを接触させることによって、上述の回路層を形成している。
【0003】
このようなパワーモジュール用基板においては、回路層の上に、はんだ層を介してパワー素子としての半導体素子が搭載され、パワーモジュールとして使用される。
また、例えば特許文献1に示すように、パワーモジュールから発生する熱を効率的に放散するために、セラミックス基板の他方の面側にヒートシンクを配設したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−076551号公報
【特許文献2】特開2002−329814号公報
【特許文献3】特開2005−252136号公報
【特許文献4】特開2007−092150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のパワーモジュールにおいては、使用時に熱サイクルが負荷されることになる。すると、セラミックス基板と回路層との界面には、セラミックス基板とアルミニウムとの熱膨張係数の差によって熱応力が作用し、セラミックス基板と回路層との界面において剥離等が発生するおそれがあった。
特に、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境も厳しくなってきており、電子部品からの発熱量が大きくなる傾向にあり、前述のようにヒートシンク上にパワーモジュール用基板を配設する必要がある。この場合、パワーモジュール用基板がヒートシンクによって拘束されるために、熱サイクル負荷時に、回路層とセラミックス基板との界面に大きなせん断力が作用することになる。よって、従来にもまして、セラミックス基板と回路層との界面強度を向上させる必要があった。
【0006】
ところで、特許文献1−4に記載されたように、セラミックス基板の表面に溶融アルミニウムを直接接触させることで回路層を形成する場合には、回路層とセラミックス基板との界面での剥離を防止するために、溶融アルミニウムとセラミックス基板との接触時間を十分に確保する必要があった。また、セラミックス基板が配設された鋳型内に溶融アルミニウムを充填する際の圧力を高く設定して、セラミックス基板と溶融アルミニウムとを高圧で接触させる必要があった。
このため、溶融アルミニウムの接触時間や圧力が変動した際には、セラミックス基板と回路層との界面強度が低下してしまうことになる。また、パワーモジュール用基板を効率良く生産することができないといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層との界面強度が高く信頼性に優れたパワーモジュール用基板を効率よく生産することができるパワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記セラミックス基板の一方の面のうち少なくとも前記アルミニウム層が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層を形成する固着工程と、前記固着層が形成された前記セラミックス基板を鋳型内に配置し、この鋳型内に溶融アルミニウムを充填し、前記セラミックス基板と前記溶融アルミニウムとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、 前記セラミックス基板と接触した状態で前記溶融アルミニウムを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、セラミックス基板の一方の面のうち少なくともアルミニウム層が形成される領域にCuを含有する固着層が形成され、このセラミックス基板に対して溶融アルミニウムを接触させる構成としているので、セラミックス基板のうち固着層が形成された領域においては、溶融アルミニウムとの反応性が高くなり、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応が促進されることになる。このため、溶融アルミニウムとセラミックス基板との接触時間を短くしたり、溶融アルミニウムの充填圧力を低くしたりしても、セラミックス基板とアルミニウム層との界面強度を向上させることができ、接合信頼性に優れたパワーモジュール用基板を製出することが可能となる。
【0010】
ここで、前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2未満の場合には、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応を促進させる効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。また、前記固着工程におけるCuの固着量が20mg/cm2を超える場合には、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、CuとAlの反応物が過剰に生成してしまい、界面強度が低下するおそれがある。したがって、前記固着工程におけるCuの固着量を0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。
【0011】
また、前記固着工程では、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させる構成とされていてもよい。
Cu、及び、Ag,Mg,Ca,Niといった元素は、アルミニウムとの反応性が高い元素であることから、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に介在することによって界面強度を向上させることが可能となる。なお、Mg,Caといった活性な元素を固着する場合には、Alとともに固着させることにより、酸化ロスを抑えることができる。
【0012】
ここで、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が0.1mg/cm2未満の場合には、セラミックス基板と溶融アルミニウムとの反応を促進させる効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。また、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が20mg/cm2を超える場合には、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、Cu及び添加元素とAlとの反応物が過剰に生成してしまい、界面強度が低下するおそれがある。したがって、前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計を0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。
【0013】
前記固着工程においては、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって、Cuを固着させることが好ましい。
この場合、セラミックス基板の一方の面に、確実にCuを固着することが可能となる。また、Cuの固着量を精度良く調整することができる。
【0014】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を形成する構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層が形成され、かつ、セラミックス基板の他方の面に第2アルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板が製出されることになる。なお、第2アルミニウム層については、アルミニウム層と同様に、溶融アルミニウムをセラミックス基板の他方の面に接触させることで形成してもよいし、アルミニウム板をろう付け等で接合してもよい。
【0015】
本発明のパワーモジュール用基板は、前述のパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板であって、前記アルミニウム層において、前記セラミックス基板との界面から50μmの位置におけるCu濃度と、前記セラミックス基板との界面から100μmの位置におけるCu濃度との濃度差が0.1質量%以下とされており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面には、Cu濃度が前記アルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されていることを特徴としている。
【0016】
この構成のパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板とアルミニウム層との界面に、Cu濃度がアルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されているので、界面近傍に存在するCu原子により、セラミックス基板とアルミニウム層との界面強度の向上を図ることが可能となる。
なお、アルミニウム層中のCu濃度とは、アルミニウム層のうち接合界面から一定距離(例えば、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0017】
ここで、前記セラミックス基板がAlNで構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることが好ましい。
また、前記セラミックス基板がSi3N4で構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることが好ましい。
さらに、前記セラミックス基板がAl2O3で構成されている場合においては、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされていることが好ましい。
【0018】
セラミックス基板のアルミニウム層との界面に存在するCu原子の質量比が10質量%を超えると、AlとCuとの反応物が過剰に生成されることになり、この反応物が接合を阻害するおそれがある。一方、Cu原子の質量比が1質量%未満であると、Cu原子による界面強度の向上を充分に図ることができなくなるおそれがある。よって、セラミックス基板とアルミニウム層との界面におけるCu原子の質量比は、1〜10質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
ここで、エネルギー分散型X線分析法による分析を行う際のスポット径は極めて小さいため、前記界面の複数点(例えば、10〜100点)で測定し、その平均値を算出することになる。また、測定する際には、アルミニウム層の結晶粒界とセラミックス基板との界面は測定対象とせず、アルミニウム層の結晶粒とセラミックス基板との界面のみを測定対象とする。
なお、本明細書中におけるエネルギー分散型X線分析法による分析値は、日本電子製の電子顕微鏡JEM−2010Fに搭載したサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置NORAN System7を用いて加速電圧200kVで行った。
【0020】
また、本発明のパワーモジュール用基板においては、前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を有する構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層が形成され、かつ、セラミックス基板の他方の面に第2アルミニウム層が形成されており、セラミックス基板の反りの発生が抑制される。また、例えば、アルミニウム層を回路層として半導体素子を配設し、第2アルミニウム層側にヒートシンクを配設することで、ヒートシンクを備えたパワーモジュールを構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セラミックス基板とアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層との界面強度が高く信頼性に優れたパワーモジュール用基板を効率よく生産することができるパワーモジュール用基板の製造方法、及び、パワーモジュール用基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層とセラミック基板との界面の模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層及び金属層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層とセラミック基板との界面の模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層のCu濃度分布及びMg濃度分布を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図10】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【図12】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層とセラミックス基板との界面の模式図である。
【図13】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の回路層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図14】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の金属層のCu濃度分布を示す説明図である。
【図15】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法のフロー図である。
【図16】本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法の説明図である。
【図17】図16におけるセラミックス基板と金属層との接合界面を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、ヒートシンク40とを備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0024】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層12及び金属層13は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0026】
ヒートシンク40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路42とを備えている。ヒートシンク40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0027】
そして、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図2に示すように、界面30に、Cuが濃縮したCu高濃度部32が形成されている。このCu高濃度部32においては、Cu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面30におけるCu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部32の厚さHは4nm以下とされている。
【0028】
なお、ここで観察する界面30は、図2に示すように、回路層12及び金属層13の格子像の界面側端部とセラミックス基板11の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層12及び金属層13中のCu濃度とは、回路層12及び金属層13のうち界面30から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0029】
また、この界面30をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、界面30を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層12及び金属層13の結晶粒界とセラミックス基板11との界面30は測定対象とせず、回路層12及び金属層13の結晶粒とセラミックス基板11との界面30のみを測定対象としている。
【0030】
また、回路層12及び金属層13におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図3に示すように、Cuの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cuが一様に分布しており、界面30からの濃度勾配が確認されないのである。なお、回路層12及び金属層13におけるCu濃度は、セラミックス基板11の界面からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板11の界面30部分にのみCuが濃縮しているのである。
【0031】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0032】
まず、セラミックス基板11の一方の面にスパッタリングによってCuを固着して第1Cu層24を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面にスパッタリングによってCuを固着して第2Cu層25を形成する(Cu固着工程S01)。ここで、第1Cu層24及び第2Cu層25におけるCu量は、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下に設定されている。
【0033】
次に、第1Cu層24、第2Cu層25が形成されたセラミックス基板11を、鋳型50のキャビティ51内に設置する。この鋳型50を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口52から供給路53を介してキャビティ51内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S02)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。なお、鋳型50は、黒鉛で構成されており、そのキャビティ51の内面には、BN等の離型剤が塗布されている。
【0034】
次に、所定時間保持後、鋳型50を冷却し、キャビティ51内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S03)。このとき、600℃まで15分掛けて冷却する。
そして、鋳型50から取り出し、余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層12及び金属層13を形成する(仕上工程S04)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製出されることになる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10の製造方法及びパワーモジュール用基板10においては、Cu固着工程S01において、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に、Cuを含有する第1Cu層24、第2Cu層25が形成され、溶融アルミニウム充填工程S02において、鋳型50のキャビティ51内に設置されたセラミックス基板11と溶融アルミニウムMとが接触される構成とされているので、セラミックス基板10のうち第1Cu層24、第2Cu層25が形成された領域においては、アルミニウムとの反応性が高くなり、セラミックス基板11と溶融アルミニウムMとの反応が促進されることになる。よって、溶融アルミニウムMとセラミックス基板11との接触時間を短くしたり、溶融アルミニウムMの充填圧力を低くしたりしても、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度を向上させることができ、信頼性に優れたパワーモジュール用基板10を製出することが可能となる。
【0036】
また、Cu固着工程S01におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされているので、Cuによる反応の促進の効果を確実に奏功せしめることができるとともに、CuとAlとの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度を向上させることが可能となる。
【0037】
さらに、Cu固着工程S01は、スパッタリングによって、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面にCuを固着させる構成とされているので、第1Cu層24、第2Cu層25におけるCu量を精度良く調整することができる。
また、本実施形態では、セラミックス基板11の一方の面に回路層12を、他方の面に金属層13を同時に形成する構成とされていることから、セラミックス基板11における反りの発生を防止することができる。
【0038】
また、本実施形態においては、溶融アルミニウム充填工程S02において、溶融アルミニウムMの充填温度を700〜850℃としているので、湯流れ性が確保され、キャビティ51内に溶融アルミニウムMを十分に充填させることができ、かつ、鋳型50に密着することがなく、鋳型50から容易に取り出すことができる。
【0039】
本実施形態であるパワーモジュール用基板10は、上述のように、Cu固着工程S01、溶融アルミニウム充填工程S02、凝固工程S03、仕上工程S04により、製出されたものである。ここで、セラミックス基板11に固着された第1Cu層24、第2Cu層25のCuは、溶融アルミニウムM内に容易に拡散することから、製出後のパワーモジュール用基板10では、回路層12及び金属層13において、図3に示すように、厚さ方向におけるCu濃度分布が確認されない。
【0040】
そして、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部32が形成されている。なお、Cu高濃度部32の厚さHは4nm以下とされている。このように、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30に、Cu濃度が、回路層12及び金属層13中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部32が形成されているので、界面30にCu原子が介在することにより、AlNからなるセラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0041】
また、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面30をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態であるパワーモジュール1においては、セラミックス基板11の一方の面に回路層12が形成され、他方の面に金属層13が形成されており、金属層13の他方の面側にヒートシンク40が配設されているので、ヒートシンク40とセラミックス基板11との熱膨張係数の差に起因する熱応力を金属層13で緩和することができ、セラミックス基板11における亀裂の発生を防止することができる。よって、回路層12上に配設された半導体素子3とヒートシンク40との間の絶縁性を確保することができる。
【0043】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6に本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101を示す。
このパワーモジュール101は、パワーモジュール用基板110と、このパワーモジュール用基板110の一方の面(図6において上面)にはんだ層102を介して接合された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方の面(図6において下面)側に配設されたヒートシンク140と、を備えている。ここで、はんだ層102は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112とはんだ層102との間にNi膜(図示なし)が設けられている。
【0044】
本実施形態であるパワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面に配設された回路層112と、を備えている。
セラミックス基板111は、その一方の面側と他方の面側との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi3N4(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0045】
回路層112は、セラミックス基板111の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0046】
ヒートシンク140は、半導体素子103が搭載されるパワーモジュール用基板110を冷却するためのものである。本実施形態では、熱伝導性が良好なA6063(アルミニウム合金)で構成された放熱板とされている。また、このヒートシンク140は、図6に示すように、セラミックス基板111の他方の面に直接接合されている。
【0047】
そして、セラミックス基板111と回路層112との界面130を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図7に示すように、界面130に、Cuが濃縮したCu高濃度部132が形成されている。このCu高濃度部132においては、Cu濃度が、回路層112中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面130におけるCu濃度が、回路層112中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。
さらに、このCu高濃度部132においては、Mgを含有しており、界面130におけるMg濃度が、回路層112中のMg濃度よりも高くなっている。
【0048】
なお、ここで観察する接合界面130は、図7に示すように、回路層112の格子像の界面側端部とセラミックス基板111の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層112中のCu濃度とは、回路層112のうち界面130から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0049】
また、この接合界面130をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面130を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層112の結晶粒界とセラミックス基板111との接合界面130は測定対象とせず、回路層112の結晶粒とセラミックス基板111との接合界面130のみを測定対象としている。
【0050】
また、回路層112におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図8に示すように、Cu及びMgの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cu及びMgが一様に分布しており、界面130からの濃度勾配が認められていないのである。なお、回路層112におけるCu濃度及びMg濃度は、セラミックス基板111の界面130からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板111の界面130部分にのみCu及びMgが濃縮しているのである。
【0051】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法について、図9、図10を参照して説明する。
【0052】
まず、セラミックス基板111の一方の面にスパッタリングによってCu及びMgを固着して第1Cu層124を形成するとともに、セラミックス基板111の他方の面にスパッタリングによってCu及びMgを固着して第2Cu層125を形成する(Cu固着工程S101)。ここで、第1Cu層124及び第2Cu層125におけるCu量及びMg量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされている。
【0053】
次に、セラミックス基板111を、その一方の面が溶湯供給口152側を向くように、鋳型150のキャビティ151内に設置する。この鋳型150を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口152から供給路153を介してキャビティ151内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S102)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。
そして、所定時間保持後、鋳型150を冷却し、キャビティ151内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S103)。
【0054】
次に、セラミックス基板111を、その他方の面が溶湯供給口152側を向くように、鋳型150のキャビティ151内に設置する。この鋳型150を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口152から供給路153を介してキャビティ151内に第2溶融アルミニウムM2を充填する(第2溶融アルミニウム充填工程S104)。このとき、第2溶融アルミニウムM2の充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、第2溶融アルミニウムM2は、A6063(アルミニウム合金)とされている。
そして、所定時間保持後、鋳型150を冷却し、キャビティ151内に充填された第2溶融アルミニウムM2を凝固させる(第2凝固工程S105)。
【0055】
そして、セラミックス基板111を鋳型150から取り出し、余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層112及びヒートシンク140を形成する(仕上工程S106)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びヒートシンク140が製出されることになる。
【0056】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法においては、Cu固着工程S101により、セラミックス基板111の一方の面に、Cu及びMgを含有する第1Cu層124を形成し、溶融アルミニウム充填工程S102により、鋳型150に設置されたセラミックス基板111と溶融アルミニウムMとを接触させる構成とされているので、溶融アルミニウムMとセラミックス基板111との反応性が高くなり、セラミックス基板111と回路層112との界面強度を向上させることが可能となる。
【0057】
同様に、Cu固着工程S101により、セラミックス基板111の他方の面に、Cu及びMgを含有する第2Cu層125を形成し、第2溶融アルミニウム充填工程S104により、鋳型150に設置されたセラミックス基板111と第2溶融アルミニウムM2とを接触させる構成とされているので、第2溶融アルミニウムM2とセラミックス基板111との反応性が高くなり、セラミックス基板111とヒートンシンク140との界面強度を向上させることが可能となる。
【0058】
また、Cu固着工程S101におけるCu及びMgの固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされているので、Cu及びMgによるセラミックス基板111とアルミニウムとの反応を促進することができるとともに、Cu及びMgとAlの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板111と回路層112及びヒートシンク140との界面強度を向上させることが可能となる。
さらに、Cu固着工程S101は、スパッタリングによって、セラミックス基板111の一方の面及び他方の面に、Cu及びMgを固着させる構成としているので、第1Cu層124及び第2Cu層125における、Cu量及びMg量を精度良く調整することができる。
【0059】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板111の一方の面に回路層112を形成する工程と、セラミックス基板111の他方の面にヒートシンク140を形成する工程とを、別工程としていることから、回路層112とヒートシンク140とでアルミニウムの材質を異なるものとすることができる。
【0060】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板110は、上述のように、Cu固着工程S101、溶融アルミニウム充填工程S102、凝固工程S103、第2溶融アルミニウム充填工程S104、第2凝固工程S105、仕上工程S106により、製出されたものである。ここで、セラミックス基板111に固着された第1Cu層124のCu及びMgは、溶融アルミニウムM内に容易に拡散することから、製出後のパワーモジュール用基板110において、回路層112の厚さ方向におけるCu濃度分布及びMg濃度分布が確認されない。
【0061】
ただし、セラミックス基板111と回路層112との界面130を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層112中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部132が形成されている。なお、Cu高濃度部132の厚さHは4nm以下とされている。なお、このCu高濃度部132においては、Mgも濃縮していることになる。
このように、セラミックス基板111と回路層112との界面130に、Cu及びMgが濃縮されたCu高濃度部132が形成されているので、界面130にCu原子及びMg原子が介在することにより、Si3N4からなるセラミックス基板111と回路層112との界面強度の向上を図ることが可能となる。
同様に、セラミックス基板111とヒートシンク140との界面にもCu及びMgが濃縮することになり、セラミックス基板111とヒートシンク140との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0062】
また、セラミックス基板111と回路層112との界面130をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板111と回路層112との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0063】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図11に本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板210及びパワーモジュール201を示す。
このパワーモジュール201は、パワーモジュール用基板210と、このパワーモジュール用基板210の一方の面(図11において上面)にはんだ層202を介して接合された半導体素子203と、パワーモジュール用基板210の他方の面(図11において下面)側に配設されたヒートシンク240と、を備えている。ここで、はんだ層202は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層212とはんだ層202との間にNi膜(図示なし)が設けられている。
【0064】
本実施形態であるパワーモジュール用基板210は、セラミックス基板211と、このセラミックス基板211の一方の面に配設された回路層212と、他方の面に配設された金属層213とを備えている。
セラミックス基板211は、その一方の面側と他方の面側との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl2O3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板211の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0065】
回路層212は、セラミックス基板211の一方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる溶融アルミニウムを接触して凝固することにより形成されたものである。
本実施形態においては、回路層212は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)で構成されている。
【0066】
金属層213は、図16に示すように、セラミックス基板211の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板223が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層213は、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板223がセラミックス基板211に接合されることで形成されている。
【0067】
ヒートシンク240は、半導体素子203が搭載されるパワーモジュール用基板210を冷却するためのものであり、天板部241と冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路242とを備えている。ヒートシンク240(天板部241)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
また、本実施形態においては、ヒートシンク240の天板部241と金属層213との間には、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層215が設けられている。
【0068】
そして、セラミックス基板211と回路層212との界面230を透過電子顕微鏡において観察した場合には、図12に示すように、界面230に、Cuが濃縮したCu高濃度部232が形成されている。このCu高濃度部232においては、Cu濃度が、回路層212中のCu濃度よりも高くなっており、具体的には、界面230におけるCu濃度が、回路層212中のCu濃度の2倍以上とされている。ここで、本実施形態では、Cu高濃度部232の厚さHは4nm以下とされている。
【0069】
なお、ここで観察する接合界面230は、図12に示すように、回路層212の格子像の界面側端部とセラミックス基板211の格子像の界面側端部との間の中央を基準面Sとする。
また、回路層212中のCu濃度とは、回路層212のうち界面230から一定距離(本実施形態では、5nm)離れた部分におけるCu濃度である。
【0070】
また、この接合界面230をエネルギー分散型X線分析法(EDS)で分析した際のAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%の範囲内に設定されている。なお、EDSによる分析を行う際のスポット径は1〜4nmとされており、接合界面230を複数点(例えば、本実施形態では100点)で測定し、その平均値を算出している。また、回路層212の結晶粒界とセラミックス基板211との接合界面230は測定対象とせず、回路層212の結晶粒とセラミックス基板211との接合界面230のみを測定対象としている。
【0071】
また、回路層212におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図13に示すように、Cuの濃度が厚さ方向で変化していない。すなわち、Cuが一様に分布しており、界面230からの濃度勾配が認められていないのである。なお、回路層212におけるCu濃度は、セラミックス基板211の界面230からの各位置で5点測定した平均値とした。
このように、本実施形態においては、セラミックス基板211の界面230部分にのみCuが濃縮しているのである。
【0072】
さらに、金属層213におけるCu濃度をEPMA分析(スポット径30μm)によって測定した結果、図14に示すように、金属層213のセラミックス基板211との接合界面236近傍には、接合界面236から積層方向に離間するにしたがい漸次Cu濃度が低下する濃度傾斜層237が形成されている。ここで、金属層213の接合界面236近傍のCu濃度が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、金属層213の接合界面236近傍のCu濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)によって、接合界面236から50μmの位置で5点測定した平均値である。また、図14のグラフは、金属層213(金属板223)の中央部分において積層方向にライン分析を行い、前述の50μm位置での濃度を基準として求めたものである。
【0073】
以下に、本実施形態であるパワーモジュール用基板210の製造方法について、図15及び図17を参照して説明する。
【0074】
まず、セラミックス基板211の一方の面にスパッタリングによってCuを固着して第1Cu層224を形成するとともに、セラミックス基板211の他方の面にスパッタリングによってCuを固着して第2Cu層225を形成する(Cu固着工程S201)。ここで、第1Cu層224及び第2Cu層225におけるCu量が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされている。
【0075】
次に、セラミックス基板211を、その一方の面が溶湯供給口252側を向くように、鋳型250のキャビティ251内に設置する。この鋳型250を700〜850℃に加熱した状態で、溶湯供給口252から供給路253を介してキャビティ251内に溶融アルミニウムMを充填する(溶融アルミニウム充填工程S202)。このとき、溶融アルミニウムMの充填圧力を1×105〜3.5×106Paとしている。また、溶融アルミニウムMは、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムとされている。
そして、所定時間保持後、鋳型250を冷却し、キャビティ251内に充填された溶融アルミニウムMを凝固させる(凝固工程S203)。
【0076】
次に、セラミックス基板211の他方の面に金属板223を接合する(金属板接合工程S204)。
まず、上述のセラミックス基板211を鋳型250から取り出し、セラミックス基板211の他方の面に金属板223を積層する。なお、金属板223は、純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムの圧延板とされている。
そして、セラミックス基板211と金属板223とを積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm2)した状態で真空加熱炉内に装入して加熱し、金属板223とセラミックス基板211との界面に溶融金属領域227を形成する。ここで、溶融金属領域227は、図17に示すように、第2Cu層225のCuが金属板223に向けて拡散することによって、金属板223の第2Cu層225近傍のCu濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0077】
なお、上述の圧力が1kgf/cm2未満の場合には、セラミックス基板211と金属板223との接合を良好に行うことができなくなるおそれがある。また、上述の圧力が35kgf/cm2を超えた場合には、金属板223が変形するおそれがある。よって、上述の加圧圧力は、1〜35kgf/cm2の範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10−6Pa以上10−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0078】
次に、溶融金属領域227中のCuが、さらに金属板223側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域227であった部分のCu濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。これにより、セラミックス基板211と金属板223とが接合される。つまり、金属板2223とセラミックス基板211とは、いわゆる液相拡散接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。
【0079】
そして、セラミックス基板211の一方の面側の余剰なアルミニウムを切削、又は、エッチング等によって除去し、回路層212を形成する(仕上工程S205)。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製出されることになる。
【0080】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板210の製造方法においては、Cu固着工程S201により、セラミックス基板211の一方の面に、Cuを含有する第1Cu層224を形成し、溶融アルミニウム充填工程S202により、鋳型250に設置されたセラミックス基板211と溶融アルミニウムMとを接触させる構成とされているので、界面230に介在するCuにより、溶融アルミニウムMとセラミックス基板211との反応性が高くなり、セラミックス基板211と回路層212との界面強度を向上させることが可能となる。
【0081】
また、セラミックス基板211と金属板223とが液相拡散接合によって接合されることで金属層213が形成される構成とされているので、金属板223とセラミックス基板211とを強固に接合することができる。また、金属層213にはCuが固溶することにより、金属層213のうちセラミックス基板211との接合界面236近傍部分の強度を向上させることができる。
【0082】
また、Cu固着工程S201におけるCuの固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下とされているので、Cuによるセラミックス基板211とアルミニウムとの反応を促進することができるとともに、CuとAlの反応物が過剰に生成することを抑制することができる。よって、セラミックス基板211と回路層212との界面強度を確実に向上させることが可能となる。
さらに、Cu固着工程S201は、スパッタリングによって、セラミックス基板211の一方の面及び他方の面に、Cuを固着させる構成としているので、第1Cu層224及び第2Cu層225におけるCuの固着量を精度良く調整することができる。
【0083】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板211の一方の面に回路層212を形成する工程と、セラミックス基板211の他方の面に金属層213を形成する工程とを、別工程としていることから、回路層212と金属層213とでアルミニウムの材質を異なるものとすることができる。
【0084】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板210では、回路層212において厚さ方向にCu濃度分布が認められず、金属層213において厚さ方向にCu濃度分布が認められている。これは、回路層212が溶融アルミニウムMをセラミックス基板211に接触させて形成していることから、Cuが溶融アルミニウムM内に容易に拡散するためである。一方、金属層213は、セラミックス基板211との接合界面236近傍のみに溶融金属領域227が形成されることから、Cuが金属板223の内部を拡散することになるため、Cuの濃度勾配が形成されるのである。
【0085】
ここで、セラミックス基板211と回路層212との界面230を電子顕微鏡で詳細に観察すると、Cu濃度が回路層212中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部232が形成されている。なお、Cu高濃度部232の厚さHは4nm以下とされている。
このように、セラミックス基板211と回路層212との界面230に、Cuが濃縮されたCu高濃度部232が形成されているので、界面230にCu原子が介在することにより、Al2O3からなるセラミックス基板211と回路層212との界面強度の向上を図ることが可能となる。
【0086】
また、セラミックス基板211と回路層212との界面230をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされているので、CuとAlとの反応物が過剰に生成されることを防止でき、セラミックス基板211と回路層212との界面強度が向上することになる。よって、熱サイクル負荷時の信頼性を向上させることができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を、純度99.99質量%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)で構成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば純度99質量%以上のアルミニウム(2Nアルミニウム)等であってもよい。
【0088】
また、スパッタリングによってCuやMgを固着するものとして説明したが、これに限定されることはなくめっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布等の手段によって、Cuを固着させてもよい。
さらに、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させる構成としてもよい。
【0089】
また、ヒートシンクの構造や材質については、本実施形態に限定されることはない。
さらに、第3の実施形態において、セラミックス基板と金属板との接合を、真空加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、N2雰囲気、Ar雰囲気及びHe雰囲気等でセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。
【実施例】
【0090】
本発明の有効性を確認するために行った確認実験について説明する。
40mm角の厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板の両面に、スパッタによってCu及び添加元素を固着させた。このセラミックス基板を黒鉛鋳型内に設置し、温度800℃で4Nアルミニウムからなる溶融アルミニウムを充填した。なお、充填圧力を3×105Paとした。そして、この鋳型を15分間で600℃まで冷却し、溶融アルミニウムを凝固させた。その後、鋳型から取り出し、切削加工によって、36mm角、厚さ0.6mmの回路層及び金属層を形成した。
ここで、スパッタによるCu及び添加元素の固着量を、表1に示すように変化させた。
【0091】
このようにして成形されたパワーモジュール用基板の金属層側に、4Nアルミニウムからなり、厚さ0.9mmの緩衝層を介して、ヒートシンクの天板に相当する50mm×60mm、厚さ5mmのアルミニウム板(A6063)を接合した。これら緩衝層及びアルミニウム板は、Al−10.5質量%Siの厚さ50μmのろう材箔を用いて、温度610℃、圧力10kgf/cm2の条件で接合した。
【0092】
この試験片を、−40℃←→110℃の熱サイクルを2000回負荷し、その際の接合率を求めた。この結果を表1に示す。
なお、接合率は、以下の式で算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積のこととした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0093】
【表1】
【0094】
Cu及び添加元素を固着させずにセラミックス基板に溶融アルミニウムを接触させた比較例においては、接合率が63.5%と低い値を示した。
これに対して、本発明例1−21においては、比較例に比べて接合率が向上していることが確認される。特に、Cuの固着量を20mg/cm2以下、あるいは、Cu及び添加元素の固着量を20mg/cm2以下とした本発明例1−19においては、接合率が70%以上となっており、接合信頼性が向上していることが確認される。
【符号の説明】
【0095】
1、101、201 パワーモジュール
10、110、210 パワーモジュール用基板
11、111、211 セラミックス基板
12、112、212 回路層(アルミニウム層)
13、213 金属層(第2アルミニウム層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板を製造する方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面のうち少なくとも前記アルミニウム層が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層を形成する固着工程と、
前記固着層が形成された前記セラミックス基板を鋳型内に配置し、この鋳型内に溶融アルミニウムを充填し、前記セラミックス基板と前記溶融アルミニウムとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、
前記セラミックス基板と接触した状態で前記溶融アルミニウムを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記固着工程において、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項3に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記固着工程においては、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって、Cuを固着させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板であって、
前記アルミニウム層において、前記セラミックス基板との界面から50μmの位置におけるCu濃度と、前記セラミックス基板との界面から100μmの位置におけるCu濃度と、の濃度差が0.1質量%以下とされており、
前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面には、Cu濃度が前記アルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項8】
前記セラミックス基板がAlNで構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項9】
前記セラミックス基板がSi3N4で構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項10】
前記セラミックス基板がAl2O3で構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項11】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を有することを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層が形成されたパワーモジュール用基板を製造する方法であって、
前記セラミックス基板の一方の面のうち少なくとも前記アルミニウム層が形成される領域に、Cuを固着し、Cuを含有する固着層を形成する固着工程と、
前記固着層が形成された前記セラミックス基板を鋳型内に配置し、この鋳型内に溶融アルミニウムを充填し、前記セラミックス基板と前記溶融アルミニウムとを接触させる溶融アルミニウム充填工程と、
前記セラミックス基板と接触した状態で前記溶融アルミニウムを凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
前記固着工程におけるCuの固着量が0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記固着工程において、Cuに加えて、Ag,Mg,Ca及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記固着工程におけるCu及び前記添加元素の固着量の合計が、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項3に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記固着工程においては、めっき、蒸着、CVD、スパッタリング、コールドスプレー、又は、粉末が分散しているペースト及びインクなどの塗布によって、Cuを固着させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を形成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載されたパワーモジュール用基板の製造方法によって製造されたパワーモジュール用基板であって、
前記アルミニウム層において、前記セラミックス基板との界面から50μmの位置におけるCu濃度と、前記セラミックス基板との界面から100μmの位置におけるCu濃度と、の濃度差が0.1質量%以下とされており、
前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面には、Cu濃度が前記アルミニウム層中のCu濃度の2倍以上とされたCu高濃度部が形成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項8】
前記セラミックス基板がAlNで構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、O、Nの質量比が、Al:Cu:O:N=50〜90質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項9】
前記セラミックス基板がSi3N4で構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Si、Cu、O、Nの質量比が、Al:Si:Cu:O:N=15〜45質量%:15〜45質量%:1〜10質量%:2〜20質量%:25質量%以下とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項10】
前記セラミックス基板がAl2O3で構成されており、前記セラミックス基板と前記アルミニウム層との界面をエネルギー分散型X線分析法で分析したAl、Cu、Oの質量比が、Al:Cu:O=50〜90質量%:1〜10質量%:0〜45質量%とされていることを特徴とする請求項7の記載のパワーモジュール用基板。
【請求項11】
前記セラミックス基板の他方の面に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2アルミニウム層を有することを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−164708(P2012−164708A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21894(P2011−21894)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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