説明

パンタグラフすり板の摩耗検知装置

【課題】すり板の摩耗を正確に検知し、経費削減を図るとともに、摩耗による事故を未然に防止し、かつ車両の走行中のすり板の摩耗も検知する。
【解決手段】すり板18にすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗した際に断線する埋設光ケーブル19を埋設し、車両2には送信用光ケーブル24を介して埋設光ケーブル19に送信する光信号送信部21を設けるとともに、埋設光ケーブル19からの光信号を受信用光ケーブル35を介して受信して電気信号に変換する受信部26を設け、コントローラ27は受信部26からの信号が無くなったことによりすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンタグラフすり板の摩耗検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パンタグラフは、架線から集電するために車両に設けられている。図5(a),(b)は特許文献1に示されたパンタグラフの正面図及びその一部拡大斜視図であり、パンタグラフ1は車両2の屋根に絶縁碍子3を介して固定されており、屈曲上下動する菱形のフレーム4の下端は絶縁碍子3に連結され、フレーム4の上部には2枚のそり状の舟体5が取り付けられ、舟体5の上部には架線6と摺接して受電するすり板7が取り付けられている。8は舟体5間に設けられたホーン棒である。架線6はハンガー等で支持されており、振れ止め具等により固定されている。
【0003】
上記構成のパンタグラフ1において、すり板7は架線6との摺接により摩耗するので、定期的に取り変える必要がある。即ち、すり板7は厚さ10mmのものが一般的に使われているが、東海道新幹線の場合、通常1000Km走行するとすり板7が3mm程度摩耗することが経験的に知られている。特に雨の日等の条件の悪い場合には、東京〜博多間一往復(約2000Km)ですり板7が3mmも摩耗することがあり、すり板7の摩耗により事故が起こらないように安全性を考慮して、3mm摩耗した状態ですり板7の交換を行なっている。
【特許文献1】特開平8−79904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、従来では、厚さ10mmのすり板7が3mm摩耗した時点で交換していたので、車両によっては頻繁に取り換えることが必要になり、費用がかさむこととなった。又、適正な管理が行なわれていないので、無駄な取り換えも行なわれていた。従来、すり板7の摩耗検知装置としては、超音波検知方式と特許文献1にも示された画像検知方式とがあり、超音波検知方式では架線上に配置した空中超音波センサによりすり板の摩耗を検知し、画像検知方式ではカメラや照明等を用いてすり板の摩耗を検知しているが、車両が車両基地に戻った時点でのすり板の摩耗の確認を行なう程度であり、車両の走行中のすり板の摩耗検知を行なうまでには至っていなかった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、すり板を限界まで使用することができ、経費削減効果が得られるとともに、すり板の摩耗を正確に検知してすり板の摩耗による事故を未然に防止することができ、かつ車両の走行中のすり板の摩耗も検知することができるパンタグラフすり板の摩耗検知装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の請求項1に係るパンタグラフすり板の摩耗検知装置は、車両の屋根に設けられたパンタグラフの上部に設けられ、架線と摺接して受電するパンタグラフすり板において、すり板に埋設され、すり板が摩耗限界レベルまで摩耗した際に断線する第1の埋設光ケーブルと、車両に設けられ、第1の送信用光ケーブルを介して第1の埋設光ケーブルに光信号を送信する第1の光信号送信部と、車両に設けられ、第1の埋設光ケーブルからの光信号を第1の受信用光ケーブルを介して受信し、電気信号に変換して出力する第1の受信部と、第1の受信部からの信号が無くなったことによりすり板が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知する第1の摩耗検知部とを備えたものである。
【0007】
又、請求項2に係るパンタグラフすり板の摩耗検知装置は、すり板に埋設され、すり板が注意喚起レベルまで摩耗した際に断線する第2の埋設光ケーブルと、車両に設けられ、第2の送信用光ケーブルを介して第2の埋設光ケーブルに光信号を送信する第2の光信号送信部と、車両に埋設され、第2の埋設光ケーブルからの光信号を第2の受信用光ケーブルを介して受信し、電気信号に変換して出力する第2の受信部と、第2の受信部からの信号が無くなったことによりすり板が注意喚起レベルまで摩耗したことを検知する第2の摩耗検知部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のようにこの発明の請求項1によれば、すり板にすり板が摩耗限界レベル
まで摩耗した際に断線する第1の埋設光ケーブルを埋設し、この第1の埋設光ケーブルに第1の光信号送信部から光信号を送信するとともに、第1の受信部により第1の埋設光ケーブルからの光信号を受信しており、第1の受信部からの信号が無くなったことによりすり板が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知することができる。従って、すり板が摩耗限界レベルまで摩耗したことを正確に検知することができ、すり板を限界まで使用することができ、経費削減効果が得られるとともに、すり板の摩耗による事故を未然に防止することができ、安定輸送が確保できる。もちろん、車両の走行中のすり板の摩耗も検知することができる。又、光ケーブルを使用しているので、絶縁についての考慮をあまりする必要がなくなり、直流き電、交流き電に関係なく適用することができる。
【0009】
請求項2によれば、すり板にすり板が注意喚起レベルまで摩耗した際に断線する第2の埋設光ケーブルも埋設しており、第1及び第2の受信部は信号が無くなったことにより、すり板が注意喚起レベルまで摩耗したこと、及び摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知することができ、複数段階の摩耗検知情報を得ることができる。その他、請求項1と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施最良形態1
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図1はこの発明の実施最良形態1によるパンタグラフすり板の摩耗検知装置のシステム構成図、図2(a)〜(c)は実施最良形態1による光ケーブルを埋設したすり板の斜視図、平面図及び正面図、図3は同じくパンタグラフの構成図であり、パンタグラフ9は新幹線用低騒音シングルアーム式のものであり、車両2の屋根に伸縮自在に取り付けられている。即ち、車両2側に位置固定された主軸14に下枠16の一端が連結され、下枠16の他端にはヒンジ部38を介して上枠17の一端が連結され、上枠17の他端には舟体支持部13が支持され、舟体支持部13には舟体が上下動可能に支持され、舟体の上部には架線6と摺接して受電する厚さ10mmのすり板18が設けられている。15はパンタグラフ9を上昇させるための主ばねであり、その一端は車両2側に固定され、他端は主軸14側に連結されている。10は一端が車両2側に固定され、パンタグラフ9の形状を保つために設けられた釣合棒であり、釣合棒10の他端は上枠17のヒンジ部38側端部から一体に突出した突出部11に連結される。12は一端が舟体支持部13に連結され、舟体を水平に保つために設けられた平衡棒であり、その他端はヒンジ部38に連結される。すり板18にはすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗した際に断線する第1の埋設光ケーブル19が埋設され、埋設光ケーブル19の両端部には光コネクタ20が設けられている。
【0011】
21は車両2内に設けられた第1の光信号送信部であり、充電電池22、発光ダイオード23等からなり、第1の送信用光ケーブル24を介して第1の埋設光ケーブル19に光信号を送信する。第1の送信用光ケーブル24の一端は光コネクタ20に連結される。25は車両2内に設けられた通信部であり、第1の受信部26とコントローラ(第1の摩耗検知部)27と無線通信部28と運転台モニター表示部29とから構成され、第1の受信部26には、フォトダイオード30、増幅器31、基準電圧用電池32、比較器33及び出力端子34が設けられている。第1の受信部26は第1の埋設光ケーブル19からの光信号を一端が光コネクタ20に接続された第1の受信用光ケーブル35を介して受信し、この光信号を電気信号に変換して出力する。運転台モニター表示部29は、車両2の運転台に設けられている。車両2外に引き出された送信用及び受信用の光ケーブル24,35はパンタグラフ9の下枠16及び上枠17に沿ってすり板18まで配設される。
【0012】
次に、上記構成の動作を説明する。通常時は、光信号送信部21の発光ダイオード23から発生した光信号は送信用光ケーブル24を介して埋設光ケーブル19に送信され、この光信号は受信用光ケーブル35を介して第1の受信部26により受信する。第1の受信部26においては、フォトダイオード30により電気信号に変換し、比較器33において基準電圧と比較され、基準電圧以上であれば出力端子34からデジタル出力がコントローラ27に出力され、コントローラ27は埋設光ケーブル19の断線なしと判定し、コントローラ27からは無線通信部28を介して無線通信によりすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗していないことを車両基地管轄部所サーバ36等へ通報するとともに、すり板18が摩耗限界レベルまで摩耗していないことを運転台モニター表示部29に表示する。
【0013】
次に、パンタグラフ9が架線6との摺接により摩耗限界レベルまで摩耗すると、埋設光ケーブル19は断線し、光信号送信部21から送信された光信号は受信部26により受信されなくなる。従って、出力端子34からはデジタル出力が出力されなくなり、コントローラ27はすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したと判定し、摩耗検知信号を無線通信部28を介して車両基地管轄部所サーバ36等に通知するとともに、運転台モニター表示部29にすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したことを表示する。
【0014】
実施最良形態1においては、すり板18が摩耗限界レベルまで摩耗すると、すり板18に埋設した埋設光ケーブル19が断線するので、受信部26は光信号を受信しなくなる。これにより、コントローラ27はすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知する。従って、すり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したことを正確に検知することができ、すり板18を限界まで使用することができて経費を削減することができ、またすり板18の摩耗による事故を未然に防止することができる。又、車両2の走行中のすり板18の摩耗も検知することができる。さらに、すり板18の摩耗検知を光ケーブル19,24,35を介して行なっているので、絶縁が容易になり、架線6からのき電方式が直流き電(DC1500V)であっても、交流き電(AC20KV、AC30KV)であっても適用することができる。
【0015】
実施最良形態2
図4(a)〜(c)はこの発明の実施最良形態2によるすり板の斜視図、平面図及び正面図を示し、すり板18には実施最良形態1と同様にすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗した際に断線する第1の埋設光ケーブル19を埋設するとともに、すり板18が注意喚起レベルまで摩耗した際に断線する第2の埋設光ケーブル37も埋設する。第2の埋設光ケーブル37の端部にも光コネクタ20を設ける。又、図示しないが、図1の構成に加えて、車両2には、第2の送信用光ケーブルを介して第2の埋設ケーブル37に光信号を送信する第2の光信号送信部と、第2の埋設光ケーブル37からの光信号を第2の受信用ケーブルを介して受信し、電気信号に変換して出力する第2の受信部と、第2の受信部からの信号が無くなったことによりすり板18が注意喚起レベルまで摩耗したことを検知する第2の摩耗検知部である第2のコントローラを設ける。
【0016】
実施最良形態2においては、第2の受信部からの信号が無くなったことにより第2の埋設光ケーブル37が断線したことを検知し、すり板18が注意喚起レベルまで摩耗したことを検知し、また第1の受信部26からの信号が無くなったことによりすり板18が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知することができる。もちろん、無線通信部28による車両基地管轄部所サーバ36等への通報及び運転台モニター表示部29による表示も行なわれる。このように、複数段階の摩耗検知情報を得ることにより、すり板18の摩耗状況をより正確に検知することができるとともに、適用線区によって注意喚起レベルと摩耗限界レベルの使い分けを行なうことができる。その他の効果は実施最良形態1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施最良形態1によるパンタグラフすり板の摩耗検知装置のシステム構成図である。
【図2】実施最良形態1によるすり板の斜視図、平面図及び正面図である。
【図3】実施最良形態1によるパンタグラフの構成図である。
【図4】実施最良形態2によるすり板の斜視図、平面図及び正面図である。
【図5】特許文献1に示されたパンタグラフの正面図及びその一部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0018】
2…車両
6…架線
9…パンタグラフ
18…パンタグラフすり板
19,37…埋設光ケーブル
21…光信号送信部
24…送信用光ケーブル
26…受信部
27…コントローラ
28…無線通信部
29…運転台モニター表示部
35…受信用光ケーブル
36…車両基地管轄部所サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の屋根に設けられたパンタグラフの上部に設けられ、架線と摺接して受電するパンタグラフすり板において、すり板に埋設され、すり板が摩耗限界レベルまで摩耗した際に断線する第1の埋設光ケーブルと、車両に設けられ、第1の送信用光ケーブルを介して第1の埋設光ケーブルに光信号を送信する第1の光信号送信部と、車両に設けられ、第1の埋設光ケーブルからの光信号を第1の受信用光ケーブルを介して受信し、電気信号に変換して出力する第1の受信部と、第1の受信部からの信号が無くなったことによりすり板が摩耗限界レベルまで摩耗したことを検知する第1の摩耗検知部とを備えたことを特徴とするパンタグラフすり板の摩耗検知装置。
【請求項2】
すり板に埋設され、すり板が注意喚起レベルまで摩耗した際に断線する第2の埋設光ケーブルと、車両に設けられ、第2の送信用光ケーブルを介して第2の埋設光ケーブルに光信号を送信する第2の光信号送信部と、車両に設けられ、第2の埋設光ケーブルからの光信号を第2の受信用光ケーブルを介して受信し、電気信号に変換して出力する第2の受信部と、第2の受信部からの信号が無くなったことによりすり板が注意喚起レベルまで摩耗したことを検知する第2の摩耗検知部とを備えたことを特徴とする請求項1記載のパンタグラフすり板の摩耗検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−129656(P2006−129656A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317522(P2004−317522)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】