説明

フィルム状接着剤及び異方導電性接着剤

【課題】混合が容易であり、可撓性が高く接着力を高めることができるフィルム状接着剤を提供すること。
【解決手段】分子量が30,000以上のビスフェノールA型フェノキシ樹脂、分子量が500以下のエポキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、ゴム変性エポキシ樹脂、及び潜在性硬化剤を必須成分とするフィルム状接着剤。メタクリル酸グリシジル共重合体のエポキシ当量は1000以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、回路等を設けた基板や電子部品等を接着し、かつ電気的に接続するためのフィルム状接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高機能化の流れの中で、構成部品における接続端子の狭小化が進んでいる。このため、エレクトロニクス実装分野においては、そのような端子間の接続を容易に行える種々のフィルム状接着剤が使用されている。例えばICチップとフレキシブルプリント配線板(FPC)、ICチップとITO(Indium−Tin−Oxide)電極回路が形成されたガラス基板、等の接合に使用されている。
【0003】
フィルム状接着剤としては、樹脂組成物中に導電性粒子を含有する異方導電性接着剤(ACF:Anisotoropic Conductive film)と導電性粒子を含有しない非導電性フィルム(NCF:Non Conductive film)がある。どちらも接続対象の間に挟まれ、加熱、加圧されて接続対象を接着する。異方導電性接着剤では、加熱、加圧により接着剤中の樹脂が流動し、それぞれの接続対象上の相対峙する電極間の間隙を封止すると同時に導電性粒子の一部が対峙する電極間に噛み込まれて電気的接続が達成される。非導電性フィルムの場合は、加熱、加圧により樹脂成分が流動することで接続対象である電極同士が直接接触して電気的接続が達成される。これらのフィルム状接着剤では、厚み方向に相対峙する電極間の抵抗(接続抵抗)を低くするという導通性能と、面方向に隣り合う電極間の抵抗(絶縁抵抗)を高くするという絶縁性能が必要とされている。
【0004】
またフィルム状接着剤は液晶表示装置(LCD)等の精密機器周辺の接続に使用されるため高い接続信頼性が要求されている。そこで導通/絶縁性能に加え、耐環境性が求められており、たとえば高温高湿試験やヒートサイクル試験等によりその性能を評価している。
【0005】
フィルム状接着剤を構成する絶縁性の樹脂組成物としては、主にエポキシ系の熱硬化性樹脂組成物が用いられている。例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と硬化剤を組み合わせた樹脂組成物が広く使用されている。
【0006】
エポキシ樹脂は耐熱性、耐湿性に優れているが、この硬化物は非常に脆く靱性(可撓性)に欠けている。そのため、クラックの発生によって剥離を生じる場合があり、接着力が低くなる。またエポキシ樹脂は接続時の熱により硬化収縮することで接着力を発現するが、この硬化収縮によって接着界面や接着剤内部に応力が発生する。硬化収縮時の応力は接着剤の貯蔵弾性率に比例して増大するが、エポキシ樹脂は硬化後の貯蔵弾性率が高いことから硬化収縮時の応力が高くなり、接着界面や接着剤内部に残留応力が残り、その後高温高湿状態に解放されると界面剥離が生じることになる。
【0007】
上記のエポキシ樹脂の欠点を補うために、アクリルゴム、NBR等のゴム系材料やアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂をエポキシ樹脂と併用し、フィルム状接着剤に可撓性を付与している。たとえば特許文献1では、可撓性を付与する成分としてエポキシ化ポリブタジエンを用い、ナフタレン系エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂と併用した異方導電性の回路接続用部材が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特許第4110589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
可撓性を付与するための上記の材料はエポキシ樹脂との相溶性が非常に低く、このような材料を用いたフィルム状接着剤では、エポキシ樹脂とゴム材料等とが完全に溶解した状態ではなく、ゴム材料等の中にエポキシ樹脂が分散した、いわゆる海島構造と呼ばれる状態となっている。このような分散状態を作るためにはフィルム状接着剤を構成する成分を充分に混合する必要があり、特殊な攪拌装置を使って混合したり、製造条件を厳しく管理する必要がある。
【0010】
特許文献1では、可撓性を付与する成分に官能基(エポキシ基)を付与したエポキシ化ポリブタジエンを用いてエポキシ樹脂との相溶性を高めているが、その分子量に比べて官能基の割合が低いためその効果は低い。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決し、可撓性が高く接着力を高めることができると共に、その構成成分の混合が容易であるフィルム状接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分子量が30,000以上のビスフェノールA型フェノキシ樹脂、分子量が500以下のエポキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、ゴム変性エポキシ樹脂、及び潜在性硬化剤を必須成分とするフィルム状接着剤である(請求項1)。
【0013】
メタクリル酸グリシジル共重合体は、メタクリル酸グリシジルと他の共重合モノマーとを共重合させたポリマーであり、ポリマー主鎖に対して枝状にエポキシ基を有している。そのため、エポキシ樹脂との相溶性が高くなり、相分離が起こりにくくなるのでエポキシ樹脂との混合が容易である。また柔軟な成分であるため、フィルム状接着剤に可撓性を付与でき、接着力を向上できる。
【0014】
上記の成分に加えて、フィルム状接着剤には、さらにゴム変性エポキシ樹脂を含有する。ゴム変性エポキシ樹脂は、前記メタクリル酸グリシジル共重合体と同様に柔軟な成分であり、ゴム変性エポキシ樹脂とメタクリル酸グリシジル共重合体とを組み合わせて使用することで、さらにフィルム状接着剤の可撓性を高めることができる。ゴム変性エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の合計量に対して1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
【0015】
ゴム変性エポキシ樹脂は骨格にゴムおよび/またはポリエーテルを有するエポキシ樹脂であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、カルボキシ基変性ブタジエン−アクリロニトリルエラストマーと分子内で化学的に結合したエポキシ樹脂(CTBN変性エポキシ樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム変性エポキシ樹脂(NBR変性エポキシ樹脂)、ウレタン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂等のゴム変性エポキシ樹脂が例示される。これらは単独で使用しても良く、二種類以上を併用しても良い。
【0016】
上記ゴム変性エポキシ樹脂の中でもNBR変性エポキシ樹脂を用いると、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂との相溶性に優れ、好ましい。
【0017】
メタクリル酸グリシジル共重合体のエポキシ当量は1000以下とすることが好ましい(請求項2)。エポキシ当量が大きい、すなわち分子鎖中のエポキシ基の数が少ないとエポキシ樹脂との相溶性が低くなる。また分子鎖中のエポキシ基は、硬化時にエポキシ樹脂と反応して網目構造をつくることができ、その結果、高温高湿条件下での熱膨張を抑制でき、長期接続信頼性に優れる。エポキシ当量が1000より大きいと、エポキシ樹脂との反応点が少ないことから効果的な網目構造をつくることができなくなり、耐熱、耐湿性が劣る。
【0018】
メタクリル酸グリシジル共重合体のガラス転移温度(Tg)は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂のガラス転移温度よりも低いことが好ましい(請求項3)。一般的に、耐熱性及び耐湿性の向上のためには、フィルム状接着剤に含まれる樹脂成分の硬化後のガラス転移温度を高くすることが必要である。ガラス転移温度が高いと高温域での熱膨張率が低減し、高温・高湿環境での特性変化が少なくなるからである。
【0019】
硬化後のガラス転移温度を高くするための方法として、ガラス転移温度の高いフェノキシ樹脂が樹脂成分として使用されることが多い。フィルム状接着剤は接続対象の間に挟まれ、加熱、加圧されて接続対象を接着するが、ガラス転移温度が高いフェノキシ樹脂は加熱、加圧時に充分な流動特性を有さないため、接続対象である電極間に樹脂成分が必要量以上に残留し、残留した樹脂成分が硬化したものが絶縁被膜を形成して接続不良の原因となる場合がある。そこで、フェノキシ樹脂のガラス転移温度よりもガラス転移温度が低いメタクリル酸グリシジル共重合体を使用すると、フィルム状接着剤全体の流動特性を向上させることができる。なお、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した値とする。
【0020】
メタクリル酸グリシジル共重合体はメタクリル酸グリシジルと他の共重合モノマーとを共重合させたポリマーであるが、他の共重合モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エステル等のアクリル酸誘導体、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸誘導体、または、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体等が例示できる。他の共重合体モノマーとしてアクリル酸誘導体を使用すると、メタクリル酸グリシジル共重合体とエポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂との相溶性を高めることができ、好ましい。
【0021】
メタクリル酸グリシジル共重合体の分子量は特に制限されないが、エポキシ樹脂との相溶性を考慮すると、重量平均分子量が10万以下のものが好ましい。
【0022】
メタクリル酸グリシジル共重合体の含有量は、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の合計量に対して1重量%以上30重量%以下であることが好ましい。メタクリル酸グリシジル共重合体樹脂の含有量が30%を超えると硬化後の耐熱性が不充分となるからである。また1重量%未満であると、充分な可撓性向上効果が得られず、接着力が低下する。なお、ここでいう樹脂成分とは、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、ゴム変性エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を指すものとする。
【0023】
本発明に使用するエポキシ樹脂は、加熱時に速やかに硬化剤と反応し接着性能を発現するものである。エポキシ樹脂の種類は特に限定されないが、ビスフェノールA、F、S、AD等を骨格とするビスフェノール型エポキシ樹脂等の他、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が例示される。
【0024】
エポキシ樹脂の分子量は500以下とする。低分子量のエポキシ樹脂を使用することで、架橋密度が高まって接着性能を高めることができる。また、加熱時に、硬化剤と速やかに反応するため、接着力が高まる。
【0025】
本発明に使用するフェノキシ樹脂は、前記エポキシ樹脂の中でも高分子量のものである。本発明では分子量30,000以上のビスフェノールA型フェノキシ樹脂を使用する。高分子量のフェノキシ樹脂を使用することでフィルム成形性が高くなる。また接続温度における樹脂の溶解粘度を高くでき、後述の導電性粒子の配向を乱すことなく接続できる効果がある。
【0026】
このように低分子量のエポキシ樹脂と高分子量のフェノキシ樹脂を組み合わせて使用することによって、フィルム状接着剤の性能のバランスを取ることが可能となる。エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂の配合比は、エポキシ樹脂/フェノキシ樹脂=10/90〜70/30とすると好ましい。なお、分子量は、THF展開のゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)から求められたポリスチレン換算の重量平均分子量のことをいう。
【0027】
本発明に使用する潜在性硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知のものを適宜選択して使用することができる。潜在性硬化剤は低温での貯蔵安定性に優れ、室温ではほとんど硬化反応を起こさないが、加熱等により所定の条件とすると速やかに硬化反応を行う硬化剤である。潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン系、第3級アミン、アルキル尿素系等のアミン系、ジシアンジアミド等、及びこれらの変性物が例示され、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。
【0028】
前記の潜在性硬化剤の中でも、イミダゾール系潜在性硬化剤が好ましく使用される。イミダゾール系潜在性硬化剤としては、公知のイミダゾール系潜在性硬化剤を使用することができ、具体的にはイミダゾール化合物のエポキシ樹脂との付加物が例示される。イミダゾール化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾールが例示される。
【0029】
さらに、これらの潜在性硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系等の高分子物質や、ニッケル、銅等の金属薄膜及びケイ酸カルシウム等の無機物で被覆してマイクロカプセル化したものは長期保存性と速硬化性という矛盾した特性の両立をより充分に達成するため好ましい。従って、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が特に好ましい。
【0030】
前記エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体等の樹脂成分と潜在性硬化剤の配合割合は、樹脂成分の合計重量に対し、5〜90重量%とするのが好ましい。潜在性硬化剤の割合が5重量%より少ない場合、硬化速度が低下し、硬化が不十分になる場合がある。また90重量%より多い場合、未反応の硬化剤が残留しやすくなり、耐熱、耐湿性を低下させる場合がある。
【0031】
フィルム状接着剤には、さらに導電性粒子を含有すると好ましい(請求項4)。導電性粒子を含有したフィルム状接着剤は異方導電性接着剤として使用可能である。導電性粒子としては、金、銀、銅、ニッケル及びそれらの合金などの金属粒子、カーボン等が挙げられる。又、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック、金属酸化物等の核の表面に、金属やITO等を被覆して導電層を形成したものでも良い。導電性粒子の形状は特に限定されず、球状の粒子や細長い針状の粒子を使用することができる。
【0032】
導電性粒子として、径と長さの比(アスペクト比)が5以上の導電性粒子を用いると、導電性粒子の含有量を増やすことなく接続抵抗を低くすることができ、良好な電気的接続を達成出来ると共に、面方向の絶縁抵抗をより高く保つことができ好ましい。導電性粒子のアスペクト比はCCD顕微鏡観察等の方法により直接測定する。図1(a)に示すように導電性粒子1の径Rと長さLの比である。導電性粒子は必ずしもまっすぐな形状を有する必要はなく、多少の曲がりや枝分かれがあっても問題なく使用できる。この場合は、図1(b)に示すように、導電性粒子の最大長(図中の矢印の長さ)を長さLとしてアスペクト比を求める。また導電性粒子の径とは、長さ方向に垂直な断面の径である。断面が円で無い場合は断面の最大長さを導電性粒子の径とする。
【0033】
アスペクト比が5以上の導電性粒子としては、市販の針状導電性粒子を使用することができる。また微細な金属粒子を多数つなげて針状に形成したものも好ましく使用できる。アスペクト比が10〜100であると更に好ましい。また導電性粒子の径が1μm以下であると、いわゆるファインピッチ電極の接続が可能となり好ましい。
【0034】
微細な金属粒子を形成する金属としては、Fe、Ni、Co等の強磁性を有する金属の単体又は強磁性を含む金属を含む複合体が挙げられる。強磁性を有する金属を用いると、それ自体が有する磁性により配向し、また後述するように磁場を用いて導電性粒子の配向を行うことができる。
【0035】
上記のアスペクト比が5以上の導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向していると、異方導電性がさらに向上するので好ましい(請求項5)。なお、厚み方向に配向とは、導電性粒子の長手方向がフィルムの面に対して垂直方向に並んだ状態になっていることをいう。図2は、導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向している状態を示す断面模式図である。針状の導電性粒子1は、フィルム状接着剤の樹脂成分2の中で、フィルムの厚み方向(図中の矢印方向)に配向している。導電性粒子をフィルムの厚み方向に配向させる方法は特に限定されないが、前記のような強磁性を有する導電性粒子を用いる場合は、導電性粒子を樹脂用液中に分散し、得られた分散溶液を下地面と交差する方向に磁場を印加した下地上に塗布して、該導電性粒子を配向させ、下地上で溶媒の除去等により固化、硬化させて配向を固定する方法が好ましく例示される。
【0036】
導電性粒子の含有量は、フィルム状接着剤の全体積に対して0.01〜30体積%の範囲から選ばれ、用途により使い分ける。過剰な導電性粒子による面方向の絶縁性能低下を防ぐためには、0.01〜10体積%とするのがより好ましい。
【0037】
本発明のフィルム状接着剤には、本発明の趣旨を損なわない範囲で、前記の必須成分に加えて、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を添加することが可能である。また硬化促進剤、重合抑制剤、増感剤、シランカップリング剤、難燃化剤、チキソトロピック剤等の添加剤を含有しても良い。
【0038】
本発明のフィルム状接着剤は、前記の各成分を混合することにより得ることができる。本発明に使用するメタクリル酸グリシジル共重合体はエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂との相溶性に優れるため、特別な攪拌装置を使用しなくても容易に混合可能である。例えば前記エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、潜在性硬化剤等と溶媒を容器に入れ、遠心攪拌ミキサーによる単純混合を数分行うことで容易に樹脂成分の溶液を作成できる。この溶液をロールコーター等で塗工して薄い膜を形成し、その後溶媒を乾燥等により除去することによりフィルム状接着剤が得られる。
【0039】
導電性粒子を用いる場合は、樹脂成分の溶液中に導電性粒子を加えて分散させた分散液を用いて同様に塗工して膜を形成し、その後溶媒を乾燥等により除去してフィルム状接着剤を作製することができる。導電性粒子を配向させるためには、膜の形成時に、フィルム状接着剤の厚み方向にかけた磁場の中を通過させると良い。磁場の中を通過する際に導電性粒子が配向し、その後溶媒を除去する工程で配向した導電性粒子の状態が固定化される。フィルム状接着剤の膜厚は特に制限されないが、通常10〜50μmである。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、可撓性が高く接着力を高めることができると共に、その構成成分の混合が容易であるフィルム状接着剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
(塗工溶液の作製)
フェノキシ樹脂としてビスフェノールA型のエポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート1256(分子量約5万、Tg約98℃)]、エポキシ樹脂としてビスフェノールF型の液状エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート806(分子量約350)]、メタクリル酸グリシジル共重合体として、メタクリル酸グリシジルのスチレン系共重合体[日本油脂(株)製マープルーフG−0250S(エポキシ当量310、分子量約2万、Tg約74℃)]、ゴム変性エポキシとしてNBR変性エポキシ[DIC(株)TSR960]、潜在性硬化剤としてマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤[旭化成エポキシ(株)製、ノバキュアHX3932]とを、重量比で50/20/15/15/30の割合で用い、これらの材料にカルビトールアセテートと酢酸ブチルの混合溶媒(混合比率は重量比で1:1)を加えた後、遠心攪拌ミキサーによる単純混合を3分行って個稀有分60%の樹脂溶液を作製した。この樹脂用液に、導電性粒子として、1μmから12μmまでの長さ分布を有する針状ニッケル粒子(アスペクト比:5〜60)を、固形分の総量(樹脂組成物+ニッケル粉末)に対して0.2体積%となるように添加し、さらに遠心攪拌ミキサーを用いて3分間攪拌することで均一分散し、接着剤用の塗工溶液を調製した。
【0043】
(フィルム状接着剤の作製)
上記で調整した塗工溶液を、離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、磁束密度100mTの磁場中、60℃で30分間乾燥、固化させることによって、厚み20μmのフィルム状のフィルム状接着剤を得た。
【0044】
(接続抵抗評価)
幅50μm、高さ16μmの金メッキした銅回路が50μm間隔で124本個配列されたFPCと、幅150μmのITO回路が50μm間隔で形成されたガラス基板とを準備した。その後両者を、連続する124カ所の接続抵抗が測定可能なデイジーチェーンを形成するように向かい合わせて配置し、FPCとガラス基板との間に前記で得られたフィルム状接着剤挟み、190℃に加熱しながら5MPaの圧力で12秒間加圧して接着させ、FPCとがら空きバントの接合体を得た。この接合体において、ITO電極、フィルム状接着剤、及び金メッキ銅回路を介して接続された連続する124箇所の抵抗値を四端子法により求め、その値を124で除することによって1箇所当たりの接続抵抗を求めた。
【0045】
(耐熱・耐湿試験)
上記のFPCとガラス基板の接合体を温度85℃、湿度85%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、100時間経過後に取り出し、再び前記と同様にして接続抵抗値を測定した。
【0046】
(接着力評価)
上記のFPCとガラス基板の接合体において、オートグラフAG−500G[(株)島津製作所製]を使用して、FPCを引きはがし、90°剥離強度を測定した。なお接着力は、初期のものと、耐熱・耐湿試験後のものの両方で行った。
【0047】
(比較例1)
ゴム変性エポキシ樹脂を添加せず、各成分の配合割合をフェノキシ樹脂/エポキシ樹脂/メタクリル酸グリシジル共重合体/潜在性硬化剤=50/20/30/30としたこと以外は実施例1と同様にして厚みが20μmのフィルム状接着剤を作製し、一連の評価を行った。
【0048】
(比較例2)
メタクリル酸グリシジル共重合体を添加せず、各成分の配合割合をフェノキシ樹脂/エポキシ樹脂/ゴム変性エポキシ樹脂/潜在性硬化剤=50/20/30/30としたこと以外は実施例1と同様にして厚みが20μmのフィルム状接着剤を作製し、一連の評価を行った。
【0049】
(比較例3)
メタクリル酸グリシジル共重合体の代わりに、OH末端を有するアクリルゴム[根上工業(株)製AS−3000E]を使用したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム状接着剤の作製を試みたが、3分間の遠心攪拌ではエポキシ樹脂とアクリルゴムとがうまく混合せず、樹脂溶液が分離してシートの作製はできなかった。以上の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明のフィルム状接着剤を用いた実施例1では、接続抵抗が低く、また高温高湿の環境で100時間経過後も抵抗値はさほど上昇していなかった。また接着力も初期、高温高湿後共に良好であった。
【0052】
比較例1では、ゴム変性エポキシを添加していないため、反応速度が低下し、硬化が充分に進まなかったと思われる。従って接続抵抗、接着力共に初期の特性は良いが高温高湿試験後には特性が低下している。比較例2はメタクリル酸グリシジルコポリマーを添加していないため、接着剤の可撓性が充分に得られない。従って実施例1に比べると、初期、高温高湿試験後共に接着力が低くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に使用する導電性粒子のアスペクト比の測定方法を説明するための模式図である。
【図2】導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向している状態を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1 導電性粒子
2 樹脂成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が30,000以上のビスフェノールA型フェノキシ樹脂、分子量が500以下のエポキシ樹脂、メタクリル酸グリシジル共重合体、ゴム変性エポキシ樹脂、及び潜在性硬化剤を必須成分とするフィルム状接着剤。
【請求項2】
前記メタクリル酸グリシジル共重合体のエポキシ当量が1000以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
前記メタクリル酸グリシジル共重合体のガラス転移温度が、前記ビスフェノールA型フェノキシ樹脂のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
さらに導電性粒子を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項5】
前記導電性粒子は、径と長さの比(アスペクト比)が5以上であり、フィルムの厚み方向に配向していることを特徴とする、請求項4に記載のフィルム状接着剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150362(P2010−150362A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329286(P2008−329286)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】