説明

フレキシブルフラットケーブル及びフレキシブルプリント配線基板

【課題】コネクタとの嵌合など大きな外部応力がかかる環境下においても、コネクタの端子およびフレキシブルフラットケーブルの導体に形成されるめっき層やはんだから、ウィスカが発生するおそれの少ない、あるいは発生してもその長さが50μm未満であり、かつ優れた耐屈曲特性を備えたフレキシブルフラットケーブルを提供する。
【解決手段】Sn系めっき層を被覆した端子12を備えたコネクタ11に嵌合され、端子12と接する導体16が内部に配設されたフレキシブルフラットケーブル13において、導体16の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、素線とSn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線用導体または端末接続部として電気機器に使用されるフレキシブルフラットケーブル及びフレキシブル配線基板に係り、特にコネクタに嵌合されて使用されるフレキシブルフラットケーブル及びフレキシブル配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配線材、特に銅や銅合金の表面には、配線材の酸化を防ぐために、Sn,Ag,AuやNiのめっきが施される。
【0003】
例えば、図1に示すように、コネクタ(コネクタ部材)11と、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCという)13およびフレキシブルプリント配線基板(以下、FPCという)14の端部15においては、コネクタ11の端子(金属コネクタピン)12や、FFC13およびFPC14の導体16の表面などにめっきが施されている。中でも、Snはコストが安価であり、軟らかく嵌合の圧力で容易に変形し接触面積が増え接触抵抗が低く抑えられることから、導体16および端子12の表面にSnめっきを施したものが広く一般的に使用されている。
【0004】
このSnめっき用合金として、従来は耐ウィスカ性が良好なSn−Pb合金が用いられてきたが、近年は環境面での対応の観点から、Pbフリー材(非鉛材)、ノンハロゲン材の使用が求められており、配線材に使用される各種材料に対してもPbフリー化、ノンハロゲン化が求められている。
【0005】
ところがSnめっきのPbフリー化に伴って、特にSnまたはSn系合金めっきにおいては、Snの針状結晶であるウィスカがめっきから発生し、ウィスカによる隣接配線間の短絡事故が問題となっている。特に、パッケージを高密度化すべく隣接配線間の配設ピッチが数百μm以下とされる近年のFFC13およびFPC14においては、隣接配線間の短絡を防止するため、ウィスカ長さは最大でも50μm未満とする必要がある。
【0006】
ウィスカの発生原因の一つとして考えられているSnめっき中の応力を緩和させるため、電気メッキしたSnをリフロー処理することにより、ウィスカの発生を低減させることが可能であるとされている。
【0007】
しかし、コネクタとの嵌合など新たな外部応力がかかる場合は、リフロー処理を施してもウィスカの発生を抑えることができない。
【0008】
この問題に対し、Snめっきに2〜4mass%のBiを添加した合金めっきによりウィスカを抑制することが提案されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−343594号公報
【特許文献2】特開2000−54189号公報
【特許文献3】特開2002−141457号公報
【特許文献4】特開2007−46150号公報
【特許文献5】特開2007−184142号公報
【特許文献6】特開2008−113003号公報
【特許文献7】特開2010−15692号公報
【特許文献8】特開2003−86024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、本発明者らの検討により、FFCを嵌合するコネクタの端子上のSn系めっき層の厚さによっては、FFC側の導体上に例えば2〜4mass%のBiを含有したSn−Bi合金めっき層を被覆しても、コネクタの端子側のSn系めっき層から最大長さ50μm以上の長いウィスカが成長することが確認されている。
【0011】
また、一方で、Biの添加量を15mass%以上とすると、めっき層が硬くなり、ひび割れなどの不都合が生じやすくなり、耐屈曲特性が低下してしまうことが報告されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【0012】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、特にコネクタとの嵌合など大きな外部応力がかかる環境下においても、コネクタの端子およびフレキシブルフラットケーブルの導体に形成されるめっき層やはんだから、ウィスカが発生するおそれの少ない、あるいは発生してもその長さが50μm未満であり、かつ優れた耐屈曲特性を備えたフレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、Sn系めっき層を被覆した端子を備えたコネクタに嵌合され、前記端子と接する導体が内部に配設されたフレキシブルフラットケーブルにおいて、前記導体の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、前記素線と前記Sn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、前記Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であるフレキシブルフラットケーブルである。
【0014】
前記端子のSn系めっき層の厚さは、前記導体のSn−Bi系めっき層の厚さよりも薄くされてもよい。
【0015】
また本発明はSn系めっき層を被覆した端子を備えたコネクタに嵌合され、前記端子と接する導体が内部に配設されたフレキシブルプリント配線基板において、前記導体の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、前記素線と前記Sn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、前記Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であるフレキシブルプリント配線基板である。
【0016】
前記端子のSn系めっき層の厚さは、前記導体のSn−Bi系めっき層の厚さよりも薄くされてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コネクタとの嵌合など大きな外部応力がかかる環境下においても、コネクタの端子およびフレキシブルフラットケーブルの導体に形成されるめっき層やはんだから、ウィスカが発生するおそれの少ない、あるいは発生してもその長さが50μm未満であり、かつ優れた耐屈曲特性を備えたフレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルプリント配線基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明が適用されるFFCおよびFPCとコネクタとの接続構造を示す図である。
【図2】従来のFFPおよびFPCとコネクタとの嵌合部からウィスカが発生する様子を示す図である。
【図3】本発明にかかる導体表面のAES深さ方向分析結果例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、フレキシブルフラットケーブル(FFC)およびフレキシブルプリント配線基板(FPC)をコネクタに嵌合する接続構造を示す図である。
【0021】
図1に示すように、複数の導体16が所定の間隔で並行に配列され、その両面を、絶縁フィルム17でラミネートされてなるFFC13またはFPC14の端部15は、導体16が絶縁フィルム17から露出されており、端部15がコネクタ11に嵌合されると、コネクタ11が備える端子12とFFC13およびFPC14の導体16とが接触して、端子12と導体16とが電気的に接続される。
【0022】
導体16の素線はCuまたはCu合金からなる。また、導体16の素線の周囲と、端子12の端子部材の周囲には、耐酸化性を向上させるために、Sn系めっき層が形成されている。
【0023】
FFC13またはFPC14と、コネクタ11との接続は、導体16が端子12から受ける外部応力によって拘束されて為されており、Sn系めっき層に外部応力がかかると、その応力を緩和すべく、図2に示すように、導体16と端子12との接点(嵌合部)近傍からSnの針状結晶であるウィスカ18が発生・成長する。ウィスカ18の成長が進行すると、隣接する配線から成長したウィスカ18と接するなどし、隣接配線間の短絡事故が発生するおそれがある。
【0024】
そこで従来から導体16からのウィスカ18の発生・成長を抑制するために、Sn系めっき層にBiを添加したSn−Bi系めっき層を導体16に用いることが行われている。このとき、過剰なBiの添加はFFC13およびFPC14の耐屈曲特性を低下させるため、Biの添加量は数mass%程度とされてきた。
【0025】
一方、本発明者らが鋭意研究した結果、FFC13およびFPC14と、コネクタ11との接続構造においては、導体16からのウィスカ18の発生を抑制することに加えて、コネクタ11の端子12から成長するウィスカ18を抑制することが重要であることが分かった。ウィスカ18の成長に寄与するSn原子はSn系めっき層から供給されており、FFC13およびFPC14の導体16と比較して、めっき厚さを大きくされることが多いコネクタ11の端子12には、より長いウィスカ18が成長しやすいことが原因である。そのため、FFC13およびFPC14の導体16のSn系めっき層にBi濃度が数mass%のSn−Bi系めっき合金を用いても、コネクタ11の端子12からウィスカ18が発生するため、十分な耐ウィスカ特性が得られないことが分かった。
【0026】
そこで本発明者らは、導体16のSn−Bi系めっき層のBi濃度を変化させ、Bi濃度と、コネクタ11の端子12の耐ウィスカ特性との関係について鋭意検討した結果、導体16のSn−Bi系めっき層中のBi濃度を10mass%以上、好ましくは20mass%以上、より好ましくは30mass%以上とすることで、十分な耐ウィスカ特性が得られることが判明した。これは、FFC13およびFPC14の導体16のSn−Bi系めっき層のBi濃度を高濃度にすることによって、コネクタ11との嵌合部において、端子12のSn系めっき層へ導体16側から拡散するBiの量が増大し、端子12側で発生するウィスカ18を抑制したものと考えられる。
【0027】
ところで、Sn−Bi系めっき層のBi濃度を高濃度化すると、めっき層が硬く脆くなり、FFC13およびFPC14の重要な特性である耐屈曲特性が劣化することが懸念される。しかし本発明者らは、実際に屈曲特性を決定する支配因子は、Sn系めっき層とCu素線との間に形成される金属間化合物層(Cu3Sn系およびCu6Sn5系)の厚さであり、Sn−Bi系めっき層中のBi濃度には依存しないことを見出した。また、この金属間化合物層の合計厚さを1μm以下とすれば、良好な屈曲特性が得られることが分かった。なお、金属間化合物層は、通電焼鈍をしなくても、室温状態で厚さ0.3μm程度は形成されているため、事実上、金属間化合物層の厚さは0.3μm以上となる。
【0028】
以上の検討結果を踏まえた本実施の形態にかかるFFC13およびFPC14は、導体16の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、素線とSn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であることを特徴とする。
【0029】
導体16にSn−Bi系めっき層を形成する際において、初期のBi濃度は必ずしも10mass%以上とならなくても良い。これは、導体16の製造工程において、めっき処理後のリフロー処理あるいはアニール処理により、めっき層とCu素線との界面でSn−Cu系金属間化合物相が成長してめっき層中のSnが消費されるため、Sn−Bi系めっき層中のBi濃度が初期より上昇するからである。したがって、この熱処理後における導体16のSn−Bi系めっき層中のBi濃度が10mass%以上であればよい。
【0030】
また、Sn−Bi系めっき層にZnを添加することも有効であるが、Znの添加量が多すぎると、Sn−Bi系めっき層の表面(すなわち導体16の表面)に形成されるZn酸化膜層が厚くなり、導体16と端子12との接触抵抗の増大や耐ウィスカ特性の劣化があるため、Zn添加量は微量(数mass%)とする。
【0031】
コネクタ11の端子12に形成されるSn系めっき層としては、例えば、純Snめっき、Sn−Bi系めっき、Sn−Cu系めっき、Sn−Ag系めっきなどを使用することができる。コネクタ11側のSn系めっき層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば0.5μm〜7μm程度のものを使用することができる。
【0032】
他方、FFC13およびFPC14の導体16に形成されているSn−Bi系めっき層の厚さは、コネクタ11の端子12に形成されているSn系めっき層の厚さよりも小さくされる。
【0033】
以上要するに、本発明によれば、FFC13およびFPC14の導体16に形成されているSn−Bi系めっき層のBi濃度を10mass%以上とすることで、導体16側からコネクタ11の端子12に形成されているSn系めっき層にBiが拡散し、端子12で発生するウィスカ18を抑制できる。このため、コネクタ11の構成を何ら変更することなく、FFC13およびFPC14をコネクタ11に嵌合してなる接続構造の耐ウィスカ特性を良好なものとすることができる。
【0034】
また、導体16の素線と、Sn−Bi系めっき層との間に形成されている金属間化合物層の合計厚さが1μm以下であるため、FFC13およびFPC14の耐屈曲特性を劣化させることなく、耐ウィスカ特性を改善できる。
【0035】
本発明は上記の実施の形態に限られるものではなく、例えば、はんだ接合により構成される接続構造に適用することも可能である。この場合、Sn系はんだ合金を用いたはんだ接合後の、接合部におけるBi濃度が10mass%以上であると、接合部におけるウィスカの発生と成長を抑制することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0037】
Snに微量のZn、並びに種々の濃度のBiを添加しためっき合金を作製し、溶融めっき装置を用いて、Φ0.6mmのCu線の周囲に厚さ5μmのめっき膜を施した。その後、冷間伸線・圧延工程を経て厚さ0.035mm、幅0.3mmの平角線を作製した。次いで通電アニーラを使用して種々の条件でリフロー処理を施した。作製した導体は、耐屈曲性試験(左右90°、曲げR=5mm)を行い、屈曲破断回数を調査した。また、AES深さ方向分析により、導体表面からの各元素の濃度分布を求め、図3に示すように、金属間化合物層・Sn−Bi系めっき層の厚さや、Sn−Bi系めっき層中のBi濃度(平均濃度)を求めた。
【0038】
次に、これら作製した導体を50本、0.5mmピッチで並行に配列し、その両面を、ポリエステル系接着剤層を片面に有するポリエステルフィルムでラミネートし、フレキシブルフラットケーブル(FFC)を作製した。作製したFFC各5枚(250pin)を、Sn系めっき層厚さ2μmの端子を備えるコネクタと嵌合し、室温に250hr放置した。その後、FFCをコネクタから外し、FFC側およびコネクタ側の嵌合部で発生・成長したウィスカをSEMで測長し、その最大長を求めた。
【0039】
作製した各導体の金属間化合物層厚さ、Sn−Bi系めっき層の厚さおよびBi濃度と、各導体を用いて作製したFFCの屈曲破断回数、最大ウィスカ長との関係を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、Bi濃度が10mass%以下である従来例1,2のFFCは、最大ウィスカ長が50μm以上であった。
【0042】
これに対し、導体のSn−Bi系めっき層中のBi濃度が10mass%以上である実施例1〜4のFFCは、最大ウィスカ長が50μm未満と良好な耐ウィスカ特性を示しており、Bi濃度が高くなるほどウィスカの成長が抑制された。また、金属化合物層の厚さが1μm以下である実施例1〜4のFFCは、屈曲破断回数が2万回以上と良好な耐屈曲特性を示しており、Bi濃度が高くなることによる屈曲特性の劣化は見られなかった。
【0043】
一方、通電アニーラの条件を変えて焼鈍を強くし、金属間化合物層の厚さを大きくした比較例1では、Bi濃度が高いため耐ウィスカ特性は良好であるが、屈曲破断回数が8千回程度と、耐屈曲特性が劣化している。
【符号の説明】
【0044】
11 コネクタ
12 端子
13 フレキシブルフラットケーブル
16 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn系めっき層を被覆した端子を備えたコネクタに嵌合され、前記端子と接する導体が内部に配設されたフレキシブルフラットケーブルにおいて、
前記導体の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、前記素線と前記Sn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、前記Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
前記端子のSn系めっき層の厚さは、前記導体のSn−Bi系めっき層の厚さよりも薄くされる請求項1記載のフレキシブルフラットケーブル。
【請求項3】
Sn系めっき層を被覆した端子を備えたコネクタに嵌合され、前記端子と接する導体が内部に配設されたフレキシブルプリント配線基板において、
前記導体の素線の周囲にSn−Bi系めっき層が形成されていると共に、前記素線と前記Sn−Bi系めっき層との間に合計厚さが1μm以下の金属間化合物層が形成され、前記Sn−Bi系めっき層のBi濃度が10mass%以上であることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板。
【請求項4】
前記端子のSn系めっき層の厚さは、前記導体のSn−Bi系めっき層の厚さよりも薄くされる請求項3記載のフレキシブルプリント配線基板。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−38656(P2012−38656A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179598(P2010−179598)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】