説明

フレキソ印刷版用感光性樹脂組成物及びフレキソ印刷版の製造方法

【課題】ショアA硬度25度を下回る樹脂版硬度において、実用印刷操作に耐え得る機械強度を実現し得るフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】主鎖末端がメタクリル基で修飾された不飽和ポリウレタンプレポリマー:100質量部、エチレン性不飽和モノマー:10〜150質量部、光重合開始剤:0.01〜10質量部、を含み、前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの下記式(1)で求められるメタクリル基指数の範囲が1.50〜1.85であるフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
メタクリル基指数 = X/(8500/Y) 式(1)
(式中、Xは前記不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(%)を表し、Yは前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に段ボール印刷用途に適したフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物、フレキソ印刷版の製造方法、及びフレキソ印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷用版材として一般的な感光性樹脂印刷版は、次のようにして形成される。まず、原材料となる固体状感光性樹脂あるいは液状感光性樹脂に活性光線が照射され、ラジカル重合反応により、レリーフ部分の感光層のみが硬化される(露光工程)。次に、レリーフ部分以外の未硬化樹脂が、所定の洗浄液(現像液)で溶解除去、あるいは膨潤分散されて機械的に除去される(現像工程)。露光工程と現像工程により感光性樹脂印刷版を形成する方法は、硬化部分のみをレリーフとして版表面に出現させる方法であり、短時間で微細レリーフを形成し得ることから好ましく用いられる。
【0003】
そして、液状感光性樹脂を材料とした印刷版(液状感光性樹脂印刷版)は、印刷版製造に係る時間が短く短納期に対応できる点に加え、未硬化樹脂を回収して再利用できることから生産コストが低く、段ボール用途の印刷版として広く普及している。
段ボールシートは一般に、波状中芯にライナー(板紙)を貼った構造、あるいはそれらを積層した構造を有している。そのため、被印刷面には波状中芯の影響により凹凸が存在し、また、中空構造によりシート自体が柔軟であることから、印刷版の材質としても高い柔軟性が求められる。
しかも、近年、段ボールシートを低価格で製造するために単位面積当たりの重量の軽い原紙が使用される傾向があり、これまで少なくとも150g/m2程度はあった原紙重量が120g/m2程度であるものが増えてきており、更には、90g/m2程度まで低下するとされている。また、同時に段ボールに使用される原紙に対する新聞紙、古紙等の再生原料の混入率が年々増加傾向にあることもあり、段ボールシートは益々柔軟化の傾向にある。
【0004】
このような状況から印刷現場では、従来の段ボール用印刷版で柔軟タイプと位置付けられていた材料、例えばショアA硬度20〜30度のフレキソ印刷版を用いても、インク着肉性を重視するベタ画像(広い範囲の着色を主体とした画像領域)においてインクによる隠蔽率が不足する掠れ現象が増加している。一方、ベタ画像の隠蔽率を高めるために過剰な圧力で印刷を行った場合では、印刷品質として微細文字が判読不可能となり、また、段ボールシートの波状中芯が潰れることによる段ボール箱の強度不足、更には印刷版のレリーフ自体が印圧に耐えられずに破壊されることもあった。
【0005】
柔軟タイプのフレキソ印刷版による印刷画像の太りを抑制する手法としては、微細画像レリーフの被印刷体に接する上部領域に比較的硬度の高い樹脂を配置した多層版(キャップ版)で改善が可能であり、ベタ画像と微細画像に求められる印刷品質を両立する手法として一般的に用いられている。
したがって、昨今の段ボールシートの柔軟化に対しても、単一層を形成する感光性樹脂として、あるいは、前述のキャップ版構成の下層部分を担う感光性樹脂として従来にない優れた柔軟性を有する材料を用いることが有効な手段であり、感光性樹脂硬化物の低硬度化に関する研究が進められている。
感光性樹脂から成るフレキソ印刷版を低硬度に調整する方法は、比較的高分子量のプレポリマーを使用することや組成中の多官能モノマーを減量することが一般的である。
【0006】
一方、特許文献1には、フレキソ印刷版の耐刷性や版操作時の耐久性を改善した液状感光性樹脂組成物が開示されている。そして、フレキソ印刷版の耐刷性や版操作時の耐久性に関わる物性として、機械的強度の尺度である引張試験における破断強度、破断伸度と共に耐ノッチ亀裂性が重要であることが開示され、また、印刷作業における耐久性に必要な20秒以上の耐ノッチ亀裂性を実現するための組成が開示されている。
【0007】
特許文献2には、段ボール印刷に適した硬度20〜30度の範囲を実現する感光性樹脂組成物が開示されている。そして、樹脂組成の主体であるエチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーの原料として特定の異性体配合比率のトリレンジイソシアネートを用いることで印刷品質と耐久性を兼ね備えた感光性樹脂版が製造可能であることを開示している。
【0008】
特許文献3には、特別なイソシアネートを使用することなく、引張破断強度が高く、低硬度タイプのフレキソ印刷版を与え得る感光性樹脂組成物が開示されている。当該感光性樹脂組成物は、平均分子量2,000〜8,000のエチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーを主成分とする感光性樹脂組成物であり、当該ポリウレタンプレポリマーの両末端がエチレン性不飽和基で修飾された構造のものと、片側末端のみがエチレン性不飽和基で修飾されたものとを混合して使用することを特徴としている。そして、当該ポリウレタンプレポリマーの合成方法として、ポリオールとポリイソシアネートにより両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマー前駆体を合成し、その末端イソシアネート基の一部に水酸基とエチレン性二重結合を一分子中に含有するモノマーを反応させ、更に残余の末端イソシアネート基とポリオールを反応させる方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平4−95959号公報
【特許文献2】特開平8−220737号公報
【特許文献3】特開昭58−76828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、低硬度タイプの感光性樹脂版を調整する方法として、比較的高分子量のプレポリマーを使用することや組成中の多官能モノマーを減量する方法を用いた場合、未硬化樹脂の粘度を取り扱い性の観点から求められる所定の領域に設計することの困難さや、レリーフの耐久性に関する機械的強度が低下する傾向にあること、更に印刷版製造時に用いる支持体との接着性が低下する等の問題があり、達成され得る硬度レベルには実質的に限界があった。
【0011】
また、特許文献1には、耐ノッチ亀裂性が20秒以上とすることが開示されているものの、耐ノッチ亀裂性は樹脂硬化物の硬度が低いほど大きな値となる傾向があるため、耐ノッチ亀裂性20秒は段ボール用途で一般的であった硬度レベルでの必要条件に過ぎない。
特許文献1の実施例として得られている樹脂硬化物も、引張破断強度90kg/cm2、引張破断伸度300%程度であり、フレキソ印刷版の耐久性にさらなる改良が求められている。
【0012】
そして、特許文献2の硬度20〜30度を実現した実施例では、比較例に対して引張強さが総じて低い傾向にあり、明らかに低硬度化によって機械物性が低下していることが分かる。
【0013】
特許文献3に開示された方法では、ウレタンプレポリマー前駆体に対する末端構造の修飾反応を二段階で行うため、イソシアネート基が生成したウレタン結合とも反応し得るという観点から分子量制御が極めて困難であった。
また、特許文献3の実施例では、合成した末端修飾構造の異なる二種プレポリマーの分子量と含有比率を原料仕込み割合からを計算により求めており、実際にそれらを分析、測定した記載はない。仮に、製造したプレポリマーが想定するが如く理想的に行えていたとしても、特許文献3には、その硬化物の物性に関し、プレポリマーの片側末端にエチレン性二重結合を配置したプレポリマーが増加するに従い低硬度化するものの、同時に引張強度も低下していることを開示している。したがって、特許文献3では、低硬度樹脂版によって現状求められる機械的強度を実現することを示唆するものではない。
【0014】
以上のとおり、特許文献1〜3に開示された技術を用いても、昨今の柔軟化した段ボールシートにおいて要求されるショアA硬度25度を下回る樹脂版硬度において、実用印刷操作に耐え得る機械強度を実現することは不可能であった。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、ショアA硬度25度を下回る樹脂版硬度において、実用印刷操作に耐え得る機械強度を実現し得るフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、主鎖末端のメタクリル基付加量を制御した不飽和ポリウレタンプレポリマーを主成分とする感光性樹脂組成物が、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物、フレキソ印刷版の製造方法、及びフレキソ印刷版を提供する。
[1]
主鎖末端がメタクリル基で修飾された不飽和ポリウレタンプレポリマー:100質量部、
エチレン性不飽和モノマー:10〜150質量部、
光重合開始剤:0.01〜10質量部、
を含み、
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの下記式(1)で求められるメタクリル基指数の範囲が1.50〜1.85であるフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
メタクリル基指数 = X/(8500/Y) 式(1)
(式中、Xは前記不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(%)を表し、Yは前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量を表す。)
[2]
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量が10,000〜40,000の範囲である前記[1]に記載のフレキソ印刷用感光性樹脂組成物。
[3]
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーが、ポリオールとポリイソシアネートによるウレタン化反応の後に、一分子中にメタクリル基及び水酸基を含有し、分子量が100〜500の範囲である低分子化合物を反応させて得られる、前記[1]又は[2]に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
[4]
前記ポリオールがポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールの混合物から成る、前記[3]に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
[5]
前記エチレン性不飽和モノマーの内、一分子中にメタクリル基及び/又はアクリル基を3個以上有する多官能モノマーが0.5〜15質量%である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
[6]
下記(A)〜(C)の各工程、
(A)前記[1]〜[5]のいずれかに記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物を用いて形成された成型体の表面を露光し、当該成型体に硬化部位を形成する硬化部位形成工程、
(B)洗浄液により前記硬化部位を現像する現像工程、
(C)現像された前記硬化部位の表面に活性光線を照射する活性光線照射工程、
を含むフレキソ印刷版の製造方法。
[7]
前記[6]に記載の製造方法により得られるフレキソ印刷版。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ショアA硬度25度を下回る樹脂版硬度において、実用印刷操作に耐え得る機械強度を実現し得るフレキソ印刷版用感光性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本実施の形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物(以下、「感光性樹脂組成物」と略記する場合がある。)は、下記(a)〜(c)の各成分、
(a)主鎖末端がメタクリル基で修飾された不飽和ポリウレタンプレポリマー:100質量部、
(b)エチレン性不飽和モノマー:10〜150質量部、
(c)光重合開始剤:0.01〜10質量部、
を含む。
本実施の形態における感光性樹脂組成物の態様としては、液状である(即ち、液状感光性樹脂組成物である)ことが、未硬化樹脂を回収して再使用できる、また水性洗浄液による現像が可能である等の生産性、作業環境の観点から好適である。
本実施の形態の感光性樹脂組成物を後述するフレキソ印刷版の製造方法において用いる際に、フレキソ印刷版の優れた厚み精度を発現する観点から、室温における感光性樹脂組成物の粘度は10〜500Pa・sの範囲であることが好ましい。より好ましくは20〜300Pa・sの範囲である。
【0020】
本実施の形態における(a)成分の主鎖末端がメタクリル基で修飾された不飽和ポリウレタンプレポリマー(以下、「不飽和ポリウレタンプレポリマー」と略記する場合がある。)は、その一分子中にウレタン結合を複数有するポリウレタンであると共に、メタクリル基を有し、重合反応によって他のモノマーと連鎖可能な化合物である。
このような(a)成分の製造方法としては、例えば、
(i)ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンを任意分子量でまず形成し、次いで、当該ポリウレタンと、一分子内に活性水素及びメタクリル基を含有する化合物とを反応させる方法、
(ii)ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、末端に水酸基を有するポリウレタンを任意分子量でまず形成し、次いで、当該ポリウレタンと、一分子内にイソシアネート基及びメタクリル基を含有する化合物とを反応させる方法、
が挙げられる。
【0021】
本実施の形態におけるポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリエステル共重合ポリオール等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシ1,2−ブチレングリコール、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンランダム共重合体、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレン/ポリオキシテトラメチレンランダム共重合体、ポリオキシエチレン/ポリオキシテトラメチレンブロック共重合体等を挙げることができる。
【0023】
前記ポリエステルポリオールとしては、ジオール(グリコール)化合物とジカルボン酸化合物との重縮合反応により得られるセグメントの繰り返しによるジオールを挙げることができる。このようなジオールとしては、例えば、アジピン酸エステル系としてポリ(エチレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,4−ブタングリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,6−へキサングリコールアジペート)ジオール、ポリ(2−メチルプロパングリコールアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタングリコールアジペート)ジオール、ポリ(ネオペンチルグリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,9−ノナングリコールアジペート)ジオール、ポリ(2−メチルオクタングリコールアジペート)ジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ(β−メチル−δ−バレロラクトン)ジオール等を挙げることができる。
ポリエステルセグメントを構成するジカルボン酸化合物としては、アジピン酸の他、例えば、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
なお、ポリエステルセグメントを構成するジオール、ジカルボン酸成分は、例示の通り単一成分同士による重縮合反応により合成されることが一般的だが、複数成分を任意の割合で混合して用いることも可能である。
【0024】
前記ポリエーテルポリエステル共重合ポリオールとしては、上述したポリエーテルポリオールの分子鎖を形成する繰り返しユニットと、上述したポリエステルポリオールの分子鎖を形成する繰り返しユニットとがブロック、又はランダムに連鎖した構造を有する共重合体を挙げることができる。
【0025】
本実施の形態におけるポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0026】
本実施の形態における一分子内に活性水素及びメタクリル基を含有する化合物としては、活性水素が水酸基由来の活性水素であること、すなわち水酸基及びメタクリル基を含有する化合物であることが好ましく、例えば、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジメタクリレート等を挙げることができる。
本実施の形態における一分子内にイソシアネート基及びメタクリル基を含有する化合物としては、低分子化合物であることが好ましく、例えば、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等を挙げることができる。
【0027】
不飽和ポリウレタンプレポリマーの主鎖末端において、前記一分子内に活性水素又はイソシアネート基、及びメタクリル基を含有する化合物(以下、「メタクリル化剤」と略記する場合がある。)は、上述したような低分子化合物であって、分子量が100〜500の範囲であることが好ましい。
【0028】
本実施の形態において、ポリオールの構造がポリエーテルセグメントによって構成されたポリウレタンプレポリマーを「ポリエーテル系ポリウレタンプレポリマー」、ポリエステルセグメントによって構成されたポリウレタンプレポリマーを「ポリエステル系ポリウレタンプレポリマー」、ポリエーテルセグメントとポリエステルセグメントによって構成されたポリウレタンプレポリマーを、「ポリエーテルポリエステル系ポリウレタンプレポリマー」と略記することがある。
中でも、印刷版レリーフとしての柔軟性と耐久性を発現する観点から、ポリエーテルポリエステル系ポリウレタンプレポリマーを用いることが好適である。
ポリエーテルポリエステル系ポリウレタンプレポリマーは、前記ポリエーテルポリエステル共重合体ポリオールを用いて製造することもでき、前記ポリエーテルポリオールと前記ポリエステルポリオールを含むポリオール混合物を用いて製造することもできる。
ポリエーテルポリエステル系ポリウレタンプレポリマーとしては、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオールを含むポリオール混合物とポリイソシアネートとの反応生成物に対して、メタクリル化剤を反応させて得られるものであることが、水系洗浄液による現像性の観点から好ましく、また不飽和ポリウレタンプレポリマーを所定の分子量に制御する観点からも好適である。
【0029】
本実施の形態における不飽和ポリウレタンプレポリマーにおいて、主鎖末端はメタクリル基を含有する化合物により修飾されている。その修飾率は、下記式(2)で求められるメタクリル基指数が1.50〜1.85であり、より好ましく1.60〜1.80である。
メタクリル基指数 = X/(8500/Y) 式(1)
(式中、Xは不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(%)を表し、Yは不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量を表す。)
本実施の形態において「数平均分子量」とは、下記の実施例に記載するような方法にしたがって、GPC測定におけるポリスチレン換算値として算出される値である。
また、本実施の形態において「不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率」とは、下記の実施例に記載するような方法にしたがって、合成した不飽和ポリウレタンプレポリマーをGPC分取した後にプロトンNMR(核磁気共鳴スペクトラム)分析によりメタクリル基の含有率を定量化した値である。
本実施の形態において「メタクリル基指数」とは、メタクリル基を含有する化合物による主鎖末端の修飾度合いを示す値であり、当該値1.00は一分子の不飽和ポリウレタンプレポリマーに対して一個のメタクリル基が修飾されていることを意味する。
本実施の形態における不飽和ポリウレタンプレポリマーが当該値を1.50以上とすることは、フレキソ印刷版とした際に、その重合硬化物と支持体との接着性低下を防ぐことができる。一方、当該値を1.85以下とすることは、その感光性樹脂硬化物がショアA硬度25度を下回る範囲において、良好な機械的強度を与え、フレキソ印刷版の繰り返し使用、あるいは粗雑な取り扱いに対する良好な耐久性を実現することができる。
【0030】
本実施の形態における不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量は、10,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは15,000〜35,000であり、さらに好ましくは20,000〜30,000である。当該値を10,000〜40,000とすることは、その重合硬化物がショアA硬度25度を下回る範囲において、良好な機械的強度を与え、フレキソ印刷版の繰り返し使用、あるいは粗雑な取り扱いに対する良好な耐久性を実現することができる。また、当該値を40,000以下とすることは、感光性樹脂組成物に水系洗浄液による良好な現像性を与え、汎用的現像装置への対応が容易となる。
【0031】
不飽和ポリウレタンプレポリマーの主鎖末端において、メタクリル化剤により修飾されない主鎖末端の構造は、本実施の形態の目的である比較的低硬度の重合物において優れた機械物性を発現する観点からは特に制限を受けるものではないが、水酸基又は一価の飽和脂肪族基が好ましく、より好ましくは水酸基である。
また、前記一価の飽和脂肪族基で不飽和ポリウレタンプレポリマーの主鎖末端を修飾することは、感光性樹脂硬化物の硬度とインクに対する膨潤性を調整する観点から好ましく、末端修飾反応性の観点から炭素数8以下の飽和脂肪族基で修飾することが好ましい。
不飽和ポリウレタンプレポリマーの主鎖末端が、一価の飽和脂肪族基で修飾されている場合には、具体的には、一分子中に活性水素及びメタクリル基を含有する化合物をメタクリル化剤として使用する製造方法において、メタクリル化剤と同時に炭素数8以下の飽和脂肪族アルコールを反応させることで製造することが可能である。
【0032】
本実施の形態において、不飽和ポリウレタンプレポリマーの好適な製造方法は、最初に、メタクリル基で修飾する前段階であるポリウレタンの製造において、前記ポリオールに対して、不飽和ポリウレタンプレポリマーの目標数平均分子量、及び不飽和ポリウレタンプレポリマーの主鎖末端の目標末端メタクリル基数に基づき、前記ポリイソシアネートの量を算出して、ポリオールとポリイソシアネートとを混合してウレタン化反応を行う。
主鎖末端のメタクリル基修飾反応を一分子内に活性水素及びメタクリル基を含有する化合物をメタクリル化剤として用いて行う場合、ウレタン化反応の過程で所定のイソシアネート残存値に近付いて行くことを定量観測し、目標値と成る一歩手前でメタクリル化剤を投入する。この時、メタクリル化剤は、ポリウレタンの主鎖末端のメタクリル基修飾に必要なモル数の2〜30倍量を加えることでウレタン化反応による主鎖延長を抑制し、目的のメタクリル基修飾を可能にする。メタクリル化剤を投入するタイミングについては、生成する不飽和ポリウレタンプレポリマーの分子量制御並び主鎖末端メタクリル基数の制御を確実にするために、ポリウレタンの製造における粘度上昇を観測して、目標とするポリウレタン前駆体の分子量と粘度の関係から勘案された粘度を目標とする方法がより好ましい。
一方、主鎖末端のメタクリル基修飾反応を一分子内にイソシアネート基及びメタクリル基を含有する化合物をメタクリル化剤として用いて行う場合、ポリウレタンとして主鎖両末端が水酸基となる構造となるよう、目標分子量に応じた前記ポリオールと前記ポリイソシアネートを混合してウレタン化反応を行い、その後に不飽和ポリウレタンプレポリマーとして目標とする末端メタクリル基数に応じたモル数でメタクリル化剤を投入することでポリウレタンの主鎖末端の修飾が可能である。
【0033】
本実施の形態において、不飽和ポリウレタンプレポリマーの合成方法としては、一分子内に活性水素及びメタクリル基を含有する化合物をメタクリル化剤として使用する方法が好ましく、水酸基を含有するメタクリル化剤を使用する方法がより好ましい。水酸基を含有するメタクリル化剤を理論モル数より過剰量使用することが、反応系が希釈され、均一な反応が実現されることから、分子量、メタクリル基修飾の制御が確実に行えるため好適である。
【0034】
また、(a)成分としては、前記の何れかの方法で合成した複数種のプレポリマーを混合して使用することも可能である。
例えば、メタクリル基指数を2.00として設計・合成されたプレポリマーと当該値を1.00として設計・合成されたプレポリマーとを混合することにより、結果として、メタクリル基指数が1.50〜1.85である不飽和ポリウレタンプレポリマーを製造することも可能である。
しかし、分子量分布と末端メタクリル基数の均一性の観点から、特に、メタクリル基指数が1.00に満たない成分の混入は、感光性樹脂レリーフと支持体との密着性を低下させる傾向にあることから、複数種のプレポリマーを混合する方法によらず、単一成分として合成されたプレポリマーにより、メタクリル基指数を1.50〜1.85の範囲とすることが好ましい。
なお、本実施の形態において、単一成分として合成されたプレポリマーとは、上述したとおり、複数種のプレポリマーを混合する方法によるプレポリマーではなく、ポリオールとポリイソシアネートによるウレタン化反応の後に、メタクリル化剤を反応させて得られるプレポリマーを意味する。
【0035】
本実施の形態において、不飽和ポリウレタンプレポリマーは、水系洗浄液による良好な現像性を発現させる観点から、(a)成分中にポリオキシエチレンのセグメントを好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%の割合で含む。ポリオキシエチレンセグメントの割合を5質量%以上とすることは、水系洗浄液に対する分散性を確保することに寄与し得る。一方、25質量%以下とすることは、印刷インクに対する感光性樹脂レリーフの膨潤性を一定値以下に抑制し、印刷時にレリーフが膨れ印刷品質に悪影響を与える虞の低減に寄与し得る。
【0036】
本実施の形態における不飽和ポリウレタンプレポリマーの製造には、公知の各種触媒を使用可能である。
なかでも比較的低分子の触媒を用いることが反応効率の観点から好ましくジブチル錫ジラウレートやトリエチレンジアミンが好適である。前記触媒は、ポリウレタンの製造に使用するポリオールに対して10〜500ppm程度の濃度で使用することが好ましい。当該値を10ppm以上とすることは反応時間を制御する観点から好ましく、一方、当該値を500ppm以下とすることは感光性樹脂組成物の感度又は貯蔵安定性への影響を抑制する観点から好ましい。
【0037】
本実施の形態における不飽和ポリウレタンプレポリマーの製造は、不飽和ポリウレタンプレポリマーを合成後に後述する(b)成分、(c)成分等を混合して感光性樹脂組成物を容易に得られる観点からポリオール、ポリイソシアネート及びメタクリル化剤による塊状重合で行うことが好ましい。
一方、目的の不飽和ポリウレタンプレポリマーが高粘度となる場合は、溶液重合を用いることもウレタン化反応の制御、ポリマー分子量分布を単分散とするために好ましい場合もあり、溶媒にはイソシアネート基に対して不活性な化合物、例えばメチルエチルケトン、トルエン等を脱水して使用できる。
また、イソシアネート基に対して不活性な化合物、例えばアルキル−、シクロアルキル−、ハロゲン化アルキル−、ベンジル−、フェノキシ−(メタ)アクリレートを希釈剤として用いることにより、これら化合物は、(b)成分としても使用できる化合物であるので、その後の樹脂混合への連続製造が可能となる観点から好ましい。
本実施の形態において、不飽和ポリウレタンプレポリマーを含有し、(b)成分と(c)成分を混合する前の組成物を、ウレタンプレポリマーという場合がある。
【0038】
本実施の形態における(b)成分としては、例えば、アクリル酸やメタアクリル酸等の不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のエステル化合物;(メタ)アクリルアミド又はその誘導体;アリル化合物;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸又はそのエステル;その他不飽和化合物等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
前記不飽和カルボン酸のエステル化合物としては、例えば、アルキル−、シクロアルキル−、ハロゲン化アルキル−、アルコキシアルキル−、ヒドロキシアルキル−、アミノアルキル−、テトラヒドロフルフリル−、アリル−、グリシジル−、ベンジル−、フェノキシ−(メタ)アクリレート;アルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールのモノ又はジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;グリセリンモノ、ジ又はトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
前記(メタ)アクリルアミド又はその誘導体としては、例えば、アルキル基やヒドロキシアルキル基でN−置換又はN,N’−置換した(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−アルキレンビス(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
前記アリル化合物としては、例えば、アリルアルコール、アリルイソシアナート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等を挙げることができる。
前記マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸又はそのエステルとしては、例えば、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシアルキルのモノ又はジマレエート及びフマレート等を挙げることができる。
前記その他不飽和化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0039】
本実施の形態における(b)成分としては、フレキソ印刷版に求められる柔軟性、弾性特性、耐久性に必要な機械的強度、インクに対する膨潤性等を制御する観点から、アクリル酸やメタアクリル酸のエステル化合物としては、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテルモノ(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ、ジ又はトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が好ましく用いられる。
【0040】
本実施の形態において、(b)成分の配合量としては、前記(a)成分100質量部に対して10〜150質量部であり、好ましくは10〜100質量部である。前記(b)成分の配合量を当該範囲とすることは、良好な製版性のために所望される、室温における感光性樹脂組成物の粘度10〜500Pa・sを実現する観点から好適である。
前記(b)成分の内、一分子中にメタアクリル基及び/又はアクリル基を3個以上有する多官能モノマーが0.5〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%である。前記多官能モノマーの配合量を当該範囲とすることは、感光性樹脂硬化物がショアA硬度25度を下回る範囲に調整し、印刷作業に耐え得る機械的強度を実現する観点から好ましい。
【0041】
本実施の形態における(c)成分としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、9,10−アントラキノン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
ここで、(c)成分は、その反応性を高める観点から、増感剤と組み合わせて使用することが好ましい。このような増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ミヒラーズケトン、4,4’−ジエチルアミノフェノン、4−ジエチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミン類;エオシン、チオシン等の染料等を挙げることができる。特に、前記(c)成分として水素引き抜き型開始剤を使用する場合には、このような増感剤を組み合わせて使用することが好ましい。
【0042】
本実施の形態において、(c)成分の配合量としては、前記(a)成分100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。(c)成分の配合量を当該範囲とすることは、感光性樹脂組成物の貯蔵安定性、所望の光硬化速度、硬化物物性を良好にバランスさせる観点から好適である。
本実施の形態の感光性樹脂組成物には、必要に応じて更に、熱重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料、滑剤、無機充填剤、可塑剤等を配合することができる。
【0043】
本実施の形態のフレキソ印刷版の製造方法は、下記(A)〜(C)の各工程、
(A)本実施の形態の感光性樹脂組成物を用いて形成された成型体の表面を露光し、当該成型体の表面に硬化部位を形成する硬化部位形成工程(以下、「成型・露光工程」と略記する場合がある。)、
(B)洗浄液により前記硬化部位を現像する現像工程、
(C)現像された前記硬化部位の表面に活性光線を照射する活性光線照射工程(以下、「後露光工程」と略記する場合がある。)、
を含む。
また、前記(C)工程の後、更に
(D)乾燥工程
を含んでもよい。
【0044】
本実施の形態における(A)工程において、前記感光性樹脂組成物が、専用の装置(製版機)の内部で基材上に一定厚みに成型される成型工程が含まれてもよい。
本実施の形態における成型・露光工程は、例えば、以下の(1)〜(3)の各工程、
(1)紫外線透過性のガラス板上にネガフィルムを置き、薄い保護フィルムでカバーした後、その上に感光性樹脂組成物を流し、これが一定の版厚になるようスペーサーを介して支持体となるベースフィルムを貼りあわせ、さらにその上から紫外線透過性のガラス板で押さえつけて感光層を形成する感光層成型工程(段ボール印刷に用いるような印刷版(厚みが4mm以上)を形成する場合には、印刷時の印圧に対するレリーフの強度を補うために土台となるシェルフ層を形成するのが好ましく、この場合、支持体と上部ガラス板の間に専用のネガフィルム(マスキングフィルム)挟んで感光層を形成する感光層成型工程)、
(2)前記感光層成型工程の後、紫外線蛍光灯等を活性光源とする活性光線(例えば、300nm以上に波長分布を有する)を上部ガラス側からベースフィルムを介して照射することにより、版の支持体側全面に均一な薄い硬化樹脂層(すなわち床部形成層(バック析出層))を析出させるバック露光工程(マスキングフィルムが装着された方法では同様の露光によりシェルフ層が形成されるマスキング露光工程)、
(3)前記バック露光工程又はマスキング露光工程の後、前記感光層に対し、下部ガラス側からネガフィルムを介して上部と同様の活性光線を照射し、画像形成を行うレリーフ形成露光工程、
を含むものである。
なお、マスキング露光によりシェルフ層を形成した印刷版では、レリーフ形成露光工程の後にマスキングフィルムを外して、バック露光工程を行うことで支持上の全面にバック析出層を形成することも好ましい態様の一つである。
【0045】
本実施の形態における(B)工程において、用いられる洗浄液としては、界面活性剤水溶液が好ましく用いられる。
ここで、界面活性剤の種類や組成については、使用する感光性樹脂組成物の性質に合わせて最適なものが選択される、微細部分の洗浄性、洗浄液のスタミナ性の観点からアニオン界面活性剤が好ましい。
また、現像方法としても、現像液中に露光した感光性樹脂版を浸漬する方法、現像液をスプレーノズルから露光した感光性樹脂版面上に吹き付ける方法、あるいは浸漬・スプレーにより膨潤した未硬化樹脂をブラシで掻き取る方法などの方法が適用可能である。
【0046】
本実施の形態における(C)工程において、前記(B)工程における現像後に、フレキソ印刷版の機械的強度促進、表面粘着性除去を主目的として、感光性樹脂組成物の硬化部位へ活性光線を照射する工程である。このような活性光線の光源(活性光源)としては、例えば、レリーフ露光に用いる300nm以上の波長領域に分布を有する活性光源(例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等)、200〜300nmの波長領域に分布を有する活性光源(例えば低圧水銀灯、殺菌灯、重水素ランプ等)又はこれらを組み合わせた光源が好ましく用いられる。
後露光工程は、空気中の酸素による重合反応阻害防止を目的とした水中露光方式や、空気中、すなわち酸素阻害への対策を行わない空中露光方式を採用し得る。中でも、フレキソ印刷版表面の粘着性発現を抑制する観点から、水中露光方式が好ましい。
【0047】
本実施の形態における(D)工程において、現像工程や後露光工程において感光性樹脂版表面に付着した水分を乾燥する工程である。このような乾燥工程は、専用の収納式熱風乾燥機を用いて行われることが好ましい。
【0048】
本実施の形態のフレキソ印刷版の製造方法は、更に、他の工程を含んでもよい。例えば、現像工程の後に水素引き抜き剤を版表面に浸透されるための処理工程を行い、次いで後露光工程を実施する特許3592336号公報に開示された製版方法も好適に適用可能である。
【0049】
本実施の形態の感光性樹脂組成物を用いて上述したしたような方法により製造されるフレキソ印刷版は、特に段ボール用フレキソ印刷版において軟質な被印刷体へのインク転移性を良好とし、取り扱いによるレリーフ破壊を抑制する観点から以下に説明するショアA硬度と引張試験で測定される破断時の強度、伸度を有することが好ましい。
【0050】
本実施の形態のフレキソ印刷版の柔軟性は、温度20℃・湿度70%で測定されるショアA硬度として、25度を下回る範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜25度である。当該範囲を10〜25度とすることは、紙重量150g/m2に満たないライナー、中芯を用いた段ボールシートへのベタ画像インク転移性を満足する観点から好ましく、印刷作業現場で要求される感光性樹脂レリーフの機械的強度を効果的に発現できる。本実施の形態のフレキソ印刷版のショアA硬度は、最も好ましくは、10〜20度である。
【0051】
本実施の形態のフレキソ印刷版は、引張破断強度(MPa)及び引張破断伸度(%)が、それぞれ4MPa以上、400%以上であることが好ましく、より好ましくは5MPa以上、450%以上である。
引張破断伸度は衝撃を緩和するために求められるレリーフの変形量として重要であり、引張破断強度は過剰な変形に対してレリーフ破断を生じことを抑制する観点から重要であるので、引張破断強度及び引張破断伸度が上記の範囲であることにより、段ボール印刷で求められるフレキソ印刷版の耐久性を良好に実現することができる。
【実施例】
【0052】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施の形態に用いられる評価法及び測定法は以下のとおりである。
【0053】
[イソシアネート基残存量の測定方法]
ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンを任意分子量でまず形成し、次いで、当該ポリウレタンと、一分子内に活性水素及びメタクリル基を含有するメタクリル化剤を反応させる方法により、不飽和ポリウレタンプレポリマーを製造する場合、当該不飽和ポリウレタンプレポリマーの分子量、メタクリル化剤による末端修飾率の制御を確認するために、一次反応である当該ポリウレタン生成反応の終点におけるイソシアネート基の残存量を定量した。
まず、以下のA液、B液を調製し、予め、10ミリリットルのA液をB液により中和滴定して、対照滴定量とした。
A液:2%ジブチルアミン/モノクロルベンゼン溶液
B液:0.1規定塩酸/エタノール溶液
不飽和ポリウレタンプレポリマー製造の一次反応であるポリウレタン反応の生成物から数gのサンプルを採取し、前記A液10ミリリットルを加えて溶解し、当該ポリウレタンに含まれるイソシアネート基と前記A液中のジブチルアミンを反応させた。
その後、前記B液による中和滴定を実施し、先に求めた対照滴定量との差をからサンプル中のイソシアネート基の残存量(mol/kg)を算出した。
【0054】
[GPC測定方法]
製造したウレタンプレポリマーについて、以下の条件でGPC測定を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量を求めた。また、GPC測定により得られるピーク面積比(%)により、製造時に過剰に加えたメタクリル化剤の未反応物を除外した不飽和ポリウレタンプレポリマー成分に由来する高分子量体の含有量を求めた。
機器 :東ソー株式会社製 HLC−8220GPC
カラム :東ソー株式会社製 TSLgelGMHXL
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1ミリリットル/分
注入量 :100マイクロリットル
検出器 :RI検出器
検量線標品 :ポリスチレン(分子量500〜1260000)
試料 :0.3質量%テトラヒドロフラン溶液
【0055】
[不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(質量%)の測定方法]
製造したウレタンプレポリマーについて、以下の条件でGPC分取を行い、不飽和ポリウレタンプレポリマーに由来する高分子量体を分取した。
1)GPC分取の条件
機器 :日本分析工業(株)社製 LC−908型
カラム :日本分析工業(株)社製 JAIGEL 4H−3H−2H(直列)
溶媒 :クロロホルム
流速 :3.3ミリリットル/分
注入量 :3ミリリットル
検出器 :RI検出器
試料 :3質量%クロロホルム溶液
分取した不飽和ポリウレタンプレポリマーを重水素化クロロホルムに溶解し、ジメチルホルムアミドを内部標準物質として加えて、以下の条件でプロトンNMR測定を実施した。
2)プロトンNMR測定条件
装置 :ブルカー・バイオスピン(株)社製 Avance600
観測周波数 :600MHz
積算回数 :1024回
繰り返しパルス待ち時間 :1.0sec
得られたNMRスペクトルから、メタクリル基の二重結合プロトンに帰属される5.6ppmのピークとジメチルホルムアミドのメチル基プロトンに帰属される3.0ppmのピークの積分値からサンプル中に含有されるメタクリル基のモル数を定量し、メタクリル基の分子量85を乗じてGPC分取サンプル中に含まれるメタクリル基の質量を算出した。
最後に算出されたメタクリル基の質量をGPC分取により得られたサンプル総質量で除した値に100を乗じて、不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(質量%)を計算した。
【0056】
[粘度測定方法]
フレキソ印刷版用感光性樹脂組成物が液状の場合、温度20℃、湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置した後に、同室内においてB形粘度計形式B8H(株式会社東京計器製)を用いて粘度測定を実施した。
【0057】
[ショアA硬度測定方法]
(1)5cm角以上のべた画像(全面が平滑で凹部の存在しない印刷用レリーフ)領域を有する厚さ4mmのフレキソ印刷版を作成し、温度20℃、湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置した。
(2)同室内に設置されたJIS定圧荷重器GS−710(株式会社テクロック社製 ASTM:D2240A、JIS:K6253A、ISO:7619A)を1kg荷重で用いて、測定開始後15秒後の値を読み取った。
【0058】
[引張物性評価方法]
(1)ポリエチレンテレフタレートの透明フィルムを密着させたガラス板を二枚、1mm厚のスペーサーを用いて感光性樹脂組成物を一定厚みに成型した後に、片面から1400mJ/cm2の光量(光源はケミカルランプ)を順次其々の面から照射し、厚さ約1mmの硬化試料を作成した。
(2)引張物性測定は、JIS:K6301に準拠した方法で実施した。
【0059】
[耐ノッチ亀裂性評価]
(1)15cm角以上のべた画像領域を有する7mmフレキソ印刷版を幅1cm、長さ5cmの短冊状3本のサンプル版として切り出し、長さ5cmの中央部分にカッターで深さ0.8〜1.2mmの切筋を入れた。
(2)サンプル版を該切筋が外側になるようにやや湾曲させて一方の手で持ち、サンプル版の裏側に位置する支持体が該切筋の真下で折れ曲がるようもう一方の手の指をあてがい、サンプル版を素早く折り曲げて支持体同士が密着した形状となるようサンプル版を支持した。
(3)版を折り曲げた瞬間から該切筋から生じた亀裂が支持体に到達するまでの時間を秒単位で測定した。
(4)サンプル版3本について同様の測定を行い、測定結果の平均値に近い5秒単位の整数を耐ノッチ亀裂性とした。
【0060】
[支持体接着性]
フレキソ印刷版サンプルの感光性樹脂レリーフと支持体の界面に爪を当て、感光性樹脂レリーフを支持体から引き剥がす方向に引っ張ることで感光性樹脂レリーフの支持体接着性を評価した。
評価の結果、感光性樹脂レリーフが破壊するほどの接着強度を有するものを合格とし、感光性樹脂レリーフが支持体から剥離して支持体表面が露出したものを不合格とした。
【0061】
〔製造例1〕ウレタンプレポリマーAの製造
900質量部のポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオール(水酸基価:44KOHmg/g。以下、「PA2500」と略記する。)と1100質量部のポリオキシエチレン(EO)−オキシプロピレン(PO)ブロック共重合ジオール(水酸基価:44KOHmg/g、EO含量30wt%。以下、「PL2500」と略記する。)との混合物に対して、300ppmのジブチル錫ジラウレート(以下、BTLと略記する。)を加え、40℃で均一になるまで攪拌した。次いで、155質量部のトリレンジイソシアネート(異性体の質量比は2,4−体/2,6−体=80/20。以下、「TDI」と略記する。)を加えてさらに攪拌し、均一となったところで65℃まで昇温した。その後、反応系内の生成物の粘度と温度を測定しながら反応系内の温度をコントロールし、520ポイズ(80℃)に到達した時点で、サンプルを採取し、メタクリル化剤として259質量部のポリプロピレングリコールモノメタクリレート(平均分子量380。以下、「PPMA」と略記する。)と136質量部のプロピレングリコールモノメタアクリレート(以下、「HPMA」と略記する。)を加えた。
採取したサンプルのイソシアネート基残存量を滴定測定した結果、0.104mol/kgであった。
メタクリル化剤を投入した後、約2時間反応させた。サンプルを一部取り出してIR分光測定器によりイソシアネート基消失を確認し、ウレタンプレポリマーAを得た。
ウレタンプレポリマーAを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は87質量%であり、数平均分子量は21000、メタクリル基含有率0.80質量%であったことからメタクリル基指数は1.98と算出された。
【0062】
〔製造例2〕ウレタンプレポリマーBの製造
TDIの混合量を150.4質量部、メタクリル化剤として251質量部のPPMAと134質量部のHPMAとすること以外は全て製造例1と同様の方法によりウレタンプレポリマーBを得た。
メタクリル化剤投入前に採取したサンプルのイソシアネート基残存量は0.089mol/kgであった。
ウレタンプレポリマーBを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は87質量%であり、数平均分子量は21300、メタクリル基含有率0.71質量%であったことからメタクリル基指数は1.78と算出された。
【0063】
〔製造例3〕ウレタンプレポリマーCの製造
TDIの混合量を146.7質量部、メタクリル化剤として245質量部のPPMAと132質量部のHPMAとすること以外は全て製造例1と同様の方法によりウレタンプレポリマーCを得た。
メタクリル化剤投入前に採取したサンプルのイソシアネート基残存量は0.076mol/kgであった。
ウレタンプレポリマーCを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は87質量%であり、数平均分子量は22000、メタクリル基含有率0.63質量%であったことからメタクリル基指数は1.63と算出された。
【0064】
〔製造例4〕ウレタンプレポリマーDの製造
TDIの混合量を143.1質量部、メタクリル化剤として239質量部のPPMAと130質量部のHPMAとすること以外は全て製造例1と同様の方法によりウレタンプレポリマーDを得た。
メタクリル化剤投入前に採取したサンプルのイソシアネート基残存量は0.064mol/kgであった。
ウレタンプレポリマーDを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は87質量%であり、数平均分子量は23000、メタクリル基含有率0.52質量%であったことからメタクリル基指数は1.41と算出された。
【0065】
〔製造例5〕ウレタンプレポリマーEの製造
2000質量部のPL2500に対して、300ppmのBTLを加え、40℃で均一になるまで攪拌した。次いで、150質量部のTDIを加えてさらに攪拌し、均一となったところで65℃まで昇温した。その後、反応系内の生成物の粘度と温度を測定しながら反応系内の温度をコントロールし、360ポイズ(80℃)に到達した時点で、サンプルを採取し、メタクリル化剤として139質量部のPPMAと70質量部のHPMAを加え、以下、製造例1と同様の手法によりウレタンプレポリマーEを得た。
メタアクリル化剤投入前に採取したサンプルのイソシアネート基残存量は0.072mol/kgであった。
ウレタンプレポリマーEを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は93質量%であり、数平均分子量は30000、メタクリル基含有率0.56質量%であったことからメタクリル基指数は1.98と算出された。
【0066】
〔製造例6〕ウレタンプレポリマーFの製造
TDIの混合量を145.3質量部、メタクリル化剤として132質量部のPPMAと68質量部のHPMAとすること以外は全て製造例5と同様の方法によりウレタンプレポリマーFを得た。
メタクリル化剤投入前に採取したサンプルのイソシアネート基残存量は0.059mol/kgであった。
ウレタンプレポリマーFを分析した結果、不飽和ポリウレタンプレポリマー含有量は93質量%であり、数平均分子量は30500、メタクリル基含有率0.47質量%であったことからメタクリル基指数は1.69と算出された。
製造例1〜6のウレタンプレポリマーの特徴を表1に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
〔実施例1〕
ウレタンプレポリマーB:115質量部、ラウリルメタクリレート(以下、「LMA」と略記する。):7.7質量部、PPMA:13.8質量部、ジエチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテルアクリレート(以下、「DEEHEA」と略記する。):13.8質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート(以下、「TMP−3MA」と略記する。):0.8質量部、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(以下、「DMPAP」と略記する。):0.9質量部、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(以下、「BHT」と略記する。):0.9質量部を60℃の加温状態で攪拌混合して感光性樹脂組成物を調製した。
調製した液状感光性樹脂組成物を用いて、以下に示す成型・露光工程、現像工程、後露光工程、乾燥工程を順次行うことにより版厚4mmのフレキソ印刷版サンプルを作成した。
成型・露光工程:調製した感光性樹脂組成物をALF−213E型製版機(旭化成ケミカルズ(株)製)を用いて、マスキング露光量:150mJ/cm2、レリーフ露光量:650mJ/cm2の露光条件で、15cm角正方形の印刷レリーフを有する4mm版の成型・露光工程を実施した。
この際、感光性樹脂の成型には支持体としてポリエーテルポリエステル系の不飽和ポリウレタンプレポリマーを主成分とする感光性樹脂用に適した接着層を有するポリエステルシートであるBF−4B4(旭化成ケミカルズ(株)製)を使用し、またカバーフィルムにはポリエチレンフィルムを使用した。
現像工程:未硬化樹脂を回収した後に該感光性樹脂組成物を乳化し得るAPR(登録商標)洗浄剤タイプW−10(主剤:アニオン系界面活性剤使用、旭化成ケミカルズ(株)製):2質量%、消泡剤SH−4(シリコーン混和物、旭化成ケミカルズ(株)製):0.3質量%を含む水溶液を現像液として現像した。AL−400W型現像機(ドラム回転スプレー式、旭化成ケミカルズ(株)製、ドラム回転数:20回転/分、スプレー圧:0.15Pa)を用いて液温40℃、現像時間10分で現像し、水道水で現像液による泡が落ちる程度に洗浄した。
後露光工程:紫外線蛍光灯、殺菌灯の双方を装備したAL−200UP型後露光機(旭化成ケミカルズ(株)製)を水中後露光方式で用い、それぞれの光源から照射される露光量が感光性樹脂硬化物表面で紫外線蛍光灯:1500mJ/cm2、殺菌灯:3000mJ/cm2となる露光時間で露光を行った。
乾燥工程:ALF−DRYER(旭化成ケミカルズ(株)製)で、版表面の水分が無くなるまで約30分間乾燥を行った。
また、上述の版厚4mmフレキソ印刷版サンプル作成方法の内、マスキング露光量:500mJ/cm2として7mm版の成型・露光工程を行うこと以外は全て同様の方法によって7mmフレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0069】
〔実施例2〕
実施例1のウレタンプレポリマーBに替えてウレタンプレポリマーCを使用すること以外は全て実施例1と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0070】
〔実施例3〕
実施例2のTMP−3MAを0.8質量部に替えて1.5質量部とすること以外は全て実施例2と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0071】
〔実施例4〕
実施例2のTMP−3MAを0.8質量部に替えて3.1質量部とすること以外は全て実施例2と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0072】
〔実施例5〕
ウレタンプレポリマーF:108質量部、LMA:21.5質量部、PPMA:21.5質量部、TMP−3MA:2.2質量部、DMPAP:0.9質量部、BHT:0.9質量部を60℃の加温状態で攪拌混合して感光性樹脂組成物を調製した。
実施例1の支持体BF−4B4(旭化成ケミカルズ(株)製)に替えてポリエーテル系の不飽和ポリウレタンプレポリマーを主成分とする感光性樹脂用に適した接着層を有するポリエステルシートであるBF−304(旭化成ケミカルズ(株)製)を使用すること以外は全て実施例1と同様の方法でフレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0073】
〔比較例1〕
実施例3のウレタンプレポリマーCに替えてウレタンプレポリマーAを使用すること以外は全て実施例3と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0074】
〔比較例2〕
比較例1のTMP−3MAを混合しないこと以外は全て比較例1と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0075】
〔比較例3〕
実施例1のウレタンプレポリマーBに替えてウレタンプレポリマーDを使用することとTMP−3MAを0.8質量部に替えて2.3質量部とすること以外は全て実施例1と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0076】
〔比較例4〕
実施例5のウレタンプレポリマーFに替えてウレタンプレポリマーEを使用することとTMP−3MAを2.2質量部に替えて3.1質量部とすること以外は全て実施例5と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0077】
〔比較例5〕
比較例4のTMP−3MAを3.1質量部に替えて0.8質量部とすること以外は全て比較例4と同様の方法で感光性樹脂組成物を調製し、フレキソ印刷版サンプルを作成した。
【0078】
実施例1〜5、比較例1〜4で調製した感光性樹脂組成物の粘度、フレキソ印刷版サンプルのショアA硬度、引張物性、耐ノッチ亀裂性、支持体接着性の評価を実施した。
実施例1〜5、比較例1〜4の感光性樹脂組成物の特徴と評価の結果を表2に示した。
表2中のエチレン性不飽和モノマーの総量は、ウレタンプレポリマーの希釈剤として存在するメタクリル化剤、LMA、PPMA,DEEHEAとTMP−3MAを合計した量を示す。また、3官能以上不飽和モノマーの割合は、前記エチレン性不飽和モノマーの総量の内に占めるTMP−3MAの割合を質量%で示した。
【0079】
【表2】

【0080】
表2の結果から、以下の内容が読み取れる。
(1)メタクリル基指数が1.5〜1.8の範囲である不飽和ポリウレタンプレポリマーを使用して、実施例1〜5の感光性樹脂組成物から得られたフレキソ印刷版は、ショアA硬度25度を下回る範囲にあり、段ボール印刷版の機械的強度の尺度として求められる引張破断強度4MPa以上、引張破断伸度400%以上を達成している。また、耐ノッチ亀裂性についても50秒以上の高いレベルを実現している。
(2)実施例3に対して、メタクリル基指数1.98である不飽和ポリウレタンプレポリマーを使用すること以外は全て同じ樹脂組成である比較例1では、引張破断強度及び引張破断伸度で示される機械物性のレベルはバランスの違いにより略同等と判断されるにも関わらず、ショアA硬度が25度を超え、実施例3よりも11度高い。また、比較例1と同一の不飽和ポリウレタンプレポリマーを用いてTMP−3MAの減量に依ってショアA硬度25度を下回るように低硬度化を図った比較例2では、同等ショアA硬度を示す実施例1又は2に対して引張破断伸度は同等ながら引張破断強度が大きく減少している。
(3)メタクリル基指数1.69である不飽和ポリウレタンプレポリマーを使用した実施例5に対して、同一ポリオール種においてメタクリル基指数1.98の不飽和ポリウレタンプレポリマーを使用した比較例4では、ショアA硬度が25度を超え、また、比較例5では、ショアA硬度25度を下回る範囲にあるものの、段ボール印刷版の機械的強度の尺度として求められる引張破断強度4MPa以上、引張破断伸度400%以上を達成できていない。
(4)比較例3は、メタクリル基指数1.41である不飽和ポリウレタンプレポリマーを使用した事例であり、ショアA硬度25度を下回る範囲にあり、段ボール印刷版の機械的強度の尺度として求められる引張破断強度4MPa以上、引張破断伸度400%以上を満足しているが、支持体接着性が不合格となっている。
以上の結果から、メタクリル基指数が1.50〜1.85の範囲である不飽和ポリウレタンプレポリマーを用い、ショアA硬度25度を下回る範囲であるフレキソ印刷版において、機械的強度を高めることができる。
【0081】
〔実施例6〕
ベタ画像、微細文字及び網点画像を含むネガフィルムを用いてフレキソ印刷版を作成した。
まず、比較例1で調製した感光性樹脂組成物をキャップ樹脂として用い、微細文字、網点画像部の領域のカバーフィルム上に0.3mmの均一の厚みで塗布し、その上からベース樹脂として実施例1で調製した感光性樹脂組成物を塗布した後に支持体をラミネートすること以外は、実施例1に準じた条件で、キャップ版である4mmフレキソ印刷版の製造を行った。
得られたフレキソ印刷版を表面ライナー(再生紙使用)、中芯及び裏面ライナーの紙質が120g/m2であるB段シートの印刷に供した結果、ベタ画像領域では十分なインクの隠蔽率を有し、微細文字、網点画像部の再現性に優れる印刷物を得た。
印刷作業における取り扱いを想定して、レリーフを床面に押し付けて引き摺る動作を繰り返し行ったところ、レリーフに異常な痕跡は残らなかった。
【0082】
〔比較例6〕
実施例6の4mmフレキソ印刷版の製造方法について、キャップ版では無く、比較例1で調製した感光性樹脂組成物を用いた単層版(一種類の樹脂で製造される版)とすること以外は全て実施例6と同一の方法でフレキソ印刷版を作成し、実施例6と同様の印刷評価を行った。
その結果、実施例6と同一の印刷条件ではベタ画像のインクの隠蔽率が十分でなかった。更に徐々に印刷圧力を上げる調整を行いながら印刷を行ったところ、ベタ画像のインクの隠蔽率が十分となる前に微細文字及び網点画像部では画像の太りによる影響が顕著になった。最終的には、インクの隠蔽率を満足するレベルに達することなく、段ボール中芯の潰れが発生した。
【0083】
〔比較例7〕
実施例6の4mmフレキソ印刷版の製造方法について、ベース樹脂として実施例1で調製した感光性樹脂組成物の替わりに比較例2で調製した感光性樹脂組成物を使用すること以外は全て実施例6と同じ方法でフレキソ印刷版を作成し、実施例6とい同様の印刷テストを行った。
その結果、実施例6と同様にベタ画像領域では十分なインクの隠蔽率を有し、微細文字、網点画像部の再現性に優れる印刷物を得た。
しかしながら、印刷版表面が印刷作業における取り扱いを想定して、レリーフを床面に押し付けて引き摺る動作を行ったところ、レリーフ側面に亀裂が生じ、同様の動作を数回繰り返すことで微細レリーフは完全に脱落した。
【0084】
〔実施例7及び比較例7〕
段ボールケースに一般的なベタ画像と比較的大きな文字で構成されたデザインにより、実施例6と同様の方法で作成したフレキソ印刷版と比較例6と同様の方法で作成したフレキソ印刷版を作成した。
準備したフレキソ印刷版に対して、表面ライナー、裏面ライナーの紙質が150g/m2、中芯の紙質が90g/m2から成るB段シートを用いた商業印刷による比較評価を行った。
その結果、比較例6と同様の方法で作成したフレキソ印刷版はベタ画像のインク掠れの観点から100m/分の印刷速度が最適であったが、実施例6と同様の方法で作成したフレキソ印刷版では同等の印刷品質を維持した状態で160m/分まで印刷スピードを増大させることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の感光性樹脂組成物は、特に段ボール印刷用のフレキソ印刷版の分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖末端がメタクリル基で修飾された不飽和ポリウレタンプレポリマー:100質量部、
エチレン性不飽和モノマー:10〜150質量部、
光重合開始剤:0.01〜10質量部、
を含み、
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの下記式(1)で求められるメタクリル基指数が1.50〜1.85の範囲であるフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
メタクリル基指数 = X/(8500/Y) 式(1)
(式中、Xは前記不飽和ポリウレタンプレポリマー中のメタクリル基含有率(%)を表し、Yは前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量を表す。)
【請求項2】
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーの数平均分子量が10,000〜40,000の範囲である請求項1に記載のフレキソ印刷用感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和ポリウレタンプレポリマーが、ポリオールとポリイソシアネートによるウレタン化反応の後に、一分子中にメタクリル基及び水酸基を含有し、分子量が100〜500の範囲である低分子化合物を反応させて得られる、請求項1又は2に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオールがポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールの混合物から成る、請求項3に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和モノマーの内、一分子中にメタクリル基及び/又はアクリル基を3個以上有する多官能モノマーが0.5〜15質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物。
【請求項6】
下記(A)〜(C)の各工程、
(A)請求項1〜5のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂組成物を用いて形成された成型体の表面を露光し、当該成型体に硬化部位を形成する硬化部位形成工程、
(B)洗浄液により前記硬化部位を現像する現像工程、
(C)現像された前記硬化部位の表面に活性光線を照射する活性光線照射工程、
を含むフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られるフレキソ印刷版。

【公開番号】特開2009−229594(P2009−229594A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72397(P2008−72397)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】