説明

プラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ及び測定装置

【課題】 高価な測定装置を用いることなく、小型で、簡便な方法によりプラズマの電子密度及び電子温度の測定が可能な測定プローブ及び測定装置を実現する。
【解決手段】 測定プローブ10は、長さが異なる複数のスリット13、14を備え、絶縁膜15、16を設けることにより各スリットに対応して1つの測定プロープで複数の共振周波数を持つように構成されている。これにより、プラズマの電子密度ne及び電子温度Teの共振周波数依存性から当該プラズマの電子密度ne及び電子温度Teを算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体装置の製造工程などにおいて、CVD(化学気相成長)やエッチングなどを行うプラズマ処理が広く行われている。プラズマパラメータの診断は、プラズマ処理をモニターするための基本的な要件の1つである。材料プロセスを決定づける活性粒子は主に中性粒子との電子衝突反応(たとえば励起、電離、解離など)により生成されることから、電子密度を測定し、その大きさや空間分布・経時変化を把握して制御することや電子温度を測定、把握することが重要である。低圧力の放電プラズマでは、各種電子密度解析ツールが開発されている。このような電子密度解析ツールとして、例えば、プラズマ中に金属プロープを直に晒した状態で設置しておき、金属プローブへ直流バイアス電圧、又は、高周波電圧を重畳させた直流バイアス電圧を印加した時に金属プローブに流れる電流値に基づいて電子密度を求めるラングミュアプローブ法が広く知られている。マイクロ波帯の共振周波数から電子密度を測定する各種プローブも提案されており、例えば、非特許文献1には、金属製アンテナによる、電磁波の共振現象を利用する電子密度測定法が開示されている。また、特許文献1には、プラズマ中を伝播する単色レーザ光などのマイクロ波と、大気中を伝播するマイクロ波との位相差に基づいて電子密度を求めるマイクロ波干渉法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−253871号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R.B.Piejak,V.A.Godyak,R.Gamer and B.M.Alexandrovich,N.Stemberg,J.APPl.Phys.95,3785(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の技術のうち、ラングミュアプローブ法は、材料プロセスに用いるとプラズマによりプローブ表面に被膜が形成されて汚染される恐れがあるため、正確な電子密度測定には適用することが難しいという問題があった。マイクロ波帯の共振周波数を測定するプローブを用いた測定では、電子密度と電子温度との両方を測定するためには、異なる共振周波数のプローブを複数個用意しなければならないが、それぞれについて周波数掃引を行う必要があるため、測定に時間がかかる、という問題があった。マイクロ波干渉法は、電子温度の測定ができないこと、マイクロ波を透過させるための大きな窓をチャンバーに設け、プラズマのサイズも大きい必要があること、また、空間分解能が乏しく、測定装置も高価である、などの問題があった。その他の方法、例えば、レーザー・トムソン散乱法なども測定装置が高価であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、高価な測定装置を用いることなく、小型で、簡便な方法によりプラズマの電子密度及び電子温度の測定が可能な測定プローブ及び測定装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、プラズマ雰囲気内に挿入され、マイクロ波領域の共振アンテナとして作用する、板状に形成されたプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブであって、前記プラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブは、一端が開口した長さが異なる複数のスリットを備えた板状に形成されており、前記プローブに周波数を掃引しながら高周波パワーを供給し、前記プローブから反射されるパワーにより得られる反射係数のスペクトルから、前記各スリットに対応する共振周波数を測定可能な構成とするとともに、前記各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成されている、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項1に記載する発明のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ(以下、略して測定プローブという)をプラズマ雰囲気内に挿入すると、測定プローブとプラズマとの境界に、シースが形成される。このシースの厚さ(シース厚)は、プラズマの電子密度、電子温度及びプローブのスリット形状に依存する。また、スリットの長さが長いほど、共振周波数は低くなる。
本測定プローブによれば、一端が開口した長さが異なる複数のスリットを備えており、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成されているため、1つのプローブにより複数の異なる共振周波数を測定することができる。プラズマの電子密度と電子温度との関係は、共振周波数により異なるため、測定された複数の異なる共振周波数における電子密度と電子温度との関係をすべて満足するような電子密度及び電子温度を、当該プラズマの電子密度及び電子温度として算出することができる。
本測定プローブは、例えば、一辺数cm程度の金属板から形成することができるので小型であるとともに、1つの測定プローブで電子温度と電子密度との両方を算出できるため、測定操作が簡便である。
また、測定も例えば市販のネットワークアナライザにより簡便な操作で可能であるため、高価な測定装置を用いることなく、プラズマの電子密度及び電子温度を測定することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブにおいて、前記各スリットは、厚さが異なる絶縁体からなる絶縁層によりそれぞれ覆われている、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項2に記載の発明のように、各スリットを厚さが異なる絶縁体からなる絶縁層によりそれぞれ覆われているようにすることにより、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成することができる。ここで、絶縁層の厚さが厚いほど、共振周波数のシース厚依存性は小さくなるとともに、共振周波数が低くなる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブにおいて、前記絶縁層は、長いスリットほど厚くなるように設けられている、という技術的手段を用いる。
【0012】
絶縁層の厚さが厚いほど、共振周波数は低くなる。請求項3に記載の発明のように、絶縁層を長いスリットほど厚くなるように設けると、共振周波数が低い長いスリットの共振周波数を更に低くすることができる。これにより、他のスリットの共振周波数との差を大きくすることができるので、共振ピークの分離を容易にすることができ、測定感度を向上させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブにおいて、前記各スリットの幅がそれぞれ異なる、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項4に記載の発明のように、各スリットの幅をそれぞれ異なるようにすることにより、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成することができる。ここで、絶縁層の厚さが厚いほど、共振周波数のシース厚依存性は小さくなる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブにおいて、高周波パワーを供給するスリットである励起スリットが最も長さが長いスリットである、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項5に記載の発明のように、高周波パワーを供給する励起スリットが最も長さが長いスリットにすることにより、励起しない他のスリットの共振スペクトル強度を大きくすることができるので、測定感度を向上させることができる。
【0017】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブにおいて、圧力が10torr以下のプラズマの電子密度及び電子温度の測定に用いる、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項6に記載の発明のように、圧力が10torr以下のプラズマでは、プラズマの電子密度及び電子温度の共振周波数依存性が高いため、測定精度を高くすることができ、好適に用いることができる。
【0019】
請求項7に記載の発明では、プラズマの電子密度及び電子温度の測定装置であって、 請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブと、前記プローブに同軸ケーブルを介して電気的に接続され周波数を掃引しながら高周波パワーを供給する高周波発振器と、前記プローブから反射されるパワーにより得られる反射係数のスペクトルを測定し、前記プローブの共振特性を検出する共振スペクトル検出部と、前記共振スペクトル検出部において検出された共振特性から各スリットに対応する共振周波数を算出し、当該共振周波数における電子密度と電子温度との関係から、プラズマの電子密度及び電子温度を算出するプラズマ特性算出部と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、マイクロ波領域の共振アンテナとして作用するプローブをプラズマ雰囲気内に挿入し、高周波発振器によりプローブに周波数を掃引しながら高周波パワーを供給し、共振スペクトル検出部により、プローブから反射されるパワーにより得られる反射係数のスペクトルを測定し、プローブの共振スペクトルを検出し、共振スペクトル検出部において、検出された共振特性から共振周波数を算出し、プラズマ特性算出部において、当該共振周波数における電子密度と電子温度との関係から、プラズマの電子密度及び電子温度を算出することができる。これにより、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の測定プローブの効果を奏する測定装置を実現することができる。また、高周波発振器による周波数の掃引が1回でよいので、測定時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の測定プローブ及び測定装置の概略図である。
【図2】測定プローブの外形形状を示す説明図である。
【図3】本発明の測定プローブを用いたプラズマの電子密度及び電子温度の測定原理を示す説明図である。
【図4】スリットの長さと共振周波数との関係を示す共振スペクトルである。
【図5】高周波パワーを供給するスリットとスペクトルの強度との関係を示す共振スペクトルである。
【図6】スリットを挟み込む石英板の厚さと、共振周波数のシース厚依存性との関係を示す説明図である。
【図7】スリットの幅、共振周波数のシース厚依存性との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明におけるプラズマ密度測定装置及びプラズマ密度測定方法について、図を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、プラズマ密度測定装置1は、プラズマ処理装置30のチャンバー31内部に取り付けられている測定プローブ10と、測定プローブ10と接続され、チャンバー31外部に配設されているプローブ制御装置20とを備えている。
【0024】
プラズマ処理装置30は、高周波電源により生成されたプラズマPと被処理体を内部に有するチャンバー31と、高周波電力などプラズマ密度の制御因子を制御する制御部32とを備えている。
【0025】
測定プローブ10は、チャンバー31内部に取り付けられており、後端が同軸ケーブルによりプローブ制御装置20に接続されている。具体的な構成については、後述する。
【0026】
プローブ制御装置20は、周波数掃引式の高周波発振器21と、方向性結合器22と、減衰器23と、フィルタ24と、反射係数スペクトル表示部25、プラズマ特性算出部26と、を備えており、それぞれが図1に示すように接続されている。
【0027】
高周波発振器21は、所定の周波数範囲、例えば、100kHzから3GHzまで、周波数を掃引しながらパワーを供給する。高周波発振器21により出力された高周波パワーは、方向性結合器22、減衰器23、フィルタ24を経て、測定プローブ10に印加される。高周波発振器21から出力される高周波パワーは反射係数スペクトル表示部25に送られ、その周波数はプラズマ特性算出部26に送出される。
【0028】
方向性結合器22は、測定プローブ10から供給された高周波パワーのプラズマによる反射率の周波数変化を検出し、反射係数スペクトル表示部25へ出力する。
【0029】
減衰器23は、測定プローブ10へ送り込む測定用高周波パワーの量を調整する。フィルタ24は、測定プローブ10を経由してプローブ制御部20へ混入してくるプラズマ励起用の高周波信号雑音を除去する。
【0030】
反射係数スペクトル表示部25は、測定プローブ10の反射率の周波数変化を共振スペクトルとして検出する。
【0031】
プラズマ特性算出部26は、反射係数スペクトル表示部25から送出された共振スペクトルに基づいて共振周波数を求め、これらに基づいて、後述する測定原理により、プラズマの電子密度及び電子温度を算出する。
【0032】
測定プローブ10は、電磁波の共振現象を利用する金属製のアンテナを用い、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成することにより、1つのプロープで複数の共振周波数を持たせるために、金属板に一端が開口した複数のスリットを設け、各スリットを絶縁層で覆った形状に形成されている。スリットの長さが長いほど、共振周波数は低くなる。
【0033】
本実施形態では、図2に示すように、矩形状の金属板12に幅が同じで長さが異なる2本のスリット13、14を設けた形状とした。ここで、スリット13、14はL字型であり、スリット14の方が全長が長くなるように形成されている。
【0034】
スリット13、14は、厚さが異なる絶縁層15、16によりそれぞれ挟み込まれている。本実施形態では、スリット長が長いスリット14を覆う絶縁層16の方が、スリット長が短いスリット13を覆う絶縁層15よりも厚くなるように形成されている。これにより、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成することができる。絶縁層の厚さが厚いほど、共振周波数のシース厚依存性は小さくなるとともに、共振周波数は低くなるため、スリット14に対応する共振周波数を低くすることができる。これにより、スリット13に対応する共振周波数との差を大きくすることができるので、共振ピークの分離を容易にすることができ、測定感度を向上させることができる。
【0035】
金属板11は、例えば、ステンレス鋼で形成することができる。その他、金、白金、タングステン、モリブデン、タンタルなどの耐食性金属で形成すれば、プラズマによる腐食を受けにくく寿命を長くすることができる。
【0036】
また、絶縁層14、15は、例えば、石英で形成することができる。その他、プラズマに対する耐食性を有していれば、アルミナ、ジルコニア、窒化けい素などのセラミックス、樹脂材料などを用いることができる。
【0037】
1つのスリットの端部には、測定プローブ10に周波数を掃引しながら高周波パワーを供給するための給電点Eが設けられ、同軸ケーブル11と接続されている。本実施形態では、長い方のスリット14に給電点Eが設けられており、スリット14が高周波パワーが励起される励起スリットとなる。同軸ケーブル11の他端は、プローブ制御装置20に接続されている。
【0038】
次に、測定プローブ10を備えたプラズマ密度測定装置1によるプラズマの電子密度及び電子温度の測定方法を示す。
【0039】
プラズマ雰囲気内に測定プローブ10を挿入すると、測定プローブ10とプラズマとの境界に、シースが形成される。高周波発振器21により、周波数を掃引しながら高周波パワーを測定プローブ10に供給すると、測定プローブ10を励振するのに用いられ、電磁波が励起され、この励起された電磁波はプラズマPへ放射・吸収される。残りは反射パワーとして同軸ケーブル11からプローブ制御装置20に戻ってくる。
【0040】
反射パワーは、方向性結合器22において、測定プローブ10から供給される高周波パワーのプラズマによる反射率の周波数変化として検出され、反射係数スペクトル表示部25において、反射率の周波数変化を共振スペクトル(例えば、実施例の図4に示すような共振スペクトル)として検出する。検出された共振スペクトルには、各スリット13、14に対応して反射パワーが共鳴的に減少する共振ピークが現れる。ここで、スリット長が長いスリット14による共振ピークは、スリット長が短いスリット13による共振ピークよりも低周波数側に現れる。
【0041】
そして、プラズマ特性算出部26において、スリット13による共振ピークの共振周波数f13及びスリット14による共振ピークの共振周波数f14を求める。
【0042】
ここで、シース厚dと電子密度ne及び電子温度Teとの間には、下式の関係が成立する。
【0043】
(数1)
d∝(Te/ne1/2
【0044】
また、シース厚dは、電子密度neと電子温度Teとの関係は共振周波数によって異なり、かつ測定プローブ10のスリット形状に依存するため、予め電磁界シミュレーションにより測定プローブ10の共振特性から、電子密度neと電子温度Teとの関係を求めておく。そして、図3に示すように、スリット13、14による異なる共振周波数f13、f14にそれぞれ対応して、電子密度neと電子温度Teとの関係を示す曲線が2本描かれることになる。この2本の曲線の交点からプラズマの電子密度ne及び電子温度Teを算出する。ここで、圧力が10torr以下のプラズマでは、プラズマの電子密度ne及び電子温度Teの共振周波数依存性が高いため、測定精度を高くすることができ、好適に用いることができる。
【0045】
プラズマ特性算出部26は、プラズマ発生装置30の制御部32に接続されており、プラズマ密度算出部26において算出された電子密度は、制御部32に送出される。制御部32は測定されたプラズマ密度に基づいて、プラズマ生成用の高周波パワー(高周波電力)やガス圧などのプラズマ状態を支配する因子を制御することができる。
【0046】
上述の測定プローブ10及び測定プローブ10を備えたプラズマ密度測定装置1によれば、測定プローブ10が、複数のスリット13、14を備え、各スリットに対応して1つの測定プロープで複数の共振周波数を持つように構成されているので、プラズマの電子密度ne及び電子温度Teの共振周波数依存性から当該プラズマの電子密度ne及び電子温度Teを算出することができる。
測定プローブ10は、一辺数cm程度の金属板から形成することができるので小型であるとともに、1つの測定プローブで電子温度と電子密度との両方を算出できるため、測定操作が簡便である。
また、測定も例えば市販のネットワークアナライザにより簡便な操作で可能であるため、高価な測定装置を用いることなく、電子密度ne及び電子温度Teを測定することができる。
【0047】
(変更例)
測定プローブ10において、金属板12、スリット13、14及び絶縁層15、16の寸法は、測定対象であるプラズマの電子密度ne及び電子温度Teに合わせて任意に設定することができる。
【0048】
スリットの形状は、相互干渉がないようにすれば、種々の形状とすることができる。例えば、蛇行したスリットや渦巻き状のスリットなどを採用することもできる。
【0049】
本実施形態では、スリットの数が2つである構成を採用したが、3つ以上設けることもできる。スリットの数を増やすことにより、共振周波数やシース厚依存性の範囲を広くできることができるので、プラズマの電子密度ne及び電子温度Teの測定レンジを広げることができる
【0050】
(実施例1)
本実施例では、下記に示す測定プローブ10について、電磁界シミュレーションによって共振スペクトルを求め、スリットの長さの影響を調べた。ここで、電子密度ne=3×1016-3、電子温度Te=3eVとした。
【0051】
測定プローブ10は、縦28mm、横28mm、厚さ0.1mmの正方形状のステンレス製の金属板11に、幅1mmで、長さが異なる2本のスリット13、14を備えた構成とした。スリット13は、厚さ0.1mmの石英製の絶縁層15に挟み込まれて覆われており、スリット14は、厚さ1.0mmの石英板製の絶縁層16に挟み込まれて覆われている。給電点Eは、長さが長い方のスリット14に設けた。図4(A)には、スリット13が32mm、スリット14が41mmの場合、図4(B)には、スリット13が32mm、スリット14が39mmの場合、図4(C)には、スリット13が33mm、スリット14が39mmの場合の結果を示す。
【0052】
図4に示すように、1つの測定プローブ10により複数の異なる共振周波数を測定することができることが確認された。ここで、低周波側のピークは長さが長い方のスリット14に、高周波側のピークは長さが短い方のスリット13にそれぞれ対応している。また、スリット13及びスリット14の長さの差が大きいほど、共振周波数の差が大きくなる傾向が認められた。これにより、共振ピークの分離を容易にし、測定感度を向上させるためには、スリット13及びスリット14の長さの差を大きくすればよいことがわかる。
【0053】
(実施例2)
本実施例では、実施例1の測定プローブ10を用いて、給電点Eが共振スペクトルの強度に与える影響、つまり、励起スリットが共振スペクトルの強度に与える影響について調べた。スリット13の長さは32mm、スリット14の長さは41mmとした。図5中のAは、長さが長い方のスリット14に給電点Eを設けた場合(スリット14が励起スリット)、Bは、長さが短い方のスリット13に給電点Eを設けた場合(スリット13が励起スリット)の共振スペクトルである。
【0054】
図5に示すように、各スリットの共振周波数はほとんど変化しないが、給電点Eを設けていないスリットにおける共振ピーク強度に違いが認められた。共振スペクトルA、Bにおいて、励起スリットに対応する共振ピーク強度は同程度であったが、給電点Eを設けていないスリットの共振ピーク強度は、共振スペクトルAの方が強かった。これにより、本形状の測定プローブ10では、長さが長い方のスリット14に給電点Eを設けた場合(スリット14が励起スリット)の方が、他のスリットの共振ピーク強度を強くすることができるため、測定感度を向上させることができ、好ましいことがわかった。
【0055】
(実施例3)
本実施例では、スリット13を覆う絶縁層15の厚さを0.1mmと1.0mmとの2水準とし、絶縁層15の厚さがスリット13の共振周波数のシース厚さ依存性を調べた。図6に示すように、絶縁層15の厚さが厚い方が、曲線の傾きが小さく、共振周波数のシース厚依存性は小さくなるとともに、共振周波数が低くなることが確認された。
【0056】
[実施形態の効果]
本発明の測定プローブ10及び測定プローブ10を備えたプラズマ特性測定装置1によれば、測定プローブ10が、複数のスリット13、14を備え、各スリットに対応して1つの測定プロープで複数の共振周波数を持つように構成されているので、プラズマの電子密度ne及び電子温度Teの共振周波数依存性から当該プラズマの電子密度ne及び電子温度Teを算出することができる。
測定プローブ10は、一辺数cm程度の金属板から形成することができるので小型であるとともに、1つの測定プローブで電子温度と電子密度との両方を算出できるため、測定操作が簡便である。
また、測定も例えば市販のネットワークアナライザにより簡便な操作で可能であるため、高価な測定装置を用いることなく、電子密度ne及び電子温度Teを測定することができる。高周波発振器21による周波数の掃引が1回でよいので、測定時間を短縮することができる。
【0057】
[その他の実施形態]
上述の実施形態では、各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成するために、厚さが異なる絶縁層15、16を設けたが、絶縁層15、16を設けずにスリットの幅を変えることにより、共振周波数のシース厚依存性依存性を変えてもよい。例えば、図7に示すように、スリット13の幅を1、5、8mmと変えた場合、スリット13の幅が広いほど、曲線の傾きが小さく、共振周波数のシース厚依存性は小さくなることが確認された。従って、各スリットの幅を変えることにより、共振周波数のシース厚依存性依存性を変えることができるため、測定プローブ10を、絶縁層を設けずに、複数の幅が異なるスリットを備えた構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 プラズマ特性測定装置
10 プローブ
11 同軸ケーブル
12 金属板、
13、14 スリット
15、16 絶縁層
20 プローブ制御装置
21 高周波発振器
22 方向性結合器
23 減衰器
24 フィルタ
25 反射係数スペクトル表示部
26 プラズマ特性算出部
30 プラズマ処理装置
31 チャンバー
32 制御部
E 給電点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ雰囲気内に挿入され、マイクロ波領域の共振アンテナとして作用するプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブであって、
前記プラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブは、一端が開口した長さが異なる複数のスリットを備えた板状に形成されており、
前記プローブに周波数を掃引しながら高周波パワーを供給し、前記プローブから反射されるパワーにより得られる反射係数のスペクトルから、前記各スリットに対応する共振周波数を測定可能に構成されるとともに、
前記各スリットに対応する共振周波数のシース厚依存性が異なるように構成されていることを特徴とするプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項2】
前記各スリットは、厚さが異なる絶縁体からなる絶縁層によりそれぞれ覆われていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項3】
前記絶縁層は、長いスリットほど厚くなるように設けられていることを特徴とする請求項2に記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項4】
前記各スリットの幅がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項5】
高周波パワーを供給するスリットである励起スリットが最も長さが長いスリットであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項6】
圧力が10torr以下のプラズマの電子密度及び電子温度の測定に用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載のプラズマの電子密度及び電子温度の測定プローブと、
前記プローブに同軸ケーブルを介して電気的に接続され周波数を掃引しながら高周波パワーを供給する高周波発振器と、
前記プローブから反射されるパワーにより得られる反射係数のスペクトルを測定し、前記プローブの共振特性を検出する共振スペクトル検出部と、
前記共振スペクトル検出部において検出された共振特性から各スリットに対応する共振周波数を算出し、当該共振周波数における電子密度と電子温度との関係から、プラズマの電子密度及び電子温度を算出するプラズマ特性算出部と、
を備えたことを特徴とするプラズマの電子密度及び電子温度の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−54510(P2011−54510A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204416(P2009−204416)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許発明
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【Fターム(参考)】