説明

プラズマ処理装置、プラズマ処理装置の使用方法およびプラズマ処理装置のクリーニング方法

【課題】誘電体板の固定方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置10は、処理容器100と、マイクロ波を出力するマイクロ波源700と、マイクロ波源から出力されたマイクロ波を伝搬させる同軸管315と、同軸管315を伝搬したマイクロ波を透過させて処理容器100の内部に放出する複数の誘電体板305と、一端が同軸管315に連結し、他端が誘電体板305の基板側の面に露出した金属電極310とを有する。同軸管315は、誘電体板305および金属電極310を保持した状態にて固定機構500により固定される。さらに、同軸管315は、バネ部材515により処理容器100の外側へ向かう力を与えられ、これにより、複数の誘電体板305を蓋体300の内壁に密着させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波によりガスを励起させて被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理装置に関し、特に、誘電体の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置では、処理容器内に供給されるガスを励起するために電力を供給しなければ、プラズマを生成することはできない。一般に、処理容器に電力を供給するために誘電体板が用いられる(たとえば、特許文献1を参照。)。特許文献1に記載されたプラズマ処理装置では、処理室内に対向して上部電極と下部電極を備え、上部電極に高周波電力を印加して処理室内の処理ガスをプラズマ化することにより、下部電極上に載置された基板にプラズマ処理が施される。
【0003】
上部電極は、上部部材、クーリングプレート、誘電体からなる電極板を層状に積み重ねて構成され、さらに、これらの部材と処理容器との間にこれらの部材を支える支持体が設けられる。
【0004】
クーリングプレートには、複数の貫通孔が形成され、ネジを貫通孔に挿通し、このネジを電極板に設けられたネジ孔に螺合することにより、クーリングプレートと電極板とを強固に接合する。
【0005】
【特許文献1】特開2003−297806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構成によれば、電極板と支持体との間に、隙間が生じ、その隙間にプラズマが入り込み、異常放電を生じる可能性がある。これにより、本来プラズマの生成に使用するためのマイクロ波のパワーが浪費され、電極板と支持体との間を真空シールするためにこれらの間に設けられたOリングにダメージを与え、異常放電から生じる熱により誘電体からなる電極板に割れが生じるおそれがある。これに対して、電極板と支持体との間に隙間が生じないように高精度な加工を行うと、コスト高につながる。また、高精度な加工を行って隙間を十分小さくしたとしても、電極がプラズマに晒されることにより温度が上昇すると、部材間の熱膨張の差により隙間が広がって異常放電を生じたり、逆に隙間がなくなって部材間に強い応力がかかって電極板に割れが生じたりするおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様によれば、マイクロ波によりガスを励起させて被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、処理容器と、マイクロ波を出力するマイクロ波源と、前記処理容器の内壁に設けられ、マイクロ波を透過させて前記処理容器の内部に放出する誘電体板と、前記誘電体板に隣接し、前記マイクロ波を前記誘電体板に伝搬させる導体棒と、前記誘電体板を保持するために前記導体棒に連結する金属電極と、前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段と、を備えたプラズマ処理装置が提供される。
【0008】
これによれば、誘電体板は、導体棒に連結された金属電極により保持された状態にて、導体棒に対して与えられる力により処理容器の外側に向かって引き上げられる。これにより、外圧(大気圧)によって誘電体板が処理容器の内壁から離れようとする力に反発して、誘電体板を処理容器の内壁に常に適度な力で密着させることができる。この結果、誘電体板近傍のプラズマが処理容器の内壁と誘電体板との隙間に入り込むことにより生じていた異常放電の発生を抑止することができ、これにより、プラズマを均一かつ安定的に生成することができる。
【0009】
前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段は、バネ部材であってもよい。磁石を使うこともできる。また、前記バネ部材は、前記処理容器の外側に設けられた第1のバネ部材を含んでいてもよい。これによれば、蓋部の外側から導体棒を吊り上げ、これにより、金属電極に保持された誘電体板を処理容器の内壁に密着させることができる。また、第1のバネ部材の交換が容易で保守がしやすいという利点がある。
【0010】
このとき、この第1のバネ部材は、コイル状のバネ部材または板状のバネ部材(たとえば、バネワッシャー)のいずれかであってもよい。また、前記第1のバネ部材は、金属バネまたはセラミックバネのいずれかであってもよい。
【0011】
前記処理容器の蓋部と前記導体棒との間に第1の誘電部材を備え、前記バネ部材は、前記第1の誘電部材と前記蓋部との間であって前記誘電体板に向かう面(前記誘電体に最も近い面)に設けられた第2のバネ部材を含んでいてもよい。これによっても、導体棒に処理容器の外側に向かう力を加え、これにより、金属電極に保持された誘電体板を処理容器の内壁に密着させることができる。
【0012】
このとき、前記第2のバネ部材は、Oリング、Cリング、金属バネまたはセラミックバネのいずれかであってもよい。これによれば、これら部材の弾性力により処理容器の内部から導体棒に処理容器の外側に向かう力を与えることができる。
【0013】
前記第1の誘電部材は、リング状に形成され、前記導体棒が貫通した状態にて一部が前記処理容器の蓋部に埋め込まれていてもよい。また、前記第1の誘電部材と前記導体棒との間であって前記処理容器の外側に向かう面に緩衝部材が設けられていてもよい。これによれば、導体棒が吊り上げられたとき、導体棒との接触部において加えられる局所的な力による第1の誘電部材の破損を防ぐことができる。
【0014】
なお、前記緩衝部材は、テフロン(登録商標)により形成されていてもよい。マイクロ波を吸収して過熱されないように誘電損失が小さく、緩衝効果を備えたある程度柔らかい材料が好ましい。
【0015】
前記第1の誘電部材と前記導体棒との間には、前記第1の誘電部材と前記導体棒との間を封止する第1の封止部材が設けられていてもよい。これによれば、前記第2のバネ部材および前記第1の封止部材をOリングまたはCリングのいずれかで構成することにより、第1の誘電部材と前記導体棒の内部導体との間、および第1の誘電部材と処理容器との間を真空シールし、これにより、処理容器内の気密性を保つことができる。
【0016】
また、内部を前記導体棒が貫通するリング状の第2の誘電部材と、前記第2の誘電部材と前記蓋部との間を封止する第2の封止部材と、前記導体棒または前記金属電極と前記第2の誘電部材との間を封止する第3の封止部材とを有していてもよい。
【0017】
これによれば、第2の誘電部材と前記導体棒の内部導体との間、および第2の誘電部材と蓋部との間を真空シールし、これにより、処理容器内の気密性を保つことができる。また、第1の誘電部材と第2の誘電部材とにより、導体棒の内部導体を2点で支えるため、導体棒の軸のぶれを抑え、誘電体板と処理容器の内壁との密着性をさらに高めることができる。
【0018】
なお、前記第2のバネ部材および前記第1の封止部材は、OリングまたはCリングのいずれかであってもよい。また、前記第2の封止部材および第3の封止部材は、OリングまたはCリングのいずれかであってもよい。
【0019】
前記第1の誘電部材と前記第2の誘電部材との間の空間は、所定の真空度に保持されていてもよい。これによれば、第2の封止部材および第3の封止部材を透過する不純物ガスの量を著しく減少させ、処理容器内の清浄度をより高めることができる。
【0020】
前記第1の誘電部材と前記第2の誘電部材との間の空間には、不活性ガスが充填されていてもよい。これによれば、大気側の不純物が処理容器内に混入することを防ぐことができる。
【0021】
前記第1の誘電部材および前記第2の誘電部材は、石英またはアルミナから形成されていてもよい。
【0022】
前記誘電体板には、前記誘電体板と前記蓋部との間にて前記誘電体板と前記蓋部とを係止する係止部が設けられていてもよい。これによれば、導体棒の軸まわりに誘電体板が回転することを防止することができる。
【0023】
前記係止部としては、たとえば、前記誘電体板の外周面に隣接して前記処理容器の内壁に固定された凸状部材であってもよい。
【0024】
前記処理容器および前記導体棒は、金属によりそれぞれ形成され、前記導体棒が前記処理容器の蓋部を貫通する部分に前記導体棒と前記処理容器とを短絡させる短絡部を有していてもよい。短絡部は、たとえば、金属コイルまたは金属ブラシなどで形成される。これによれば、導体棒と処理容器を電気的に短絡させるとともに、短絡部近傍の熱伝導をよくすることができる。
【0025】
前記処理容器および前記導体棒は、金属によりそれぞれ形成され、前記導体棒と前記処理容器とを短絡させる短絡部を備え、前記バネ部材は、前記短絡部の外側に設けられた第1のバネ部材を含んでいてもよい。
【0026】
前記導体棒は、前記短絡部にて前記処理容器の蓋部に対して摺動可能に係合していてもよい。これによれば、導体棒がバネの弾性力や熱応力などにより移動または伸張することにより、誘電体板が割れたり、誘電体板と処理容器の内壁との間に隙間が生じて異常放電が生じることを防止することができる。
【0027】
プロセス中、前記誘電体板の側面は、プラズマに接触してもよい。たとえば、誘電体板の側面にて誘電体板が他の部材と接触していた場合には、それらの部材の隙間にプラズマが入り込んで異常放電が生じることがあるが、このような状態であれば、異常放電が生じることなく、安定的にプラズマを生成することができる。
【0028】
前記導体棒の内部には、前記導体棒を冷却する冷却機構が設けられていてもよい。これによれば、マイクロ波やプラズマにより導体棒や金属電極が過度に加熱されることを防ぐことができる。
【0029】
前記誘電体板、前記導体棒および前記金属電極は、それぞれ複数設けられ、各導体棒は、各誘電体板の略中央に設けられた前記穴部を介して各金属電極とそれぞれ連結していてもよい。
【0030】
これによれば、複数の誘電体板から処理容器内に均一にマイクロ波を供給することにより、均一なプラズマを安定的に生成することができる。さらに、複数の誘電体板にそれぞれマイクロ波を供給することができるため、被処理体の大面積化に応じて拡張性の高いプラズマ処理装置を提供することができるとともに、誘電体板の交換が容易で保守がしやすいという利点がある。
【0031】
前記マイクロ波源は、周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力するようにしてもよい。これによれば、カットオフ密度を低くして、プロセスウィンドウを広くすることができ、一つの装置でさまざまなプロセスを実現することができる。
【0032】
前記誘電体板は、アルミナから形成されていてもよい。
【0033】
また、前記導体棒は、熱伝導率および電気伝導率が高い銅により形成されていることが好ましい。これによれば、マイクロ波やプラズマから導体棒に加えられた熱を効果的に逃がすとともにマイクロ波を良好に伝搬させることができる。
【0034】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、マイクロ波源から周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力し、前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒に前記マイクロ波を伝搬させ、前記導体棒を伝搬したマイクロ波を前記導体棒に隣接した前記誘電体板に伝搬させ、前記誘電体板を透過して前記処理容器に導入されたマイクロ波により処理ガスを励起させて被処理体に所望のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の使用方法が提供される。
【0035】
これによれば、誘電体板を金属電極および金属電極に連結された導体棒により支持し、さらに、導体棒をバネ部材で吊り上げることにより、誘電体板を処理容器の内壁に密着させた状態で、被処理体をプラズマ処理することができる。
【0036】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒に前記マイクロ波を伝搬させ、前記導体棒を伝搬したマイクロ波を前記導体棒に隣接した前記誘電体板に伝搬させ、前記誘電体板を透過して前記処理容器に導入されたマイクロ波によりクリーニングガスを励起させてプラズマ処理装置をクリーニングするプラズマ処理装置のクリーニング方法が提供される。
【0037】
これによれば、たとえば、1GHz以下のマイクロ波を用いることにより、2.45GHzの周波数のマイクロ波のある程度のパワーでは単一ガスの状態で表面波が広がらず、均一で安定したプラズマを励起できなかったF系単一ガスであっても均一で安定したプラズマを励起させることができる。これにより、実用的なマイクロ波のパワーを用いてクリーニングガスを励起させ、これにより生成されたプラズマによってプラズマ処理装置の内部をクリーニングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第1実施形態)
まず、本装置の縦断面を模式的に示した図1(図2の断面O−O)および処理容器の天井面を示した図2を参照しながら、本発明の第1実施形態にかかるプラズマ処理装置について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより重複説明を省略する。
【0039】
(プラズマ処理装置の構成)
プラズマ処理装置10は、その内部にてガラス基板(以下、「基板G」という。)をプラズマ処理するための処理容器100を有している。処理容器100は、容器本体200と蓋体300とから構成される。容器本体200は、その上部が開口された有底立方体形状を有していて、その開口は蓋体300により閉塞されている。容器本体200と蓋体300との接触面にはOリング205が設けられていて、これにより容器本体200と蓋体300とが密閉され、処理室Uが形成される。容器本体200および蓋体300は、たとえば、アルミニウム等の金属からなり、電気的に接地されている。
【0040】
処理容器100の内部には、基板Gを載置するためのサセプタ105(ステージ)が設けられている。サセプタ105は、たとえば窒化アルミニウムからなり、その内部には、給電部110およびヒータ115が設けられている。
【0041】
給電部110には、整合器120(たとえば、コンデンサ)を介して高周波電源125が接続される。また、給電部110には、コイル130を介して高圧直流電源135が接続される。高周波電源125および高圧直流電源135は接地されている。
【0042】
給電部110は、高周波電源125から出力された高周波電力により処理容器100の内部に所定のバイアス電圧を印加するようになっている。また、給電部110は、高圧直流電源135から出力された直流電圧により基板Gを静電吸着するようになっている。
【0043】
ヒータ115には、処理容器100の外部に設けられた交流電源140が接続されていて、交流電源140から出力された交流電圧により基板Gを所定の温度に保持するようになっている。サセプタ105は、支持体145に支持されていて、その周囲には処理室Uのガスの流れを好ましい状態に制御するためのバッフル板150が設けられている。
【0044】
処理容器100の底部にはガス排出管155が設けられていて、処理容器100の外部に設けられた真空ポンプ(図示せず)を用いてガス排出管155から処理容器100内のガスが排出されることにより、処理室Uは所望の真空度まで減圧される。
【0045】
蓋体300には、複数の誘電体板305、複数の金属電極310および複数の同軸管の内部導体315aが設けられている。図2を参照すると、誘電体板305は、アルミナ(Al)により形成された、148mm×148mmの略正方形のプレートが分岐同軸管670の管内波長をλg(915MHzにおいて328mm)としたとき、λg/2の整数倍(ここでは1倍)の等間隔にて縦横に配置されている。これにより、224枚(=14×16)の誘電体板305が、2277.4mm×2605mmの処理容器100の天井面に均等に配置される。
【0046】
このように、誘電体板305は対称性のよい形状をしているため、1枚の誘電体板305の中で均一なプラズマを生じやすい。また、複数の誘電体板305がλg/2の整数倍の等間隔に配置されることにより、同軸管の内部導体315aを用いてマイクロ波を導入する場合、均一なプラズマを生成することができる。
【0047】
再び図1に戻ると、蓋体300の金属面には、図1に示した溝300aが切られていて導体表面波の伝搬を抑制するようになっている。なお、導体表面波とは、金属面とプラズマとの間を伝搬する波をいう。
【0048】
誘電体板305を貫通した内部導体315aの先端には金属電極310が基板G側に露出するように設けられていて、内部導体315aおよび金属電極310によって誘電体板305を保持するようになっている。金属電極310の基板側の面には、誘電体カバー320が設けられ、電界の集中を防止するようになっている。
【0049】
図2の断面A−A’−Aを示した図3を参照しながらさらに説明を続ける。同軸管315は、筒状の内部導体(軸部)315aと外部導体315bとから構成されていて、金属(好ましくは銅)により形成されている。内部導体315aは、導体棒の一例である。蓋体300と内部導体315aとの間には、その中央にて内部導体315aが貫通したリング状の誘電体410が設けられている。リング状の誘電体410の内周面および外周面には、Oリング415a、415bが設けられていて、これにより、処理室Uの内部を真空シールするようになっている。
【0050】
内部導体315aは、蓋部300dを貫いて処理容器100の外部に突出している。内部導体315aは、連結部510、バネ部材515および短絡部520からなる固定機構500により、バネ部材515の弾性力を用いて処理容器100の外側に向かって吊り上げられている。なお、蓋部300dは、蓋体300の上面であって、蓋体300と外部導体315bと一体化している部分をいう。
【0051】
内部導体315aの貫通部分に設けられた短絡部520は、同軸管315の内部導体315aと蓋部300dとを電気的に短絡させるようになっている。短絡部520は、シールドスパイラルから構成され、内部導体315aを上下に摺動可能に設けられている。なお、短絡部520に、金属ブラシを用いることもできる。
【0052】
このように、短絡部520を設けたことにより、金属電極310に加えられたプラズマの熱を、内部導体315aおよび短絡部520を通して効率よく蓋側に逃がすことができる。この結果、内部導体315aの加熱を抑制し内部導体315aに隣接したOリング415a、415bの劣化を防ぐことができる。また、短絡部520は、内部導体315aを通してバネ部材515にマイクロ波が伝わることを防止するため、バネ部材515周辺での異常放電や電力損失が発生しない。さらに、短絡部520は、内部導体315aの軸ぶれを防ぎ、しっかりと保持することができる。
【0053】
なお、短絡部520にて蓋部300dと内部導体315aとの間、および後述する誘電体615と蓋部300dとの間をOリング(図示せず)にて真空シールし、蓋部300d内の空間に不活性ガスを充填することにより、大気中の不純物が処理室内に混入することを防ぐことができる。
【0054】
図1の冷媒供給源700は、冷媒配管705に接続されていて、冷媒供給源700から供給された冷媒が冷媒配管705内を循環して再び冷媒供給源700に戻ることにより、処理容器100を所望の温度に保つようになっている。ガス供給源800は、ガスライン805を介して、図3に示した内部導体315a内のガス流路から処理室内に導入される。
【0055】
2台のマイクロ波源900から出力された、120kW(=60kW×2(2W/cm))のパワーをもつマイクロ波は、分岐導波管905、8つの同軸導波管変換器605、8本の同軸管620、図1の背面方向に平行に位置する8本の分岐同軸管670(図2参照)に7本ずつ連結された同軸管600、分岐板610および同軸管315を伝搬し、複数の誘電体板305を透過して処理室内に供給される。処理室Uに放出されたマイクロ波は、ガス供給源800から供給された処理ガスを励起させ、これにより生成されたプラズマを用いて基板G上に所望のプラズマ処理が実行される。
【0056】
(誘電体板の固定方法)
つぎに、誘電体板の固定方法についてさらに詳しく説明する。図3に示したように、誘電体板305を介して金属電極310に連結された内部導体315aは、処理容器100の外部に突出し、固定機構500にて固定される。
【0057】
固定機構500のうち、バネ部材515は、内部導体315aの外周に配置されていて、その両端が処理容器100の蓋部300dと連結部510とに固定され、バネの弾性力により内部導体315aに対して外側に向かう力を発生させている。
【0058】
これにより、バネ部材515は、内部導体315aおよび金属電極310に保持された誘電体板305を常に一定の力で吊り上げる。吊り上げにバネ部材515を用いたのは、内部導体315a、金属電極310および誘電体板305間の熱膨張係数の差により、誘電体板305が引っ張られて割れたり、誘電体板305と処理容器の内壁との間に隙間が生じて異常放電が生じることを防止するためである。
【0059】
(短絡部)
短絡部520は、シールドスパイラにより形成されていて、内部導体315aと処理容器100の蓋部300dとを電気的に短絡させるとともに内部導体315aの熱を接地された処理容器100側に逃がす。短絡部520は、金属コイルまたは金属ブラシにて形成されていてもよい。
【0060】
このように、短絡部520を設けたことにより、プラズマから金属電極310に流入した熱を内部導体315aおよび短絡部を通して効率よく蓋に逃がすことができるため、内部導体315aの加熱を抑制し内部導体315aに隣接したOリング415a、415bの劣化を防ぐことができる。また、短絡部520は、内部導体315aを通してバネ部材515にマイクロ波が伝わることを防止するため、バネ部材515周辺での異常放電や電力損失が発生しない。さらに、短絡部520は、内部導体315aの軸ぶれを防ぎ、しっかりと保持することができる。
【0061】
また、分岐板610と内部導体315aとの接続位置Dpと短絡部520との間隔は、内部導体315aを伝搬するマイクロ波の管内波長λgに対して、λg/4になるように設計されている。図3の左側に示したように、位置Dpにマイクロ波のピーク(腹)を合わせると、短絡部520でのマイクロ波の電力は0(節)になる。短絡部520と位置Dp間は、一端短絡された分布定数線路とみなすことができる。このように、一端が短絡された長さがλg/4の分布定数線路は、もう一端から見るとインピーダンスがほぼ無限大に見えるので、マイクロ波の伝搬にとって位置Dpから短絡部520までの部分は存在しないに等しいものとなり、伝送線路の設計が容易になる。
【0062】
以上に説明した構成により、同軸管600に伝送されたマイクロ波は、分岐板610により複数のマイクロ波に分配されて複数の内部導体315aに伝搬され、さらに複数の誘電体板305にそれぞれ伝えられる。これにより、天井面に均等に配置された224枚の誘電体板305から処理容器内に均等な電力のマイクロ波が供給される。これにより、低周波のマイクロ波の供給を可能とするとともに、同軸管を使用して誘電体板305を保持する構造により蓋体300下部をシンプルに設計することができる。
【0063】
また、内部導体315aは、誘電体板305を保持した状態にてバネ部材515の弾性力により処理容器100の外側に向かって引き上げられる。これによれば、誘電体板305を処理容器100の内壁に常に適度な力で密着させることができる。この結果、プラズマが蓋体300の内壁と誘電体板305との隙間に入り込むことにより発生する異常放電を回避して、プラズマを均一かつ安定的に生成することができる。
【0064】
特に、大面積の基板Gを処理する場合、これに応じて処理容器100の天井部に設けられた誘電体板305も大型化させる必要がある。これに対して、本実施形態にかかるプラズマ処理装置10では、多数の誘電体板305を天井面全面に配置し、多数の誘電体板305を多数のバネ部材により吊り上げる構造にしたので、蓋周りがシンプルになり、コストおよびメンテナンスの面で有利であるとともに、誘電体板305の枚数を変えるだけで基板Gの大面積化に応じることができるため拡張性が高く、保守しやすいというメリットがある。
【0065】
なお、バネ部材515は、第1のバネ部材の一例であり、たとえば、コイル状のバネまたは板状のバネワッシャーであってもよい。また、バネ部材515は、金属バネまたはセラミックバネのいずれかであってもよい。これによれば、これら部材の弾性力により同軸管315の内部導体315aを処理容器100の外側に持ち上げることができる。
【0066】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態にかかるプラズマ処理装置10について、図4〜図6を参照しながら説明する。第2実施形態にかかるプラズマ処理装置10では、誘電体板305が同軸管の内部導体315aおよび金属電極310に保持された状態にてOリング530により吊り上げられている点で、バネ部材515により吊り上げられていた第1実施形態にかかるプラズマ処理装置10と異なる。よって、この相違点を中心に本実施形態にかかるプラズマ処理装置10について説明する。
【0067】
蓋体300と内部導体315aとの間には、リング状の誘電体410とその両端にて処理室Uの内部を真空シールするOリング415a、415bとが設けられている。本実施形態では、図5に拡大して示したように、内部導体315aが貫通したリング状の誘電体525の外周面および内周面は、蓋体300(蓋部300d)に埋め込まれている。
【0068】
リング状の誘電体525の外周側下部には、内部導体315aを吊り上げるために、誘電体板305に向かう面にOリング530が設けられている。本実施形態では、リング状の誘電体410の上方に設けられた、このOリング530が、バネ部材としての役割を担う。内部導体315aが熱膨張により伸張しても、Oリング530の反発力で常に適度な力で内部導体315aを押し上げることができる。
【0069】
また、リング状の誘電体525の内周側の上面には、内部導体315aが吊り上げられたときに誘電体525にかかる局所的な力を緩衝するためにクッションリング535が設けられている。クッションリング535の素材は、マイクロ波を吸収して過熱されないように誘電損失が小さく、緩衝効果を備えたある程度柔らかい材料が好ましい。本実施形態では、クッションリング535は、テフロン(登録商標)により形成されている。リング状の誘電体525と内部導体315aとの間には、リング状の誘電体525と内部導体315aとの間を封止するOリング540が設けられている。
【0070】
リング状の誘電体410とリング状の誘電体525との間の空間Sには、真空ポンプPに接続された排気管545が連通しており、空間S内のガスを所望の真空度まで減圧することができる。空間S内を減圧することによって、Oリング410、および415aを通して処理容器内部に透過する不純物ガスの量を著しく少なくして、より清浄度を高めることができる。なお、空間S内を減圧にした後、排気管545からアルゴン等の不活性ガスを充填してもよい。
【0071】
図4の分岐同軸管670の内部導体670aには、4本の内部導体315aが、概ねn×λg/2(ここでは、n=1)の間隔で縦横に吊り下げられる。この結果、誘電体板の縦横の寸法が等しくなり、表面波伝搬モードの対称性がよくなることから、誘電体板面内におけるプラズマの均一性を確保しやすい。
【0072】
分岐同軸管670の内部導体670aは、その両端にて内部導体670aの軸方向の位置を決める留め具635で固定されるとともに、その貫通部分には分岐同軸管670の内部導体670aと外枠(蓋部300d)とを電気的に短絡させる短絡部640が設けられている。
【0073】
図6には、右側に分岐同軸管670の一部が拡大して示されるとともに、断面H−Hが左側に示されている。分岐同軸管670の内部導体670aは、円筒状のコネクタ645に接続されている。コネクタ645の内側表面には、2本のシールドスパイラル650a、650bが設けられていて、これにより、内部導体670aは横方向に摺動可能になっている。熱応力に応じて内部導体670aが摺動することにより、伝送線路にストレスがかかることを回避することができる。
【0074】
(冷却機構)
内部導体670aの内部には、冷媒を流すための通路655が貫通している。冷媒供給源700から供給された冷媒は、冷媒配管705に連結された通路655を循環する。冷却機構は、内部導体315aの内部に設けられてもよく、これにより、内部導体670aや内部導体315aが過度に加熱されることを防ぐようになっている。また、内部導体315aには、内部導体315aを保持する保持部660が設けられている。保持部660は、保持部はリング状に形成され、テフロン(登録商標)から形成されている。
【0075】
図4に示したように、内部導体315aには、上部内部導体315a1と下部内部導体315a2とを連結するコネクタ665が設けられている。これにより、上部内部導体315a1と下部内部導体315a2とを電気的に接続させながら、内部導体315aとこの周囲の部材との熱膨張差によるストレスの発生を防ぐ。
【0076】
以上に説明した第2実施形態にかかるプラズマ処理装置によれば、処理容器100の内側から同軸管315に処理容器100の外側に向かう力を加え、これにより、金属電極310に保持された誘電体板305を処理容器100の内壁に密着させることができる。
【0077】
なお、リング状の誘電体525は、第1の誘電部材の一例である。また、Oリング530は、リング状の誘電体525と処理容器100との間であってリング状の誘電体525の下面(処理容器の内側に向かう面)に設けられている第2のバネ部材の一例であり、Oリング、Cリング、金属バネまたはセラミックバネのいずれかであってもよい。これによれば、バネの弾性力により処理容器100の外側に向かう力を内部導体315aに与えることができる。
【0078】
また、クッションリング535は、リング状の誘電体525と内部導体315aとの間にてリング状の誘電体525の上面に設けられた緩衝部材の一例である。これによれば、内部導体315aに局所的な力が加えられることから内部導体315aを保護することができる。
【0079】
また、Oリング540は、リング状の誘電体525と内部導体315aとの間に設けられ、リング状の誘電体525と内部導体315aとの間を封止する第1の封止部材の一例である。これによれば、第2のバネ部材および前記第1の封止部材をOリングまたはCリングのいずれかで構成することにより、第1の誘電部材と前記同軸管の内部導体との間、および第1の誘電部材と処理容器の蓋部300dとの間を真空シールし、これにより、処理容器内の気密性を保つことができる。
【0080】
また、リング状の誘電体410は、リング状の誘電体525と誘電体板305との間に設けられ、内部を同軸管315が貫通するリング状の第2の誘電部材の一例である。また、Oリング415aは、リング状の誘電体410と処理容器100との間を封止する第2の封止部材の一例であり、Oリング415bは、同軸管315または金属電極310とリング状の誘電体410との間を封止する第3の封止部材の一例である。
【0081】
これによれば、リング状の誘電体525とOリング530、540との組み合わせ、およびリング状の誘電体410とOリング415a、415bとの組み合わせにより、内部導体315aと処理容器との間を強固に真空シールすることができる。また、誘電体410と誘電体525とにより、誘電体板305を保持する内部導体315aを2点で支えるため、同軸管の軸のぶれを抑えることができる。
【0082】
なお、第1の誘電部材および前記第2の誘電部材は、石英またはアルミナから形成されていてもよい。第2のバネ部材および第1の封止部材、第2の封止部材および第3の封止部材は、Cリングであってもよい。
【0083】
また、第2実施形態にかかるプラズマ処理装置10は、誘電体板305や金属電極310の数や形状、伝送線路の構成などにおいて第1実施形態にかかるプラズマ処理装置10と異なる。このように、誘電体板305や金属電極310の数や形状や伝送線路の構成などは、種々の構成をとることができる。
【0084】
(第2実施形態の変形例)
なお、第2実施形態の変形例としては、つぎの変形例1、2が挙げられる。
【0085】
(変形例1)
図7に示した変形例1にかかるプラズマ処理装置10では、リング状の誘電体410とリング状の誘電体525との間の空間Sに連通する排気管545とガス供給管550とを設けた点にて、排気管545しか設けられていない第2実施形態と異なる。
【0086】
すなわち、変形例1にかかるプラズマ処理装置10では、ガス供給源800に接続されたガス供給管550、および排気管545が、蓋体300を貫通し空間Sと連通している。ガス供給源800は、ガス供給管550に不活性ガス(たとえば、アルゴンガス)を通し、空間S内部に不活性ガスを充填させる。このとき、空間S内部に入っていた大気は排気管545から不活性ガスにより押し流されて排気され、空間S内部の雰囲気が不活性ガスに置換される。これにより、大気側の不純物が処理容器内に混入することを防ぐことができる。なお、排気管545にはポンプPを接続し、空間S内を減圧にした後、ガス供給管545から不活性ガスを充填してもよい。
【0087】
本変形例では、誘電体板305の外周面の少なくとも一辺に隣接して凸状部材555が設けられている。凸状部材555は、誘電体板305と蓋部300dとの間にて誘電体板305と蓋部300dとを係止する係止部の一例である。これによれば、処理容器100の外側に吊り上げられている内部導体315aが軸まわりに回転することにより、誘電体板305が回転することを防止することができる。
【0088】
(変形例2)
図8に示した変形例2にかかるプラズマ処理装置10は、リング状の誘電体525、Oリング530、540、クッションリング535の組み合わせが、上下に2組設けられている点で、リング状の誘電体525とOリング530、540、クッションリング535の組み合わせと、リング状の誘電体410とOリング415a、415bとの組み合わせにより、内部導体315aと処理容器100との間を真空シールする第2実施形態と異なる。
【0089】
この組み合わせによっても、内部導体315aと処理容器との間を強固に真空シールすることができるとともに、リング状の誘電体410とリング状の誘電体525との2点で内部導体315aをガイドするため、内部導体315aの軸がぶれず、誘電体板305をしっかりと天井面に密着することができる。さらに、本変形例では、バネ部材としてのOリング530a、530bを2つ設けたので、より強固に内部導体315aを処理容器100の外側に吊り上げることができる。
【0090】
また、本変形例では、誘電体板305と蓋体300との間にて誘電体板305と蓋体300とを係止する係止部560が設けられている。これによっても、内部導体315aの軸まわりに誘電体板305が回転することを防止することができる。なお、係止部560は、誘電体板305と蓋体300とに凹凸を設け、凹凸を係合させることにより構成されていてもよい。
【0091】
上記に説明した各実施形態によれば、バネの弾性力により誘電体板305を処理容器100の内壁に密着させることができる。この結果、異常放電を回避してプラズマを安定に生成することができる。
【0092】
なお、上記実施形態では、リング状の誘電体410の内周面および外周面を真空シールしたが、これに限られない。たとえば、図9に示したように、誘電体板305とリング状の誘電体410とを一体的に形成してもよい。なお、図9のX−X断面を図10に示す。図9は、図10をY−Y面にて切断した図である。
【0093】
金属電極310は、その根本が誘電体板305の貫通穴305aに挿入されるように伸びていて、同軸管315と金属電極310とは、同軸管315の端部に設けられた雄ネジ315dと金属電極310の根本に設けられた雌ネジ310bとにより螺合することにより連結している。
【0094】
図3に示したリング状の誘電体410とOリング415bとでは、まず、Oリング415bを嵌め込み、その後、リング状の誘電体410を装着する。リング状の誘電体410を装着するとき、Oリング415bが傷つく場合がある。しかしながら、図9の構造では、誘電体板305の上部角がテーパ状になっている。これにより、誘電体板305をスムーズに嵌め込むことができるとともに、誘電体板305の装着時にOリング415bを傷めにくい構造となっている。
【0095】
なお、誘電体板305の内外周面に2つのOリング415a、415bを設ける代わりに、誘電体板305の内周面と金属電極310との間にOリング415bを設け、誘電体板305の外周面と蓋体300との間にOリング415aを設けるようにしてもよい。これによっても、処理室Uの内部を真空シールすることができる。
【0096】
なお、図10では、複数の誘電体板305の全体を囲む溝300aの他に、各誘電体板305をそれぞれ囲む複数の溝300dが設けられていて、導体表面波の伝搬を防いでいる。
【0097】
上記実施形態において、各部の動作はお互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作として置き換えることができる。そして、このように置き換えることにより、プラズマ処理装置の発明の実施形態を、プラズマ処理装置の使用方法やプラズマ処理装置のクリーニング方法の実施形態とすることができる。
【0098】
(周波数の限定)
上記各実施形態にかかるプラズマ処理装置10を用いて、周波数が1GHz以下のマイクロ波をマイクロ波源900から出力することにより、良好なプラズマ処理を実現できる。その理由を以下に説明する。
【0099】
化学反応により基板表面に薄膜を堆積させるプラズマCVDプロセスでは、基板表面だけでなく、処理容器内面にも膜が付着する。処理容器内面に付着した膜が剥がれ落ちて基板に付着すると、歩留まりを悪化させる。さらに、処理容器内面に付着した膜から発生した不純物ガスが薄膜に取り込まれ、膜質を悪化させることがある。よって、高品質プロセスを行うためには、チャンバ内面を定期的にクリーニングしなければならない。
【0100】
シリコン酸化膜やシリコン窒化膜のクリーニングには、Fラジカルが良く用いられる。Fラジカルは、これらの膜を高速にエッチングする。Fラジカルは、NFやSF等のFを含むガスでプラズマを励起し、ガス分子を分解することにより生成される。FとOとを含む混合ガスでプラズマを励起すると、FやOがプラズマ中の電子と再結合するため、プラズマ中の電子密度が低下する。特に、すべての物質の中で電気陰性度がもっとも大きなFを含むガスでプラズマを励起すると、電子密度が著しく低下する。
【0101】
これを証明するために、発明者は、マイクロ波周波数2.45GHz、マイクロ波電力密度1.6W/cm−2、圧力13.3Paの条件でプラズマを生成して電子密度を計測した。その結果、電子密度は、Arガスの場合には2.3×1012cm−3であったのに対し、NFガスの場合にはそれより一桁以上小さい6.3×1010cm−3であった。
【0102】
図11に示したように、マイクロ波の電力密度を増加させると、プラズマ中の電子密度が増加する。具体的には、電力密度を1.6W/cmから2.4W/cmにすると、プラズマ中の電子密度は6.3×1010cm−3から1.4×1011cm−3まで増加する。
【0103】
一方、2.5W/cm以上のマイクロ波を印加すると、誘電体板が加熱して割れたり各部で異常放電する危険性が高まるし、不経済であるため、NFガスでは実用上1.4×1011cm−3以上の電子密度にすることは困難である。すなわち、電子密度が極めて低いNFガスでも均一で安定なプラズマを生成するためには、表面波共鳴密度nが、1.4×1011cm−3以下でなければならない。
【0104】
表面波共鳴密度nは、誘電体板とプラズマとの間を表面波が伝搬可能な最低の電子密度を表し、電子密度が表面波共鳴密度nよりも小さいと、表面波が伝搬しないため極めて不均一なプラズマしか励起することができない。表面波共鳴密度nは、式(1)のカットオフ密度nと式(2)にて示される比例関係がある。
=εω/e・・・(1)
=n(1+ε)・・・・(2)
ここで、εは真空の誘電率、mは電子の質量、ωはマイクロ波角周波数、eは電気素量、εは誘電体板の比誘電率である。
【0105】
上記式(1)(2)より、表面波共鳴密度nは、マイクロ波周波数の二乗に比例することが分かる。よって、低い周波数を選択した方が、より低い電子密度でも表面波が伝搬し均一なプラズマが得られる。たとえば、マイクロ波周波数を1/2にすると、1/4の電子密度でも均一なプラズマが得られることになり、マイクロ波周波数の低減はプロセスウィンドウの拡大に極めて有効である。
【0106】
表面波共鳴密度nが、NFガスを用いた場合の実用的な電子密度である1.4×1011cm−3と等しくなる周波数は1GHzである。すなわち、マイクロ波の周波数として1GHz以下を選択すると、どんなガスを用いても実用的な電力密度で均一なプラズマを励起することができる。
【0107】
以上から、たとえば、各実施形態にかかるプラズマ処理装置10のマイクロ波源900から周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力することにより、処理容器の外側に向かう力を与える手段(たとえば、コイルバネやOリング)により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒(たとえば、内部導体315a)にマイクロ波源900から出力されたマイクロ波を伝搬させ、導体棒を伝搬したマイクロ波を誘電体板305に伝搬させ、誘電体板305を透過して処理容器100に供給されたマイクロ波により処理容器100に導入された処理ガスを励起させて被処理体(たとえば、基板G)に所望のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の使用方法とすることができる。
【0108】
特に、たとえば、各実施形態にかかるプラズマ処理装置10のマイクロ波源900から周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力することにより、マイクロ波源900から出力されたマイクロ波を、処理容器の外側に向かう力を与える手段により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒に伝搬させ、導体棒を伝搬したマイクロ波を誘電体板305に伝搬させ、誘電体板305を透過して処理容器100に供給されたマイクロ波により処理容器100に導入されたクリーニングガスを励起させてプラズマ処理装置をクリーニングするプラズマ処理装置のクリーニング方法とすることができる。
【0109】
なお、電気学会・マイクロ波プラズマ調査専門委員会編「マイクロ波プラズマの技術」オーム社出版、平成15年9月25日発行の序文には、本書では「「マイクロ波帯」は、UHF帯の300MHz以上の周波数領域を指している」とあることから、本明細書中においてもマイクロ波の周波数は300MHz以上とする。
【0110】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0111】
たとえば、本発明にかかるプラズマ処理装置に設けられた誘電体板は、角形の複数の誘電体板305を有するプラズマ処理装置であってもよく、図12に示したように、大面積の1枚の円形の誘電体板305を有するプラズマ処理装置であってもよい。
【0112】
これによれば、一本の内部導体315aに連結された1つの金属電極310により1枚の誘電体板305が、処理容器100の天井部に配設される。これによれば、複数の誘電体板305を有するプラズマ処理装置の場合と同様に、プロセス中、誘電体板305の側面はプラズマに接触する。
【0113】
このような状態であれば、誘電体板305の側面にて誘電体板305が他の部材(たとえば、金属枠など)と接触していた場合に、誘電体板305とそれらの部材との隙間にプラズマが入り込み、異常放電が生じる現象を回避することができる。
【0114】
本発明にかかるプラズマ処理装置には、第1のバネ部材と第2のバネ部材とを両方用いることもできるし、片方だけ用いることもできるし、これらを複数用いることもできる。また、バネ部材は、第1のバネ部材と第2のバネ部材に限られず、たとえば、磁石であってもよい。
【0115】
本発明にかかるプラズマ処理装置は、大面積のガラス基板、円形のシリコンウエハや角型のSOI(Silicon On Insulator)基板を処理することもできる。
【0116】
また、本発明にかかるプラズマ処理装置では、成膜処理、拡散処理、エッチング処理、アッシング処理などのあらゆるプラズマ処理を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるプラズマ処理装置の縦断面図である。
【図2】同実施形態にかかるプラズマ処理装置の天井面を示した図である。
【図3】同実施形態にかかるバネ部材近傍を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるプラズマ処理装置の縦断面図である。
【図5】同実施形態にかかるバネ部材近傍を示した図である。
【図6】同実施形態にかかる連結部分を拡大した図である。
【図7】第2実施形態の変形例1にかかる連結部分を拡大した図である。
【図8】第2実施形態の変形例2にかかる連結部分を拡大した図である。
【図9】その他の変形例を示した図である。
【図10】図9のX−X断面図である。
【図11】マイクロ波の電力密度とプラズマの電子密度との関係を示すグラフである。
【図12】その他の変形例を示した図である。
【符号の説明】
【0118】
10 プラズマ処理装置
100 処理容器
300 蓋体
305 誘電体板
310 金属電極
315、600、620 同軸管
315a、600a、620a、670a 内部導体
320 誘電体カバー
410 リング状の誘電体
415b、415a Oリング
500 固定機構
505 支持部材
510 連結部
515 バネ部材
520 短絡部
525 リング状の誘電体
530、540 Oリング
535 クッションリング
545 排気管
550 ガス供給管
555 凸状部材
560 係止部
610 分岐板
670 分岐同軸管
700 冷媒供給源
800 ガス供給源
900 マイクロ波源
U 処理室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波によりガスを励起させて被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理装置であって、
処理容器と、
マイクロ波を出力するマイクロ波源と、
前記処理容器の内壁に設けられ、マイクロ波を透過させて前記処理容器の内部に放出する誘電体板と、
前記誘電体板に隣接し、前記マイクロ波を前記誘電体板に伝搬させる導体棒と、
前記誘電体板を保持するために前記導体棒に連結する金属電極と、
前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段と、を備えたプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段は、バネ部材である請求項1に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記バネ部材は、前記処理容器の蓋部の外側に設けられた第1のバネ部材を含む請求項2に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第1のバネ部材は、コイル状のバネ部材または板状のバネ部材のいずれかである請求項3に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記第1のバネ部材は、金属バネまたはセラミックバネのいずれかである請求項3または請求項4のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記処理容器の蓋部と前記導体棒との間に第1の誘電部材を備え、
前記バネ部材は、
前記第1の誘電部材と前記処理容器の蓋部との間であって前記誘電体板に向かう面に設けられた第2のバネ部材を含む請求項2〜5のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記第2のバネ部材は、
Oリング、Cリング、金属バネまたはセラミックバネのいずれかである請求項6に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記第1の誘電部材は、リング状に形成され、前記導体棒が貫通した状態にて一部が前記処理容器の蓋部に埋め込まれている請求項6または請求項7のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記第1の誘電部材と前記導体棒との間であって前記処理容器の外側に向かう面に緩衝部材を備える請求項6〜8のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記緩衝部材は、テフロン(登録商標)により形成されている請求項9に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記第1の誘電部材と前記導体棒との間には、前記第1の誘電部材と前記導体棒との間を封止する第1の封止部材が設けられている請求項6〜10のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記第2のバネ部材および前記第1の封止部材は、OリングまたはCリングのいずれかである請求項11に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項13】
内部を前記導体棒が貫通するリング状の第2の誘電部材と、
前記第2の誘電部材と前記処理容器の蓋部との間を封止する第2の封止部材と、
前記導体棒または前記金属電極と前記第2の誘電部材との間を封止する第3の封止部材とを備える請求項1〜12のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記第2の封止部材および第3の封止部材は、OリングまたはCリングのいずれかである請求項13に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項15】
前記第1の誘電部材と前記第2の誘電部材との間の空間は、所定の真空度に保持されている請求項13または請求項14のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記第1の誘電部材と前記第2の誘電部材との間の空間には、不活性ガスが充填されている請求項13〜15のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項17】
前記第1の誘電部材および前記第2の誘電部材は、石英またはアルミナから形成されている請求項13〜16のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項18】
前記誘電体板には、前記誘電体板と前記処理容器の蓋部との間にて前記誘電体板と前記処理容器の蓋部とを係止する係止部が設けられている請求項1〜17のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項19】
前記係止部は、前記誘電体板の外周面に隣接して前記処理容器の内壁に固定された凸状部材を含む請求項18に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項20】
前記処理容器および前記導体棒は、金属によりそれぞれ形成され、
前記導体棒が前記処理容器の蓋部を貫通する部分に前記導体棒と前記蓋部とを短絡させる短絡部を備える請求項1〜19に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項21】
前記蓋部および前記導体棒は、金属によりそれぞれ形成され、
前記導体棒と前記蓋部とを短絡させる短絡部を備え、前記バネ部材は、前記短絡部の外側に設けられた第1のバネ部材を含む請求項2〜19に記載されたプラズマ処理装置。
【請求項22】
前記導体棒は、前記短絡部にて前記処理容器の蓋部に対して摺動可能に係合している請求項20または21のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項23】
前記短絡部は、金属コイルまたは金属ブラシである請求項20〜22のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項24】
プロセス中、前記誘電体板の側面は、プラズマに接触する請求項1〜23のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項25】
前記導体棒の内部には、前記導体棒を冷却する冷却機構が設けられている請求項1〜24のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項26】
前記誘電体板、前記導体棒および前記金属電極は、それぞれ複数設けられ、
各導体棒は、各誘電体板の略中央に設けられた前記穴部を介して各金属電極とそれぞれ連結する請求項1〜25のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項27】
前記マイクロ波源は、周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力する請求項1〜26のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項28】
前記導体棒は、銅から形成されている請求項1〜27のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項29】
前記誘電体板は、アルミナから形成されている請求項1〜28のいずれかに記載されたプラズマ処理装置。
【請求項30】
マイクロ波源から周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力し、
前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒に前記マイクロ波を伝搬させ、
前記導体棒を伝搬したマイクロ波を前記導体棒に隣接した前記誘電体板に伝搬させ、
前記誘電体板を透過して前記処理容器に導入されたマイクロ波により処理ガスを励起させて被処理体に所望のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の使用方法。
【請求項31】
マイクロ波源から周波数が1GHz以下のマイクロ波を出力し、
前記導体棒に対して前記処理容器の外側に向かう力を与える手段により吊り上げられるとともに誘電体板を保持するために金属電極と連結した導体棒に前記マイクロ波を伝搬させ、
前記導体棒を伝搬したマイクロ波を前記導体棒に隣接した前記誘電体板に伝搬させ、
前記誘電体板を透過して前記処理容器に導入されたマイクロ波によりクリーニングガスを励起させてプラズマ処理装置をクリーニングするプラズマ処理装置のクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−305736(P2008−305736A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153552(P2007−153552)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】