説明

プラズマ処理装置

【課題】被処理物の被処理領域が均一に処理されるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置1002は、被処理領域1908の平面形状と同一の平面形状を有する第1の対向面1020を持つ第1の電極1012を備える第1の電極構造体1004に支持されたワーク1902を線状の第2の対向面1050を持つ第2の電極1046を備える第2の電極構造体1036で走査する。また、プラズマ処理装置1002は、第2の電極構造体1036でワーク1902を走査しながら第1の電極1012と第2の電極1046との間に電圧を印加し、第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038にプラズマを発生させることにより、ワーク1902の上面1904にプラズマを作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面の一部を占める被処理領域を処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、被処理物(バンクBまで形成されたガラス基板2)の表面の一部を占める被処理領域(凹部9)を処理するプラズマ処理装置(表面処理装置30)に関する。特許文献1のプラズマ処理装置は、被処理物を支持する支持面を持つ第1の電極(載置台32)と、第2の電極(高周波印加電極40)と、被処理物と第2の電極との間に挿入され被処理領域の平面形状に応じた平面形状を有する第3の電極(パターン電極膜36)とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−173486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のプラズマ処理装置では、被処理物が大型化すると、電極が対向する面積が広くなるため、放電の均一性が劣化し、被処理物の被処理領域が均一に処理されない。
【0005】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、被処理物の被処理領域が均一に処理されるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため以下の手段が提供される。
【0007】
第1のプラズマ処理装置は、被処理物の表面の被処理領域の平面形状に応じた平面形状を有する第1の対向面を持つ第1の電極を備え被処理物を支持する支持面を持つ第1の電極構造体と、線状の第2の対向面を持つ第2の電極を備える第2の電極構造体と、一の出力端が前記第1の電極に接続され他の出力端が前記第2の電極に接続された電源と、前記第1の対向面と前記第2の対向面とが対向する対向位置を経由して前記第2の対向面が延在する方向とは異なる方向へ前記第1の電極構造体に対して前記第2の電極構造体を相対移動させる搬送機構と、前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置が前記対向位置にあるときの前記第1の電極構造体と前記第2の電極構造体との間隙に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、を備える。
【0008】
第2のプラズマ処理装置は、第1のプラズマ処理装置において、前記第1の対向面と前記第2の対向面との対向面積が広くなるほど前記電源の出力を増加させる出力調整機構、をさらに備える。
【0009】
第3のプラズマ処理装置は、第2のプラズマ処理装置において、前記出力調整機構は、前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置を検出する相対位置検出器と、前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置と前記第1の対向面と前記第2の対向面との対向面積との関係を特定する情報を記憶する記憶装置と、前記相対位置検出器の検出結果を取得し前記記憶装置から相対位置と対向面積との関係を特定する情報を読み出し前記電源の出力を制御する制御部と、を備える。
【0010】
第4のプラズマ処理装置は、第2のプラズマ処理装置において、前記電源はパルス電源であり、前記出力調整機構は、前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加される電気パルスのピーク電圧を検出するピーク電圧検出器と、前記ピーク電圧検出器の検出結果を取得し前記電源の出力を制御する制御器と、を備える。
【0011】
第5のプラズマ処理装置は、第2のプラズマ処理装置において、前記出力調整機構は、前記間隙から放射されるプラズマ光を検出する光検出器と、前記光検出器の検出結果を取得し前記電源の出力を制御する制御部と、を備える。
【0012】
第6のプラズマ処理装置は、第5のプラズマ処理装置において、前記光検出器は、プラズマ光の強度及び広がりを検出し、前記制御部は、プラズマ光の強度が強くなるほど前記電源の出力を増加させプラズマ光の広がりが広くなるほど前記電源の出力を増加させる。
【0013】
第7のプラズマ処理装置は、第1のプラズマ処理装置において、前記電源は、パルス電源である。
【0014】
第8のプラズマ処理装置は、第7のプラズマ処理装置において、前記パルス電源は、誘導エネルギー蓄積型である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の電極の第1の対向面と第2の電極の第2の対向面との対向面積が狭くなるので、放電の均一性が向上し、被処理物の被処理領域が均一に処理される。
【0016】
請求項2ないし請求項6の発明によれば、第1の電極の第1の対向面と第2の電極の第2の対向面とが対向する領域の単位面積あたりの電源の出力の変動が減少し、被処理物の被処理領域がさらに均一に処理される。
【0017】
請求項8の発明によれば、第1の電極構造体と第2の電極構造体との間隙にストリーマ放電が発生するので、被処理物の被処理領域がさらに均一に処理される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のプラズマ処理装置の斜視図である。
【図2】ワークの斜視図である。
【図3】第1の電極構造体の斜視図である。
【図4】リアクタの断面図である。
【図5】第2の電極構造体の斜視図である。
【図6】処理ガス供給体の斜視図である。
【図7】IESパルス及びCESパルスの概略の波形を示す図である。
【図8】IESパルス及びCESパルスの概略の波形を示す図である。
【図9】IESパルス及びCESパルスの概略の波形を示す図である。
【図10】IES電源の回路図である。
【図11】ストリーマ放電の状態を示す模式図である。
【図12】ストリーマ放電の状態を示す模式図である。
【図13】第2実施形態の出力調整機構のブロック図である。
【図14】第3実施形態の出力調整機構のブロック図である。
【図15】ピークホールド回路の回路図である。
【図16】電圧比較回路の回路図である。
【図17】第4実施形態の出力調整機構のブロック図である。
【図18】第5実施形態の第2の電極構造体の斜視図である。
【図19】第6実施形態の第1の電極構造体の斜視図である。
【図20】第7実施形態の第1の電極構造体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1.第1実施形態)
(プラズマ処理装置1002の概略)
第1実施形態は、ワーク1902の上面1904の一部を占める被処理領域1908を処理するプラズマ処理装置1002に関する。第1実施形態のプラズマ処理装置1002は、被処理領域1908の平面形状と同一の平面形状を有する第1の対向面1020を持つ第1の電極1012を備える第1の電極構造体1004に支持されたワーク1902を線状の第2の対向面1050を持つ第2の電極1046を備える第2の電極構造体1036で走査する。また、プラズマ処理装置1002は、第2の電極構造体1036でワーク1902の上面1904を走査しながら第1の電極1012と第2の電極1046との間に電気パルスを印加し、第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038にプラズマを発生させ、ワーク1902の上面1904にプラズマを作用させる。このとき、第1の対向面1020と第2の対向面1050とが対向する領域に選択的に放電が起こるので、ワーク1902の被処理領域1908が選択的に処理される。
【0020】
(プラズマ処理装置1002の構造)
図1は、第1実施形態のプラズマ処理装置1002の模式図である。図1は、プラズマ処理装置1002の斜視図である。
【0021】
図1に示すように、プラズマ処理装置1002は、ワーク1902を支持する第1の電極構造体1004と、第1の電極構造体1004を搬送する搬送機構1006と、ワーク1902の上面1904を処理するリアクタ1008と、リアクタ1008に電気パルスを供給するパルス電源1010と、を備える。後述する利点は失われるものの、パルス電源1010に変えて高周波電源を採用してもよい。
【0022】
(ワーク1902及び処理の目的)
図2は、プラズマ処理装置1002により処理されるワーク1902の模式図である。図2は、ワーク1902の斜視図である。ワーク1902は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板である。
【0023】
図2に示すように、ワーク1902は、矩形板形状を有する。ワーク1902の上面1904には発光層1906が縦方向及び横方向に規則的に配列される。
【0024】
プラズマ処理装置1002は、ワーク1902の上面1904の発光層1906が形成されていない格子形状の被処理領域1908を処理し、被処理領域1908のぬれ性を向上する。
【0025】
ワーク1902は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板に制限されない。したがって、ワーク1902が、半導体基板、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板以外のガラス基板等であってもよい。
【0026】
被処理領域1908の平面形状も格子形状に制限されない。したがって、被処理領域1908の平面形状は任意である。
【0027】
処理の目的もぬれ性の向上に制限されない。したがって、表面に付着した汚染を除去するクリーニング、表面を侵食するエッチング、表面に形成されたフッ素化合物膜その他の膜を灰化するアッシング等を目的としてもよい。
【0028】
(第1の電極構造体1004)
図3は、第1の電極構造体1004の模式図である。図3は、第1の電極構造体1004の斜視図である。「電極構造体」とは、少なくとも電極を含み、必要に応じて誘電体バリア等が付加された構造体である。
【0029】
図3に示すように、第1の電極構造体1004は、板形状を有する。第1の電極構造体1004は、第1の電極1012と、第1の電極1012を保持するホルダ1014と、第1の電極1012の第1の対向面(上面)1020を覆う第1の誘電体バリア1016とを備える。ホルダ1014と第1の誘電体バリア1016とを同一の絶縁材料で構成して一体化してもよい。ホルダ1014と第1の誘電体バリア1016とを一体化した場合、ホルダ1014と第1の誘電体バリア1016との一体物の中に第1の電極1012が埋設される。
【0030】
第1の電極1012は、アルミニウム、銅、ステンレス等の導電材料からなる。第1の電極1012は、板形状又は膜形状を有する。第1の電極1012の平面形状は、ワーク1902の被処理領域1908の平面形状に応じた平面形状、すなわち、格子形状である。第1の電極1012は、ワーク1902の下面1910に接する支持領域1018の全部を占める全面電極ではなくワーク1902の支持領域1018の一部を占める部分電極である。
【0031】
第1の電極1012の平面形状については、放電に主に寄与する第1の対向面1020の平面形状が重要である。しがって、第1の電極1012の第1の対向面1020がワーク1902の被処理領域1908の平面形状に応じた平面形状を有し、ワーク1902の支持領域1018の一部を占めていれば、十分である。第1の対向面1020は、平坦であることが望ましい。
【0032】
ホルダ1014は、ガラス、アルミナ等の絶縁材料からなる。ホルダ1014は、板形状を有する。第1の電極1012が板形状を有する場合、ホルダ1014の上面1022には、第1の電極1012と略同一の立体形状を有する収容穴1024が形成される(図4参照)。収容穴1024には、第1の電極1012が収容される。第1の電極1012が収容穴1024に収容された状態においては、第1の電極1012の第1の対向面1020とホルダ1014の上面1022の収容穴1024が形成されない部分とは平坦な同一平面を構成する。
【0033】
第1の誘電体バリア1016は、ガラス、アルミナ等の絶縁材料からなる。第1の誘電体バリア1016は、板形状を有する。第1の誘電体バリア1016は、ホルダ1014と同一の平面形状を有する。第1の誘電体バリア1016は、第1の電極1012の第1の対向面1020及びホルダ1014の上面1022に載置される。第1の誘電体バリア1016により、第1の電極1012が保護され、アーク放電の発生が抑制される。
【0034】
第1の誘電体バリア1016の上面(第1の電極構造体1004の上面)1025は、平坦になっている。なお、第1の誘電体バリア1016の上面1025の全体が平坦である必要はなく、支持領域1018が平坦であれば足りる。これにより、下面1910が平坦なワーク1902が第1の誘電体バリア1016の上面1025に適切に支持される。ワーク1902の下面1910が平坦でない場合は、第1の誘電体バリア1016の上面1025の支持領域1018は、ワーク1902の下面1910の凹凸と反対の凹凸を有する。
【0035】
第1の誘電体バリア1016の板厚は、0.5〜5mmであることが望ましい。第1の誘電体バリア1016の板厚がこの範囲を下回ると、アーク放電が発生しやすくなる傾向があるからであり、この範囲を上回ると、第1の電極1012と第2の電極1046との間の静電容量が増加して第1の電極1012と第2の電極1046との間に立ち上がりの速い電気パルスを印加することが難しくなる傾向があるからである。
【0036】
(搬送機構1006)
図1に示すように、搬送機構1006は、リアクタ1008の外部の搬送開始位置1026からリアクタ1008の搬入口1028、リアクタ1008の内部及びリアクタ1008の搬出口1030(図4参照)を経てリアクタ1008の外部の搬送終了位置1032まで、ワーク1902が載置された第1の電極構造体1004を直線搬送する。
【0037】
搬送機構1006は、第1の電極構造体1004が載置される長尺のキャリア1034を搬送開始位置1026から搬入口1028、リアクタ1008の内部及び搬出口1030を経て搬送終了位置1032まで延在させ、キャリア1034を延在方向に走行させる。搬送開始位置1026から搬入口1028、リアクタ1008の内部及び搬出口1030を経て搬送終了位置1032まで延在するレール等の案内部材に沿って第1の電極構造体1004が載置される非長尺のキャリア又は第1の電極構造体1004そのものを移動させる搬送機構も採用される。
【0038】
ワーク1902を載置した2個以上の第1の電極構造体1004を搬送方向に配列し、複数のワーク1902を連続して処理してもよい。また、1個の第1の電極構造体1004に2個以上のワーク1902を載置してもよい。
【0039】
(リアクタ1008)
図4は、リアクタ1008の模式図である。図4は、リアクタ1008の断面図である。
【0040】
図4に示すように、リアクタ1008は、第2の電極構造体1036と、第2の電極構造体1036の下方を通過する第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038に処理ガスを供給する処理ガス供給体1040と、第2の電極構造体1036と処理ガス供給体1040との距離を調整する距離調整体1042と、これらを収容するハウジング1044とを備える。
【0041】
(第2の電極構造体1036)
図5は、第2の電極構造体1036の模式図である。図5は、第2の電極構造体1036の斜視図である。
【0042】
図5に示すように、第2の電極構造体1036は、板形状を有する。第2の電極構造体1036は、第2の電極1046と、第2の電極1046の表面を覆う第2の誘電体バリア1048とを備える。
【0043】
第2の電極1046は、アルミニウム、銅、ステンレス等の導電材料からなる。第2の電極1046は、板形状を有する。第2の電極1046は、第1の電極1012と垂直に設置される。したがって、第2の電極1046の第2の対向面(下端面)1050は、第1の電極1012の第1の対向面1020と平行な方向に延在する線状の細長面となる。「線状の細長面」とは、第1の電極1012の第1の対向面1020と平行で第2の電極1046の第2の対向面1050の延在方向と垂直な方向について、第2の電極1046の第2の対向面1050の寸法が、少なくとも第1の電極1012の第1の対向面1020の寸法より小さく、望ましくは第1の電極1012の第1の対向面1020の寸法の1/10以下であることをいう。これにより、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1046の第2の対向面1050との対向面積が狭くなるので、放電の均一性が向上する。また、ワーク1092の上面1094は、第2の電極構造体1036で走査されるので、被処理領域1908の全体が処理される。この結果、ワーク1092の被処理領域1908の全体が均一に処理される。
【0044】
「走査」とは、ワーク1092の上面1094に沿って第2の電極構造体1036をワーク1092の上面1094に対して相対移動させることをいう。「対向」とは、第1の対向面1020の法線方向から見たときに第1の対向面1020と第2の対向面とが重なることをいい、「対向面積」とは、そのように重なる領域の面積をいう。
【0045】
第2の電極1046の板厚は、1〜20mmであることが望ましい。
【0046】
第2の誘電体バリア1048は、ガラス、アルミナ等の絶縁材料からなる。第2の誘電体バリア1048は、細長矩形形状の開口を上面に有する鞘形状を有する。第2の誘電体バリア1048には、第2の電極1046と略同一の立体形状を有する収容穴1037が形成される(図4参照)。収容穴1037には、第2の誘電体バリア1048の主面に平行に第2の電極1046が収容される。図5に示す第2の誘電体バリア1048は、第2の電極1046の全体を収容しているが、放電の発生に主に寄与するのは第2の電極1046の第2の対向面1050であるので、第2の誘電体バリア1048に収容されているのが第2の電極1046の第2の対向面1050の近傍のみであっても問題はない。第2の誘電体バリア1048により、第2の電極1046が保護され、アーク放電の発生が抑制される。
【0047】
第2の誘電体バリア1048の第2の対向面1050を覆う部分の厚さは、0.5〜5mmであることが望ましい。第2の誘電体バリア1048の厚さがこの範囲を下回ると、アーク放電が発生しやすくなる傾向があるからであり、この範囲を上回ると、第1の電極1012と第2の電極1046との間の静電容量が増加して第1の電極1012と第2の電極1046との間に立ち上がりの速い電気パルスを印加することが難しくなる傾向があるからである。
【0048】
図4は、リアクタ1008が備える第2の電極構造体1036の数が2個である場合を示しているが、第2の電極構造体1036の数を増減してもよい。
【0049】
(第1の電極構造体1004の搬送方向)
第1の電極構造体1004の搬送方向は、第2の電極1040の第2の対向面1050の延在方向とは異なる方向であり、第2の電極1040の第2の対向面1050の延在方向とは90°異なる方向であることが望ましい。ワーク1902を支持する第1の電極構造体1004が搬送機構1006により搬送されると、ワーク1902を支持する第1の電極構造体1004が第2の電極構造体1036の下方、すなわち、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1046の第2の対向面1050とが上下に離隔して対向する対向位置を経由して移動し、第2の電極構造体1036でワーク1902の上面1910が走査される。
【0050】
第1の電極構造体1004を搬送することに代えて、第2の電極構造体1036を搬送することにより、又は、第1の電極構造体1004及び第2の電極構造体1036を搬送することにより、第1の電極構造体1004に対して第2の電極構造体1036を相対移動させてもよい。これらの場合、第1の電極構造体1004に対する第2の電極構造体1036の相対移動方向は、第2の電極1040の第2の対向面1050の延在方向とは異なる方向であり、第2の電極1040の第2の対向面1050の延在方向とは90°異なる方向であることが望ましい。
【0051】
また、第1の電極構造体1004の搬送方向は、第1の電極1012の第1の対向面1020と平行な方向である。これにより、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1046の第2の対向面1050との間隔が一定に維持され、ワーク1902が均一に処理される。
【0052】
(処理ガス供給体1040)
図6は、処理ガス供給体1040の模式図である。図6は、処理ガス供給体1040の斜視図である。
【0053】
図6に示すように、処理ガス供給体1040は、略直方体の外形形状を有し、その内部には、処理ガスを滞留させるガス溜り1052と、上面1054からガス溜り1052へ処理ガスを導く流路1056と、ガス溜り1052から下面1058へ処理ガスを導く流路1060とが形成される。また、処理ガス供給体1040の内部には、ガス溜り1052に接してシャワー板1062が設置される。シャワー板1062には、直径が0.1〜1mmの貫通孔が1〜20mm間隔で規則的に形成される。シャワー板1062に代えて、貫通孔が多数形成された圧損部材、例えば、メッシュの積層体やセラミックスの多孔質体を採用してもよい。
【0054】
処理ガス供給体1040は、処理ガスの供給源から供給された処理ガスに流路1056、ガス溜り1052、シャワー板1062及び流路1060を順次通過させて処理ガスの流れを均一化した上でスリット形状を有する吹き出し口1064から処理ガスを噴出する。これにより、第2の電極構造体1036の下方にある第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038、すなわち、第1の電極構造体1012に対する第2の電極構造体1046の相対位置が第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1046の第2の対向面1050とが対向する対向位置にあるときの第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038に処理ガスが供給される。
【0055】
(距離調整体1042)
距離調整体1042は、ガラス、アルミナ等の剛性の高い絶縁材料からなる。距離調整体1042は、直方体形状を有する。距離調整体1042により、吹き出し口1064と間隙1038との距離が離れるので、処理ガスが間隙1038に到達するまでに処理ガスの流れが均一化し、ワーク1902の被処理領域1908が均一に処理される。
【0056】
(処理ガスの組成)
処理ガスは、窒素ガスを主成分とするガスであることが望ましく、窒素ガスのみからなるガス又は窒素ガス及び酸素ガスからなる混合ガスであることが望ましい。窒素ガス及び酸素ガスからなる混合ガスを処理ガスとする場合、全体に占める酸素ガスの含有量が体積百分率で1−4%であることが望ましい。酸素ガスの含有量がこの範囲内であれば、処理の効率が向上するからである。リアクタ1008の内部の圧力は、大気圧近傍であればよい。
【0057】
(誘電体バリアの省略)
図4に示すリアクタ1008においては、第1の電極構造体1004及び第2の電極構造体1036の両方が誘電体バリアを備えているが、第1の電極構造体1004及び第2の電極構造体1036の片方のみが誘電体バリアを備えるようにしてもよい。
【0058】
(パルス電源1010の形式)
パルス電源1010は、アーク放電を発生させることなくストリーマ放電を発生させる電気パルスを第1の電極1012と第2の電極1046との間に印加する電源であれば特に制限されないが、誘導性素子に磁界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する誘導エネルギー蓄積型(IES;Inductive Energy Storage)の電源(以下では、「IES電源」という)であることが望ましい。これは、IES電源は、容量性素子に電界の形で蓄積したエネルギーを短時間で放出する静電エネルギー蓄積型(CES;Capacitive Energy Storage)の電源(以下では、「CES電源」という)と比較して、著しく大きいエネルギーをリアクタ1008に投入することができるからである。典型的には、電極構造が同じならば、IES電源を採用した場合、プラズマを生成する反応に使われる1パルスあたりのエネルギー(以下では、「1パルスエネルギー」という)は、CES電源を採用した場合よりも概ね1桁大きくなる。IES電源とCES電源とのこの相違は、IES電源が発生する電気パルスは電圧の上昇が急激であるのに対して、CES電源が発生する電気パルスは電圧の上昇が緩慢であることにより生じる。すなわち、IES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇してから放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくなるのに対して、CES電源を採用した場合、電圧が十分に上昇しないうちに放電が始まり、1パルスエネルギーが十分に大きくならないことにより生じる。
【0059】
図7〜図9は、IES電源が発生する電気パルス(以下では、「IESパルス」という)及びCES電源が発生する電気パルス(以下では「CESパルス」という)の概略の波形を示す図である。図7(a)及び図7(b)は、それぞれ、IESパルス及びCESパルスの電圧波形、図8(a)及び図8(b)は、それぞれ、IESパルス及びCESパルスの電流波形、図9(a)及び図9(b)は、それぞれ、IESパルス及びCESパルスの電圧と電流との積の波形を示す図である。
【0060】
1パルスエネルギーは、図9に示す電圧と電流との積を時間で積分することにより算出される。図7及び図8に示すように、電流は、電圧の上昇とほぼ同期して正方向に流れ、電圧の下降とほぼ同期して負方向に流れるので、1パルスエネルギーは、図9における波形が正になる領域Aの面積から波形が負になる領域Bの面積を減じた面積に比例する。
【0061】
(スイッチング素子)
IES電源としては、誘導性素子への電流の供給を制御するスイッチング素子として静電誘導型サイリスタ(以下では、「SIサイリスタ」という)を用いた電源を採用することが望ましい。SIサイリスタをスイッチング素子として用いることにより、立ち上がりの速い電気パルスが発生するので、上述のストリーマ放電が容易に発生する。SIサイリスタをスイッチング素子として用いることにより立ち上がりの速い電気パルスが発生するのは、SIサイリスタは、ゲートが絶縁されておらずゲートからキャリアが高速に引き抜かれるので、高速にターンオフするからである。IES電源の動作原理等の詳細は、例えば、飯田克二、佐久間健:「SIサイリスタによる極短パルス発生回路(IES回路)」、SIデバイスシンポジウム講演論文集、Vol.15,Page.40−45(2002年6月14日発行)に記載されている。
【0062】
(IES電源1100)
図10は、パルス電源1010に好適に用いられる、SIサイリスタ1108をスイッチング素子として用いたIES電源1100の回路図である。もちろん、図10に示す回路図は一例にすぎず、必要に応じて変形される。
【0063】
図10に示すように、IES電源1100は、電気エネルギーを供給する直流電源1102と直流電源1102の放電能力を強化するキャパシタ1104とを備える。
【0064】
直流電源1102の電圧は、IES電源1100が発生させる電気パルスのピーク電圧より著しく低い電圧であることが許容される。例えば、後述する昇圧トランス1106の1次側のピーク電圧が4kVに達しても、直流電源1102の電圧は数10〜数100Vで足りる。この電圧の下限は後述するSIサイリスタ1108のラッチング電圧によって決まる。IES電源1100は、このような低電圧の直流電源1102を電気エネルギー源として利用するので、小型、低コストに構築される。
【0065】
キャパシタ1104は、直流電源1102と並列に接続される。キャパシタ1104は、直流電源1102のインピーダンスを見かけ上低下させることにより直流電源1102の放電能力を強化する。
【0066】
IES電源1100は、さらに、昇圧トランス1106、SIサイリスタ1108、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)1110、ゲート駆動回路1112及びダイオード1114を備える。
【0067】
IES電源1100では、直流電源1102と、昇圧トランス1106の1次側と、SIサイリスタ1108のアノード(A)・カソード(K)間と、MOSFET1110のドレイン(D)・ソース(S)間とが直列接続される。すなわち、昇圧トランス1106の1次側の一端が直流電源1102の正極に、昇圧トランス1106の1次側の他端がSIサイリスタ1108のアノードに、SIサイリスタ1108のカソード(K)がMOSFET1110のドレイン(D)に、MOSFET1110のソース(S)が直流電源1102の負極に接続される。これにより、直流電源1102からこれらの回路素子に電流が供給される。また、IES電源1100では、SIサイリスタ1108のゲート(G)がダイオード1114を介して昇圧トランス1106の1次側の一端と並列接続される。すなわち、SIサイリスタ1108のゲート(G)がダイオード1114のアノード(A)に、ダイオード1114のカソード(K)が昇圧トランス1106の1次側の一端(直流電源1102の正極)に接続される。FETのゲート(G)・ソース(S)間には、ゲート駆動回路1112が接続される。
【0068】
昇圧トランス1106は、1次側に与えられた電気パルスをさらに昇圧して2次側に出力する。昇圧トランス1106の1次側は自己インダクタンスを有する誘導性素子になっている。
【0069】
昇圧トランス1106の2次側には負荷1116が接続される。すなわち、昇圧トランス1106の2次側の一の出力端は第1の電極1012に接続され、他の出力端は第2の電極1046に接続される。第1の電極1012は接地され、電気パルスが単極性である場合、第2の電極1136には正パルスが印加される。
【0070】
SIサイリスタ1108は、ゲート(G)に与えられる信号に応答してターンオン及びターンオフされる。
【0071】
MOSFET1110は、ゲート駆動回路1112から与えられる信号に応答してドレイン(D)・ソース(S)間の導通状態が変化するスイッチング素子である。MOSFET1110のオン電圧ないしはオン抵抗は低いことが望ましい。また、MOSFET1110の耐圧は直流電源1102の電圧より高いことを要する。
【0072】
ダイオード1114は、SIサイリスタ1108のゲート(G)に正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、すなわち、SIサイリスタ1108のゲート(G)に正バイアスを与えた場合にSIサイリスタ1108が電流駆動とならないようにするために設けられる。
【0073】
(IES電源1100の動作の概略)
IES電源1100に電気パルスを発生させる場合、まず、ゲート駆動回路1112からMOSFET1110のゲートにオン信号を与え、MOSFET1110のドレイン(D)・ソース(S)間を導通状態にする。すると、SIサイリスタ1108はノーマリオン型のスイッチング素子であってSIサイリスタ1108のアノード(A)・カソード(K)間は導通状態となっているので、昇圧トランス1106の1次側に電流が流れる。この状態においては、SIサイリスタ1108のゲート(G)に正バイアスが与えられるので、SIサイリスタ1108のアノード(A)・カソード(K)間の導通状態は維持される。
【0074】
続いて、ゲート駆動回路1112からMOSFET1110へオン信号を与えることを中止し、MOSFET1110のドレイン(D)・ソース(S)間を非導通状態にする。すると、SIサイリスタ1108のゲート(G)からキャリアが電流駆動により高速に排出されSIサイリスタ1108のアノード(A)・カソード(K)間が非導通状態となるので、昇圧トランス1106の1次側への電流の流入が高速に停止される。これにより、昇圧トランス1106の1次側には誘導起電力が発生し、昇圧トランス1106の2次側に高圧が発生する。
【0075】
(処理の原理)
プラズマ処理装置1002は、第1の電極1012と第2の電極1038との間への立ち上がりの速い電気パルスの繰り返しの印加により第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038にストリーマ放電を発生させる。
【0076】
ストリーマ放電を発生させることによりワーク1902の上面1904が処理されるのは、主に、パルス電界、窒素ラジカル及び短波長紫外線がワーク1902の上面1904に複合的に作用することによる。ストリーマ放電の状態等によっては、パルス電界、窒素ラジカル及び短波長紫外線の3個の要素のうちの1個又は2個の要素のみが処理に支配的に寄与する場合もありうる。
【0077】
(窒素ラジカルの作用)
ストリーマ放電を間隙1038に発生させると、活性が極めて高い窒素ラジカルを含むプラズマが間隙1038に生成する。したがって、ストリーマ放電を発生させると、窒素ラジカルが表面層1912に化学的に作用し、表面層1912が処理される。
【0078】
処理に利用する化学種として窒素ラジカルを選択した理由、すなわち、窒素ガスを主成分とする処理ガス中でプラズマを生成させた理由は、窒素ラジカルの活性が極めて高いことによる。このことは、窒素分子の解離エネルギーが9.76eVと極めて高いことからも明らかである。また、3重項窒素(3Σu)のラジカルの寿命が10ミリ秒に達することも、効率的な改質に寄与している。
【0079】
加えて、窒素ガスは、低価格で容易に入手することができ取り扱いも容易であることも、処理に利用する活性種として窒素ラジカルを選択した理由のひとつとなっている。
【0080】
(短波長紫外線の作用)
ストリーマ放電を間隙1038に発生させると、ストリーマ放電に起因して処理ガスが短波長紫外線を発する。したがって、ストリーマ放電を発生させると、短波長紫外線が表面層1912に光化学的に作用し、表面層1912が処理される。
【0081】
「短波長紫外線」とは、100〜280nmの波長成分を主に含む紫外線であって、「遠赤外線」又は「UV−C」とも呼ばれる。短波長紫外線を作用させるのは、短波長紫外線は、ワーク1902の奥深くまで浸透しないので、極めて薄い表面層1912のみに集中して光化学的な作用を与えるからである。
【0082】
(ストリーマ放電)
図11は、第1の電極1012を陰極、第2の電極1046を陽極として第1の電極1012と第2の電極1046との間に電気パルスを印加したときに間隙1038に発生するストリーマ放電の状態を示す模式図である。ストリーマ放電を発生させる電気パルスは、ピーク電圧が概ね10〜100kV、半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)が概ね100〜50000ns、立ち上がり時の電圧の時間上昇率dV/dtが概ね1〜500kV/μs、周波数が概ね1〜50kHzの電気パルスである。電気パルスは、極性が変化しない単極性の電気パルスであるが、極性が交互に変化する両極性の電気パルスであってもよい。
【0083】
ストリーマ放電が間隙1038に発生しているときには、図11に示すように、第2の電極構造体1036から第1の電極構造体1004へ向かうが第1の電極構造体1004には達しないストリーマ1930が成長しており、第2の電極構造体1036の下面から第1の電極構造体1004の上面に向かって末広がりになる薄紫色の発光が観察される。ストリーマ1930が「第1の電極構造体1004には達しない」とは、アーク放電の発生に至る前に電気パルスの印加を停止することを意味している。
【0084】
また、図12に示すような枝分かれした長いストリーマ1930が成長する前に電気パルスの印加を停止することも望ましい。すなわち、第1の電極1012と第2の電極1046との間に半値幅FWHMが概ね100〜50000nsの電気パルスを印加し、図12に示すように短いストリーマ196が散点するストリーマ放電を間隙1038に発生させることも望ましい。ストリーマの成長の初期状態で電気パルスの印加を停止した微細なストリーマ放電は、放電の均一性に優れているので、微細なストリーマ放電を発生させると、ワーク1902の被処理領域1910が均一に処理され、不均一な放電による局所的なワーク1902の損傷が抑制される。
【0085】
上述の説明において半値幅等の範囲を「概ね」としているのは、第1の電極構造体1004及び第2の電極構造体1036の構造及び材質、間隙1038の間隔、処理ガスの圧力等のプラズマ処理装置1002の具体的な構成によっては、ストリーマ放電が発生する半値幅等の範囲が上述の範囲よりも広くなる場合があるからである。したがって、放電がストリーマ放電になっているか否かは、実際の放電を観察して判断することが望ましい。
【0086】
(2.第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態のプラズマ処理装置1002に望ましくは付加される出力調整機構2300に関する。第2実施形態の出力調整機構2300は、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1048の第2の対向面1050との対向面積Sが広くなるほどパルス電源1010の出力PWを増加させる。これにより、第2の電極構造体1036でワーク1902の上面1904を走査するときに、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極1048の第2の対向面1050とが対向する領域の単位面積あたりのパルス電源1010の出力PW/Sの変動が減少し、ワーク1902の被処理領域1910が均一に処理される。
【0087】
図13は、第2実施形態の出力調整機構2300のブロック図である。
【0088】
図13に示すように、出力調整機構2300は、第1の電極構造体1004に対する第2の電極構造体1036の相対位置PSを検出する相対位置検出器2302と、相対位置PSと対向面積Sとの関係を特定する情報を記憶する記憶装置2304と、パルス電源1010の出力PWを制御する制御部2306とを備える。
【0089】
相対位置検出器2302は、第1の電極構造体1004そのもの又は第1の電極構造体1004が載置されるキャリアの位置をエンコーダ、ポテンショメータ等で測定することにより相対位置PSを検出する。もちろん、第2の電極構造体1036を搬送する場合は、相対位置検出器2302は第2の電極構造体1036の位置を測定する。搬送機構1006の動力源をステッピングモータとしステッピングモータへ与える駆動パルスを計数することにより相対位置PSを検出してもよい。搬送機構1006が搬送を開始してからの経過時間を測定することにより相対位置PSを検出してもよい。
【0090】
記憶装置2304は、半導体メモリ、ディスクドライブ等である。相対位置PSと対向面積Sとの関係を特定する情報は、例えば、相対位置PSと対向面積Sとの対応を記述したテーブルとして記憶装置2304にあらかじめ記憶される。
【0091】
制御部2306は、相対位置検出器2302の検出結果を取得するとともに相対位置PSと対向面積Sとの関係を特定する情報を記憶装置2304から読み出し対向面積Sが広くなるほどパルス電源1010の出力PWが増加するようにパルス電源1010を制御する。パルス電源1010にIES電源1100を採用した場合、ゲート駆動回路1112がMOSFET1110へ与えるオン信号の長さを調整することにより、昇圧トランス1106に蓄積されるエネルギーの大きさが調整され、パルス電源1010の出力が調整される。
【0092】
制御部2306の当該機能は、組み込みコンピュータに制御プログラムを実行させることにより実現される。当該機能の一部又は全部を専用のハードウエアによって実現してもよい。
【0093】
(3.第3実施形態)
第3実施形態は、第2実施形態の出力調整機構2300に代えて採用される出力調整機構3300に関する。
【0094】
図14は、第3実施形態の出力調整機構3300のブロック図である。
【0095】
図14に示すように、出力調整機構3300は、電気パルスのピーク電圧を検出するピーク電圧検出器3310と、パルス電源1010の出力PWを制御する制御部3312とを備える。
【0096】
ピーク電圧検出器3310の入力は、第1の電極1012及び第2の電極1046に接続され、ピーク電圧検出器3310の出力からは、電気パルスのピーク電圧に応じた信号が出力される。ピーク電圧検出器3310は、第1の電極1012と第2の電極1046との間に印加される電気パルスのピーク電圧を検出する。
【0097】
図15は、ピーク電圧検出器3310として採用されるピークホールド回路3314の回路図である。
【0098】
ピークホールド回路3314においては、電圧保持用のキャパシタ3316と放電用の抵抗3318との並列接続体の一端が逆流防止用のダイオード3320を介して入力3324の一端に接続され、並列接続体の他端が入力3324の他端に接続される。また、並列接続体の一端が出力3326の一端に接続され、並列接続体の他端が出力3326の他端に接続される。ダイオード3320のアノードは入力3324の一端に接続され、ダイオード3320のカソードは並列接続体の一端に接続される。キャパシタ3315の容量値及び抵抗3318の抵抗値は、並列接続体の時定数が電気パルスの周期の数倍〜数100倍となるように決定される。図15に示すピークホールド回路3314に代えて、オペアンプ等を含むより複雑なピークホールド回路も採用される。
【0099】
制御部3312は、ピーク電圧検出器3310の検出結果を取得し対向面積Sが広くなるほどパルス電源1010の出力PWが増加するようにパルス電源1010を制御する。制御部2306は、対向面積Sが広くなるほど第1の電極1012と第2の電極1046との間の静電容量が増加して電気パルスのピーク電圧が低くなることを利用して、ピーク電圧検出器3310により検出されたピーク電圧が低くなるほどパルス電源1010の出力PWを増加させる。パルス電源1010にIES電源1100を採用した場合、ゲート駆動回路1112がMOSFET1110に与えるオン信号の長さを調整することにより、昇圧トランス1106に蓄積されるエネルギーの大きさが調整され、パルス電源1010の出力PWが調整される。
【0100】
図16は、制御部3312として採用される電圧比較回路3328の回路図である。電圧比較回路3328においては、コンパレータ3330の非反転入力が入力3332の一端に接続され、反転入力が定電圧源3334を介して入力3332の他端及び出力3336の他端に接続される。コンパレータ3330の出力は出力3336の一端に接続される。
【0101】
これにより、制御部3312は、ピーク電圧が定電圧源3334の電圧を下回ると正信号を出力し、ピーク電圧が定電圧源3334の電圧を下回ると負信号を出力する。ゲート駆動回路1112は、正信号が入力された場合よりも負信号が入力された場合の方がパルス電源1010の出力PWが増加するようにMOSFET1110に与えるオン信号の長さを長くする。
【0102】
なお、コンパレータの数を2個以上に増やしてパルス電源1010の出力PWを多段階に切り替えてもよい。また、ピーク電圧検出器3310の出力をA/Dコンバータでデジタル信号に変換してから制御プログラムを実行する組み込みコンピュータに与え、より詳細な制御を行ってもよい。
【0103】
(4.第4実施形態)
第4実施形態は、第2実施形態の出力調整機構2300に代えて採用される出力調整機構4300に関する。
【0104】
図17は、第4実施形態の出力調整機構4300のブロック図である。
【0105】
図17に示すように、出力調整機構4300は、第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038から放射されるプラズマ光を検出する光検出器4342と、パルス電源1010の出力PWを制御する制御部4344とを備える。
【0106】
光検出器4342の検出部は、第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1038との間隙1038に向けられ、第1の電極構造体1004と第2の電極構造体1036との間隙1038から放射されるプラズマ光を受光して当該プラズマ光に応じた信号を出力する。
【0107】
光検出器4342は、第2の電極1046の第2の対向面1050の延在方向に複数の光センサを配列し、当該延在方向の各位置から放射されたプラズマ光が複数の光センサの各々で検出されるように構成される。これにより、プラズマ光の強度だけでなく、当該延在方向のプラズマ光の広がりも検出される。光センサにフォトダイオード、フォトマルチプライヤー等の光電変換素子及び硫化カドミウムセル等の光依存性抵抗素子等がある。
【0108】
光検出器4342によるプラズマ光の検出の効率を向上するため、プラズマ光を集光する光学系を付加することも望ましい。
【0109】
制御部4344は、光検出器4342の検出結果を取得し対向面積Sが広くなるほどパルス電源1010の出力PWが増加するようにパルス電源1010を制御する。制御部4344は、対向面積Sが広くなるほどプラズマ光の強度が強くなりプラズマ光の広がりが広くなることを利用して、プラズマ光の強度が強くなるほどパルス電源1010の出力を増加させ、プラズマ光の広がりが広くなるほどパルス電源1010の出力を増加させる。パルス電源1010にIES電源1100を採用した場合、ゲート駆動回路1112がMOSFET1110へ与えるオン信号の長さを調整することにより、昇圧トランス1106に蓄積されるエネルギーの大きさが調整され、パルス電源1010の出力が調整される。
【0110】
制御部4344の当該機能は、組み込みコンピュータに制御プログラムを実行させることにより実現される。当該機能の一部又は全部を専用のハードウエアによって実現してもよい。
【0111】
(5.第5実施形態)
第5実施形態は、第1実施形態の第2の電極構造体1036に代えて採用される第2の電極構造体5036に関する。
【0112】
図18は、第5実施形態の第2の電極構造体5036の模式図である。図18は、第2の電極構造体5036の斜視図である。
【0113】
図18に示すように、板形状を有する第2の電極1046を鞘形状を有する第2の誘電体バリア1048で覆う第2の電極構造体1036に代えて、丸棒形状又は丸パイプ形状を有する第2の電極5046を丸パイプ形状を有する第2の誘電体バリア5048で覆う第2の電極構造体5036を採用してもよい。第2の電極構造体5036においても、第2の電極5046の第2の対向面(円筒外面の下側半分)5050は、第1の電極1012の第1の対向面1020と平行な方向に延在する線状の細長面となるこれにより、第1の電極1012の第1の対向面1020と第2の電極5046の第2の対向面5050との対向面積が狭くなるので、放電の均一性が向上し、ワーク1902の被処理領域1908が均一に処理される。
【0114】
(6.第6実施形態)
第6実施形態は、第1実施形態の第1の電極構造体1004に代えて採用される第1の電極構造体6004に関する。
【0115】
図19は、第6実施形態の第1の電極構造体6004の模式図である。図19は、第1の電極構造体6004の斜視図である。
【0116】
図19に示すように、第6実施形態の第1の電極構造体6004は、第1実施形態の第1の電極構造体1004の支持面に突起6006を付加した構造を有する。突起6006は、第1の電極6012の第1の対向面6020の平面位置とワーク1902の被処理領域1908の平面位置とを合わせたときにワーク1902の端面が当たる位置に形成される。これにより、ワーク1902の位置決めが容易になる。
【0117】
(7.第7実施形態)
第7実施形態は、第1実施形態の第1の電極構造体1004に代えて採用される第1の電極構造体7004に関する。
【0118】
図20は、第7実施形態の第1の電極構造体7004の模式図である。図20は、第1の電極構造体7004の斜視図である。
【0119】
図20に示すように、第7実施形態の第1の電極構造体7004は、第1実施形態の第1の電極構造体1004の支持面にワーク1902を収容する収容溝7008を形成した構造を有する。収容溝7008の平面形状は、ワーク1902の平面形状と略同一である。収容溝7008が形成される位置は、ワーク1902が収容溝7008に収容されたときに第1の電極7012の第1の対向面7020の平面位置とワーク1902の被処理領域1908の平面位置とが合う位置である。収容溝の開口側の端部は、トリミングされていることが望ましい。これにより、ワーク1902を載置する位置が若干ずれてもワーク1902が収容溝7004に収容される。
【0120】
(8.その他)
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明はすべての局面において例示であって、この発明は上記の説明に限定されない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。特に、各実施形態において説明した事項を組み合わせることは当然に予定されている。
【符号の説明】
【0121】
1002 プラズマ処理装置
1004 第1の電極構造体
1010 パルス電源
1012 第1の電極
1020 第1の対向面
1006 搬送機構
1036 第2の電極構造体
1050 第2の対向面
1040 処理ガス供給体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理装置であって、
被処理物の表面の被処理領域の平面形状に応じた平面形状を有する第1の対向面を持つ第1の電極を備え被処理物を支持する支持面を持つ第1の電極構造体と、
線状の第2の対向面を持つ第2の電極を備える第2の電極構造体と、
一の出力端が前記第1の電極に接続され他の出力端が前記第2の電極に接続された電源と、
前記第1の対向面と前記第2の対向面とが対向する対向位置を経由して前記第2の対向面が延在する方向とは異なる方向へ前記第1の電極構造体に対して前記第2の電極構造体を相対移動させる搬送機構と、
前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置が前記対向位置にあるときの前記第1の電極構造体と前記第2の電極構造体との間隙に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1のプラズマ処理装置において、
前記第1の対向面と前記第2の対向面との対向面積が広くなるほど前記電源の出力を増加させる出力調整機構、
をさらに備えるプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2のプラズマ処理装置において、
前記出力調整機構は、
前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置を検出する相対位置検出器と、
前記第1の電極構造体に対する前記第2の電極構造体の相対位置と前記第1の対向面と前記第2の対向面との対向面積との関係を特定する情報を記憶する記憶装置と、
前記相対位置検出器の検出結果を取得し前記記憶装置から相対位置と対向面積との関係を特定する情報を読み出し前記電源の出力を制御する制御部と、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項2のプラズマ処理装置において、
前記電源はパルス電源であり、
前記出力調整機構は、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に印加される電気パルスのピーク電圧を検出するピーク電圧検出器と、
前記ピーク電圧検出器の検出結果を取得し前記電源の出力を制御する制御器と、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項2のプラズマ処理装置において、
前記出力調整機構は、
前記間隙から放射されるプラズマ光を検出する光検出器と、
前記光検出器の検出結果を取得し前記電源の出力を制御する制御部と、
を備えるプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項5のプラズマ処理装置において、
前記光検出器は、プラズマ光の強度及び広がりを検出し、
前記制御部は、プラズマ光の強度が強くなるほど前記電源の出力を増加させプラズマ光の広がりが広くなるほど前記電源の出力を増加させる、
プラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1のプラズマ処理装置において、
前記電源は、パルス電源である、
プラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項7のプラズマ処理装置において、
前記パルス電源は、誘導エネルギー蓄積型である、
プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−277902(P2010−277902A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130457(P2009−130457)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】