説明

プラズマ生成用電極およびプラズマ処理装置

【課題】FPD用の基板をプラズマ処理する際に異常放電やパーティクルの問題が生じ難いプラズマ生成用電極を提供すること。
【解決手段】プラズマ生成用電極20は、チャンバ2内に配置されたフラットパネルディスプレイ用の基板Gとの対向面Fを有し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材20aの表面に陽極酸化処理されて陽極酸化皮膜20bを有する本体と、本体の対向面Fに開口した複数のガス吐出孔22と、対向面Fにおいて、少なくともガス吐出孔22の開口部22cに形成されたセラミックス溶射皮膜23とを有し、対向面Fにおいてセラミックス溶射皮膜23の間の部分は、本体の面が露出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)のようなフラットパネルディスプレイ(FPD)用の基板に対してドライエッチング等のプラズマ処理を施す際に用いるプラズマ生成用電極およびそれを用いたプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FPDの製造過程では、被処理体であるガラス基板に対してエッチングやスパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等のプラズマ処理が行なわれる。例えば、チャンバ内に一対の平行平板電極(上部および下部電極)を配置し、下部電極として機能するサセプタ(基板載置台)にガラス基板を載置した後、処理ガスをチャンバ内に導入するとともに、電極の少なくとも一方に高周波電力を印加して電極間に高周波電界を形成し、この高周波電界により処理ガスのプラズマを形成してガラス基板に対してプラズマ処理を施す。
【0003】
このようなプラズマ処理を行うプラズマ処理装置においては、チャンバ内の電極がプラズマによる摩耗や、ガスによる腐食を抑える対策がとられている。
【0004】
例えば、プラズマエッチング装置においては、上部電極として、処理ガスを吐出するための多数のガス吐出孔が形成されたものが用いられるが、アルミニウム母材の表面に硬質アルマイト処理(陽極酸化処理)を施してアルマイト皮膜を形成したものが用いられており、アルマイト皮膜によりプラズマによる摩耗やガスによる腐食を抑制している。
【0005】
また、特許文献1には下部電極を構成する多数の貫通孔が形成された電極部材の上面を誘電体膜によって覆う構成が記載されており、これにより下部電極の金属がプラズマによりスパッタリングされて飛散物が発生することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−183090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、FPD用のガラス基板は大型化の一途をたどり、それにつれ、処理プラズマを生成するための高周波投入パワーは大きくなっている。その結果、エッジを有するガス吐出孔の開口部において集中する電界が大きくなり、その部分のアルマイト皮膜がプラズマ中のイオンのスパッタなどによって局所的に大きく消耗し、削り取られたアルマイト皮膜がパーティクルの原因となり、また、アルマイト皮膜の消耗により、アルマイト皮膜が薄くなったり母材が露出した部分で異常放電が発生したりするといった問題が発生している。
【0008】
このような上部電極の問題に対しては、上記特許文献1に開示された溶射皮膜をガス吐出孔が形成されている上部電極の下面に形成することも考えられるが、FPD基板の一層の大型化に対応して上部電極も極めて大型なものとなっており、上部電極を構成するアルミニウムと溶射皮膜との間の熱膨張率の違いによる熱膨張の差が大きく現れ、溶射皮膜が割れたり剥がれたりしてパーティクルの原因となってしまう。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、FPD用の基板をプラズマ処理する際に異常放電やパーティクルの問題が生じ難いプラズマ生成用電極およびこのようなプラズマ生成用電極が用いられるプラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、フラットパネルディスプレイ用の基板をプラズマ処理する容量結合型のプラズマ処理装置の処理容器内にフラットパネルディスプレイ用の基板に対向して配置されるプラズマ生成用電極であって、前記処理容器内に配置されたフラットパネルディスプレイ用の基板との対向面を有し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化処理がされて構成され、少なくとも前記対向面が陽極酸化皮膜である本体と、プラズマを生成するための処理ガスを前記処理容器内に導入するために、前記本体の前記対向面に開口した複数のガス吐出孔と、前記対向面において、少なくとも前記ガス吐出孔の開口部に形成されたセラミックス溶射皮膜とを有し、前記対向面において前記セラミックス溶射皮膜の間の部分は、前記本体の面が露出していることを特徴とするプラズマ生成用電極を提供する。
【0011】
上記第1の観点において、前記セラミックス溶射皮膜の構成材料としては、アルミナ、イットリア、およびフッ化イットリウムを好適に用いることができる。
【0012】
また、前記ガス吐出孔の前記開口部は、前記ガス吐出孔の中心軸を含む断面において末広がり状の曲線を構成しており、前記セラミックス溶射皮膜は、前記末広がり状の曲線に沿って形成されるようにすることができる。
【0013】
前記セラミックス溶射皮膜は、1個のガス吐出孔毎に複数の箇所に形成されており、隣接するセラミックス溶射皮膜どうしは分離し、前記隣接するセラミックス溶射皮膜の間の部分は前記本体の前記対向面が露出しているように構成することができる。また、前記セラミックス溶射皮膜は、複数のガス吐出孔毎に複数形成されており、隣接するセラミックス溶射皮膜どうしは分離し、前記隣接するセラミックス溶射皮膜の間の部分は前記本体の前記対向面が露出しているように構成することもできる。典型的な例として、前記セラミックス溶射皮膜は、直線状に配列された複数のガス吐出孔毎にライン状に複数形成されたものを挙げることができる。さらに、前記本体は、箱状部材であっても、板状部材であってもよい。
【0014】
本発明の第2の観点では、フラットパネルディスプレイ用の基板をプラズマ処理する容量結合型のプラズマ処理装置であって、フラットパネルディスプレイ用の基板を収容する処理容器と、前記処理容器内に設けられ、フラットパネルディスプレイ用の基板を載置し、下部電極を有する載置台と、上記第1の観点のプラズマ生成用電極からなる上部電極と、前記処理容器内に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方に高周波電力を供給して前記処理容器内に前記処理ガスのプラズマを形成するための高周波電力供給機構とを有することを特徴とするプラズマ処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板との対向面に開口するガス吐出孔の開口部にセラミックス溶射皮膜が形成されているので、耐絶縁性および耐食性が増加する。このため、プラズマによるアルマイト皮膜の局所的な消耗を抑制して、パーティクルの発生を抑制することができ、また異常放電の発生を低減することもできる。また、セラミックス溶射皮膜の間の部分は本体の対向面が露出しているので、本体の対向面の全面にセラミックス溶射皮膜を形成した場合のような熱膨張差に起因するセラミックス溶射皮膜の割れや剥がれが生じ難い。また、セラミックス溶射皮膜の覆う面積割合が小さいので、プロセス環境やプロセス条件の変化が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置を示す断面図である。
【図2】図1のプラズマ処理装置に設けられたプラズマ生成電極である上部電極のガス吐出孔が形成された部分を示す断面図である。
【図3】上部電極におけるガス吐出孔の出口部分を拡大して示す断面図である。
【図4】セラミックス溶射皮膜を1個のガス吐出孔毎に形成した例を示す模式図である。
【図5】セラミックス溶射皮膜を直線状に配列された複数のガス吐出孔毎にライン状に形成した例を示す模式図である。
【図6】ガス吐出孔の開口部においてアルマイト(陽極酸化)皮膜を剥がした後にセラミック溶射皮膜を形成した状態を示す断面図である。
【図7】プラズマ生成電極である上部電極の他の例を説明するための部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置を示す断面図である。
【0018】
このプラズマ処理装置1は、容量結合型平行平板プラズマ処理装置として構成されており、プラズマ処理としてプラズマエッチング処理を施すものを例示する。ここで、FPDとしては、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネセンス(Electro Luminescence;EL)ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等が例示される。
【0019】
このプラズマ処理装置1は、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面にアルマイト処理(陽極酸化処理)されて硬質アルマイト皮膜が形成されてなる角筒形状に成形されたチャンバ2を有している。この処理チャンバ2内の底部には被処理基板として絶縁基板であるガラス基板Gを載置するための基板載置台3が設けられている。
【0020】
載置台3は、絶縁部材4を介して処理チャンバ2の底部に支持されており、アルミニウム等の金属製の凸型の下部電極5と、下部電極5の凸部5aの上に設けられたガラス基板Gを吸着する静電チャック6と、静電チャック6および下部電極5の凸部5aの周囲に設けられた、絶縁性セラミックス、例えばアルミナからなる額縁状のシールドリング7と、下部電極5の周囲に設けられた絶縁性セラミックス、例えばアルミナからなるリング状の絶縁リング8とを有している。また、下部電極5の内部には、ガラス基板Gを温調するための温調機構(図示せず)が設けられている。
【0021】
静電チャック6は、アルミナ等の絶縁性セラミックスの溶射により形成されたセラミックス溶射皮膜41と、その内部に形成された電極42とを有しており、セラミックス溶射皮膜41の上面が基板保持面となっている。なお、セラミックス溶射皮膜41を形成する際の溶射は、プラズマ溶射が好ましい。電極42には給電線33が接続されており、給電線33には直流電源34が接続されていて、電極42に直流電源34からの直流電圧が印加されることにより、クーロン力等の静電吸着力によりガラス基板Gが吸着される。
【0022】
チャンバ2の底壁、絶縁部材4および載置台3を貫通するように、その上へのガラス基板Gのローディングおよびアンローディングを行うための昇降ピン10が昇降可能に挿通されている。この昇降ピン10はガラス基板Gを搬送する際には、載置台3の上方の搬送位置まで上昇され、それ以外のときには載置台3内に没した状態となる。
【0023】
下部電極5には、第1の給電線12が接続されており、この第1の給電線12には第1の整合器13およびプラズマ生成用の第1の高周波電源14が接続されている。第1の高周波電源14からは例えば13.56MHzの高周波電力が下部電極5に供給される。また、下部電極5には第2の給電線15が接続されており、この第2の給電線15には第2の整合器16およびイオン引き込み用の第2の高周波電源17が接続されている。第2の高周波電源17からは例えば3.2MHzの高周波電力が下部電極5に供給される。
【0024】
載置台3の上方には、この載置台3と平行に対向してシャワーヘッドとしても機能する上部電極20が設けられている。上部電極20は処理チャンバ2の上部に支持されており、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に硬質アルマイト処理(陽極酸化処理)を施してアルマイト(陽極酸化)皮膜が形成された本体を有している。上部電極20は、本体の内部に内部空間21を有するとともに、本体の載置台3に載置されたガラス基板Gとの対向面Fに処理ガスを吐出する複数のガス吐出孔22が形成されている。上部電極20は接地されており、下部電極5とともにプラズマ生成用電極として一対の平行平板電極を構成している。なお、上部電極20の詳細については後述する。
【0025】
上部電極20本体の上面にはガス導入口24が設けられ、このガス導入口24には、処理ガス供給管25が接続されており、この処理ガス供給管25は処理ガス供給源28に接続されている。また、処理ガス供給管25には、開閉バルブ26およびマスフローコントローラ27が介在されている。処理ガス供給源28からは、プラズマエッチングのための処理ガスが供給される。処理ガスとしては、CF等のフッ素系のガス、Oガス、Arガス等、通常この分野で用いられるガスを用いることができる。
【0026】
処理チャンバ2の底部には排気管29が形成されており、この排気管29には排気装置30が接続されている。排気装置30はターボ分子ポンプなどの真空ポンプを備えており、これにより処理チャンバ2内を所定の減圧雰囲気まで真空引き可能なように構成されている。また、処理チャンバ2の側壁には基板搬入出口31が設けられており、この基板搬入出口31がゲートバルブ32により開閉可能となっている。そして、このゲートバルブ32を開にした状態で搬送装置(図示せず)によりガラス基板Gが搬入出されるようになっている。
【0027】
次に、プラズマ生成電極である上部電極20の構造について詳細に説明する。
図2は上部電極20のガス吐出孔が形成された部分を示す断面図、図3は上部電極20におけるガス吐出孔の出口部分を拡大して示す断面図である。これらの図に示すように、上部電極20本体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材20aと、基材20aの表面に硬質アルマイト処理(陽極酸化処理)により形成されたアルマイト(陽極酸化)皮膜20bとを有している。アルマイト皮膜20bは、ガス吐出孔22の内面にも形成されている。
【0028】
ガス吐出孔22は、上部電極20本体のガラス基板Gと対向する対向面Fに開口しており、基端側(内部空間21側)の大径部22aと先端側の小径部22bとを有している。そして、小径部22bの先端が対向面Fに開口する開口部22cとなっている。先端側を小径部22bとしたのは、プラズマがガス吐出孔22の奥に入り込むのを防止するためである。小径部22bの径は例えば0.5〜1mm程度に設定される。
【0029】
上部電極20本体の対向面Fにおいて、少なくともガス吐出孔22の開口部22cには、セラミックス溶射皮膜23が形成されている。対向面Fにおけるセラミックス溶射皮膜23の間の部分は上部電極20本体の対向面Fが露出している。セラミックスは耐食性、耐絶縁性およびプラズマに対する耐消耗性(プラズマ耐性)が高いため、ガス吐出孔22の開口部22cにセラミックス溶射皮膜23を設けることにより、その部分においてプラズマによるアルマイト皮膜の消耗を抑制することができ、パーティクルの発生および異常放電の発生を低減することができる。
【0030】
セラミックス溶射皮膜23の構成材料としては、アルミナ(Al)、イットリア(Y)、およびフッ化イットリウム(YF)が好適である。アルミナとしては、一般的な白アルミナであっても、TiOを2〜3mass%含むグレイアルミナであってもよい。これらはプラズマ耐性が高い。これらの中では、プラズマ耐性を特に重視する場合はイットリア(Y)およびフッ化イットリウム(YF)が好ましく、コストを重視する場合はアルミナ(Al)が好ましい。セラミックス溶射皮膜23を形成する際の溶射も、静電チャック6のセラミックス溶射皮膜41を形成する場合と同様、プラズマ溶射が好ましい。
【0031】
図3に示すように、ガス吐出孔22の開口部22cは、その中心軸を含む断面において末広がり状の曲線を構成しており、セラミックス溶射皮膜23はこの末広がり状の曲線に沿って形成されている。このとき、セラミックス溶射皮膜23は、アルマイト皮膜20bとの間に段差が形成されないように滑らかに形成されている。
【0032】
このセラミックス溶射皮膜23は、1個のガス吐出孔22毎または複数のガス吐出孔22毎に複数の箇所に形成されており、上部電極20本体における対向面Fにおいて、隣接するセラミックス溶射皮膜23どうしは分離し、隣接するセラミックス溶射皮膜23の間の部分は上部電極20本体の面(すなわちアルマイト皮膜20b)が露出している。
【0033】
図4はセラミックス溶射皮膜23を1個のガス吐出孔22毎に形成した例であり、図5は、直線状に配列された複数のガス吐出孔22毎にライン状に形成した例である。その他に、適当なブロック毎にセラミックス溶射皮膜23を形成してもよい。いずれの場合にもガス吐出孔22の開口部22cにはセラミックス溶射皮膜23が存在していることが必要である。
【0034】
このように複数のセラミックス溶射皮膜23が分離して設けられ、セラミックス溶射皮膜23の間に上部電極20の本体の面が露出していることにより、後述するように上部電極20と溶射皮膜の熱膨張差等による不都合が低減される。
【0035】
上記図2、3では、ガス吐出孔22の開口部22cにおいて、アルマイト皮膜20bの上にセラミックス溶射皮膜23を形成する例を示したが、上部電極20とセラミックス溶射皮膜23との密着性を良好にする観点から、図6に示すように、ガス吐出孔22の開口部22cのアルマイト皮膜20bを剥がしてセラミックス溶射皮膜23を形成してもよい。
【0036】
次に、このように構成されるプラズマ処理装置1における処理動作について説明する。
まず、ゲートバルブ32を開いて、ガラス基板Gを搬送アーム(図示せず)により基板搬入出口31を介してチャンバ2内へと搬入し、載置台3の静電チャック6上に載置する。この場合に、昇降ピン10を上方に突出させて支持位置に位置させ、搬送アーム上のガラス基板Gを昇降ピン10の上に受け渡す。その後、昇降ピン10を下降させてガラス基板Gを載置台3の静電チャック6上に載置する。
【0037】
その後、ゲートバルブ32を閉じ、排気装置30によって、チャンバ2内を所定の真空度まで真空引きする。そして、直流電源34から給電線33を介して静電チャック6の電極42に電圧を印加することにより、ガラス基板Gを静電吸着する。そして、バルブ26を開放して、処理ガス供給源28から処理ガスを、マスフローコントローラ27によってその流量を調整しつつ、処理ガス供給管25、ガス導入口24を通って上部電極20の内部空間21へ導入し、さらにガス吐出孔22を通って基板Gに対して均一に吐出し、排気量を調節しつつチャンバ2内を所定圧力に制御する。アプリケーションによっては必ずしも均一な吐出にこだわらず、意図的に分布を持たせて吐出させてもよい。
【0038】
この状態で第1の高周波電源14から第1の整合器13を介してプラズマ生成用の高周波電力を下部電極5に供給し、下部電極5と上部電極20との間に高周波電界を生じさせて、処理ガスのプラズマを生成するとともに、第2の高周波電源17から第2の整合器16を介してイオン引き込み用の高周波電力を下部電極5に供給し、ガラス基板G上にセルフバイアスを発生させることによりイオンを引き込みつつこのプラズマによりガラス基板Gにプラズマエッチング処理を施す。
【0039】
プラズマエッチング処理が終了後、高周波電力の供給および処理ガスの供給を停止し、チャンバ2内をパージし、ゲートバルブ32を開けてガラス基板Gを搬出する。
【0040】
本実施形態では、上述したように、上部電極20本体の対向面Fに開口するガス吐出孔22の開口部22cに耐食性が高くプラズマ耐性の高いセラミックス溶射皮膜が形成されているので、その部分において絶縁膜厚が増加し、耐絶縁性および耐食性が増加する。このため、プラズマによるアルマイト皮膜の局所的な消耗を抑制して、パーティクルの発生を抑制することができ、また異常放電の発生を低減することもでき、ひいては、上部電極20の寿命を延ばすことができ、メンテナンスサイクル改善に貢献することができる。
【0041】
しかし、FPD用のガラス基板Gは一辺が最大3m程度もある大型のものであり、それにともなって上部電極20も大型であることから、セラミックス溶射皮膜を上部電極20本体の対向面の全面に形成した場合には、プラズマ処理の際に、上部電極20本体とセラミックス溶射皮膜との間の熱膨張率の相違による熱膨張差が大きく現れ、セラミックス溶射皮膜が割れたり剥がれたりしてパーティクルの原因となる。また、セラミックス溶射皮膜がイットリア(Y)の場合には、エッチングの際に多用されるフッ素系のガスを使用するとフッ化イットリウム(YF)に変化し、これが安定的に残るため、イットリア溶射皮膜を上部電極20の全面に形成すると、プロセス環境が大きく変化してしまう。さらに、上部電極20本体の対向面Fの全面にセラミックス溶射皮膜を形成する場合には、従来のアルマイト皮膜が全面に形成されていた場合とはプロセス条件が異なるものとならざるを得ない。
【0042】
これに対して、本実施形態では、上部電極20本体の対向面Fにおいて、少なくともガス吐出孔22の開口部22cには、セラミックス溶射皮膜23が形成されており、セラミックス溶射皮膜23の間の部分は上部電極20本体の対向面Fが露出している。具体的には、セラミックス溶射皮膜23は、1個のガス吐出孔22毎または複数のガス吐出孔22毎に複数の箇所に形成されており、上部電極20本体の対向面Fにおいて、隣接するセラミックス溶射皮膜23どうしは分離してそれらの間の部分は上部電極20本体の面が露出するようにしている。このため、上部電極20本体の対向面Fの全面にセラミックス溶射皮膜を形成した場合のような熱膨張差に起因するセラミックス溶射皮膜の割れや剥がれが生じ難い。また、セラミックス溶射皮膜23の覆う面積割合が小さいので、セラミックス溶射皮膜23としてイットリア(Y)を形成した場合でも、イットリア(Y)がフッ化イットリウム(YF)に変化する影響は小さく、プロセス環境の大きな変化は生じないし、また、セラミックス溶射皮膜23を設けない場合とのプロセス条件の変化も小さい。
【0043】
さらに、ガス吐出孔22の開口部22cは、その中心軸を含む断面において末広がり状の曲線を構成しており、セラミックス溶射皮膜23はこの末広がり状の曲線に沿ってアルマイト皮膜20bとの間に段差が形成されないように滑らかに形成されているので、セラミックス溶射皮膜23自体の損傷や剥がれが生じ難い。
【0044】
なお、F系ガスを用いた場合のセラミックス溶射皮膜の変化を完全に防止するためには、セラミックス溶射皮膜23としてフッ化イットリウム(YF)を用いることが好ましいが、フッ化イットリウム(YF)は高価であるため、コストとプロセス環境の変化の兼ね合いでいずれかを選択することが好ましい。
【0045】
上記効果をより有効なものとするためには、セラミックス溶射皮膜23の専有面積を小さくすることが好ましく、このような点からは図4に示すように、1個の孔毎にセラミックス溶射皮膜23を形成することが好ましい。しかし、この場合には溶射の際に使用するマスクとして高精度のものが要求され、マスクが極めて高価なものとなってしまう。したがって、コストの点からは、図5に示すようにセラミックス溶射皮膜23をライン状にすることが好ましい。
【0046】
次に、上部電極の他の例について説明する。
上記実施形態では、上部電極20は、箱状に形成されていたが、図7に示すように、図1における上部電極20の内部空間21よりも下の部分に対応する板状部分を上部電極50としてもよい。この場合には、図1における上部電極20の上部構造に対応する部分は、電極支持部材51となり、上部電極50は電極支持部材51に対し着脱可能とされ、上部電極50を電極支持部材51に取り付けた状態でその内部に内部空間52が形成される。電極支持部材51の中央にはガスを内部空間52へ導入するガス導入口54が設けられている。また、上部電極50には、上記ガス吐出孔22と同じ構造のガス吐出口53が形成されている。
【0047】
このような板状の上部電極50においても、上記実施形態と同様にガス吐出孔53の開口部にセラミックス溶射皮膜が設けられ、上記実施例1と同様の効果が得られる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、下部電極にプラズマ生成用とイオン引き込み用の2周波数の高周波電力を印加した例について説明したが、これに限らず下部電極に1周波数の高周波電力を印加してもよいし、上部電極に高周波電力を印加するPEタイプであってもよいし、上部電極と下部電極の両方に高周波電力を印加するものであってもよい。
【0049】
また、上記実施形態ではプラズマエッチング装置を例にとって説明したが、プラズマエッチング装置に限らず、アッシング、CVD成膜等を行なう他の種類のプラズマ処理装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1;プラズ処理装置
2;処理チャンバ
3;載置台
5;下部電極
6;静電チャック
7;シールドリング
14;第1の高周波電源
17;第2の高周波電源
20,50;上部電極(プラズマ生成用電極)
20a;基材
20b;アルマイト皮膜(陽極酸化皮膜)
22;ガス吐出孔
22c;開口部
23;セラミックス溶射皮膜
28;処理ガス供給源
G;ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラットパネルディスプレイ用の基板をプラズマ処理する容量結合型のプラズマ処理装置の処理容器内にフラットパネルディスプレイ用の基板に対向して配置されるプラズマ生成用電極であって、
前記処理容器内に配置されたフラットパネルディスプレイ用の基板との対向面を有し、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化処理がされて構成され、少なくとも前記対向面が陽極酸化皮膜である本体と、
プラズマを生成するための処理ガスを前記処理容器内に導入するために、前記本体の前記対向面に開口した複数のガス吐出孔と、
前記対向面において、少なくとも前記ガス吐出孔の開口部に形成されたセラミックス溶射皮膜と
を有し、
前記対向面において前記セラミックス溶射皮膜の間の部分は、前記本体の前記対向面が露出していることを特徴とするプラズマ生成用電極。
【請求項2】
前記セラミックス溶射皮膜は、アルミナ、イットリア、およびフッ化イットリウムのいずれかの材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項3】
前記ガス吐出孔の前記開口部は、前記ガス吐出孔の中心軸を含む断面において末広がり状の曲線を構成しており、前記セラミックス溶射皮膜は、前記末広がり状の曲線に沿って形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項4】
前記セラミックス溶射皮膜は、1個のガス吐出孔毎に複数の箇所に形成されており、隣接するセラミックス溶射皮膜どうしは分離し、前記隣接するセラミックス溶射皮膜の間の部分は前記本体の前記対向面が露出していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項5】
前記セラミックス溶射皮膜は、複数のガス吐出孔毎に複数形成されており、隣接するセラミックス溶射皮膜どうしは分離し、前記隣接するセラミックス溶射皮膜の間の部分は前記本体の前記対向面が露出していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項6】
前記セラミックス溶射皮膜は、直線状に配列された複数のガス吐出孔毎にライン状に複数形成されていることを特徴とする請求項5に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項7】
前記本体は、箱状部材であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項8】
前記本体は、板状部材であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ生成用電極。
【請求項9】
フラットパネルディスプレイ用の基板をプラズマ処理する容量結合型のプラズマ処理装置であって、
フラットパネルディスプレイ用の基板を収容する処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、フラットパネルディスプレイ用の基板を載置し、下部電極を有する載置台と、
前記請求項1から請求項8のいずれかのプラズマ生成用電極からなる上部電極と、
前記処理容器内に処理ガスを供給する処理ガス供給機構と、
前記上部電極と前記下部電極の少なくとも一方に高周波電力を供給して前記処理容器内に前記処理ガスのプラズマを形成するための高周波電力供給機構と
を有することを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−238656(P2012−238656A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105406(P2011−105406)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】