説明

プラズマ発生装置、成膜装置、液晶装置の製造方法、及び電子機器

【課題】イオンビーム照射開始直後から、安定した成膜を可能にした、プラズマ発生装置、成膜装置、該成膜装置に用いた液晶装置の製造方法、及ぶ該液晶装置を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】放電室6内に所定のガスを導入すると共に放電室6の外周に設置したコイル7に高周波を通電してガスを放電させてプラズマを形成するプラズマ発生装置5である。放電室6の外側に、放電室6の内部を加熱する加熱手段Hを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置、成膜装置、液晶装置の製造方法、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置(電子機器)の光変調手段として用いられる液晶ライトバルブ(液晶装置)は、一対の基板間の周縁部にシール材が配設され、その中央部に液晶層が封止されて構成されている。その一対の基板の内側には液晶層に電圧を印加する電極が形成され、その電極の内側には非選択電圧印加時において液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。そして、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光が変調され、画像光が作製される構成となっている。
【0003】
このように液晶装置をプロジェクタの光変調手段として採用する場合には、光源から照射される強い光や熱によって配向膜が次第に分解されるおそれがある。そこで、耐光性および耐熱性に優れた無機材料からなる配向膜の採用が検討されている。
この無機配向膜の製造するには、イオンビームスパッタ装置(成膜装置)が用いられる(例えば、特許文献1参照)。このイオンビームスパッタ装置は、基板に対して所定の入射角度で無機材料の粒子を連続入射させ、無機材料の柱状構造体を形成して無機配向膜を形成することができる。よって、液晶ライトバルブではこの柱状構造体に沿って液晶分子が配向するので、この無機配向膜により液晶分子に対する配向規制およびプレティルトの付与が可能となる。
【特許文献1】特開2005−84144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、イオンビームスパッタ装置はコイルに電流を流すことにより、放電室内にプラズマ放電を起こしてイオンビームを引き出しているが、プラズマ放電開始直後の放電室内部は、電位的に不安定であり、プラズマ放電を維持するために前記コイルに投入する電力値が上昇してしまう。すると、一時的に電源の出力が不足し、イオンビームが不安定になることによりプラズマ放電の初期段階に成膜される膜厚の信頼性が低下するといった問題があった。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、イオンビーム照射開始直後から、安定した成膜を可能にした、プラズマ発生装置、成膜装置、該成膜装置に用いた液晶装置の製造方法、及ぶ該液晶装置を備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラズマ発生装置は、放電室内に所定のガスを導入すると共に前記放電室内の外周に設置したコイルに高周波を通電してガスを放電させてプラズマを形成するプラズマ発生装置において、前記放電室の外側に、前記放電室の内部を加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明のプラズマ発生装置によれば、放電室の内部を加熱する加熱手段を備えているので、該加熱手段によって予め放電室内の温度を上昇させることができる。
よって、放電室内の温度を上昇させた状態でプラズマ放電を行うことが可能となるので、プラズマ放電の開始時に放電室内に生じる温度変化を小さくし、プラズマ放電を良好に行うことができる。
【0008】
また上記プラズマ発生装置においては、前記加熱手段は前記放電室の外周面を囲む同心状に形成されるのが好ましい。
この構成によれば、加熱手段により放電室内を均一に加熱することが可能となり、より安定したプラズマ放電を行うことが可能となる。
【0009】
本発明の成膜装置は、基材に対向して設けたターゲットに、イオンビームを照射するイオン源を有し、前記ターゲットから放出された粒子を前記基材上に成膜させる成膜装置において、前記イオン源は上記のプラズマ発生装置から構成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の成膜装置によれば、放電室の内部を加熱する加熱手段を備えているので、該加熱手段によって予め放電室内の温度を上昇させることができる。
よって、放電室内の温度を上昇させた状態でプラズマ放電を行うことが可能となるので、プラズマ放電を開始した際に放電室内に生じる温度変化を小さくでき、プラズマ放電を維持する際に必要な電力量を安定させることができる。したがって、プラズマ放電時に電源から安定した電力供給が行われるので、プラズマ放電開始時からイオンビームを安定した状態で照射することができ、ターゲットから放出された粒子を基材上に安定して成膜することができる。
【0011】
また本発明の成膜装置は、イオンビーム引き出し電極の加熱も可能なため、予め前記電極の加熱を行うことで、イオンビーム引き出し直後における、電極の熱膨張による変形に伴うイオンビーム形状の変化を回避でき、より安定した粒子をターゲットから放出させることができる。
【0012】
また、本発明の液晶装置の製造方法は、上記の成膜装置を用いて、液晶装置を構成する無機配向膜を形成する工程を備えることを特徴とする。
本発明の液晶装置の製造方法は、無機配向膜を形成するに際して、上述したようにプラズマ放電開始時から安定した成膜ができる成膜装置を用いているので、該無機配向膜は信頼性の高いものとなり、このような工程を備えたことにより信頼性の高い液晶装置を提供することができる。
【0013】
本発明の電子機器は、上記の液晶装置の製造方法により得た液晶装置を備えたことを特徴とする。
本発明の電子機器は、上述した信頼性の高い液晶装置を備えているので、電子機器自体も信頼性が高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(成膜装置)
図1は、本実施形態の成膜装置である、イオンビームスパッタ装置の概略構成を模式的に示す図であり、図中符号100は、イオンビームスパッタ装置である。図1に示すように、このイオンビームスパッタ装置100は、真空チャンバ1およびその内部圧力を制御する排気ポンプ2と、その真空チャンバ1内で基板(基材)Sを固定する基板ホルダー3と、該基板Sに向けてスパッタ粒子を放出するターゲット4と、そのターゲット4に向けてイオンビームを照射するイオン源5とを備えている。また前記イオン源5は、本発明の一実施形態に係るプラズマ発生装置によって構成されている。
【0016】
また、図2は、前記イオンビームスパッタ装置100を構成する前記イオン源5の構成を示す拡大図である。
図2は、イオン源5の構成を示す拡大図である。図2に示すように、石英の円筒状筐体からなる放電室6と、該放電室6の外周部に設けられたコイル7と、を有している。そして、放電室6には、ガス導入パイプ8を通じて例えばArなどの不活性ガスが導入されるようになっている。
【0017】
また、放電室6の外側には図2に示されるように放電室6の内部を加熱する加熱手段Hが設けられている。この加熱手段Hとしては、ホットプレート、電気炉等のほか、赤外線ランプ、キセノンランプを採用することができる。よって、イオン源5は、前記加熱手段Hにより放電室6内の温度を調節することが可能となっている。加熱手段Hは、円筒状筐体からなる放電室6の外周面を囲む同心状に形成されている。
【0018】
前記イオンビームスパッタ装置100を用いて基板(基材)Sにスパッタ粒子を成膜する場合には、前記コイル7に高周波を印加することで高周波電磁誘導を起こし、前記放電室6内にプラズマ放電を生じさせる。
【0019】
このとき、前記ガス導入パイプ8を通じてプラズマ放電が生じている放電室6内に送り込まれたArガスがイオン化して、Arイオンが生成される。生成されたArイオンは、加速電源(図示しない)によって、例えば1〜3KVの電位差で保持された平面視した状態で格子状の引出しグリッド12に吸引されることで加速された後、該引出しグリッド12より図1に示したターゲット4に向かって照射される。このように、例えば1KeV程度に加速したArイオンをターゲット4に当て、スパッタリング効果によりターゲット4を構成する原子をたたき出し、ターゲット4に対向して配置した基板S上に均質な膜を堆積させることができるようになっている。
【0020】
ところで、従来の構成におけるイオンビームスパッタ装置では、イオン源からイオンビームを引き出され始まると放電室内の温度が上昇する。放電開始直後はプラズマの状態が安定せず、安定したプラズマ放電維持のために投入電力値を制御しなくてはならなく、一時的に電源の出力不足が生じ、イオンビームが不安定になる問題があった。
したがって、プラズマ放電開始時、すなわち成膜初期段階においては、イオンビーム照射が不安定となり、このような不安定なイオンビームを照射されたターゲットはスパッタ粒子を安定して照射することができず、プラズマ放電開始時に安定した成膜を行うことができなかった。
【0021】
そこで、本発明のイオンビームスパッタ装置100は、プラズマ放電を開始するに際し、上述した加熱手段Hによって放電室6内部の温度を予め上昇させておくことにより、プラズマ放電を開始後に前記放電室6内に生じる温度差を抑えることを可能としている。よって、成膜初期時において、プラズマ放電開始時に放電を維持するために必要となる投入電力を軽減するとともにイオンビームを安定した状態で照射させることができる。
このように、安定したイオンビームを照射されたターゲット4は、スパッタ粒子を安定して照射することとなり、基板Sに均一な成膜を行うことができる。
よって、本実施形態によるイオンビームスパッタ装置100によれば、イオンビーム照射開始直後から安定した成膜を行うことが可能となっているので、基板S上に信頼性が高く、均一な成膜を行うことができる。
【0022】
次に、上記イオンビームスパッタ装置100を用いて液晶装置50の無機配向膜を製造する工程を説明するに先立ち、前記イオンビームスパッタ装置100によって形成した無機配向膜を備える液晶装置50の概略構成について説明する。
【0023】
図3は、液晶装置の全体構成を示す平面図である。図4は、図2のH−H’線に沿う断面図である。図5は、液晶装置の等価回路図である。
図3および図4に示すように、本実施形態の液晶装置50は、素子基板52と対向基板53とがシール材54によって貼り合わされ、このシール材54によって区画された領域内に液晶層51が封入されている。液晶層51は、正の誘電率異方性を有する液晶材料から構成されている。シール材54の形成領域の内側の領域には、遮光性材料からなる遮光膜(周辺見切り)66が形成されている。
【0024】
素子基板52の内面側(対向面側)には、透光性導電膜からなる画素電極65と無機配向膜40とが順次配設されている。一方、対向基板53の内面側(対向面側)には、透光性導電膜からなる共通電極21と無機配向膜60とが順次配設されている。
【0025】
前記素子基板52と前記対向基板53とは、それぞれ無機配向膜40,60が設けられた側の面を上記シール材54によって貼り合わされており、このシール材54には、例えば素子基板52と対向基板63とを貼り合わせた後に液晶を注入するための、液晶注入口55が形成されていて、該液晶注入口55は液晶注入後に封止材56により封止されたものとなっている。
【0026】
シール材54の外側の周辺回路領域には、データ線駆動回路57および外部回路実装端子58が素子基板52の一辺に沿って形成されており、この一辺に隣接する2辺に沿って走査線駆動回路59が形成されている。素子基板52の残る一辺には、表示領域の両側に設けられた走査線駆動回路59の間を接続するための複数の配線62が設けられている。また、対向基板53の角部においては、素子基板52と対向基板53との間で電気的導通をとるための基板間導通材61が配設されている。
【0027】
無機配向膜40,60は、有機材料に比べて、優れた化学的安定性を有しているため、有機材料で構成された有機配向膜に比べ、特に優れた耐光性を有したものとなっている。
無機配向膜40,60を構成する無機材料としては、例えば、SiOやSiO等のシリコンの酸化物、MgO、ITO等の金属酸化物等を用いることができる。中でも、特に、シリコンの酸化物を用いるのが好ましく、本実施形態における無機配向膜はSiOから構成されている。
【0028】
このような無機配向膜40,60は、その平均厚さが0.02〜0.3μmであるのが好ましく、0.02〜0.08μmであるのがより好ましい。平均厚さが前記下限値未満であると、各部位におけるプレチルト角を十分に均一にするのが困難となる場合がある。一方、平均厚さが前記上限値を超えると、駆動電圧が高くなり、消費電力が大きくなる可能性がある。
【0029】
無機配向膜40,60は、後述するように上記イオンビームスパッタ装置100を用いて形成されたものであり、プラズマ放電時に電源から安定した電力供給が行われて安定したイオンビームを照射することにより均一な膜厚で成膜されており、液晶分子を安定して配向する信頼性の高いものとなっている。
【0030】
具体的には、図6に示すように、柱状の結晶が、基板本体52A、53Aの無機配向膜が形成されている面の面方向に対して、所定(一定)の方向に所定の角度θだけ傾斜した状態で配列した構成となっている。特に本発明では、無機配向膜40,60を構成する柱状結晶の頂部付近の形状が、液晶分子を安定して配向させることが可能な形状となっている。
【0031】
基材本体52A、53Aに対する柱状の結晶の傾きθは、30〜60°であるのが好ましく、40〜50°であるのがより好ましい。これにより、より適度なプレチルト角を発現させることができ、液晶分子の配向状態をより好適に規制することができる。また、このような柱状の結晶の幅は、10〜40nmであるのが好ましく、10〜20nmであるのがより好ましい。これにより、より適度なプレチルト角を発現させることができ、液晶分子の配向状態をより好適に規制することができる。なお、無機配向膜としては、図6に示した構成に限定されることはなく、液晶分子が安定して配向するような形状であれば、いずれの形状であってもよい。
【0032】
ところで、前記液晶層51を構成する液晶分子としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶など配向し得るものであればいかなる液晶分子を用いても構わないが、TN型液晶装置の場合、ネマチック液晶を形成させるものが好ましく、例えば、フェニルシクロヘキサン誘導体液晶、ビフェニル誘導体液晶、ビフェニルシクロヘキサン誘導体液晶、テルフェニル誘導体液晶、フェニルエーテル誘導体液晶、フェニルエステル誘導体液晶、ビシクロヘキサン誘導体液晶、アゾメチン誘導体液晶、アゾキシ誘導体液晶、ピリミジン誘導体液晶、ジオキサン誘導体液晶、キュバン誘導体液晶等が挙げられる。さらに、これらネマチック液晶分子にモノフルオロ基、ジフルオロ基、トリフルオロ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基などのフッ素系置換基を導入した液晶分子も含まれる。
【0033】
図5は、本実施形態の液晶装置の等価回路図である。液晶装置50の画像表示領域A(図3参照)を構成すべくマトリクス状に配置された複数の画素には、画素電極65がそれぞれ形成されている。また、画素電極65の側方には、当該画素電極65への通電制御を行うための画素スイッチング素子であるTFT素子64が形成されている。このTFT素子64のソースには、データ線56aが電気的に接続されている。各データ線56aには画像信号S1、S2、…、Snがそれぞれ供給される。なお画像信号S1、S2、…、Snは、各データ線56aに対してこの順に線順次で供給してもよく、相隣接する複数のデータ線56aに対してグループ毎に供給してもよい。
【0034】
また、TFT素子64のゲートには、走査線53aが電気的に接続されている。走査線53aには、所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。なお、走査信号G1、G2、…、Gmは、各走査線53aに対してこの順に線順次で印加される。
また、TFT素子64のドレインには、画素電極65が電気的に接続されている。そして、走査線53aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子64を一定期間だけオン状態にすると、データ線56aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれる。
【0035】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極65と後述する共通電極21との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極65と容量配線67との間に蓄積容量68が形成され、液晶容量と並列に配置されている。このように、液晶に電圧信号が印加されると、印加された電圧レベルにより液晶分子の配向状態が変化する。
【0036】
(液晶装置の製造方法)
次に、上記液晶装置50を製造する工程について説明する。上記液晶装置50は、上記無機配向膜40、60を上記イオンビームスパッタ装置100を用いて形成する点に特徴を有しており、それ以外の製造工程についは従来公知の方法と同様である。したがって、以下の説明では無機配向膜40,60を形成する工程についてのみ説明することとする。なお、以下の説明では、素子基板52に設けられた画素電極65上に無機配向膜40を形成する場合について説明するが、対向基板53の無機配向膜60も同様の構成からなるものであり、同一工程により製造することが可能である。
【0037】
無機配向膜40を形成するには、まず、真空チャンバ1内の基板ホルダー3に、図1に示した成膜される基板S(画素電極65が形成された基板本体52A)を固定し、排気ポンプ2により真空チャンバ1の内部を減圧する。次に、ガス導入パイプ8からイオン源5内にガスを供給するとともに、放電室6の外周に設置したコイル7に高周波を通電してガスを放電させてプラズマを形成する。ここで、前記ガス導入パイプ8よりイオン源5内に供給されるガスは、希ガスであれば特に限定されないが、中でも特にアルゴンガスであるのが好ましい。これにより、無機配向膜40の形成速度(スパッタレート)を向上させることができる。
続いて、引き出しグリッド12にイオン加速電圧を印加して、プラズマにより発生したArイオンを加速する。これにより、イオン源5からイオンビームが照射される。
【0038】
このように、前記イオン源5から出射されたイオンビームをターゲット4に照射することで、該ターゲット4から無機配向膜40の形成材料となるスパッタ粒子を基板本体52Aに向けて放出させる。
なお、ターゲット4を構成する材料は、無機配向膜を形成する材料によって適宜選択されるが、上述したように無機配向膜40はSiOから構成されているため、ターゲット4としてSiOを用いた。
【0039】
ターゲット4と基板本体52Aとの角度を調整して、前記素子基板52に対してスパッタ粒子(SiO)を所定の入射角度で入射させることにより、図6に示した柱状構造体を所定の角度θだけ傾斜した状態に形成できる。
【0040】
なお、基板ホルダー3は、ターゲット4より発生したスパッタ粒子が、基板本体52Aの無機配向膜40を形成する面の垂直方向に対して所定の角度(照射角)だけ傾斜した方向から照射されるように、あらかじめ移動または回動させておくものであるが、スパッタ粒子を照射しつつ、照射角が所定角度となるように移動または回動させてもよい。
【0041】
基板本体52Aに対して略一定の入射角度でスパッタ粒子を連続入射すると、スパッタ粒子が斜め柱状に堆積して、無機材料の柱状構造体(図5参照)が形成される。この柱状構造体が基板本体52Aの表面に無数に形成されることにより、無機配向膜40が構成されることとなる。
このような無機配向膜40を有した液晶装置50は、柱状構造体に沿って液晶分子が所定の角度θだけ傾斜した状態に配向するので、この無機配向膜40により非選択電圧印加時の液晶分子を所定方向に配向規制することができる。
【0042】
ここで、基板本体52Aの無機配向膜40を形成する面の垂直方向に対する角度を照射角とした場合、スパッタ粒子の照射角度は45°以上であるのが好ましく、50〜87°であるのがより好ましく、70〜87°であるのがさらに好ましい。これにより、無機配向膜40を構成する柱状結晶の頂部付近の形状を、液晶分子がより安定して配向することが可能な形状とすることができ、その結果、得られる無機配向膜40は液晶分子の配向状態を規制する機能がより優れたものとなる。
【0043】
上記の理由として、照射角度が小さすぎると、十分なプレチルト角が得られず、液晶分子の配向状態を規制する機能が十分に得られなくなってしまう可能性があり、照射角度が大きすぎると、照射されたスパッタ粒子を基板本体52A上に付着させるのが困難となり、その結果、前記基板本体52Aと無機配向膜40との密着性が低下するといった問題が生じる可能性があるからである。
【0044】
真空チャンバ1内の圧力、すなわち、無機配向膜40を形成する際の雰囲気の圧力は、5.0×10−2Pa以下であるのが好ましく、1.0×10−2Pa以下であるのがより好ましい。これにより、液晶分子がより安定して配向可能な無機配向膜40を形成することができる。これに対し、真空チャンバ1内の圧力が高すぎると、照射されたスパッタ粒子の直進性が低下してしまう場合があり、その結果、柱状の結晶が十分に形成されない可能性がある。また、結晶の配向が十分に揃わない可能性がある。
【0045】
無機配向膜40を形成する際の基板本体52Aの温度は、比較的低いのが好ましい。具体的には、前記基板本体52Aの温度は、150℃以下とするのが好ましく、80℃以下とするのがより好ましく、20〜50℃とするのがさらに好ましい。これにより、基板本体52Aに付着したスパッタ粒子が最初に付着した位置から移動する現象、すなわちマイグレーションという現象を抑制し、液晶分子がより安定して配向可能な無機配向膜40を形成することができる。なお、無機配向膜40を形成する際の素子基板52の温度が、上記範囲のものとなるように、必要に応じて冷却してもよい。
【0046】
無機配向膜40の形成速度(成膜速度)は、特に限定されないが、1〜15nm/分であるのが好ましく、6〜10nm/分であるのがより好ましい。これにより、得られる無機配向膜の配向性を損なうことなく、より効率よく無機配向膜を形成することができる。
以上、イオン源5からArイオンを放出させる場合について説明したが、イオン源5から放出するイオン種はターゲットをスパッタできるものであれば、例えばKr、Xe等の他の種類の希ガスのイオン、窒素、酸素などの分子イオン、中性粒子、クラスターイオン等を用いてもよい。また、イオンビームの形状は特に限定されず、円形、シート状、楕円、多角形等のいずれの形であっても構わない。
【0047】
以上、本実施形態に係る液晶装置50の製造方法によれば、上記イオンビームスパッタ装置100により安定したイオンビームが照射されることで、スパッタ粒子を安定して照射することで基板S上に均一な成膜を行うことができる。よって、高品質な液晶装置50を提供することができる。
【0048】
(電子機器)
次に、本発明の電子機器の一例としてプロジェクタについて説明する。
図7は、プロジェクタを概略的に示す図である。
このプロジェクタPJは、上述した液晶装置を光変調手段(液晶ライトバルブ)として用いており、R(赤)、G(緑)、B(青)の異なる色毎に透過型液晶ライトバルブを備えた3板式の間欠表示型カラー液晶プロジェクタである。
【0049】
図7に示すように、プロジェクタPJは、光源810と、ダイクロイックミラー813,814と、反射ミラー815,816,817と、入射レンズ818と、リレーレンズ819と、射出レンズ820と、液晶ライトバルブ822,823,824と、クロスダイクロイックプリズム825と、投射レンズ826とを備えて構成されている。また、前記光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とから構成されるものである。
【0050】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用液晶ライトバルブ822に入射する。また、ダイクロイックミラー813で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用液晶ライトバルブ822に入射する。さらに、ダイクロイックミラー813で反射された青色光は、ダイクロイックミラー814を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ818、リレーレンズ819および射出レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられている。この導光手段821を介して、青色光が青色光用液晶ライトバルブ824に入射する。
【0051】
各液晶ライトバルブ822,823,824により変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投影され、画像が拡大されて表示される。
【0052】
上述したプロジェクタPJは、上述したイオンビームスパッタ装置100によって形成された均一な膜厚から構成される無機配向膜40,60を有する液晶装置50を光変調手段として備えているので、液晶装置50における液晶分子の配向制御機能が高まって、信頼性に優れたものとなっている。
【0053】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、実施形態ではスイッチング素子としてTFTを備えた液晶装置を例にして説明したが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode)等の二端子型素子を備えた液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、実施形態では透過型液晶装置を例にして説明したが、反射型液晶装置に本発明を適用することも可能である。
【0054】
また、本実施形態においては、TNモードの液晶装置についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、垂直配向モード、STN(Super TwistedNematic)モードなど、電圧無印加時の液晶分子の配向状態がいかなる液晶装置にも適用することができる。本発明を、垂直配向モードの液晶装置に適用する場合には、液晶層を、液晶分子の長短軸方向が短長軸方向に比較して分極しやすい、正負の誘電率異方性を有する液晶により構成すれば良い。この場合には、電圧無印加時に、液晶層内の液晶分子が無機配向膜によって制御され、所定の方向に配列するのに対し、電圧印加時には、液晶層内の液晶分子が、その長軸方向を一対の基板間に発生する縦電界の方向に対して略垂直平行方向に向けて配列するため、電圧無印加時、電圧印加時における液晶分子の配列を光学的に識別し、表示を行うことができる。
【0055】
また、本発明の液晶装置を、プロジェクタ以外の電子機器に適用することも可能である。その具体例として、携帯電話を挙げることができる。この携帯電話は、上述した各実施形態またはその変形例に係る液晶装置を表示部に備えたものである。また、その他の電子機器としては、例えばICカード、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、さらに表示機能付きファックス装置、デジタルカメラのファインダ、携帯型TV、DSP装置、PDA、電子手帳、電光掲示盤、宣伝公告用ディスプレイ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】イオンビームスパッタ装置の概略構成を模式的に示す図である。
【図2】イオン源の構成を示す拡大図である。
【図3】液晶装置の全体構成を示す平面図である。
【図4】図2のH−H’線に沿う断面図である。
【図5】液晶装置の等価回路図である。
【図6】無機配向膜の具体的形状を説明するための図である。
【図7】プロジェクタを概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0057】
PJ…プロジェクタ(電子機器)、H…加熱手段、S…基板、4…ターゲット、5…イオン源(プラズマ発生装置)、6…放電室、7…コイル、50…液晶装置、100…イオンビームスパッタ装置(成膜装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電室内に所定のガスを導入すると共に前記放電室の外周に設置したコイルに高周波を通電してガスを放電させてプラズマを形成するプラズマ発生装置において、
前記放電室の外側に、該放電室の内部を加熱する加熱手段を備えたことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記加熱手段は前記放電室の外周面を囲む同心状に形成されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
基材に対向して設けたターゲットに、イオンビームを照射するイオン源を有し、前記ターゲットから放出された粒子を前記基材上に成膜させる成膜装置において、
前記イオン源は請求項1又は2に記載のプラズマ発生装置から構成されることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜装置を用いて、液晶装置を構成する無機配向膜を形成する工程を備えることを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の液晶装置の製造方法により得た液晶装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−311006(P2008−311006A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155979(P2007−155979)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】