説明

プリフォーム用基材とその製造方法及び熱硬化性バインダー樹脂粉末

【課題】賦形性と形態安定性に優れ、且つ、再接着可能なプリフォーム用の強化繊維基材を提供すること。
【解決手段】シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃、平均粒子径が20〜500μmの範囲にあるの熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材。バインダー樹脂の粉末は、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃で、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sのビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体としたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維からなる形状賦形性と形態安定性に優れ、且つ、再接着可能なプリフォーム用基材とそれに用いる熱硬化性バインダー樹脂、及びプリフォーム用基材の製造方法、並びにプリフォーム用積層基材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維強化材(強化繊維基材)とからなるものであり、軽量で且つ強度特性に優れるため、近年、航空宇宙産業から一般産業分野に至るまで、幅広い分野において利用されている。
【0003】
FRPの成形方法としては色々な方法が知られているが、典型的には、例えば、強化繊維基材に予めマトリックス樹脂を含浸させた成形中間基材であるプリプレグを用いて、オートクレーブ等で成形する方法、シート状の強化繊維基材を予め成形品形状に賦形したプリフォームを成形型に配置し型締めし、型内にマトリックス樹脂を注入・含浸せしめて成形する方法がある。シート状の強化繊維基材を使用したFRP成形品は、樹脂トランスファー成形法(RTM成形法)によって成形される場合が多い。RTM成形法は、熱硬化性樹脂を用いた成形法の一種であり、シート状の強化繊維基材を型に敷設した後、型のキャビティーに樹脂を注入して基材に樹脂を含浸させ、硬化させることによりFRP成形品を得る。
【0004】
織物、多軸織物等のシート状の強化繊維基材は、そのままFRP成形品の強化繊維基材として用いるには厚さが不十分の場合は、複数枚を重ねて型に敷設し使用される。通常は、作業性の観点から、シート状の強化繊維基材をある程度の厚さとなるまで複数枚積層して一体化した積層基材(積層体)が用いられる。積層体の製造は、シート状の強化繊維基材同士をバインダーを用いて貼り合わせるか、あるいは、シート状の強化繊維基材間に、熱可塑性樹脂からなる熱溶着糸を用いて製造した不織布等を挟み込んで加熱することにより行われている。
【0005】
FRP成形品を高サイクルで成形する場合、あらかじめ賦形型で賦形した積層体(プリフォーム)を成形型に移動し、RTM成形法等で成形される。従って、このような場合には、強化繊維基材の形状賦形性や樹脂の含浸性が良好なだけでなく、積層体が移動に耐えられるだけの形態安定性が必要である。形態の安定性を向上させるため、一般的には、強化繊維基材同士をバインダーで強固に接着固定する方法が取られている。バインダーとしては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を使用する方法がある。熱硬化性樹脂を使用する場合、繊維強化材の層間にバインダーを塗布し、その一部を繊維強化材に含浸させ、加熱により樹脂を硬化させる方法が知られている。また、熱可塑性樹脂を使用する場合、熱溶着糸からなる不織布等を使用し、加熱により熱溶着糸を溶融させ繊維強化材層間を接着させる方法、熱可塑性ポリマー糸を使用し、織物製織時に繊維強化材と熱可塑性ポリマー糸を引き揃えて製織し、この織物を積層したプリフォームを使用する方法等が提案されている(例えば、以下の特許文献参照)。
【特許文献1】特開2002−227067号公報
【特許文献2】特開2003−80607号公報
【特許文献3】特許第1736023号公報
【特許文献4】特開2001−64406号公報
【特許文献5】特開2005−219228号公報
【特許文献6】特開2006−326892号公報
【0006】
しかしながら、バインダーを塗布し硬化させる方法は、シート状の強化繊維基材の層間に存在する樹脂が硬化しているため、RTM成形法に使用する樹脂の種類によっては、強化繊維基材への樹脂含浸が不十分になったり、樹脂の硬化阻害作用があったりして、得られたFRP成形品の層間物性が低下するという問題がある。また、熱溶着糸からなる不織布等を挟んで加熱する方法では、接着面積が大きいため、室温のコンポジット物性は問題ないが、熱間特性が低下するという問題点があった。また、熱可塑性ポリマー糸を使用した織物では、接着面積の低減が可能であり、得られたFRP成形品のコンポジット物性は問題ないが、形状の安定性が悪く、賦形した積層基材(プリフォーム)を移動できないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、シート状の強化繊維基材を積層して、RTM成形法等によりFRP成形品の製造を行う場合に、プリフォームに容易に賦形できるプリフォーム用基材、そしてまた、FRP成形品の層間物性が低下せず、予備成形時の形状を安定的に保持できる、形態安定性に優れたプリフォーム用積層基材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記プリフォーム用基材又はプリフォーム用積層基材を用いたFRP成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載された発明は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃、平均粒子径が20〜500μmの範囲にあるの熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、熱硬化性バインダー樹脂が、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sであり、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃であることを特徴とする請求項1記載のプリフォーム用基材である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、熱硬化性バインダー樹脂が、ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載のプリフォーム用基材である。
【0011】
請求項4に記載された発明は、シート状の強化繊維基材が、実質的に一方向に配向した強化繊維からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリフォーム用基材である。
【0012】
請求項5に記載された発明は、シート状の強化繊維基材が、多軸織物又はノンクリンプ織物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリフォーム用基材である。
【0013】
請求項6に記載された発明は、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃で、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃で、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sで、粉末の平均粒子径が20〜500μmの範囲にあるビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体とした熱硬化性バインダー樹脂粉末である。
【0014】
請求項7に記載された発明は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末を、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付与し、次いで、該樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度範囲で2〜30分間加熱して、前記樹脂の粉末を前記強化繊維基材の片面又は両面に付着せしめることを特徴とするプリフォーム用基材の製造方法である。
【0015】
請求項8に記載された発明は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材を複数枚積層し、層間を接合した積層基材であって、層間の25℃での剥離強度が70〜500N/mの範囲であり、且つ、層間剥離後の再接着において、25℃での剥離強度が少なくとも10N/mを有していることを特徴とするプリフォーム用積層基材である。なお、本発明においてプリフォーム用積層基材というときには、特に区別して用いない限り、それを賦形したプリフォームも含むものである。
【0016】
請求項9に記載された発明は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材を複数枚積層し、次いで、前記樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度で2〜30分間加熱して、積層された強化繊維基材間を接合することを特徴とするプリフォーム用積層基材(又はプリフォーム)の製造方法である。
【0017】
請求項10に記載された発明は、請求項8記載のプリフォーム用積層基材を、成形型内に配置し、マトリックス樹脂を含浸させた後、加熱硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法である。
【0018】
請求項11に記載された発明は、マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項10記載の繊維強化複合材料の製造方法である。
【0019】
請求項12に記載された発明は、請求項8記載のプリフォーム用積層基材を、成形型内に配置し、マトリックス樹脂を含浸させた後、加熱硬化させることによって得られた繊維強化複合材料である。
【0020】
そして、請求項13に記載された発明は、マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものである請求項12記載の繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプリフォーム用基材とその積層基材は、形状賦形性と形態安定性に優れている。
また、この積層基材は、剥離後の再接着が可能であるため、プリフォーム作製の際、張り直し等の修正作業が容易である。そして、本発明のプリフォーム用基材又はその積層基材を用いて、RTM成形法等によって得られたFRP成形品は、マトリックス樹脂との相溶性に優れているので、優れた耐衝撃特性、靭性等の機械的特性を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のプリフォーム用基材は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲で付着されているものである。熱硬化性バインダー樹脂としては、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sであり、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃であるものが好ましい。また、熱硬化性バインダー樹脂の粉末の平均粒子径が、20〜500μmの範囲にあるものが好ましい。熱硬化性バインダー樹脂量が0.1重量%未満の場合は安定なプリフォームが得られないし、20重量%を超えるとマトリックス樹脂の含浸性に悪影響を与えるので不適当である。なお、本発明において粉末の平均粒子径とは、粉末粒子の最長径と最短径の平均値として表される。
【0023】
熱硬化性バインダー樹脂としては、ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体とするものが好ましい。ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂が約90重量%以上含まれていれば、約10重量%以下のその他の樹脂成分あるいは着色剤、粘度調節剤等を含んでいても良い。
ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂としては、両末端に二重結合を有しているものが好ましい。本発明において特に好ましく用いられる熱硬化性バインダー樹脂は、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃で、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃で、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sで、粉末の平均粒子径が20〜500μmの範囲にあるビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体とした熱硬化性バインダー樹脂粉末である。
【0024】
本発明においてシート状の強化繊維基材とは、強化繊維を経糸及び/又は緯糸として使用した平織物、綾織物、朱子織物や、平行に引き揃えた強化繊維束の集合からなる一軸織物や多軸織物、ノンクリンプ織物等の基材である。強化繊維としては、特に制限はなく、一般にFRPにおける強化繊維として使用されるものであって良い。具体的には、無機繊維、有機繊維、金属繊維、金属被覆繊維またはそれらの混合から成り、無機繊維としては炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイト繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が用いられてよい。有機繊維の場合にはアラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維が挙げられる。本発明においては、比強度および比弾性率が高い炭素繊維あるいは黒鉛繊維が好ましい。
【0025】
本発明の前記プリフォーム用基材は、シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末を、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付与し、次いで、該樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度範囲で2〜30分間加熱して、前記樹脂の粉末を前記強化繊維基材の片面又は両面に付着せしめる方法で製造することができる。熱硬化性バインダー樹脂としては、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sであり、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃であり、粉末の平均粒子径が20〜500μmのものが好ましい。かかる樹脂粉末は、公知の適当な方法・手段で、強化繊維基材の片面又は両面に付与され、その後、必要なら加圧しながら所定時間、所定温度に加熱して、樹脂粉末を部分的に溶融させることによって、強化繊維基材の主として表面に付着(接着)させる。
【0026】
本発明のプリフォーム用積層基材(又はプリフォーム)は、上記方法で得られたプリフォーム用基材を複数枚積層し、次いで、前記樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度で2〜30分間加熱して、積層された強化繊維基材間を接合することによって得られる。加熱は必要なら適当に加圧しながら行っても良い。かくして得られたプリフォーム用積層基材は、層間が接合されたものであって、層間の25℃での剥離強度が70〜500N/mの範囲であり、且つ、層間剥離後の再接着において、25℃での剥離強度が少なくとも10N/mを有するものである。層間剥離後の再接着とは、例えば、プリフォームの積層工程で修正の必要が生じて、層間を一度剥離し再度接着させるような場合を意味し、この値が10N/m以上あれば、修正に特に問題が生じない。剥離強度が10N/m未満であるとシートが剥離し易く作業性が悪いこと、運搬中に繊維配向のずれが生じることから不適当である。また、シート間の剥離強度が500N/mを超えると、プリフォーム用積層基材を賦形したときに、各強化繊維が配列したシートが内外層の周長差を緩和するように滑らないため、内層の曲面部に皺が発生することになり、所望の力学的特性を有する成形品を得ることが出来ないため不適当である。
【0027】
なお、本発明でいう剥離強度とは、強化繊維基材層間を剥がすのに要する強さを言い、具体的には、次の手順で測定する。プリフォーム用基材から150×55mmの試験片を切り出し、長手方向の試験治具つかみ部(50mm)を残して該プリフォーム基材同士を2枚接着する。接着した試験片の片面を、十分に剛性を有する鉄鋼板などに固定し、もう一方のプリフォーム用基材の試験治具つかみ部を引張試験機に取り付け、該プリフォーム基材間を剥がす力を測定する。但し、このとき引張治具と剥離位置が垂直になるよう重心位置を配置させ、該試験片にねじりモーメントが加わらないよう配慮して、測定を実施する。これを計5回計測繰り返し、その平均値から剥離強度を算出する。
【0028】
本発明のプリフォーム基材又は積層基材は、FRP成形品の繊維強化材として使用する場合には、そのまま用いることもできるが、取扱い性や作業性の観点から、プリフォーム基材又は積層基材を、賦形型を使用して、予備成形したプリフォームを用いるのが好ましい。
具体的には、プリフォーム用基材又は積層基材を賦形型で所望の形態に賦形してプリフォームを作製し、かかるプリフォームを成形型内に配置し、RTM成形法等で硬化剤等を含むマトリックス樹脂(組成物)を含浸させた後、加熱硬化させてFRP成形品等の繊維強化複合材料を製造する。
【0029】
マトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂から選ばれる樹脂がある。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。
【0030】
熱硬化性バインダー樹脂として、ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を用いた場合には、マトリックス樹脂として、ビニルエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いると、バインダー樹脂とマトリックス樹脂の相溶性が良く、特にFRP物性に優れた成形品が得られる。
【0031】
本発明においてプリフォームは、プリフォーム基材又は積層基材を60〜150℃の賦形温度で、加熱賦形し、次いで冷却することによって得られる。賦形型に敷設したプリフォーム基材又は積層基材は、プレス等による加圧後又は加圧下に冷却しても良い。かくして得られた本発明のプリフォームを用いて、RTM成形法等で優れた物性を有するFRP成形品(繊維強化複合材料)が得られる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。実施例と比較例で使用したシート状の強化繊維基材とマトリックス樹脂は下記のとおりである。
【0033】
(シート状の強化繊維基材)
サイズ剤が付着した炭素繊維束HTA−3K・E30(東邦テナックス社製、3,000フィラメント、1,800デニール、引張強度3,920MPa、引張弾性率235GPa)を経糸と緯糸に用いて得られた織物(平織物、炭素繊維目付200g/m)を用いた。
【0034】
(マトリックス樹脂(組成物))
以下の処方により主剤と硬化剤を調製し、使用直前にこれらを混合した液状熱硬化性樹脂組成物を用いた。
【0035】
主剤:温度計、攪拌機、及び還流冷却器を備えたフラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製エピコート828、エポキシ当量186)186g(1.0当量)、メタクリル酸43.0g(0.5当量)、ヒドロキノン0.11g(1.0×10−3当量)、エポキシ樹脂とメタクリル酸の合計100質量部に対して0.2質量部に相当するナフテン酸クロム(クロム含有量3%)0.48gを仕込んだ。空気を吹き込みながら、100℃に加熱し、約10時間反応させ、酸価0、ポリスチレン換算重量平均分子量630の反応物(エポキシ基含有ビニルエステル樹脂)を得た。反応物にスチレンモノマーを全体の20質量%となるように添加し、粘度4.6dPa・s(25℃)の樹脂(主剤)を得た。
【0036】
硬化剤:有機化酸化物硬化剤としてペルオキシケタール系過酸化物(日本油脂社製パーヘキサ3M)1.5重量部と、エポキシ樹脂硬化剤としてイミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤(四国化成工業社製キュアゾール2E4MZ)1.0重量部を併用した。
【0037】
なお、実施例と比較例における各種物性値は、以下の方法で測定した。
【0038】
<プリフォーム用基材の剥離強度>
プリフォーム用基材の剥離強度は、JIS・K・6854−1の90°はく離接着強さ試験の方法を模擬して測定した。具体的には、次の手順で測定する。プリフォーム用基材から150×55mmの試験片を切り出し、長手方向の試験治具つかみ部(50mm)を残して該プリフォーム基材同士を2枚接着する。接着した試験片の片面を、十分に剛性を有する鉄鋼板などに固定し、もう一方のプリフォーム用基材の試験治具つかみ部を引張試験機に取り付け、該プリフォーム基材間を剥がす力を測定する。但し、このとき引張治具と剥離位置が垂直になるよう重心位置を配置させ、該試験片にねじりモーメントが加わらないよう配慮して、測定を実施する。これを計5回計測繰り返し、その平均値から剥離強度を算出する。
【0039】
<プリフォーム用基材の形態安定性>
プリフォーム用基材の形態安定性は、次のような方法にて評価を行った。500mm×500mmにカットしたプリフォーム用基材を、長手方向に垂直断面の形状がハット形状をした金型(図1と図2参照)の表面に基材を敷設して賦形し、その上をStretchlon・200(AIRTECH社製)で覆い、シーラントテープを用いて、プリフォーム基材を金型との間に密閉し、内部を真空にした。これを融点+50℃以下の範囲に温めた乾燥機の中で2〜30分程度加熱し、プリフォームを製造する。使用した金型の斜視図を図1に、正面断面図を図2に示した。図2は、金型にプリフォーム基材を敷設した状態を示している。なお、図2における金型の凸部の高さは100mmで、凸部上平面の幅は100mmで、凸部底辺の幅は150mmである。また、金型は、長手方向が700mmである。織物を25℃まで冷却した後、金型から取り出したプリフォームを、上に凸の状態にして平らなテーブルの上に置き、5分後にプリフォームの山部の高さを測定することによって、形状安定性の指標とした。
【0040】
<繊維強化複合材料の曲げ強度>
繊維強化複合材料の曲げ強度は、JIS・K・7074の3点曲げ試験に準拠して、室温及び80℃雰囲気下で曲げ強度を測定した。板厚約2.0mmの複合材料(成形品)を長さ100×幅15mmに切り出し、支点間距離LをL=32h(mm)(h:試験片の厚さの平均値)とし、室温にて試験片の曲げ強度及び弾性率を測定した。
【0041】
[実施例1]
(熱硬化性バインダー樹脂)
分子中に少なくとも2個の不飽和基を有するビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を粉砕し、篩いにて分級し、粉末状プリフォーム用バインダー樹脂を得た。得られた粉末粒子は、融点(Tm)が約80℃で、平均粒子径は50μmであった。
【0042】
(プリフォーム用基材)
得られた粉末状バインダー樹脂を、前記シート状の強化繊維基材(炭素繊維織物)の片面に2重量%の塗布量で塗布した後、表面温度が110℃になるように遠赤ヒーターを用いて約10分程度加熱し、バインダー樹脂粉末が付着した本発明のプリフォーム用基材を得た。この基材の樹脂粉末の付着面を指で擦っても、粉末粒子の脱落は起こらなかった。
【0043】
(プリフォーム用積層基材)
上記で得られたプリフォーム用基材を10枚積層し、これをバギングして、100℃に加熱したプレスにて0.1MPaで5分かけて基材同士を固着させ、プリフォーム用積層基材を得た。
【0044】
(プリフォーム物性の評価)
前記方法にて、プリフォーム積層基材(プリフォーム)の剥離強度及び形態安定性の評価を行ったところ、剥離強度は100N/m、再接着後の剥離強度は50N/mであり、取扱性の良い範囲内であることが確認できた。また、形態安定性においても、山部の高さはほぼ同じで、形状安定性に優れていることが確認できた。
【0045】
(繊維強化プラスチック成形品の製造)
上記の方法で得られたプリフォームの上に、ピールクロスのRelease・Ply・C(AIRTECH社製)と樹脂拡散基材のResin・Flow・60(AIRTECH社製)を積層した。その後、樹脂注入口と樹脂排出口形成のためのホースを配置し、全体をナイロンバッグフィルムで覆い、シーラントテープを用いて、プリフォーム、ピールクロス、樹脂拡散基材を、ナイロンバッグフィルムと金型との間に密閉し、内部を真空にした。
【0046】
続いて金型を100℃に加温し、キャビティ内を5mmbar以下に減圧した後、樹脂注入口を通して、真空系内へ40℃に加温した前記マトリックス樹脂を注入した。そして、注入した樹脂が金型のキャビティ内に充満し、プリフォームに含浸した状態で100℃にて30分間保持し、成形品を得た。
【0047】
(コンポジット物性評価)
上記のようにして得た成形品から試験片を切出し、曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。結果は表1に示した。
【0048】
[実施例2]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が50μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を粉末状バインダー樹脂として用い、前記炭素繊維織物の片面に18重量%の塗布量で塗布し、その他は実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を得た。このプリフォーム用基材の樹脂粉末の付着面を指で擦っても、粉末粒子の脱落は起こらなかった。プリフォーム用基材の剥離強度は、350N/m、再接着後の剥離強度は180N/mであり、取扱性の良い範囲内であることが確認できた。また、形態安定性においても、山部の高さはほぼ同じで、形状安定性に優れていることが確認できた。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0049】
[実施例3]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が50μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を粉末状バインダー樹脂として用い、前記炭素繊維織物の片面に1.0重量%の塗布量で塗布し、その他は実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を得た。このプリフォーム用基材の樹脂粉末の付着面を指で擦っても、粉末粒子の脱落は起こらなかった。プリフォーム用基材の剥離強度は、80N/m、再接着後の剥離強度は30N/mであり、取扱性の良い範囲内であることが確認できた。また、形態安定性においても、山部の高さはほぼ同じで、形状安定性に優れていることが確認できた。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0050】
[実施例4]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が400μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を、粉末状バインダー樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を作製した。このプリフォーム用基材の樹脂粉末の付着面を指で擦っても、粉末粒子の脱落は起こらなかった。プリフォーム用基材の剥離強度は150N/m、再接着後の剥離強度は70N/mであり、取扱性の良い範囲内であることが確認できた。また、形態安定性においても、山部の高さはほぼ同じで、形状安定性に優れていることが確認できた。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0051】
[実施例5]
(熱硬化性バインダー樹脂)
分子中に少なくとも2個の不飽和基を有する粉体アクリル樹脂PD3402(三井化学社製)を粉砕し、篩いにて分級し、粉末状のバインダー樹脂を得た。得られた樹脂の粉末粒子は、融点(Tm)が約130℃で、平均粒子径は80μmであった。このバインダー樹脂を用いて、表面温度が150℃になるように遠赤ヒーターを用いてプリフォーム用基材を作製した以外は、実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を作製した。このプリフォーム用基材の樹脂粉末の付着面を指で擦っても、粉末粒子の脱落は起こらなかった。プリフォーム用基材の剥離強度は150N/m、再接着後の剥離強度は80N/mであり、取扱性の良い範囲内であることが確認できた。また、形態安定性においても、山部の高さはほぼ同じで、形状安定性に優れていることが確認できた。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0052】
[比較例1]
バインダーを用いないで、前記炭素繊維織物から実施例1と同様のやり方でプリフォームを作製し、次いで、同様のやり方で繊維強化プラスチック成形品を成形し物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0053】
[比較例2]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が10μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を、粉末状バインダー樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を作製した。このプリフォーム用基材は、粒径が小さい為、剥離強度が40N/mと低い値であり、形態安定性も悪かった。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0054】
[比較例3]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が50μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を、粉末状バインダー樹脂として用い、前記炭素繊維織物の片面に0.05重量%の塗布量で塗布し、その他は実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を得た。このプリフォーム用基材は、バインダー付着量が少ない為、剥離強度が10N/mと低い値であり、形態安定性も悪かった。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0055】
[比較例4]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が800μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を、粉末状バインダー樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を作製した。このプリフォーム用基材は、バインダー樹脂の粒径が大きい為、剥離強度が600N/mと高い値であった。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成し、物性の評価を行ったが、バインダー樹脂の粒径が大きい為、CV値が大きく物性が不十分であった。結果は表1に示した。
【0056】
[比較例5]
篩いにて分級した粒子の平均粒子径が400μmのビニルエステル樹脂VR−60(昭和高分子社製)を粉末状バインダー樹脂として用い、前記炭素繊維織物の片面に25重量%の塗布量で塗布し、その他は実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を得た。このプリフォーム用基材は、バインダー樹脂の付着量が多い為、剥離強度が450N/mと高い値であった。実施例1と同様の方法にて繊維強化プラスチック成形品を作成したが、バインダー樹脂の付着量が多い為、マトリックス樹脂の含浸性が悪く、物性のばらつきも大きかった。結果は表1に示した。
【0057】
[比較例6]
平均粒子径15μmのポリアミド樹脂オルガソール1002(アルケマ社製)をバインダー樹脂(融点:215℃)として用い、表面温度が230℃になるように遠赤ヒーターを用いてプリフォーム用基材を作製した以外は、実施例1と同様の方法にてプリフォーム用基材を作製した。この基材の粉末粒子付着面を指で擦っても、粒子の脱落は起こらなかった。このプリフォーム用基材は、粒径が小さいため剥離強度が45N/mと低い値であり、形態安定性も悪かった。また、バインダー樹脂の付着温度も高く、ハンドリング性が悪かった。結果は表1に示した。
【0058】
以上の実施例及び比較例との対比結果より、取扱性と物性の面から、熱硬化性バインダー樹脂の粉末粒子の、最適な粒子径の範囲及び付着量の範囲があることが明白になった。
【0059】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】プリフォーム用基材の形態安定性を試験するための金型の斜視図である。
【図2】プリフォーム用基材の形態安定性を試験するための金型の正面断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃、平均粒子径が20〜500μmの範囲にある熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材。
【請求項2】
熱硬化性バインダー樹脂が、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sであり、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃であることを特徴とする請求項1記載のプリフォーム用基材。
【請求項3】
熱硬化性バインダー樹脂が、ビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体とするものであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載のプリフォーム用基材。
【請求項4】
シート状の強化繊維基材が、実質的に一方向に配向した強化繊維からなるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリフォーム用基材。
【請求項5】
シート状の強化繊維基材が、多軸織物又はノンクリンプ織物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリフォーム用基材。
【請求項6】
分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃で、ガラス転移点温度(Tg)が35〜120℃で、融点(Tm)+10℃における粘度が200〜1000Pa・sで、粉末の平均粒子径が20〜500μmの範囲にあるビニルエステル樹脂又はアクリル樹脂を主体とした熱硬化性バインダー樹脂粉末。
【請求項7】
シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末を、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付与し、次いで、該樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度範囲で2〜30分間加熱して、前記樹脂の粉末を前記強化繊維基材の片面又は両面に付着せしめることを特徴とするプリフォーム用基材の製造方法。
【請求項8】
シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材を複数枚積層し、層間を接合した積層基材であって、層間の25℃での剥離強度が70〜500N/mの範囲であり、且つ、層間剥離後の再接着において、25℃での剥離強度が少なくとも10N/mを有していることを特徴とするプリフォーム用積層基材。
【請求項9】
シート状の強化繊維基材の片面又は両面に、分子中に少なくとも2個の不飽和基を有し、融点(Tm)が40〜150℃の熱硬化性バインダー樹脂の粉末が、前記強化繊維基材に対し0.1〜20重量%の範囲で付着してなるプリフォーム用基材を複数枚積層し、次いで、前記樹脂の融点(Tm)以上で融点+50℃以下の温度で2〜30分間加熱して、積層された強化繊維基材間を接合することを特徴とするプリフォーム用積層基材の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載のプリフォーム用積層基材を、成形型内に配置し、マトリックス樹脂を含浸させた後、加熱硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項10記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項8記載のプリフォーム用積層基材を、成形型内に配置し、マトリックス樹脂を含浸させた後、加熱硬化させることによって得られた繊維強化複合材料。
【請求項13】
マトリックス樹脂が、ビニルエステル樹脂を主成分とするものである請求項12記載の繊維強化複合材料。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−235175(P2009−235175A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80600(P2008−80600)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】