説明

プレキャスト部材の接合構造及びその構築方法

【課題】急速施工が可能なプレキャスト部材の接合構造を提供する。
【解決手段】隣接するPCa桁1A,1B同士を接合させる接合構造である。そして、一方のPCa桁1Aの接合面11からは一部を内部に埋設させた接合鉄筋2が突設され、他方のPCa桁1Bの接合面11からは接合鉄筋の突出部21を収容させる挿入孔23が形成され、接合面間には隙間10が形成されるとともに、突出部21が挿入された挿入孔23及び隙間10に充填材5が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や人工地盤等を構成する主桁や床版を、プレキャスト部材を使用して構築する際に発生する接合部の接合構造、及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、桟橋、橋梁等の床版や主桁を構築するに際して、工場で予めプレキャストコンクリート部材を製作し、現地に搬送されたプレキャストコンクリート部材をクレーンで吊り上げて並べ、隣接されたプレキャストコンクリート部材同士を接合させることで一体の床版や主桁を構築する方法が知られている(特許文献1乃至3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、一方のプレキャスト部材の接合面に形成された凹部と、他方のプレキャスト部材の接合面に設けられた凸部とを嵌合させるマッチキャスト方式の接合構造が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献1の従来技術として、プレキャスト部材間に大きく隙間を開けて、双方の部材から突出させたU字形の連結用鉄筋を重ね継手し、その周囲にコンクリートを充填する接合構造が開示されている。また、特許文献2には、プレキャスト部材間に突出させた有孔プレートを重ね継手し、その周囲に高強度の繊維補強コンクリートを充填する接合構造が開示されている。
【0005】
一方、特許文献3には、縁部に予めPC鋼材を一時収納する横孔が設けられ、PC鋼材の端部が定着される位置には横孔に繋がる縦穴が上面から設けられたコンクリート部材が開示されている。そして、PC鋼材を横孔の内部で摺動させることによってコンクリート部材間にPC鋼材を差し渡し、縦穴を利用してPC鋼材の端部を締め付けてプレストレスを導入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2602793号公報
【特許文献2】特許第4022205号公報
【特許文献3】特許第2913461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のマッチキャスト方式は、接合面に正確な形状で凹部と凸部を形成するのが難しく、製作誤差があると嵌合できなかったり、応力集中によって凸部が欠けたりするおそれがある。
【0008】
また、プレキャスト部材間に重ね継手ができるだけの隙間を開け、その隙間にコンクリートを充填する方法では、硬化時間を短縮するために急結性の無収縮モルタルを充填すると、充填が終わる前に硬化が始まり、充填不良が生じるおそれがある。さらに、充填部の厚みと幅の寸法比が大きくなると、圧縮強度が低下することになるため強度の高い充填材を使わなければならず、材料費が嵩む。
【0009】
また、特許文献3の接合構造は、PC鋼材を緊張して定着させるための縦穴を設けなければならないうえに、緊張作業に手間がかかるため、PC鋼材のみで接合をおこなう場合に本数が増えると作業量が増大するおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、急速施工が可能なプレキャスト部材の接合構造及びその構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のプレキャスト部材の接合構造は、隣接するプレキャスト部材同士を接合させる接合構造であって、一方のプレキャスト部材の接合面からは一部を内部に埋設させた長尺継手材が突設され、他方のプレキャスト部材の接合面からは前記長尺継手材の突出部を収容させる挿入孔が形成され、前記接合面間には隙間が形成されるとともに、前記長尺継手材が挿入された挿入孔及び前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする。
【0012】
また、もう一つの本発明のプレキャスト部材の接合構造は、隣接するプレキャスト部材同士を接合させる接合構造であって、一方のプレキャスト部材の接合面からは長尺継手材が格納される格納孔が形成され、他方のプレキャスト部材の接合面からは前記長尺継手材の突出部を収容させる挿入孔が形成され、前記接合面間には隙間が形成されるとともに、前記長尺継手材を前記格納孔から前記挿入孔に向けて移動させることで前記長尺継手材の一部を前記挿入孔に収容させ、前記長尺継手材が挿入された前記格納孔及び前記挿入孔並びに前記隙間に充填材が充填されることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記隙間に充填される充填材にはプレストレスが導入されるとともに、前記隙間は前記プレストレスが前記接合面間に均等に導入可能な狭小隙間であることが好ましい。
【0014】
また、双方の前記プレキャスト部材には、接合面から軸方向に所定の厚さの拡張部が形成され、前記拡張部間には緊張材が配置され、前記緊張材によってプレストレスが導入される構成とすることができる。
【0015】
さらに、前記接合面には、凹部が形成され、その凹部にも前記充填材が充填される構成であってもよい。また、前記挿入孔の孔壁に、凹凸を形成することもできる。また、前記長尺継手材の端部に、拡大部が形成されていてもよい。
【0016】
また、前記プレキャスト部材は、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、直径が0.1〜0.3mm、長さが10〜30mmの形状の繊維を全容積の1〜4%混入して得られる圧縮強度が150〜200N/mm、曲げ引張強度が25〜45N/mm、割裂引張強度が10〜25N/mmの力学的特性をもつ繊維補強セメント系混合材料によって製作されるものであってもよい。
【0017】
さらに、本発明のプレキャスト部材の接合構造の構築方法は、前記充填材を充填した後に所定の強度に達するまで養生し、その後、プレストレスを導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このように構成された本発明のプレキャスト部材の接合構造は、一方のプレキャスト部材に埋設された長尺継手材を、他方のプレキャスト部材の挿入孔に挿入し、挿入孔とプレキャスト部材間の隙間に連続して充填材を充填する。
【0019】
このため、現地での作業が非常に少なく、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によってプレキャスト部材同士を接合することができる。また、長尺継手材が直接、プレキャスト部材の内部に定着されるので、曲げ剛性が増大してひび割れの発生を抑えることができる。
【0020】
また、もう一つの本発明のプレキャスト部材の接合構造は、一方のプレキャスト部材の格納孔に格納された長尺継手材を、他方のプレキャスト部材の挿入孔に向けて移動させ、格納孔、挿入孔及びプレキャスト部材間の隙間に連続して充填材を充填する。
【0021】
このため、プレキャスト部材の設置に際して、水平移動が必要ないなど現地での作業が非常に少なく、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によってプレキャスト部材同士を接合することができる。また、長尺継手材がプレキャスト部材の内部に定着されるので、曲げ剛性が増大してひび割れの発生を抑えることができる。
【0022】
また、プレキャスト部材間の隙間を狭小隙間とすることで、プレストレスを均等に導入することができる。さらに、狭小隙間であれば、充填材の充填量が少なくてすむうえに、形状効果によって圧縮強度を増加させることができる。
【0023】
また、プレキャスト部材の接合面から拡張部を設け、拡張部間に緊張材を配置する構成であれば、プレキャスト部材の本体部の形状を変更しなくても、容易にプレストレスを導入することができる。さらに、プレストレスを導入することによって、曲げモーメントに対する発生ひび割れ抵抗を増大させることができる。
【0024】
また、接合面に凹部を形成して、その凹部に充填材を充填すれば、密着度の高いせん断キーが形成され、接合構造におけるせん断ずれ変形を機械的な力の伝達によって抑制することができる。
【0025】
さらに、挿入孔の孔壁を凹凸に形成することで、長尺継手材の周囲に充填される充填材との付着強度が増加するため、挿入孔の長さを短縮することができる。また、長尺継手材の端部に拡大部を設けることによって、長尺継手材の定着力を増加させることができる。
【0026】
また、プレキャスト部材を繊維補強セメント系混合材料によって製作すれば、埋設する長尺継手材の定着長、又は挿入孔の長さを短くすることができ、材料の削減又は充填時間などの施工時間を低減することができる。
【0027】
さらに、プレキャスト部材間にプレストレスが導入されれば、接合構造の強度が増大してひび割れの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態のプレキャスト部材同士を接合する工程を説明する斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態のプレキャスト部材の接合構造の構成を説明する断面図である。
【図3】長尺継手材を埋設したプレキャスト部材を挿入孔が設けられたプレキャスト部材に向けて移動させる工程を示した説明図である。
【図4】充填材を充填する工程を説明する断面図である。
【図5】実施例1のプレキャスト部材の接合構造の構成を説明する断面図である。
【図6】実施例1の長尺継手材を格納孔から挿入孔に移動させる工程を示した説明図である。
【図7】実施例1の充填材を充填する工程を説明する断面図である。
【図8】実施例2の挿入孔の形状を説明する断面図である。
【図9】実施例2の長尺継手材の形状を説明する図であって、(a)は一端に拡大部を設けた場合の斜視図、(b)は両端に拡大部を設けた場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、橋梁、桟橋、人工地盤等を構築する際に設置する主桁を、プレキャスト部材としてのPCa桁1A,1Bを接合して構築する工程を説明する斜視図である。このPCa桁1A,1Bは、例えば橋梁の軸方向に順次、並べられて接合され、その上に床版(図示省略)が設けられる。すなわち、このPCa桁1A,1Bの軸方向が接合方向であるとともに橋軸方向となる。また、PCa桁1A,1Bの軸直交方向が橋軸直交方向となる。
【0031】
まず、図1,2を参照しながらPCa桁1A,1Bの構成を説明する。このPCa桁1A,1Bは、断面が略I字形の本体部12と、その本体部12の端部に設けられる略矩形板状の拡張部13とを主に備えている。なお、本体部12の断面は、I字形に限定されるものではなく、箱形、U字形、矩形、π字形、T字形、逆T字形、くし形などいずれの形状であってもよい。
【0032】
また、拡張部13は、一側面に接合面11が形成されるとともに、その接合面11の橋軸方向の反対側には、本体部12のウエブから張り出された張出面13aが形成される。そして、この接合面11と張出面13aとの距離が、緊張材としてのPC鋼棒3を配置するための所定の厚さとなる。
【0033】
さらに、接合面11には、上下方向に間隔を置いて複数の凹部4,・・・が形成される。この凹部4は、接合するPCa桁1A,1Bの接合面11,11の対向する位置にそれぞれ形成される。そして、充填材5が凹部4に充填されて硬化すると、せん断キーとなる。
【0034】
また、一方のPCa桁1Aには、長尺継手材としての接合鉄筋2が取り付けられる。この接合鉄筋2には、異形鉄筋が使用できる。この接合鉄筋2は、PCa桁1Aの内部に埋設される埋設部22と、接合面11から接合方向に突出される突出部21とを有している。
【0035】
さらに、接合鉄筋2は、図1に示すように橋軸直交方向に間隔を置いて複数、突設されるとともに、PCa桁1Aの上部と下部に上下方向に間隔を置いて突設される。
【0036】
他方、PCa桁1Bの拡張部13には、この突出部21を収容させる挿入孔23が接合面11から橋軸方向に延設される。この挿入孔23は、接合鉄筋2と対向する位置に合わせて形成される。
【0037】
また、この挿入孔23は、接合鉄筋2より直径が大きく、図2に示すように、突出部21との間には所定の間隔が確保される。さらに、この挿入孔23の孔壁と突出部21との間には、充填材5が充填される。
【0038】
また、PCa桁1A,1Bには、図2に示すように、PC鋼棒3を挿入する貫通孔31,31がそれぞれ形成される。すなわち、貫通孔31は、接合面11から張出面13aまで貫通するように橋軸方向に延設される。
【0039】
さらに、貫通孔31の内部に充填材5が流入しないように、接合面11の開口周囲には円筒状のシール材34が取り付けられる。このシール材34は、独立気泡のウレタン樹脂などの発泡樹脂又は発泡ゴムなどによって成形される。
【0040】
また、PC鋼棒3は、PCa桁1A,1B間にプレストレスを導入するために設置される。このPC鋼棒3の両端には、支圧板32とナット33がそれぞれ装着され、ナット33を締め付けることによってPC鋼棒3が緊張される。
【0041】
ここで、PCa桁1A,1Bは、コンクリート等のセメント系混合材料によって成形することができる。そして、本実施の形態のPCa桁1A,1Bは、その中でも特に超高強度の繊維補強セメント系混合材料を使用して製作する。
【0042】
この繊維補強セメント系混合材料は、セメントと、骨材粒子と、ポゾラン系反応粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント系マトリックスに、繊維を混入して製造する。
【0043】
ここで、前記骨材粒子には、最大粒度径が3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下の硅砂等の骨材粉体を使用する。また、ポゾラン系反応粒子には、粒子径が15μm以下のものを使用する。例えば、粒子径が0.01〜0.5μmの活性度の高いポゾラン系反応粒子としてシリカヒューム等を使用し、粒子径が0.1〜15μmの活性度の低いポゾラン系反応粒子としてフライアッシュや高炉スラグ等を使用する。これらの活性度の異なるポゾラン系反応粒子は、混合したり、単独で使用したりすることができる。また、前記分散剤は、流動性を高めるために高性能減水剤など少なくとも1種類を使用する。
【0044】
また、繊維には、例えば直径が0.1〜0.3mm程度で、長さが10〜30mm程度の形状の引張り降伏応力度が2600〜2800N/mm2の鋼繊維を使用する。さらに、この鋼繊維は、製造される繊維補強セメント系混合材料の全容積の1〜4%程度の量を混入させる。
【0045】
このような配合で製造される前記繊維補強セメント系混合材料によって形成された部材は、圧縮強度が150〜200N/mm2、曲げ引張強度が25〜45N/mm2、割裂引張強度が10〜25N/mm2、透水係数が4.0×10-17cm/sec、塩分拡散係数が0.0019cm2/年、弾性係数が50〜55GPaの特性を有する。
【0046】
そして、このような繊維補強セメント系混合材料を使用して、PCa桁1A,1Bを工場などで製作する。ここで、前記繊維補強セメント系混合材料でPCa桁1A,1Bを形成する場合は、通常、鉄筋を配置する必要がない。また、接合鉄筋2の埋設部22の長さを短くしても、付着強度が高いため所望する定着力を確保することができる。
【0047】
また、図2,4に示すように、対向するPCa桁1A,1Bの接合面11,11間には、隙間10が形成される。そして、この隙間10及び挿入孔23,・・・には、充填材5が充填される。
【0048】
この充填材5には、セメント系材料と硅砂などを配合した無収縮モルタル、早期強度発現が早い急結性無収縮モルタル、無収縮モルタルにPVA繊維、ポリプロピレン繊維若しくは高強度ポリエチレン繊維などの有機繊維、炭素繊維又は鋼繊維を混入した材料、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、レジンモルタル又は上記した繊維補強セメント系混合材料などが使用できる。
【0049】
次に、本実施の形態のPCa桁1A,1Bの接合構造の構築方法について説明する。
【0050】
まず、工場において、PCa桁1A,1Bを製作する。このPCa桁1A,1Bは、上記した繊維補強セメント系混合材料によって成形される。また、PCa桁1A,1Bを成形するに際しては、接合鉄筋2,・・・を所定の箇所に突設させるとともに、挿入孔23,・・・、貫通孔31,31及び凹部4,・・・が形成される箇所には型枠を設置して、同時に成形する。
【0051】
また、図3に示すように、PCa桁1Bの接合面11の貫通孔31の開口周囲には、リング状のシール材34を貼り付ける。
【0052】
一方、PCa桁1A,1Bを接合する橋梁の現場においては、図3に示すように、橋軸方向に軸方向を合わせたPCa桁1Bがゴム支承61上に設置される。他方、PCa桁1Aは、接合鉄筋2の突出部21がPCa桁1Bに接触しないように滑り支承62上に設置される。
【0053】
この滑り支承62は、2枚の鋼板の間にグリースが介在された仮支承で、この上に設置されたPCa桁1Aは、容易に水平移動させることができる。そして、PCa桁1Aを接合方向(図3の白矢印方向)に移動させると、接合鉄筋2,・・・の突出部21,・・・が対向する位置に設けられた挿入孔23,・・・に収容されることになる。
【0054】
このPCa桁1Aの水平移動は、図4に示すように、PCa桁1A,1B間の隙間10が例えば20mm〜30mm程度になるまでおこなう。そして、移動終了後に、PCa桁1Aの滑り支承62をゴム支承61に取り替える。なお、この段階においては、各PCa桁1A,1Bは、単純梁の支持構造が成立しており、安定して設置されている。
【0055】
また、この隙間10の貫通孔31,31間は、リング状のシール材34によって繋がれる。さらに、隙間10の周囲には型枠81を設置する。また、隙間10の下部には、充填材5を注入するための注入ホース82を取り付ける。
【0056】
そして、この注入ホース82を使って、隙間10に向けて加圧状態の充填材5を充填する。この隙間10に流し込まれた充填材5は、下から打ち上がって挿入孔23,・・にも充填される。なお、挿入孔23の深部は、空気孔に連通されている。
【0057】
また、充填材5は、接合面11,11に形成された凹部4,・・・にも充填されるので、充填材5が硬化することによって凹部4,・・・にせん断キーが形成される。なお、この充填材5は、所定の強度が発現するまで養生する。
【0058】
続いて、PCa桁1A,1Bの貫通孔31,31に、一方の張出面13aからPC鋼棒3を挿入する。そして、両側の張出面13a,13aから突出したPC鋼棒3の両端に、支圧板32,32とナット33,33とをそれぞれ装着する。
【0059】
このようにしてPC鋼棒3を設置し、充填材5の強度が所定以上になった後に、ジャッキを使ってPC鋼棒3を緊張し、ナット33を締め付けると、PCa桁1A,1B間にプレストレスが導入されることになる。
【0060】
そして、貫通孔31,31の充填材5が硬化することによって、PCa桁1A,1B間は、接合鉄筋2,・・・とPC鋼棒3とによって接合され、一体化されることになる。
【0061】
次に、本実施の形態のPCa桁1A,1Bの接合構造と、その構築方法の作用について説明する。
【0062】
このように構成された本実施の形態のPCa桁1A,1Bの接合構造は、一方のPCa桁1Aに埋設された接合鉄筋2を、他方のPCa桁1Bの挿入孔23に挿入し、挿入孔23とPCa桁1A,1B間の隙間10に連続して充填材5を充填する。
【0063】
このため、現地での接合作業などが簡単で短時間で済み、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によってPCa桁1A,1B同士を接合することができる。特に、橋梁の老朽化に伴う架け替え工事では、可能な限り短時間で施工がおこなえることが望まれているため、急速施工が可能な本実施の形態の接合構造を採用する効果は高い。
【0064】
また、接合鉄筋2が埋設部22では直接、挿入孔23では充填材5を介してPCa桁1A,1Bの内部に定着されるので、曲げ剛性が増大してひび割れの発生を抑えることができる。すなわち、PCa桁1A,1Bの内部に定着された接合鉄筋2は、曲げモーメントに対して引張材として抵抗する。また、ひび割れが発生したとしても接合鉄筋2が引張力を負担するため、ひび割れ幅の拡大を抑えることができる。
【0065】
さらに、引っ張られた接合鉄筋2の反対側の充填材5又は拡張部13の内部では圧縮力が発生し、充填材5又は繊維補強セメント系混合材料が圧縮材として抵抗することができる。
【0066】
また、PCa桁1A,1B間の隙間10が狭小隙間であれば、充填材5によって形成される目地の形状は非常に薄くなる。通常、コンクリート材料の圧縮強度は、厚みと幅の寸法比が2:1の円柱試験体による圧縮試験によって決められるが、この比率が小さくなると試験体への横拘束効果が増大するので、圧縮強度が増大することが知られている。
【0067】
本実施の形態では、隙間10に充填される充填材5によって形成される目地を、厚みと幅の寸法比で1:50程度にできるため、圧縮強度を著しく増大させることができる。このように形状効果によって圧縮強度を増加させることができるので、圧縮強度の低い材料であっても充填材5として使用することができる。また、隙間10が狭小であれば、充填材5の充填量が少なくてすむため、材料費を削減できるうえに、急速施工を図ることができる。
【0068】
さらに、このような狭小隙間であれば、PC鋼棒3によってプレストレスを導入する際にも、偏りなどが発生せずにPCa桁1A,1B間にプレストレスを均等に導入することができる。
【0069】
また、PCa桁1A,1Bの接合面11,11からそれぞれ拡張部13,13を設け、拡張部13,13間にPC鋼棒3を配置する構成であれば、PCa桁1A,1Bの本体部12の形状を変更しなくても、容易にプレストレスを導入することができる。さらに、プレストレスを導入することによって、曲げモーメントに対する発生ひび割れ抵抗を増大させることができる。
【0070】
また、接合面11に凹部4を形成して、その凹部4に充填材5を充填すれば、密着度の高いせん断キーが形成され、接合構造におけるせん断ずれ変形を機械的な力の伝達によって抑制することができる。特に、接合面11,11間にプレストレスが導入されている場合は、それによって摩擦抵抗によるせん断力も増加される。
【0071】
また、上記した繊維補強セメント系混合材料によって製作されるPCa桁1A,1Bは、従来のプレストレストコンクリート桁や鉄筋コンクリート桁の自重に比べて半分以下の自重にすることができる。
【0072】
さらに、PCa桁1A,1Bを繊維補強セメント系混合材料によって製作すれば、付着強度が高いので埋設する接合鉄筋2の埋設部22の長さや挿入孔23の長さを短くすることができる。また、挿入孔23の長さが短くなれば、充填材5の充填量及び充填時間を低減することができる。
【0073】
また、PCa桁1A,1Bが施工中も単純支持構造で安定していれば、PCa桁1A,1B上に載荷できるので、施工性に優れ、短期間で橋梁を構築することができる。
【実施例1】
【0074】
以下、前記した実施の形態とは別の形態の実施例1について、図5−図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0075】
この実施例1のプレキャスト部材としてのPCa桁1C,1Dは、接合鉄筋2の周辺の構成以外は、前記実施の形態のPCa桁1A,1Bと同じ構成である。
【0076】
そこで、実施例1の接合鉄筋2の周辺構成について説明すると、図6に示すように、PCa桁1Dには、接合鉄筋2の長さより長い格納孔24が形成される。この格納孔24には、接合鉄筋2が格納される。
【0077】
また、PCa桁1Cの挿入孔23,23の深部は、図6に示すように空気孔23a,23bに連通されている。この空気孔23a,23bは、PCa桁1Cの上面又は上方の側面に開口されている。
【0078】
次に、本実施の形態のPCa桁1C,1Dの接合構造の構築方法について説明する。
【0079】
まず、工場において、PCa桁1C,1Dを製作する。このPCa桁1C,1Dは、上記した繊維補強セメント系混合材料によって成形される。また、PCa桁1Dの格納孔24に格納する接合鉄筋2の接合面11側の端部には、引寄せ線材7を結びつけておく。
【0080】
一方、PCa桁1C,1Dを接合する橋梁の現場においては、図6に示すように、橋軸方向に軸方向を合わせたPCa桁1C,1Dがゴム支承61,61上にそれぞれ設置される。
【0081】
この実施例1では、PCa桁1C,1D自体はいずれも水平移動させないため、隙間10が接合時の所定の間隔(例えば20mm〜30mm程度)になるようにPCa桁1C,1Dを設置する。また、引寄せ線材7,7を挿入孔23,23に通して、先端を空気孔23a,23bから突出させておく。
【0082】
続いて、引寄せ線材7をPCa桁1C上から引くと、接合鉄筋2が格納孔24から抜け出して、挿入孔23に向けて移動することになる。この移動は、接合鉄筋2の中央が隙間10に配置されるまで続ける。
【0083】
また、隙間10の周囲には、図7に示すように型枠81を設置する。さらに、隙間10の下部には、充填材5を注入するための注入ホース82を取り付ける。そして、この注入ホース82を使って、隙間10に向けて充填材5を加圧注入する。この隙間10に流し込まれた充填材5は、下から打ち上がって格納孔24、挿入孔23及び空気孔23a,23bにも充填される。
【0084】
このように構成された実施例1のPCa桁1C,1Dの接合構造は、一方のPCa桁1Dの格納孔24に格納された接合鉄筋2を、他方のPCa桁1Cの挿入孔23に向けて移動させ、格納孔24、挿入孔23及びPCa桁1C,1D間の隙間10に連続して充填材5を充填する。
【0085】
このため、現地での作業が非常に少なく、養生などの待ち時間も短くできるので、急速施工によってPCa桁1C,1D同士を接合することができる。特に、接合鉄筋2は、引寄せ線材7を引くだけでPCa桁1C,1D間に架け渡すことができる。
【0086】
また、接合鉄筋2が充填材5を介してPCa桁1C,1Dの内部に定着されるので、曲げ剛性が増大してひび割れの発生を抑えることができる。
【0087】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0088】
以下、前記した実施の形態及び実施例1に適用可能な実施例2について、図8,9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0089】
まず、実施例2の挿入孔23(又は格納孔24)の孔壁の形状について説明する。この実施例2では、図8に示すように、挿入孔23(格納孔24)の孔壁を凹凸壁面25に形成する。この凹凸壁面25は、抜き型枠を使って成形したり、ドリルで削って成形したりすることができる。
【0090】
このように孔壁を凹凸壁面25に形成すれば、挿入孔23(格納孔24)の内部に充填される充填材5との付着強度が増加するので、挿入孔23(格納孔24)の長さを短くしても定着力を確保できるようになる。
【0091】
続いて、実施例2の長尺継手材としての接合鉄筋2A,2Bについて、図9を参照しながら説明する。この図9(a)に示した接合鉄筋2Aは、異形鉄筋からなる軸部26の一端に、円形鋼板を摩擦圧接や溶接などで接合して拡大部27を設けたものである。
【0092】
このように拡大部27を設けると、接合鉄筋2Aに引き抜き力が作用した際に、拡大部27の内側の充填材5に支圧力が働き、定着力を大幅に増大させることができる。
【0093】
また、拡大部27によって定着力が増大するので、拡大部27を設けた側の接合鉄筋2が埋設される長さを短くすることができる。さらに、挿入孔23又は格納孔24に収容される側の端部に拡大部27が設けられている場合は、挿入孔23や格納孔24の長さも短くできる。
【0094】
一方、図9(b)に示すように、接合鉄筋2Bの両端に拡大部27,27を設けることもできる。この場合は、埋設部22、突出部21、挿入孔23及び格納孔24のすべてを短縮することができる。
【0095】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0096】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0097】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、橋梁の主桁をプレキャスト部材で構築する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、桟橋や人工地盤の主桁や、梁材や床版などにも本発明を適用することができる。
【0098】
また、前記実施の形態及び実施例では、PCa桁1A,1B,1C,1Dを上記した繊維補強セメント系混合材料によって成形する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、プレストレスコンクリートや鉄筋コンクリートなどのセメント系混合材料によってプレキャスト部材を成形することができる。
【0099】
さらに、前記実施の形態及び実施例では、長尺継手材として異形鉄筋を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、穴開き鋼板プレート、PC鋼棒、PCケーブルなどを長尺継手材として使用することができる。
【0100】
また、前記実施の形態及び実施例では、緊張材としてPC鋼棒3を使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、PCケーブル、高強度鉄筋などを緊張材として使用することができる。
【0101】
さらに、前記実施例2では、円板状の拡大部27を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、拡大部の平面形状は四角形や楕円などであってもよい。また、拡大部に代えて、長尺継手材の端部にU形フックなどを設けることによって定着力を高めることもできる。
【符号の説明】
【0102】
1A,1B PCa桁(プレキャスト部材)
10 隙間
11 接合面
13 拡張部
2 接合鉄筋(長尺継手材)
21 突出部
22 埋設部
23 挿入孔
25 凹凸壁面
3 PC鋼棒(緊張材)
31 貫通孔
4 凹部
5 充填材
1C,1D PCa桁(プレキャスト部材)
24 格納孔
2A,2B 接合鉄筋(長尺継手材)
27 拡大部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接するプレキャスト部材同士を接合させる接合構造であって、
一方のプレキャスト部材の接合面からは一部を内部に埋設させた長尺継手材が突設され、他方のプレキャスト部材の接合面からは前記長尺継手材の突出部を収容させる挿入孔が形成され、前記接合面間には隙間が形成されるとともに、前記長尺継手材が挿入された挿入孔及び前記隙間に充填材が充填されることを特徴とするプレキャスト部材の接合構造。
【請求項2】
隣接するプレキャスト部材同士を接合させる接合構造であって、
一方のプレキャスト部材の接合面からは長尺継手材が格納される格納孔が形成され、他方のプレキャスト部材の接合面からは前記長尺継手材の突出部を収容させる挿入孔が形成され、前記接合面間には隙間が形成されるとともに、前記長尺継手材を前記格納孔から前記挿入孔に向けて移動させることで前記長尺継手材の一部を前記挿入孔に収容させ、前記長尺継手材が挿入された前記格納孔及び前記挿入孔並びに前記隙間に充填材が充填されることを特徴とするプレキャスト部材の接合構造。
【請求項3】
前記隙間に充填される充填材にはプレストレスが導入されるとともに、前記隙間は前記プレストレスが前記接合面間に均等に導入可能な狭小隙間であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項4】
双方の前記プレキャスト部材には、接合面から軸方向に所定の厚さの拡張部が形成され、前記拡張部間には緊張材が配置され、前記緊張材によってプレストレスが導入されることを特徴とする請求項3に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項5】
前記接合面には、凹部が形成され、その凹部にも前記充填材が充填されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項6】
前記挿入孔の孔壁に、凹凸が形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項7】
前記長尺継手材の端部に、拡大部が形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項8】
前記プレキャスト部材は、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、直径が0.1〜0.3mm、長さが10〜30mmの形状の繊維を全容積の1〜4%混入して得られる圧縮強度が150〜200N/mm、曲げ引張強度が25〜45N/mm、割裂引張強度が10〜25N/mmの力学的特性をもつ繊維補強セメント系混合材料によって製作されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項9】
請求項3又は4に記載のプレキャスト部材の接合構造の構築方法であって、
前記充填材を充填した後に所定の強度に達するまで養生し、その後、プレストレスを導入することを特徴とするプレキャスト部材の接合構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−69064(P2011−69064A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219139(P2009−219139)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】