説明

ヘッドモーショントラッカ装置

【課題】搭乗者の頭部の現在位置及び現在角度を正確に算出することができるヘッドモーショントラッカ装置を提供する。
【解決手段】頭部マーカー群7と、頭部マーカー群7からの光線を検出するカメラ装置2と、カメラ装置2に対する搭乗者3の光学検出頭部情報を算出する光学検出頭部情報算出部22とを備え、移動体30の一の位置と異なる位置に取り付けられる基準マーカー5と、移動体30が静止状態であるときに検出された光線に基づいて、カメラ装置2に対する基準マーカー5の初期位置を含む基準初期情報を記憶する基準初期情報記憶部42と、移動体30が移動状態であるときに検出された光線及び基準初期情報に基づいて、カメラ装置2に対する基準マーカー5の移動量を含む移動情報を算出する移動情報算出部23と、光学検出頭部情報及び移動情報に基づいて、搭乗者3の頭部位置及び頭部角度を含む移動体頭部情報を算出する頭部情報補正部26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学方式のヘッドモーショントラッカ装置(以下、HMT装置ともいう)に関し、さらに詳細には、衝撃や振動等による位置ズレを補正する機能を備える光学方式のHMT装置に関する。本発明は、例えば、ゲーム機や乗物等で用いられる頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度(すなわち現在の頭部位置および頭部角度)を検出するHMT装置等に利用される。
【0002】
ここで、光学方式のHMT装置とは、反射板や発光体等の頭部マーカー(光学マーカー)を取り付けたヘルメット等を頭部に装着して、頭部マーカーの位置を立体視が可能なカメラ装置で測定することにより、頭部の動きを追跡する装置をいう。
【背景技術】
【0003】
時々刻々と変動する物体の現在位置や現在角度を正確に測定する技術は、様々な分野で利用されている。例えば、ゲーム機では、バーチャルリアリティ(VR)を実現するために、頭部装着型表示装置付ヘルメットを用いることにより、映像を表示することがなされている。このとき、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度に合わせて、映像を変化させる必要がある。よって、頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するために、HMT装置が利用されている。
【0004】
また、救難飛行艇による救難活動では、発見した救難目標を見失うことがないようにするため、頭部装着型表示装置付ヘルメットにより表示される照準画像と救難目標とが対応した時にロックすることにより、ロックされた救難目標の位置を演算することが行われている。このとき、その救難目標の位置を演算するために、飛行体の緯度、経度、高度、姿勢に加えて、飛行体に設定された移動体座標系に対するパイロットの頭部角度及び頭部位置を測定している。このために、HMT装置が利用されている。
【0005】
頭部装着型表示装置付ヘルメットに利用されるHMT装置としては、光学的に頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置や現在角度を測定するものが開示されている(特許文献1参照)。例えば、複数の反射板を頭部装着型表示装置付ヘルメットに取り付けるとともに光源から光を照射したときの反射光をカメラ装置でモニタする光学方式のHMT装置が開示されている。また、本出願人が先に出願している光学方式のHMT装置もある(特願2005−106418号)。具体的には、頭部装着型表示装置付ヘルメットの外周面上に、頭部マーカー群として、発光体であるLEDを互いに離隔するようにして3箇所に取り付け、これら3つの頭部マーカーの相対的な位置関係をHMT装置に予め記憶させておく。そして、これら3つの頭部マーカーを、ステレオ視が可能でかつ設置場所が固定された2台のカメラで同時に立体視で撮影することで、所謂、三角測量の原理により、現在の3つの頭部マーカーの相対的な位置関係を測定している。頭部装着型表示装置付ヘルメットに固定された3点の位置(3つのLEDの位置)が特定できれば、ヘルメットの位置や向き(角度)が特定できるので、これにより、カメラ装置に対する頭部装着型表示装置付ヘルメットの移動距離量や移動角度量を算出している。
【特許文献1】特表平9−506194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図6に示すように、例えば、飛行体80でHMT装置51を使用するときに、パイロット63が飛行体80のコックピットに搭乗することになるが、飛行体80の飛行中にコックピットが振動する場合がある。このとき、コックピットの天井に固定軸52cを介して2台のカメラ52a、52bを設置してあると、2台のカメラ52a、52bが振動の影響を強く受けるため、カメラ52a、52bに対する頭部装着型表示装置付ヘルメット60の現在位置及び現在角度を算出しても精度よく測定できないことがあった。例えば、パイロット63の頭部が現在位置より前方に移動したときに、パイロット63の頭部の移動量よりカメラ装置52a、52bが前方に一時的に振動した場合には、パイロット63の頭部位置は後方に移動したように、HMT装置51に判断されていた。
さらに、衝撃や強い重力加速度を受けた場合に、カメラ52a、52bの取付状態が変化(変形)することもあるが、そのような場合にも、カメラ52a、52bに対する頭部装着型表示装置付ヘルメット60の現在位置及び現在角度を算出しても精度よく測定できない問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、カメラ装置が振動したり、カメラ装置の取付状態が変化したりしたときにも、振動や変化等による位置ズレ量を算出して補正することにより、搭乗者の頭部の現在位置及び現在角度を正確に算出することができるヘッドモーショントラッカ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のHMT装置は、搭乗者の頭部に配置される頭部マーカー群と、前記搭乗者が搭乗する移動体の一の位置に取り付けられるとともに、前記頭部マーカー群からの光線を立体視で検出するカメラ装置と、検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する搭乗者の頭部位置及び頭部角度を含む光学検出頭部情報を算出する光学検出頭部情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカ装置であって、 前記移動体の一の位置と異なる位置に取り付けられる基準マーカーと、前記移動体が静止状態であるときに、前記基準マーカーから検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの初期位置を含む基準初期情報を算出する基準初期情報算出部と、算出された基準初期情報を記憶する基準初期情報記憶部と、前記移動体が移動状態であるときに、前記基準マーカーから検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの現在位置を含む基準現在位置情報を算出するとともに、算出した基準現在位置情報と前記基準初期情報とに基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの移動量を含む移動情報を算出する移動情報算出部と、移動情報に基づいて、前記光学検出頭部情報を補正する頭部情報補正部を備えるようにしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のHMT装置によれば、カメラ装置の取付位置は、頭部マーカー群からの光線を検出する必要上、例えば、頭部の上方となる天井等になるが、基準マーカーの取付位置は、カメラ装置の取付位置とは異なり、衝撃や重力加速度を受けたときに振動しにくく変化しにくい位置とすることができる。よって、予め移動体が静止状態であるときに、基準マーカーから検出された光線に基づいて、カメラ装置に対する基準マーカーの初期位置を含む基準初期情報を測定することにより、カメラ装置が本来の位置に存在するカメラ装置の基準的な位置を記憶させることができる。これにより、移動体が移動状態であるときに、基準マーカーから検出された光線に基づいて、カメラ装置に対する基準マーカーの現在位置を算出し、基準マーカーの現在位置と基準初期情報とを比較することにより、カメラ装置に対する基準マーカーの移動量を含む移動情報を算出することができる。つまり、移動情報から、逆にカメラ装置の移動量を算出することができる。したがって、搭乗者の頭部位置及び頭部角度を含む移動体頭部情報を算出する際に、例えば、カメラ装置が振動したときにも、振動の影響を低減・除去する補正を行うことができたり、何らかの理由でカメラ装置の取付位置が位置ズレしたときにも、位置ズレの影響を低減・除去する補正を行うことができたりする。
【0010】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、上記の発明において、基準マーカーは2個以上であるようにしてもよい。
本発明のHMT装置によれば、基準マーカーの移動量を含む移動情報から、カメラ装置の並進移動や回転移動を算出することができる。
【0011】
さらに上記発明において、基準マーカーは、3個以上であるようにしてもよい。
本発明のHMT装置によれば、基準マーカーの移動量を含む移動情報から、カメラ装置の並進移動とともに三次元的な回転移動も算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
以下に説明する実施形態は、飛行体に搭乗するパイロットが着用する頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度を算出するものであり、飛行体が重力加速度を受けてカメラ装置の取付状態が変形したり、振動でカメラ装置の取付位置が位置ズレしたりした場合にも、正確に頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度を算出することができるものである。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態であるHMT装置の概略構成を示す図であり、図2は、図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメット及び基準マーカー部の平面図である。
【0014】
HMT装置1は、パイロット3の頭部に装着される頭部装着型表示装置付ヘルメット10と、飛行体30に固定された固定軸2cにより支持されるカメラ装置2(2a、2b)と、飛行体30が移動しているときに、飛行体30の中で振動や衝撃の影響を受けにくい位置である前面パネル部30bに取り付けられた基準マーカー部40と、コンピュータにより構成される制御部20とから構成される。
【0015】
飛行体30は、パイロット3が搭乗するコックピットであり、パイロット3が着席する座席30aと、前面パネル部30bとを備える。飛行体30は飛行することにより、パイロット3が搭乗するコックピットの各部は振動することになる。このとき、前面パネル部30bは、上述したように振動の影響を受けにくいので、基準マーカー部40はほとんど振動しない。なお、基準マーカー部40は、振動の影響がない位置であれば、他の位置に取り付けられてもよい。
頭部装着型表示装置付ヘルメット10は、表示器(図示せず)と、表示器から出射される画像表示光を反射することにより、パイロット3の目に導くコンバイナ8と、ヘルメット10の位置や向き(すなわち頭部位置や頭部角度)を測定する際の指標となる頭部マーカーとして機能するLED群7とを有する。なお、頭部装着型表示装置付ヘルメット10を装着したパイロット3は、表示器による表示映像とコンバイナ8の前方実在物とを視認することが可能となっている。
【0016】
LED群7は、図2に示すように、互いに異なる波長の赤外光を発光する3個(あるいは3個以上の数)のLED7a、7b、7cが互いに離隔するようにして取り付けてある。なお、頭部装着型表示装置付ヘルメット10の3個のLED7a、7b、7cの相対的な位置関係とヘルメット10に対する取り付け位置とが、予め、後述するメモリ41の初期頭部データ記憶部44に記憶するようにしてある。よって、後述する三角測量の手法で、現時点における3個のLED7a、7b、7cの位置を算出し、初期頭部データ記憶部44に記憶されたデータを参照することにより、現時点でのLED7a、7b、7cの位置を特定することができ、ひいてはLED7a、7b、7cが固定されているヘルメット10の位置や角度(向き)が特定できるようにしてある。
【0017】
基準マーカー部40は、LED群5を有する。LED群5は、図2に示すように、互いに異なる波長の赤外光を発光する2個のLED5a、5bが一定の距離(d2)を隔てるようにして取り付けられたものである。また、LED群5とLED群7とは、識別できるように、互いに異なる波長の赤外光を発光するものである。なお、基準マーカー部40は、上述したようにほとんど振動しない位置に取り付けられていることにより、カメラ装置2(2a、2b)が初期の位置(本来の設定位置)から振動や変形により位置ずれした際に、位置ずれに伴うカメラ装置2(2a,2b)の移動距離や移動角度を算出する際に利用されるものである。
【0018】
カメラ装置2(2a、2b)は、撮影方向が頭部装着型表示装置付ヘルメット10及び基準マーカー部40に向けられているとともに、頭部装着型表示装置付ヘルメット10のLED群7及び基準マーカー部40のLED群5の立体視が同時に可能であるようにするため一定の距離(d1)を隔てるように、飛行体30の天井に固定軸2cを介して設置されている。
【0019】
よって、頭部マーカーであるLED7aのカメラ装置2(2a、2b)に対する位置は、カメラ装置2(2a,2b)に撮影された画像中に映し出されているマーカーの位置を抽出し、さらにカメラ2aからの方向角度とカメラ2bからの方向角度とを抽出し、カメラ2aとカメラ2bとの間の距離(d1)を用いることにより、三角測量の手法で算出することができるようにしてある。他の頭部マーカーであるLED7b、7cのカメラ装置2(2a、2b)に対する位置についても、同様に算出されるようにしてある。
【0020】
このときの各頭部マーカーの位置を、空間座標で表現することができるようにするために、カメラ装置2(2a、2b)に固定され、カメラ装置2とともに移動する座標系である光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)を用いる。なお、光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)の具体的な原点位置やX’Y’Z’軸方向の説明については後述する。光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)によりLED7a、7b、7cの位置座標は、(X1’、Y1’、Z1’)、(X2’、Y2’、Z2’)、(X3’、Y3’、Z3’)として表現できる。カメラ装置2(2a、2b)に対する3つのLED7a、7b、7cの位置座標(X1’、Y1’、Z1’)、(X2’、Y2’、Z2’)、(X3’、Y3’、Z3’)が特定されることにより、LED7a、7b、7cが固定されているヘルメット10の位置や角度(向き)が座標系を用いて特定できるようになる。
つまり、頭部マーカーであるLED群7から発光される赤外光を検出することにより3個のLED7a、7b、7cの現在の位置座標を得ることで、カメラ装置2(2a、2b)に対する頭部装着型表示装置付ヘルメット10の現在の位置や向き(角度)を算出でき、位置座標や座標軸に対する角度で表現できるようにしてある。
【0021】
図3は、カメラ装置2(2a,2b)と基準マーカー部40との関係を説明する図である。
基準マーカー部40のLED5aのカメラ2a、カメラ2bに対する光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)での現在位置(x1’、y1’、z1’)は、カメラ2aからの方向角度(α)と、カメラ2bからの方向角度(β)と、カメラ2aとカメラ2bとの間の距離(d1)とにより、三角測量の手法で算出されるようにしてある。LED5bのカメラ2a、カメラ2bに対する現在位置(x2’、y2’、z2’)についても、同様に算出されるようにしてある。よって、カメラ2a、カメラ2bに対する2つの現在位置座標(x1’、y1’、z1’)、(x2’、y2’、z2’)が特定されることにより、LED5aとLED5bとの位置関係および角度関係が特定されるようになっている。
【0022】
次に、制御部20について説明する。図4は、HMT装置の制御系20で行われる演算処理の流れを説明する図である。
制御部20は、図1に示すように、CPU21、メモリ41等からなるコンピュータにより構成され、各種の制御や演算処理を行うものである。CPU21が実行する処理を、機能ブロックごとに分けて説明すると、光学マーカー駆動部28と、基準初期情報算出部27と、光学検出頭部情報算出部22と、移動情報算出部23と、頭部情報補正部26と、映像表示部25とを有する。
また、メモリ41には、制御部20が処理を実行するために必要な種々のデータを蓄積する領域が形成してあり、カメラ装置2(2a,2b)とともに移動する座標系である光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)を設定するために必要な原点位置および軸方向を記憶する光学検出座標記憶部43と、カメラ装置2(2a,2b)に対するLED群5の初期位置を含む基準初期情報を記憶する基準初期情報記憶部42と、3個のLED7a、7b、7cの相対的な位置関係およびヘルメット10に対する取り付け位置を(初期頭部データ)記憶する初期頭部データ記憶部44とを有する。
【0023】
ここで、光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)について説明する。光学検出座標系(X’Y’Z’座標系)は、カメラ装置2(2a,2b)とともに移動する3次元座標系であり、原点および各座標軸の方向を任意に定めることができるが、本実施形態では図3に示すように、飛行体30が停止した状態(初期状態)のときの、カメラ2bからカメラ2aへの方向をX軸方向とし、X軸方向に垂直かつ天井に垂直で下向きな方向をZ軸方向とし、X軸方向に垂直かつ天井に水平で右向き方向をY軸方向とするように定義し、原点をカメラ2a、カメラ2bの中点として定義するようにしてある。
【0024】
そして、光学検出座標記憶部43には、このX’Y’Z’座標系の設定に必要な軸方向の情報および原点の情報が蓄積してある。
【0025】
基準初期情報記憶部42は、予め飛行体30が停止した状態(初期状態)のときに測定した、カメラ装置2(2a,2b)(すなわちX’Y’Z’座標系)に対するLED5aの位置(x1’、y1’、z1’)及びLED5bの位置(x2’、y2’、z2’)を、基準初期情報として記憶する。記憶された基準初期情報は、LED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)と表現する。
【0026】
光学マーカー駆動部28は、LED群7及びLED群5を点灯する指令信号を出力するとともに、カメラ装置2a、2bでLED群7及びLED群5を撮影し、画像による位置情報を取得する制御を行うものである。
【0027】
基準初期情報算出部27は、予め飛行体30が停止した状態(初期状態)のときに取得した画像からLED5aの位置(x1’、y1’、z1’)及びLED5bの位置(x2’、y2’、z2’)を算出する演算を行うものである。算出された位置は、基準初期情報、すなわちLED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)として上述した基準初期情報記憶部42に記憶される。
【0028】
光学検出頭部情報算出部22は、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するパイロット3の頭部位置及び頭部角度を含む光学検出頭部情報を算出する制御を行うものである。
つまり、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対する3つのLED7a、7b、7cの位置(X1’、Y1’、Z1’)、(X2’、Y2’、Z2’)、(X3’、Y3’、Z3’)を算出し、これら3つの位置座標を、初期頭部データ記憶部44に記憶されているLED7a、7b、7cの相対的な位置関係とヘルメット10に対する取り付け位置のデータを参照することにより、LED7a、7b、7cが固定されたヘルメット10の現在位置と現在角度とを決定する。
【0029】
決定されたヘルメット10の現在位置と現在角度を、X’Y’Z’座標系を用いて表現するために、ヘルメット10上の一点をヘルメット基準点(P)と定め、さらにヘルメット基準点を始点とする一方向をヘルメット基準方向(M)と定める。本実施形態では、図2に示すように、ヘルメット基準点(P)としてLED7aの位置を指定し、ヘルメット基準方向(M)としてヘルメット10の前方方向を指定することにする。これにより、決定されたヘルメット10の現在位置と現在角度とは、このヘルメット基準点Pの位置座標(X’、Y’、Z’)、ヘルメット基準方向(M)のX’軸、Y’軸、Z’軸に対する角度(Θ’、Φ’、Ψ’)とを用いて表現することができる。
【0030】
つまり、光学検出頭部情報算出部22は、3つのLED7a、7b、7cの位置(X1’、Y1’、Z1’)、(X2’、Y2’、Z2’)、(X3’、Y3’、Z3’)を算出し、これに基づいて
ヘルメット基準点Pの位置座標(X’、Y’、Z’)、ヘルメット基準方向(M)のX’軸、Y’軸、Z’軸に対する角度(Θ’、Φ’、Ψ’)を、頭部位置情報(X’、Y’、Z’)および頭部角度情報(Θ’、Φ’、Ψ’)として算出する。
【0031】
移動情報算出部23は、カメラ装置2(2a、2b)に、振動等による位置ずれが生じたときの移動距離および移動角度を、移動情報として算出する演算を行うものである。
移動距離量をX’軸、Y’軸、Z’軸方向に対する位置変化量(Δx、Δy、Δz)、移動角度量をX’軸、Y’軸、Z’軸に対する角度変化量(Δθ、Δφ、Δψ)として表現する。すなわち、記憶された基準初期情報であるカメラ装置2(2a、2b)に対するLED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)と、カメラ装置2(2a、2b)に対するLED5aの現在位置(x1’、y1’、z1’)及びLED5bの現在位置(x2’、y2’、z2’)とを比較することにより、LED群5の移動距離量(Δx、Δy、Δz)及び移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)が算出される。LED群5の移動距離量(Δx、Δy、Δz)及び移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)を算出し、これらの正負を逆にすることで、逆にカメラ装置2a、2bの移動距離量(Δx、Δy、Δz)及び移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)が移動情報として算出される。
【0032】
頭部情報補正部26は、光学検出頭部情報及び移動情報に基づいて、カメラ装置2a、2bの振動による位置ズレを補正する制御を行い、補正されたパイロット3の頭部位置及び頭部角度を、移動体頭部情報として算出する制御を行うものである。つまり、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対して算出されたパイロット3の頭部位置(X’、Y’、Z’)及び頭部角度(Θ’、Φ’、Ψ’)に、カメラ装置2(2a、2b)の移動距離量(Δx、Δy、Δz)を並進させる演算と、移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)を回転させる演算とを行うことにより(座標変換行列による座標変換処理)、X’Y’Z’座標系に代えて、移動体30の基準マーカー部40に固定され、基準マーカー部40とともに移動する座標系である移動体座標系(XYZ座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を算出する。そして、算出結果を移動体頭部情報として出力する。
出力された頭部位置(X、Y、Z)、頭部角度(Θ、Φ、Ψ)である移動体頭部情報は、振動等にともなって移動する光学座標検出系(X’Y’Z’座標系)ではなく、振動等による位置ズレが補正された移動体座標系(XYZ座標系)に対するパイロット3の頭部位置及び頭部角度となる。そして時々刻々変化する移動体頭部情報と、初期頭部データ記憶部44に記憶されている3個のLED7a、7b、7cの相対的な位置関係およびヘルメット10に対する取り付け位置(初期頭部データ)とを比較することにより、移動体座標系(XYZ座標系)に対する頭部装着型表示装置付ヘルメット10の移動距離量及び移動角度量が決定される。
【0033】
映像表示部25は、カメラ装置2(2a、2b)の振動等による位置ズレが補正された移動体頭部情報に基づいて、映像表示光を出射する制御を行うものである。これにより、パイロット3は、表示器による表示映像を視認することができるようになる。
【0034】
次に、HMT装置1による移動体座標系(XYZ座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を測定する測定動作について説明する。図5はHMT装置1による測定動作を示すフローチャートである。
【0035】
まず、ステップS101の処理において、飛行体が停止した(振動がない)状態のときに、カメラ装置2(2a、2b)でLED群5から発光される赤外光を検出することにより、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するLED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)を測定する。
次に、ステップS102の処理において、基準初期情報記憶部42にLED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)を記憶させる。
【0036】
次に、ステップS103の処理において、飛行体が飛行している(振動がある)状態のときに、カメラ装置2(2a、2b)でLED群5及びLED群7から発光される赤外光を検出することにより、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するLED5aの現在位置(x1’、y1’、z1’)及びLED5bの現在位置(x2’、y2’、z2’)を測定するとともに、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するLED7aの頭部マーカー位置(X1’、Y1’、Z1’)、LED7bの頭部マーカー位置(X2’、Y2’、Z2’)及びLED7cの頭部マーカー位置(X3’、Y3’、Z3’)を測定する。
【0037】
次に、ステップS104の処理において、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対する3つのLED7a、7b、7cの頭部マーカー位置(X1’、Y1’、Z1’)、(X2’、Y2’、Z2’)、(X3’、Y3’、Z3’)が測定され、初期頭部データとして記憶されている頭部マーカーどうしの相対位置およびヘルメット10に対する取付位置関係のデータを参照することにより、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X’、Y’、Z’)及び頭部角度(Θ’、Φ’、Ψ’)を算出させる。
【0038】
次に、ステップS105の処理において、移動情報算出部23により、LED5aの初期位置(x1、y1、z1)及びLED5bの初期位置(x2、y2、z2)と、LED5aの現在位置(x1’、y1’、z1’)及びLED5bの現在位置(x2’、y2’、z2’)とを比較することにより、カメラ装置2a、2bの移動距離量(Δx、Δy、Δz)及び移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)を算出させる。
【0039】
次に、ステップS106の処理において、移動体頭部情報算出部26により、カメラ装置2(2a、2b)(X’Y’Z’座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X’、Y’、Z’)及び頭部角度(Θ’、Φ’、Ψ’)に対し、カメラ装置2a、2bの移動距離量(Δx、Δy、Δz)を並進させる演算を行い、移動角度量(Δθ、Δφ、Δψ)を回転させる演算を行うことにより、基準マーカー部40に固定された移動体座標系(XYZ座標系)に対するパイロット3の頭部位置(X、Y、Z)及び頭部角度(Θ、Φ、Ψ)を算出させる。
【0040】
次に、ステップS107の処理において、飛行体30が飛行しているか否かを判断する。飛行体30が飛行していると判定されたときには、ステップS103の処理に戻る。つまり、飛行体30が飛行していていないと判定されるときまで、ステップS103〜ステップS106の処理は繰り返される。
一方、飛行体30が飛行していないと判断されたときには、本フローチャートを終了させる。
【0041】
以上のように、HMT装置1によれば、カメラ装置2の取付位置は、LED群7からの光線を検出する必要上、頭部の上方となる天井になるが、LED群5の取付位置は、衝撃や重力加速度を受けたときに振動しにくく変化しにくい前面パネル部30bとすることができる。よって、予め飛行体30が静止状態であるときに、LED群5から検出された光線に基づいて、カメラ装置2に対するLED群5の初期位置を含む基準初期情報を測定することにより、カメラ装置2が本来の位置に存在するカメラ装置2の基準的な位置を記憶させることができる。これにより、飛行体30が移動状態であるときに、LED群5から検出された光線に基づいて、カメラ装置2に対するLED群5の現在位置を算出し、LED群5の現在位置と基準初期情報とを比較することにより、カメラ装置2に対するLED群5の移動量を含む移動情報を算出することができる。つまり、移動情報から、逆にカメラ装置2の移動量を算出することができる。したがって、パイロット3の頭部位置及び頭部角度を含む移動体頭部情報を算出する際に、カメラ装置2が振動したときにも、振動の影響を低減・除去することができる。
【0042】
なお、LED群7及びLED群5は、互いに異なる波長の赤外光を発光するように構成したが、全て同じ波長の赤外光を発光するように構成してもよい。つまり、他の識別方法により識別するようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、基準マーカー部40には2つの基準マーカー5a、5bを配置したが、さらに5cを加えて3つ、あるいはそれ以上にしてもよい。
実用上は2つの基準マーカーで問題がないが、カメラ装置2の配置と基準マーカーの配置の関係によっては振動等を測定できない位置関係になりうる。一方、3つの基準マーカーを配置しておけば死角となる位置関係をなくすことができる。
【0044】
また、逆に、カメラ装置2の固定方法を工夫して回転移動が生じないようにする場合は、基準マーカーを1つにして、並進移動のみを測定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のHMT装置は、例えば、ゲーム機や乗物等で用いられる頭部装着型表示装置付ヘルメットの現在位置及び現在角度を検出するものとして、利用される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態であるHMT装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す頭部装着型表示装置付ヘルメット及び基準マーカー部の平面図である。
【図3】光学検出座標系の設定を説明するための図である。
【図4】HMT装置が移動体頭部情報を算出する際に実行する演算処理の流れを説明する図である。
【図5】HMT装置による測定動作について説明するためのフローチャートである。
【図6】従来のHMT装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1、51 ヘッドモーショントラッカ装置
2、52 カメラ装置
3、63 パイロット
5、7 LED群
22 光学検出頭部情報算出部
23 移動情報算出部
26 移動体頭部情報補正部
30、80 飛行体
42 基準初期情報記憶部
P ヘルメット基準点
M ヘルメット基準方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者の頭部に配置される頭部マーカー群と、
前記搭乗者が搭乗する移動体の一の位置に取り付けられるとともに、前記頭部マーカー群からの光線を立体視で検出するカメラ装置と、
検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する搭乗者の頭部位置及び頭部角度を含む光学検出頭部情報を算出する光学検出頭部情報算出部とを備えるヘッドモーショントラッカ装置であって、
前記移動体の一の位置と異なる位置に取り付けられる基準マーカーと、
前記移動体が静止状態であるときに、前記基準マーカーから検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの初期位置を含む基準初期情報を算出する基準初期情報算出部と、
算出された基準初期情報を記憶する基準初期情報記憶部と、
前記移動体が移動状態であるときに、前記基準マーカーから検出された光線に基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの現在位置を含む基準現在位置情報を算出するとともに、算出した基準現在位置情報と前記基準初期情報とに基づいて、前記カメラ装置に対する基準マーカーの移動量を含む移動情報を算出する移動情報算出部と、
移動情報に基づいて、前記光学検出頭部情報を補正する頭部情報補正部とを備えることを特徴とするヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項2】
前記基準マーカーは2個以上であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドモーショントラッカ装置。
【請求項3】
前記基準マーカーは、3個以上であることを特徴とする請求項2に記載のヘッドモーショントラッカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−27363(P2008−27363A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202174(P2006−202174)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】