説明

ベルト式無段変速機の油圧回路

【課題】エンジン始動時のライン圧の立ち上がりとクラッチ圧の立ち上がりを両立するベルト式無段変速システムの油圧回路を提供する。
【解決手段】本発明は、ライン圧調整弁40と、クラッチ圧を生成するクラッチ圧調整弁60と、ライン圧調整弁とクラッチ圧調整弁とを接続する第1クラッチ圧油路46と、第1クラッチ圧油路と摩擦係合手段と接続する第2クラッチ圧油路61と、この第2クラッチ圧油路とクラッチ圧調整弁と接続するフィードバック油路63と、このフィードバック油路とライン圧油路とを連通するバイパス油路44と、フィードバック油路に設けられるオリフィス64と、を備えるベルト式無段変速機の油圧回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機の油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式無段変速機の油圧回路において、オイルポンプの吐出圧を調整して無段変速機構の変速比調整用の元圧(ライン圧)を生成するライン圧制御弁と、このライン圧制御弁からドレンした余剰油を利用してクラッチ圧を生成するクラッチ制御弁とを設けたものがある。通常、クラッチの必要油圧が無段変速機構の必要油圧に比して低いため、ライン圧がクラッチに作用するとクラッチの耐久性が低下するため、クラッチ保護の観点から減圧する必要があるためである。
【0003】
このように、ライン圧を減圧してクラッチ制御弁に供給する構成においては、エンジン始動直後等のポンプ吐出圧が十分に立ち上がっていない状態では、ライン圧が目標油圧に達するまで余剰圧が生じず、クラッチ圧の立ち上がりも遅れることになる。そのため、ライン圧をライン圧制御弁に供給するライン圧油路途中と、クラッチ圧をクラッチ制御弁に供給するクラッチ圧油路とを接続するバイパス油路を設け、このバイパス油路にオリフィスを備えた構成が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2004−124961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルポンプの吐出圧が過剰に上昇した過圧状態の場合に、ライン圧制御弁の制御が間に合わずにライン圧が過上昇すると、バイパス油路を通じてクラッチ圧も過上昇を生じる。クラッチ圧が過上昇すると、クラッチの締結圧が過剰締結状態となりクラッチの耐久性が低下する虞を生じる。
【0005】
また、クラッチ圧油路に接続するバイパス油路を設けることでライン圧の一部がバイパス油路からクラッチ圧油路に流れ、クラッチ圧の立ち上がりを向上させる一方で、ライン圧の立ち上がりが遅れる要因となる。このように、バイパス油路を設けるとクラッチ圧の立ち上がりとライン圧の立ち上がりとの両立が困難となる。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に着目してなされたもので、ライン圧が過剰に上昇した場合においてもクラッチ圧の上昇を抑制し、またクラッチ圧の立ち上がりとライン圧の立ち上がりとの両立を可能とするベルト式無段変速機の油圧回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、一対のプーリと、このプーリ間に掛け渡されるベルトとを備えたベルト式無段変速機構と、摩擦クラッチの締結状態を制御してエンジンから前記ベルト式無段変速機構に伝達される回転の方向を切り換える前後進切換機構と、前記プーリがベルトをクランプするのに必要なライン圧を前記ベルト式無段変速機構に供給するためのオイルポンプと、を備えたベルト式無段変速機において、前記オイルポンプの吐出圧を調圧したライン圧をライン圧油路を介して前記ベルト式無段変速機構に供給するライン圧調整弁と、前記ライン圧調整弁からドレンされる余剰油の油圧を調圧して前記摩擦クラッチが締結するのに必要なクラッチ圧を生成し、このクラッチ圧をクラッチ圧油路を介して前記摩擦クラッチに供給するクラッチ圧調整弁と、前記クラッチ圧油路から分岐して前記クラッチ圧調整弁に接続し、クラッチ圧が目標圧より上昇した場合に、クラッチ圧が低下するように前記クラッチ圧調整弁を制御するパイロット圧を供給するフィードバック油路と、このフィードバック油路と前記ライン圧油路とを接続し、ライン圧をパイロット圧に加算するバイパス油路と、前記フィードバック油路の前記クラッチ圧油路との分岐部と、同じく前記バイパス油路の合流部との間に位置して設けたオリフィスとを備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の油圧回路である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記クラッチ圧調整弁が、前記パイロット圧に応じて位置決めされるスプールと、前記ライン圧調整弁からの余剰油が供給される供給ポートと、前記スプールの位置に応じて、前記供給ポートと連通して余剰油が排出される排出ポートとを備え、前記オイルポンプの吐出圧が過剰に上昇した過圧状態で、前記ライン圧調整弁から前記クラッチ圧調整弁への油圧と前記バイパス油路のバイパス油圧が上昇した場合に、前記バイパス油圧が加算された前記パイロット圧が高いほど前記供給ポートから前記排出ポートへ流れる余剰油の流量が増加するように前記スプールが移動して前記クラッチ圧調整弁への油圧を抑制するとともに、昇圧したパイロット圧が前記フィードバック油路から前記クラッチ圧へ作用することを前記オリフィスにより抑制し、前記クラッチ圧の上昇を抑制することを特徴とするベルト式無段変速機の油圧回路である。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、前記バイパス油路に開閉制御可能な切換弁と、この切換弁の開閉を制御する制御手段とを設け、前記制御手段は、エンジン始動後、所定時間経過するまでの間、前記切換弁を閉じて前記バイパス油路を閉止することを特徴とするベルト式無段変速機の油圧回路である。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明では、オイルポンプの吐出圧が過圧状態となった場合等、クラッチ圧が目標圧より上昇した場合に、バイパス油路からのバイパス油圧が加算されることで昇圧したパイロット圧がクラッチ圧調整弁に作用し、クラッチ圧調整弁はクラッチ圧を低下させるように制御される。また、オリフィスをフィードバック油路に設けることで、バイパス圧がクラッチ圧油路に直接作用せず、クラッチ圧が過圧状態になることが抑制される。更に、オリフィスによりフィードバック油路からクラッチ圧油路への供給油量が調整され、ライン圧の立ち上がりとクラッチ圧の立ち上がりとの両立を図ることができる。
【0011】
第2の発明では、オイルポンプの吐出圧が過圧状態の場合に、クラッチ圧調整弁に供給される余剰油が供給ポートから排出ポートへ排出されるため、クラッチ圧の上昇を抑制することができる。
【0012】
第3の発明では、バイパス油路に切換弁を設け、エンジン始動後、所定時間経過するまでの間、切換弁を閉じてバイパス油路を閉止するようにしたので、エンジン始動後、ライン圧を急速に立ち上げ、所定時間が経過するまでの間、オイルポンプからの油圧が優先的にベルト式無段変速機構のシリンダ室へ供給され、所定時間経過後、切換弁を開き、ライン圧の一部をバイパス油路からフィードバック油路へ供給することでクラッチ圧の立ち上がりを維持することができる。このような制御により、ライン圧とクラッチ圧の立ち上がりを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、ベルト式無段変速機3(以下、CVTと記載する)を備えた自動変速機の構成図である。
【0015】
図において、1は不図示のエンジンの動力が伝達されるトルクコンバータ、2はロックアップクラッチ、3はCVT、4はCVT3のプライマリプーリ30aのプライマリ回転数センサ、5は同じくセカンダリプーリ30bのセカンダリ回転数センサ、6は油圧コントロールバルブユニット、8はエンジンにより駆動されるオイルポンプ、9はCVTコントロールユニット、10はスロットル開度センサである。
【0016】
回転伝達機構としてのトルクコンバータ1にはエンジン出力軸が連結されるとともに、エンジンとCVT3を直結するロックアップクラッチ2が備えられている。トルクコンバータ1の出力側は前後進切換機構20のリングギア21と連結されている。前後進切換機構20は、エンジン出力軸12と連結したリングギア21、ピニオンキャリア22、変速機入力軸13と連結したサンギア23からなる遊星歯車機構から構成されている。ピニオンキャリア22には、変速機ケースにピニオンキャリア22を固定する後進ブレーキ24と、変速機入力軸13とピニオンキャリア22を一体に連結する前進クラッチ25が設けられている。このような構成により、前進クラッチ25と後進ブレーキ24の締結状態を制御することで、CVTコントロールユニット9の制御信号に応じてエンジン出力軸12の回転方向を制御して変速機入力軸13に伝達する。
【0017】
変速機入力軸13の端部にはCVT3のプライマリプーリ30aが設けられている。CVT3は、上記プライマリプーリ30aとセカンダリプーリ30bと、プライマリプーリ30aの回転力をセカンダリプーリ30bに伝達するベルト34等からなっている。プライマリプーリ30aは、変速機入力軸13と一体に回転する固定円錐板31と、固定円錐板31に対向配置されてV字状プーリ溝を形成すると共にプライマリプーリシリンダ室33に作用する油圧によって変速機入力軸13の軸方向に移動可能である可動円錐板32からなっている。
【0018】
セカンダリプーリ30bは、変速機入力軸13と平行に配置された従動軸38上に設けられている。セカンダリプーリ30bは、従動軸38と一体に回転する固定円錐板35と、固定円錐板35に対向配置されてV字状プーリ溝を形成すると共にセカンダリプーリシリンダ室37に作用する油圧によって従動軸38の軸方向に移動可能である可動円錐板36とからなっている。
【0019】
従動軸38には図示しない駆動ギアが固定されており、この駆動ギアはアイドラ軸に設けられたピニオン、ファイナルギア、差動装置を介して車輪に至るドライブシャフトを駆動する。
【0020】
上記のようなCVT3にエンジン出力軸12から入力された回転力は、トルクコンバータ1及び前後進切換機構20を介してCVT3に伝達される。変速機入力軸13の回転力はプライマリプーリ30a、ベルト34、セカンダリプーリ30b、従動軸38、駆動ギア、アイドラギア、アイドラ軸、ピニオン、及びファイナルギアを介して差動装置に伝達される。
【0021】
上記のような動力伝達の際に、プライマリプーリ30aの可動円錐板32及びセカンダリプーリ30bの可動円錐板36を軸方向に移動させてベルト34との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ30aとセカンダリプーリ30bとの間の回転比、つまり変速比を変えることができる。このようなV字状のプーリ溝の幅を変化させる制御は、CVTコントロールユニット9を介してプライマリプーリシリンダ室33またはセカンダリプーリシリンダ室37への油圧制御により行われる。
【0022】
CVTコントロールユニット9には、スロットル開度センサ10からのスロットル開度TVO、プライマリ回転数センサ4からのプライマリ回転数Npri、セカンダリ回転数センサ5からのセカンダリ回転数Nsec、プーリクランプ圧センサ14からのプーリークランプ圧等が入力される。この入力信号を元に制御信号を演算し、油圧コントロールバルブユニット6へ制御信号を出力する。
【0023】
油圧コントロールバルブユニット6へは、アクセル開度や変速比、入力軸回転数、プライマリ油圧等が入力され、プライマリプーリシリンダ室33とセカンダリプーリシリンダ室37へ制御圧を供給することで変速制御を行う。
【0024】
図2は、CVT3の変速油圧回路を表す回路図である。
【0025】
プレッシャレギュレータバルブ(ライン圧調整弁)40は、油路41から供給されたオイルポンプ8の吐出圧を、ライン圧(プーリークランプ圧)として調圧する。油路41途中からライン圧油路42が分岐されている。ライン圧油路42はCVT3のプライマリプーリシリンダ室33及びセカンダリプーリシリンダ室37に、ベルト34を各プーリがクランプするプーリークランプ圧を供給するプーリークランプ圧供給油路である。また、ライン圧油路42から分岐した油路43は、パイロットバルブ50にライン圧(元圧)を供給する。
【0026】
また、プレッシャレギュレータバルブ40からドレンされた作動油の油圧は、第1クラッチ圧油路46を介してクラッチ圧の元圧としてクラッチレギュレータバルブ60に供給される。
【0027】
クラッチレギュレータバルブ60は、前後進切換機構20の前進クラッチ25に供給されるクラッチ圧を生成し、第1クラッチ圧油路46から分岐した第2クラッチ圧油路61に供給する。この第2クラッチ圧油路61の油圧は、セレクトスイッチングバルブ80及びセレクトコントロールバルブ90へ供給される。第2クラッチ圧油路61から分岐してクラッチレギュレータバルブ60に戻るフィードバック油路63が設けられ、このフィードバック油路63に第2オリフィス64が設置される。このフィードバック油路63とライン圧が作用するライン圧油路42とを連通するバイパス油路44が形成され、バイパス油路44とフィードバック油路63との合流部が、第2オリフィス64のクラッチレギュレータバルブ60側のフィードバック油路63に設けられる。なお、バイパス油路44には第1オリフィス45が備えられる。クラッチレギュレータバルブ60の構成については図3を用いてさらに詳しく後述する。
【0028】
油路53からライン圧が供給されるパイロットバルブ50は、油路51を介してクラッチ圧コントロールソレノイド71及びセレクトスイッチングソレノイド70への一定供給圧を設定する。セレクトスイッチングソレノイド70の出力圧は、油路73からセレクトスイッチングバルブ80に供給され、セレクトスイッチングバルブ80の作動を制御する。クラッチ圧コントロールソレノイド71の出力圧は、油路72からセレクトスイッチングバルブ80に供給される。
【0029】
セレクトスイッチングバルブ80は、セレクトスイッチングソレノイド70によって作動する。セレクトスイッチングバルブ80には、入力ポートとして、クラッチ圧コントロールソレノイド71からの信号圧を供給する油路72と、クラッチレギュレータバルブ60により調圧された作動油が流れる第2クラッチ圧油路61と、セレクトコントロールバルブ90により調圧された作動油が流れる油路93とが接続されている。更に、出力ポートとして、マニュアルバルブ100に前進クラッチ25を締結するための油圧を供給する油路81と、不図示のロックアップクラッチコントロールバルブへ油圧を供給する油路82と、セレクトコントロールバルブ90のスプール92を作動する油圧を供給する油路83とが接続され、油圧をドレンするドレン油路84が接続されている。
【0030】
セレクトコントロールバルブ90は、油路83から供給されるクラッチ圧コントロールソレノイド71の油圧により作動する。セレクトコントロールバルブ90には、入力ポートとして、クラッチレギュレータバルブ60により調圧された作動油が流れる油路62が油路61から分岐して接続され、さらにクラッチ圧コントロールソレノイド71の信号圧を供給する油路83が接続されている。そして、油路62と油路93の連通状態を制御することで油圧を調圧する。
【0031】
セレクトスイッチングソレノイド70の信号がONの状態では、クラッチ圧コントロールソレノイド71の信号圧は、セレクトスイッチングバルブ80を介してセレクトコントロールバルブ90の信号圧として作用する。そして、セレクトコントロールバルブ90により調圧された油圧をマニュアルバルブ100に供給する。これにより、クラッチ圧コントロールソレノイド圧が高くなると、セレクトコントロール圧(すなわち、前進クラッチ25の締結圧)が低くなる構成としている。
【0032】
セレクトスイッチングソレノイド70の信号がOFFの状態では、マニュアルバルブ100には、クラッチレギュレータバルブ60で調圧された油圧がセレクトコントロールバルブ90を介すことなくマニュアルバルブ100に供給される。
【0033】
セレクトスイッチングソレノイド70の信号がONの状態で、クラッチ圧コントロールソレノイド71の信号が、例えばフェールなどによりゼロの状態では、セレクトコントロールバルブ90への信号圧がゼロの状態となる。このとき、セレクトコントロールバルブ90のリターンスプリング91のバネ荷重によりスプール92を図中右方に移動する。すると、油路62と油路93が完全に連通され、Dレンジ状態では、マニュアルバルブ100を介して前進クラッチ25へ最大締結圧が供給される。
【0034】
次に図3を用いてクラッチレギュレータバルブ60の構成を説明する。
【0035】
クラッチレギュレータバルブ(クラッチ圧調整弁)60は、そのシリンダ内に形成されている大径孔部60eに形成され、プレッシャレギュレータバルブ40に連通されてクラッチ圧(元圧)が供給される上流ポート60aと、大径孔部60eの右方に連通する小径孔部60fに形成され、クラッチ圧から第2オリフィス64を介した分圧がフィードバック油路63から減圧側パイロット圧として供給される減圧側パイロットポート60bと、上流ポート60a及び減圧側パイロットポート60bとの間に形成され、不図示のトルコンレギュレータバルブに連通された下流ポート60dと、上流ポート60aを挟んで下流ポート60dと反対側に形成されたドレンポート60pと、図2左方端部に形成され、オリフィス60sを挟んで不図示のプレッシャモディファイヤバルブに連通された増圧側パイロットポート60cとの主要な五つのポートと、大径孔部60eと小径孔部60fとの連接部分に形成されたドレンポート60qと、各孔部60e、60fに対応するランドを有して一連に形成されたスプール60kと、スプール60kを図2において右動させるリターンスプリング60mとを備え、スプール60kは、増圧側パイロットポート60cからのパイロット圧により右動する。スプール60kには、ドレンポート60pを閉塞するためのランド60hと、上流ポート60aと下流ポート60dとの間を遮断するランド60iと、下流ポート60dとドレンポート60qとの間を遮断するランド60jと、ドレンポート60qと減圧側パイロットポート60bとを遮断すると共に、減圧側パイロットポート60bに供給されるクラッチ圧の分圧からなるパイロット圧を受圧するランド60gとが形成されている。
【0036】
従って、このクラッチレギュレータバルブ60では、増圧側パイロットポート60cへのパイロット圧が低い状態で、第1クラッチ圧油路46に作用するクラッチ圧が高いときには、フィードバック油路63の油圧の作用によりスプール60kの左動量が大きくなり、その結果、上流ポート60aから下流ポート60dに流出する作動油量が増加するために、下流ポート60dからトルコンレギュレータバルブに供給されるトルコン圧(厳密にはトルコン圧の元圧)が高くなる。逆にクラッチ圧がさほど高くないときにはトルコン圧(元圧)もさほど高くはならない。
【0037】
一方、増圧側パイロットポート60cに供給されるプレッシャモディファイヤバルブからのモディファイヤ制御圧PL-SOL が高くなると、モディファイヤ制御圧PL-SOL に見合った分だけスプール60kが右動されるから、下流ポート60dからの作動油量が減少し、クラッチ圧が高くなる。
【0038】
さらに、クラッチ圧が高い場合やバイパス油路44からのバイパス油圧が加算される等により減圧側パイロットポート60bに作用するパイロット圧が高いときには、スプール60kが左動し、上流ポート60aから下流ポート60dに流出する作動油量が増加して、クラッチ圧が昇圧することが抑制される。なお、バイパス油路44からのバイパス油圧が加算されて高圧となったパイロット圧は、第2クラッチ圧油路61に作用することになるが、第2オリフィス64の作用によりその影響は抑制される。
【0039】
このように構成されたCVT3の変速油圧制御装置において、プレッシャレギュレータバルブ40により調圧されたライン圧がライン圧油路42を通じてプライマリプーリシリンダ室33、セカンダリプーリシリンダ室37にプーリークランプ圧として供給され、CVT3は所定の変速比に変速される。
【0040】
ここで、オイルポンプ8の吐出圧が瞬時に過圧状態となった場合に、プレッシャレギュレータバルブ40の調圧が間に合わず、第1クラッチ圧油路46、バイパス油路44の油圧が上昇する。バイパス油路44は、第2クラッチ圧油路61から分岐してクラッチレギュレータバルブ60と連接するフィードバック油路63に接続され、その合流部が、フィードバック油路63に設置された第2オリフィス64の下流部に設けられる。したがって、オイルポンプ8の吐出圧が過圧状態であるために生じる圧力上昇は、まずフィードバック油路63内の第2オリフィス64下流部の圧力上昇として現れ、結果としてクラッチレギュレータバルブ60の減圧側パイロットポート60bに供給されるパイロット圧が上昇することになる。減圧側パイロットポート60bに供給されるパイロット圧が上昇すると、スプール60kが図3中左側へ移動し、上流ポート60aから下流ポート60dへ流れる作動油量が増加し、オイルポンプ8の過圧により昇圧した、上流ポート60aに接続する第1、第2クラッチ圧油路46、61の油圧を低下することができる。
【0041】
また、第2クラッチ圧油路61から分岐したフィードバック油路63に第2オリフィス64を設け、このオリフィス64の下流側のフィードバック油路63に、すなわち第2オリフィス64とクラッチ圧調整弁60との間にバイパス油路44が接続される。このため、バイパス油路44からのライン圧に応じた油圧がフィードバック油路63に作用するが、第2オリフィス64の作用によりフィードバック油路63に接続する第2クラッチ圧油路61の油圧の上昇が抑制される。
【0042】
以上のように本実施形態によれば、オイルポンプ8の吐出圧が過圧状態にあっても、ライン圧に応じた油圧が供給されるフィードバック油路63に設置された第2オリフィス64の作用と、クラッチレギュレータバルブ60の上流ポート60aと下流ポート60dとが連通して、作動油が排出されることで、クラッチ圧油路46、61内のクラッチ圧が昇圧されることが抑制される。このため、エンジン始動時等オイルポンプ8の吐出圧が過圧状態となっても、クラッチ圧が過圧状態となることが抑制され、クラッチ圧が供給される前後進切換機構20の前進クラッチ25の耐久性が低下することが防止される。
【0043】
また、バイパス油路44に第1オリフィス45、フィードバック油路63に第2オリフィス64をそれぞれ設けたので、ライン圧油路42からバイパス油路44へ供給されるライン圧の一部がオリフィス45、64により制限されて第2クラッチ圧油路61に導かれるため、エンジン始動直後などライン圧の立ち上がりが遅れることを抑制し、またライン圧の一部がクラッチ圧として作用するため、ライン圧とクラッチ圧の立ち上がりを両立することが可能となる。
【0044】
図4は、本発明の第2の実施形態のCVT3の変速油圧回路を表す回路図であり、図5は、本実施形態での変速油圧制御装置の制御内容を示すフローチャートである。この実施形態は、第1の実施形態の構成に、バイパス油路44に連通状態を切り換え可能な切換弁65を追加した構成である。ここで、切換弁65はCVTコントロールユニット9により連通状態を制御される常時開放型の電磁弁である。
【0045】
図5のフローチャートを用いて本実施形態の変速油圧制御を説明する。この制御はCVTコントロールユニット9により所定間隔で実施される。CVTコントロールユニット9での初期制御状態は、エンジン始動初期の状態を示すフラグである始動初期フラグFstartを1(つまり、始動初期状態でない)、変速油圧制御中であることを示す制御中フラグFctrlを0(つまり、制御中でない)とする。
【0046】
まずステップS1では、エンジンが始動されたかどうかを判定する。判定の方法としては、たとえばイグニッションスイッチのオンオフ状態から判定できる。エンジンが始動状態であればステップS2に進み、始動状態になければ制御を終了する。
【0047】
ステップS2では、エンジンが始動初期かどうかを判定するため、始動初期フラグFstartの状態を判定する。始動初期フラグFstart=0であれば始動初期としてステップS3に進み、Fstart=1であれば始動初期ではないとして制御を終了する。
【0048】
ステップS3では、切換弁65の連通状態を判定するため、制御中フラグFctrl=0が成立しているかどうかを判定し、連通状態、つまりFctrl=0であればステップS4へ、非連通状態、つまりFctrl=1であればステップS5へ進む。
【0049】
ステップS4では、タイマのタイマカウント数Tを0としてステップS6に進み、制御中フラグFctrlを1に設定してステップS7に進む。
【0050】
一方、ステップS5では、切換弁65によるバイパス油路44の非連通状態を継続するためタイマカウント数Tをインクリメントし、ステップS7に進む。
【0051】
ステップS7では、切換弁65を非連通状態に切り換え、または維持して、バイパス油路44を閉じてライン圧油路42とフィードバック油路63とを非連通状態とする。そして、続くステップS8でタイマカウント数Tが所定値以上か否かを判定する。ここで所定値は、ライン圧の立ち上がりとクラッチ圧の立ち上がりのバランスを考慮して実験等により適宜設定する。なお、所定値は、エンジン始動時の油温に応じて可変としてもよい。タイマカウント数Tが所定値以上であれば切換弁65の非連通状態が所定の時間経過したとタイマカウント数から判定してステップS9へと進み、所定値未満であれば切換弁65の非連通状態が所定時間経過していないとして、制御を継続する。
【0052】
ステップS9では、切換弁65を連通状態に切り換え、ライン圧が作用するライン圧油路42とフィードバック油路63とを連通状態として、ライン圧の一部をフィードバック油路63に作用させる。続くステップS10で制御中フラグFctrlを0に設定し、さらにステップS11で始動初期フラグFstartを0に設定する。
【0053】
このように、本実施形態では、第1の実施形態の構成にバイパス油路44に切換弁65を設置して、エンジン始動後の所定時間内は、切換弁65を閉じてバイパス油路44を非連通状態としたので、エンジン始動直後のライン圧が立ち上がる過渡時には、ライン圧を迅速に立ち上げて、ライン圧を優先的にプライマリプーリシリンダ室33、セカンダリプーリシリンダ室37へ供給するようにして、変速に必要な油圧を確保する。また、油圧を優先的にプーリシリンダ室33、37に供給する制御を所定のタイマカウント数(=所定時間)T内に制限して、所定時間経過後にはライン圧の一部をバイパス油路44から第2クラッチ圧油路61に供給するようにしてクラッチ圧の立ち上がりを速めるようにする。このように、本実施形態では、第1の実施形態の効果に加えて、所定時間が経過するまではライン圧を優先的に立ち上げ、所定時間経過後には、ライン圧の一部をクラッチ圧を迅速に立ち上げるために作用させることで、ライン圧の立ち上がりとクラッチ圧の立ち上がりの両立を図ることが可能となる。
【0054】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内でさまざまな変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施形態におけるベルト式無段変速機を備えた自動変速機の構成図である。
【図2】ベルト式無段変速機の変速油圧回路の構成を表す回路図である。
【図3】クラッチレギュレータバルブの構成を表す断面図である。
【図4】第2の実施形態におけるベルト式無段変速機の変速油圧回路の構成を表す回路図である。
【図5】第2の実施形態におけるベルト式無段変速機の変速油圧制御を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 トルクコンバータ
2 ロックアップクラッチ
3 ベルト式無段変速機
6 油圧コントロールバルブユニット
8 オイルポンプ
9 CVTコントロールユニット
10 スロットル開度センサ
12 エンジン出力軸
13 変速機入力軸
14 プーリクランプ圧センサ
30a プライマリプーリ
30b セカンダリプーリ
33 プライマリプーリシリンダ室
34 ベルト
37 セカンダリプーリシリンダ室
38 従動軸
40 プレッシャレギュレータバルブ
41−43 油路(ライン圧油路)
44 バイパス油路
45 第1オリフィス
46 第1クラッチ圧油路
50 パイロットバルブ
51 油路
60 クラッチレギュレータバルブ
61 第2クラッチ圧油路
62 油路
63 フィードバック油路
64 第2オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリと、このプーリ間に掛け渡されるベルトとを備えたベルト式無段変速機構と、
摩擦クラッチの締結状態を制御してエンジンから前記ベルト式無段変速機構に伝達される回転の方向を切り換える前後進切換機構と、
前記プーリがベルトをクランプするのに必要なライン圧を前記ベルト式無段変速機構に供給するためのオイルポンプと、
を備えたベルト式無段変速機において、
前記オイルポンプの吐出圧を調圧したライン圧をライン圧油路を介して前記ベルト式無段変速機構に供給するライン圧調整弁と、
前記ライン圧調整弁からドレンされる余剰油の油圧を調圧して前記摩擦クラッチが締結するのに必要なクラッチ圧を生成し、このクラッチ圧をクラッチ圧油路を介して前記摩擦クラッチに供給するクラッチ圧調整弁と、
前記クラッチ圧油路から分岐して前記クラッチ圧調整弁に接続し、クラッチ圧が目標圧より上昇した場合に、クラッチ圧が低下するように前記クラッチ圧調整弁を制御するパイロット圧を供給するフィードバック油路と、
このフィードバック油路と前記ライン圧油路とを接続し、ライン圧をパイロット圧に加算するバイパス油路と、
前記フィードバック油路の前記クラッチ圧油路との分岐部と、同じく前記バイパス油路の合流部との間に位置して設けたオリフィスとを備えたことを特徴とするベルト式無段変速機の油圧回路。
【請求項2】
前記クラッチ圧調整弁は、
前記パイロット圧に応じて位置決めされるスプールと、
前記ライン圧調整弁からの余剰油が供給される供給ポートと、
前記スプールの位置に応じて、前記供給ポートと連通して余剰油が排出される排出ポートとを備え、
前記オイルポンプの吐出圧が過剰に上昇した過圧状態で、前記ライン圧調整弁から前記クラッチ圧調整弁への油圧と前記バイパス油路のバイパス油圧が上昇した場合に、前記バイパス油圧が加算された前記パイロット圧が高いほど前記供給ポートから前記排出ポートへ流れる余剰油の流量が増加するように前記スプールが移動して前記クラッチ圧調整弁への油圧を抑制するとともに、昇圧したパイロット圧が前記フィードバック油路から前記クラッチ圧へ作用することを前記オリフィスにより抑制し、前記クラッチ圧の上昇を抑制することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の油圧回路。
【請求項3】
前記バイパス油路に開閉制御可能な切換弁と、
この切換弁の開閉を制御する制御手段とを設け、
前記制御手段は、エンジン始動後、所定時間経過するまでの間、前記切換弁を閉じて前記バイパス油路を閉止することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機の油圧回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−14162(P2009−14162A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179416(P2007−179416)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】